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9 不穏な影

★転生六年目、冬、学園三年生の冬休み

★転生七年目、春夏、学園四年生の前期、夏休み

★アナスタシア十二歳




 翌日。アナスタシアはユリアーナとのデートを楽しみにしていた。


「お姉様、しっかり捕まっててね」

「ええ」


 おんぶで振り落とされたりしないわ。マレリーナの作ってくれたスーツのおかげで、私だって人並みの力を出せるようになってきたんだから!

 ユリアーナはドレスを破ってしまったので、今日も町娘のワンピースね。ユリアーナは何を着てもお嬢様にしか見えないほど綺麗だけど。


 私はユリアーナの背中におぶさった。ユリアーナがふんふんと魔法を口ずさむと、次の瞬間、私は空の上にいた。


「気持ちいいわ!」


 先日見た空飛ぶ魔物も、こんな景色を見ているのかしら。これが私の育ってきたマシャレッリ領なのね!ユリアナはベッドから出られない私を外の景色を見せてくれた。今度は、空の景色を見せてくれるのね!


(お姉様、これは心魔法よ。飛んでいるときは声が聞こえにくいから、私に話しかけるつもりで心に言葉を思い浮かべてみて)

(こうかしら)

(ええ。何かあったら心で話しかけてね)

(わかったわ)


 ユリアーナの背中…。最近、他の子にユリアーナを盗られてしまって寂しかった。お空からの景色なんてめったに見られないのに、ユリアーナを見ていたい。


 昨日もそうだったけど、ユリアーナは美味しいものを次々に生み出す。私はユリアーナの生み出す美味しいものがなかったら死んでいた。


 たぶん、ユリアーナははじめから知っていたのだと思うの。私は病気だから食べられなくなったのではなくて、食べないから病気になったのだと。だから、私に野菜を食べさせようとしたり、私の食べられるものを魔物の森から集めたりしてくれたのよ。


 ユリアーナは、私を救うために神が使わした天使。ユリアーナがやってくる前、お父様が冗談交じりにそう言っていたわ。私もそんな者が来るわけないと思っていた。でも今思えば、それが本当だったって分かるの。私の命はユリアーナが来なければ亡くなっていた。

 もちろんマレリーナも私にとても良くしてくれる。でも、マレリーナはユリアーナを慕ってるようだし、ユリアーナが来なければマレリーナも来てくれなかったと思うの。だから、やっぱりユリアーナが天使なのよ。



「お姉様、空からの眺めはいかが?」

「とても綺麗だったわ」


 空からの景色を眺めないで、ユリアーナの綺麗な髪ばかり眺めて考え事をしていたら、あっという間に目的地に着いたみたい。

 ユリアーナはふんふんと魔法を口ずさみ、土で背もたれ付きの椅子を作ってくれた。その上に異次元収納から出した柔らかい生地を敷いてくれた。


「お姉様、どうぞ」

「ありがとう。これがドラゴンなのね…」


 ユリアーナは一人でこんなにでかい魔物を倒したのね。天使じゃなかったら何だというのかしら。

 ユリアーナは光の剣を出して、ドラゴンのうろこをバキバキを剥がし始めた。

 突然、ユリアーナは私の視界から消えたと思ったら、私の後ろにいたわ。ユリアーナが向いている方には、魔物が転がっていた。


「お姉様、大丈夫?」

「え、ええ」


 転がっている魔物を見れば、ユリアーナがやっつけてくれたのだと分かる。ユリアーナのやることはいつも速すぎて、何が起こってるのか分からない。最初はマレリーナが全部倒してくれているのかと思って、マレリーナのことを素敵に思っていたのだけど、いつしか魔物や盗賊のほとんどはユリアーナが倒してくれているってわかった。それからは、ユリアーナのことがだんだんと素敵に見えるようになっちゃったのよ…。


 これはきっと恋なのよ…。女の子は女の子に恋をしたりしないから、マレリーナがいくら素敵でも私はマレリーナに恋できない。でも、ユリアーナはエルフだから…。女の子はエルフの女の子には恋しちゃうのよ、きっと。


「お姉様、終わったわ。帰りましょ」

「ええ」


 私はユリアーナにおぶさった。突然、景色が空に変わる。


(また、心の声で話しかけてね)

(ええ)


 今日は空からの景色を見る機会もあったし、森の景色を見回す機会もあったのに…。


(私はユリアーナしか見ていなかったわ…。どんな景色よりもユリアーナが綺麗。ユリアーナと一緒にいられれば幸せ。

 でも、ユリアーナは他の子といると、他の子にデレデレしてばかり。私、寂しいわ。ユリアーナをスヴェトラーナ様に奪われてしまうわ。こうやって二人きりでいられる時間を作ってもらわないといけないわね)


(………)


(背中から前に回してる手に伝わるユリアーナの鼓動がちょっと速くなったわ。私なんてどう見ても子供にしか見えない。スヴェトラーナ様には絶対かなわない。でも、ユリアーナは私にもドキドキしているのね。嬉しいわ)


(………)


 いつのまにかマシャレッリの屋敷に着いていた。


(ああ、楽しい時間はあっという間に終わってしまうのね。またユリアーナと二人きりでいられる時間が欲しいわ…)


「お、お姉様。またときどき、こうやって二人でお出かけしましょうね」

「え、ええ!」


 うふふ、私、顔に出ていたのかしら。ユリアーナが察してくれたみたい。嬉しいわ。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 昨日はアナスタシアと出かけたのだけど、アナスタシアの心の声がダダ漏れだった…。同意を得た相手の伝えたいことだけが声として伝わってくるはずなのに…。アナスタシアはよほど私に伝えたかったんだな…。思いがけず、アナスタシアの気持ちを知ってしまった。


 そして、アナスタシアにそんな寂しい思いをさせてたなんて。アナスタシアは満足に動くことができなくて、我慢をすることに慣れてしまっているのかな。小さな外見に対して、意外にも大人だ。相手の同意を得なくても、心を覗き見する魔法をときどき使って、希望を叶えてあげたほうがいいだろうか。全部の心を覗き見する必要はない。希望だけ覗くようにメロディを構成すれば良い。



 さて、今日は心してかからなければならない。ブレスレットを二つ余分に作って、脚にもはめよう。一気に振り切らなければ、充電する機会はあるはずだ。




★★★★★★

★スヴェトラーナ十二歳




 今日はユリアーナ様がわたくしを連れていってくださるわ。もう、朝からドキドキが止まらない。


「スヴェトラーナ様、私の背中に…」

「ええ」


 ユリアーナ様ったら、わたくしがおぶさる前から顔が赤いわ。

 そして、わたくしがおぶさって胸を押しつけると、ユリアーナ様の鼓動が速くなったのがわかった。ユリアーナ様ったら、本当にわたくしの胸が好きなんですわ。


 ユリアーナ様はドレスを破いてしまいましたので、今日も町娘の格好をしています。ですが、ユリアーナ様の溢れる気品は隠しきれません。どう見ても貴族の令嬢、いえ、傾国の姫ですわ。


「行くわよ」

「ええ」


 ユリアーナ様がふんふんと魔法を口ずさむと、空の上からの景色に変わりました。


(スヴェトラーナ様、これは心魔法よ。私に伝えたいことがあるときは、伝えたいと念じながら心の中で話してね)

(聞こえるかしら)

(ええ。でも、強い思いは意図せず伝わってしまうことがあるみたいなの。あまり考え事をしないように気をつけてね)

(わかりましたわ)


 強い思い…。


(わたくしはユリアーナ様のことが好き…)

(スヴェトラーナ様、さっそく漏れています)

(ええ。わたくし、この思いを抑えられませんわ)

(私もこの胸の感触が好きでたまらない)

(あら、ユリアーナ様ったら心がダダ漏れですわ)

(えっ、今の聞こえちゃったの?)

(聞こえましたけど、ユリアーナ様がわたくしの胸を好きなのは、とうの昔に存じておりますわ)

(えええ……)

(だから、わたくしへの思い、もっとくださいませ…)

(私はスヴェトラーナの身体が全部好きだなんて言えない)

(うふふ。ユリアーナ様はわたくしのことを心の中ではスヴェトラーナと呼んでくださっているのね)

(わああ!なんで今日は伝えようとしてないことまで伝わっちゃうんだああ)

(それに、心の中では平民言葉なのですね。うふふ。…ちょ…ちょっと、ユリアーナ様、ふらふらしてますわ)

(あああ、こうやって揺れてると胸のむにむにとした感触が…)

(危ないですわ!)

(ごめんなさいい)


「わあああああ」「きゃあああ」


 わたくしたちは急降下。ユリアーナ様は地面すれすれで停止しました。


「ごめんなさい…」

「いえ、わたくしもユリアーナ様の心を乱しすぎましたわ」

「あともうちょっとなので、歩いていいかしら」

「ええ」


 ユリアーナ様は心の中ではわたくしをスヴェトラーナと呼んでくださっていて、平民言葉なのですわ。貴族ですからあまり砕けた言葉はどうかと思いますが、ユリアーナ様は時と場所をわきまえる方。でも、わたくしの前では素になってくださってもかまいませんのに。


「ねえ、ユリアーナ様の心、もっと知りたいわ」

「私、破廉恥なことばかり考えていたでしょ…」

「わたくしの身体に興味を持ってくださるのは嬉しいもの…」

「そういうものなのね…」

「そうですわ。強い殿方と結ばれることは女の喜びですもの」

「殿方…」

「ユリアーナ様は殿方ではありませんが、わたくしたちは結ばれることができるって、身体で感じていますわ。わたくし、ユリアーナ様と交わりたくてしかたがありませんの」

「スヴェトラーナ様…。あと三年待って…」

「そうですわよね…。未婚で子をもうけてしまうのは外聞がよくありませんものね…」

「私、スヴェトラーナ様に誘惑され続けると、いつたかタカが外れてしまうか分からないわ。もしそうなったら、マシャレッリ家にもフョードロヴナ家にも傷をつけてしまうわ。私たちは…、その…愛し合う婚約者どうしだけど、責任ある貴族なのよ。貴族の義務を無視して結ばれることはまだできないのよ…」

「ユリアーナ様は本当に高貴なお方…。分かりましたわ…。今はまだ、もう少し控えめにユリアーナ様を愛することにしますわ」

「分かっていただけたようで何よりだわ…」


 わたくし、ユリアーナ様のことを欲するあまりに、少し貴族としてあるまじき振る舞いをしていたようです。公爵令嬢たる者がいけませんわね。侯爵家に上がったばかりのユリアーナ様に諭されてしまいました。ユリアーナ様はすでに公爵家を上回る高貴な心をお持ちなのですわね…。



「着いたわ。少しおやすみになる?」

「いいえ、わたくしだって身体を鍛えてますもの」

「では、これをお使いになって」

「ええ、これは?」

「これはね……」


 ボタンを押すと、ユリアーナ様と同じ、光の剣を出せる魔道具ですって!わたくし、剣術は得意…だったのですけど、ここ最近だんだんヘタになっていってしまってます…。だけど、負けませんわ!


 ユリアーナ様に言われたように、うろこの隙間に剣を入れていきます。だけど、そのあとわたくしの力ではうろこを剥がすことはできませんでした。なので、私が刃を入れる担当で、ユリアーナ様が剥がす担当です。こうやって協力し合っていると、夫婦って感じがしますわ…。


「スヴェトラーナ様、それほど大きくないイノシシっぽい魔物が接近してくるわ。私の後ろからまほ……」

「分かりましたわ!この剣で仕留めてみせますわ!」

「えーっと、その剣は非常に切れ味が良く、刃が自分に触れそうになると刃が消えるようになっているの。それに、相手の剣や牙を簡単に切り裂いてしまうので、攻撃を受けるということはできないわ」

「避ければいいのですわ!」

「えーっと…、じゃあ、筋力強化と防護強化をかけるわね。疲れやすいから無茶な動きをしすぎなようにね」

「ええ!」


 二メートルほどの四足歩行の魔物が八頭です。おなご二人で対峙したら、普通は逃げ出すところでしょう。ですが、わたくしだって剣士の端くれ。負けませんわ!

 それに、わたくしは貴族。貴族は領地を魔物から守る義務があるのです。先日はマシャレッリは侯爵と夫人が主体となってスタンピードを鎮圧しましたが、ユリアーナ様が爵位をお継ぎになったら、領地を守るのはわたくしたちの仕事なのです。



 イノシシ八頭はわたくしたちめがけて突進してきます。そのうち、一頭がわたくしの方に向かってきました。


 わたくしはイノシシに剣を振り下ろしました。本当は、横薙ぎに振りたいのですが、大きな胸が邪魔でそのようには振れなくなってしまったのです…。

 案の定、わたくしの分かりやすい太刀筋はイノシシに見切られてしまいました。イノシシは最小限の動きで横によけつつも、わたくしに突進するコースを崩しません。でも、わたくしだってよけられることくらい想定していますわ。私も、イノシシの突進を難なくよけました。体が軽いわ…。これがユリアーナ様の筋力強化…。これなら、胸が重くてもうまく戦えそうです。


 ターンをして引き返してくるイノシシ。わたくしはまた剣を上に構え、振り下ろしました。イノシシはそれを見きってよけようとします。しかし、私は筋力強化のおかげで、振り下ろす途中で剣の軌道を変え、イノシシがよけた方へ振り下ろすことができました。しかし、手応えがありません。外しましたか!

 と思ったら、イノシシの前足と腹が、胴体と泣き別れになりました。たしかに、驚くほど切れる剣です…。


 わたくしが一頭を相手している間に、ユリアーナ様はどうなったのでしょう。慌ててユリアーナ様の方を振り向くと、座ったイノシシ七頭がユリアーナ様を囲んでいます。イノシシはユリアーナ様を襲う様子がありません。


「ユリアーナ様?」

「テイムできたわ」

「テイム?」

「心魔法で戦闘意志と食欲を抑えて、私があるじであるという記憶を植え付けたのよ」

「ユリアーナ様は戦わずして魔物を制圧できますのね…」

「これをドラゴンにやろうとしたら失敗しちゃって…」

「うふふ、ユリアーナ様らしいですわ」

「うぐぅ…」

「それにしても、そのイノシシはどうしますの?」

「オーク肉と似たような味だと思うのだけど、また違った味わいがあると思うわ」

「うふふ、ユリアーナ様は食いしん坊さんですのね」

「幸いなことに、私の周りには美味しい魔物や、服になったりする魔物が集まるのよ」

「ユリアーナ様は魔法や音だけでなく、魔物にも愛されていますのね」

「そうみたい」


 ユリアーナ様はイノシシを異次元収納にしまいました。



 その後、少し休憩することにしました。ユリアーナ様は土魔法で背もたれ付きの椅子を作って、柔らかい布を敷いてくださいました。ユリアーナ様はとても紳士です。誰だって惚れてしまいます。


 そして、ドラゴンのうろこ剥がしを再開してしばらくたちました。


「今日はこれくらいにしておくわ。スヴェトラーナ様、手伝ってくれてありがとう」

「ねえ、わたくしのことをスヴェトラーナとお呼びになって」

「私はまだ侯爵令嬢で、スヴェトラーナ様は公爵令嬢なのよ…。まだ一線を越えちゃいけないわ」

「そうですわね…」


 ユリアーナ様のおっしゃることはごもっともです。公爵令嬢たるわたくしがもっとしっかりしないとなりません…。


「それでは背中へ…」

「はい…」


 ユリアーナ様にわたくしの胸を味わっていただくチャンスです。

 わたくしはユリアーナ様におぶさりました。ユリアーナ様の鼓動が伝わってきます。


「行くわね」

「ええ」


 一瞬にして空から見下ろす景色に変わりました。森の広がる壮大な景色ではありますが、ユリアーナ様の壮大なお心の前にはたいしたことありません。やはり、わたくしはユリアーナ様のことが気になってしかたがありません。


(あの…、あまり強く念じると、すべて言葉になってしまうようなので…)

(分かっておりますわ。わたくし、空から見下ろす景色などよりも、ユリアーナ様のお心を見たくてしかたがありませんの)

(私の心は煩悩に満ちているので覗かないで…)

(ユリアーナ様の煩悩…知りたい…)

(私は歌いたいだけなんだ)

(まあ!ユリアーナ様は美しい歌声で民を幸せにしてくださいますのね!)

(いえ…そういうわ……)

(ユリアーナ様の歌声を聞けば、皆が幸せになれますわ!)

(ちょっ、スヴェトラーナ、あんまり動くと胸がむにゅむにゅと…あああ…もっとやってほしい…)

(ええ!)


「ぎゃあああ」


 ユリアーナ様はまた落下してしまい、地面すれすれで持ち直しました。


「危なかった…」

「さすがユリアーナ様ですわ!」

「マシャレッリ領の農村まで辿り着いたし、歩いて帰るわ」

「はい」

「それで…、スヴェトラーナ様は…」

「早く行きましょ」

「はい…」


 ユリアーナ様は、おぶさったままのわたくしに何か言いたげでしたが、押し切りましたわ!


 ユリアーナ様は走ってもとても早かったです。マシャレッリ領の農村から領都の屋敷までは馬車で数十分の距離だったと思いますが、ユリアーナ様は十分で到着してしまいました。


 はぁ…。ユリアーナ様とのデート、楽しかったですわ。また行きたいですわね。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 やっぱりスヴェトラーナは危険だ。心を聞く魔法で本音を言ってくるし、なぜか私の煩悩までダダ漏れだったし…。まあでも、一度はみんなと本気で話したいかも。


 今回は四つもブレスレットを付けていったのに、飛行中に胸をむにゅむにゅと押しつけられて、ブレスレット三つの魔石が空に。なんとか心拍数を保っていたのに、心魔法で煩悩を漏らしてしまい、行きも帰りも墜落寸前だった…。気をつけないと…。




★★★★★★

★ブリギッテ三十二歳




 ブリギッテはユリアナとの初デートを心待ちにしていた。


「こうしてユリアーナと二人きりになるのは初めてだねー」

「そうだね。じゃあ行くね」

「うん!」


 マリアちゃんとセラフィーマは、マシャレッリ領にお邪魔したことがあるらしい。私はアルカンジェリ子爵様になかなか許してもらえなかったからなあ。でも、今日は初デートだ!


 ユリアーナがふんふんと魔法を口ずさむと、景色はいきなり空の上。ユリアーナは空間魔法も風魔法も使えるんだ。

 エルフの郷にはマルチキャストのエルフもたくさんいる。私は魔力だけならまあまあだけど、属性数は一つの落ちこぼれだ。


 人間の国に売られて、男という種族と結婚させられると思っていたのに、まさかエルフ、しかもハイエルフと結婚できるとは思ってなかった。ハイエルフなんて、エルフの郷でもほとんど見かけない上流階級なのに。



(ブリギッテ、これは心魔法だよ。私に伝えたいことを念じれば私に伝わるよ)

(ユリアーナの子が欲しい!)

(直球すぎだよ…)

(エルフなら普通だよ)

(そっか。でも、私、人間の国の貴族になるから、早まっちゃダメだよ)

(ちぇー)


 ユリアーナはハイエルフだから子を産めるのは何十年後になるか分からない。でも授ける方はエルフと変わらないはずだ。十年以内に子をもらえるだろう。


(ねえ、あんまり動くと…、その…、胸が…)

(もっと動いてほしい?)

(うわああ、墜落するからやめて!)

(ちぇー)


 ユリアーナは私の胸の感触が好きみたいだ。私の胸はまだ二十年くらいは成長するよ。そしたら、スヴェトラーナ様みたいにユリアーナを誘惑し放題!



 せっかく空の旅なのに、私はユリアーナのことばかり考えてる。でも、町や村が見えなくなって、森だけになんだよね。


(国を出たんだけど、エルフの郷ってどこかわかる?)

(何ヶ月も歩かされたから、もっと南だと思うよ)

(そっかぁ。今日はドラゴンを回収したいけど、余裕ができたらエルフの郷を探しに行ってもいいよ?)

(いや、私を売ったエルフの郷になんて戻りたくないよ。私はユリアーナと結婚できれば幸せ)

(もう…)




 着陸すると、そこにはうろこの大半が剥がされた大きなドラゴンの死骸があった。


「こりゃすごいね~」

「まず、このうろこが武器や防具に使えそうなのは間違いないんだ。あとは牙も使えるかなぁ」

「魔物はもちろんだけど、こんな強そうな魔物を道具に利用しようなんて考えるのはユリアーナだけだよ」

「そうみたいだね。じゃあ、剥がし方を教えるから見ててね」

「うん」


 ユリアーナがふんふんと魔法を口ずさむと、手に光の剣が現れた。それをうろこの隙間に入れて、そのあとは力でバキバキ剥がした。


「じゃあ、ブリギッテにもこれをあげるね」


 ユリアーナが使っていた光の剣を出す魔道具をくれた。


「あと、これも渡しておく」

「これは何?」

「レーザー銃といって、光の剣を矢として放つ魔道具だよ」

「なるほど」

「こうやって構えて狙いを付けて」

「ふふふ、魔物が来ているのに気が付いていたんだね」

「ブリギッテなら狙えるでしょ」

「うん」


 私はイノシシの魔物の目に狙いを付けて、ユリアーナに言われたとおり引き金を引いた。


 ちゅん…。


 細い光が一瞬だけ見えた。それは、魔物の目を貫いて、魔物は倒れた。


「さすがブリギッテ」

「これは弓矢より便利だねえ」

「今の威力で一〇〇発撃てるよ。このダイヤルを回して威力を上げると、その分撃てる回数はへるけど」

「矢を一〇〇本も持ち歩くのはムリだから、これは楽だね」

「玉がなくなったら、雷の魔石を交換するか、私に一度返してくれれば充填するよ」

「分かった」


 そのあと、ユリアーナとうろこを剥がしていたら何度か魔物がやってきて、そのたびにユリアーナのくれたレーザー銃で魔物をやっつけた。ユリアーナと狩り、楽しい!


「うろこを全部剥ぎ終わったから、今度は肉をぶつ切りにしていこうかな…」


 光の剣で肉を切っても血が出ない。周りを汚さないからやりやすくていい。



「今日はこれくらいかな」

「楽しかったね!」

「うん!」


 ユリアーナはスヴェトラーナ様やアナスタシア様の前ではお嬢様を気取ってるけど、私の前では素で話してくれる。でもこうやって二人でいると、貴族なんて関係ない。今はユリアーナだけ平民の服で私だけドレスを着てて変な感じ。私も平民の服を用意してもらおうかな。



 帰りもユリアーナは私の胸にドキドキしてくれたみたい。ふらふら飛びながら屋敷に帰った。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 ブリギッテの胸はやっぱり危険だった。でも数年後にはみんな成長して胸が大きくなる。そうなると、私の心臓はもつのかな。そのときまでには、ちょっと胸を押しつけられたくらいでドキドキして気を失ったりしなくなるのかな…。


 ドラゴン回収デートに行ってないのはあとマリアちゃんとセラフィーマだ。セラフィーマは教会の調査でデートしたし、あとでもいいかな。


 というわけで、今日はマリアちゃんだ。




★★★★★★

★マリア十二歳




「ユリアーナ!」

「はい、乗ってね」


 ユリアーナは背中に手をやって、おぶされと言いたいようだけど、


「ねえ私、お姫様抱っこがいい…」

「えっ、分かったよ」

「ひゃっ」


 ユリアーナは寄ってきて、私の脚に手をかけて、ひょいっと私を抱き上げた。ユリアーナは私よりほんの少し背が高いだけだけど、こうやって私を軽々と抱き上げるユリアーナは、おとぎ話の王子様みたい…。

 ヴィアチェスラフ王子はおとぎ話の王子とすごくかけ離れているわけではなかったけど、ユリアーナはもっと王子様みたい!



 いつのまにか空の上だった。ユリアーナと飛ぶのは二回目だ。私は仰向けだし、空とユリアーナの顔しか見えない。ユリアーナの顔が近い…。ユリアーナって綺麗…。透き通るような白い肌。宝石のように輝く髪。ずっとユリアーナを見ていられる、幸せな時間。


 そして、ユリアーナをずっと見ていたら、いつのまにか森の中だった。ユリアーナは私を降ろした。


「もっと抱いて!」

「いやいや…、それじゃ作業できないし…」

「むー!」

「はい、これで遊んでて」


 ユリアーナは光の剣を出す魔道具を貸してくれた。何でもスパスパ切れる。私は付近の木を切って遊んでいた。その間に、ユリアーナは細かくドラゴンの肉を切り刻んでいった。


「ねえ、飽きた!」

「じゃあ、これで」


 ユリアーナはレーザー銃というのを貸してくれた。今度は光の剣が飛んでいく魔道具だ。なんでも貫くレーザー銃で木や葉っぱを撃って遊んだ。


「って、つまんない!」

「じゃあこれでも食べてて」

「んぐ……うぁまぁーい!」


 今まで食べたことのないほど甘いパン!幸せ!



「じゃあ帰ろっか!」

「うん!またお姫様抱っこね!」

「分かったよ」


 今日はユリアーナと一緒にいられたし、魔道具で遊んだし、パンも美味しかったな!




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 マリアちゃんは可愛いのだけど、今日は終始めんどくさい子モードだったなぁ…。いや、年下で幼い系の彼女ってこんな感じかな…。おもちゃとお菓子を与えて放置してただけなんだけど、お姫様抱っこで満足してくれたみたいだから助かった…。


 やっぱり六人もお嫁さんをもらうってきついなぁ…。いくら一夫多妻制で何人嫁を持ってもいいからといっても、こんなにたくさんお嫁さんがいたらそれぞれをないがしろにしかねないワケで…。もっとみんなを大事にしなきゃ…。


 でも、私は貴族当主になるんだから、国に役に立つことをしなきゃいけない。女の子といちゃいちゃしているだけではいけないのだ。身分というのは面倒なものだね。


 身分は面倒なだけではない。私には歌手になるという夢がある。領主になれば領地や領民を私の夢のために使う道もあるのだ。むふふ。



 とりあえず、ドラゴンの素材は、数日デートしながら全部回収した。屋敷の裏の地下牧場に腐らないようにして保管してある。

 そして、マリアちゃんとのデート中にドラゴンを解体していたら、とんでもなくでかい火の魔石も見つけた。


 というわけで、ドラゴンのほうは放置して、スイーツ開発だ!楓の木に「すぐに美味しく成長する」をかけたら、小さな花を付けて実がなった。それを植えてまた「すぐに美味しく成長する」をかけたら、あっという間に木を増やせた。

 増えた楓の木を「木を操る」でマシャレッリ領の農園に運んで、収穫物のラインナップに加えた。


 それから、楓の木からメープルシロップを採る方法をスタッフに教えて、まずはメープルシロップをパン屋に卸すことに。メープルシロップを煮詰めてメープルシュガーを作らせて、食堂に卸すことに。単品の販売はとうぶんあとにする。

 メープルシュガーがスイーツ以外の料理に使えるかはこれから研究だ。



 一方で、ミツバチは地下農園で巨大な素を作っていた。今までは何でもかんでもスタンガンや酸欠で気絶させて採集していたけど、テイムという技を覚えたので全部テイムすることにした。これで、何食わぬ顔で素に入り込んで、ハチミツを採らせてもらえる。

 テイムして温厚になったミツバチから温厚なミツバチが生まれるとは限らないけど、温厚なミツバチどうしで交配を繰り返していけば、いつか子供も温厚になってくれればいいなぁ。


 そして、ミツバチの働き蜂と雄バチを数匹と、「木を操る」をかけた大きな菜の花を連れて、マシャレッリ領の農園へ。働き蜂にローヤルゼリーを与えて変ホ長調に転調した「すぐ育つ」をかけると、女王蜂になってくれた。

 これも育ててもらう方法と、ハチミツの採集方法をスタッフに伝授。といっても、テイムは子孫まで伝わらないから、スタンガンか酸欠で気絶させる方法は継続。

 ハチミツはメープルシロップと同様にしばらくはパン屋にのみ卸す。果物と生クリームはちょっと安売りしすぎたようなので、ハチミツとメープルシロップのトッピングはちょっと高めに設定しよう。



 それから、テイムしてきた三メートルのイノシシにも果物を与えて牧畜することに。これもテイムは子孫まで伝わらないけど、搾乳とか卵採取するわけではなく、お肉と革としての価値しかないから気絶させる必要はなく、檻の外からただ絶命させればよい。


 イノシシ肉は食べたことなかったのだけど、オーク肉よりちょっと濃厚な味がする。オーク肉もそうだけど、魔物は筋肉質なので肉が固い。だけど、美味しく育つをかけると、柔らかくなるのだ。


 イノシシのついでに、羊も食べることにしよう。若いのがラム肉で、年寄りがマトン肉だっけ?魔物は成長が速くて、放牧して一日で出産してたりするからワケが分からない。運がよければラム肉を採れるだろう。マトンはたしか臭かったはず…。



 それから、マシャレッリ領の農園で菜の花の栽培初めて、菜種油を収穫するようにした。油を大量に使った料理ができるぞ。




「今日はユリアーナが夕食を準備してくれたのね~?」

「はい、二種類のお肉と、いろんな食べ方を用意しました」


 まずはイノシシステーキ、塩味。


「これはオーク肉に似た味がしますわ」

「少し、味が濃いですね」


 こっちはオーク肉と競合しそうだなぁ。


 続いて、ラムステーキ、塩味。


「これはミノタウロスやオークよりも食べやすいね」

「私はミノタウロスのほうが好きかも」


 ブリギッテはラムがお好きと。エルフも人間も白人系っぽいから、牛豚よりも羊なのかな。

 マリアちゃんはミノタウロスか。初めて食べたときから虜になったみたいだからね。


 つぎはイノシシカツ!イノシシ肉を卵を混ぜたパン粉で包んで、菜種油で揚げた!


「これはサクッとしたものの中から、濃厚な肉汁が溢れてきて美味しいね!」

「うむ、これは食感がとても良いな」


 マレリナとセルーゲイはイノシシカツを気に入ってくれた。


 続いて、マトンのハニーソルト煮込み。胡椒とかマスタードとかあればいいんだけど、それはもっと南方を冒険しないとダメそうだなぁ。


「お肉が甘いわぁ~!」

「とても柔らかいわね!」


 タチアーナとアナスタシアはマトン煮込みを大絶賛。


 こうして、新しい肉とレシピが加わった。揚げ物とハニーソルト煮込みのレシピをアンナと領の食堂に公開した。



 次の日の朝食は…、


「「「「「あまーい!」」」」」「この甘さは!」


 マシャレッリ家の朝食はいつも生クリームとジャムを挟んだり塗ったりしたパンだった。喫茶店のメニューと同じだ。そこに、メープルシロップとハチミツが加わることになった。

 ジャムだけでは実現しえない甘さ。お嫁さん六人もマシャレッリ夫婦も、あまりの甘さに叫びを上げるしかなかった。


 しかし、そろそろ太りそうだな…。



 その日の晩ご飯は…。


「何だこの肉は!」

「柔らかくてとてもコクがあるわぁ~」


「これはドラゴンのお肉です」


「ユリアーナ様…、ドラゴンも育ててますの?」

「これは繁殖できてないので、食べきりです。でも三〇メートルの巨体なので早く食べきってしまいましょう」


 ドラゴンは全体的にささみのようにあっさりしているのに、濃厚の味わいでとても美味しかった。ドラゴンは、岩で作った冷蔵庫に入れてあるのだ。無菌で窒素充填なのでそうそう腐らないのだけど、さすがに三〇メートルの巨体を収めるための冷蔵庫だと、水、風、命の魔力をバカ食いで、私の魔力の総量の限界近くまで使ってしまうのだ。だから、早く消費してしまいたい。美味しいので毎日食べても飽きないのが幸いである。


 あとは、うろことか角とか骨とか、めちゃくちゃ堅い素材がいっぱいあるのだけど、牧畜して継続的に採取できるわけではないので、何に使おうか迷っている。当分は地下牧場の肥やしだ。




 ドレスが一着できた。私のデザインしたロリータだ。自分で着るにはちょっと可愛すぎる…。

 なんか前のよりも胸の露出面積が増えたような。まあ、女性のドレスは十歳を期に胸の谷間を見せるようになって、歳を取るにつれて露出面積を増やすのが通例なんだよな。

 スカートの丈は以前と同じ。私の背は伸びないので。


 このドレスは蜘蛛の糸の生地でできている。剣では斬れないし馬鹿力でも破れない。やっぱり、転生令嬢たるものドレスで戦うのが嗜みなので、丈夫なドレスは必須だ。




 木工技師を呼びつけた。木琴とリコーダーを大量生産させるのだ。

 今まで試作品だったし、開発費ということもあってハープ以上の代金を払ってきたけど、実際のところ木と少しの釘だけで作れる木琴はかなり安価だ。リコーダーは少し構造が複雑だけど、原料費は低いのやっぱり安価だ。でも今度からは大銀貨一枚で作ってもらうことにした。一万円だ。じゅうぶんだろう。


 なぜ大量生産するのかというと、もちろん領民に使わせて音楽を普及させるためだ。教会に置いておいて、音楽教室を開くんだ!


 実をいうと、六年前から教会で魔力持ちの孤児を育成するための活動資金というのが国から提供されている。その資金は神父の給与にしてはならないので、貧乏で神父を雇うことのできないマシャレッリ領ではその資金をずっとプールしてあったのだ。今回、その資金を使って魔力持ちの子たちのために楽器を作るのだ。


 この資金はかなり貯まっている。というか、月額としても破格なのだ。なんと月額大銀貨二十七枚。なんだか中途半端なんだけど、これはなんの数字か考えてみたんだ。一日あたり銀貨九枚。それって…、故郷の村で私とマレリナがもらっていた給金がそれぞれ銀貨三枚。そして、教会にプールされていたのがおそらく銀貨三枚。つまり、私の祝福で発生した補助金じゃん!


 これって、各領地の領都と村の教会単位で配られてるのかな。まともに使われてるのかな。っていうか、娘を死なせるくらいなら、着服しちゃえよと思う。でもマシャレッリ夫妻は誠実だから使えなかったんだろう。補助金は手つかずで残っていた。


 神父の給料にしてはならないということで、レナード神父も私たちのハープやドレスを買う以外はプールしていたなぁ。しかも、その後は私に買い取り代金とかいってお母さんに渡してるなんて…。マシャレッリ夫妻もクソ神父も誠実すぎて泣けてくる。


 ああ、祝福は悪事には使えないから、誠実な使い方しかできないのか。それでもアナスタシアの命を救うなら着服したっていいじゃんかと思う。まあ、治療魔法使いを呼んでもアナスタシアは助からなかっただろうから、そういう使い方をされるようには誘導されなかったということか。




 教会といえば…、


「ユリちゃん、魔力と食べ物の関係、調査と分析できましたよ」

「ありがとう!セラフィーマ!」


 調査だけお願いしたのに、分析までしてくれた!


 まず、魔力の発現したのは赤ちゃんだけではなかった。赤ちゃんと同程度の魔力を親も持っていたのだ。セラフィーマは親の魔力も一緒に調査したみたいだ。


 何を多く食べると魔力が多くなるかというと、果物がいちばんで、次に肉、卵、牛乳、最後に野菜。三年間で生まれた赤ちゃんのうち魔力の発現しなかった十人の親は野菜とパンばかり食べていて、果物と肉には手を出せていない貧困家庭だった。贅沢できないだけで、ひもじい思いをしていたわけではない。果物と肉はまだまだ少し高いのだ。


 果物というのはやはり魔法の食べ物なのだ。それを食べている魔物も魔法の食べ物のようだ。あと、野菜とパンだけ食べていた家庭でも、魔力が発現した者が少なかっただけ、いなかったわけではない。成長促進などの木魔法をかけたおかげで、魔法の食べ物扱いなのかもしれない。


 それから、果物にも魔物にも属性があるけど、得た属性には関係なく、完全ランダムだった。とくに野菜には属性がないし。


 ちなみに、魔力が発現したといっても、初期のマレリナの一〇〇分の一というようレベルだ。水魔法使いならコップ一杯の水で魔力切れを起こすような感じだ。この程度のレベルでは貴族の目には留まらないだろう。でも鍛えていけばけっこう使えるようになるんじゃないかな。




 今回調査したのは領内だけだ。作物は周辺領地にも輸出されているのだ。周辺領地でも魔力が発現していてもおかしくない。だけど、他領であからさまな調査をするわけにはいかないなぁ。王都のレストランに来店した人だけでも調べるかな。




 それからドレスの二着目ができたのだけど…、


「誰…、こんなエッチなのを頼んだのは…」

「これはユリアーナ様の仕立屋の奥にあったものベースに選びましたのよ」

「だからこれは下着でして…」


 オフショルダーだし、胸のカップは胸を乗っかるギリギリだし、背中もがばって開いてるし。そうだ、エリザベータと同じだ。ちんちくりんの私がエリザベータのマネしても…。

 っていうか、冬だから寒いんだけど…。っていうか、ブラが見えてしまうからブラできないじゃん…。


「ユリアナ…、綺麗…」

「マレリナ…」


 なぜかマレリナに言われるとドキドキする…。最近マレリナが素敵な紳士に見える…。


「ユリアーナ様は侯爵令嬢なのですから、着た切り雀ではダメですのよ。毎日替えてくださいね」

「はい…」


 ビスチェドレス着なきゃダメか…。これ、普段着にするの…?


「それなら私のドレスを四着じゃなくて、お姉様とマレリーナのも頼みましょ」

「私もユリアーナのお店のドレス、着たいわ!」

「私はいいのよ…」

「しかたがありませんわね。アナスタシア様とマレリーナ様のも頼みましょう」


 というわけで、その日はアナスタシアとマレリナの採寸をしたのだった。



 一週間後に出てきたのはアナスタシアの可愛いドレス。


「お姉様、可愛すぎます!」

「ゆ、ユリアーナ、ちょっとぉ」


 私は思わずアナスタシアを抱き上げてしまった。お持ち帰りしたい!ってお持ち帰りしなくてもアナスタシアは私のだけど!

 ロリータは本来、幼女なアナスタシアにふさわしいデザインだ!ロリコン万歳!



 その次の週にはマレリナのビスチェドレス。


「マレリナ…」

「ユリアナ…」


 私はマレリナを素敵な紳士に見えていたのに、また綺麗な女の子に見えてきた…。エルフの感情って不思議…。


「私も欲しい!ユリアーナ、婚約者の私にプレゼントしてよ!」

「私もその誘惑的なデザイン、欲しいな~」

「私にもぉプレゼントしてぇ~」


 マリアちゃんとブリギッテ。なんか一人違う子が…。


「お母様はお父様におねだりしてください」

「ユリアーナのいけずぅ!」

「色仕掛けしないでください!」

「ちぇ~」


 おねだりって言ってもふところは同じだし、自分の仕立屋で頼むんだから人件費しかかからないんだけどね。


 で、マリアちゃんとブリギッテは自分で買えないだろうから、買ってあげてもいいな…。でもそうすると、スヴェトラーナとセラフィーマも欲しがりそう…。


「ユリアーナ様、わたくしのことを気にする必要はございませんわ。マシャレッリ侯爵家が飛ぶ鳥落とす勢いで成長しているといっても、フョードロヴナ公爵家には及びませんもの」


 スヴェトラーナは私が迷っているのを察して言ってきた。だけど、スヴェトラーナは言っていることと仕草がまったく合ってないよね?なんで上目遣いのおねだりモードなの?なんで胸を強調してくるの?微妙なツンデレなの?


「私はいりません」

「セラフィーマ様は少しは着飾った方がよろしいですわ」


 セラフィーマは日本ならきっとジャージとかですごしているタイプ。


「みんなに仕立てるわ!婚約者にドレスの一つも贈れない私ではないもの!」


「ありがとう!ユリアーナ!」

「ユリアーナなら贈ってくれると思ったよ~」

「わたくし自分で仕立てられますのに申し訳ありませんわ!」

「いらないのに…」

「ありがと~う、ユリアーナぁ~」


「だからお母様のはありません!」

「くすん…」


 油断も隙もあったもんじゃない。


 そして、マレリナのドレスを納品してあとまだ帰っていなかった仕立屋に、四人の採寸をさせた。

 しかし、マシャレッリ領に帰ってすぐ私のドレスを二着仕立てて、そのあとアナスタシアとマレリナのドレスを仕立てた。すでに一ヶ月たっているのだ。残りの一ヶ月で四着仕立てるにはギリギリだ。直営だからといってただでさえ無理を言って一週間で仕立ててもらってるのに、それを二ヶ月間も連続で続けろだなんてブラックすぎる!だから、タチアーナのドレスなんて頼んでいる余裕はないのだ。

 蜘蛛の糸の生地を溶かす火魔法使いをこれ以上増やすことはできない。他のスタッフを増やしてもそれほど負荷軽減にならない。しかたがないので、私が生地を採集して溶かすところまで手伝うことになった。もちろん、火魔法使いには残業代を出す。




 ドレスを受け取ったり注文したりする一方で、木琴が二つだけ納品された。これを教会に持っていった。


「これはなんでしょうか」


 おじいちゃん神父のアルフレート。


「こちらは木琴です」


 そして、マシャレッリ家で雇っている土木作業員の土魔法使いの一人、ハンスを連れてきた。今のところ土木作業はあまりないので暇人なのだ。ハンスは楽譜を読めるので、木琴の教師として連れてきたのだ。


 木琴を学ぶのは、魔力持ちであることが発覚したもうすぐ四歳の三歳児が五人。髪の色は本当にちょっと色が付いているだけで、魔力はかなり低いのだけど、若いうちから魔力を鍛えればそれなりに使えるようになるんじゃないかな。

 私がマシャレッリ家の養女となった九歳のときに生まれたのは五人、次の年は十五人、その次の年は二十人だ。三年の間に生まれた魔力持ちは四〇人だけど、食糧難が徐々に解消されて出生率が上がっていった。


「それではハンス、よろしくお願いします」

「はい、任せてください」


 本当は、この木琴は娯楽音楽のためのものなのだけど、魔力持ちが見つかってしまったので、急きょ魔力持ちの育成用に使うことにしたのだ。もちろん、数をたくさん作って、魔力を持たない者にも音楽をやらせたい。


 この子供たちは便宜上、マシャレッリ家の使用人見習いということになった。つばを付けておかないと、他の貴族にかってに連れていかれてしまうからだ。もちろん、他領の貴族と双方の希望があれば、養子にしてもらってもいいけどね。

 ちなみに、私とマレリナもコロボフ子爵の了承なしにかってに連れていかれたクチだ。


 子供たちは木琴を叩いて練習を始めた。


「あっ…」

「おやおや」


 一人の男の子が木琴を叩いたあと倒れてしまった。男の子の木琴はちょっと水滴が付いていた。偶然にも水生成のメロディを演奏してしまい、魔力切れを起こしたのだ。男の子は一時間後に目を覚まして、練習を再開した。


 ところで、子供を連れてきた親にも木琴で魔法を使わせてみた。すると、すぐに魔力が尽きてしまい、気絶してしまった。親はそのまま一日寝込んでしまった。また、ひどい不快感が残っているようだ。二十歳前後になって初めて魔法の練習を始めるのは難しそう。


 親も練習に参加していいことにしたけど、誰も参加してくれなかった。一日寝込んでしまうと生活が成り立たないからね。というわけで、基本は子供に魔法を教えていくことになった。




 お嫁さんたちの相手と仕事が忙しすぎて、なかなか趣味に割く時間がない。まあ、教会で木琴を学ばせるのは趣味の一環ではあるのだけど。


 そして、なんだか久しぶりにクラブ活動をする時間を取れた。


 ぱーぱーぱーぱー♪(ラッパ・マレリナ)

 ぴーぴーひょーひょー♪(リコーダー・マリア)

 かっかっかっかっ♪(木琴・アナスタシア)

 きんきんきんきん♪(鉄琴・スヴェトラーナ)

 きーこーきーこー♪(バイオリン・セラフィーマ)

 ぽんぽんぽんぽん♪(ハープ・ブリギッテ)

 ぴろぴろぴろぴろ♪(キーボードの高音域ハープ・ユリアナ)

 ぎーががぎーがが♪(キーボードのエレキハープ・ユリアナ)

 ドゥドゥドゥドゥ♪(キーボードのベース・ユリアナ)

 どんしゃどんたっ♪(ドラム・ユリアナ)


 みんな私がいない間に練習していたようだ。


「ユリアーナ、歌詞を考えたのよ」

「見せて」


 また恋の歌だ。アナスタシアはよく恋の歌を作詞できるなぁ。


「あの、お姉様もみんなも、一緒に歌ってみない?」


「「「「「「えっ?」」」」」」


「これが歌のメロディなの。まず自分の楽器でこの音を出してみて」


 ぱー。ひょー。かっ。きん。きー。ぽん。


「その音に合うように、自分の声を出してみて。歌詞じゃなくていいわ。『らー』で」


「「「「「「らー」」」」」」


「うふふ。マレリナはだいたい合ってる。

 マリアちゃんは二音下がってる。『らー』って出し続けて、上げて」

「らー」

「もうひとつ上げて」

「らー」

「そうそう。

 じゃあお姉様はほんの少しだけ上げてみて」

「らー」

「良いわね……」


 今ではやらなくなってしまったけど、村にいたときマレリナは音感の訓練をしていたのだ。そのおかげか、今でも楽器の音にけっこう合わせて声を出せるじゃないか。素晴らしい!


「ユリアーナ、次の音わかんない」

「はぁ~、楽器の音に合わせて声を出すというのがこれほど難しいなんて思いもしませんでしたわ…」

「これで合ってますか?」


 マリアちゃんとスヴェトラーナ、セラフィーマには難しいらしい。

 でも、マレリナができるようになったんだ。みんな遺伝子レベルで音を取れないわけじゃないはず。


「らー」

「ブリギッテはけっこう良いね!」


 エルフは魔法に長けてるだけじゃなくて、もしかしたら音楽にも長けてるんじゃない?って勝手な予想だけど。だって、私は生まれつき絶対音感があるようだし。と薫の記憶がいっている。


「こんなふうに、毎日少しだけ歌う訓練をしてみましょ」


「「ええ!」」「「「うん!」」」「はい!」


 歌という文化を創り上げるのは前途多難だなぁ…。木琴教室も始まったばかりだ。楽器を弾くのは魔法音楽があるからそれなりの下地はある。だけど歌を歌えるのは私だけだから、道は険しい。みんなには歌を教えられるくらいになってほしいなぁ。絶対音感を持ってる必要はない。楽器と同じ音程を出せるようになればいいのだ。




 そして、仕立屋の火魔法使いがブラックな残業をしてくれたおかげでドレスが納品されてきて…。


「マリアちゃん、可愛い!」

「きゃあ!」


 私はロリータドレスのマリアちゃんを抱き上げてしまった。やっぱり幼い子には似合うんだよ!


「これは着やすいですね!」

「セラフィーマ、綺麗よ」


 セラフィーマは清楚な感じを演出した…、ルームウェア。よく伸びてゆったりできるワンピースドレスなのだけど、傍目から見ればちゃんとしたドレスに見えるのだ。実用性を重視したセラフィーマらしいチョイス。


「どうかしら…」

「えへへ、どうかな」

「スヴェトラーナ様…、ブリギッテ…」


 この二人は危険だ…。二人ともビスチェドレスを作ってしまった。っていうか、私もマレリナも、今日はビスチェドレスなのだけど。

 オフショルダーなので少し固めのカップなのだけど、胸を包んでいるというよりは、ただ置いてあるだけなのだ…。重力の方向が変わると、ポロッと落ちてしまいそうな危うさがある…。とくに、スヴェトラーナとブリギッテは、カップよりもはるかに大きい球体が乗っていて、非常に不安定…。いつ落ちてしまうか目が離せない…。それに、背中はガバッと開いていて、スヴェトラーナは後ろから見ると肩幅よりも広い胸が後ろからはみ出て見えて、とても素晴らしい…。これはツインドリルのスヴェトラーナだからこそできる技で、他のロングの子だと背中は髪の毛しか見えないのだ。


 というわけで、ビスチェドレス四人、ロリータドレス二人、清楚な引き籠もりドレス一人の構成となった。もちろん、私はもう一方のエロくないドレスも着るし、マレリナもアナスタシアも今までのドレスも併用する。スヴェトラーナなんか頻繁にドレスを変えている。ブリギッテは着た切り雀だから、ビスチェドレスメインで行くのかな…。寒くないかな…。セラフィーマも清楚なルームウェアを着たきりになりそう…。




 こうして冬の長期休みが終わりに近づき、王都にたつ日がやってきた。


「ふんふん……ふんふん……ふんふん……♪」


 王都の南側にあるマシャレッリ家王都邸玄関ホールへの人サイズのワープゲートを開く!

 できるだけ具体的な指示でメロディを口ずさむと、二五〇キロ離れた王都邸でも魔力消費をかなり抑えられることが分かった。それでもガンガン魔力が減っていく!

 人のサイズのゲートなら、数十分開きっぱなしにできる。これで人も荷物もほとんど運びきった。


「ふんふん……ふんふん……ふんふん……♪」


 王都の南側にあるマシャレッリ家王都邸の庭への馬車サイズのワープゲートを開く!

 馬車のサイズだと数分なので、最後にちょこっとだけ大きめに開いて馬車を運ぶ。


 ちなみに、同じゲートを維持するよりは、魔法を演奏しなおしたほうが魔力消費が少ない。


 よかった。ワープゲートを使えて。なぜなら、ドレスができたのが長期休みが始まってから五十八日目だったからである。


「まさか、王都まで一瞬で来られるとは思いませんでしたわ!」


「ユリアナ、あんまりムチャしちゃダメだよ」

「うん。今回は魔力三割残ってるから大丈夫」


「それにしても、肩とか背中が寒い…」

「ブリギッテは前のドレスはどうしたの?」

「置いてきちゃった…」

「王都はマシャレッリより少し寒いよ」

「ユリアーナに胸と背中を見てほしいから耐える!」

「バカ…」


 女の子というのは寒くても露出してなんぼだ…。私も最近分かるようになってきた…。マレリナが私の身体に興味を持ってくれたら嬉しいっていうか…。というか、私も二つのドレスを毎日ローテーションで着替えている。私も寒い…。

 

 お嫁さんたち六人は、このままマシャレッリ家の王都邸に住むことになった。スヴェトラーナもセラフィーマも王都邸があるんだけどね。あいかわらず、「仲好し女の子七人組が一緒に住む」ように見えているからいいけど、実際は「次期当主と婚約者六人が一緒に住む」だと皆に認識されないように気をつけなければならない。音楽の試験のときに婚約者だって公開しちゃったけど大丈夫かな…。




★ユリアナ十三歳




 私たち到着を学園に知らせた翌日、授業が始まった。今日から四年生だ。十三歳だ。学園は私たちのことを待っていたのだろうか。私たちはちゃんと六十日で帰ってきたよ。遅れを取り戻すために早く始めるとか知らないし。いや、私が爆弾を落としたせいで遅れたのだから、そういうわけにもいかないか。


 娯楽・芸術音楽の時間。クラスの子は私のバンドクラブに入れないことになってしまったけど、授業の時間に仲良くご一緒するのはやぶさかではない。でもね、クラスの子とは結婚しないよ…。ただの同性の友達だ…。いや女友達…、恋人未満だ…。


 と思っていたのに、


「ユリアーナ様!私も婚約してください!」

「えっ…」


「「「「「私たちも!」」」」」

「えっ…」


 なんか十人くらいの女の子に囲まれて…、えっと、思考が追いつかない…。何て言った?婚約?私と?


「待った!キミたちはボクの側室だろう!」


「私、ユリアーナ様に嫁げるのなら、王妃の座を蹴っても構いません!」


「「「「「私たちも!」」」」」


 ヴィアチェスラフ王子は涙目とまではいかないけど必死だ。大量の嫁に逃げられたらそりゃね…。


「だって…、美味しいものやドレスを次々に生み出すユリアーナ様に、私、心を打たれたんです」

「私、ユリアーナ様と音楽をしていたい…」

「ユリアーナ様の声に魅入られて…」

「ユリアーナ様って素敵なんですもの…」

「「「ざわざわ……」」」


 なんでみんな私を見てうっとりしてるの!


「ユリアーナ…、どういうことだい…。ボクの婚約者を奪うのかい?」

「誤解です!私の婚約者はこの六人だけです!」


 同情してる場合じゃなかった。奪ったのは私になってるじゃないか…。


「ユリアーナちゃん、ボクと婚約して~」

「ユリアーナ嬢、私と婚約してほしい」

「「「ざわざわ…」」」


「お断りします!」


「「「がーん…」」」


 どさくさに紛れて男どもまで何を言い出すんだ。私は躊躇なくバッサリと切った。

 おまえら聖女マレリーナにうっとりしてたじゃんか!あげないけど!


「私と婚約…」

「私と…」

「「「ざわざわ…」」」


 女の子たちがすがるような目で私を見てくる…。


 そして、私のお嫁さんたち六人が切ない顔をしている…。いちばん大切なのはお嫁さんたち!


「も、申し訳ございませんが、皆さんと婚約することはできません…」


「「「そんなぁ…」」」「くすん…」「ユリアーナ様…」「「「ざわざわ…」」」


 女の子を悲しませてしまうけど、しかたがない…。私は二十三人も娶ることはできない…。王子じゃあるまいし…。


「みんな、それは一時の気の迷いだろう。今なら許してあげるよ」


 そうだよ、王子の前で婚約破棄を言い渡したもどうぜんじゃないか。首が飛ぶよ!


「そ、そうです皆さん、音楽の練習を始めましょ」


「「「「「はい…」」」」」


 言い寄ってきた女の子は、伯爵家以下の貴族令嬢だけだ。さすがに上位の貴族は私なんかには…、あれ…。言い寄ってきてない女の子も、みんな私を見る目が…、切ない目をしている…。


 男子も私を見てうっとりしてる…。やめろよ!気持ち悪い!


 いや、まあ、私ってどう見ても女の子だから、男が惚れるのは普通なのかもしれない。いや、惚れるのが普通だなんて、うぬぼれてるわけじゃないよ。

 でも、女の子が私に惚れるのは、やっぱりエルフの特性なんだろう。みんな私が女であることを忘れて、当然のように私に告白してくる。王子が私のことをエルフだって暴露して、みんな私をエルフと認識したから?それとも、私って男臭いのかな…。


 それにしても、女も男もこれだけの人数が私に惚れるってどういうこと?私は魅了のメロディなんて歌ってない。娯楽・芸術音楽はすべて変ロ長調だ。それがうわずって心魔法のロ長調になってしまうことは、私にはあり得ない。


 それか女を寄せ付けるフェロモンのようなものを出しているのだろうか。森に住んでるからエルフって呼ばれてるけど、同性婚するわ、魅了するわで、ローレライとかサキュバスなんじゃないの?


 その後の娯楽・芸術音楽の授業では、とくに用もないのに私の側に寄ってきたり、遠くからぼーっと私を眺めていたりと、みんな私と関係を持ちたいようだった。私はあからさまに避けたりしたくなかったのだけど、そのたびにヴィアチェスラフ王子に睨まれるので、ごめんなさいと言って離れるしかなかった。

 もちろん、男は無条件で追い払った。


 私の楽しい娯楽・芸術音楽の時間が、なんだか微妙な空気になってしまった…。




 休日には、マシャレッリ領で手に入れた新しいお肉の魔物、羊とイノシシを王都の農園とお店にも展開した。


 それから、楓の木とミツバチを農園に加えて、メープルシロップとハチミツを喫茶店で扱うようにするために、喫茶店にお嫁さんと赴いた。相変わらず行列ができるほどの人気だけど、今日はお嫁さんのためにテーブルを予約してあったので、行列を無視して入場。


 そして、お店の入り口をまたいだ途端、視界の端に映る肌色。私はとっさにその肌色に注目しようとしたのだけど、


「見てはいけませんわ」

「えっ…」


 スヴェトラーナは手で私の目を覆った。

 でも、あの肌色はとても気になる…。


「し、仕事にならないので…」

「あんっ」

「あっ…」


 私はスヴェトラーナの手をはらった。すると、肌色の正体は双球。いたのだ…。喫茶店のカウンター席に…、エルフちゃんが…。耳の尖った…、巨乳エルフちゃん…。スベトラーナ級だ…。いや、スヴェトラーナより、ほんのり小さいかも…。でもとても色っぽいお姉さん…。

 ブリギッテよりも背が高い。成人かな。人間の十八歳はエルフの五十歳だから、五十歳以上のエルフかもしれない。ブリギッテの言ったとおり、エルフの成人はみんな巨乳…。エルフの郷…、行ってみたい…。

 髪は濃いオレンジ色のウェーブボブ。オレンジってことは土魔法使いかな。でも色がブリギッテよりかなり濃い。

 テーブルには円筒状のものと、何やら長いケースと剣が立てかけてある。


「あ、エルフだ。珍しいね」

「おや、こんなところで同胞に出会えるとは」


 ブリギッテがエルフちゃんの耳に気が付いた。すると、エルフちゃんもブリギッテに気が付いたようだ。私は耳を隠しているので、一見エルフだとは分からないだろう。だから、エルフちゃんはブリギッテを見て言ったのだ。


「やあ」

「こんにちは」


 ブリギッテが近づいていくと、エルフちゃんから声をかけてきた。ブリギッテは挨拶を返した。


「私、ブリギッテ」

「私はニーナ。人間の国の王都でエルフに会えて嬉しいよ」

「私もだよ。エルフはもう一人いるんだよ」


 ブリギッテは私の手を掴んで、エルフちゃんことニーナのところへ連れていった。


「あわわ」


 そして、私の髪をかき分けて耳をさらした。なんだか恥ずかしい…。


「おや、灰色髪のエルフは珍しいね。いや、その輝き…、いろいろ混ざってるね」

「わ、私、ユリアーナです…」


 私はスヴェトラーナの胸を前にしたときのように思考能力を四〇パーセントほど奪われた。ドキドキしてブレスレットの精神治療が発動して、思考力がある程度戻ってきた。


「ははは、可愛いね。まだ十歳くらいかい?」

「はい…」


「いけませんわ、ユリアーナ様」

「はわゎ…、んぐぐ…」


 突然、私はスヴェトラーナに抱き寄せられ、私の顔はスヴェトラーナの胸にダイブした。


「キミたちは貴族かい?」

「ええ、そうですわ」


 ニーナは私たちの服装を見回して言った。


「それは失礼した。私はハンターをやっていてね。王都に美味しい甘味のお店があるって聞いたから来てみたんだ」


 ニーナのテーブルには、クリームとジャムたっぷりのやわらかパンが食べかけで置いてあった。


「じゃあ、ご一緒しよっ」

「いいのかい?」

「うん!さあ、どうぞどうぞ」

「その席でいいのかい?」

「私たちの予約席なんだ」

「さすがお貴族様だねえ」


 ブリギッテがニーナを誘った。私たちの席は予約してあるけど、テーブルは五人席であり、そこに無理矢理一席追加してお嫁さんたち六人に座ってもらう前提だったのだ。もう一席追加する余裕などないのだ。

 しかし、ブリギッテはお構いなしに、かってに話を進めてしまっている。ブリギッテも大人の巨乳エルフにはかなわないらしい。


 ニーナは皿とフォークを持ってテーブルに移動した。背が高いな…。一八〇センチありそう…。ボンキュッボンのモデル体形…。

 ブリギッテ、スヴェトラーナ、セラフィーマ、マリアちゃんが席に着いた。

 店員は私たちが来たことに気が付いて、椅子を一つ持ってきてくれたのだけど…、


「さあ、ユリアーナちゃんも座りなよ」

「えっ」


 ニーナは私に店員が持ってきた席を勧めた。私はもともと座らないで厨房へ行く予定だったのだ。私が席に着くとアナスタシアとマレリナがあぶれることになる。それに私が席に着かなくても、二人のどちらかがあぶれてしまう。


「ユリアナ、せっかくエルフに会えたんだから、話してきなよ」

「そうよ。私たち、いつでも食べられるわ」


「マレリナ…、お姉様…」


 二人の優しさに涙が出そう…。マレリナはお母さんのように包容力があるし、アナスタシアも見かけによらず大人だ。


「ほらっ」

「わっ」


 マレリナに手を引かれて、店員の用意した席に着いた。


「お姉様はこっち」

「あら…これじゃマレリーナが…」


 マレリナはアナスタシアをひょいと抱えて、ニーナの座っていたカウンター席に座らせた。


「私は馬車にいるよ」

「ダメよ。ここに座って。私がマレリーナの膝に座るわ」

「うーん、分かったわ」


 カウンター席にはマレリナが座って、マレリナの膝にアナスタシアが座ることに。アナスタシアだからできる荒技だ。



 店員にパンやトッピングを出してもらい、私たちもいただきつつ、ニーナとお話することになった。


「これは果物だね。パンにもほんのりとした甘みがあるし、柔らかくて食べやすいね」

「果物を知ってるんですか?」

「もちろん。森で採れるからね。でも人間の国で果物の料理を食べられるとは思っていなかったよ」

「さすがエルフ…」


 魔物の守っている果物を採れるなんてただ者じゃないな。果物程度の甘味では感激していない。


「キミたちはエルフの村に売られたクチかい?」

「私はそう」


「私は…、赤ん坊のときに捨てられていたのを、人間に拾われたの…」


「それは過酷だったね…」


 ブリギッテと私はニーナに身の上を話した。ブリギッテみたいに金銭目的で売られるエルフはよくいるらしい。私は初めて聞いたけど、エルフで一属性しか持っていないものはどちらかというと落ちこぼれ扱いで、売られるエルフの候補になってしまうということだ。それでも人間の上位貴族並の魔力を持っているからといって、下位貴族が好んで買っていくらしい。


「ユリアーナはマルチキャストかい?」

「あ、はい。なんで分かるんですか?」

「エルフは必ず魔力を持っているので、髪が灰色になるにはいくつかの色が混ざってるはずなんだ」

「なるほど」

「それにしても、そんなに輝く髪の子は初めて見たけどね」

「あはは…。ニーナは土魔法使いですか?」

「いや、私が使えるのは雷と時と命だよ」

「時魔法来たー!」


「ちょっとユリアーナ様、はしたないですわよ…」


 初、時魔法使いに思わず叫んでしまった。他の客からも注目を浴びてしまった。恥ずかしい…。


 黄色と茶色と白を混ぜたらオレンジ?なるほど…。それに、色もすごく濃いし魔力も高そうだ。でも、汚れているからか艶は分からない。ハンターだし風呂なんて入らないだろう。

 エルフが持つ属性数は平均二つのようだ。一つの者もいれば三つの者もいる。ニーナは自分が恵まれていると言った。


 ニーナはなんと、二五〇歳くらいらしい!細かい数値まで覚えていないようだ。エルフの寿命は人間の五倍くらいだと言われているが、五〇歳くらいになって成人すると、人間の五分の一の速度で老化するわけではなくて、二〇〇年ほど若い姿が続いたあと、人間と同じ速度で老化していくらしい。だから、そろそろ老化が始まるだろうとのことだ。


 そんな熟女エルフのニーナは、ランクAハンターであり、ハンターとしても熟年!とても尊敬してしまった!


 びりいいいっ!


「はっ、ご、ごめんあそばせ…」


 スヴェトラーナがハンカチを噛みちぎった!


「お嬢さん、十歳の子供を取って食ったりしないから、安心しなよ」

「わ、わたくしはそんなことを気に……」


 スヴェトラーナは焼き餅を焼いていた?たしかに私はニーナの胸に見とれているけど、それ以上に魔法やハンターのことについても尊敬の眼差しで興奮気味なんだ!


「私はキミたちにとってはおばあちゃんだよ。残り少ない寿命で死ぬまでの数十年、ハンターを続けるのさ」

「そ、そうなのですね…」


 数十年で死ぬのは、人間では普通なのでは…。今が人間の二十歳相当なら、まだまだ適齢期だ。いやいや、私はこれ以上お嫁さんを増やしはしないのだ。だいたい、今日あったばかりの人に、私は何を…。一目惚れ…?

 エルフのティーンエイジャーってみんなそうなの?色気に耐性がなさすぎるし、惚れっぽすぎるし…。



「あの…、時魔法を見せてもらえませんか!」

「ははは、唐突だね」


 話の流れをぶった切ってみた!このエルフちゃんをゲットできないのなら、知識だけでももらっておく!


 というわけで、喫茶店にメープルシロップとハチミツを展開するのもすっかり忘れて、マシャレッリ家の王都邸の庭にニーナを連れていき、時魔法を披露してもらうことに。


「準備するよ」


 ニーナは背負っていた大きな入れ物を開けて、中から弓のような…ハープ!ハープボウってやつ?しかも大人用ハープの低音域側の長い十三本だけが配置されている。こんな武器があるなんて、ファンタジー…。


「石ころを四つ同時に、弓なりに投げてもらえるかな」

「わかったわ」


 私は庭に落ちていた石ころを拾って、ニーナが弓を打つ方向とは垂直の方向に、両手で放った。


 それと同時に、ニーナはハープを弾く。初めて聞く、変ニ長調のメロディ。時魔法一つゲットした!そして、その効果は…。

 私の投げた四つの石の動きが、なんとゆっくりになった…。ものの動きを遅くする魔法!

 「時の流れ」というメロディと「遅い」の組合せだ。「遅い」はすでに知っている。魔方陣の観測魔法やトリガー魔法に、「○○のときに」とか「○○の間」というようなメロディはあるのだけど、それとは違うようだ。今回重要なキーワードを得たのだ。


 そして、明らかに重力加速度を無視した石をめがけて、ニーナは矢を放った。それも同時に四本。ハープのいちばん長い弦から四本の弦に矢をつがえて、それを同時に放った。同時に放ったのに、長さの違う弦から放たれた矢は、速度が違うようだ。長い弦から放った矢から順に、ゆっくり飛んでいる石に当たっていった。ゆっくり飛んでいるとはいえ、当たるタイミングが違うものをよく当てられるものだ…。超人レベル…。


「「「「「「すごい…」」」」」」」


 私も含めて、そう言うしかなかった。


「もうひとつ見せようか」


 ニーナはそう言うと、ハープで変ニ長調のメロディをぽんぽんと弾いた。分かるよ。「時の流れ」「速い」だ。


「いくよ!」

「はい!」


 何が「行くよ」なのかは瞬時に理解できた。ニーナが私の視界から消えたと思ったら、目の前で突きを放ってきていた。


「ほう」


 私がすんでのところでニーナの突きを素手で受けると、ニーナは感心したような表情だ。「ほう」と言った声が、人間の出す声じゃない。さっきまで話していた声よりも一オクターブ上だ。なるほど、二倍速なわけだ。

 速さのわりには軽い一撃。そうか、時の流れが速いだけで、実際には速くないので、見た目より運動エネルギーを持っていないんだ。

 とはいえ、あくまで速さのわりに軽いのであって、実際のところ筋力強化を使ったマレリナよりも威力がある。


 ニーナが突きを放ったときは、一緒に胸がバインバイン揺れている。だけど、それも二倍速で揺れているので、あまり興奮しない…。いや、そのおかげで思考力を奪われずに戦えているのだけど…。


 私はニーナに向けて後ろ回し蹴りを放った。ところが、私が身体を回している間にニーナにもう一撃入れられそうになって、急きょ、足でニーナの突きを受けた。


「ふふ」


 カセットテープの早送りのような声。ボイスチェンジャーのようで可愛い。


「これならどうかな」


 声の音程は取れたけど、言葉は速すぎて何を言っているのか分からなかった。

 ニーナは高速な突きの連撃を放ってきて、私は受けたりよけたりで手一杯。これが時魔法!すげええ!

 そして、私の目の前で寸止めされた突き。


「負けました!」

「時魔法の動きに付いてこられるとは驚いたな」


「ユリアナが負けた…」

「ユリアーナ様が負けましたの?速すぎて何が何だか分かりませんでしたわ」

「ウソっ!ユリアーナは負けないよ!」

「ユリちゃんよりも強いなんて…」

「ユリアーナ…」

「これが大人のエルフなんだね」



「他にはありませんか?」

「私が知っているのはこれだけだ」

「そうですか…」


 ニーナの知っている時魔法は、時の流れを遅くするか速くするかのどちらか。他にも未来予知とか過去視覚とか存在は知っているけど、弾き方は知らないらしい。


 時の流れの速さを変えられる対象は、物体か空間のどちらか。さっきは石と自分を対象にしたけど、範囲にも使えるらしい。その代わり、消費魔力が多くて、効果を抑えなければならない。


「あの…、また会ってもらえませんか…」


 二五〇年も生きてるんだ。さっきの戦いで分かったけど、ニーナの底は知れなかった。私は軽くあしらわれただけだ。二倍速は限界じゃないかもしれないし、筋力強化も使えばもっと速いだろう。

 だけど、私だって時の加速魔法と筋力強化を使えばきっと…。いや、二五〇年培った戦いのセンスに、数年鍛えただけの私が勝てるわけない。平和な日本で生きた薫の三十六年なんて戦いには何の意味もない。もっと私を鍛えてくれないかな…。


「私は甘味の噂を聞きつけて王都に来た。用は済んだから、私はベルヌッチ領に戻るよ」

「そ、それなら、新しい甘味を用意します!」

「ほう、キミが甘味を用意してくれるのか?」

「はい!来週また喫茶店…、甘いパンのお店に来てください」

「いいだろう」


 というわけで、次の休みに会う約束をして、ニーナを帰した。 



「ユリアーナ様…」


「違うの。たんに格闘家として尊敬してるだけなの」


「たしかに、あれは時魔法ってやつを使われなくても勝てる気がしないよ」


「マレリナもそう思うでしょ?」


「うん」


「だからといって、これ以上婚約者はいりませんわ!」


「こ、婚約はしないわ…。ねえ、ブリギッテ…」


「ニーナは持ってる魔法の属性の組み合わせが良いよね。でも、他のエルフだって二〇〇年生きれば何らかの達人揃いだよ。まあ、そういった強いエルフにひかれて振り回されるのは、若いエルフの特権だね」


「あはは…、私、強いエルフに振り回されてるか…」


 たしかに、とても強いエルフに、今まで感じたことのない魅力を感じた。これも、エルフの本能によるものなのかな。


「そういうことにしておいてあげますわ!でも、来週でれーっとしたら許しませんわよ」


「はい…」



 ニーナという素敵な熟女エルフを得ることはできなかったけど、念願の時魔法をゲットした。私はさっそくふんふんと「自分」の「時の流れ」が「二倍」「速く」なる魔法をかけてみた。すると、みんなの声が丁度一オクターブ下がった。私は絶対リズム感なるものを持ってないので、正確にみんなの速度が半分になったかは分からないけど、みんなの普段の話し声が丁度一オクターブ下がったことはハッキリ分かるのだ。


 女性の一オクターブ低い声というのは、オネエがゆっくりしゃべっているような感じだ…。TS転生した私にオネエを否定する権利はないけど、いくら身体が本物の女の子でも男の声をした女の子というのは魅力が三割くらい減ってしまう…。私は女の子がキャッキャうふふしてるのを聞いているだけで癒される生き物である半面、男の声というのを耳障りに感じるのだ…。それは前世でも今世でも同じだ。


 逆に、自分を元の速度に戻して、みんなの速度を六パーセント増しにすると、みんなの声が半音上がって、しかもちょっとアニメ声っぽくなって、なんだか癒される…。アニメ声になれる魔道具、作ろうかな…。自分で聞いた場合はアニメ声に聞こえないけど…。声帯だけ速く振動するようにしたら、魔力消費もたいしたことないだろう。


 なんだが時の流れの速度を変える魔法をゲットしたのに、ボイスチェンジャーとしての使い方ばかり思いつくなぁ…。


 実際のところボイズチェンジャーじゃなくて身体全体を加速させたときは、重力が軽くなったのだ。重力加速度の九・八メートル毎秒毎秒というのは一秒間に時速九・八メートル毎秒加速するという意味なのだ。自分が二倍加速していて、一秒間が二秒に長くなっているということは、二秒間をかけて九・八メートル毎秒加速するということなので、重力が軽くなったように感じるのだ。

 だからといって、二倍高くジャンプできるかというとそういうわけではない。自分の力も一秒間あたりに出せる力が決まっているのだから、普段の二倍時間をかけて力をためないと、逆にいつもより低いジャンプになってしまう。

 だから、ニーナの一撃は軽かったのだ。速いように見えて運動エネルギーを持っていないというのにもうなずける。


 ところで、時魔法がニ長調なら、邪魔法は自動的に変ト長調になるだろう。どちらかの調が時魔法で、もういっぽうが邪魔法だということは分かっていたのだから、今まで試そうと思えば試せたのだけど、邪魔法というのは呪いにかけたり、邪悪な欲望をかなえたりと、危険な魔法だと神父様は言っていた。聖魔法の対極にある魔法なのだ。だから、時魔法のつもりで使って、万が一邪魔法が発動したら、どんな悪いことが起こるか分からない。そのため、時魔法を当てずっぽうで試すことはできなかった。


 でも、今回時魔法の調が分かったことと、「時の流れ」というメロディを手に入れられたのは大きい。「遅い」と「速い」をだけ組み合わせるのではなくて、他の単語を組み合わせれて実験してみたい!だけど、放課後はクラブ活動だし、次の休みはニーナにメープルシロップとハチミツを振る舞うことになってるから、さらにその次の週かな。


 あ、私は当然のように時魔法を使えた。全属性制覇はチート転生者の嗜みだしね。




 そして迎えた次の休み。私たち七人は喫茶店に赴いた。

「ほう、これは楓の木の汁だね」

「なんと…、メープルシロップまで知っていましたか。ではこっちはどうです!」


 熟女エルフ…、手強い…。でもハチミツならどうだ!危険な蜂の魔物の巣に入り込んだりしないだろう!


「これは食べたことない甘味だ。ちょっとフルーティで苦みが癖になりそうだね」

「むぅ…」


 初めてなのはいいけど、感動が足りないようだ。ハチミツの甘さじゃメープルシロップとあまり変わらないか…。

 エルフって強い魔物を狩る力があるから、私のように魔物産業を発展させているのだろうか。ブリギッテが底辺の子として売られてしまうくらいだから、他はみんなもっと強いんだろう。


「なんだい。私を甘味で懐柔したかったのかい?」

「そ、そそそ、そういうわけでは…」

「そりゃ、私は甘味を求めてここに来たわけだから、好きなことに変わりないけど、私はハンターだから、欲しいものは狩りや採集でだいたい手に入れてきたのさ」

「はぁ…」


「キミが新メニューを提供してくれるってことは、ここはキミの店なのかい?」

「ええ、そうです」

「そうかぁ。キミは人間に拾われたと言っていたけど、エルフの味を提供しているんだねえ」

「そういうつもりでは…。では、すでに王都のレストランで出しているお肉料理も、経験済みですかね…」

「ミノタウロスとコカトリスだね。ああ、食べたことあるよ」

「残念…」


 熟女エルフは美食家でもあったのか…。


「でもね、細かくしてオーク肉や玉葱と混ぜてある、ハンバーグといったか…、あれは美味しかった」

「それはよかったです!」

「私たちは塩で焼くしか食べ方を知らないからね。この甘いパンだってそうだ。果物を煮てより甘さを増してから食べるなんて、初めてだったよ」

「そう言ってくださると嬉しいです!」

「まあ、キミの熱意に免じて甘味に騙されたことにしてあげよう」

「ということは…」

「何か私に望むことがあるのだろう」

「ぜひ、戦いを教えてください!」

「わかったよ」

「ありがとうございます!」

「その代わり、指導料ということで宿代くらい出してくれないかな。王都は平和だからたいした仕事がない。私は金を貯めない主義なので、王都の高い宿に何日も泊まれる路銀がないのだよ」

「それだったら私のやし……」


「いけませんわ!」「ダメだよ!」「ダメよ!」「ダメー!」「ダメです!」「いいよ!」


 お嫁さんたちに断固拒否された…。いや一人違うのがいたような。


「ははは。そちらの子たちが怖いから、キミの屋敷には行けないよ」

「はい…」

「じゃあ、さっそく修行するかい?」

「はい!」


「あの、私も見てもらえませんか?」

「いいよ。何人でもかかっておいで」


「じゃあ、私もお願いしまーす」

「ああいいよ」


 マレリナとブリギッテも参加することになった。




 王都邸の裏庭で稽古を付けてもらうことになった。ニーナは剣と弓、格闘を得意とする。一方、私たち三人は授業で剣術をやっている。私とマレリナは格闘の方がメインだけど。それにブリギッテは弓がメインだ。


 ニーナは雷、時、命の魔法使いなので、筋力強化を使える。ニーナには時の流れの加速と筋力強化を使って、木刀を持ってもらうことにした。

 マレリナは筋力強化で木刀。ブリギッテは木の矢尻で作った矢を弓で撃ちつつ、木刀も使う。


「ユリアーナ、キミは何魔法使いなんだい?」

「えっと…、命と…」

「ふふふ、言いたくないならいいよ」

「すみません…」


 マルチキャストであることがばれた際に、灰色になりそうな色の組合せを考えておかないとだな…。


「命魔法を使えるのなら、筋力強化を使っていいよ。あとみんな防護強化もね。ブリギッテには私が防護強化をかけてあげよう」

「ありがとう!」


 ニーナはハープボウで時の流れの加速、筋力強化、防護強化を奏でた。ブリギッテの分の防護強化も奏でた。ハープボウ、いいな。こんど注文しよっと。


 オルゴールは非公開ということで、私、マレリナはハープで筋力強化と防護強化を奏でた。


「さあ、おいで」


 私は右から、マレリナは左から飛び出した。私は、マレリナの筋力強化状態と互角くらいなので、当然筋力強化状態の私が先にニーナの元に辿り着いて剣で高速な突きを放ったのだけど、そこにはもうニーナはいなかった。

 どこ?目で追えないほどの速さ。これじゃマレリナたちが相手になるわけない。


 いきなり私の顔の横から迫る木刀!私はギリギリそれをかわした。

 そのとき見たニーナの胸は、ぶんぶんと高速で振動していた。うーん、これじゃ興奮しない。いや、ここで興奮したら困るから、これでいいか…。


 私は剣で突きを放つフリをしつつ、蹴りを入れようとした。しかし、ニーナはもういない。


 遅れてブリギッテの矢が飛んできた。すでにニーナは矢の射線にはいない。


 続いてマレリナの突き。またもやニーナは消えた。


 いつのまにか弓を捨てて剣でニーナを追ってきたブリギッテ。しかし、筋力強化をも使っていないブリギッテは剣の間合いに入ることすらできない。


「ストーーーップ!」


 後ろを振り向くと、ニーナがいた。いつの間に…。まったく目で追えない…。


「すまないが、こんな戦い方ではすぐ魔力が尽きてしまう…。まさかこれほど時魔法を使わされるとは思わなかった。時魔法なしでは、マレリーナとブリギッテに気を配りながらユリアーナを相手することはできない」


「あれ…、私たち、軽くあしらわれているだけだと思っていました…」


「だからそれはそんなに長く続かない。時魔法を使わなければ、ユリアーナ一人しか相手にできない。あとの二人はまあ、まとめてかかってきても大丈夫だけどね」


「じゃあユリアナが稽古してもらって。私はまずはユリアナに追いつかないとね」


「私も、あんなに速く動く的にはどうやっても矢は当たらないし、剣を持って追うこともできないよ」


「どうするかい?」

「じゃあ私だけ相手してもらえますか?」

「いいよ。時魔法なしでやろう」

「はい」


 ニーナと私はハープで筋力強化と防護強化をかけ直した。ニーナは木刀を捨てた。それに合わせて私も木刀を捨てた。


 言葉はない。でもニーナが来いと言っているのが分かった。私は距離を詰めて、蹴りを放った。ニーナは最小限の動きで私の蹴りをよけた。


 身体の動きは最小限なのに、胸はオーバーに揺れている。時魔法を使ってないから、程良い速さで!ニーナの胸はなかなかの巨乳だけど、身長や肩幅もかなりあるから様になっている。大きすぎる胸を持て余しているスヴェトラーナとはまた違うのだ。

 それに、今はそんなことを考えてる余裕はないんだ!


 ニーナが右手で突きを放つ。私は身体を逸らしつつ手でいなすのがやっとだった。

 それを見越したように、ニーナは左手で突きを放ってきた。


「うぇっ…」


「「「ユリアーナ!」」」「ユリアーナ様!」「ユリちゃん!」「ユリアナ!」


 私は腹にもろに喰らってしまった…。私は防護強化しているけど、ニーナも筋力強化しているんだ。体格で劣る私が不利か。


 私は腹の一撃に耐えるのが精一杯で、攻撃に転じることができなかった。でも、ニーナはその隙に攻撃してくることはなく、どうやら私の回復を待ってくれているようだ。


 私はそれに甘えて、ニーナの顔面に向かって突きを放つと見せかけて、下から蹴り上げた。

 ニーナは次のフェイントを見破って、身体を低くして私の蹴りをよけた。


 ニーナは低い体勢のまま、私の足もとをすくうように蹴りを入れてきた。私の足はまだ蹴り上げたまま戻ってきておらず、片足でかろうじて跳んでよけることができた。

 しかし、ニーナはそのままもう一方の足をくるりと回しながら、空中の私に蹴りを入れてきた。


「ぐぇっ…」


 私は空中でよけることができず、脇腹に蹴りを受けてしまった。私はかなりの勢いで飛ばされて、庭の壁に激突。庭の壁が崩れてしまった。


 身体中痛い。ちなみに、蜘蛛の糸の生地で作ったドレスは、これくらいでほつれたりしない。

 でも…、すごい!私はすぐさま体勢を立て直して、ニーナに向かっていった。だけど、フェイントも連撃もすべて見切られて、カウンターを喰らってしまう。


 何度やられても立ち上がる!と言いたいところだけど、痛すぎて、そして、脚に力が入らなくて、もう立ち上がれない…。


「ユリアナ、それくらいにしておきなよ」

「うん…」


 マレリナはハープで治療魔法と疲労回復を奏でてくれた。すっと痛みが引いていった。


「ありがと…」


 聖女マレリナ…。いつもみんなに手際よく回復をかけてくれる。私がその恩恵にあずかるのは初めてだ。マレリナにやさしくされたら誰だって惚れちゃうよ…。


「満足したかい?」

「はい!来週もお願いします!」

「えっ…。もう勘弁してくれ。甘味の分くらいは働いただろ」

「それもそうですね…」


 なんと、お断りされてしまった…。


「私はベルヌッチに帰るよ。キミたちは若い。ユリアーナもブリギッテもまだ二〇〇年以上生きるんだろ?私はあと数年もしたら老化が始まるんだ。私は最後まで自由に生きたいんだ」

「引き留めて申し訳ありませんでした…」


 寿命まであと数十年あるっていっても、それは二十歳の姿である今とは違うんだね。人間には成人したあと当たり前にやってくる衰えも、エルフにとっては人生の幕閉じなのかな。


 ニーナには私の格闘センスとか磨いてほしかったけど、時魔法を与えてくれたから許してあげよう…。



「それでは」

「はい。ありがとうございました」


 屋敷を去るニーナを見送った。


「「ありがとうございました」」


 マレリナとブリギッテも。


「ユリアーナ、残念だったね」

「う、うん…」

「私、もっと強くなるから」

「うん!」


 私はマレリナと技を磨き合っていこう。




 その次の週は、時魔法の実験をした。時魔法の対象は物体だけでなく空間も指定できる。どちらの場合も体積に比例した魔力を消費する。また、生き物にかける場合は、抵抗力のようなものがあって、さらに消費が大きくなる。


 加速または減速の倍率に応じて消費魔力が大きくなる。「時の流れ」を「止める」というメロディを口ずさんだら、小さな物体でもバカみたいに魔力を消費していったので、すぐに魔法を打ちきった。時間停止のアイテムボックスができると思ったのに…。私は転生者の義務を全うできないようだ…。


 停止までは行かないにしても、冷蔵庫に時の流れの減速機能を付ければ、より鮮度の高いまま食材を運べると思ったのだけど、市販の魔石でまかなえるのは、一立方メートルの空間の時間の流れを数分間だけ半分にする程度だ。とても実用にならない。


 というわけで、時魔法の利用方法は戦闘を優位に進めるか、瞬間的な使用方法に限られることになった。ちょっと残念。まだ一つしか知らないので、他の魔法に期待。




 魔法の授業も魔道具の授業も、やることがなくてつまらないなぁ。と思ったら、魔道具の授業で一つ有用なことを教えてもらった。魔石というのは各属性ごとに存在する。充電可能な電池なのだけど、今まで同じ種類の魔力しか充電できないと思っていた。でも、完全に空にしたあとは、違う属性の魔力を充電して使うことができるらしい。

 なんだよ…、心の魔石と空間の魔石はあまり流通してないから、大枚はたいて買い集めたのに…。それなら、安い基本属性の魔石を心の魔石に転用すれば、電話の魔道具も長時間話せるようにできるかなぁ。

 まあでも、大量に充電できるのは私くらいだし、電話の魔道具も念動アシスト馬車も市販しても売れそうにないな。


 やっぱり、こうしてときどき役に立つことを教えてもらえるので、授業中寝ているわけにはいかない。というか、本にしてくれればかってに読むのに、図書室の本にはそういうことが載っていなかったな。


 というわけで、安い魔石をたくさん買って空間属性の魔力を充電しなおすことで、転移ゲートを作った。長方形のドアの枠の形をしている。物理的なドアはないし、ピンク色でもない。一立方メートルの巨大な魔石タンクに接続されている。いくら基本属性の魔石が安いといっても、これに満杯に詰め込めば大金貨五枚になる。結局のところ、このタンクに充電できるのは私だけだ。アナスタシアにやらせたら一年以上かかる。


 でもこのタンク満杯の魔石を使って、ようやくマシャレッリの屋敷までのゲートを一分間だけ開けるのだ。これも電話魔法の宛先指定と同じで、宛先を固有名詞や修飾語を使って記した魔方陣をカートリッジで指定するようにしてある。


 小さな荷物を届けるだけの、小さなゲートも作った。魔力消費はゲートの面積に比例するのだ。小さなゲートを短時間開くだけなら、魔石をけっこうもたせることができる。


 これは、マシャレッリ領の屋敷にも設置した。



 あと、四年生の選択授業では、政治と戦術という授業が加わった。政治は、家を継いで当主になる者のための授業だ。戦術は、貴族当主になる者が受けてもいいし、家を継がずに貴族家の兵隊長になる者が受けてもいい。私はどちらも受けることにした。


 同じく両方受けるのはスヴェトラーナ。将来私の右腕になりたいのだろう。私としてもスヴェトラーナが補佐になってくれるのはありがたい。

 アナスタシアも政治を受けるらしい。アナスタシアはやっと七歳くらいに見えるようになってきたけど、中身はけっこう大人だ。アナスタシアも領地経営を手伝うつもりなのだろう。

 マレリナは戦術を受けるようだ。マレリナは特攻隊長なので、兵隊長の戦術はちょっと違う気がするけど。


 他の子は政治も戦術も受けない。それぞれに向き不向きがあるし。



 それはさておき、娯楽・芸術音楽の授業は楽しくやっている。私は教師なので、出席とはいえないけど、これだけは有意義な時間だ。だけど、今日の授業でも、あいかわらず私への視線が熱い…。

 叶わぬ恋くらいならよかったのだけど…、


「ユリアーナ、最近よからぬ噂が立っているのを知っているね」

「はい…」


 ユリアーナ・マシャレッリは、王子の婚約者を奪って王位簒奪を企んでいるのではないかと…。貴族の間で噂になっているのだ…。


「ユリアーナ、キミに限ってそんなことはないと思っているよ」

「はい。私はマシャレッリ領から国の発展を支える所存ですので…」


 私は領地でお嫁さんたちとよろしくやらせてもらえれば、与えられたチート能力と前世の知識で国に貢献するというのはやぶさかではない。本当は、何の義務も負わないハンターでもやっていたいところだけど、この世界では何かやろうと思ったら権力が必要になる。国全体に音楽、そして歌という文化を創ろうと思ったら、上位の貴族としてそれを発信していかなければならないのだ。


 最も強い権力を得るのが最も近い道だと思う。もし、ヴィアチェスラフが王子ではなくて王女であったのなら、私は喜んでこの身を捧げただろう。だけど、ヴィアチェスラフは男なのだ。私は男に嫁ぐくらいなら死を選…んだりせずに、国を滅ぼそうと思う。

 あれ?それって結局王位簒奪?いやいやいや、王子の子と婚約という簡単に破談にできそうな状態だからおとなしくしてるよ…。


「はぁ…、キミがボクの正室になることさえできれば、キミがボクの側室と関係を持つのは別に構わないのだけどね…」

「え…」


 いや、例えクラスの女子全員との結ばれることを許してもらえたとしても、王子と結婚しなければならないのなら、そんな話に乗るわけにはいかない。


 王子はエルフについていろいろ知っているようなのだけど、なぜエルフは人間の男を好きにならないという情報が抜けているのだろうか。ブリギッテにしてもそうだ。アルカンジェリ子爵はそのことを知らずにブリギッテを送り出したのだ。

 まあ、貴族の結婚というのは政略結婚が当たり前なので、好き嫌いはまったく考慮に値しないといえばそれまでか。


 とはいえ、王子には、他の女の子が自分に恋心を抱くから私もブリギッテも当然そうだろうという沸いた考えをやめてほしい。それさえなければ比較的まともなやつなんだけど…。


 そして、今クラスの女の子は、王子ではなくて、私にうっとりしているのだ。あからさまに近づいてくる子もいれば、表に出さないように遠くで切ない顔をして私を見ている子もいる。

 どうやら、女の子たちの中には、冬の長期休みで帰省したときに、親に王子との婚約を破棄してマシャレッリに嫁ぎたいと打ち明けてしまった子がいるようなのだ。それで、ユリアーナ・マシャレッリは自分の娘をたぶらかして、何か悪いことを企んでいると判断し、根も葉もない噂となって広まってしまったようだ。


「みなさん、私のことを慕ってくれるのは嬉しいです。私との音楽の時間を楽しんでくれるのも嬉しいです。ですが、私は皆さんに私と一緒になってほしくて音楽を教えているのではありません。音楽の楽しみを国中に広めて国民を笑顔にしたいと思ったからこそ、その第一歩として皆さんに音楽を教えているのです。皆さんが音楽を楽しいと思ってくださったのなら、皆さんはヴィアチェスラフ王子殿下の妃となり、国中に音楽を広めるための音楽教師となってください。殿下も音楽の価値を分かってくださっていますので、殿下とともに音楽で楽しい時間を過ごせるはずです」


「「「「「ユリアーナ様…」」」」」


 みんなは私じゃなくて音楽を好きになったんだよ!そして、音楽をやりたいのなら王子にくっついている方がいいよ!

 ちょっと無理か…。


「その通りだ。みんながユリアーナを慕うのなら、ボクとともにユリアーナの音楽を広めていこうじゃないか」


「「「はい!」」」「「「はい…」」」「「「「……」」」」


 私のよく分からない演説と王子の声に騙されてくれた子が三割、納得できないながらも従うしかないという子が三割、ノーコメントが四割といったところか…。


「さあ、娯楽・芸術の音楽は楽しい時間です。皆さんは楽しい時間の伝道師となるために、今は音楽を学び、そして楽しみましょう!」


「「「「はい!」」」」「「「はい…」」」「「「……」」」


 少し賛成票が増えたかな…。


「あの…、オレは殿下の婚約者じゃないしユリアーナちゃんに嫁いじゃダメか…」

「そうだよ。ボクを拒否する理由はないだろ!」

「私も入り婿になりたいです…」


 ユリアーナちゃんじゃねーよ!気持ちわりーよ!

 というのは置いといて、私の考えたストーリーには、男子がすっぽり抜けていた…。


 なんだか微妙な空気のまま、音楽の授業は進むのであった。



 そして、その数日後の放課後、私は王子と学校の個室で密談をすることになった。王子は私が話しやすいようにと思ったのか、他に誰も連れていない。


「ユリアーナ、キミがその『歌う』ことで魔法を発動できるという噂が立っているのだけど本当かい?」

「えっ…、はい…」


 うう、どこから漏れたんだ…。私が鼻歌で魔法の音楽を口ずさんでいるところを見られたかな…。


 お嫁さんたちや家族を疑っているわけではない。もちろん最初からいるオルガやデニスを疑う気はない。私が後から雇った使用人には、実は採用面接の時に私の使う魔法について他言無用と言ってあって、そのあと心魔法で記憶を覗いて秘密を漏らすような人間かどうかを見極めてから採用してある。

 だけど、農園やお店のスタッフはそこまでケアしていない。


 まあ、私があまり自重を捨ててふんふん魔法を使っているから、どこでばれてもおかしくないか…。私もついに、チート能力のばれたチート転生者になってしまったわけだ。


「なるほど…。キミは声を楽器のように操れるから、魔法も発動できてしまうということか…」

「ええ」

「そうか…」


 チート能力がばれるのは面倒だけど、後ろめたいことはない。私は堂々と答えた。


 とはいえ、声で魔法を使えることに問題があることは分かっている。王城の謁見の間にはハープを持ち込むことが禁止されていた。ハープは剣と同じ武器であると見なされているからだ。私は身体から切り離すことのできない武器を所持していることになる。まあそれをいったら、私って拳という武器も持っているし、スヴェトラーナだって胸という凶器を持っているのだからキリがないと思うのだ。


 とはいかないかな…。王子は考え込んでしまった…。


「もうひとつ教えてほしい」

「何なりと」

「キミが火や水の魔法を使ったという噂を聞いているのだけど、キミは命属性以外の魔法を使えるのかい?」

「はい」


 こっちもばれてしまったか…。魔法の全属性制覇は転生者の嗜みだからしかたがないじゃないか。あと邪属性が残ってるけど、それもきっと使えるに違いない。だけど、怖いから試さないだけだ。


「何の属性を使えるんだい?」

「火、雷、木、土、水、風、心、時、命、空間、聖です」

「まさか…、全部…、いや邪がないか。邪魔法だけ使えないのかい?」

「私は邪魔法を教えてもらっていません」

「なるほど。使える可能性はあるわけか…」


 邪魔法は聖魔法の対極にあるものだと神父様が言っていた。聖魔法はおまじないのようなもので、治療魔法などを変ロ長調に転調すれば、たいていの場合「治療される出来事が起こる」という魔法として成り立つ。ただし、私欲以外の良い行いに限る。良いか悪いかを判断しているのが誰かは知らないが。


 そして、逆に悪いことを起こすのが邪魔法だ。だから、聖魔法と同じように、他の属性の魔法を、おそらく邪魔法の調である変ト長調、いや変ホ短調に転調してしまえば、どのような魔法でも邪魔法になってしまう可能性があるのだ。ことの善悪はともかく、攻撃的な魔法は短調であることが決まっている。数々の物理攻撃魔法はもちろん、魅了と洗脳、記憶操作も短調だ。そうでないものは基本的に長調か、短すぎてどちらともいえない。だけど、魔法の結果が攻撃的なものになってしまうことはある。例えば、異次元収納は短調ではないが、生き物を閉じ込めて酸欠や飢えで殺すことはできる。


「使うことのできる簡単な魔法を全属性で試してもらえないかい」

「はい。ふんふん……♪ふんふん……♪ふんふん……♪………」


 私はまず、異次元収納を開いて、岩と木を取りだした。


「異次元収納…、空間魔法か…」


 そして、岩を整形してたらいの形にした。


「土魔法…」


 そして、その中で火を起こして、水をかけて火を消した。


「火に水に…」


 それから木魔法で木を操って、箱状にする。


「木魔法か」


 そしてその箱の中で七色の光をともす。


「雷魔法だ」


 それから、風魔法でそよ風を起こした。


「風だな」


 あとはなんだ…。ここのいつものつのウサギはいないから…。いや命魔法はいつも見せてるからいいか。

 かまいたちで自分に傷を付けてそれを治そうかとも考えたのだけど、いつでもどこでも攻撃魔法を使えるという印象を植え付けたくはないので…。ばれるのは時間の問題だけど。


「今から石ころを投げますので、受けとってください」

「えっ?」

「ふんふん……♪ふんふん……♪」


 石を整形して小さな石ころを作った。そして、王子に時の流れの加速を使い王子の速度を二倍速にした。

 ちょっと離れてから石ころをぽんっと投げた。王子はそれを難なくキャッチ。


「石が遅く飛んでくる…」

「そうでしょう。これは時魔法です。殿下の速度を二倍にしました。」


 王子の声が二倍速になり、一オクターブ上のきんきん声になった。

 逆に、私の声は王子には一オクターブ低くゆっくり聞こえているだろう。といっても、私の声はもともと普通の女性よりも一オクターブくらい高いアニメ声なので、一オクターブ低くすると、男ではなくて、ちょっと低めの普通の女性の声になっているかもしれない。


 王子の加速を解いてから、最後に王子に精神治療を使ってみた。


「ん?なんだか落ち着いた」

「精神治療です」

「なるほど。さっきから驚いてばかりだったけど、落ち着いたよ」

「落ち着いていただいたところで、私の話をお聞きください」

「いいよ」

「私は出自を知らないのですが、多くの属性を持っているエルフなので、ハイエルフである可能性が高いとのことです」

「なるほど」

「ハイエルフはエルフの四倍、つまり人間の二十倍かけて成長すると言われているので、身長も十歳のころからまったく変わっていません。ただのエルフであれば、少しは伸びてもおかしくないと思うのです」

「それも一理ある」

「つまり、私は三十歳までに子を産める身体にならない可能性があります」

「そうか…。私の子の妃になれない可能性があるということだな。しかし…、十一属性だぞ…。ぜひ王家の血として…」

「ハイエルフの子は少なくともエルフになるそうですよ。王族が完全にエルフになってもいいのですか?」

「それはたしかに…。私の一存では決められない。このことを父上…、王に話してもいいかい?」

「もちろんです」


 こうなったらもう、隠し通すことはできない。


「では、もう一つ、陛下とのご相談に加えていただきたい内容がございます」

「なんだい?」

「ヴィアチェスラフ王子殿下と同じ時期に生まれた、王女というのはこの国にはいらっしゃらないのですか?」

「それを聞いてどうするのだい?」

「私はハイエルフですから、いつ子を産めるようになるのか分からないのですが、女性に子を授けるのは十代でできるようになるらしいのです」

「なるほど…」

「王家の血を引いた王女がいらっしゃるのなら、私が王女に子を授けて、殿下の次代を担わせる道もあると思うのです」

「王家の血とはいえ、私の血を引かない者を次代の王に据えることがかなうかどうかだな」

「そうですね。それよりも、王女というのはいらっしゃらないのですか?」

「いたらしい」

「いた?らしい?」

「うーん…。いいだろう。ユリアーナには話してあげよう……」


 王の妃は、正室が一人と側室が十人。


 ヴィアチェスラフは八歳まで王子という身分だということはもちろん、親が誰かも知らされておらず、ただひたすら勉強や魔法の練習の毎日。そして、八歳になったとき自分が王子であると知らされた。


 そして、他に五人の王子候補者がいたことを正式に知らされた。つまり、他に王子が五人いて、おそらく王女も五人いたのだろう。だけど、その者たちとは会うことがかなわなかった。彼らは、王族であるとは知らされず、魔法の素質に困窮した貴族家に婿入り・嫁入りするか、または養子にされることになっているらしい。

 属性数が一どうしの両親から生まれる子でも、一〇〇人に一人は魔法の属性を持たないで生まれる可能性がある。そして第二子に恵まれなかった場合は、魔力を持った貴族の子が途絶えてしまう。王子として選ばれなかった息子五人と、娘の五人全員は、そういう魔法の素質に困った貴族家のための、魔法回復要員になるそうな。


 ちなみに、そういう困窮した貴族家が毎度十もあるわけがないので、その場合は、跡取りとならない次男や娘の家に行くことになるらしい。そして、いざ本家の魔法の素質が困窮したときに、分家の子を養子として取り立てればよいとのこと。

 いずれの場合も、そういった貴族家の王家の血が濃いうちは、王子の嫁候補にエントリーしないことを約束させられる。


 でもよかった…。王子になれなかった子供が消されるとかじゃなくて…。


 ちなみにヴィアチェスラフは自分の産みの母親が、十一人いる王妃の誰だか知らないらしいし、母親もヴィアチェスラフのことが自分の血を引いた子なのか知らないらしい。だけど、ヴィアチェスラフは十一人の王妃に実の子のように可愛がってもらっているという。


 生まれたときからそのようにして育てられたヴィアチェスラフは、この制度に何も疑問を抱いていないようだ。


「このことは他の子には他言無用だよ」


 そりゃ当たり前だろう。自分の産んだ子に合わせてもらえず、自分が産んだかどうかも分からない子を可愛がれと言われるのだから。


「では、会ったことがないけど、いずれかの王妃の産んだ娘がいるはずなのですね?」

「そうだよ。だからね、その者たちの子を次代にできるかどうかを、父上に相談しよう。そうすれば、キミの優秀な血を王家に取り入れることができる」

「はい。そう思います」


 それなら王家に嫁ぐなんて面倒なことをしなくても、子種だけ提供すればいい。ヴィアチェスラフ王子の腹違いの娘とにゃんにゃんするだけなら楽な仕事だ。お嫁さんたちには内緒かな…。


 こうして、ヴィアチェスラフ王子との密談は終わった。

 王子が話の分かるやつでよかった。結婚観がおかしいだけで、他のことに関しては良識を持っているようだ。




 屋敷に先に戻っていたお嫁さんたち。


「殿下に何を言われましたの?」

「私が歌で魔法を発動できることと、十一属性を持っていることがバレちゃったのよ」


「いずれバレることだと思っていたけどね」

「みんなの前で歌ってればね」


「ユリアーナはすごいんだって、もっとみんなに知ってもらえばいいのに!」

「王子と結婚させられそうになるから、あんまり目立つのは困るんだよ…」


「ユリちゃんを王子に盗られるのは困ります」

「でしょ?」


「ユリアーナと一緒にいられなくなるのはイヤよ」

「私はお姉様から離れませんよ」


「私がユリアーナに侯爵になってほしいってお願いしたからこんなことになったのかな…」

「そういうわけじゃないよ。文化を創るには身分があった方がやりやすいから、上位貴族になるのは必要だったと思う」


 お嫁さんたちにあまり心配かけないようにしないといけないな。



 お嫁さんたちとのお風呂やベッドにも、だいぶ慣れてきた。いや、ドキドキしなくなったというワケじゃないよ。スヴェトラーナとブリギッテに胸を押しつけられても、眠る代わりに気絶しなくなったというだけだよ。まだ結婚もしてないのにドキドキもしなくなったら夫婦として終わってる。


 マレリナとセラフィーマも十三歳になって、どんどん女性らしくなってる。それに、マリアちゃんは九歳くらい、アナスタシアは七歳くらいに見えるようになってきた…。マリアちゃんにはそのうち身長を抜かれちゃうのかな。




「ユリアーナ様…、ユリアーナ様の秘密を漏らした者が分かりましたの…」

「もう王家にまで広まってしまったのだから、今さら最初が誰かなんて…」

「大変申し上げにくいのですけど、わたくしの屋敷に泊まっていただいたときに、お風呂で世話をさせたメイドだったのです…。」

「それは…」

「その者はわたくしの専属ではなく、ハウスメイドを臨時で皆さんのお世話に回したのだけど、まさか屋敷にそんな忠誠の低い者がいたとあれば公爵家の恥ですわ。即刻打ち首にしてもらいましたわ」

「打ち首…」

「ユリアーナ様…、お許しください…。わたくしがユリアーナ様を家に招い……」

「私はスヴェトラーナ様のことを責めたりしないわ」

「ユリアーナ様…」


 打ち首だなんて…、フョードロヴナ公爵家にお邪魔したときのことをあまり覚えていないのが幸いだ…。どんなメイドがいたのか、顔も思い出せない。


 次はマシャレッリの使用人やスタッフに、私が罰を下さないとならないかもしれない。

 私は盗賊をほいほいハンターギルドに納品しているけど、そのあとどうなったかなんて考えない。地球では犯罪者に罰を下すことを考えるのは庶民ではない。でも、この世界では領地で犯罪を犯した者には当主が罰を下さなければならない。そのとき、私はちゃんと罰を下せるだろうか。


 マシャレッリも侯爵家になって、すでに上位の財力を持っている。以前はスタッフを募集してもなかなか集まらなかったけど、今は募集しなくてもかってに集まってくる。逆に、自ら集まってきた者ほとんど、甘い汁を吸おうと考えているので、めったに採用しない。これからは使用人だけでなく、農園やお店のスタッフの記憶も心魔法で調べないとダメだな。今いるスタッフも、こっそり調査しよう。


 マシャレッリ家がこんなにも大きくなってしまって、私は統治できるのだろうか。使用人四人こじんまりとした貴族家だったときが懐かしいな。




 数日後、私は王に呼び出され、謁見することになった。


「おもてを上げよ」

「はい」


 今日は空色の髪のアブトゥルラシド王と黄色の髪のヴィアチェスラフ王子だけだ。王妃ーズがいない。王妃の誰かが産んだ娘の話を出すのならいない方がいいだろう。


 それどころか、兵士やメイドも全員下がらせてしまった。私が声という刃物を持っているということを理解していないのだろうか。


「話はヴィアチェスラフから聞いた。十一属性持ちのそなたの血、どうしても王家に欲しい」

「はい。ですので、そのための提案をいたしました」

「次代の王はヴィアチェスラフと決まっておるのだが、その次の王となるべく者を産む者に、そなたの血を授けてもらいたい」

「はい。私の授けた子は、おそらくエルフになると思いますが、それで構いませんか?」

「エルフであるそなたを王妃として据えようとしたくらいだ。それで構わぬ」

「それはつまり、ヴィアチェスラフ王子殿下の次代の王は女王となる可能性があるということですか?」

「ああ。周りを納得させるのに苦労するかもしれぬ」

「それでも私の血を求めるのですね」

「うむ」

「私は出自の分からぬ身ではありますが、私の血に価値があるというのなら、王家のために協力いたします」

「感謝する」


「本当はボクと結婚してもらいたいところだけど、ハイエルフにすぐにできそうなのは子を授けることだけなのでしかたがないな」

「ええ、私が殿下の子を産めるようになるころには、殿下はいらっしゃらないかもしれませんしね…」


 まるで私が女の子とエッチするだけしか能がないみたいな言い方しやがって…。だから、イヤミで返してしまったよ…。


「このことは我々三人の秘密とする」

「わかりました」


 でも、次代の王候補にエルフ、っていうか女の子が混ざってたら、なんのこっちゃってなるのでは?まあ私は知らない。


「では、その時が来たらよろしく頼む」

「仰せつかりました」


 すごく事務的に種馬になれとの命を受けた。


 マシャレッリ家の夫婦はとても仲睦まじいし、ロビアンコ家は似たもの夫婦だった。アルカンジェリ家は奥さんの方が強そうだったな。フョードロヴナは旦那と奥さんのなれ合いを見なかったからよく分からない。私の見てきた貴族家では比較的気持ちの伴った夫婦が多かったのだけど、王家で子を残すというのは、有能な遺伝子を取り入れるための仕事のようなものなんだな…。だから嫁と執務官が一緒くたになっていて公私混同しているのか。


 ところで、エルフは女であると見せかけて、若い頃は男の役しか果たさない。次の次はエルフの女王なのかもしれないけど、十六歳で女王になろうと思ったら伴侶は女の子になるのだけど、そこのところ分かっているのかな。


 一難去ってまた一難だなぁ。面倒くさいことを全部抜きにして、お嫁さんたちとキャッキャうふふしながら歌手になる道はないものかなあ。




 私は毎日、魔力トレーニングの前に、お嫁さんたちにたくさんの魔法をかけて寝ている。怪我の治療、病気の治療、疲労回復、精神治療、安眠、ごく小さな虫を寄せつけない(除菌)、ごくごく小さな虫を寄せつけない(除ウィルス)、祝福(全般)、厄除け、健康祈願、変ロ長調の安眠、などなど。そのうち、聖魔法以外については自分にもかけている。


 お嫁さんたちは祝福に守られているので、お嫁さんたちに不幸な出来事が起こることはないだろう。でも、祝福を自分にかけることはできないので、私には不幸な出来事が起こる可能性がある。王家との婚約の問題は常に私を悩ませているけど、精神治療や安眠のおかげで冷静に考えることができている。


 精神治療は魔道具にもしてある。スヴェトラーナの胸に興奮して気絶してしまわないようにするためだ。だからといって、女の子の胸でまったく興奮しないなんて失礼なので、心拍数が九十五を超える極度の興奮に陥らないようにしているだけで、ある程度の興奮はするようにしてある。


 だけど今日はなんだか…。




★★★★★★

★ブリギッテ三十三歳



 ブリギッテは、ちょっと様子のおかしいユリアーナに疑念を抱いていた。


「ユリアーナ様…、始めてわたくしの胸に振れてくださいましたわね…」

「えっ…」


 スヴェトラーナ様はユリアーナが自分の胸を揉んでくれることに最上の喜びを感じているようだ。私も揉みたいなぁ。

 そうえばユリアーナはいつもスヴェトラーナ様と私の胸に埋もれているだけで、自分から手を出したのは今回が初めてだ。これはもしや…。


「もっと揉んでくださいまし…。ああん…」


 スヴェトラーナ様は自分の胸を揉んでいるユリアーナの右手を掴んで、ユリアーナが手を離せないようにした。ユリアーナも離すつもりはなく、そのまま揉み続けている。


「ずるい!私も!」


 マリアちゃんも負けじとユリアーナの左手を掴んで自分の胸に当てた。すると、ユリアーナはマリアの胸を揉み始めた。さらに、ユリアーナはマリアの方に寄っていき…


「はむっ」

「ああん…」


 うわっ、やっぱり!ユリアーナはマリアちゃんの耳を()んだ。マリアちゃんは気持ちよさそうだ。うらやましい…。


「あっ…、んん……」


 そのあとすかさず、ユリアーナはマリアちゃんの唇に自分の唇を重ねた。しまった!

 マリアちゃんは恍惚としている。


「ダメー!」


 私はユリアーナをマリアちゃんから引き剥がそうとした。だけど、ユリアーナは左手をマリアちゃんの胸から離して、私を振り払った。


「うわっ、いたた…。マレリーナ、筋力強化でユリアーナをマリアちゃんから引き離して」


 すごい馬鹿力…。私じゃかなわない。


「わかった」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 マレリーナがオルゴールで筋力強化を使うと、ユリアーナと力が拮抗し始めた。


「スヴェトラーナ様も離れて」

「邪魔しないでくださいまし!」

「スヴェトラーナ様、ユリアーナの子をもらっちゃうからダメ!」

「えっ…」

「これは、ユリアーナが子を授けられるようになったってことなんだ。でも学園を卒業するまでは我慢しなきゃいけないんでしょ!?」


 スヴェトラーナ様は、本当は子供をもらいたそうだったけど、理性でこらえたみたい。


 マレリーナがユリアーナを羽交い締めして、マリアちゃんから引き剥がした。そうしたら、ユリアーナは後ろを振り返って、


「んん…」

「んん…」


 ユリアーナはマレリーナに口づけしてしまった。まずいなぁ…。


「マリアちゃん、精神治療をお願い!」

「えっ、うん」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 解放されたマリアちゃんは耳を食まれたことも口づけされたこともとても気持ち良かったらしく、まだ顔を赤らめている。だけど、急いでユリアーナに精神治療をかけてもらった。


「あっ…、私、何を…」


 ユリアーナはハッと我に返り、マレリーナの唇から離れた。


「前にも言ったよね?ユリアーナは子を授けられるようになったみたいだよ」

「私…、耳を…」

「耳は気持ちいいけど耳じゃないってば!口づけだよ!」

「えっ…」


 ユリアーナはマリアちゃんとマレリーナの唇を見て、顔を赤らめた。


「私、もしかしてマリアちゃんとマレリナに胎ませちゃったの…?」

「口づけしたとき魔力を流したのをを覚えてる?」

「あっ…、うん…。たくさん、全属性流した…」

「マリアちゃんはまだ来てないから大丈夫じゃない?マレリーナはどうだろうねえ…」


 ユリアーナは青ざめている。


「ちぇー、ユリアーナの子供、欲しかったな!」

「だからまだダメなんでしょ!」


「私がユリアナの子を…」

「分からないよまだ」


 はぁ…。人間は面倒くさいな。なんであと三年も待たなきゃいけないんだ。みんなこれだけユリアーナの子を欲しがってるし、ユリアーナもみんなのことを好きでしかたがないのに、我慢しなきゃいけないんだね…。


「ほほう…、これがエルフの性行為なんですね…。興味深い…」


 セラフィーマは楽しそうだね。


「ねえ、私、まだ来てないから、ユリアーナと口づけしたいわ…」

「やめておきなよ。今来てないからって、明日来ないとも限らないんだから」

「残念ね…」


 アナスタシアが人間にしてもエルフにしても七歳くらいにしか見えないけど、本当は十三歳なんだ。

 っていうか、私もユリアーナ口づけしたいなぁ…。


「みんな聞いて!ユリアーナはこれから一年くらいこんな感じだから、一緒に寝たかったら誘惑しないように」

「しかたがありませんわね…」「残念だわ…」「ちぇー」「ぜひ食んでもらいたかったのですが…」


「ユリアーナは魔力を流さずに口づけできるようになるまで、口づけ禁止」

「はい…」


 ユリアーナは今目覚めたばかりで、口から無意識に魔力を流してしまっている。そのうち魔力を流すかどうかは自分で決められるようになるけど、一年間はダメだね。


「ねえ、私…、すでにもらっちゃったの?」

「まだ分からないよ。何日か様子見じゃない?」

「分かった…」


 マレリーナは不安そうな、でも嬉しいような雰囲気だ。そりゃ、いくら今はダメって言われても、ユリアーナの子をもらえたとしたら嬉しいよね。


 その日はみんな興奮してしまって、なかなか眠れなかった。




★★★★★★

★ユリアナ十三歳



 どうしよう…。まさかこんなに突然やってくるなんて…。っていうか、ブリギッテもおもしろがってないで口づけってハッキリ教えてくれればこんなことにはならなかったはず…。いや、私、無意識にマリアちゃんとマレリナに魔力を流していたし、教えてもらっていても同じ結果になったかな…。


 でもマレリナの生理は五日後にやってきた。よかった…。学生の身分で結婚したら、明らかにできちゃった婚だ。さもなければ、私とマレリナの子を「妾の子」扱いしなければならない。


 マレリナはちょっと残念そうだった。私の子を望んでくれるのは嬉しいけど、あと三年待たなきゃ…。学園の六年間は長いなぁ。授業スカスカだからその気になれば一年か二年で終わると思うけど…。


 何はともあれ、私は女として目覚める前に、まず男として目覚めたわけだ…。ハイエルフが女として目覚めるのは期待値で五十歳かな…。人間だったら閉経しちゃいそうな歳に初潮だなんて…。まあ、あくまで期待値だ。実際には十歳から九十歳くらいの間に来るみたい?


 口づけで妊娠しちゃうなんてちょっとロマンティックだけど、寝るときにみんなの顔が近すぎて唇を奪ってしまいたくなる…。私、キス魔になってしまった…。精神治療のブレスレットで心拍数を九十五に制限しているのだけど、それじゃダメらしい。八十まで制限する設定に変えたら、どうにか我慢できるようになった…。


 とりあえず、王との約束は果たせそうだ。でも、卒業してからね。初めての子はやっぱり大事なお嫁さんにあげたい。でも、六人のうち誰にあげよう…。やばい…、喧嘩になりそう…。正室にあげればいいのだろうけど、正室を誰にするか決められない…。互いを推薦しているスヴェトラーナとアナスタシア、立候補しているマリアちゃん、何番目でもいいセラフィーマとブリギッテ、遠慮がちなマレリナ。決められない…。




 なんだかんだいって四年生の前期がそろそろ終わるのだけど、娯楽・芸術音楽の授業はみんな、上の空とまではいわないけど、私のことを気にしていて授業に身が入ってない。おかげで、今回は一曲を完成させられなかったのだ。なので、少し前からお花の歌を復習し始めて、お花の歌で試験をすることにした。でも前回の方が上手だったなぁ…。今回は身が入ってない人には悪いけど、低い点数を付けさせてもらおう…。その原因が私ってのもなんだけど…。いや、私じゃないし…。恋煩いで勉強に身が入ってないみんなが悪いのだ。女子も男子も。


 そして、その他の試験を終えて、私たちはマシャレッリ領に帰ることになった。馬車を使わずに新しく作った転移ゲートの魔道具を使った。この魔道具の空間の魔石に充電しているのは私だから、私がゲートを開くのと変わらないと思ったら大間違いで、行き先を魔方陣で詳しく指定している分、魔力の効率がいいのだ。もちろん、私が自分でマシャレッリ領の転移魔道具のある部屋とかいうメロディを口ずさめば同じ効果が得られる。ただ、めちゃくちゃ長い。覚えるのは簡単だけど、口ずさんだら三分くらいかかる。


 ちなみにワープゲートを出現する場所はどこでもよいが、突然ゲートが現れたらびっくりするので、王都邸の転移ゲートはマシャレッリの屋敷の転移ゲートを設置した部屋にワープゲートを開くようになっているし、逆も同じようになっている。


「ユリアーナぁ、待ってたのよ~」

「お母様どうなさいました?」


 転移ゲートの魔道具で泥棒でも来たら困るので、ワープゲートを発動すると屋敷中でチャイムが鳴るようになっている。それを聞きつけてやってきたタチアーナがバタバタと足音を立てながらやってきた。ヒールを履いた奥様の足音ではないし、屋敷には蜘蛛の糸の絨毯を敷いてあるのに、おてんばな奥様だなぁ。 


「ハンターで手に負えない魔物が現れたのよぉ」

「よく現れますね」

「こんなものよぉ」


「「お母様、ただいま戻りました」」(マレリナとアナスタシア)

「タチお母様、ごきげんよう」(セラフィーマ)

「タチアーナお母様、ごきげんよう。お世話になりますわ」(スヴェトラーナ)

「タチアーナお母さん、ただいま!」(マリア)

「タチアーナお母様、ごきげんよう」(ブリギッテ)


 みんなタチアーナのことをすでにお母様なんて呼んじゃって…。すっかり結婚した気になっているけど、まだ一線を越えちゃいけないんだ。私がどれだけ我慢してると思ってるんだ。


「バタバタしちゃってごめんなさいねぇ。みんなもお願いね~」

「「「「「はい!」」」」」「うん!」


 まだワープゲートが開きっぱなしでメイドが荷物を運んだりしているというのに、私たちは魔物討伐に向かうことになった。メイドに転移ゲートの魔道具の操作を教えて、私とお嫁さん六人、マシャレッリ夫婦は馬車に乗り込んだ。御者はニコライだ。


 いつもどおり現場の近くまで馬車で移動した。しばらく歩いていると、私の地獄耳がズシン、ズシンという足音を捉えた。


「あちらから二足歩行の魔物が四体接近してきます」

「さすがだな。まだ私には聞こえないが、おまえなら聞こえるのであろうな」


 セルーゲイから「さすが」いただきました。


 数分したらみんなにも聞こえてきたようだ。その前に、地面に震動が伝わってきた。相当でかそうだ…。それが四体か…。

 と思ったら、姿を現したのは三メートルのガラスの巨人。三メートルは今まで見た魔物としては標準的だ。だけど、とても重そうだ。だから私は足音で大きいと勘違いしてしまったが、実際は重いだけだった。


 ヒト型をしており、心臓のあたりに白く光る玉…核がある。明らかに弱点っぽい!それ以外の部分はほぼ透明で何もない。だけど、胸板は厚く、並大抵の武器では弱点に届かなそうだ。


 こんな無機物みたいな魔物がいるとは…。とてもファンタジーだ。


「ゴーレムだ。私は手出しできん」


 ガラスのゴーレム…。ハンターの武器やセルーゲイのかまいたちでは刃が立たないのであれば、とても堅いということか。クリスタルゴーレムってところだろう。本物の水晶かどうか知らないけど。だって、関節とか人のように動くし。球体関節とかじゃないんだよ。どうなってるのこれ。


「うふふ。スヴェトラーナちゃん、行くわよ~」

「お任せください!、タチアーナお母様」


 この人選は火魔法使いってことだな。


「ブリギッテ嬢は壁でタチアーナたちを守ってくれ」

「はい!」


 ブリギッテはオルゴールで土壁を作成した。タチアーナとスヴェトラーナが敵を狙いやすいように、小さな穴が開いている。私はふんふんと土壁に物質硬化をかけた。


「セラフィーマ嬢とマレリーナとユリアーナはゴーレムが壁を越えてきたら、皆を守ってくれ」

「「「はい」」」

「防護強化を忘れずにな」


 今回は倒し方が分かっているからセルーゲイが指揮するみたいだな。でも打撃しかできないマレリナと違って、私は飛び道具も持ってるんだけどな。


 セラフィーマとマレリナはオルゴールで、私は鼻歌で、自分に筋力強化と防護強化をかけた。それから、私は全員に防護強化をかけた。


 それから、私は辺りの木に「木を操る」をかけて、ゴーレムと戦うように命じた。あまり複雑なことを命令できないのだけど、「戦う」はプリセットされているようだ。基本は敵を殴ったり蔓を巻き付けて拘束したりする。敵の攻撃を避けることはあまりない。クリスタルゴーレムにどこまで通用するか分からないけど、壁に到達するまでの足止めくらいはできるだろう。あまり密集させても意味がないからゴーレム一体に付き三体の木のお化けを作成した。やられたら随時投入すればよい。やり過ぎると森が禿げそう。


「おおお…、木が動き出した…」

「お父様、あれは私の木魔法です。足止めしてくれます」

「なるほど!」


 みんなお化けの木に驚いてしまった。


「マリアちゃんにはこれ」

「これはなあに?」

「敵どうしが戦うように仕向ける洗脳」

「やってみる!」


 戦意喪失だけでは能がないので、仲間割れをするメロディカートリッジを作ってみた。ただの洗脳じゃなくて、具体的に仲間割れとか、同族を攻撃するとかいうメロディを組み込んであって、それに具体的な相手のイメージを付加することで、うまく機能するようになっている。もちろん、魔法の基本的なことだが、近づいてくれないとうまく効果を発揮しない。


「私はどうしたらいいかしら」

「お姉様は…」


 セルーゲイはゴーレムの倒し方を知っていて火魔法をぶつけるみたいだ。水や冷却と相性が悪そうだ…。


「ごめんなさい、お父様がどのように戦うのか分からないので様子見で…」

「分かったわ…」


 活躍できないのは残念だよね…。しょぼんとしているアナスタシアが年相応で可愛い…。



 木のお化けはゴーレムに殴られてバキバキと折れてしまっているけど、うまく足止めをしてくれている。


 タチアーナとスヴェトラーナが壁の穴から一体のゴーレムの二の腕めがけて火の玉を発射しまくっている。オルゴールのぜんまいも何度巻いたことやら。火縄銃みたいに射撃手と装填要員を分けられればいいのだけど、自分の労力で巻いたオルゴールじゃないと魔法を撃てないからね。


 二人の攻撃により、だんだんとゴーレムの二の腕がわずかに溶けてきて、形が崩れてきた。二の腕はだんだんと細くなって、糸のような細さになったときにぐにょっと曲がった。あんなに細くなっても重そうな腕を支えられるほどの堅さがあるなんて、素材としてすごく良いんじゃない!?


 本当に、魔物って食材や建材としてとても優秀なものばかりなのだけど、魔物を倒す貴族にそういう視点がないから活用されることがなくて、ただの脅威でしかないんだろうねえ。あ、少なくともエルフは魔物を食材として活用してるか。


 このゴーレムはどうやって繁殖するのだろう?そんなことを考えている場合じゃなかった。

 タチアーナとスヴェトラーナの放った火の玉を当てたゴーレムの周りにいた木のお化けに燃え移り、三体の木のお化けを焼き尽くしてしまった。私は慌てて周囲の木に「木を操る」を口ずさんだけど、木のお化けがゴーレムの元に駆けつける前に、阻むもののいなくなったゴーレムは火の玉を飛ばしてきたスヴェトラーナたちのほうにターゲットを替えて向かってきた。


 ゴーレムが向かってくる際、二の腕のちぎれたところから五秒ほどかかって腕がにょーんと生えてきた…。無限再生?無限の素材!素晴らしい!


「腕が生えてきましたわ!これでは倒せませんわ!」

「ひるむな!身を削り続ければ、身体が小さくなって、いずれ核が出てくる!」

「分かりましたわ」


「そうよ~、頑張って!スヴェトラーナちゃん!」

「はい!」

「今度は脚にしましょ~」

「はい!」


 スヴェトラーナはセルーゲイの一喝とタチアーナのおっとりとした応援により、向かってくるゴーレムの右足に火の玉を発射し始めた。

 なるほど、無限再生じゃなくて、身体の一部を使って再生したのか。



 タチアーナとスヴェトラーナの火の玉により、向かってきたゴーレムの右脚はだんだん細くなってきて、そして糸のようになったところでぐねっと曲がった。そして、五秒ほどで再生して動き始めた。たしかに削られた分小さくなっているようだ。


 しかし、ゴーレムは絡まる木のお化けの根や蔓に制止されることなく、だんだん近づいてきた。マリアちゃんは、私が以前渡したレーザー銃でゴーレムを撃っている。しかし、レーザー光はゴーレムの身体を素通りしてしまった。レーザー光が吸収されない素材か…。そこで、マリアちゃんがオルゴールで仲間割れ魔法を奏でた。


「止まんないよぉ!」


 ゴーレムは止まらなかった。無機物っぽいから、洗脳は効かないのかな…。


 ついに壁に到達。ゴーレムはガン、ガンと壁を殴り始めた。物質硬化をかけているにもかかわらず、すぐにひびが入った。


 壁のすぐ裏にいたタチアーナとスヴェトラーナは退いた。私は土壁と物質硬化を口ずさんで、ブリギッテの作った壁の裏側にもう一枚の壁を追加した。

 ブリギッテの作った壁はあっという間に割れてしまった。ゴーレムはそのまま、私の作った壁を叩き始めた。


 マレリナとセラフィーマがジャンプで壁を飛び越えて、壁の外に出た。私も同じく壁の外に出た。

 スヴェトラーナたちが火の玉を撃っている側は熱いので、私たち三人は反対側に回った。


 マレリナのパンチ!


「いったあああああぃ…」


 これは人の素手でどうにかなるようなものでは…。

 マレリナはもう一方の手で治療のオルゴールを奏でたようだ。


 今度はセラフィーマがレーザーソードの魔道具でクリスタルゴーレムの左足を切りつけた。


「あれ?!なぜですかああ?!」


 しかし、光の刃はゴーレムの身体を素通りしてしまった。マリアちゃんのレーザー銃も素通りしたしね…。


 左脚の側にいるセラフィーマにゴーレムが拳を降ろした。私はセラフィーマのところに駆けつけて、手を上に伸ばして拳を受けた。重い!


「セラフィーマ!逃げて!」

「はっ、はい!」


 腕が折れそう…。脚も折れそう…。防護強化をかけててもミシミシいってる…。私はふんふんと短距離瞬間移動を口ずさんで、ゴーレムの裏側に待避した。そして、自分に「骨」を「治療」を口ずさんだ。


 その間もタチアーナとスヴェトラーナがゴーレムの脚に火の玉を当てていた。ようやく右脚が糸のように細くなり、体重を支えられなくなりぐにょっと曲がった。そして、五秒で復活。また一回り小さくなった。


 右足が復活している間には、タチアーナとスヴェトラーナが左足に火の玉を当てていた。


 結局温めて溶かすしかないのか。私は土壁と物質硬化を口ずさみ、ゴーレムを建物で覆った。建物には小さな穴を開けてあり、ここから火の玉を投げ込めるようになっている。私の意図に気が付いたのか、タチアーナとスヴェトラーナは穴からぼんぼんと火の玉を投げ込んでいる。


 ガンガンと壁を壊そうとしているゴーレム。


「お父様、渡してあった『酸素の風』を建物に打ち込んでください」

「よく分からないが…、こうか!」


 セルーゲイがオルゴールで酸素の風を建物の穴から送り込むと、建物内の炎がごおおといっそう強くなった。


「火が強くなったぞ…」

「お父様の風がお母様の炎を強くするのです。お父様はお母様の最高のパートナーなんです」

「よせ、こんなときに…」


 顔を赤らめちゃって、むふふ。


 やがて、ガンガンと壁を叩く音が、コンコンと軽い音に変わっていき、ついに音が鳴らなくなった。


 私が土壁の魔法を解いて土壁を崩すと、白い光を放つ核があった。


「これを壊せば終わりだ。早くしないと周囲の溶けたゴーレムの身体を吸って再生するぞ」

「お父様、これ、ください」

「また育てるのか…」

「はい!」


 私は異次元収納にゴーレムの核を入れた。


「おい、まだ残っているのだぞ」

「はい。同じ方法でたたみかけましょう」



 私は残っているゴーレム三体の周りに土魔法で壁を作り、物質硬化をかけた。

 そして、タチアーナとスヴェトラーナが火の玉を投げ込みまくる。さらに、セルーゲイが酸素を送り込む。


「お姉様、厨房にある油というものを知ってるかしら」

「私だってそれくらい知ってるわよ。もう」

「ではこれを差し上げます。あの建物の中に、油を生成してください」

「分かったわ!」


 暇そうにしているアナスタシアに、「燃える」「水」のメロディカートリッジを渡した。油というメロディはなかったのだけど、燃える水で油をイメージしたら油を生成できたのだ。水だって無から生成できるのだから、この世界の魔法は材料がなくてもなんでも生成できるに違いないと思ったらできた。


 イメージがけっこう重要で、イメージ次第でエタノールでもガソリンでもできてしまうようだ。もちろん、イメージに頼っている分、魔力消費が大きいし、魔方陣では物質の特定不能により実現できなかった。


 アナスタシアがオルゴールのカートリッジを入れ替えてぴぴぴぴんと鳴らすと、建物が爆発して砕け散ってしまった。あとにはゴーレムの核も残っておらず、液状化したクリスタルが水たまりのようになっていた。


「やったわ!」


 あらま。二体いないと交配できないじゃんか。

 

「あらぁ、アナスタシア、すごいわね~」

「うふふっ」


 タチアーナはアナスタシアを抱きしめて褒めまくる。アナスタシアはとても嬉しそうだ。お母さんの役に立てたんだもんね。


 それに対して、なんだか不満そうなセルーゲイ。そこにタチアーナは…


「あなたもすごかったわぁ!私の火の玉があんなに強くなるなんて!」

「お、おい、娘たちが見ている場で…」


 今度はセルーゲイを抱きしめて、き、ききき、キスしてる!私もアナスタシアにキスしたい!って、今はまだダメなんだった…。

 セルーゲイは言葉では拒否していながら、顔を赤らめて明らかに喜んでいる。男のツンデレって誰得?人間の女性ならそれが分かるのだろうか。女といってもエルフの私にはその価値が分からない。もちろん、薫の記憶に聞いても分からない。


「美しい家族愛ですわ」


 スヴェトラーナがマシャレッリ親子を見て和んでいる。やはり、王族や上位貴族になるほど、結婚や家族というのは事務的なものなのかもしれない。そんな上位貴族のスヴェトラーナに、早く私の愛を届けたい…。



 とりあえず、水たまりのような形のまま固まったクリスタルゴーレムを、ゴーレムの核とは別の異次元収納に入れて持って帰ることにした。核のほうはいまだに光を放っている。


 今回は、スタンピードではなかったようだ。堅すぎて物理的な武器では刃が立たない魔物だったので、ハンターギルドから当主への出動要請が来たようだ。


 それにしても、貴族というのも楽じゃないね。魔法を使って魔物の脅威から領地と領民を守るのがこの世界の貴族なんだ。




 屋敷の裏の地下で、持って帰ってきたゴーレムの核とクリスタルの水たまりを解析することに。


「それを持って帰ってきたんですね!さすがユリちゃんです!」

「セラフィーマも分かるでしょ。魔物は美味しい食べ物にも便利な魔道具にもなる素材だってことが」

「はい!私のお父様とお母様にも教えてあげないといけませんね」


 まずはゴーレムの核。核はクリスタルの外装が全部溶けて、丸出しになっていたはずなのだけど、異次元収納に入れているあいだに、クリスタルに包まれていた。この状態で、しかも素材なしで自動再生する機能もあるの?


 そのかわりに、核の光は弱まっていて、球体に模様が描いてあるのが見えてきた。模様じゃない、魔方陣だ!球面の至る所に小さな同心円が描いてある。これは無数の魔方陣を描いた土の魔石だ。

 しかも、知らない単語がいっぱい!頻繁に使われているフレーズは、クリスタルの素材のことだろう。全部土魔法だ。周囲にクリスタルがあれば吸いとって自分の糧にするとか、なくなったら少しずつ生成するとか、再生機能に関するプログラムとか、人型を作って生き物を攻撃するプログラムとか。これはロボットのプログラムだ。ゴーレムは戦闘用の人型魔道具なんだ!


 セラフィーマも大量に描かれた魔方陣に目を丸くしている。これを解析すれば語彙が広がって、また新しい魔法を作れるぞ!それに、プログラムのしかたも参考になる。とはいえ、細かくてたくさんの魔方陣を描くのは大変だ。この規模になると、設計図、いや、クラス図とかシーケンス図とかを描かないと厳しい。ロボットプログラムを手続き型言語っぽい魔方陣だけで描くのは鬼畜の所業だ。


 どうやら魔石の魔力が尽きつつあって、これ以上は再生できないらしい。ひとまず、攻撃的なプログラムになっている魔方陣を紙に書き写したあと、魔石に描いてある魔方陣の方に傷を付けて、機能しないようにした。生成とか集めるとかだけ残した。そして、魔石に土の魔力を注ぐと、核の周りにクリスタルを生成し始めた。これだと、攻撃的な魔方陣がまだ残っていた場合に対処できなくなってしまうので、周囲を囲うように生成するところを、片側だけに生成するように書き換えた。


 このゴーレムには、自己修復だけじゃなくて、自分と同じ魔方陣を魔石に書き記すという、自己複製機能が備わっていた。オートマータという感じだ。すごいな…。つがいがいなくても繁殖できるよ…。複製の機能についてはちょっと考え直さないと…。


 現在に伝わる魔法や魔方陣は、誰が作ったのか分からないという。この魔方陣も大昔の誰かが作った遺産なのだろうか。

 とりあえず、すぐに分かりそうな魔方陣は頭の中で口ずさんで、音として覚えた。あとはぼちぼち解析していこう。



 一方で、水たまり状のクリスタルについては、核に描いてあった魔方陣を参考に、まず「クリスタル」を「腕の形」や「脚の形」に「整形」するとか口ずさんでを試してみた。すると、熱することなく思った通りの形になった。ただし、自分からちょっと離れると効率が極端に落ちてしまうから、敵のクリスタルゴーレムの形状を変えるような使い方は難しい。

 熱して糸ほどの細さになるまで曲がらないほど堅い素材なので、「クリスタル」を「すごく」「薄く」て「長い」「棒状」に「整形」して剣にしてみた。クリスタルソードとか中二病っぽくて素晴らしい!


「ユリちゃん、それはすごい武器ですね!」


 私が土壁を生成して、それをクリスタルソードで豆腐のように切っていたら、セラフィーマが感動していた。


「明らかに鉄より堅いしね」


 整形のときに、メロディである程度形を指定しないと、魔力消費が高すぎて整形できない。核の魔道具を改造して、魔力を充電すると素材を生成するだけの機能しよう。あとは土魔法使いのスタッフに形状のメロディを覚えさせて、完成図も渡してイメージしやすいようにしよう。


 たくさん確保してある土木作業員の土魔法使いスタッフをクリスタル加工業に回そう。魔力の芽生えた領民を鍛えて、将来魔法使う職業に就かせるのもいいね。


 ちょっと重いのが難点だけど、鉄ほど重くないし、透明で堅い素材はとても有用だ。領地の新しい産業になるぞ!


 武器が透明である意味はあまりないけど…、鎧なら…。シースルーの鎧…。素晴らしい…。

 じゃなかった。ガラス窓とかガラス瓶とか、生活に取り入れたいものをたくさん作ろう。


 ガラス製品で革命を起こすのは転生者の嗜みだ。また一つ転生者の嗜みが増えた。



「クリスタルの…薄い板を何に使うんですか?」

「こうやってぇ、木枠にはめてぇ」


 切り目を入れた木枠にクリスタルをはめて、ちょうつがいを付けたらガラス窓のできあがり。このクリスタルは比重が高いけど、頑丈なので極端に薄くすればそれなりに軽い。



 それから、もう一つガラス窓と同じものを作って、今度はガラスの裏に鉄板も挟みこんだ。


「こんなにはっきり見える鏡は初めてです!」

「でしょー」


 セラフィーマははっきり見える鏡で初めて自分の顔を見たのだと思うけど、自分の顔には興味がなく、鏡の仕組みに見入っているようだ。さすが残念美人だ。


 そして、私はこの世界で初めて、はっきりと自分の顔を見ることができた。


「ユリちゃん、自分に見入ってますね」

「そ、そそそ、そんなことないよ」


 いや…たしかに…、なかなか可愛いかも…。あいかわらず十歳並の身長と童顔さだけど、胸もお尻も大人っぽくなってきた…。脚も長いし、日本人じゃあり得ない体形だなぁ。それに、肌、白いなぁ。今でこそほとんど室内で過ごしているけど、原始人をやっていたころは日が出ている間はほとんど外にいたのに。

 この国は年がら年中温暖だけど、日差しが強いわけではない。夏と冬の地軸の傾きに地球よりも差がないのかもしれない。日本では夏に南風、冬に北風が吹くけど、この国では逆のような気もする。


「ユリちゃんは美しいですからね」

「えっ」


 私としては、美しいよりは可愛いだと思うのだけど。私の翻訳がおかしいのかな。声だって可愛いアニメ声なのに、みんな綺麗な声だというし。


 でもまあ、美しいと言われて悪い気はしない。でも可愛さでいったらアナスタシアとマリアちゃんのが上だし、美しさでいったら断然スヴェトラーナの方が上だ。ブリギッテも綺麗だと思う。私は薫の感性を引き継いでいるわけだけど、それが悪さをして可愛いと綺麗の解釈を間違っているのだろうか。




 地下を出て、私たちの部屋に戻った。そして、もともと付いていた木の窓を外して、ガラス窓を取り付けた。


「これは部屋が明るくなりますね!」


 しかし、ガラス窓を付けたはいいけど、これじゃ私たちが毎晩エッチしてるのが外から丸見えじゃないか。って、私はまだエッチしてないよ!でも着替えとか見られそう。私は慌ててカーテンレールを作って、蜘蛛の糸の生地で薄いレースのカーテンを、厚手の遮光カーテンを作った。


「お部屋が華やかになりましたわ!」


 カーテンも新しい産業になりそうだ。


 馬車にもガラス窓とカーテンを取り付けた。


「しかし、ユリアナはよく思いつくね」

「えっと、それは、魔物を見たらインスピレーションがね」

「あいかわらずユリアナの頭の中は不思議だね」

「照れる」


 完成図があるからね。そして、それを自分で思いついたように言うのは転生者の嗜みだし。


 それから鏡を設置した。


「まああぁ~!なんと綺麗に映る鏡なのでしょう!職人のどれだけ磨かせても、これほどの鏡にはなりませんわ!」


 スヴェトラーナもぼやけない高反射率の鏡に感動している。胸を強調したり、お尻を突き出したり、男が喜ぶようなポーズをスヴェトラーナは本能的に知っているようだ。

 だけど、今の私はブレスレットの閾値を下げているので、心拍数が八〇以上にはならないようになっている。いつもだったらもっと興奮していて思考力が低下しているのに、今はたいして低下していない。それが寂しくもある。

 代わりにブリギッテが思考力の低下しきっただらしない顔をしているのであった。いいなぁ。


「私にも見せて!」


 鏡に食いついて離さないスヴェトラーナに、マリアちゃんが対抗。




 ところで、半年前に倒したドラゴンの素材だけど、屋敷の裏の地下室の肥やしになっている。レーザーを素通ししてしまうクリスタルとは打って変わって、ドラゴンのうろこはレーザーでも貫けない。明らかに強力な武器や鎧を作れそうなのだけど、今のところ戦力にそれほど困っているわけでもない。それに、今は領地の発展のために継続的に確保できるようなものが欲しい。三〇メートルの巨体を覆ううろこなので、量としてはかなりあるのだけど、建材にしてしまったらあっという間になくなってしまうし、何に使おうかなぁ。


「というわけなので、今回のお休みでは素材探索ツアーをします!」


「何が『というわけ』なのか分からないけど…」

「うふふ、ユリアーナはいつも楽しそうね」


 マレリナはあきれ気味。アナスタシアは、小さい子がおもちゃを見つけてはしゃいでいるのを微笑ましく見ているような感じ。直接言われたわけじゃないけど、アナスタシアに小さい子だと思われてしまった…。たしかに小さいときには大人だと思われるけど、大きくなるにつれて逆に子供っぽく見られるのは転生者の嗜みだけど…。


「私はユリアーナについて行くよ」

「私もユリアーナと一緒にいられればなんでもいいよ!」


 ブリギッテとマリアちゃんは、私といたい派。


「ユリアーナ様が次々に生み出す商品には目を見張るものがありますものね。期待していますわ!」

「私もユリちゃんのように発明できるようになります!」


 スヴェトラーナは文化の発展に興味があり、セラフィーマは研究そのものに興味がある。


 というわけで、一〇〇キロ圏内で、まず私が飛行と短距離瞬間移動で魔物の生息地を探す。そして、ある程度魔物がいそうな場所を見つけたら、ワープゲートを開いてみんなを連れてくる。これで魔力消費五割くらいだ。これ以上消費すると、いざ強敵が現れたとき対処できない。


 みんなでわいわいと魔物狩りして、素材になる魔物や、魔物が守っていた植物で有用なものがかなり集まった。


 喫茶店関連では、カカオ豆、コーヒー豆、茶の木、バニラエッセンス、サトウキビを見つけた。これで、チョコ、ココア、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶を作れるようになった。それから、今まで抜け味だったホイップクリーム自体を甘くして、バニラの香りでいっそう美味しくできるようになった。


 砂糖を作れるようになったので、卵からカスタードクリームを作ったりして、スイーツ関連の大幅強化を図った。

 それから、牛乳からチーズやバターを作ったりもした。ちなみに、チーズに必要な菌はミノタウロスが持っていた。日本人ウケする臭くないチーズができてしまったのだ。まあ、この世界にはもともとチーズそのものがなかったけど。


 その他の食品関連では、胡椒、唐辛子を発見した。香辛料というのは、動物に食べられないように進化したものだった気がするけど、なぜか魔物が大事そうに守っていた。魔力がこもっていれば美味しいのだろうか。

 それから見つけた香辛料は、クミン、コリアンダー、シナモン、 クローブ、ナツメグ、オールスパイス、ローレル、ガーリック、カルダモン。魔物の森にカレーを作れと言われてしまった。

 香辛料で儲けるのは転生者の嗜みだ。私が出歩いて発見できたのは必然といえよう。


 それから大豆を見つけたので豆腐と醤油、味噌を作った。というか、大豆を守っていた狸のような魔物を一緒に育てたら、醤油や味噌が勝手にできていたのだ。狸の魔物が発酵に必要な菌を持っているに違いない。醤油や味噌を再現するのも転生者の嗜みだ。


 そして、米を見つけてしまった。もちろん白米としていただいたし、日本酒も造った。私は前世の味を思い出し、涙したのだけど、みんなに白米はウケなかった。これも転生者の嗜みだ…。


 魔物の森には、ちょっと出歩くだけで食材がたくさん見つかるじゃないか!もちろん、強力な魔物がたくさんいるから、ハンターでもなければおいそれと森には入れないし、ハンターは魔物の守っていた植物を育てる魔法も持っていない。


 今年は新しい作物が目白押しだ。財力だけなら侯爵家の上位に入れるだろう。


 マシャレッリ周辺だけでこれだけ見つかるのだから、他の領地にも冒険に行ってみたいな。素材集めで魔物を倒しにいくのは私だけのようだ。

 この世界のハンターは魔物を減らすのが主な仕事で、肉を売って儲けられるのはつのウサギとか弱い魔物くらいのものだ。手練れになるとオークで儲けているパーティもあるらしいが。

★ユリアーナと婚約者

 とくに記載のないかぎり十二歳から十三歳へ。女子の身長はマレリナと同じくらい。


■ユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■マレリーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一五三~一五五センチ。(一年間で五センチ成長)

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■アナスタシア・マシャレッリ伯爵令嬢

 若干青紫気味の青髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二二~一二三センチ。ぺったんこ。

 口調はお嬢様言葉。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三二~一三三センチ。ぺったんこ。

 口調はほぼ平民言葉。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。

 身長一五八~一六〇センチ。(マレリナ+五センチ)

 口調はですわますわ調。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。

 口調はですます調。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十二~三十三歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。

 身長一六二~一六三センチ。(一年間で一センチ成長)

 エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。

 口調は平民言葉。



★クラスメイト


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子

 黄色髪。


■エンマ・スポレティーニ子爵令嬢

 薄い水色髪。実子。


■パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢

 水色髪。



★マシャレッリ伯爵家


■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(六~七歳)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★ユリアナと婚約者の家族


■ナタシア

 ユリアナの育ての親。


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十一歳)

 黄緑髪。


■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵

 セラフィーマの父。オレンジ髪。


■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人

 セラフィーマの母。レモンイエロー髪。


■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵

 淡い黄色髪。ブリギッテの養父。


■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人

 淡い水色髪。ブリギッテの養母。


■ジュリクス・ジェルミーニ男爵

 ピンク髪。マリアの養父。独身。



★その他


■ニーナ

 成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。

 十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。


■アブドゥルラシド・ローゼンダール王(二十九歳)

 空色の髪。


■ヴァレンティーナ・ローゼンダール第一王妃(二十九歳)

 明るい青の髪。


■アルフレート(六十歳くらい)

 マシャレッリ領都の神父。


■ハンス

 マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。

 兼教会の木琴教師。



◆花が咲いた、綺麗だわ♪

 日本で聴いた童謡(架空)。二十四小節。


◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□□□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

   ⑩③

    S


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領

 ⑩巨大ミツバチの巣(国外)


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。


◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□⑨■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□⑥□□②■

 ■□⑤□③□■□□⑧

 ■■■□■■■□□⑧

 □□□□□⑦□□□⑧

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁


◆座席表

  ス□□□□□

  ヴ□□□□②

  □□□□□①

前 □□□ブ□③

  ア□□□□④

  □□□パ□エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1、②エンマの下僕2

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1、④=パオノーラの下僕2


◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

変ト長調?、変ホ短調?:邪、不幸、呪い、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金



※9/10 ハープボウの弦の数がおかしかったので修正。オクターブと加速の関係がおかしかったので修正。時魔法に関する説明を追加。

※9/13 闇魔法→邪魔法。その他誤字修正。

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