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8 再会

★転生六年目、秋冬、学園三年生の後期、冬休み

★ユリアナ十二歳




 冬も近くなり寒くなってきたある週末の夜。


「お父様、長旅お疲れ様です」


「いや、おまえの作った馬車のおかげで二日しかかからなかったし、尻もいたくならなかったぞ」

「そうね~。快適だったわぁ」

「ユリアーナお姉様、お元気でしたか」


 社交シーズン到来ということで、家族が王都にやってきた。

 私たち三人は学園の休日の前日に王都邸に赴き、セルーゲイとタチアーナ、エッツィオくんを出迎えた。

 もちろんマリアちゃんも連れてきた。一応手紙で婚約の体は整えてあるので。


 御者はデニス、護衛はニコライ、メイドはアンナ。ってマシャレッリ領の屋敷に誰もいなくなってしまうので、こちらのスタッフをあらかじめ五人送っておいたよ…。っていうか、伯爵家の使用人が三人ってダメでしょう。このまま五人はマシャレッリ領で働いてもらうことにして、王都では新たに使用人を雇うことにしたよ。


 社交シーズンは、去年も一昨年もあったらしいのだけど、マシャレッリ家は数年前から財政難で参加していなかった。だけど、一昨年には財政的には問題なくなっていたから、たんに使用人が少なすぎて家を空けられないのが問題だったのでは?


「ごきげんよう、お父様、お母様、エッツィオ」


「大きくなったな、アナスタシア」

「カーテシーが上手になったわね~」

「お帰りなさい、アナスタシアお姉様」


 アナスタシアはリハビリスーツを着ている。今まで脚を交差させて少しかがむというのができなかったけど、スーツのおかげでできるようになったのだ。もちろん、頑張りすぎると翌日油の切れた機械のようにぎいいと音を立てそうなほど筋肉痛になる。


 アナスタシアの筋肉はなかなか付かないのだけど、私がもっと具体的に祝福してあげないといけないだろうか。村にいるときはマレリナの野草がいっぱい取れますようにと毎日願ったものだけど、神父様には祝福の威力を抑えろと言われたから、アナスタシアの病気が治るように祈ったのを最後にあまり具体的なことを祈っていない。


 それにしても、アナスタシアは半年で一センチも大きくなってないと思うけど、両親は毎回「大きくなったな」って言うんだよな。まあ、もう見られないと思っていた娘の成長が見られてるんだから、ほんの少しでも嬉しいんだろう。


「ごきげんよう」


「マレリーナ、いつもアナスタシアを支えてくれてありがとうね~」

「いつもすまないな、マレリーナ」

「お帰りなさい、マレリーナお姉様」


「ごきげんよう、お世話になります」


「マリアちゃんもよろしくね~」

「久しぶりだな、マリア嬢」

「こんばんは、マリア様」



「お母様、これね、私が授業作ったのよ」

「何かしらぁ」

「下に手をかざしてみて」

「こう?ひゃっ」


 王都邸にはアナスタシアの作った自動水栓付きの洗面所がある。タチアーナが手をかざすと水が出てきてびっくりしたようだ。


「これは便利ね~」

「うふふ」


 工作をお母さんに見てもらって自慢げな小学一年生のアナスタシア、マジ可愛い…。


「これがユリアーナの立てた屋敷なのね~!」


 アナスタシアが自動水栓を完成させたあとに、私の作った自動水栓を他のところにも普通に設置した。実は、水を流して手を洗うだけじゃなくて、セラフィーマに作らせた抗菌・抗ウィルス機能も付いていたりする。もちろん、アナスタシアの努力を踏みにじらないために、そういうことは言っていない。

 自動水栓以外の魔道具はマシャレッリ領の屋敷にも設置してある。だけど、王都邸には蜘蛛の糸の生地を使った絨毯と壁紙を使ってあり、木壁がむき出しの他の屋敷とは一線を画する華やかさがあるのだ。


 夕食のラインナップは領地とあまりかわらない。どちらも育ててるものが同じだから。

 お風呂にはシャワーヘッドとかあったりするけど、基本的には同じだ。


 その日は私たち四人も王都邸に泊まった。家族も王都邸に来たことだし、アナスタシアもリハビリスーツで動けるようになったから、王都邸で暮らすのもいいかもね。何より部屋が広いし…。ベッドも大きいし、ふかふかだし。それなのに、私たち四人は私を中心に密集して寝るのであった。



 翌日、


「ユリアーナぁ。できてるかしらぁ?」

「もちろんです」


 私がデザインして、私の仕立屋で作らせた、蜘蛛の糸の生地のドレス。この日のためにあつらえた。


「素敵ぃ!」


 蜘蛛の糸は頑丈なので、水分の抜き方次第で立体的なデザインを作るのも簡単。パニエのようにふわっと膨らませるのもお手の物。

 まるで花のように可憐なタチアーナに、私は惚れてしまいそう。


「おい、ユリアーナ!タチアーナはやらんぞ」

「はっ」


 危ない危ない。


 そして、セルーゲイも蜘蛛の糸の生地を使った衣装でバッチリ決めている。


 さらに…、


「ユリアーナ、綺麗だね」

「良いわね~、私もそんなドレスを着たいわぁ」


 私はマシャレッリ家の第一継承者になったので、社交界でお披露目されることになったのだ。マレリナとアナスタシアはお留守番だ。

 いや、別に社交界は第一継承者じゃないと出られないというわけではなく、男と女が出会う場所であり、貴族当主どうしで派閥を組んだり商談をしたりする場所なのである。


 私もタチアーナと同じように、スカートがぶわっと広がったドレスを作った。幅が広すぎていろいろなものに引っかかりそうで怖い。それに、歩くのにいちいちドレスを持ち上げなければならず、両手が塞がるというのも不安だ。


 さらに、背が伸びない私が背伸びするための十センチヒール。これでもヒールを履かないマレリナの身長に及ばないけど、少しはマシに見えるかな。でも、高すぎてコケそう…。


 それから、胸の部分もギリギリまで露出している。身長は伸びないけど、胸やお尻はマレリナと同じくらい成長している。もうすぐ数えで十三歳になるけど、この世界の人間は早熟なので日本人の十三歳とは違う、かなり大人っぽい体つきになっているのだ。だから、ちょっと間違っただけで胸がはみ出してしまいそうなこのドレスは不安でしかたがない。


 しかし、同じようにぶわっと広がったドレスで、胸がはみ出す寸前で、不安定なヒールを履いているタチアーナを見ていると、通りやすいように道を空けてあげたり、手を取って転ばないようにしてあげたくなる。そう、エスコートだ。女性というのはもともと力が弱いため生物学的には男が守ってあげるべき存在だと思うけど、衣服を使ってさらに弱い存在に見せることで男の庇護欲をそそるように見せているのだ。

 うーん、私は転生者だからなのか、それともエルフだからなのか、思考が男よりだ…。いや、いいたくなかったけど、私って女のツラを被ってる男じゃんか…。まあ、TS転生者ってそういうものか…。それとも、ブリギッテみたいに歳を取れば女性寄りの思考にもなるのかな…。


 ちなみに、タチアーナの胸はブリギッテにもスヴェトラーナにも遠く及ばないけど、ドレスの作りのせいで今にも爆発しそうだ。だけど、タチアーナはそれを不安には思っておらず、むしろいつ爆発するかわくわくしているように見える。この世界では、胸はポロリしてなんぼなのだろうか。胸を見せて男の性欲を刺激しつつ、胸が見えちゃって可哀想と庇護欲も刺激しようとしているのだろうか。私にはまだ女の武器の使い方が分からない。とくにこの世界では。


「おい、タチアーナをお前がエスコートしてどうするのだ」

「あ、ごめんなさい…」


 無意識にタチアーナの手を取って、馬車のステップを上がるのをエスコートしていた。


「あらぁ、私は嬉しいわよぉ」

「むぅ…」


 私はいつから人妻を寝取る人でナシだと思われるようになったのかな…。私はまだどうやって子を授けるのか分からないんだけど…。



 王都の中心にある王城へ馬車で赴く。街中では時速二十五キロ出せないどころか十キロも出せないので、王城までは二十分かかった。

 パーティホールに集まったたくさんのお貴族様。


「ユリアーナ様!ごきげんよう!」

「スヴェトラーナ様、ごきげんよう」


 ぷるんぷるんの胸が、いつにも増してこぼれ落ちそうなスヴェトラーナ。あいかわらず私の思考を奪う…。これはちゃんとしたドレスをプレゼントして、胸の露出を抑えてもらわないと、私が洗脳されて無意識のうちに何をやらかすか分からない…。

 そして、そんな私に追い打ちをかけたのが、


「ユリアーナ、ごきげんよう」

「エリザベータ様…、ごきげんよう…。その衣装は…」

「うふふ。あなたのお店であつらえましたのよ」

「そ、それはそうなのですが…」


 薄紅色の四連装ドリルを携えたエリザベータ夫人。王都に開いた私の仕立屋のデザインだということが分かる。


「そのビスチェというのは、下着にと思ってデザインしたものでして、そのように表に出して着るものでは…」

「いいではありませんか。とても素敵だわ」


 蜘蛛の糸の生地は、水分の抜き方次第でいかようにも硬くできるので、エリザベータの爆乳を紐なしで支えられる下着を実現できるのだ。もはやお皿に置いてあるプリン。ちょっと跳ねると大事なところが見えてしまいそう…。いやいやそうではなくて、これは下着にと思って作ったビスチェなので、それだけだととてもエッチなのだけど…。


「それにあなた、仕立屋まで出すとは聞いていませんわ。斬新なデザインのドレスばかりではありませんか」

「す、すみません…」


 私の仕立屋ではこういうエロ路線のご婦人ではなく、少女向けのロリータファッションをメインにしていたはずなのに、奥で売っている下着をそのまま斬新なドレスととられてしまうとは思ってもみなかった…。

 そして、エリザベータは公爵夫人なので、宣伝効果も抜群。私の少女趣味の仕立屋では、エロい奥様が下着をそのままドレスにしろというむちゃな注文が増えていくことになるのであった…。



 そのあと、セルーゲイとタチアーナがエリザベータとオレンジ髪のウラディミール・フョードロヴナ公爵に挨拶をしていたような気がするけど、私はエリザベータとスヴェトラーナの胸に釘付けで、何が起こったのかよく覚えていない。


 スヴェトラーナとエリザベータは危険だ。直視すると思考能力を九〇パーセント奪われる。でも、だいぶ慣れてきた…。視界の端に映っているくらいなら思考能力の四〇パーセントを奪われるだけで済むだろう。



 そして気がついたら、私は応接間のようなところで席についていて、フョードロヴナ公爵だけじゃなくて、サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵、ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵、ジュリクス・ジェルミーニ男爵に囲まれていた。婚約者の父親が勢揃いじゃないか…。手紙では婚約の申し込みをしてあるけど、ここで面と向かってお嬢さんをくださいと言うわけだな…。


 一応、セルーゲイが付いていてくれるけど、大勢の男が若い娘を個室に連れ込んじゃっていいのかな…。いや、私が嫁をもらおうとしているのに、私自身が女だからイレギュラーなのか。


 ちなみに、婚約者の親の名前くらいあらかじめ調べてあるよ。ヴェネジーオはブリギッテの養父で淡い黄色髪。

 ジュリクスはマリアちゃんの養父だ。この可愛いピンク髪のダンディには、以前お世話になった。だけど私のことは記憶から消してあるので、私は初対面を装っている。


「マシャレッリ伯爵家は来年、陞爵確実と言われていますよ」

「お、恐れ入ります…。すべてユリアーナの功績なのです」


 ウラディミール・フョードロヴナ公爵に褒められて、恐縮してしまっているセルーゲイ。


「そのようですね。うちもユリアーナ嬢に支援してもらい、フョードロヴナ領に店を開いたところ、大変な人気店となりました。まず、貴族が農園と店を直営するというやり方自体に半信半疑だったのですが、ユリアーナ嬢のおっしゃるとおり、三ヶ月で投資額を回収できましたよ」


 おお…、私、そんなこと言ってたのか…。思考力をほとんど奪われていても、適当なことを言ったわけではないようだ…。


「うちもユリちゃんに魔道具の案をいくつかいただきまして作り始めましたところ、良い売れ行きです。あのような便利な魔道具を思いつくとは、ユリちゃんは若干十二歳とは思えませんね」


 みんなの前でサルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵に思いっきりユリちゃん呼ばわりされている。サルヴァトーレ侯爵と私は愛称呼びする仲だなんて噂がたったらどうするんだ。っていうか、ユリちゃんって愛称じゃないし。愛称にするならたぶんユリアとかだし。いや、まず名前を覚えてもらえたことを歓迎しようか。



「ユリアーナ嬢からうちのブリギッテと結婚させてほしいと打診があったときは驚きましたが、マシャレッリ伯爵が侯爵になり、その爵位をユリアーナ嬢に譲られるというのならやぶさかではありませんな」


 ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵は何様のつもりなんだろうか。ブリギッテは私の大切な友達だからいいけど、もしそうじゃなかったら、平民上がりの芋娘を捕まえて上位貴族に嫁がせるってどんだけ恥知らずなのかと。いや、王族に嫁がせようとしてたんだっけか。まあ、それほど魔力の高い者に価値があるってことだし、ブリギッテが芋娘なら私は原始人だしね。もはや貴族の血筋なんの関係もないじゃんかこれ。

 っていうか、ブリギッテと結婚したら、こんなやつとは縁を切りたいんだけど。これから交易でアルカンジェリ領に便宜を図らなければならないと思うと気が重いなぁ。


「しかし…、ユリアーナ嬢、たしかあなたは命魔法使いとブリギッテから聞いていますが、あなたの髪はほとんど灰色だ。いったいどれほどの魔力があるというのですか?」

「私の髪はほんのり明るいだけの灰色ですが、学園では十分に魔力があると認められています」

「ふむ…」


 そうか。私がちゃんと魔力を持っていると信じてもらえないと、結婚させてもらえないのか。


「学園の成績は、私も拝見しましたよ。ユリアーナ嬢は、筋力強化で出せる力も尋常ではないし、複雑な治療も難なくこなすとのことです」

「そうですか…。まあいいでしょう」


 ウラディミール公爵が助け船を出してくれた。ウラディミール公爵は王宮勤めで学園の運営にも権限を持っているらしく、生徒の成績を閲覧できるようだ。


「私もユリアーナ嬢からマリアと結婚させてほしいと手紙をいただきました。男爵家の娘ごときが伯爵家に嫁ぐなど恐れ多いと思っていたのですが、まさか侯爵家に陞爵されることになっていたとは…。本当によいのでしょうか…」


 ジュリクス・ジェルミーニ男爵はマリアちゃんに王子を洗脳させて、王位簒奪を狙っていた。しかし、そんな記憶は私に全部消し去られて、まっとうに生きるよう書き換えられたから、上位貴族に囲まれて恐縮してしまっている。


 あ、ヴェネジーオもまっとうな考えを持つように、記憶を書き換えてしまおうか。いやいや、悪いことをしているわけではないのに、それをやってはいけない…。



「この場で申し上げます。私はユリアーナが学園を卒業したら、ユリアーナに爵位を譲ります」


 セルーゲイが宣言した。これとセットで、


「私、ユリアーナはこの先もマシャレッリ領、ひいてはローゼンダール王国の発展に努めます」


 と私が宣言した。暗に、マシャレッリ家を陞爵させると宣言したつもりだ。

 婚約者のファザーズは私の次の言葉を待っている。


「ウラディミール・フョードロヴナ公爵様、私はスヴェトラーナ様を娶るのにふさわしい女になります。どうかスヴェトラーナ様と婚約させてください」


 この国での婚約に、とくに書面とか儀式のようなものはない。だからといって、手紙だけで済ますような気軽いものでもない。そこで、手紙であらかじめ感触を掴んでおいて、こうやって社交界で婚約の申し込みをするのはざらなのだ。


「ユリアーナ嬢、あなたはすでに、スヴェトラーナを娶るのにふさわしい。よって、この婚約を認めます」

「ありがとうございます」


 自分で言っておいてなんだけど、娶るのにふさわしい女ってカオスだなぁ。


「サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵様、改めて申し上げます。私はセラフィーマ様とともに、魔道具の技術でローゼンダール王国を豊かにしていく所存です。セラフィーマ様との婚約をお許しください」

「ははは。以前も言いましたが、許可しますよ。ユリちゃんとセラフィーマの活躍に期待します」

「ありがとうございます」


 こっちは緊張して真面目に喋ってるのに、ユリちゃんとか調子狂うわぁ。


「ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵様、私はブリギッテ様とともに、アルカンジェリ領とマシャレッリ領の友好を深めていきます。どうかブリギッテ様との婚約をお許しください」

「ふむ。この場はまあいいでしょう。ですが、後日、魔力があることを私に披露してください」

「承知しました…」


 なんで上から目線なんだか。私はまだ無爵だけど、学園卒業後に少なくとも伯爵になるって、セルーゲイ伯爵本人が言ってるんだけど。

 そして、治療魔法の披露をすることになってしまった。いいだろう。私の力を思い知るがよい。


「ジュリクス・ジェルミーニ男爵様、私はマリア様とともに、ジェルミーニ領とマシャレッリ領の友好を深めていきます。どうかマリア様との婚約をお許しください」

「願ってもないことです。もちろん許可します。飛ぶ鳥落とす勢いのマシャレッリ領と友好を結ぶことができれば、ジェルミーニ領はとても心強いです」

「ありがとうございます」


 ジェルミーニ男爵の王位簒奪の野望を打ち砕いたけど、成り行きでジェルミーニ男爵の支援をすることになってしまったなぁ。


 こういうのの順番は爵位順と決まっている。誰も文句はないはずだ。と思ったら、ヴェネジーオ子爵は不満顔だ。まあ順番が気に食わないのではない。王家に嫁がせようとしていたのが侯爵家になる予定の伯爵家にランクダウンしたので不満なのだろう。それか、髪の色から魔力が低そうに見えることが不満なのかな。


 しかし、今四人と婚約して、さらに身内二人と婚約しようとしているというのだけど、この世界ではありきたりなことなのだろうか。他の家の情報は、せいぜい第一夫人のことまでしか公開されていなくて、何人の夫人がいるかは分からない。とはいえ、王家が一夫多妻制の筆頭だ。今の王には十一人の妃がいるのだ。

 セルーゲイに第二夫人がいるというのは聞いたことがない。私がいうのもなんだけど、セルーゲイとタチアーナは仲睦まじい夫婦なので、第二夫人がいるとは思えない。



 さて、父親への挨拶は終わった。父親ーズが退室すると、今度は…、エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人に始まり、二人のご夫人が応接室に入ってきて、私は囲まれることになった。レモンイエロー髪のエカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人、水色髪のクレメンス・アルカンジェリ子爵夫人だ。

 それと、最後にタチアーナも入ってきた。

 私はご婦人方を挨拶で迎えようと思い、席を立った。


 ちなみにジェルミーニ男爵は独身だ。だからジェルミーニ男爵夫人というのはいない。マリアちゃんに家を継がせないでいいのかとも思うけど、もともと王家に嫁がせる予定だったのだから、自分は自分で嫁探ししてほしい。


 私は嫁をもらう男の立場で父親ーズに挨拶していたけど、今度はなぜか、嫁入りする女の立場でご夫人たちに囲まれている。エルフが両性具有だから両方の役割を演じなきゃいけないんだな…。エルフの郷に行けば、男とか女とかいう区別はないから、また別の扱いを受けるのだろうか。それとも、娶る側、娶られる側はハッキリしているわけだから、人間と同じだろうか。


「申し遅れまして、私、クレメンス・アルカンジェリです」

「クレメンス様、ごきげんよう、ユリアーナ・マシャレッリと申します」


 クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人とカーテシーを交わした。クレメンスは淡い水色髪だ。


「ごきげんよう、ユリちゃん」

「ごきげんよう…、エカテリーナ様」


 レモンイエロー髪のエカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人とカーテシーを交わした。ロビアンコ侯爵家は夫婦そろって名前を覚えられないってどういうことなんだろうか。名前を覚えられる人とは結婚できないしきたりがあるのだろうか。


「ごきげんよう、ユリアーナ」

「ごきげんよう、エリザベータ様」


 薄紅色の四連装ドリル、エリザベータ・フョードロヴナ侯爵夫人とカーテシーを交わした。カーテシーのさいに少しかがむと、下着用のビスチェのカップに乗っているだけの胸がたっぷんと上下する。私はそれに魅入られて、思考リソースを九十パーセント奪われたけど、あとは、視界にできるだけ入れないようにしないと、また大変なことになる。



「主人が失礼しちゃったみたいでごめんなさいね」

「いえ、ヴェネジーオ子爵様の心配はごもっともですので…」


 挨拶が終わって席に付くと、真っ先に口を開いたのはクレメンス。


「私ね、髪の色が薄いでしょ。主人もたいして濃くないじゃない。だから、王族に嫁がせるなら自分らの子じゃなくて、髪の色の濃い養子だとかいって、エルフの郷とつながりのある商人からブリギッテを買ったのよ」

「そうだったのですね…」


 髪の色が薄い者どうしからは、髪の色の薄い子しか生まれない。魔力が低いと王族の目に留まらないと思っているのだろう。実際は成績を上げて総合的に有能だと判断されたら、みんな側室にはなれたんだけどね。ブリギッテじゃなくて自分の娘を送り出していれば、普通に側室になれたかもしれないのに。


「でもね、ブリギッテは王族に嫁ぐための勉強なんてやりたくないのが見え見えなのよ。私は早々諦めていたのだけど、良縁が見つかってよかったわ。しかも、女の子に嫁ぐって初めて聞いたわ。エルフって女の子どうしで結婚できるのね。素敵だわ!」

「私もブリギッテに聞かされ……」

「それなのに、主人ったら王族じゃないとダメって一点張りだったのよ。マシャレッリ家はもうすぐ侯爵家になるっていうじゃない!文句なしよ!」

「はぁ」


 話聞けよ。聞いてもいないことをぺちゃくちゃと話す人だなぁ。

 とはいえ、ヴェネジーオ子爵のようにあからさまな不満顔をされるよりはマシだ。


「マシャレッリ家のお肉やお野菜、今でも少し取引してるんだけど、安くしてね!」

「わ、わかりました」


 やっぱそれだよねー。まあ無愛想な男に奉仕するんじゃなくて、奥様に奉仕するって考えれば、少しは気が楽だ。というか、奥様っていったって薫からすれば女の子の範疇だ。私ってストライクゾーン広いなぁ。



「ユリちゃん、新しい魔道具のアイデアはありませんか?」

「昨日の今日ではちょっと…」

「そうですか」


 マシャレッリ領で作っている家電の設計図のほとんどをロビアンコ家に渡した。この国に知的財産権はないけど、三年間はマシャレッリ家に手数料が入ってくることになっている。


「しかし、あのような魔方陣を初めて見ました」

「あ、あれはハンターをやっていたときに、遺跡探検で発見したものなのです」

「世の中には私の知らない魔法がたくさんあるのですね!」


 そういや、家電には私の作った魔法を使ってあるんだった。危ない危ない。

 エカテリーナはセラフィーマそっくりだなぁ。



「ユリアーナ、仕立屋で扱っているこの生地の生産方法も技術提携してくださらないかしら」

「仰せのままに…」


 エリザベータはダメだ…。ビスチェのカップに表面張力だけで乗っているだけのプリンが落ちそう…。そんなことばかり考えてしまう。何の話をしてるのかよく理解しないで、はいはい言ってしまう。


「それと、ワインというお酒は何なのです?あれほど芳醇な香りのお酒を飲んだのは初めてですわ」

「仰せのままに…」

「ちょっと聞いてますの?」


「え、エリザベータ様…。そちらも技術提携いたしますぅ…」

「それでは、こちらにサインなさって」


 頭がプリンでいっぱいの私に代わってタチアーナが返事した。


「ちょっとぉ、ユリアーナぁ。しっかりしてぇ」

「はい…、お母様…。えっと…、申し訳ございません。これは持ち帰って吟味させてください…」


「まあいいでしょう」


 紙を渡されたけど、何の話か分からない。私はもはやプリン以外のことを考えられなくなっていた…。心臓の鼓動が速くなって、血圧も高くなって………。




 知ってる天井…ではなく、王都邸のベッドの天蓋だ。


「ユリアナ、起きた?」

「うーん…」

「またエリザベータ様にデレデレしてたんでしょ」

「そうみたい…。気を失うほどデレデレしてたのか…」

「私が病気の治療と疲労回復をかけて、マリアちゃんに精神治療と安眠をかけてもらったんだよ」

「ありがとう…」

「何でもできるユリアナだけど、女の人の胸には弱いんだねー」

「そうだね…。これはエルフの特性みたい…」


 エルフじゃなくても年頃の男ならアレを見せつけられて興奮せずにはいられないと思う…。


「なんとかならないの?」

「そうだね、精神治療をかけてもらえれば…」

「魔道具にしちゃえば?」

「なるほど!」


 エリザベータの胸を見たときに発動する精神治療の魔道具!スヴェトラーナに胸の揺れを抑えるドレスをプレゼントするよりも、自分の興奮を抑えてしまった方が効果的だ…。それはそれで残念だけど、日常生活に支障が出るからやむなし…。


 というわけで、心拍数をカウントして一定以上になったら精神治療を発動するブレスレットの魔道具を作ろう!これでエリザベータも怖くない!



「ユリアーナぁ、起きたの~?」


 タチアーナが部屋に入ってきた。


「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…」

「私はいいのよぉ。エルフって、女の子のことを好きになるんでしょぉ?でもダメよぉ、人妻はぁ」

「わ、分かってます…。というか、エリザベータ様も分かってて私にハニートラップを仕掛けているんです」

「困った方ね~。はい、これ契約書よぉ」

「ありがとうございます」


 いつの間に何の契約をしようとしていたんだろう…。サインを思いとどまった私、グッジョブ。

 はぁ…。蜘蛛の糸の生地とワインの権利を持っていかれるところだった…。油断も隙もあったもんじゃない。というわけで早いところ精神治療の魔道具を作った。もうハニートラップに引っかからない。



 ジェルミーニ男爵と、アルカンジェリ子爵夫妻は王都邸を持っていない。だから、今晩はマシャレッリ家の王都邸に留まってもらうことになっていた。マリアちゃんは元々来ていたけど、ブリギッテもいつの間にかやってきていた。だけど、私は体調不良を理由に、晩餐を欠席した。今頃、ステーキや甘いパンに度肝を抜かれているだろう。


 私がやられてしまったいちばんの理由はエリザベータのハニートラップだけど、それ以外にも貴族とのやりとりは精神的に疲れた…。四人も一度に婚約するもんじゃない…。



 翌日は普通に学園の授業がある。王都邸から学園までは馬車で行かなければならないので、少し早めに起きた。ベッドを見渡すと、マレリナとアナスタシア、マリアちゃんとブリギッテがいる。ここにお嫁さんが四人もいて、さらに二人も増やそうとしてるなんて、私は罪深い女だなぁ…。そのためには、親たちの重圧には耐えなければならない。


 そういえば、ブリギッテと寝るのは二回目か。私とブリギッテはどう見ても女だから、女友達どうしで一緒に寝ているけど、エルフは男の役割も果たすわけだ。ということは未婚の男女が同じベッドに寝ていいのだろうか。いや、深く追求しないようにしよう。私たちはまだただの女友達だ。


 親たちは、うまい酒で二日酔いにでもなっているだろう。朝食の席に親たちはいなかった。


「ここの料理、寮のより美味しいね!」

「でしょー!」


 ブリギッテの感嘆に、マリアちゃんがない胸を張って応えている。


「もう、ここに住みたいなー」

「ブリギッテ様、いけません」

「ちぇー」


 ブリギッテのメイドはきびしいなぁ。




 さてさて、今日は今期最後の娯楽・芸術音楽の授業。


「皆さん、本日は先生方を前に、皆さんの音楽を披露しましょう」

「「「「「えええええ?」」」」」


 音楽の試験を、他の試験と一緒にやるわけにはいかないので、最後の授業の日に試験をすることにした。

 ぞろぞろと入ってきて、観客席に座る先生たち。魔法練習場は小さなスタジアムみたいだから、なんだかプチコンサートって感じでいいね!


 私は前に出て観客席を向いて、


「先生方、お集まりいただきましてありがとうございます。本日は、私たちの四ヶ月の成果を見ていただきたく思います」


 私はクラスメイトの方に向き直り、皆を見回す。


「それでは皆さん、いいですか?一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー、……♪(リコーダー)

 きんきんきん、……♪(鉄琴)

 かっかっかっ、……♪(木琴)

 ぽんぽんぽん、……♪(ハープ)

 ぽんぽんぽん、……♪(エンマのキーボードハープ中音域)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(パオノーラのドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」


 私は歌いながら、誰かが音を外していないかチェック。薫は大学の男性合唱部にいたとき、指揮をしていたこともあるのだ。薫にできることは私には余裕でできる。

 ちょっとくらい外しても減点しないけどね。みんなのハープを調律する機会はなかったから、ハープは少し低めだし。


「「「「「おおおおお」」」」」

「素晴らしい!」「素敵!」「これは楽しいですな!」「綺麗な声!」「これは魔法なのか?」「ざわざわ…」

「声で音楽を奏でているのではないか?」「音を同時に鳴らすとこのように聞こえるんですね」

「音楽と詩を融合させるとは」「ハープにこんな使い方があるとは」「ハープ以外にも音を鳴らすものがあるんだな」


 先生たちは興奮のあまり同時に感想を発したので、私はなんて言ってるのか分からなかった。私は十の音楽を聞き分ける聖徳太子なのであって、十の話を聞き分けることはできないのだ。


「先生方、いかがでしたでしょうか。これだけ長い曲を、皆、たった四ヶ月で弾くことができるようになりました。このことは、魔法音楽を覚えるための糧となるのです。

 一方で、私はこのようにして娯楽と芸術のための音楽を新しい文化として広めたいと思います。先生方は、今お聞きになった音楽を楽しんでいただけたと思います。音楽は人の心を豊かにするのです!」


「なるほど…」「六年生の上級魔法よりも長い曲を四ヶ月で…」

「魔法音楽もうまくなるのか」「それはなかなか有用だな」「ざわわざ…」


「それでは、もう一曲お聞きください」


 私はエンマからキーボードを、パオノーラからドラムを回収した。

 同時に、アナスタシアはラッパ、マレリナはリコーダー、マリアちゃんは木琴、ブリギッテは鉄琴、スヴェトラーナはバイオリン、セラフィーマはハープを持って前に出た。


「一、二、三、はい!」


 ぱーぱーぱーぱー♪(ラッパ)

 ぴーぴーひょーひょー♪(リコーダー)

 かっかっかっかっ♪(木琴)

 きんきんきんきん♪(鉄琴)

 きーこーきーこー♪(バイオリン)

 ぽんぽんぽんぽん♪(ハープ)

 ぴろぴろぴろぴろ♪(キーボードの高音域ハープ)

 ぎーががぎーがが♪(キーボードのエレキハープ)

 ドゥドゥドゥドゥ♪(キーボードのベース)

 どんどんしゃっどんどんしゃっ♪(ドラム)


「いばらに囚われた私。舞い降りた女神。私を解き放つ。やさしい光で私を包む。私は恋に落ちた……」


 これ、曲はアニソンなんだけど、歌詞はアニソンとは関係なく、アナスタシアが考えてくれたものだ。アナスタシアがこんな詩人だとは思わなかったよ。病に伏せているときに本を読んだりしたことはなかっただろうに。っていうか、アナスタシアは字を読めなかったし、家には本を買うお金もなかっただろうし。


 私は、というか薫はもともと歌詞について深く考えないのだけど、この歌はどういうシチュエーションなのかな。女神に恋しちゃうってどういうこと?まあ、深く考えたらちょっと恥ずかしい歌詞なので、これ以上は深く考えない。深く考えていたら、薫はファルセットでアニソンなど歌えていなかった。


 ところで、バイオリンの弾き方なんて詳しく覚えていない。たしか肩に乗せてあごで挟んでとか、思い出して実演して見せたのだけど、スヴェトラーナは肩ではなくて胸に乗せて弾くようになってしまった。スティックで弦を押しつけるたびに、胸がむにゅむにゅと変形して…、あああ、今そんなことを考えてはダメだ。あ…、精神治療のブレスレットが発動した…。ふう…。


 本当は五曲くらいためてから演奏会を開きたかったけど、娯楽・芸術音楽を授業に取り入れることになって、試験の代わりに演奏会を開くことになってしまったから、ついでにお披露目することにしたのだ。このアニソンは、二十四小節足らずの童謡とは違い、一分三十秒もあるのだ。一年近くかかったけど、やっと一曲完成した。


 はぁ…。私のアニソン歌手への道…。また一歩進んだ…。


「「「「「おおおおお」」」」」

「素晴らしい!」「これだけ複雑に音が絡み合っているのに調和が取れている」

「先ほどはなかった楽器がありますね」「美しい音だった」「やはり声で音楽を奏でるのだな」

「音楽のおかげで詩の情景を思い浮かべやすいわ」「素敵な詩ね」「ざわざわ…」


「ユリアナ、夢に近づけてよかったね」

「ユリアーナ、よかったわね」

「素敵ですわ、ユリアーナ様」

「ユリちゃん、すごいです」

「さすが音に愛されし者」

「ユリアーナはやっぱりすごいね!」


 演奏していたみんなが私を囲んでいる。


「ユリアーナ、泣いてるの?」

「えっ?うん。うれし涙」


 マリアちゃんが心配そうに私を見ている。



「ユリアーナ、素晴らしいね。音楽を奏でることがこれほど楽しいものだとは思いもしなかったよ」

「あ、ありがとうございます…」


 ヴィアチェスラフ王子に称賛されてもあまり嬉しくないけど、素直に言葉を受けとっておこう。


「あのー…」

「私たち」

「ユリアーナ様たちのバンドクラブに入りたいんです」


「えっ」


 って女子全員?


「ボクも入れてもらえないかな」

「「オレも…」」


「えっ…」


 って王子と男子も全員?


「申し訳ございませんが、このバンドクラブは、ユリアーナ、次期マシャレッリ侯爵と婚約した者の集いですの」


「「「「「えええええ?」」」」」


 ちょっ、スヴェトラーナ!


「だって、ユリアーナ様は女性…」「エルフは女性どうしで結婚できる…」「それなら私もユリアーナ様と…」「ざわざわ…」

「マシャレッリ…侯爵?」「ユリアーナ様が継ぐの?」「女当主?」「オレもユリアーナちゃんに婿入りしたい」「ざわざわ…」


 ざわざわしてて何言ってるのか分からないけど…。


「ちょっと待った。ユリアーナは次期当主なのかい?ボクの子の正室はどうするのだ」


 うわー、また爆弾落としやがった…。そんなこと言ったら、また女子に…、あれ?睨んでくる子がいない?

 よし、ここで婚約破棄を言い渡してやろう!転生令嬢の嗜みだ!


「私は父からマシャレッリ家当主の座を受け継ぎ、マシャレッリ領を発展させることによって国全体を潤していきたいと考えております。すでに、その政策は始まっているのです。マシャレッリ家が王都の南に取得した農園からもたらされる農産物により、王都の食糧事情はかなり改善されてきています。また、安価で丈夫な服で暖を与えることにより、寒さで病気になる者を減らそうと考えております。このようにして、マシャレッリ家は衣食住のうち衣と食を提供することで、国全体に貢献していく所存です。ですから、私は王家に嫁ぐことはできません!」


「ユリアーナ…、キミはそこまで国のためを思って…。キミほど高貴な考えを持つ者は、ぜひ王家に欲しいのだが…」


「殿下、私にはマシャレッリ領から王家を支援させてください」


「わかったよ…」


 よし!婚約破棄物語とは全然関係ないけど、婚約破棄できた!なんだか予想していたざまぁとかではなくて、穏便に行っちゃって拍子抜けだ。


「もしかして最近できた美味しい肉の食堂って…」

「最近できた斬新なデザインのドレスって…」

「この暖かい下着を売っている仕立屋って、マシャレッリ家のお店なのかしら?」

「そういえば領地が不作でもマシャレッリ領から農産物を買い付けられるから食糧難に陥ってないって父上が」


 よしよし、ここ最近の自重を捨てた改革が浸透してきているね。



「ユリアーナさん、この授業の採点はどのようにするのですか?」


 先生が話の流れをぶった切った!


「先生方は音楽を素晴らしいと感じてくださいましたか?」


「うむ」「そうですな」「大変素晴らしかったわ」「また聞きたいわ」「ざわざわ…」


「先生方が素晴らしいと感じてくださり、そして皆が音楽を真面目に奏でる姿勢を見せてくれているので、皆、満点です」


「新しい学問ですし、最初はまあそれでもいいでしょう」


「私のバンドクラブは私と私の婚約者の集まりなのですが、皆さんとの音楽は授業で続けますので、どうかご勘弁ください」


「残念だわ…」「ユリアーナ様と婚約…」「ブリギッテちゃん、フリーだったのに…」「ざわざわ…」

「婚約者六人?」「オレのマリアちゃんが…」「ざわざわ…」


「ユリアーナさん、今日はもう解散でいいですか?」


「あ、はい」


「皆さん、今日の授業は終わりです」


「「「「「はーい」」」」」




 学生と先生は魔法訓練場から退室。

 私たちは片付けもあるし、その前にクラブ活動もあるから、訓練場に残った。


「このクラブ、入団資格はユリアーナの婚約者なのね?」

「うふふ、そうですのよ」


 アナスタシアとスヴェトラーナは冗談混じりの会話をしている。


「ユリアーナ様も、生まれてもいない殿下の息子の婚約者などというワケの分からないものから解放されてよかったでしょう」

「そうですね。心の荷が降りました」


 この件は、もう私が学園を卒業すれば終わりだ。誰にも邪魔されることなく、みんなと結婚して幸せに暮らせばいい。

 あ、卒業までに子を授けられるようになるといいな。


 まあ、それはさておき、


「皆さん、一年間、私の曲を練習してくださってありがとうございました」


「ユリアナ、堅いよ」

「逆よ。私がお礼を言いたいわ。こんな楽しい時間をくれるのはユリアーナだけなのよ?」

「ユリアーナ様の立ち上げる芸術音楽という新しい学問の先駆者になれますのよ。これほど栄誉なことはありませんわ」

「私はユリちゃんと魔道具だけじゃなくて、娯楽音楽も研究していきたいです」

「私はユリアーナといられて楽しいからいいんだよ!」

「私、人間の国に売られたのに幸せだよ」


「みんな…」


 私の夢に協力してくれる六人のお嫁さん…。


「ユリアナ、次の曲、あるんでしょ?」

「ふふふ、もちろん!」


「私、歌詞を考えるわ」

「お願いします!」


 私は別のアニソンの曲を楽譜に起こした。アナスタシアは恋の歌を作りたいのかなと思ったので、恋愛アニメのオープニングを持ってきた。ちなみに、今日演奏したアニソンの曲は、異世界バトルアニメだったのだけど…。


 用意した衣装を着る機会はなかった。今日は授業の試験のおまけだったしね。いつか曲をたくさん用意して、衣装を着て舞台に立ちたいね。




 演奏会の次の週には後期の試験があった。普段の小テストでみんなの実力を把握してるし、期末でたった十問だけ改めて確認する必要はないんだけどね。


 マリアちゃんとブリギッテはあいかわらず期末試験だけ手を抜いている。一方で、他にまだ王子の側室に選ばれていなかった四人がいたのだけど、その子たちは勉強をがんばっていたので、今回は受かるんじゃないかな。



 そして、試験も終わり、長期休みに入った初日、王城でセルーゲイ・マシャレッリ侯爵の陞爵式が行われることとなった。このことはあらかじめ全貴族に通達されていた。社交界で貴族が集まっているこの時期が式を行うのに丁度いいのだ。


 この国で貴族家が陞爵するのは、実に三〇〇年ぶり。貴族というのは本来、戦争屋であり、他国に戦争で勝利するとか、内紛を収めるといった武勲によって陞爵するものであった。しかし、ここ三〇〇年は戦争もなく平和であったため、陞爵の機会はなかったのだ。

 とはいえ、陞爵に必要な功績は武勲とは明記されておらず、国に対する貢献とされている。今回、マシャレッリ家は多くの領地の食糧問題を解決するとともに、経済を活性化させたことにより、国に貢献したとして陞爵されることになったのだ。


「お父様、行ってらっしゃいませ」

「本来ならおまえが行くべきなのだがな」

「私を養女としたお父様の功績です」

「ははは、よく言う」


「「お父様、お母様、行ってらっしゃい」」

「ああ、行ってくる」

「は~い」


 陞爵式に参加するのは貴族当主と夫人だけ。パーティもあるらしい?


 私たちは王都邸から馬車に乗り込むセルーゲイとタチアーナを見送った。侯爵家に相応しい馬車をあつらえた。蜘蛛の糸の生地で作ったエアーサスペンションやゴムタイヤ、クッション性の高いシートによって乗り心地抜群!じゃなくって、装飾にも凝ったってことだ。



 アナスタシアもリハビリスーツのおかげで人並みに動けるようになったし、学園の寮を引き払うことにした。地下通路とお風呂を埋めておかないと…。


 学園の寮を引き払ったのはマシャレッリ家だけではない。マリアちゃんとブリギッテも寮を引き払って、マシャレッリ家の王都邸で一緒に住むことにしたのだ!いいのかな…。婚約したとはいえ、未婚の男女が…。私は男ではないけど…。みんな分かっているのだろうか。私はどう見ても女にしか見えないけど、エルフというのは男にもなりうるということを…。

 まあ、私はまだやり方をよく分かってない。むしろブリギッテの方が危険だけど…。


 寮の畑も潰すことにする。その代わり、寮の食堂にマシャレッリ家の農園から安値で果物を卸すことにする。お肉や卵もね。パンの酵母も。



 陞爵式の翌日にはマシャレッリ領に帰るので、私たちは帰る準備を進めている。私の準備といったら、自分の身の回りのことではなくて、農園やお店の経営に関することだけど。


 マシャレッリ領に帰るメンバーにはブリギッテとマリアちゃん、そしてセラフィーマとスヴェトラーナも入っているのだ。まだ婚約したばかりだっていうのに、嫁いでくる気まんまんだ。



 セルーゲイたちが陞爵式から帰ってきた。


「「「「お父様(父上)、陞爵、おめでとうございます!」」」」

「おまえたち、ありがとう」


 ちょっと豪華な夕食の席で、娘三人とエッツィオくんでセルーゲイに祝いの言葉を送った。


「マシャレッリ侯爵、陞爵おめでとうございます」

「セルお父様、陞爵おめでとうございます」

「え、えっと、セルーゲイお父様、陞爵おめでとうございます」

「セルーゲイお父様、陞爵おめでとうございます」


「あ、ああ、ありがとう…」


 スヴェトラーナ、セラフィーマ、マリアちゃん、ブリギッテもセルーゲイに言葉を送った。セラフィーマったらもうお父様だなんて…。っていうかあいかわらず二文字しか覚えてないし…。スヴェトラーナの言葉をマネすればいいのに、マリアちゃんもブリギッテも、セラフィーマのおかしな言い方をマネして、お父様って言っちゃってるし…。


 セルーゲイは可愛い娘がいきなり四人も増えてタジタジだ。それに、スヴェトラーナとブリギッテの胸を見て何も感じないようなタマなしではない。


「あなたぁ!」

「はっ」


 豊かな領地、美味しいご飯、やさしい養父母、やわらかなベッド、私の夢を支えてくれる可愛い六人のお嫁さん。順風満帆だ。




 さてさて…、お風呂の時間がやってきた…。心してかからなければならない。


「ユリアーナ様ぁん…」

「はう…」


「ユリアーナぁ…」

「はう…」


 裸になって自分の胸を私の二の腕に押しつけてくるスヴェトラーナとブリギッテ…。

 私の心拍数は急上昇。早くも精神治療のブレスレットが発動した。


 このブレスレットは、腕で私の心拍数を測るようになっている。心拍数が九五を超えると精神治療をかけて、興奮を抑えるようになっている。だけど、女の子に胸を押しつけられて何も反応しないなんて男が廃る、っていうか私は男ではないけど、そんな素っ気ないことはできない。だから、弱めの精神治療から始めて、心拍数が九〇から九五程度を維持するように出力を調整するようになっている。つまり、興奮でぶっ倒れることなく、適度な興奮を保てるようになっているフィードバックシステムなのだ!


「何かしら、この腕輪」

「あ、それはダメ…返して…」

「ごめんなさい…」

「ふう…」


 スヴェトラーナにブレスレットを取られた途端、心臓がバクバクいって…。危ないところだった…。魔道具を作っておいてよかった…。毎日これじゃ、心臓がもたない。


 私はスヴェトラーナとブリギッテから開放されて、浴室に入ろうとすると、今度は二の腕ではなく前腕にふにっとした感覚が…。


「ユリアーナぁ…。私のことも見てほしいわ…」

「はぅ…」


「私のことも構って!」

「はぅ…」


 今度はアナスタシアとマリアちゃんが、ぺったんこな胸板を私の前腕に押しつけている…。あああ……。ブレスレットの魔力が流れたり流れなかったり…。


「あはっ、私でもユリアーナにデレッとさせられたわ!」

「私だって成長してるんだから!」


 六歳児にしか見えないアナスタシアにこんなことさせて興奮してるなんて犯罪っぽい…。

 それに、マリアちゃんの胸もほんのり柔らかい…。


「今度は私です」

「ちょっとぉ!」

「はぅ…」


 セラフィーマがマリアちゃんを押しのけて、私の二の腕に胸を押しつけてきた…。


「お姉様…」

「いいわよ…」

「はぅ…」


 マレリナがアナスタシアにおねだりするような目をしていると、アナスタシアは自ら交代した。


 あああ…、スヴェトラーナたちほどではないけど、ブレスレットの魔力が流れている…。


「ホントだ、私にもデレッとしてくれるんだね」

「よかったです。おっぱいちゃんのおっぱいには太刀打ちできないと思っていたので」


「おっぱいちゃん…」


 ブレスレットが私の心拍数を九五以下に調整してくれるので、図らずともみんなに同じくらい興奮できるようになった。私がスヴェトラーナの胸にばかり興奮しているから、アナスタシアたちには寂しい思いをさせてしまっていたようだ…。


 それにしても、おっぱいちゃんとは…。スヴェトラーナはお尻もくびれも素晴らしいよ!



 なかなか浴室に入れなかったけど、やっと浴室へ。


 二つのツインドリルを結んでいた紐を解いたスヴェトラーナ。解いてもドリルの形がけっこう残っている。


「何ですの、これは」

「ボタンを押すとお湯が出ますよ」


 壁に掛かっていたホースなしシャワーヘッドを手に取ったスヴェトラーナ。シャワーヘッドをメイドに渡した。メイドはお湯を出して、使い方を確認している。


「とても便利ですのね」


 メイドに髪を流してもらうと、ツインドリルはやっと形を失った。髪の毛、マジ長い…。いつもの三・一四倍長い。

 フョードロヴナの王都邸にお邪魔したときにも見たはずなのだけど、あのときのことは思考能力が低下しすぎてて覚えてない。でも、今は思考能力を七割くらい保っているので、覚えていられるだろう。


 スヴェトラーナは後ろ姿も凶器だ。谷間ができるほどに丸みを帯びたヒップと、鋭角になるほどくびれたウェストも、ブレスレットの魔力をどんどん消費させる。バッテリー足りるかな…。


 ブリギッテも良い体してるなぁ…。っていうか、ブリギッテもスヴェトラーナにでれーっとしてる…。スヴェトラーナは私の嫁なんだけど…。ブリギッテは、私に対しては女になると言っておきながら、スヴェトラーナに対しては男になるつもりだろうか。


 はあ…。ダメだ…。二人の裸を見て興奮しっぱなしだ…。今までも、マレリナの裸を見て興奮しなかったわけではないけど、こんなことで新婚生活やっていけるのだろうか…。いや、まだ婚約したばかりなのに、こんな距離でいいのかな…。




 お風呂から上がると、ブレスレットの魔力が空っぽになっていた。慌ててふんふんと口ずさみ、心の魔力を補充した。腕輪をもうひとつ作っておこうかな…。


「ユリアーナ様ぁん…」

「ユリアーナぁ…」


 ベッドで私の二の腕を胸で挟むスヴェトラーナとブリギッテ。


 ネグリジェを着たスヴェトラーナは、裸の時よりも危険だ…。見えそうで見えないのがいちばんそそる…。

 もう、長期休みは始まったばかりなのに、こんなに誘惑しないでほしい…。キミたち、私が本物の男だったら、とっくにやらかしてしまってるよ!


「今日はスヴェトラーナ様とブリギッテに譲りますけど、明日からローテーションですからね」

「「えっ…」」


 なにげにリーダー的な存在、マレリナ。マレリナは短冊に七人の名前を書いて、大きな紙にそれを並べた。左から、マリア、セラフィーマ、ブリギッテ、ユリアーナ、スヴェトラーナ、アナスタシア、マレリーナの順に並べた。


「ユリアーナの隣に寝た人は、次の日は反対側の端に移動します。例えば、明日はこういう順番です」


 マレリナは、スヴェトラーナ、マリア、セラフィーマ、ユリアーナ、アナスタシア、マレリーナ、ブリギッテの順に並び替えた。


「致し方ありませんわね」

「ちぇー。これから毎日ユリアーナを抱いて寝られると思ったのに」


 マレリナは夫婦生活の秩序を守る嫁長となった。第一夫人という意味ではない。ああ、第一夫人、スヴェトラーナかアナスタシアか選ばないと…。


 とはいえ、今日は二人から胸を押しつけられて、寝ている間にブレスレットの魔力が切れてしまった。むにむにとした感覚に耐えられなくなり目覚めた私は、興奮のあまりすぐに気を失った。




 翌日、マシャレッリ領にたつことになった。その前に、大急ぎでブレスレットをもうひとつ作った。


「ユリアーナ様、こちらの馬車はどうなってるのかしら…」

「それはですね…」


 外見的には四人用の長椅子が対面に配置されている八人乗りの馬車なのに、中に入ると対面に配置された長椅子が二組ある。つまり、十六人乗れるのだ。車室内の空間を、空間魔法の異次元収納で拡張してあるのだ。空間の魔石の魔力が切れると、足もとのスペースがなくなって、対面の長椅子が二組ずつ隙間なく配置された状態になる。じゃないと、中身が飛び出して、外装が壊れてしまうので。それに、これ以上の空間拡張は、魔石を準備するだけでも大変なのだ。


「これも魔道具なのですね…」

「はい。魔道馬車です」


「馬車がパワーアップしたのですね!八人乗りに見えて十六人も乗れるなんてすごいです!」


 魔道馬車の席順は、最前列にエッツィオ、アナスタシア、マレリナ、マリア。次の列にスヴェトラーナ、ブリギッテ、セラフィーマ、タチアーナ。三列目にセルーゲイ、オルガ、アンナ、セラフィーマのメイド。四列目にブリギッテのメイド、マリアのメイド、スヴェトラーナのメイドAとB。


 二台目の馬車は魔道馬車ではないただの八人乗り。スヴェトラーナのメイドCとDと、マシャレッリの使用人二人と、マシャレッリの護衛四人。護衛がいるのかって?しかたがなかったんだよ…。


「ユリアーナ様の乗るところがありませんわ」

「すみません、私、用がありまして、別行動となります…」


「「「「「「えー」」」」」」


 嫁たちからの大ブーイング。


「それではお気を付けて」


「ユリアナ…」「ユリちゃん…」「ユリアーナ様…」「「「ユリアーナ…」」」


 窓から寂しげな顔を出している嫁たちを見送った。



「さて、あなたたち、行きますよ」

「「「「「はい」」」」」


 マシャレッリの執事五人とメイド五人。それから、大工五人。


「ふんふん……♪」


 私はマシャレッリ領の屋敷へのワープゲートを開いた。


「入ってください」


 十五人をゲートに通す。

 最後に私も入ってゲートを閉じる。


 人一人分の大きさのワープゲートなら、二五〇キロの距離をつなぐものを出せるのだ。それができるなら、みんなを馬車に乗せないでゲートで来いって話だけど、今回は時間をかけてもらう必要があったのだ…。


 私はマシャレッリの屋敷の敷地の裏側の何もないところで、


「ふんふん……♪ふんふん……♪ふんふん……♪」


 異次元収納から木や岩を出して、屋敷を建て始めた。


 そう、マシャレッリの屋敷は、ちょっと公爵令嬢を迎えるにはみすぼらしすぎるのだ…。侯爵令嬢はよかったのかって?セラフィーマだからいいんじゃない?

 でも、マシャレッリ家も侯爵家になったのだし、もうこのおんぼろ屋敷のままでいるわけにはいかないのだ。


 というわけで、王都邸と同じように、四階建てで木と岩のハイブリッド工法を使って、新しい屋敷を作るのだ。敷地面積は王都邸の二倍だ。蜘蛛の糸の生地で壁紙と絨毯も付けるよ。


 一階から順に作っていった。一階ができると、大工に窓やドアを取り付けさせたり、使用人が前の屋敷から家具を移動させたりした。もともと屋敷にいた五人の使用人にも手伝わせた。


 家具の移動には、ワープゲートを使った。二五〇キロメートルのワープゲートを使ってしまって、魔力は一割しか残っていないけど、数十メートルのワープゲートなら起きている間に回復する魔力だけでも維持できる。

 

 私が上の階を作りながら、下の階に荷物を搬入させたりして並列作業をしたけど、私が建物を作り終わる方が早かったため、私も短距離瞬間移動で荷物の搬入を手伝った。


 というわけで、一日で新居への引っ越しが終わった。

 そして、貧乏性な私は旧居を壊すことができないので、土台ごと異次元収納に入れて、ちょっと離れた場所に設置してきた。


 うう…、魔力が枯渇寸前だ。空間魔法を使いすぎた。

 魔力の枯渇についていまいち分からないことがある。属性ごとの魔力タンクがあるのか、全属性で一つの共通の魔力タンクがあるかだ。もう空間魔法を使えないのは確かだ。他の属性はまだまだ使えそうだけど、だからといって、フルパワーで使えるかというとそういうわけでもない。



 その日はいつもアナスタシアとマレリナと寝ていたベッドで一人で寝た。この世界に転生して一人で寝るって初めてかも…。でも一日だけだ…。明日からはまたお嫁さんに囲まれて寝るんだ…。

 私は安眠を歌いながら寝た。




 次の日。のんびりしていられるかというと、そうでもない。家具は旧居のものを移しただけなので、はっきりいってみすぼらしい。


 今日は家具屋を呼んであるのだ。侯爵家に相応しく、公爵令嬢が嫁いできても大丈夫な家具を搬入してもらう。


 ぐっすり寝たから魔力も全快している。新居の各フロアへのワープゲートを作って、家具屋や使用人に運ばせつつ、自分も短距離瞬間移動で手伝った。大きな家具はパーツに分かれているので、部屋に運んだあとに組み立てるようになっている。天蓋付きのベッドとかね。


 こうして昼を回るころには新しい家具を配置し終わった。古い家具はまあ、ぼちぼち入れ替えていこう。



 それから、今度は畑を移動させなきゃ…。新居は畑のさらに奥に作ったので、畑が手前にあるような状態でおかしい。そして、畑の地下には牧場があるのだ…。

 私は牧場全部を異次元収納に格納した。やばい…。これ…、数十分しか魔力がもたない…。


 私は筋力強化で走って、領都内の食肉加工のお店の地下へ。地下二階を掘って異次元収納に土を入れて、焼いて固めた。そして、異次元収納から牧場を出して、食肉加工のお店用の牧場を拡張した。ああ…、蜘蛛とか関係ない…。あとで移動しなきゃ…。


 それから、屋敷に戻って、元畑のスペースをもってきた土で埋め立てる。


 それからそれから、王都から連れてきた使用人と大工を帰すために、王都邸へのワープゲートを開いて…、あれ……。




「うーん…」

「ユリアナ、起きた?」

「あれ…」

「使用人に聞いたら、畑を埋め立てたあと倒れたって」

「ああ、そっか…」


 畑全体を格納するような異次元収納のあと、王都へのワープゲートを開くのには無理があったか…。

 いつのまにかみんな到着してたんだね。ベッドにマレリナが座っていた。


「むちゃしすぎだよ。この屋敷も、どうせ一日で建てたんでしょう」

「うん…」


「ユリアーナ、起きたのね!」

「お姉様」


 アナスタシアが入ってきた。


「ユリアーナのバカぁ!」

「えっ…」


 アナスタシアは走って私の胸に飛び込んできた。


「ユリアーナと離れるくらいなら、こんな屋敷、いらないわ!」

「大げさよ…、たった一日じゃない…」

「いやよ!一日たりとも離れたくないわ!」

「あれぇ…」


 アナスタシアが六歳の子供になっちゃった…。


「そうだよ、ユリアナ。私だって…」

「えええ?」


 マレリナも子供になっちゃった…。


「あ、ユリアーナあああ」

「マリアちゃん…」


 マリアちゃんは飛び込んでは来なかったけど、私の腕にガシッとしがみついた。マリアちゃんも子供になっちゃった…。もともと子供っぽかったけど。


 何これ…。


「昨日は私たち、宿で不安で寝られなかったんだ」

「えええ?」


 なんでだろ…。

 私もなんだか怖くて、安眠をずっと歌っていたような…。もしかして安眠中毒とかあるのかな…。



「目が覚めましたのね」

「ユリちゃん、起きたんですね」

「ユリアーナ、私たちのためにがんばりすぎたんだって?」


 スヴェトラーナ、セラフィーマ、ブリギッテが部屋にやってきた。


「そうみたい…」


「もう、わたくし、ユリアーナ様と一緒なら、どんなところでも寝られますわ。公爵令嬢なんて気にしなくていいのに」

「私もユリちゃんと一緒ならどこでもいいのです」

「私たちはおうちよりユリアーナが大事なんだよ」


「ごめんなさい…」


「でも、ありがとうございます。わたくしが恥をかかないようにしてくださったのですわね」


「はう…。もがが…」


 アナスタシアとマリアちゃんに抱きつかれている私の顔に、スヴェトラーナが胸を押しつけてきた…。


「あ、ずるいよぅ~」


「もががが…」


 今度は別のところから柔らかいものが…。

 二つのブレスレットの魔力は一気に尽きて、私の意識は吹っ飛んだのだった。




 朝起きると、スヴェトラーナ、マリア、セラフィーマ、私、アナスタシア、マレリナ、ブリギッテの順に並んでいた。寝る前にブレスレットの魔力を使い切ってしまったんだ…。もうちょっと体積の大きなものじゃないとダメだなぁ。


「ユリアーナ様、今日は何をするんですの?」

「今日は、王都だけで展開していた事業を、マシャレッリでも展開するのです」


 まだマシャレッリ領で取り組んでいなかった羊皮紙。羊皮紙っていうか、ミノタウロス皮紙とオーク皮紙だけど。最近は紙を作るのも転生者の嗜みのようなので、これは必要な事業だ。残念ながら木から紙を作る方法は知らないけど、魔物は牛乳や卵も取れるし、肉にも紙にもなるなんて、とても優秀な素材だ。


「そうそう、忘れておりましたが、お母様が商談を持ちかけたみたいですね…」

「ええ…、ひどい内容でした…」

「お母様ったら…。ユリアーナ様とはわたくしが取引をすると言っているのに…」


 エリザベータとは会いたくないな…。あったときのために、ブレスレットをいっぱい作っておかなきゃ…。



「ユリアーナ~、スタンピード鎮圧に行きましょ~」


 いやいや、そんなピクニックみたいなノリで行くところじゃないよね?


「わたくしも行きますわ!」


 スヴェトラーナの戦いは剣術の授業や魔法戦闘の授業で知っている。スヴェトラーナと打ち合うと、いつも胸に見入ってしまって、すぐに脳天に直撃をもらってしまうけど、スヴェトラーナって全然剣術がうまくなってないんだよね…。っていうか、胸が大きすぎてだんだんフォームもおかしくなってるし、動きもどんくさくなっていく…。でもそれがまた可愛くて…。ほら、女の子ってボールをうまく投げられないじゃん。あれが可愛く見えるのと一緒。

 魔法戦闘の方は射撃するだけだから様になってるけどね。


「ふふふ、暴れるのは得意だよ。ねえ、弓矢ってない?」


 おお!エルフといえば弓矢か!私、エルフだけど弓矢なんて知らないよ!


「私もやるわ!」


 アナスタシアもリハビリスーツで人並みに動けるようになったから、連れていって大丈夫だろう。


「私も筋力強化でやってみます!」

「セラフィーマにはもうひとつオルゴールをあげる。筋力強化と防護強化、治療と疲労回復をうまく使ってね」

「はい!」


 セラフィーマの運動能力はたいしたことなさそうだけど、魔力はマレリナよりも上なので、活躍が期待できるかもしれない。


「ユリアナ」

「マレリナにももうひとつオルゴールね」

「ありがと!」


「ユリアーナ、私はどうすれば…」

「マリアちゃんにはこれをあげる」

「これはなあに?」

「これはね……」


 マリアちゃんに渡したのはオルゴールのカートリッジ。戦意喪失に効果を限定した洗脳だ。戦意だけじゃなくて、攻撃意志や空腹、怒りなども忘れさせる。戦わずして勝利する最強の魔法だ。もちろん、私が数ある単語を組み合わせて作ったオリジナルの魔法だ。以前にやってみたところ、洗脳は数メートルしか届かない。


「やってみる!」



 以前のように城壁の外まで馬車で移動した。今回も護衛は御者のニコライだけ。私とマレリナ、どんだけ頼りにしてるんだか。

 タチアーナがあまりにもピクニックみたいなノリで言うから、またドレスで来ちゃったよ…。まあ、今回はみんな普段着のドレスだ。前回もそんなに暴れることがなかったから大丈夫かな…。


 スタンピードは、魔物が、より上位の魔物にすみかを奪われて、暴走して大移動をする現象。今回も逃げてきた魔物と、そのあとにボスが待ち受けているのかな。


「来ますよ!」


 おおお…、もこもこの…、羊?羊の魔物の大群だ。もちろんただの羊じゃなくて三メートルの巨大な羊だ。


「行きますわ!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 スヴェトラーナの炎の竜巻だ。


「「「「めええええええ」」」」


 おおおお…、タチアーナよりすげー…。

 しかし、羊毛に火がついて燃え広がると思ったら、防火性高い羊毛だな…。


「効きませんわぁ!キャー」


「私が!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 マリアちゃんの戦意喪失!

 羊は私たちの手前で動きを止めた。


 羊の大群は多く、マリアちゃんの戦意喪失だけでは食い止められなかった。


「私の出番だね!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 ブリギッテの土壁!

 ガンっガンっ……。土壁にたくさんの羊が突進している。ブリギッテの魔力はけっこう高いので、羊の突進ではびくともしない。しばらくしていると、マリアちゃんの戦意喪失が効いてきて、壁への突進が減ってくる。壁と戦意喪失って、なかなか良い組み合わせだなぁ。


「うひょー、これ、便利だねー」


 ブリギッテの作った土壁には小さな穴がいくつか開いている。そこからブリギッテが弓を射ている。連射速いなぁ。壁の穴から見ていると、ほとんどが羊の目に当たっていることが分かる。ブリギッテはこの戦い方に慣れているんだな。だてに三十三年も生きていないね。


「えい!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 土壁の穴はみんなの前に開いていてそこから射撃できるようになっている。

 アナスタシアは土壁の穴から氷の矢を連射している。ときどき羊の目に直撃して、羊を絶命させている。


「ふん!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 セルーゲイは穴からかまいたちを連射している。しかし、羊毛は頑丈で、真空の刃はなかなか羊毛の奥まで通らないようだ。


「むぅ…」




★★★★★★

★セラフィーマ十二歳




 セラフィーマはまわりで射撃技ばかりだったので暇を持て余していた。


「出ます!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


「ちょっと、セラフィーマ!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 私は筋力強化と防護強化を使いました。そして壁を飛び越えて羊の群れに飛び込みました。

 あとから私を心配して、マレちゃんも壁を飛び越えてきました。


 マレちゃんの戦いはいつも見ています。私だってやればできるんです!


 私はマレちゃんがユリちゃんといつもやっているのをマネして、突っ込んでくる羊の腹に蹴りを入れました。しかし、羊はとても柔らかく、私の蹴りはただ跳ね返されただけでした。


「わあっ」


 私の蹴った羊は、私めがけて突進してきました。私はとっさに反応できず…。防護強化もしてるから、なんとかなるはず…。


「めえええええ!」


 と思ったら、マレちゃんが羊の顔に蹴りを入れました。


「セラフィーマ、顔だよ。顔には毛がないから!」

「分かりました!」


 マレちゃんの蹴った羊はひるんだだけで、まだ生きています。


「めええええええ!」


 私はマレちゃんの蹴った羊の顔に、もう一発お見舞いしました。やった!倒せた!


「どんどん行くよ!」

「はい!」




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




「ねえ~、ユリアーナぁ。どうすればいいのぉ?スヴェトラーナちゃんの魔法が通じないなら、私の魔法が通じるわけないじゃなぁい」

「じゃあ、これを使ってください」

「なにかしらぁ?」

「頭を温める魔法です」

「そんなことしてどうするのよぉ」

「それだけで絶命しますから」

「そうなのぉ?やってみるわぁ」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 タチアーナはカートリッジを入れ替えて、オルゴールを鳴らした。

 壁の近くにいる羊が倒れ始めた。


「これ、一見なんだか分からないけど、すごいわね~!」


 これは命魔法の頭という単語と、火魔法の加熱を組み合わせたものだ。頭限定で体温を一〇五度まであげる。逆に頭などの部位を指定しないと加熱の魔法は生き物には発動しないようになっている。魔法は発動させる場所が遠いと極端に効果が落ちてしまうので、かなり接近しなければ使えない。学校で教えてもらえる攻撃魔法というのは外傷を与えるものしかない。だけど、他の属性の魔法を転調して使えば、このように簡単に危険な魔法を作れてしまうのだ。


 やはり学園や国には、魔法のメロディを単語として自由に組み合わせることによって、新しい魔法を作れることを知らせるわけにはいかない。だから、どういう魔法か分からないオルゴールという形で渡してみた。タチアーナなら悪用しないだろうし。


「ユリアーナ様!わたくしにも!」

「はい」


 私はスヴェトラーナにも同じカートリッジを渡した。



「おい、ユリアーナ、私にも何かないのか!」

「ではお父様にはこれを」

「これは何だ」

「これはですね……」


 肺から酸素と窒素を除いて二酸化炭素に置き換える魔法だ。酸素とか二酸化炭素の説明はめんどくさかった。


「ふむ、やってみよう」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 これも遠いと途端に効力を失うので、壁のそばの敵だけが倒れ始めた。でも、これらの技は壁があるとかなり有効だなぁ。


「なるほど…。見ても分からないが、空気を失うとこうなるのだな…」


 人間なら数パーセントの二酸化炭素で致死になる。魔物がどれだけ耐えられるかは賭けだったけど、さすがに二酸化炭素を一〇〇パーセントにしたら、簡単に死んでくれるようだ。



 ところで、これは牧畜して羊毛を採れるのではないだろうか。私は壁の外に出て雄と雌を二対ずつスタンガンで気絶させて、異次元収納に回収した。


 そのあと、壁の上にひょいっと乗って、粒子レーザーでひとなぎ。それでもまだ羊はたくさんいる。


「お姉様、氷の矢で小さな氷をたくさん生成してください」

「ええ、分かったわ」


 ぴぴぴぴぴん……♪


「お父様、竜巻で、お姉様の氷をかき混ぜてください」

「ああ、分かった」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 ちりちり…ぢりぢり…があああああん!

 多くの羊が空中に発生した雷に打たれて倒れた。これでほとんどの羊がいなくなった。


「な、何なの?」

「こ、これは、雷魔法ではないか!」


 雷の原理。雲に含まれる氷がこすれることによって発生する静電気だ。


 残りの数匹はセラフィーマとマレリナが二人で顔を蹴って終了。




「はぁ…、全部倒しましたわ」

「まだ終わっていません」

「えええ?」


 ぶー…と轟音の近づく音が…。


「煙が近づいてくる」


 マリアちゃんが壁の穴を覗いて言った。


「虫じゃないかな…」


 ブリギッテの言うとおり、私も虫だと思った。高速に羽ばたく羽根。黄色と黒の縞模様。鋭い針。虫のくせして三メートルの巨体。それが無数に。どうやらミツバチの大群のようだ。


 この世界の魔物の半分くらいは素敵な生き物なのではなかろうか。蜜を集めてもらえるかもしれない!

 まあ、三メートルのミツバチなんて、私がチート転生者じゃなかったら、たんに恐ろしくてキモいだけだろう。ミノタウロスもコカトリスもそうだけど、魔物がスイーツになるなんて誰が想像するだろうか。


「ブリギッテ、壁を正面だけではなく、全体を囲うように出してください。皆さん、コイツなら火でもかまいたちでも何でも効くでしょう。スヴェトラーナ様とお姉様は氷の竜巻で。私はちょっと出かけてきます。それではごきげんよう。ふんふん……♪」


「ちょっ……」「ユリ……」


 私は短距離瞬間転移と飛行で上空へ。上空からミツバチの大群の範囲を確認した。飛べる魔物なら城壁を越えて行ってしまうから、こんなところで籠城してもせき止められない。


「ふんふん……♪」


 ミツバチの大群のど真ん中に氷の竜巻を放って、ミツバチを巻き上げた。よし、寒くなったおかげで動きが止まった。

 そのまま、氷の竜巻を放ちながら、大群の最後尾まで飛んでいこう。

 いた!でかいやつ!女王バチだ!まわりにいるほんの少しだけ大きいのは雄バチかな。それと、数匹の働きバチを一緒にして囲うように異次元収納を開いて、ごっそりゲット!


 こいつら何食べるんだろ…。こんな大きなミツバチが蜜を取れる花ってあるのかな…。ミツバチが来た方角に短距離瞬間移動を繰り返しながら進んでみることにした。えっと、南南西の方だ。



 森ばかりの土地をけっこう飛んできた。マシャレッリ領はもちろん、ローゼンダール王国の範囲からも出ちゃったような…。もう町も村もないよ。


 あった!巨大なミツバチの巣!直径何百メートルあるのだろう…。そのそばに、翼を持った大きな赤いトカゲ…。ドラゴンというやつでは…。三〇メートルのドラゴンがミツバチの巣をバキバキ食ってる…。ミツバチはコイツに追い出されたのか…。

 どうしよう…。ドラゴン欲しい…。ドラゴンといったら、きっとすごい素材になるに違いない。繁殖させたい!

 でも、つがいも見つからないし、そもそもあんなでかくて強そうなもの、地下に閉じ込めておけないかもしれない。


 よし!記憶を操作して、温厚になってもらおう!

 というわけで、念のため筋力強化と防御強化をかけてから、ふんふんと洗脳を歌い、洗脳の有効範囲まで降りていった。


 すると、突然、


「ぐぇっ」


 私は全身を打ち付けられた。ドラゴンの尻尾に。全身マジで痛い…。

 心拍数が上がったからだろうか。精神治療が発動した…。痛いけど、前世で患っていた群発頭痛より痛くない…。私は冷静さを取り戻した。


 私はドラゴンの尻尾に打たれて、急降下している。大丈夫。まだ飛行魔法は切れていない。まずは飛行魔法を制御して空中に停止。そして、ドラゴンの視界から外れるように、森の中に隠れた。


 そして、ふんふんと口ずさみ、まずは骨の治療、肩の治療、腕の治療、肋骨の治療、腹の治療、首の治療、頭の治療、脚の治療。考えられる部位の個別治療を試みてから、最後に全身の治療。

 そして、疲労回復、精神治療。ブレスレットの精神治療は心拍数九十五までしか下げてくれないので、もうちょっと落ち着こう…。


 ばっさばっさと音が近づいてくる。居場所がばれている?

 ごおおおという轟音が迫ってくる!オレンジ色の光が迫ってくる!上空へ短距離瞬間移動!

 上空から見下ろすと、赤いドラゴンが火を噴き、森を火の海に変えていた。


 ドラゴンは火を噴くのをやめて、私の方へ向かってきた!私の居場所が分かるのか!


 私はふんふんと口ずさみ、粒子レーザー砲をドラゴンの目に放った。レーザーは目から脳に直撃したようだ。

 ちなみにレーザーは後頭部を貫通しなかった。レーザーで貫けないとか、どんだけ堅いんだ。

 ドラゴンは羽ばたくのをやめて、落下していった。

 私は念のため、ドラゴンのもう一方の目を狙って粒子レーザー砲を撃った。

 三〇メートルの巨体が地面に打ち付けられ、ずどーんと辺りに鳴り響いた。



 さすがにもう死んだはず…。私はゆっくり降下した。

 ドレスがボロボロだ…。血も付いてる。そんなに多くはないけど。

 なんでまた懲りずにドレスで来たんだっけ…。余裕ぶっこいてたからだよね…。でも蜘蛛の糸の生地で作ったブラジャーとレギンスは無傷。ちょっと寒い。片乳、ヘソ出しルック。ちょっとセクシー。うん。私は冷静。


 ドラゴンは沈黙している。精神治療をかけて冷静になった今だから分かる。ドラゴンを生け捕りにしたいなんて無謀なことを考えたせいで危なく死ぬところだった。防護強化していなかったら確実に死んでいただろう。

 だけど、精神治療は好奇心や興奮で判断を間違うのを防止してくれるかもしれないが、もとからあるうかつさみたいなものを軽減してくれるわけではない。ここまで冷静に分析しておきながら、私はこのドラゴンのうろこが欲しくてたまらない!


 粒子レーザー砲で貫けないうろこ。レーザーソードでも切り取れない。もちろん、筋力強化で剥ぐこともできない。そのまま持って帰れるほどの異次元収納は、数十分しかもたない。


 うー…。誰にもあげないぞ。私が倒したんだ。

 しかたがないので、土魔法で地面を掘ってドラゴンを埋めることにした…。悪い虫除けの魔法をかけておこう…。出直して取りに来よう…。



 ここ、どこだろ…。とりあえず、飛行魔法が切れていたので、飛行魔法をかけ直そうと思ったのだけど、ダメだ、魔力が底を尽きかけてる。魔力の総量って、属性ごとに別だと思うときもあれば、全体で一つと感じられるときもある。もしかして両方あるのかな?いろんな種類を使いすぎると、全体の魔力が足りなくなってくるのかもしれない。

 あああ…。ドラゴンを埋めるので余計な魔力を使ってしまった。私はやっぱり冷静でもダメだなぁ…。これは、大嵐なのに船が心配で港に来て波に飲まれるってやつだな…。死亡フラグ立てちゃったかも…。


 とりあえず、疲労回復したから疲れてない。日が暮れてきて、太陽の向きも分からない。月はこっちだから…、えっと…、飛んできた方向はこっちかな…。


 おなかが減ったけど、今異次元収納を開くと、魔力が尽きて中身が全部出てきてしまうかもしれない。ぐーと鳴るおなかを我慢して、私はとぼとぼと歩くことにした。


 ローゼンダール王国より南側にいるんだ。だけど、真冬なのでさすがにボロボロのドレスと下着だけじゃちょっと寒いなぁ。でも、ノーパンでワンピース一枚の原始人やってたときとあまり変わらないかも。あはは………。




 目覚めると、薄汚いベッドで、砂と埃だらけの布団をかぶっていた。

 身体を起こして考える。


 おかしいな…。私はたしか…、ドラゴンとの戦いで魔力が尽きて、とぼとぼと歩いて帰る…、というアニメを見て寝落ちしたんだっけ…。


「ユリアナ!起きたのね!」

「えっ?」


 私をユリアナと呼ぶ懐かしい声…。私が振り向こうとしたら、声の主は私に抱きついてきた。あったかい…。私はこのぬくもりを知っている…。


「お母さん…」

「ユリアナ…」

「おかあさぁん!」


 私を育ててくれたナタシアお母さん!

 涙が溢れた。今思い返すと、とても恐ろしい。私はチート転生者だから魔物なんてたいしたことないだろうとなめていた。でもチートレベルの魔物だっているんだ…。


 ドラゴンと戦ったところは、コロボフ子爵領の村から近いところだったんだ。


 ぐうううう。


「あっ…」

「うふふ。おなかが減ったのね。今準備するわね」

「うん…」



 懐かしいな。この家を出てもうすぐ四年になるんだっけ。でもこの家は四年前のままだ。

 そして、私はボロ着を着ている。前のドレスを作ったときに買ったボロ着だ。取ってあったんだ…。丈に余裕はあるけど、胸とお尻がパツパツだ。私、縦に伸びてないんだよね。くそー。本当だったら丈が足りなくて恥ずかしい思いをしてるところなのに。あ、レギンスとブラは付けてた。


 破れて血が付いたドレスは、棚の上に適当に畳んで置かれている。もうドレスは着られない。

 ベッドから降りようと思ったら、私のハイヒールが置いてあった。このボロ着にハイヒールってアンバランスすぎる…。


「はい、どうぞ」

「ありがとう」


 お母さんの作ってくれる、塩味だけの野菜スープ…じゃない!野菜たっぷり、お肉たっぷりだ!


「これ…」

「最近商人が売りに来る野菜とお肉が入ってるのよ」


 これはマシャレッリから私が運ばせている野菜だ。売りに来ているのは商人ではないのだ。私の雇った、移動販売馬車なのだ。必要経費だけ価格に転嫁してるけど、利益はゼロなのだ。

 コカトリスのささみも入ってる。塩漬けではない。冷蔵庫で運んでいるものだ。脱酸素と除菌のおかげで五日かけて運んでも腐らないのだ。


「お母さん、いつもこれ食べてるの?」

「そうよ。美味しいでしょ。あのね、神父様があなたを買い取った代金だと言って、毎日銀貨一枚くれるのよ。もう四年になるのに、あなたって、いったいいくらするのかしらね」

「神父様が…」


 クソ神父…。うちに大金を置いておけないのは知ってるから、分割払いなのはいいけど、四年っていったら銀貨一四〇〇枚じゃないか。大金貨いっちゃってるじゃないか。


「お母さん…」

「早く食べなさい」

「はい…」


 塩味なのは変わりないけど、美味しく育つ魔法をかけた野菜とささみは美味しかった。



「さっ、まだ朝まであるわ。寝ましょ」

「うん」


 お母さんは埃だらけのベッドに入ってきた。


「お母さん…」


 うう、また涙が…。歌手になるまで会わないって誓ったのに…。


「あなた、あまり大きくなってないのね」

「ひどい…」

「そうじゃないわ。ちゃんと食べてるの?」

「あ、うん…。エルフって、十歳以降は胸とお尻ばっか大きくなるんだよ」

「そうだったのね」

「身長はお母さんと別れてから一年分しか成長してないけど、胸とお尻は四年分成長したんだよ」

「そうね、けっこう大きいわね。ユリアナは可愛いからモテるでしょ」

「うん!私ね、お嫁さん、六人見つけたんだ!」

「お…よめさん?」

「へへー。すごいでしょ」

「えっと、お嫁さんって女の子よね?」

「あ、そっか。エルフって、女の子と結婚するんだよ」

「そ、そうなのね」

「マレリナとも結婚するんだ」

「まあっ。ちゃんとお勤め果たしてるの?」

「うん。領地と国を豊かにした功績が認められて、引取先の貴族の子とも結婚するし、公爵家っていう、王族の次に偉い家の子とも結婚するんだよ」

「そ、そう」


 あれ、お母さんの顔が若干引きつってる。


「もう、いいから寝なさい。疲れてるでしょ」

「はーい」


 ああ…。お母さんの前だと、私は子供に戻ってしまう。お母さん…。お母さん…。




「……アナ、お母さん、仕事行かなきゃいけないの」

「うーん…。あああ、待って、またマレリナに迎えに来られちゃう」

「そうじゃないでしょ」

「あれ…。お母さん…」


 そうだ…。昨日はドラゴンとの戦いで魔力が尽きて、とぼとぼと歩いて帰るっていうアニメを見て…。じゃなくて、本当にドラゴンと戦ったんだった…。


「あなた、ここにいていいの?」

「帰らなきゃ…」

「じゃあ、ご飯置いておくから、食べてから帰りなさいね」

「えっ、うん」

「それじゃ、元気でね」

「お母さんもね。ふんふんふんふんふーん……、ふんふん……♪」

「またね!」


 せっかくの祝福フルバージョンなのに、最後まで聞いていけよ!まあ、見えてなくても祝福は効果あるけどね。

 お母さん…。きっと別れがつらくなるから、さっさと行っちゃったんだ…。そう考えよう…。



 私はお母さんの作ってくれたスープを食べて家を出た。この村は何も変わらない。私の服装はボロ着。違うのは、私の背が一年分だけ伸びて、胸とお尻だけ四年分成長して、ブラを付けてレギンスをはいてるのと、服に似合わないハイヒール。何ごともなかったように、この村で暮らそうか…。

 いやいや。私には六人のお嫁さんがいるんだ。そして、貴族の義務を負うのだ。

 でも、みんな心配してるだろうけど、ちょっとくらいいいよね。あ、電話しておこう。心魔法だけどね。もう魔力はほとんど回復してるし。


「ふんふん……♪」


(お父様、ユリアーナです。これは心魔法による通信です。返事に同意してください)

(ユリアーナなのか?どこにいるのだ?)

(私はスタンピードの根源であるドラゴンを討伐して、少し休んでいます。そちらは大丈夫ですか?)

(ああ、壁に隠れながら、すべての魔物を駆逐できた)

(それはよかったです。すみません、もう少し休んだら帰ります)

(分かった。あまり心配をかけるなよ)

(申し訳ございません)

(無事ならいい)

(それでは失礼します)


 考えを伝える魔法と聞く魔法について知っているのは、セルーゲイとマリアちゃんだけだ。他のみんなにも伝えておけばよかった。まあいいや。



 私は教会へ向かった。開いている扉から、祝福の曲、変ロ長調が漏れ聞こえていた。


「ふんふんふんふんふーん……♪」


 私は神父様のハープに合わせて、祝福の曲を口ずさんだ。神父様に幸あれ!


「ん?」

「私に魔法を教えてください!」

「はっ?」

「ウソです。学園で教えてもらえる魔法は、全属性覚えてきました」

「それより、キミはここで何をやっている」

「ドラゴン討伐してきたんです。ここから西にそれほど遠くない場所です。ヘタすると、この村など跡形もなかったかもしれません」

「なん・だ・と…」


 そうそう、言ってて気がついたけど、私が歩いてきた距離なんてたいしたことないだろうから、ドラゴンがいたことも、ミツバチの巣があったことも、マジでやばかったんじゃない?


「たぶん、お母さんか神父様にかけた祝福が、私を呼び寄せたんですよ。私って、どうやら祝福の出来事を自分で実行しなきゃいけないみたいなんです」

「ワケが分からん」

「お母さんと神父さんに厄除けをかけたら、厄となる魔物を私が祓わなきゃいけないんです」

「祝福で自分が利益を得たのでバチが当たったのだろう」

「そうかもしれません」


 なんだか皮肉を言われるのも懐かしいなぁ。


「何を笑っている」

「何でもありません」

「私はキミを買って、マシャレッリ伯爵に売りつけたのだ。キミはここにいてはならない」

「神父様ったら、お父様に請求してないそうじゃないですか」

「いいから帰りなさい」

「そうそう、聞きたかったことがあるんです。私たちのことをなんといってお父様に紹介したんです?」

「早く出ていけ!」

「はぁ…。分かりましたよ。また来ますね」

「もう来るな!」

「あ、これをあげます。ふんふん……♪」

「空間魔法…」


 私は異次元収納を開いて、魔法の楽譜辞書を取りだした。メロディと単語の対応表だ。もちろん、楽譜の読み方やメロディの組み立て方も書いてある。こういうの好きそうだと思って。


「それでは。ふんふん……♪」


 扉の外を見て、短距離瞬間移動で厨二病っぽく去った。


「消えた…。これも空間魔法か…。魔法の音楽を紙に記したものだと?魔方陣を音楽にできるだと?他の属性の音楽や魔道具の音楽を組み合わせて自由な魔法を作れるだと?あいつは何をやっているのだ…」


 私の地獄耳には、神父様の最後の言葉が聞こえた。どうやら喜んでもらえたようだ。



 教会の外に出たら、すぐに飛行と短距離瞬間移動で上空へ。


 お母さんはどこかな。私ってお母さんがどこで何の仕事してるのか知らない…。この村では畑か狩りくらいしかないと思うんだけど…。

 畑にいる人…。男か女かくらいしか分からない。みんな灰色髪だ。ボロワンピースか、ボロズボンのどちらかだ。

 畑は真冬だからか、あまり作物がない。やっぱりマシャレッリから売りに来させておいてよかった。


「ふんふん……♪」


(お母さん、また来るね!)

「えっ?」


 考えを伝える魔法!場所が分からなくても、相手をイメージできればいいのだ。

 そして、顔を上げてキョロキョロしているお母さんを発見!地獄耳だから声も聞こえた!


(上だよ!)


 お母さんは空を見上げた。私は手を振った。お母さんは手を振ってくれた。


「ユリアナ…。私の天使…」


(そう。私、マジ天使)

「ふんふん……♪」


 作物が大きく美味しく香り高く栄養たっぷりにすぐにたくさん育て!害虫も寄せつけない!病気も治れ!


 とっさに思いついた他の属性のあらゆる語句も並べて、木魔法を放った。すると…、畑の何もなかったところから、野菜の芽がにょきにょきと…。あれ…。成長促進ってこんなファンタジーなことは起こらないはず…。「すぐに」が効いたのかな…。

 「天使」だなんて冗談で言ったのに、本当に天使とか女神みたいになってしまった…。


「すごい…。ありがとう~、ユリアナ~」

(うふふ、どういたしまして)


「ふんふん……♪」 


 そのまま天使っぽく、短距離瞬間移動で可能な限り遠くへ飛んだ。

 ところが、私はお母さんと神父様の二人に祝福の曲フルバージョンをかけてしまって、魔力がほとんど残っていないことに気がついた…。厨二病全開で去ったのに、また泊めてもらうとかかっこわるい…。飛行魔法なら魔力足りそうだから、ゆっくり帰ろっと…。とほほ…。



 なんだかんだいって、日が暮れるころにはマシャレッリの屋敷にたどり着いた。


「ただいま…」


「ユリアナ!」

「ユリアーナ!」

「ユリアーナ様!」

「ユリちゃん!」

「ユリアーナ!」

「ユリアーナ!」


「んぐぐ…」


 屋敷の扉を開けると、マレリナ、アナスタシア、スヴェトラーナ、セラフィーマ、マリアちゃん、ブリギッテが心配そうな顔をして出迎えてくれた。そして、胸を押しつけられたりして、ぎゅうぎゅうになって、両腕のブレスレットの魔力があっという間に尽きて、私は昇天した。




「んん~…」

「ユリアナ、起きた?」


 知ってる天蓋だ。目覚めると朝だった。


「みんなは?」

「朝ご飯」

「そっか。心配かけてごめんね」

「ねえ。これ」

「あ…」


 マレリナが持っているのは、村のボロ着。私はネグリジェに着替えさせられていた。


「えっとね、スタンピードの根源を追っていったらね、コロボフ子爵領の故郷の村の近くにいたんだよ」

「ふーん。なんでそんなに後ろめたそうなのさ」

「いや…、その…。私だけお母さんに会ってきちゃったから…」

「ユリアナは会おうと思えばいつでも会えるんだね」

「そうだね…。でも歌手になるまで会いにいかないって誓ってたんだ。それなのに、ドラゴンと戦ってボロボロになって、気がついたら村だったんだ…」

「会ったら逆につらくなっちゃったんじゃない?」

「うん…」

「そうだと思った。私はべつに、ユリアナだけお母さんに会えてうらやましいとか思ってるんじゃなくて、お母さんに一度会っちゃったユリアナが今つらい思いをしてるんじゃないかなと思っただけだよ」

「マレリナぁ…、うわーん…」


 私は思わずマレリナに抱きついてしまった。ああ…、マレリナってお母さんみたい…。


「落ち着いた?」

「うん…」

「ねえ、ドラゴンと戦ったの?」

「うん。尻尾の攻撃を食らっちゃってね…」

「今はなんともないんだね」

「うん。とっさに治療かけまくったから」

「そっか」


「ユリアーナ様、お目覚めになったのですね」

「「「ユリアーナ!」」」「ユリちゃん!」


 みんな朝ご飯を食べ終えて、部屋に戻ってきた。


「うわー、昨日みたいなのは勘弁…」


 ハーレムはほどほどに…。ブレスレット充電してないし…。


「ユリアーナ、ドラゴンを倒したというのは本当なのか」

「ユリアーナぁ、ドラゴンを独り占めなんてずるいわぁ」


 セルーゲイとタチアーナも部屋に入ってきた。

 私はドラゴンがミツバチの巣を喰らっていて、追い出されたミツバチがスタンピードを起こしたことや、私が討伐しなければコロボフ子爵領の村が壊滅していたかもしれないことを説明した。


「ドラゴンか…。まさか伝説の魔物を倒してしまうとはな…」

「伝説なのですか?確かにうろこは堅く、並大抵の魔法は効かなそうでしたね。でも、目はそれほど硬くなかったです」

「あまり一人でムチャをするなよ。おまえは大事な跡取りなのだ」

「も、申し訳ございません…」


 確かに、一歩間違えば死んでた…。


「ふんふん……♪」


 私は自分に精神治療をかけた。深く思い出すとPTSDになりかねない。

 そして、冷静になったらなったで、私はドラゴンの死骸を回収したくてしょうがない。でも、三〇メートルの巨体を入れた異次元収納は数十分しか維持できないし、同じ空間魔法である短距離瞬間移動を繰り返すと異次元収納を維持できる時間も減ってしまう。かといって、短距離瞬間移動を使わないで飛行魔法だけで飛んでくると、数時間かかってしまい、やっぱり異次元収納を維持できない。ちょっとずつ分解して持って帰るしかないかな。


「あの…、ドラゴンの死骸をかい……」

「ユリアーナ様、替えのドレスはどこですの?」

「えっ」

「まさかないのではありませんか?」

「あ、ありません…」

「侯爵令嬢ともあろう者がドレスを一着しか用意していないとは何ごとですか!」


「私もこれ一着しか持ってません」

「セラフィーマ様は黙らっしゃい!」


 うう…、ドレスで魔物討伐なんて行くんじゃなかった…。だって、みんなドレスだったし…。


「まあ、そんなことだろうと思ったので、今日は仕立屋が来ますわ」

「すみません…」

「早く朝食を召し上がってください」

「はい…」


 というわけで、朝食をいただいたあと、仕立屋がやってきて、ドレスを四着つくることになった。仕立屋は、マシャレッリ家直営なので、無理が利くのだ。一着は一週間でできるってさ。



 とりあえず町娘の服を着た。これも丈はじゅうぶんなんだけど、胸はパツパツになってきてるなぁ。実をいうと、昔のドレスをまだ取ってあったりするのだ。それも胸が爆発するかもしれないけど、丈は大丈夫なはずだ。

 私ももうすぐ十三歳。やっぱり身長は伸びてない。でもあいかわらず胸とお尻だけは成長している。お母さんには大きくなってないと言われてちょっとショックだったけど…。


 アナスタシアとマリアちゃん、ブリギッテは一年で一センチ伸びている。ブリギッテはエルフだから身長の伸びが五分の一なのだけど、アナスタシアが伸びないのは小さいころの栄養失調が原因だし、マリアちゃんは家系なのかな。




「ユリアーナよ、教えてくれ」

「はい」


「私も知りたかったんです!」

「えっと…」


「よいぞ」


 なぜかセラフィーマと一緒にセルーゲイの執務室に赴いた。


「アナスタシアの作った氷の矢を、私の竜巻でかき混ぜたときに発生したアレは何だ」

「雷です」

「水魔法と風魔法で雷を起こせるというのか」

「はい。雷というのは、氷がこすれ合って発生するものなのです」

「なんと…」


「これは世紀の大発見なのではありませんか?水魔法使いと風魔法使いが力を合わせると、雷魔法使いのまねごとができるなんて」

「ああ。魔法使いは他属性の魔法使いと連携したりしないからな。組み合わせると別の属性になるなんて、誰も思いつかないだろう」

「マルチキャストのユリちゃんならではの発見ですね」

「うむ」


 セルーゲイとセラフィーマは、なにげに気が合いそうだ。もちろん私の嫁だからあげないよ。


「では、空気…あー、酸素と二酸化炭素といったか。あれをもう少し詳しく教えてくれ」


「私たちが吸っている空気には、酸素が二十パーセント、二酸化炭素が〇・一パーセント以下、窒素が八〇パーセント含まれています。そのうち、私たちは酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すのです。この二酸化炭素というのは毒なのです。空気中の二酸化炭素が七パーセントを超えると私たちは死に至ります。そこで、魔物の肺の中の空気のすべてを二酸化炭素に入れ替えてしまうのです。さすがの魔物も一〇〇パーセントの二酸化炭素を肺に送り込まれたら、ほぼ即死のようですね。

 でも、これをできるのはお父様のような高位の風魔法使いだけです。魔法というのは発動場所が遠くなると途端に威力を失いますし、魔物のような魔力持ちの近くで思ったように発動させるにはさらに強い魔力を必要とします」


「なるほど…。おまえは見えないものの操作をよく実現できたな…」

「ユリちゃんは耳の能力がとても高いので、目の能力が高くてもおかしくありません」

「たしかに一理あるな。それにしても、そんな魔法があったとは…」


 ちょっと、適当なこと言っちゃって…。私の目は胸のサイズを測ることくらいしかできないよ。


「それと、タチアーナに教えていた魔法は何だったか」


「まず、それを教えるには知っておいてほしいことがあります。魔法の音楽のメロディは、単語に対応しているのです………」


 私は、単語とメロディの関係、転調して他の属性で使い、自由な魔法を作れることなどを説明した。


「魔法を作るだと?それが国に知られたら…」


「はい。危険なのです。お母様に教えた魔法は、頭を一〇五度まで温めるという非常に簡単なものです。人間というのは頭の温度が四十二度になると死に至ります。魔物は頑丈ですが、血液が沸騰するように一〇五度まで温めてやれば、さすがに簡単に死んでくれるようです。

 とまあ、非常に簡単に人を殺してしまう魔法を作れてしまうのです。だから、このことを国や学園には公表しないことにしました」


「賢明な判断だな…」

「ユリちゃんの魔法は神の所行です!私は一生ユリちゃんに付いていきます!」


「ふんふん……♪」


 私は異次元収納から、学園で使っている魔法の楽譜と、メロディと単語の対応表、それからハープを出した。


「これは私が学園の授業に導入させた楽譜というものです………」


 私は学園に楽譜を導入して、教師がハープを弾いているところを見なくても、楽譜を見れば魔法の音楽を覚えられることを説明した。楽譜の最初には楽譜の見方も書いてある。ハープの弦との対応とかね。


「まさか、魔法の音楽を紙に記すことができるとは…」


「それから、こちらがメロディとローゼンダール王国語の単語との対応表です………」


 単語を組み合わせて、自由に魔法を作れることを説明した。


「なるほど…。言葉を組み合わせて文を作るように魔法を作るのか…」


「その表をお父様に差し上げます」

「セルお父様もオリジナルの魔法を作りましょう!」


「こ、これは貴重で危険な文献だな…」

「魔方陣にもできますよ」

「ちょ、ちょっと待った!もうゲップが出そうだ」

「そうですね。お姉様の作った自動水栓とか、この屋敷で使われている魔道具のことを知りたくなったら言ってくださいね」

「ああ…わかった」



「ところで…、セラフィーマ嬢は研究が得意なのか?」

「はい!私はユリちゃんと魔道具の研究に励んでおります!」


「ではこのまま話そう。マシャレッリ領はここ数年、神父を雇う金もなかったので、教会には神父がいなかったのだ。だが、余裕が出てきたから神父を雇うことにしたのだ。

 教会の役割は知っているな?平民に生まれた魔力持ちを探して、貴族の養子や妾として斡旋するための場所だ。

 ところが、その神父が調査したところ、ここ三年間で生まれた赤子五〇人のうち四〇人が魔力持ちなのだ。そのようなことは前代未聞だ。平民の魔力持ちは一〇〇人に一人と言われている。それが…、五〇人のうちほとんどが魔力持ちだ。セラフィーマ嬢はこれをどう見る?」


「ユリちゃんの奇跡です!」

「うむ。そう考えるのが妥当であろうな。ユリアーナを養子に取ってから話だからな」


「ちょ…」


 たしかに私は、マレリナがじつは魔力持ちだったという事実改変を起こしたことがあるけど…。


「このことの原因になり得るのは何だと思う?」

「ユリちゃんの存在です!」

「それは間違いないのだが、ユリアナのやらかした何が原因だ?」

「ユリちゃんのやったことは…」


 やらかしただなんて酷いと思うけど、やることなすこと全部やらかしといわれるのは転生者の嗜みだしね。


「私はユリちゃんが王都でやったことしか分かりませんが、ユリちゃんがやったことは先ほどの魔法に関する大発見と、娯楽音楽、甘いパン、服、魔道具といったところでしょうか」

「ユリアーナが来てからマシャレッリで真っ先にやったのは甘いパンだな。つまり甘いパンか」

「分かりました!果物を使ったパンが平民の子に魔力を与えるのです!」

「ふむ…、よい仮説だ…。よし、セラフィーマ嬢、教会に赴き、魔力を持つ子供と親、そしてそうでない子供と親の食事を調べよ!」

「了解です!セルお父様!」


「ちょっ、セラフィーマ、待って~」


 ううう、予定になさすぎる。羊とミツバチを早く出してやりたいんだけど…。




★★★★★★

★セラフィーマ十二歳




 セラフィーマはメイドに馬車を手配させた。まだ嫁いでもいないのに、マシャレッリ家の馬車や御者を勝手に使っている。


「ユリちゃん、行きましょう!」

「ええ…」


 ユリちゃんとデートです!研究デートです!

 でもまあ私のメイドは付いてきます。ユリちゃんは相変わらずメイドを連れていません。


「ユリちゃんちの馬車はとても乗り心地が良いですね。これをもっと応用したものを作れないか検討したいところですね!」

「これは私が魔石に魔力を充填しておかないと、空間魔法の消費が大きすぎるので、もっと空間魔法の効果を限定したものを商品化するといいかもしれませんね」

「なるほど」


 私には商品化のことはちんぷんかんぷんです。私はただ機能を付け足したり、設計したいだけですので。



「着いたわよ」

「はい」


 馬車を降りて教会に入ると、六十歳ほどのおじいさんが出迎えてくれました。


「ようこそおいでくださいました、私は神父として雇っていただいております、アルフレートでございます」

「ユリアーナ・マシャレッリです」

「セラフィーマ・ロビアンコです」


 アルおじいさん神父の髪はほとんど灰色ですが、ほんのり黄色、いや、金ですね。神父は聖魔法使いと決まっていますから。


 おじいさん神父の案内で、三年間に生まれた子供の家を一軒一軒回っていくことになりました。ユリちゃんは最初の一軒目で私に作業を入念に説明してくれました。作業内容は、まず魔力の調査。それから、食べているものの調査です。果物、肉、牛乳、卵、野菜、小麦、などなど、それらの種類と摂取量です。それらの調査を、子供だけに行うのかと思ったら、親にも同じ調査をするそうです。


「魔力の調査はどのようにするのですか?髪の色だけですか?」


 今見ている子の髪は、ほんのり青みがかっていますが。


「これを使います。ふんふん……♪」


 ユリちゃんは異次元収納から円状の石版を取り出しました。赤、黄、以降、緑、橙色、青、水色、ピンク、白、紫、金の石が並んでいます。


「ってこれは入学式で使った魔力検査具ではないですか」

「作ったのよ」

「さすがです!あれ?石が十個しかないですね」

「これは魔道具の魔力観測の魔方陣を使っているのだけど、私は邪魔法という単語と時魔法という単語を知らないから、それらの魔力を観測する魔方陣を組めないのよ」

「なるほど。そういえば、私は先に検査を済ませてしまったので、ユリちゃんが何の石を光らせたか知りません。これに手を当てるとどうなるのですか!」

「うふふ、帰ったらね」

「そうですね!」


 全部光らせるに違いありません!私がユリちゃんの使っている魔法を見たのは、火、雷、木、土、水、風、空間、命の八種です。でもきっと、心と聖も光らせるに違いないし、この検査具で検査できない邪と時も持っているはずです。だってユリちゃんですから!


「それじゃあ、残りの家の調査、お願いね」

「えっ、ユリちゃんはどうするのですか?」

「私は別の仕事があるので…」

「ユリちゃん…」

「これも立派な魔法の研究なのよ。食べ物と魔法に関係があるかもしれないんだから」

「そうですね!やります!」

「それではごきげんよう~」

「はい!……あれ……」


 ユリちゃんが帰ってしまいました…。寂しいです…。だけど、この調査は楽しいです。どの食べ物がどの属性に結びついているとか分かったら、皆、積極的にそれを食べるようになるでしょう!




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 ふう。セラフィーマをうまいこと言いくるめて、余計な仕事を押しつけられた。私は走って屋敷に戻った。

 いや、たしかに食べ物で魔力が発現するなら、それはこの国の根幹を揺るがす一大事だ。べつに、魔力を持っている者が貴族で、持っていない者が平民というわけではないけど、魔力を持った子供は養子や妾として貴族に取り立てられるのが常識だったからだ。


 でも、とりあえず魔力の調査は切羽詰まっていない。今は、なまもの…、異次元収納に入ったままになってる羊とミツバチをどうにかしなきゃ。屋敷の地下の牧場を潰してしまったのだけど、やっぱり秘密基地は必要だよねえ…。というわけで、新居の裏に地下を掘った。そこに、羊の雄雌二頭ずつと、ミツバチを放牧した。羊は何を食べるのか分からないので、果物の種をひととおりまいておいた。ミツバチもしかたがないので、果物の種をまいた。だけど、三メートルのミツバチが花粉を取れるような大きな花が巣の近くにあったんじゃないかなぁ。ドラゴンを回収する前に、花の探索が先か…。さもないと、ミツバチが飢え死にしてしまうかもしれない。


 よし。出かけよう。

 というわけで、


「ふんふ……」

「ユリアナ!どこ行くの!」

「あっ…」


 地下から出てきて飛行魔法を使おうと思ったら、マレリナがいた…。


「マレリナ…、なんで町娘の服?」

「私も連れてって!」

「えっ」

「早く!みんなに見つかっちゃう!」

「わ、わかった」


 私におぶさるように後ろに手をやってかがんだ。マレリナは私におぶさった。


「ふんふん……♪」


 私は飛行魔法と短距離瞬間移動を口ずさんだ。




★★★★★★

★マレリナ十二歳




 私がユリアナにおぶさると、ユリアナは魔法を口ずさんだ。すると、景色が一瞬にして変わった。空の上だった。


「すごい…。これがユリアナの見てる世界なんだね」


(空の上は風が強くて声が聞こえにくいから、心魔法で話すよ。マレリナも私に話すって同意して)

(こう?)

(うん。聞こえたよ)


 ユリアナは一瞬で空の上に移動するし、声を使わずに話すし、あいかわらずめちゃくちゃだ。


(じゃあ行くね)

(うん)


「ふんふん……♪」


 ユリアナは何度も魔法を口ずさむ。そして、そのたびに景色が変わっていった。もうちょっとマシャレッリ領を空から眺めてみたかったけど、ユリアナはお構いなしに飛んでいって、あっという間にマシャレッリ領が見えなくなってしまった。


(一昨日の戦場…)

(派手にやらかしたね)


 もこもこの魔物の死骸と虫の魔物の死骸が、焼け焦げていたり、バラバラだったり…。まわりの木も一緒だ。

 そのあとは、しばらく無傷に見える虫の死骸が続いた。


(あれはユリアナがやったの?)

(うん。虫は低温に弱いから、氷の竜巻でね)

(そうなんだ…)


 ユリアナはあいかわらずいろんなことを知っている。



 何十分か飛んだあと、ユリアナは上空で停止した。


(あったあった。蜂の巣の残骸)

(あれが欲しいの?)

(あれはねミツバチの巣なんだけど、あれが欲しいわけじゃないんだ。ミツバチの餌になる花が、この辺のどっかにあると思うんだよね)

(ふーん)


 学園で習った魔物には、あんな虫の魔物あったかなぁ。どっからそんな知識を仕入れてくるのかな…。


(あった!あれに違いない!)


「わあああ」


 ユリアナは急に飛ぶ力を失ったみたいに落っこちた。私は怖くなってユリアナを強く抱きしめた。


「マレリナ…。もっとお願い…」

「えっ?」


 私の手はいつの間にか柔らかいものを掴んでいた。これって…、


「わあ、ごめん」


 私は慌ててユリアナの胸から手を離した。ユリアナはいつの間にか地面に足を付いていたので、私はユリアナの背中から降りた。


「私…、女になりそう…」

「何言ってんのさ」


 最近、マリアちゃんとかセラフィーマに譲りっぱなしだったから、なんだかずいぶん長い間ユリアナを抱いて寝てない。ユリアナはアナスタシアのことを筋肉がなくてふにふにで触り心地が良いとかいうけど、ユリアナだってとても筋肉が付いてるようには思えない、ふにふにの肌をしている。私は筋肉を鍛えていくとどんどん堅くなっていくのだけど、私より力のあるユリアナはいつまでも柔らかいままだ。これはエルフと人間の違いなのかな。もうちょっと触っていたかったな…。


「むふふ。この花でっかいねー。菜の花かなぁ。これ、油も取れそうだなぁ…。ふんふん……♪ふんふん……♪」

「わああ」


 ユリアナが魔法を口ずさむと、花が動き出した。そして、異次元収納ってやつの中に花は根っこごと歩いて入った。

 ユリアナは十本ほど同じ花を回収していった。



「あれ、この木、なんかベトベトしてる…」


 ユリアナが木に寄っかかろうと手で触れたら、何やら土色のベトベトした液が付いていた。


「良い匂いだね」

「うん…。これってもしや…」

「ちょっとユリアナ大丈夫?」


 ユリアナはベトベトが付いた指を、なめてしまった…。私は毒を疑い、オルゴールを準備した。


「甘い!やっぱりメープルシロップだ!」

「メープルなに?」

「ほら」


 ユリアナはベトベトの付いた指を差しだした。その中には、ユリアナのなめた指と、まだなめてない指があったのだけど、私はユリアナのなめた指を選んでなめてしまった…。


「ホントだ…。甘い…」


 甘いのもあるのだけど、ユリアナの指はユリアナの味がした…。


「ふんふん……♪ふんふん……♪」


 ユリアナは気にした様子もなく、同じ魔法を口ずさんだ。すると、木が動き出して、異次元収納に入っていった。


「よぉし…。これはメープルシロップとしても使えるし、ちょっと風味の付いた砂糖にもできるぞ!」


 ユリアナはまたワケの分かんないことを言ってる。これは何か新しいことを企んでるってことだ。



「よし、じゃあ、ドラゴンを少しだけ持って帰るかな」

「うん」

「たしかこの辺。ふんふん……♪」


 甘い木のあったところから少し歩いて、ユリアナは魔法を口ずさんだ。すると、地面の土がかってに掘られていった。すると、大きなトカゲが顔を出した。


「これがドラゴン…」

「マジで堅いよ。ふんふん……♪」


 ユリアナが魔法を口ずさむと、ユリアナの手にぶぅんと光る剣が現れた。以前、蜘蛛の糸を切るのに使ったやつだ。

 ユリアナは光る剣をドラゴンのうろこに突き立てたが、刃が通らないようだ。


「どうするの?こんな大きいもの、異次元収納に入るの?」

「入らないことはないんだけど、それだと数十分で魔力が尽きちゃうんだよね。だから、分割したいんだよ。これ、うろこに刃が通らないけど、こうやって…、うろこの隙間に…、刃を入れると……、ふんぎーーーー、剥げた!わああ」


 ユリアナは連なっている一メートル四方くらいのうろこの隙間に光の剣を入れていった。そして、今度は両手を入れて、足をドラゴンの体に付けて、垂直になって踏ん張った。すると、うろこがベリッと剥げた。そして、ユリアナはうろこと一緒に吹っ飛んで、ずるずると地面を滑っていった。


「いたた…」

「あはは」


 ドジなユリアナ。なんだかほっこりする。


「じゃあ、マレリナにもこれをあげるね」

「うん?」


 ユリアナがくれたのは剣の柄のようなもの。


「このボタンを押すと、これと同じものが出てくるから」

「うん」


 私が剣の柄の端に付いたボタンを押すと、ユリアナが魔法で出したのと同じ、光る剣がぶぅんと現れた。


「三十分くらいしかもたないから、刃が出なくなったら充電するから一度返してね」

「わかった」


 ユリアナはこんな魔道具まで作ってたんだ…。


「それ、ドラゴンだから刃が通らないけど、普通の魔物とか人間は生クリームみたいに切れちゃうから気をつけてね」

「こわ…」


 私はユリアナと同じように、光の剣の刃をうろことうろこの間に入れて、それからオルゴールで筋力強化を使ってうろこを剥がしていった。

 三〇枚くらいたまったところで、


「今日はこれくらいが限度かなぁ。木とか花もいっぱい積んだから、これ以上入れると帰るまでに魔力が尽きそう」


 そういって、ユリアナは異次元収納にうろこを入れ始めた。


「じゃあ帰ろっか」

「うん」

「その前に、故郷の村、寄ってく?」

「私はいい」

「そっか」

「あのさ、ユリアナがマシャレッリ家の当主になったらさ、ユリアナのお母さんと私の家族をマシャレッリ領に移住させたらどう?」

「えっ…」

「ユリアナと私のお母さんは畑仕事で、お父さんは猟が仕事だから、べつにどこに住んでもいいと思うんだ」

「その手があったか…。そうするよ!」

「うん。だから今日は会わなくていいよ」

「分かった。じゃあ乗って」

「うん」


 私はユリアナにおぶさった。ユリアナは背中も柔らかい。


「ふんふん……♪ふんふん……♪」


 ユリアナが二つの魔法を口ずさむと、景色が空の上に変わった。そして、マシャレッリ領の方向に移動していった。


(また心の声で話してね)

(分かった)


 途中、風が強くなって私はバランスを崩しそうになり、ユリアナをがしっと抱きしめた。


「はう…」


 すると、またふにっとした感触が…。私が慌てて手を離そうとすると、ユリアナは顔を赤らめながら、離れていく私の手を止めて、自分の胸に押しつけた。


「もっと…」


 空の上では声が聞こえにくかったけど、ユリアナは私にもっと胸を触ってほしいみたいなので、そのまま胸に手をやったまま飛んでいくことになった。



 私がユリアナの体を気にし始めたのはいつだったかな…。ユリアナは十歳のころから身長が伸びないのを悩んでいるけど、胸とお尻は私と同じくらいに成長してる。胸とお尻といったらスヴェトラーナ様のほうがよほど大きいのだけど、それをうらやましいとは思っても触れたいとは思わない。私が触れたいのはユリアナだけ。

 みんなで揉みくちゃになったとき、ブリギッテだけはよくユリアーナだけじゃなくてみんなに触れあってくるのだけど、ブリギッテに触れられると変な気持ちになるな…。そう考えると、人間の女の子は人間の女の子に触れたいとは思わないけど、エルフには触れたくなるってことなのかな。でも、私がいちばん触れていたいのはユリアナなんだ。


 あるときからユリアナはおかしなことを言うようになった。たぶん、村で私が迎えに行くようになったときからだ。そのときから、ユリアナは「歌う」ことを仕事にしたいと思うようになって、私たちの運命は変わった。

 ユリアナは誰も知り得ないような魔法を使うし、声をハープの代わりにして魔法を使える。ハープに頼らず一瞬で魔法を使えるオルゴールを作り出した。ハープ以外の楽器も作り出した。今までろくに食べることのできなかった果物やお肉も、みんなで食べられるようにしてくれた。まるで、それを最初から知っているかのように、次々と新しいものを作り出したり発見したりする。

 今回も何かもくろみがあってもこもこの魔物と虫の魔物を回収しているようだった。


 村で神父様にいろいろ教えてもらっているとき、神父様はこう言った。「ユリアナは神の使いかもしれない。ユリアナは神から天啓を受けて、様々なものをもたらすだろう」と。そのときは何を言ってるのか分からなかったけど、今なら分かる。ユリアナは神様からいろいろな知識を与えられていて、その知識を人々の暮らしが豊かになるように使ってくれているのだと。

 神父様は言った。「神の使いであるユリアナを離してはならない」と。言われなくても私はユリアナを離さない。べつに神の使いだからじゃなくて、私はユリアナを好きだから離さないんだよ。


 私はユリアナを抱きしめる力を強めた。


「はう…」


 ユリアナも嬉しそうにしてくれている。なんだかふらふら飛んでる…。


(ねえ、ユリアナ、大丈夫?)

(もっと…)


 うーん。ユリアナの胸にもっと触れていたかったけど、このままでは墜落しそう…。私は胸に触れていた手をおなかに移動した。


(ユリアナ、まっすぐ飛んでね)

(うぐぅ…)


 昨日の夜はうやむやになってしまったけど、ローテーションで今日は私がユリアナを抱いて寝られる。夜まで我慢しよっと。


 数十分飛んだあとマシャレッリの屋敷にたどり着いた。その頃には日が赤く染まっていた。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




「ひどいですわ!」

「ユリアーナぁ、構ってよぅ」

「ユリちゃん、魔道具の研究!」

「たくさんの嫁を放置だなんて、ユリアーナは罪な女だなぁ」

「ユリアーナ…寂しかった…」


 玄関ホールに入ると、お嫁さんたちが怒っていたり悲しんでいたり…。


「ごめんなさい…」


 屋敷に到着すると、まずマレリナは姿を消してしまった。たしかに、この場にマレリナと一緒に現れたら、マレリナはなんて言われるか分からない。


 今日のマレリナは大胆だった…。私、胸を揉まれたのは初めてだった…。

 スヴェトラーナから胸を押しつけられて興奮しちゃうから、私は薫の記憶にある男としてしか機能してないのかと思っていた。だけど、胸を揉まれたら、なんだか今まで感じたことのない気持ちになった…。頼りになるマレリナが素敵に見えて、マレリナのものになりたいと思った…。

 こういうのって、女の子が男に感じることなんじゃないかな…。私は今まで自分を女の子だと思ってきたけど、実際には女の子っぽい気持ちになったことはなかったし、もちろん薫もそんな気持ちを知らない。


 私、マレリナのことを、やさしいお母さんタイプだと思っていたけど、今日はなんだか素敵な男性のように感じてしまった…。いや、男性を素敵だと思ったことは今世でも前世でもないので、その例えはおかしいけど。


「聞いてますの?」

「はうぅ…」


 マレリナのことを考えていた私に、スヴェトラーナは胸を押しつけてきた。すると、心拍数が上昇。ブレスレットが発動して、心拍数が九十五以下に制御される。

 ううう…。スヴェトラーナの胸にはかなわない…。でもまだ、私からみんなに手を出すわけには…。まだ結婚するまでに三年もあるのだから、私から手を出すわけにはいかないのだ。私はまだ、女の子に子を授ける方法を知らない。だけど、手を出したらいつそれに目覚めるか分からない。エルフの本能は強すぎて、私は何をやらかすか分からない。


「す、スヴェトラーナ様!」

「はい」

「も、もう少し控えめにしてもらえないと、私は何をしでかすかわからないわ…。人間とエルフは違うのよ。あまり誘惑されると、私、けだものになってしまうかもしれない…」

「ご、ごめんなさい…」


 スヴェトラーナは私を離してくれた。でも、マレリナに抱かれて女の子の気持ちになろうとしていた私は、スヴェトラーナに抱かれてあっという間に男の気持ちに戻ってしまった…。


「もしかしたら、ハイエルフはエルフよりも感じやすいのかもねー。ハイエルフってアレが来る感覚も長いだろうから、機会を逃さないようになってるのかもね」


 ブリギッテはまた身も蓋もない言い方をする…。


「あの…、数日間はドラゴンの遺体を回収しに行きたいので、みんなを連れて行くことはできないわ」

「じゃあ、明日は私を連れてって!」

「えっ」


 アナスタシアがいつになく積極的!


「分かりましたわ。一人ずつしか連れて行けないのなら、順番にしましょう。ね?マレリーナ様」

「ギクっ」


 玄関の扉を少し開けてこちらを覗いていたマレリナは、スヴェトラーナに見つかってしまった。まあ、私だけじゃなくてマレリナもいなかったから、二人で出かけていたのはバレバレだったか…。


 というわけで、毎日交代で一人ずつドラゴンの遺体の場所に連れて行くことになった。




 その夜、アナスタシア、スヴェトラーナ、マリア、私、マレリナ、ブリギッテ、セラフィーマの順に並んで寝た。ローテーションを守っているらしい。


「ユリアーナの隣!」

「ま、マリアちゃん…」


 マリアちゃんは私の腕を抱いて、胸を押しつけて、しかも上目遣いで見てくる。いくらマリアちゃんの胸が控えめだとしても、女の子にこんなふうにされたらドキドキせずにはいられない。ブレスレットは発動したりしなかったり。これでスヴェトラーナとマリアちゃんに平等に興奮できるのだ。たぶん。


「ユリアナ…」

「ああん…」


 そして、反対を向くとマレリナがいて、私のネグリジェの下から手を入れて、私の胸を触ってきた…。マレリナ…、大胆…。空中で感じたのと同じ気持ち…。


 ちょっと待って…。私は左半身が男の気持ちになっていて、右半身が女の気持ちになっている…。エルフのやり方って、本当にこれであっているのかな…。


 マリアちゃんもマレリナも、さっき言ったこと聞いてなかったのかな…。私はまだ、男としても女としても目覚めてはいけないんだ…。



「きゃあ…」

「ご、ごめんなさい…」


 突然アナスタシアの悲鳴。なぜか謝るスヴェトラーナ。

 私は身を起こした。


「どうしたの?あっ…」


 スヴェトラーナのネグリジェに血が…。その下のシーツにも…。スヴェトラーナは蜘蛛の糸の生地、冬仕様で作ったレギンスをはいている。冬仕様は風船として使える気密性の高い生地なので、血がしみこんだりしない。だから、レギンスの裾の隙間から血が漏れていた。


 マレリナはガバッと起き上がって、オルゴールを取りにいった。


「お待ちになって。これは月のやつなので…」

「えっ?怪我はないんですか?」


 私が自分が女として目覚めるかどうかを考えていたけど、そうだよね、スヴェトラーナほど発育が良ければ、とっくに女として目覚めてるよね。


「お嬢様」

「ありがとう」


 スヴェトラーナのメイドが、スヴェトラーナの体に付いた血と、ベッドの血を拭き取っている。ベッド生地も冬仕様なので血がしみこんだりしない。だけど、スヴェトラーナのネグリジェには血が染みてしまっている。レギンスは血を通さないので、中にはいっぱい血がたまっているかもしれない。メイドはレギンスの裾を布で押さえるようにして、スヴェトラーナをお風呂に連れていった。

 メイドは慣れた手つきだったし、大丈夫だろう。私は男になったり女になったりしてるけど、女の子の生理の後始末を覗きに行くほどやぼじゃない。


「スヴェトラーナ様、大丈夫かな」


 オルゴールを持って立ち尽くしているマレリナ。


「大丈夫だよ。子供を産めるようになった人間の女の子は毎月来るやつだよ。私だって三ヶ月から七ヶ月くらいで来るからさ」


 こういうときだけ大人なお姉さん、ブリギッテ。


「そうなんだ…」

「そうなのね…」

「私も血が出るの?怖い…」

「なるほど。それが子を生む女性の仕組みなのですね」


 生理の血を見てマレリナ、アナスタシア、マリアちゃんは怖がっている。セラフィーマは一人納得している。


 っていうか、みんなそういう知識を持ってないんだね。薫は男だったから知らないけど、そういうのって母親が教えてくれるものじゃないの?まあいいや。まだ来てない私が教えるのも変だし。



 しばらくして戻ってきたスヴェトラーナとメイド。スヴェトラーナは別のネグリジェに着替えている。


「ご心配をお掛けしましたわ。ユリアーナ様、あのシャワーという魔道具のおかげで、簡単に洗えましたわ」

「それは何よりだわ」


 そっか。この世界にはお風呂はめったにないし、お風呂がある公爵家でもお湯を沸かすのには時間がかかるし、シャワーがあるだけでも違うんだね。


「それにこのレギンスという下着も血が染みないから、洗うのも簡単ですわね」

「たしかに」


「ユリアーナ様の仕立屋で購入した下着は、洗うのがとても楽なのです。私たちメイドは皆、ユリアーナ様にとても感謝しております」

「どういたしまして」


 スヴェトラーナのメイドからそんな言葉をもらった。家電だけじゃなくて、こんなところでも仕事を楽にできていたのか。

 しかし、今思いついた!女の子の生活をもっと楽にするアイテムを!むふふ。


「みなさん、わたくし、だるいのでもう寝ますわ」


 そっか。生理のときってイライラするっていうから、私が帰ってきたときあんなに責めてきたんだ…。


「やっぱり怪我や病気があるのね」

「あ、いえ…」


 ぴぴぴぴぴん♪とマレリナがオルゴールで怪我の治療と病気の治療をかけた。調子が悪いことを病気だと思ってしまったようだ。


「うーん…、ありがとう…」


 しかし、スヴェトラーナの調子は良くなっていなそうだ。治す部位が分かっていないからだ。


「マレリーナ、おなかの中にはね、卵を作って、それを置いておく場所があるのよ」

「「「「「「卵!?」」」」」」


「あ…、ええ。卵よ。見えないくらい小さな卵」


「わたくし、人間なのに卵…」


 スヴェトラーナは私に卵と言われたのがショックだったみたい。 

 私はマレリナとスヴェトラーナ、というか、みんなに子宮とか排卵とか、薫のおぼろげな知識を説明するハメになった。


「分かったわ。つまり、その卵を置いておく場所を治療するのね」


 ぴぴぴぴぴん……♪


「あっ…、なんだか少し楽になりましたわ。ありがとう、マレリーナ様。それにユリアーナ様も」


 子宮内膜とかを怪我として治せるのはいいけど、生理はそれだけじゃない全身の体調変化があるはずだ。私はそれを治す方法までは分からない。


 その日は再び、マリアちゃんの控えめな胸を押しつけられて、マレリナに胸を揉まれながら寝ることになった。




 翌日。


「お姉様、今日は予定を変更して、持ち帰った素材で開発をするわ」

「分かったわ。それじゃ、明日ね」

「ええ、ごめんなさい」

「でも、ユリアーナの仕事を見たいわ」


「わたくしも見学させていただきますわ」

「ユリちゃんの開発、私も手伝います!」

「私も見るよ!」

「面白そうだねー」

「私も気になる」


 屋敷の裏の地下の実験用牧場に、みんなでぞろぞろと移動。


「臭いのね…」

「臭いですわ…」

「これくらいの匂いで参っていては開発なんてできません」

「ユリアーナは臭いの好きだよね」

「ははは、これくらい普通だよ」

「そうだね」


 地下牧場には羊の匂いが充満している。ミツバチもなんだか虫臭い。生粋の貴族のアナスタシアや生理中のスヴェトラーナにはきついようだ。だけど、同じく生粋の貴族のはずのセラフィーマは気にならないようだ。

 マリアちゃんは平民時代、私ほど原始人の村ではなかったのかなぁ。エルフは森で暮らしてるくらいだから、獣の匂いとか普通だったんだろうな。もちろん、マレリナは私と同じで、臭いのは当たり前だ。


「めええええ!」


 私たちが近づくと、三メートルの羊が吠えてきた。


「きゃっ…。これって、一昨日倒した魔物ですわね」

「このもこもこの魔物をどうするんですか?」


 四頭持ってきたはずだけど、奥の方に小さい個体が二頭増えてる。出産はやっ。

 果物のどれかを食べてくれたようだ。食べられなかった果物はサークルオブライフから外れて、そのうち枯れるだろう。


「まずは、ふんふん…♪スタンガンで気絶させてっと」


 この羊毛はかまいたちでは斬れなかった。炎の竜巻でも燃えなかった。レーザーソードを細くして刈り取ることができた。これもまた頑丈で耐熱性が高い繊維だ。


 これを熱湯でよく水洗い。吸水性はかなり良い。水を霧状にしてから乾いた風で乾燥。それから、微細な虫を寄せ付けない命魔法で殺菌。

 冷蔵庫の魔道具の原理にもなっている、微細な虫を寄せ付けない木魔法と命魔法は作物や肉を切り取ったあとでも使えるので、羊毛も刈り取ったあとに使えるようだ。

 あとは、この羊毛を蜘蛛の糸の生地に貼り付けて、パンツに挟めるようにマージンを付けて生理ナプキン…、というかタンポンのできあがり。うん、たしかこんな感じだったはず。


「ふんふん…♪」


 土魔法で地面の土から更衣室を作成。


「スヴェトラーナ様とメイドさん、こちらへ」

「ええ」


「私も」

「昨日説明したように、お姉様も子供を産めるようになったらね」

「そのためのものなのね。わかったわ」


 アナスタシアはいつまでも六歳、いやそろそろ七歳くらいには見えるようになったかな…。子供産めるのかな…。安産祈願の祝福もあるからなんとかなるかな。


 私とスヴェトラーナ、メイドは更衣室に入って、レギンスの中にタンポンを挟む方法を教えた。


「まああ~あ!これなら漏れないわ!」

「これは使い捨てなので、メイドに洗ってもらう必要はないわよ。とりあえず二つ渡すけど、あとで必要な数を渡すわね」

「ユリアーナ様…、ありがとう…。わたくし、九歳の頃に血が出てきて、毎月ずっと悩んでましたの」

「早かったのね…」


 スヴェトラーナはとても発育が良いので、初潮も早かったようだ。


「ブリギッテの前回はいつだったの?」

「私は三ヶ月前だったから、もしかしたらそろそろ来るかもしれないし、あと四ヶ月来ないかもしれないし」

「なるほど…」


 いつ来るか分からないから、子供を作りたかったら、排卵日に当たるまで毎日やらなきゃってことか…。まだ作っちゃダメだけど。


「じゃあブリギッテにも渡しておくね」

「ありがと」


 っていうか、エルフの生理って、人間と同じでいいのかな?


 みんなには初潮が来たときに渡すことにした。私はともかく、みんなもうすぐ十三歳なのだ。でもそれは数え年で十三歳なので、実際には十二歳になるかならないかだ。この世界の人間の初潮が何歳で来るのか知らないけど、ブリギッテがエルフは十歳から三十歳と言っているから、人間は十歳から十四歳なのだろう。


 こうして、私は生理タンポンを作り、これも製品化することにした。TS転生者とはいえ私も転生令嬢の端くれ。生理用品の開発は転生令嬢の嗜みだ。


 本当は、昨日マレリナに教えた子宮内膜の治療魔法をかける魔方陣をレギンスに組み込みたいところだ。だけど、胃とか腸というメロディがあっても、子宮とか胎盤というメロディがないのだ。自分で唱えるならおなかというメロディとイメージでなんとかなるけど、魔方陣にするならイメージに頼らず具体的なメロディが必要だ。いや、卵を置く場所とかでなんとか表現できるだろうか。治療で悪いことは起こらないので、スヴェトラーナに実験してもらうかな。



 その何日かあとに、マレリナとセラフィーマにも初潮が来て、タンポンがさっそく役に立つことになった。マレリナは自分とセラフィーマに子宮内膜の治療魔法をかけたけど、やはり完全に調子が戻るわけではないらしい。


 マリアちゃんとアナスタシアだってもうすぐ十三歳なのだから来てもいいのだけど、マリアちゃんは九歳くらい、アナスタシアは七歳くらいにしかみえない。外見と内臓の成長がどれだけ同期しているのか分からないけど、いつ来るのだろう。とくにアナスタシアはそんな小さな身体で子供を産むのは大変だ。アナスタシアは私の子供を産みたいと言っていた。まだ安産祈願をかけるには早いので、たんに二人の望みが叶うように祝福を口ずさんだ。




 さて、羊のほうは何らかの果物を食べてくれてるようなのでこのまま放置していても繁殖するだろう。

 一方で、ミツバチのところにも果物の種をまいておいたけど、果物を食べている様子がない。昨日持ち帰ったでっかい菜の花を植えてみることにしよう。これで蜜を集めて繁殖しますように。


 ぶーん…。


「ユリアーナ様…、こっちも連れて帰っていましたのね」

「ええ。この魔物も甘味を生み出してくれるかもしれないわよ」

「「「「「「甘味!」」」」」」」


 ほらね。凶暴な虫だけど、甘味っていったら可愛く見えてきたでしょう。


「この魔物が分泌する何かが甘いということですか?」

「そういうことです」

「楽しみですね!」


 実験と開発には、スヴェトラーナとセラフィーマがよく食いついてくる。スヴェトラーナはこれがどのような儲けになるのか考えていて、セラフィーマは実験そのものや原理に興味があるのだろう。



 それから、菜の花自体は植物油を採れそうなので、畑で栽培しよう。これももしかして魔法か魔物がないと育たないのだろうか。まあ、マシャレッリ領で育てている普通の野菜にも木魔法をかけているので、区別する必要はあまりないんだけど。


「大きなお花ですのね」

「これは、新しい調理法を生み出してくれるお花よ」

「まあ!ユリアーナ様は食いしん坊さんですわね!」

「私だけじゃないでしょ。みんなも同じだわ」

「その通りですわ。うふふ」


「新しい調理法とはいいますが、ユリちゃんはそれをやったことがあるのですよね?」

「鋭いわね。これは油を採れるお花なのよ。油ならお肉の脂でもいいのだけど、植物の油はあっさりしているし、野菜にかけて使うこともできるのよ」

「それはすごいです!」



 それとメープルシロップのような液が出る楓っぽい木だ。これも魔法が必要なのかな。ああ、地下で育つなら果物と同じ扱いでいいし、光合成が必要なら普通の植物ってことでいいか。


「今度はこのドロドロが食べられるのですか?」

「なめてみる?」

「はい!」


 私が楓の木から湧き出ているメープルシロップを指で採ると、セラフィーマが思いっきり私の指をなめてきた。


「甘い!」


「わたくしもいただきますわ!」「「「「「私も!」」」」」


 みんな、なぜか自分の指で採らないで、私が採るのを待っている。マレリナは現地で試食済みなのに、また私の指をなめようとしている。メープルシロップをなめようとしているのではなくて、味の付いた私を食べようとしているようにしか見えない。エルフって美味しいのかな…。


「「「「「甘ーい!」」」」」



 今まで喫茶店でスイーツを扱っておきながら、甘みは果物に頼りっきりだった。果物さえろくに採れなかったこの世界の住人には、それだけでもじゅうぶんに甘かったようだけど、メープルシロップがあれば、今までのは何だったのかと思うくらい甘くできるぞ。それに、ハチミツも採れるといいな!


 やっぱり異世界に来たんだから冒険しないとダメだね。今のところ、冒険に出たら必ず何か素敵なドロップアイテムに巡り会えている。


 マレリナが「ユリアナも歩けば果物に当たる」ということわざを作っていた。別に、私が歩かなくても誰が歩いても素敵なものに巡り会えると思う。まあ、羊とかミツバチとかを見ても、この世界の人にとっては怖いだけで、生地になるとか美味しい食べ物になるなんて、誰も思いつかないか。


 この世界の魔物は、今のところ地球の生物を巨大化して凶暴化したようなものが多いから、私も見ただけで用途を想像できる。だけどそれは、地球でおとなしい動物で試してきた積み重ねの知識があるからできることであって、この世界では凶暴な魔物相手ではそれを捕獲して試そうなんて誰も思わないんだな。まして、凶暴な魔物を倒せるのは魔法を使える貴族がほとんどだし。そして、貴族は家畜とか農作物という発想がないし。

★ユリアーナと婚約者

 とくに記載のないかぎり十三歳。女子の身長はマレリナと同じくらい。


■ユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■マレリーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一五五センチ。(一年間で五センチ成長)

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■アナスタシア・マシャレッリ伯爵令嬢

 若干青紫気味の青髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二三センチ。ぺったんこ。

 口調はお嬢様言葉。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三三センチ。ぺったんこ。

 口調はほぼ平民言葉。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。

 身長一六〇センチ。(マレリナ+五センチ)

 口調はですわますわ調。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。

 口調はですます調。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十三歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。

 身長一六三センチ。(一年間で一センチ成長)

 エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。

 口調は平民言葉。



★クラスメイト


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子

 黄色髪。


■エンマ・スポレティーニ子爵令嬢

 薄い水色髪。実子。


■パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢

 水色髪。



★マシャレッリ伯爵家


■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(七歳)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★ユリアナと婚約者の家族


■ナタシア

 ユリアナの育ての親。


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十歳)

 黄緑髪。


■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵

 セラフィーマの父。オレンジ髪。


■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人

 セラフィーマの母。レモンイエロー髪。


■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵

 淡い黄色髪。ブリギッテの養父。


■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人

 淡い水色髪。ブリギッテの養母。


■ジュリクス・ジェルミーニ男爵

 ピンク髪。マリアの養父。独身。



★その他


■レナード(四十七歳くらい)

 ユリアナの故郷の村の神父。


■アルフレート(六十歳くらい)

 マシャレッリ領都の神父。



◆花が咲いた、綺麗だわ♪

 日本で聴いた童謡(架空)。二十四小節。


◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□□□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

   ⑩③

    S


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領

 ⑩巨大ミツバチの巣(国外)


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。


◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□⑨■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□⑥□□②■

 ■□⑤□③□■□□⑧

 ■■■□■■■□□⑧

 □□□□□⑦□□□⑧

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁


◆座席表

  ス□□□□□

  ヴ□□□□②

  □□□□□①

前 □□□ブ□③

  ア□□□□④

  □□□パ□エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1、②エンマの下僕2

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1、④=パオノーラの下僕2


◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

?長調、?短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

?長調、?短調:邪、不幸、呪い、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金

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