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6 彼女とクラブ活動

★転生五年目、秋冬、学園二年生の後期、冬休み

★転生六年目、春、学園三年生の前期

★ユリアナ十一歳




 放課後に教師たちとの打ち合わせに参加していたからろくに時間を取れなかったのだけど、やっとエレキハープもといキーボードの調整をする時間を取れた。


 魔方陣のトリガー発動を習ったので、音が鳴っている間だけ拡声する仕組みを作った。ドラムに入れようと思っていた、低音だけを拡声する仕組みも取り入れた。まず四四〇ヘルツを八で割った五五ヘルツがラなので、五五から一・〇六を何回もかけ算して、ドレミの中心周波数を算出。その中心周波数を拡声するようにメロディを並べて、ボリュームアップの倍率なども一つ一つ調べながらチューニングした。


 こうして、エレキベースのような音が鳴るキーボードができた。六オクターブ分の音域があるので、エレキギターの音域もカバーしてるよ。



 あれこれやっているうちに一ヶ月くらいたってしまった。やっと趣味に打ち込める。


「ユリアーナ様、今日は魔法の訓練場で何をしますの?」

「それはですね…」


 放課後、私は友達を集めた。マレリナ、アナスタシア、スヴェトラーナ、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアちゃん。

 魔法の訓練場は防音室になっているので丁度いいのだ。


 マリアちゃんはもうすっかりお友達だ。ジェルミーニ領の母親の家にエルミロを帰してこられたようだ。家族と暮らす道もあっただろうけど、マリアちゃんは私たちとキャッキャうふふする道を選んだ。


「今日はこれを使ってもらいます」


 私が机に並べたのは木琴四つ。そして、楽譜立てに楽譜を設置。


 私は木琴をバチで叩いて、シ♭ドレ、シ♭ドレと弾いた。変ロ長調だ。ハ長調だと、うっかり火を思い浮かべたときに、偶然火魔法のメロディを弾いてしまうと、火が付いて危ない。ト長調の水も困る。

 というか魔力を持った者に普通の音楽を弾かせるのは、火が付いたり水が出たりして、非常に危険だと気が付いたのだ。そこで、聖魔法の変ロ長調にしておけば、たとえ聖魔法使いに弾かせても、聖魔法で悪いことはまず起こらないから安心だ。


 最初からアニソンはやり過ぎだと思うので童謡にした。花が咲いて綺麗だという歌だけど、花はこの世界に存在するものに替えた。


「何ですの!これは!ハープのように音楽を奏でるものですの?」


 スヴェトラーナは、顔と一緒に胸を突き出して、食い入るように問うてきた。それをやられると私はスヴェトラーナの胸のこと以外考えられなくなってしまうので一瞬フリーズしたあと返事をした。


「ええ、ハープとはちょっと違った音が鳴って楽しいでしょ」

「貸してくださいまし!」

「この音を基準にしてね」


 ハープと違って木琴は白鍵と黒鍵に分かれているけどどうだろう?



「ユリちゃん、私もやりたい」

「はい、どうぞ」


 セラフィーマも興味津々で木琴を叩き始めた。


「これはもしや、この下の楽譜を見て叩くの?」

「ええ!そうです!」


 セラフィーマは気が付いてくれた。みんなに配っている楽譜には、私がこの世界の魔法のために定義した十三線譜の下に、地球の五線譜を描いてあるのだ。

 十三線譜は相対的な記述になっているが、五線譜は絶対的な記述だ。


「この記号が付いているのは上の板を叩けばいいんだよね?」

「正解です!」


 セラフィーマがすごく優秀だ!命魔法は変ホ長調なので、変ロ長調との違いは、ラに♭が付いているだけだ。



「私にも教えてよ」

「私もやりたいよ」


 ブリギッテとマリアちゃんも興味津々。


「わたくしにも教えてくださいませ…」


 スヴェトラーナは覚えるのが得意なのだけど算数が苦手。法則に則って作られた楽譜を解読するのは難しいようだ。



「それじゃあ四人とも出来る範囲でいいので、木琴を弾いてね」

「ええ」「はい」「はーい」「うん」


「この速さでいきます」


 私はパチっ、パチっと、一秒に一回のテンポで手を叩いた。


「一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー♪(シ♭ドレ)

 かっかっかっ♪(シ♭ドレ)


 私は拍子取るのに手を叩き続ける。

 マレリナとアナスタシアはリコーダーだ。

 スヴェトラーナ、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアちゃんは木琴だ。

 みんなで同じメロディをやってるけど、最初はメロディをやりたいだろうしね。そのうち私が歌うための伴奏をやってもらうけどね。


 でもみんな、初めてにしてはなかなかうまいな。この世界で初めての合奏…。感動だ…。


「花が咲いた、綺麗だわ♪」


 私は手で拍子を取りながら、自然に歌っていた。

 みんなが途中で楽器を弾くのをやめて私に魅入っているのにも気が付かず。


 私が歌いきると、


「まああああ~。素敵ですわぁ!」

「ユリちゃん…、声、綺麗…」

「ユリアーナ、すごいね!」

「ユリアーナは、声で音楽を奏でたの?」


「あ、あれ…」


 熱唱しすぎてちょっと恥ずかしくなってしまった…。


「皆さんがとても上手なので、声奏(うた)いたくなってしまったのです」

「「「「声奏(うた)う?」」」」

「はい、声を奏でるで()う、です。私の作った造語です」


 この世界には歌うという言葉がない。


「ユリアーナ様は何でも作ってしまいますのね!」


「うふふ。あのー、もう一度いいですか?今度は私が歌っていても、他に驚くことがあっても、最後まで弾いてくださいね」


「ええ」「はい」「はーい」「うん」


「お姉様とマレリーナは、ハモリパートをお願いします」

「「ええ」」


 マレリナとアナスタシアにはハモリパートを覚えてもらっているのだ。しかも、二人別々だ。

 そして、私は秘密兵器のキーボードを構える。


「一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー♪(ハモリ二種)

 かっかっかっ♪(シ♭ドレ)

 ドゥドゥドゥー♪(ベース)


「花が咲いた、綺麗だわ♪」(シ♭ドレ)


「まあああああ~!素敵ぃぃぃ!」

「ユリちゃん最高だよ」

「楽しいねー!」

「みんなで音を鳴らすのがこんなに楽しいなんて…」


「ユリアーナ、よかったね」

「ユリアーナ?」


「うぅ…、うぅ…」


 苦節五年間…。ついに私、伴奏付きで歌えた…。


「どうしたのかしら…」


 アナスタシアを始め、みんなが心配して見ている。


「ご、ごめんなさい…。私、嬉しくって…。私、ずっと歌いたかったの…。今日はみんなありがとう…」


「よかったわ。力になれて」

「ホントよかったね、ユリアーナ」


 アナスタシアとマレリナはにっこり微笑んでくれた。


「うふふ、これでおしまいではありませんわよね」

「ええ。これからみんなにはいろんな曲を演奏してもらうわ」


 スヴェトラーナはもっとやりたいという顔をしている。


「これは何か魔法に繋がるものがあっていいね」

「そうでしょう。みんなの音楽的センスを磨くのにも良いんですよ」


 セラフィーマはやはり、数学的センスで音楽に取り組んでくれそうだ。


「私ももっとやりたいなー」

「私もやりたい!」

「どんどんやりましょうね!」


 ブリギッテもマリアちゃんも気に入ってくれたようだ。


 キーボードによるエレキベースもうるさすぎず、良い感じに調和したなぁ。ハープ製作技師に追加注文しておこう。


 それにしても、スヴェトラーナが木琴のバチを振るたびに胸が揺れて危険だ…。「かっかっ」とかいう音じゃなくて、「ぽよんぽよん」という音が聞こえてきそうだ…。



「ねえ!わたくしもアナスタシア様の楽器を使ってみたいわ!」


「うふふ、皆さんの分も用意していますよ」


 私はリコーダーを四つ机に置いた。

 スヴェトラーナは真っ先にガバッと取っていった。その反動で胸がぷるぷると揺れている。私はその瞬間フリーズした。

 続いて、残りの三人も取っていった。


 ぷーひょろろ…


「うー…。アナスタシア様…、吹き方を教えてくださいまし…」

「ええ。まずは、シ♭は指をこういう風に押さえて、もうちょっと弱めに吹いてみて」


 ぴー♪


「綺麗な音になりましたわ!」


 そのあとはみんなでリコーダーの練習をして、日が傾いてきた。


 リコーダーも木琴もケースごとみんなにあげるのだけど、木琴は少し大きくて今日は持ち帰れないので、リコーダーだけ持って帰ることに。私はこっそり異次元収納に入れて持ってきたけどね。


 他にもいっぱいお土産があるのだけど、もうおなかいっぱいだと思うので翌日に渡そう。



 というわけで、翌日のクラブ活動。そう、これはクラブ活動!私、学園で女の子たちとキャッキャうふふのクラブ活動してる!


 練習を始める前に、


「スヴェトラーナ様、これをさし上げます…」

「まあ、これは何かしら」

「これはですね…」


 ブラジャーです…。女の子にブラをプレゼントするって、なんかドキドキする…。私はスヴェトラーナに、というかみんなにブラの説明をした。


「まあ!とても肌触りがいいのね!明日付けてきますわ」

「はい!」


 スヴェトラーナの胸は長期休みのたった二ヶ月見ないだけで、違いが分かるほどに大きくなっている。メロンを超えてそろそろスイカになりそう。でも見積通りだ。おそらくサイズぴったり。

 というか、スヴェトラーナのドレスは、子供向けにお直し用の余裕を持たせたものじゃなくて、大人向けのぴったりタイプだ。身長よりも大きくなるペースが大きな胸を携えているのだから、三ヶ月くらいですぐに着られなくなりそうだ…。実際に、学期が始まって三ヶ月ほどでドレスを新調している気がする…。


「ねえ、私も欲しいな」

「うふふ、もちろんあるよ」


 十五歳の身長に成人以上の胸を携えるブリギッテにもブラが必要だ。私はブリギッテにブラを渡した。


「はい、セラフィーマも」

「えっ、私も?」


 セラフィーマは標準的な体型だけど、マレリナと同じように胸が膨らんできてるし、付けたほうがいい。セラフィーマにもブラを渡した。

 地球の女の子が何歳からブラを付けるのか、薫の記憶にはない。まして、この国の人種は白人なので、日本人の標準よりも大きい。


 私がセラフィーマにブラを渡している一方では、アナスタシアからマリアちゃんにブラを渡してもらった。マリアちゃんの胸はドレスの上からでは膨らんでいるのか分からないほどぺったんこだ。ここはぺったんこどうしのアナスタシアから渡してもらった方が角が立たないと思ったのだ。

 私はノーパン原始人だったし、薫も男だったから、女子のこういう機微が分からない。


「はい、マリアちゃんもどうぞ。私も付けてるのよ。肌触りがドレスより良いから気に入ってるのよ」

「あ、ありがとう…」


 よかった。マリアちゃんはちょっと恥ずかしそうにしてるけど嬉しそうだ。



「それから、これを皆さんに差し上げます」


 私はオルゴールをそれぞれに手渡した。それぞれ別々のメロディカートリッジが入っている。スヴェトラーナのには炎の竜巻。セラフィーマのには筋力強化。ブリギッテのには土つぶて。マリアちゃんのには精神治療。


 精神治療は教師に提出させた楽譜に含まれていたもので、安眠と似ているけど、眠らなくても即時に効果が現れる。怒りや悲しみなどの負の感情や、不安や焦り、興奮、極度の緊張など行動に支障をきたす精神状態を緩和する。

 って、まだ授業で習ってない魔法なんだけど、心魔法で良いのがなかったんだよ。魅了と洗脳をインスタントに使わせるわけにはいかないでしょう。


「これは何かしら」

「まずはこのぜんまいを巻いて、スヴェトラーナ様は、いつも授業でやっているように、炎の竜巻をイメージして、このボタンを押してみてっ」

「ええ」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 ごおおおおおお!


「えっ、何これ!すごく速い炎の竜巻の曲が聞こえて、すぐに魔法が発動しましたわっ!」

「これはぜんまいを巻いてボタンを押すだけで、決まった魔法の曲を奏でるものです」

「まああああ~!」


 ぴぴぴぴぴん……♪


 ごおおおおおお!



「セラフィーマ様は筋力強化よ」

「やってみる」


 ぴぴぴん……♪


 セラフィーマはぴょんぴょん跳ねたりして筋力強化の効果を確認している。


「おおー」


「ブリギッテは土つぶてよ」

「はーい」


 ぴぴぴん……♪


 ひゅんひゅんひゅんっ。


「おおー!出たぁ!」


「マリアちゃんのはね、……」


 精神治療の説明をした。


「えっ、それってまだ習ってないよ」

「そのうち習うって。自分にかけてみて」

「うーん、ユリアーナにかけるよ」

「えっ?私?それじゃ効果分からなくない?」

「いいから。これを押すんだね」


 ぴぴぴぴぴぴぴぴん……♪


「あっ…」


 なんだか安眠をかけて寝て、目が覚めたときみたい。毎日安眠をかけて寝ているけど、安眠より強力かも。王子の息子の正室とか言われて不安だったけど、今は冷静に考えられる。


「効いた?」

「うん」

「不安消えたみたいだね」

「私、顔に出てた?」

「うん」

「そっか。ありがとね!」



 マレリナはセラフィーマと力比べをしている。マレリナの髪はどんどん明るくなっているけど、真っ白なセラフィーマにはまだまだ及ばない。セラフィーマの魔力のほうがかなり高いだろう。だけど、マレリナは負けていない。地力が違うのだ。


 アナスタシアは、今日は氷柱のメロディカートリッジをセットしている。氷柱をぴゅんぴゅん飛ばしている。


 それから、私は学校で習う魔法すべてのメロディカートリッジを四人に配った。スヴェトラーナは水魔法も使えるので、水魔法のメロディカートリッジもだ。

 みんなカートリッジを入れ替えて、いろんな魔法を撃って遊んでいた。


 マリアちゃんは、考えを伝える魔法と考えを読む魔法をセットにしたカートリッジを使ったようで、私に考えを読む魔法に同意してという声が飛んできた。私は同意して通話実験をした。


 その日のクラブ活動は、ブラをあげたり、オルゴールの実験をしたりで、バンドの練習は出来なかった。うぐぅ。



 翌日、スヴェトラーナとブリギッテはブラを付けてきたようで、胸の揺れの振幅と減衰時間が半分になっていた。そのおかげで私の思考停止時間も半分になった。だけど、ちょっと寂しい気持ちもある。

 セラフィーマもブラを付けているのがわかった。だけど、マリアちゃんがブラを付けてきたか確認するすべはなかった。


 その日のクラブ活動ではバンドの練習ができた。




 秋も深まったある日。マシャレッリからドレスが届いた。


「あれ…、お母様ったらわざわざ送ってくれたんだ…」

「うふふ、さっそく着てみてほしいわ」

「そうね」


 私はオルガとマレリナに手伝ってもらいながら、新しいドレスを着た。

 マレリナのドレスと同じように胸元が大きく開いてる…。ブラを付けてることもあって、ちょっと谷間が出来てる…。なんだかちょっと恥ずかしくて、ドレスの胸元をもうちょっと上に上げて隠せないかと引っ張ってしまう…。


「素敵よ!」

「大人になったね!」

「素敵ですよ、ユリアーナお嬢様」


 胸を開いた代わりに、ドレスの丈が膝より少し下になった。これが大人のドレス…。ってまだまだだけどね。

 鏡台のぼんやりとした鏡を見ると、マレリナより私の胸の方が大きく見える。肩幅とかが成長してないせいで身体にたいして相対的に大きいのだと思う。っていうか。一年と半年たっても、私の身長はまったく伸びない。エルフの成長が五分の一だとしても、もうちょっと伸びてもいいのでは…。三十歳になる頃に、ほんとうにブリギッテのようになれるのだろうか。その前にアナスタシアに抜かされてしまわないだろうか。

 その望みに応えるように、新しい靴が同封されていた。今まで履いていた五センチのヒールよりももっと高い、八センチヒールだ。とても歩きにくいけど、なんだか大人って感じがする…。



 翌日…。


「ユリアーナ様…」

「ご、ごきげんよう、スヴェトラーナ様…」


 私はいまだに毎朝スヴェトラーナの胸を見るたびにフリーズしてしまうのだけど、今日はスヴェトラーナが私の胸を見て顔を赤らめてフリーズしている…。そんなに見つめられると恥ずかしい…。私の胸の体積なんてスヴェトラーナの一パーセントもないのに…。


「おはよう、ユリアーナ」

「はっ、ご、ごきげんよう、ヴィアチェスラフ王子殿下」


 スヴェトラーナと互いの胸を見つめ合っていたというのに、一瞬で地獄に突き落とされた。

 王子はそろそろ声変わりが始まりそうだ。微妙に低くなってきたのに甘い声を出さないでほしい。気持ち悪い。私は声変わり途中の微妙な男子の声に萌えたりできない。


「もう、ボクはキミの義理の父になるんだから、そんなにかしこまらなくてもいいんだよ」


 うわっ、また爆弾を投下しやがった。クラスの女子の視線が痛い。


「それに、ユリアーナ嬢、綺麗になったね」

「お、お褒めに預かり光栄です…」


 やめて!私、もう苛められるヒロインを全うする気はないんだけど!



 その日の剣術の授業で、筋力強化と防護強化を参加者全員に使ってほしいという要望があった。いつも魔法戦闘授業で私とマレリナが暴れているからだ。マレリナはさすがに女子四人と男子十人の全員に魔法をかけて維持できるほどに魔力がないので、マレリナは半分の参加者にかけているフリをして自分だけにかけ、私が全員にかけた。


 そして、私はまたもや王子と対峙するハメに…。


「行くぞ!」

「はい…」


 王子…、私に一発も当てられたことがないのに、コテンパンにやられるのが嬉しそうなんだよな…。


「うわあぁ」


 王子は予想以上の自分の素早さに自らバランスを崩した。王子もそうだけど、みんな素速く動けるようになっても、目が付いていけない。周りでも自分の速さに戸惑いの声が上がっていい。


「しかしこれならイケる!」


 いや、筋力強化は私にもかかってるんだよ。かかってなくても負ける気しないけど…。


「やーっ!」


 王子が木刀で斬りかかってきた。私は軽くよけた。

 私のやることはいつもと変わらない。王子の目に止まらぬ速さで王子の顔すれすれの突きを放ち、王子が遅れてよけるのを待つだけ。と思ったら、突きが速すぎて顔すれすれに木刀がかすめてるのすら気が付かないよ…。目にも留まらぬ速さって言葉の綾のつもりだったのだけど、本当に目に留まらなかったみたい…。

 防護強化もかかってるから、力加減に注意して、顔すれすれの木刀を肩に降ろした。


「うわっ。当てられてしまったぁ」


 なんで嬉しそうなんだ!


 ちなみに、私のキュロットの下は、蜘蛛の糸で作った薄手のパンツだ。筋力強化で暴れまくって汗をかいても気持ち悪くならない!マレリナにもはいてもらってる。だけど、スヴェトラーナにはまだお勧めできていない。姉妹のマレリナならともかく、女の子にパンツを贈るってちょっとできなくて…。



 それはさておき、他の生徒たちは、みんなに筋力強化と防護強化をかけられているので、当たったときのダメージはあまり変わらず。でも速く動けるようになったので、攻撃が当たる当たる。みんなボコボコになっていた。

 しかも、剣を受けたりつばぜり合いをしたりしてしまうと、強化された力が拮抗するものだから、木刀が破損しまくった。


 実は、教師に提出させた土魔法の楽譜の中には物質硬化というのがあったのだ。一時的ではあるが、武器や防具を堅くして、壊れにくくする魔法だ。これを使えば、筋力強化をして木刀で打ち合っても木刀が壊れなくなると思うのだけど、私はちょっと明るい灰色髪設定を貫くために黙っておくしかなかった。


 結局、剣術の授業での筋力強化と防護強化は禁止になった。

 そして、ボコボコになった生徒たちを、聖女マレリーナが治療して、聖女伝説は加速するのであった。




 魔法の実技と魔方陣の実技の授業は進行が著しい。


 カリキュラムを変更する前からみんな楽譜を読んでいたから、自主練でメロディを覚えるのも速くなってきた。今では二週間で一フレーズ覚えられるようだ。この調子だと、六年間で覚える魔法を三年生の前期で終わらしてしまいそうだ。


 魔道具の授業も、魔方陣の書き方を授業中に練習する必要がなくなり、複雑なものを作れるようになっている。複数の魔法の組み合わせとか、複雑な条件での発動とか、まるでプログラミングのようだ。


 さらに、物理的な物体を操作することも習った。というか、ここまで来て初めて魔道具といえよう。今までは魔方陣で魔法を発動させているだけだった。

 物体の操作をできるようになれば、楽器の自動演奏をできそうだ。オルゴールはぜんまいを巻いた人しか魔法を発動できなかった。魔法で弾いた楽器は誰が演奏したことになるのだろう?モーターを作って電気魔法でオルゴールを回したらどうなるかな?もしかしたらCDでも魔法を発動できるかな?要は、音を鳴らすエネルギーの供給者に所有権があるんじゃないかな。



 座学の授業ではこまめに小テストをやっている。学期末でダメだったところを洗い出すんじゃなくて、常にダメなところを見て補習させているのだ。この調子なら、学期末の試験は全員満点なんじゃない?


 そういえば、王子は補講に参加したことがなかったから、王子の実力を知らなかったのだけど、私は学校の運営側に回っているから王子の小テストの成績を知る機会ができた。まあ、文句なしの成績だったよ。正室と側室合わせて十一人の子供の中から選ばれた後継者だろうから、ボンクラなわけないよね。いや、結婚観がおかしくてマゾなところはどうかと思うけど…。

 あ、十一人の子供がすべて男とは限らないか。じゃあ、競い合ったのは五、六人かな。そいつら、どこへ行ったのかな…。あんまり知りたくないな…。




 秋も終わり、冬が近づいている。私とマレリナは薄手のパンツがスースーして寒くなってきた。

 そこで、蜘蛛の糸の粘性を乾燥させすぎないように作った、断熱性の高い生地である。これを使ってレギンスを作ってみた。


「どうかな」

「ゴワゴワしないのに寒くないね」

「でしょう」


 マレリナも気に入ってくれた。


「私のはぁ?」

「もちろんお姉様のもあるわよ」


 アナスタシアのは少し厚手のパンストだ。


「わぁあ!暖かいわ!」


 おなかからつま先まで全部暖かい!


「こちらもどうぞ」

「ええ!」


 ドレスの下に着るインナーシャツも作った。


「これならカーディガンを着なくても暖かいかしら」

「いいえ、これからもう少し寒くなるわ。でもマシャレッリに帰ったらいらないかもしれないわね」

「うふふ、ありがとっ!」


 スタンピードのボス蜘蛛がドロップしたわずかな生地は、友達のブラジャーと身内のパンストなどを作るだけで尽きてしまった。マシャレッリに帰ったらどうなっているか楽しみだ。




 というわけで、期末テストだ。試験にそんな名前は付いていないけど。今回の試験には、最初から一般知識も含まれていた。おかげでかなり長かった。

 みんな表情は明るい。こまめに補習していたおかげだ。


 忘れていたんだけど、まだ王子の側室候補に入っていない子がいたような。私とバンドクラブメンバーを除く二十四人全員を嫁にして、次代では約十二人の息子に成績を競わせるのだろうか。別に次男三男でもいいと思うのだけど、なぜ十六年に一度世代交代しなければならないのだろう。



 今期では、私が補講でお金を使うこともなかったので、喫茶店の売り上げがかなり貯まった。盗賊や魔物狩りにもほとんど行ってない。盗賊で心魔法の実験をしたくらいだ。

 これからどんどん楽器を作って、音楽を充実させていこう!


 さて、マシャレッリ領に帰ろうかな。と馬車に荷を積んでいたら、


「あの…」


 何この可愛い生き物。私のドレスの袖を掴んで、そっぽを向いて顔を赤らめてもじもじしながら尻目で何か訴えているマリアちゃん。


「どうしたの?」

「私もユリアーナと行きたい…」

「えっ…」


 何これ。私に恋しちゃった?


「ジェルミーニ男爵の許可は?」

「先方がいいと言えばいいって一発で…。なんていうか、気持ち悪いくらい人が変わってて…。私の魅了と洗脳、あんなに効いたかなと思って…」

「ああ…」


 私が男爵の記憶を弄ったんだった。マリアちゃんを実の娘と同じように溺愛し、マリアちゃんの言うことを何でも言うことを聞くように。


「お父様もお母様も受け入れてくれると思うよ。でも、ジェルミーニ領のお母さんとエルミロに合わなくていいの?」

「うん。私ね、ユリアーナと毎日木琴やリコーダーで音楽を奏でるのが楽しくてしかたがないんだ」

「そうなんだ!」


 やった!音楽の虜になってくれた!このまま、私のアニソンを演奏できるように鍛えてあげよう!

 なにより、入学当時からずっと狙ってたピンク髪で小柄で可愛いマリアちゃんだ。どーんと来い!


 ジェルミーニ男爵だけでなく、マリアちゃんのメイドの記憶もいじってあるので、マリアちゃんの後押しをしてくれる。


「マリアちゃん、ユリアーナのところに行くんだぁ。いいなぁ」

「ブリギッテも来る?」

「私は無理だよ…。子爵様に怒られるよ…」


 もしや、ブリギッテも?


「ねえ、ブリギッテはアルカンジェリ子爵に何か弱みを握られてない?」

「えっ、何それ」

「どうしても王子の正室にならなきゃダメとか」

「いや、そんなことはないよ。むしろあまり期待されてないよ。だからといって、わざと手を抜いたりすると怒るって。最低でも側室の座を奪ってこいってさ」

「そうなんだ…」


 奪うっていうか、嫁ドラフトって上位何人とかじゃなくて、成績一定以上は全員という感じだ。というか、今は学校の運営に関わってるんだから、嫁ドラフトの選考基準を聞いてみようかな。何を求められてるのか分からないままに皆の成績を上げてるんだけど。


 だいたい、なんでみんなこぞって王子の嫁の座を狙ってるのか。まあ、普通に考えれば、嫁の実家は優遇される。セルーゲイは知っているだろうか。今度聞いてみよう。




★★★★★★

★マリア十一歳




 マリア・ジェルミーニ男爵令嬢は、友人となったユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢のお宅にお邪魔することになり、るんるん気分であった。


 私は八歳のときにジェルミーニ男爵に目を付けられ、養女となった。それ以来、友達と遊んだことなんてなかった。



 学園に入ったばかりのころからなぜかウザいくらいに私にかまってきたユリアーナ。弟を人質に取られ、言うことを聞くしかなかった苦しい日々から私を解放してくれたユリアーナ。本当の友達になってくれたユリアーナ。

 ユリアーナと楽器を演奏して遊ぶ毎日が楽しい!もっとユリアーナといたい!


 私はいても立ってもいられなくなり、ユリアーナに付いていきたいと言ったら、ユリアーナは快く受け入れてくれた。

 養女になる前もこんなふうに友達のうちに遊びに行っていたのを思いだした。


 マシャレッリ伯爵領までに道のりは馬車で五日。ジェルミーニ男爵領に帰るよりも一日長いけど、ユリアーナやその姉妹と話していたらあっという間だった。ユリアーナもマレリーナも平民出身で、私には砕けた言葉を使ってくれるので話しやすい。

 小さなアナスタシアは実子らしいけど、高慢な態度を取ることもなくて私を受け入れてくれる。アナスタシアは身体がとても弱いらしい。暖かそうな上着を羽織っている。

 いいな。いつも三姉妹でこんなにわいわいしながら帰ってたんだね。一緒に付いてきて本当によかった。


 道中、ユリアーナはときどき「ちょっと待っててね」と言って、馬車の外に出ていった。すぐに戻ってくるけどいったい何をやっていたんだろう?



 五日目の日が暮れる頃、マシャレッリ伯爵の屋敷に着いた。ジェルミーニ男爵の屋敷よりかなり大きい。マシャレッリは王都やジェルミーニよりも少し暖かい。


「「「ただいま戻りました」」」


 元気よく帰りを告げる三姉妹。


「おかえりなさぁい。あらぁ?そちらの可愛い子はぁ?」


 赤い髪の美人のお母さん。いいな。優しそう。私のほうを見て可愛い子だって…。


「マリア・ジェルミーニと申します」


 私はろくに教えられていないカーテシーという挨拶をした。ちゃんとできてるかな…。


「お母様、マリアちゃんは私たちの学友なのです。連絡もせ……」


「マリアちゃんね。ようこそ~。さあ、ゆっくりしていってぇ~」


「はい!よろしくお願いします」


 ユリアーナが話してる途中にもかかわらず、赤い髪のお母さんは私の両手を掴んで、優しい顔で微笑んでくれた。

 私は嬉しくなって、笑顔で返事した。


 よかった。私、昔の友達のうちに遊びに行く感覚でここまで来ちゃったけど、よく考えたら貴族のおうちに来たんだった。もし、洗脳する前のジェルミーニ男爵みたいに怖い人だったと思うとぞっとする。でも、なんてことはない。昔の友達のお母さんとあんまり変わらないや。


「私はセルーゲイ。マシャレッリ伯爵領の領主をやっておる。マリア嬢、歓迎しよう」


「ありがとうございます」


 水色の髪のお父さんも怖くない人だ。

 ジェルミーニ男爵も洗脳してしまったから、いまではこんな感じだ。でも、以前はホント怖かったなぁ…。

 私も養女になるならマシャレッリの養女になりたかったなぁ。でも、学園を卒業したらジェルミーニ領の村に住むお母さんのおうちに帰るんだ。だからまあいいや。


「エッツィオです。お初にお目にかかります」

「ごきげんよう、マリア・ジェルミーニです」


 緑の髪の弟くんはエルミロと同じくらいの歳かな?貴族はやっぱりみんな髪に色が付いてるんだねえ。



 部屋に荷物を置いて少し休んだら晩ご飯だ。廊下を歩いていると、良い匂いが漂ってきて、ジュルリとよだれが垂れそう。寮の食堂でもこんな匂い嗅いだことない。


 テーブルの席につくと、次々に運ばれてくる料理。何この暗い茶色いの!お肉!?これが良い匂いなんだ…。寮でもお肉といったらだいたいつのウサギの肉が用意してあるけど、あんまり美味しくない。だけど、これは何?もう我慢できない!

 私はお肉にフォークを刺して、口に頬張った。


「んんんん!」


「ちょっ、マリ……」

「マリアちゃ……」


「あ…」


 気が付いたら、あわあわしているユリアーナとマレリーナ。私のメイドも部屋の隅で「あちゃー」みたいな顔をしている。ちょっと羽目を外しすぎたかなと思った。


「うふふっ」

「あらあらぁ、元気な子ね~」

「はっはっはっ」


 だけど、逆にアナスタシアとお母さんとお父さんはニコニコ微笑んでいる。元平民のユリアーナたちのほうが口うるさいんじゃないの?


 野菜も美味しいな。ジェルミーニ領でも学園の寮でも、こんなに美味しい野菜を食べたことない。

 ほんのり甘くて柔らかいパンはユリアーナが連れていってくれたお店のパンと同じくらい美味しい。私はあれからパンのお店には行ってなかったけど、ここでまた食べられるとは思わなかった。寮のパンも美味しくなったけど、この味を忘れられなかったなあ。


 お母さんもお父さんも、笑顔で食卓を囲んでいる。ジェルミーニ領の村の家族がちょっと恋しくなっちゃったけど、でも私はユリアーナといたいんだ。




 晩ご飯が終わってしばらくすると、


「お風呂に入るよ」

「お風呂?」


 私はユリアーナに言われるがままに屋敷を出て、屋敷の裏に行った。そこには石でできた別の建物が。

 中は煙…、いや、湯気が立ちこめている。


「さっ、ここでドレスを脱いで」

「えっ、あ~れ~」


 私はユリアーナにくるくる回されたかと思ったら、いつのまにかドレスを脱がされてドロワーズ一枚になっていた。ユリアーナとマレリーナもいつのまにかドレスを脱いでいた。


 ユリアーナとマレリーナがブラジャーを脱ぐと、ちょっと膨らんだ胸があらわになった。私はユリアーナの胸に釘付けになった。学園でスヴェトラーナの大きな胸を毎日見ていてうらやましいと感じたことはあったけど、なぜかユリアーナの胸を見ていたい…。こんな気持ちは初めて…。

 それに私だって少しは膨らんでるんだからね!アナスタシアみたいなぺったんこじゃないんだからね!


 ユリアーナとマレリーナはドロワーズと似ているけど、身体にピタッとくっついた不思議な下着をはいていた。そうだ、ユリアーナがくれたブラジャーってやつと同じ感じ。


「それはなあに?」

「これはレギンスっていうんだ。私たち、剣術とかで暴れるでしょ。だから動きやすい下着を作ったんだ」

「ふーん」

「あ、明日以降作ってあげるよ」

「ありがとっ!」


 私は指をくわえて物欲しそうにしていたかな。ユリアーナはそれを察して、くれるって。



 みんなで裸になって扉一枚くぐると、さらに湯気の立ちこめる、むんむんとした部屋へ。冬だけどあったかい。


「息を止めて、目を閉じてね」

「えっ?」

「いい?」


 私はうなずいた。何が始まるの?


「ふんふん……♪」


 ユリアーナの声が聞こえたと思ったら、私はいつのまにか暖かい水の中に入ったような感覚に襲われた。


「がばばばば…」


 思わず口を開けてしまい、息を吐いてしまった。

 と思って目を開けたら、お湯の中ではなかった。あれ?


「ユリアーナ、初めての人にやる場合は、お手本見せてからにしなよ」

「そうだった、ごめんマリアちゃん。苦しくなかった?」

「うん…」


「じゃあマレリーナもいくよ」

「うん」


 マレリーナが目を閉じると、


「ふんふん……♪」


 ユリアーナの声。そう、これは歌うってやつだ。ユリアーナが作った言葉。

 そして、マレリーナはお湯の塊に包まれた。やっぱりさっき、私もお湯の中にいたんじゃん…。


 それからユリアーナはアナスタシアにも同じことをやった。

 っていうか、このお湯は何?アナスタシアが水魔法を使ったわけではなさそうだし。


「ふんふん……♪」


 ユリアーナはよく歌うんだな。ほんとうに歌が好きなんだ。


「さあ、湯船に入って」

「湯船?」


 ユリアーナはお湯の入れ物に入った。マレリーナはアナスタシアが入るのを手伝ってから一緒に入った。

 私も恐る恐るお湯に足をつけた。暖かい…。私は自然とお湯に吸い込まれていった。


「はぁ~…」

「どう?気持ちいいでしょう」

「うん…」


 お湯につかるのがこんなに気持ち良いなんて…。ジェルミーニの村で川に入ったことはあったけど、お湯は初めて。


「そろそろ上がろっか」

「もう上がるのぉ~?」


 どれだけ時間がたったのかな。気持ち良くて一瞬のように感じる。

 っていうか、赤い髪のお母さんがいつのまにか一緒にお湯に入っていた。


 みんなでお湯から上がると、


「ふんふん……♪」


 またユリアーナが歌い出した。すると、みんなの身体に付いている水滴が湯気に変わって一瞬で消えた。

 これも水魔法?まさかユリアーナが使ってるの?ユリアーナは命魔法使いじゃないの?


「あれ…、私の髪…つやつや…」

「うふふ、綺麗だよ、マリアちゃん」

「えっ」


 ユリアーナに綺麗だよって言われたら、なんだか胸の辺りがドキドキしてきた。

 ゴワゴワしていた私の髪がまっすぐになって、しかも光を反射している。そう、アナスタシアと同じくらいに。ユリアーナみたいにぴっかぴかではないけど。




 お風呂から上がって、メイドにドレスを着せてもらって、荷物の置いてある部屋に戻ろうとしたら、


「マリアちゃん、ネグリジェを持ってこの部屋に戻ってきてね」

「えっ?でもそっちはアナスタシアの部屋じゃないの?」

「みんなの部屋だよ」

「へっ?」


 アナスタシアの部屋には、どう見ても一人用のベットが一つしかない。

 ユリアーナとマレリーナは一人でドレスを脱いでネグリジェに着替え始めた。アナスタシアはメイドに着替えを手伝ってもらってる。


 私は言われたとおりネグリジェを持ってアナスタシアの部屋に行った。


「三人とも何やってるの?」


 私がアナスタシアの部屋に行くと、三人ともハープを弾いていた。これは魔法の曲だ。


「寝る前に魔力トレーニングだよ」


 マレリーナが答えてくれた。


「えっ、何それ。魔力って鍛えられるの?」

「あれ、学校で習わなかったっけ。魔力って使うほど増えるって」

「言ってたような…」

「だから、寝る前に魔力が尽きる寸前まで魔法を使うんだよ」


「マリアちゃんは寝る前に安眠をかけまくるといいよ。一人に何回もやっても意味がないから、メイドさんにもかけてあげてね」

「え、うん」


 寝る前に魔力を使い切るなんて考えもしなかった…。

 私はハープで安眠を弾いた。ユリアーナもマレリーナも、アナスタシアもメイドも、みんな今日はよく寝られるよ!

 たくさん弾いていると、だんだんつらくなってきた。


「魔力が尽きそうになったらマリアちゃんも着替えてね」

「うん」


 私は自分で着替えられるけど、いつもメイドが手伝ってくれる。


「マリアちゃん、こっち」


 ネグリジェを着たユリアーナとマレリーナ、アナスタシア。ユリアーナとマレリナがアナスタシアを挟むようにしてベッドに並んでいる。

 ユリアーナが私を手招きする…。

 私は誘われるがままにユリアーナの隣に横たわった。ちょっと狭い…。ぎゅうぎゅうだ…。


「今回はユリアーナを貸してあげるわ」

「えっ、ありがと。ん?わっ…」


 アナスタシアがユリアーナを貸してくれるって。どういうことかと考えていたら、ユリアーナはいたずらっぽい顔をしながら、私に抱きついてきた。


「あったかいでしょう」

「うん…」


 何があったかいって、身体ももちろんあったかいんだけど、それ以上に気持ちがあったかい…。

 ジェルミーニ領の村のお母さんにも昔抱いて寝てもらっていたのを思い出した。お母さんが恋しい。だけど、ユリアーナはお母さん以上に私を満たしてくれる。ユリアーナといれば寂しくなんかない。


「ふんふん……♪(ロ長調の安眠)ふんふん……♪(変ロ長調の安眠)」

「ユリアーナは寝るときも歌うの?」

「あ、うん」


 ユリアーナ、変な子。でも好き…。




 いつの間にか朝だ。私に抱きついていたユリアーナの姿はすでになかった。


 朝ご飯はなんと、王都のパン屋と同じメニュー!白いふわふわのクリームと果物のジャムを塗ったパン!王都のパン屋でしか食べられないと思ってた!


 今日は、ユリアーナはハープ製作技師のお店に行くという。私も付いていくことにした。


 ユリアーナは私よりちょっと背が高いけど、かかとの高い靴を履いていて、大人みたいにかっこいい。お上品なのに歩くのが速い。私は元平民だからついて行けるけど、私のメイドは息が切れている。ちなみにユリアーナはメイドを連れていない。

 マシャレッリの領都をユリアーナと歩いて、ハープ製作技師のお店に行った。


 ユリアーナはハープ製作技師からオルゴールを十個受け取って、金貨二十枚を渡していた。

 えっ…、オルゴールってそんなにするの…?


「はい、これはマリアちゃんにあげる」

「えっ…」


 ユリアーナはオルゴールを二つ、私に差し出した。

 以前もらったのと合わせて三つ。オルゴールは十個で金貨二十枚だから……、三つで金貨五枚くらいかな…。ジェルミーニ男爵だって、ハープ調律代の金貨一枚を出すのに苦渋の決断をしたっぽいのに…。金貨五枚もするものをためらわずくれるの?私が逆に受け取るのをためらっちゃうよ。


「あの…、そんなに高いものだとは知らなくて…」

「いや、気にしなくていいよ。その代わり、私の楽譜を練習してね!」


 ユリアーナは「練習してね」と言って、二つのオルゴールを私に押しつけた。私は受け取らざるをえなかった。


「えっ、そんなことでいいの」

「うん」


 いつも授業のあとに楽器を弾く時間。ユリアーナはクラブ活動と言っていた。私としては楽しいだけなのに、金貨五枚分の見返りがそれでいいの?

 ユリアーナって変な子…。



 それからユリアーナはもう一つ、しゃんしゃんとか、とんとんと鳴る楽器を受け取って、金貨八枚を払っていた。


 そのあとユリアーナは、ハープの弦を別の何かでギーギーこすっていた。酷い音がたくさん鳴っていたけど、次第に綺麗な音が鳴るようになって、ユリアーナは満足そうにしていた。


 そして、ハープ製作技師に……大金貨を六枚も渡していた!大金貨なんて初めて見たよ!ユリアーナ、どんだけお金持ってるの?私なんて美味しいパンのお店に行くお金もないのに。


「ねえ、お父さんがお金をくれるの?」


 私はいてもたってもいられなくなって、聞いてしまった。


「えっ?これは私が稼いだお金だよ」

「えっ…」

「王都のパンのお店と、あとハンターの仕事をやって稼いだお金」

「パンのお店って、あの美味しいパンの…」

「そだよ」


 パン屋のお仕事って配膳とかかな?


「ハンターってあのハンター?」

「じゃあ、今からハンターギルドにいこっか」

「うん」



 歩いてハンターギルドに行った。

 ところで、ジェルミーニ男爵には、ドレス姿で領内をうろつくとさらわれると聞いたけど、マシャレッリ領ではそんなことないのかな。


 ハンターについては、昔お父さんに聞かされたから知ってる。

 私たちはハンターギルドに入った。


「ごきげんよう~」

「いらっしゃいませ、ユリアーナお嬢様」


 ユリアーナもギルド職員も慣れた感じだ。


「盗賊の引き渡し、お願いします」

「はい、ではあちらへ」


 ユリアーナについて奥の部屋に行く。


 ぽんぽん……♪


 ユリアーナは背中のハープをケースから取り出し、何か奏でた。すると、空中に黒い何かが現れて、そこから八人の男が落ちてきた。

 これって…、魔法実習の授業でアナスタシアが練習してたやつ?


 落ちてきた男たちは盗賊らしい。引き渡すとお金をもらえるらしい。ユリアーナは金貨十六枚を受け取っていた。すごい…。


「盗賊ってどこで捕まえたの?」

「マシャレッリに帰る途中、盗賊が襲ってきたから捕まえたんだよ」

「それって、たまに馬車を止めて外に出て何かやってたやつ?」

「そだよ」


 盗賊ってそんなに簡単に捕まえられるものなんだろうか。私にもできるかな。金貨欲しい!


 そういえば、私がジェルミーニ領と馬車で行き来するときは護衛を付けている。護衛が馬車から顔を見せていると、盗賊が寄りつかないらしい。だけど、ユリアーナの馬車には護衛がいなかった。だから盗賊が襲ってきたってこと?なんでわざわざ襲われるようなことを?ユリアーナはおかしなことだらけだ。




 屋敷に戻るころには、私もちょっと脚が疲れていた。村にいた頃はこれくらいどうってことなかったけど、養女になってからあまり歩いてないもんな。

 メイドは限界だったらしく、帰ってすぐ座り込んでしまった。

 それを見たユリアーナはハープを取り出して、ぽんぽん♪と何か弾いた。すると、たちまち脚の疲れがふっとんだ。これは命魔法の疲労回復だろう。アレクセイ先生が安眠して暇になってしまい周りをきょろきょろ見ていたときに、ユリアーナたちが習っていた魔法だ。


「棒のようだった脚が…。ありがとうございます!」


 メイドにもかけてくれたらしい。



 部屋に戻るとマレリーナとアナスタシアが勉強してた…。長期休みなのに勉強してるなんて…。


「おかえり」「おかえりなさい」

「ただいまー。私はお父様とお話してくるね。マリアちゃん、ごゆっくり」

「はーい」


「ねえマリアちゃん、ユリアーナと何をしてきたのか教えて」

「うん」


 アナスタシアに尋ねられて、ハープ製作技師のお店でのことと、ハンターギルドでのことを話した。


「ユリアーナはオルゴールをまた二つくれたの。全部で三つだよ。それって金貨五枚だよね!」

「マリアちゃん、三つだと金貨六枚だよ」

「あれ…」


 マレリーナが指摘してくれた。十個で金貨二十枚だから一つで金貨二枚ってのはなんとなく分かるけど…、三個だと…あれ…。


「まあとにかく、そんなに高いものを惜しげもなくくれたんだよ!そのあとね、ハンターギルドで盗賊を八人引き渡して金貨十六枚受け取ってたの!だから私もハンターやりたくなっちゃった!」

「いやいやマリアちゃん、危ないからやめておきなよ…」

「なんで?ユリアーナでもできるんでしょ?」

「私とユリアーナが大人の男と渡り合えるのは、命魔法の筋力強化を使えるからなんだよ。それに、ユリアーナはワケ分かんない魔法もいっぱい使うし…」

「そうそう、ユリアーナって命魔法使いだよね?アナスタシアが練習してた空間魔法も使ったし、昨日お風呂でお湯を出したのもユリアーナ?」

「そうだね。隠す気がないみたいだから私から言っちゃうけど、ユリアーナはマルチキャストなんだ」

「ええ!だって髪が灰色なのに!」

「そう思うよねー。私もワケわかんない。本人は、いろんな色が混ざってるから灰色…っていうか銀なんじゃないかって」

「そうなんだ…」


 ユリアーナが使ったのは水魔法と空間魔法だけじゃない。空を飛ぶ魔法もあった。いったい何属性のマルチキャストなの?


「っていうか、ユリアーナがお湯を出したとき、楽器を持ってなかったと思うんだけど…」

「ユリアーナって、歌えるでしょ?」

「うん」

「歌で魔法を使えるんだよ」

「えっ…。それって…」

「楽器なしで魔法を使えるんだよ」

「すごい…」

「内緒だからね。ばれると大変なことになる」

「うん。わかった」


 ユリアーナはいつでもどこでも魔法を使えるんだ…。




 しばらくすると、ユリアーナが戻ってきた。


「ねえ、ユリアーナ」

「なあに?」

「私、クラブ活動したい」

「お姉様とマレリーナはどう?」


「今日の勉強はここまでにするわ」

「そうしよう」


 私は木琴、アナスタシアとマレリーナはリコーダーを取り出した。


 ひょーろーろー♪(リコーダーハモリ二種)

 かっかっかっ♪(木琴)

 ドゥドゥドゥー♪(ベース)


「花が咲いた、綺麗だわ♪」


 ユリアーナは木琴のように一部黒で塗られた板を指で押す、不思議な楽器を使う。木琴やリコーダーでは絶対に鳴らせないような、身体に響くような音が、音楽をもっと楽しくする。


 ユリアーナは楽器を弾きながら「歌う」。ユリアーナの声は綺麗で、いつまでも聞いていたくなる。私自身が楽器を弾いていて楽しいのもあるけど、ユリアーナの声を聞きたくて、いても立ってもいられなくなって、マシャレッリ領について来ちゃったけど、今からすれば思い切ったことをしたもんだなぁと思う。


 楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 今日も美味しい晩ご飯をいただいて、お風呂で気持ちよくなって、そして…、ユリアーナに抱きつかれて寝た…。




 翌日の朝ご飯もあまーいパンだった。こんなに美味しいものを毎日食べられるなんて幸せ。


 ユリアーナは買ってきた楽器の調整をするらしい。しゃんしゃん、とんとんなる楽器だ。私は見学させてもらうことにした。


 ユリアーナは、庭の地下で作業するというので付いていったんだけど、何ここ…臭い…。


「ふんふん……♪」


 ユリアーナが鼻で歌を歌った。そして、新しい楽器のボタンの一つを押すと、


 ドーンっ!


「わっ!」


 身体に響くドーンっという音がなって、私はびっくりした。


「ごめんごめん」

「今のなあに?」

「音が大きすぎたね。えーっと…。ふんふん……♪」


 ユリアーナが鼻で歌い、またボタンを押す。


 どんっ。


「こんくらいかなー」

「これならびっくりしないね」

「うん。じゃあ次はこっちだ。ふんふん……♪」


 今度は別のボタンで、


 しゃんっ!


「よし、これでいいや。次はー……」


 ユリアーナは八つのボタンに対して同じ感じで音を調整していった。そして、最後にコンパスを使って魔石に魔方陣を描き、楽器に埋め込んでいった。あれって魔道具なんだ…。

 魔道具の授業って、私は受けてないんだけど、ユリアーナは受けてるんだ。私も受けてみようかな。


「じゃあ戻ろっか」

「うん」


 庭の地下をあとにした。




 部屋に戻ると、マレリーナとアナスタシアが、ハープで魔法の音楽の練習をしていた。この二人は休みの間も勉強してるのかぁ…。私、勉強は嫌いだよ…。


「ねえ、クラブ活動しよっ!」


「そうね」

「うん」


 ひょーろーろー♪(リコーダーハモリ二種)

 かっかっかっ♪(木琴)

 ドゥドゥドゥー♪(ベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ♪(大太鼓とシンバル、大太鼓とスネアドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ♪」


 ユリアーナは、右手で白と黒の板の楽器を弾いて、左手でさっき調整した楽器を弾いている。右手と左手で別のものを弾いて、しかも同時に歌うなんて、ユリアーナの頭の中はどうなってるのかな。


 そんな疑問は置いといて、今までなかったドンしゃって音が加わって、音楽がもっと楽しくなった!それに、音を鳴らすタイミングが分かりやすい!


「すごーい!」


 演奏後、真っ先にユリアーナのところに駆け寄ってユリアーナをたたえた。


「また新しいの作ったの?」

「ユリアーナはどんどん新しいものを作るわね」


 マレリーナは呆れ気味。アナスタシアは慣れたって感じだ。ユリアーナはこんなにすごいものをいっぱい持ってるのに、なんで褒めないんだろ。私は楽しくてしかたがないのに。


「うふふ、音楽がもっと楽しくなったでしょ」

「うん!」


「そうだね」

「ええ」


「もう一回やろっ!」

「「うんっ!」」「ええっ!」


「姉上、ボクもやりたいです」


 緑髪のエッツィオくんがやってきた。


「じゃあエッツィオくんはこれね」


 ユリアーナは木琴を机に置いた。


 ひょーろーろー♪(リコーダーハモリ二種)

 かっかっかっ♪(木琴)

 ドゥドゥドゥー♪(ベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ♪(大太鼓とシンバル、大太鼓とスネアドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ♪」


 かこかこかこ♪(エッツィオの木琴)


 エッツィオくんの木琴は全然合ってないけど、エッツィオくんなりに楽しそうだ。この日からエッツィオくんもクラブ活動に加わるようになった。




 翌日。


「ユリアーナ、手合わせしてー」

「いいよー」

「鈍っちゃってねー」

「たまには体動かさないとね」


 マレリーナとユリアーナはドレスを脱いで、平民向けのワンピースに着替えた。


「何やるの?」

「魔法戦闘の授業でやってるみたいに、戦いの練習をするのよ」


 私が聞くとアナスタシアが答えてくれた。でも、


「魔法戦闘の授業?」

「ああ、マリアちゃんは観戦してないものね。見に行きましょ」

「うん」



 屋敷の敷地の裏の何もないところで、二人は向き合ってる。


「マレリナ、筋力強化していいよ」

「なめてんの?痛い目見ても知らないよ」

「どーんと来い!」


 話してることは剣呑だけど、二人はニヤリと笑っている。


 ぽんぽん……♪


 マレリーナがハープを弾いて、離れたところに置くと、マレリーナは目にも止まらぬ速さでユリアーナに向かっていき、蹴りを放った。


「危ない!」


 私は思わず叫んでしまったけど、ユリアーナは顔をそらして、マレリーナの蹴りをよけた。


 アナスタシアは止める様子もない。大丈夫なのかな?


 マレリーナはユリアーナの顔に向かってパンチ。ユリアーナはそれを腕でそらして、反撃のパンチ。マレリーナはそれをよけた。


「どうなってるの…」


「命魔法に筋力強化ってのがあるのよ。力が強くなって、速く動けるようになるんですって。二人はいつも筋力強化を使って戦いの練習をしてるのよ」


「速すぎて何やってるのか分からない…」


「そうなのよ。でも今まで二人とも筋力強化を使ってやっていたんだけど、今日はユリアーナは使ってないみたい。筋力強化を使って練習すると、魔法が切れたあと全身が痛くなるけど、その痛みを我慢すると魔法を使わなくてもだんだん力が強くなっていくんですって。私も使ってもらったことあるんだけど、すぐに疲れちゃうし、痛みを我慢できないから一回でやめちゃったのよ…」


「二人とも、すごいんだね…」


「そうよ。二人とも大人より強いのよ。だからハンターになってお金を稼ごうなんて思っちゃダメよ」


「はーい」


 ユリアーナって強くて頭がよくて、おまけに綺麗でそして私を楽しくさせてくれる。なんだか離れられなくなっちゃった…。




「今日は何をするの?」

「うーん。付いてくる?」

「もちろん」


 ユリアーナのこと、もっと知りたい。


 ユリアーナと庭の地下に行った。臭いところだ…。


「がうう!」


「わああっ!」

「大丈夫、出てこないよ」


 魔物が閉じ込められてる…。


「なんで魔物がこんなところに…」

「これが美味しいパンの秘密だよ」

「えっ」

「このミノタウロスの牛乳と、奥の方にいるコカトリスの卵がパンの味の決め手なんだ」

「そうだったんだ…」


 魔物から採ったものでパンが美味しくなるなんて…。もうユリアーナには驚かされっぱなし。


 奥まで進んでいくと、今度は檻の中に白いぐちゃぐちゃなものがいっぱい絡まってる。


「やった!」

「これの何が嬉しいの?」

「うふふー。これねっ。ふんふん……♪」


 ユリアーナは歌いながら檻の隙間から出ている白い何かを引っ張ってちぎった。


「これはなんでしょー」

「これは…これもパンの材料?」

「これはブラジャーの材料でした!」

「ブラジャーってこれ?」


 私は自分のドレスの襟をつまんで、中を覗いた。


「そだよ。これも量産できそうだねー。下着だけじゃなくてドレスとか鎧にもなりそうだ。染められるかなぁ。丸洗いOKかも!」


 私にはちんぷんかんぷんだけど、ユリアーナが楽しそうで何よりだ。ユリアーナが喜んでるのを見ていると私も嬉しくなる。だって、これもきっとなんか楽しいことに繋がってるんだ。


 ユリアーナはさっきちぎった白いものをトレーに置いて、ふんふんと歌を歌い始めた。すると、白いものが薄くなった。それをたたんで、もう一度ふんふんと歌を歌うと、白いものが二股に分かれた袋状になった。それに穴を開けた。


 あっ、これ、くれるって言ってたやつ!


「はい、レギンス」

「ありがと!」


 私はスカートをたくし上げて、ドロワーズを脱いだ。


「ちょっ、マリアちゃん、いくらメイドさんしかいないからって、ここで脱ぐのは…」

「いいのいいの」


 ユリアーナは顔を赤らめて、もじもじしながら言った。ユリアーナってときどき可愛い…。


「わぁっ、あったかーい!」

「でしょう」


 ユリアーナは同じものを四着作ってくれた。それから、レギンスがかなり短くなって三角形の形になったものも作ってくれた。


「それはね…、パンツっていって、夏になってレギンスが暑くなってきたら代わりにパンツをはいてね」

「うん、わかった!」


 ユリアーナはまたもじもじと顔を赤らめ、ちょっと目をそらせて尻目で私を見ながらパンツ四着をくれた。




 ユリアーナはあちこちに出かけたり、買い物に行ったり忙しい。


 今日は領都から出て周りにある農村を見回ったりしている。いったい何をやってるのか分からない。それに、ユリアーナの歩きはかなり速いし、平気で一時間も二時間も歩くので、付いていくのが大変。メイドはぜえぜえ言ってるけど、ときどきユリアーナが疲労回復をかけてくれる。


 そんなユリアーナについて行く以外は、クラブ活動をして楽しんでる。晩ご飯のお肉は美味しいし、朝ご飯は甘いパンで美味しいし、毎日がほんとうに幸せ。


 だけど、楽しい日々はあっという間にすぎてしまったのだ。



「マリアちゃあん、楽しんでもらえたかしらぁ」


「はい!」


「よかったわぁ」

「楽しんでくれたようで何よりだ」


 赤い髪のお母さんも水色の髪のお父さんも優しかった。


「また遊んでください」


 緑髪のエッツィオくんとクラブ活動するのも楽しかった。


「お世話になりました」


「「「行って参ります」」」


 私たちはマシャレッリ領をたった。



 王都への道中、盗賊に襲われた。


「マレリナ、みんなをお願いね」

「任せて」


 ユリアーナは馬車を飛び出していった。マレリナはハープをぽんぽんと奏でた。


 窓の隙間から見ると盗賊が八人いた。ユリアーナが側を通るだけで盗賊は倒れていく。あいかわらずワケ分かんない。


「げへへ。みーっけ」

「きゃあっ」


 馬車に盗賊が乗り込んできて、アナスタシアの腕を掴んだ。


「ぐへぇ」


 マレリーナが目にも止まらぬ速さで盗賊にパンチして伸した。マレリーナも強いなぁ…。


「お姉様に触らないで」

「マレリーナ…、ありがとう…」


 こんな感じのことが何回かあった。わざと馬車の窓を全開にして、護衛が乗ってないことを盗賊に見せてるんだね。そして、それがお金になるわけだ。


 でもこんな稼ぎ方をできるのは二人が強いからだよね。私も魔法戦闘受けてみるかなぁ。でも心魔法でどうやって戦う?魅了を人に見せてはダメだし…。じゃあ剣術かぁ。私にできるかな…。



 馬車でキャッキャうふふと話していると、五日間の旅はあっという間にすぎてしまった。


「じゃあマリアちゃん、また明日ね」

「またねー」「ごきげんよう」


「またねー」


 ユリアーナとマレリーナ、アナスタシアと別れて、私は自分の部屋へ。


「うう…」


 寂しい…。眠れない…。そうだ…。自分とメイドに安眠でもかけて寝よう…。

 やっぱり眠れない。


「お嬢様?」


 私は部屋を出て、隣のユリアーナの部屋をノックしていた。


「お嬢様、いけません…」

「やだっ」


 ユリアーナの部屋のドアノブを離さない私を、メイドが引き剥がそうとする。


 どたん。ユリアーナの部屋のドアが開いた。


「どなた?あれ、マリアちゃ、おわっ」


 私はユリアーナを部屋に押し込んで、自分も部屋に押しかけた。


「お嬢様!」


「お願い、私も一緒に寝たい」

「そうだね」


 ユリアーナは二つ返事で受け入れてくれた。


「マリアちゃん、いらっしゃい」

「ごきげんよう」


 マレリーナとアナスタシアは、知ってたという顔で私を迎え入れた。


 ユリアーナがベッドに横たわり、私も隣に横たわった。

 ユリアーナはこっちを向いてくれる。


「ねえ、ユリアーナは私の妹なのよ?貸してあげるのは休みの間だけよ?」

「ケチぃ」

「もう!」


 アナスタシアがユリアーナに抱きついて、アナスタシアの腕が私の側に回り込んできた。

 私の方を向いていたユリアーナは仰向けになって、私の背中に腕を入れて私を抱き寄せた。どうやら反対の腕ではアナスタシアを抱き寄せているらしい。


「うう、私のお姉様が…」


 今までアナスタシアを抱いていたマレリーナは、ひとりぼっちになってしまって寂しいみたい。


「あれ?ユリアーナの匂いがしない」

「私の匂い…」


 マシャレッリ領を出てからは宿屋にお風呂なんてなかったので、みんなお湯のタオルで拭くだけだったから、だんだん匂いがするようになっていたのだ。とくにユリアーナの匂いが好きだったのだけど、また消えてしまっている。


「お風呂入った?」

「えっ、うん」

「お風呂あるの?」

「うん」

「私も!」

「うーん、明日でいいかな」

「うん!」


 次の日から私は、ユリアーナの秘密のお風呂にご一緒するようになった。

 朝起きると、ユリアーナはもういなかった。ユリアーナ、朝早いんだよな。授業が始まるまではまだ数日あるようだし、それまではユリアーナと一緒にいたいな。どこに行ったんだろ…。マレリーナたちに聞いても知らないようだった。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 ユリアーナは学園に戻った翌日、ハンターギルドで盗賊を引き渡してから、学園の職員室を訪れて今後の教育方針などについて打ち合わせしてきた。


 寮の部屋に戻ると、


「どこ行ってたの?私も連れてってよ!」

「学園の職員室だよ。教育方針について話してきたんだよ」

「よく分かんないけど、私に言わないで出ていくなんて酷い!」

「あー、ごめん」


 マリアちゃんがめんどくさい子になっていた。でも、ちょっと子供っぽい年下の彼女って感じで良いかも…。

 アナスタシアはいまだに自分を姉だと思っているようだけど、外見の割に落ち着いてきたし、私は妹キャラに飢えていたのかもしれない。


 というか、マリアちゃんは私たちの部屋に住み着くのかな。歓迎なんだけど、さすがに男爵家向けの狭い部屋に四人は狭いような…。それにメイドまでオルガと一緒に寝泊まりしてもらうわけにはいかない。だからメイドはマリアちゃんの部屋に帰したのだけど、それだと朝お世話できなくて困るのだ。幸い今日は、私が早く起きたら外でメイドが待機していたので部屋に入れてあげられたけど。


 そこで!


「私の部屋で何をするの?」

「メイド部屋にね…。ふんふん……♪こうやってぇ…」

「うわっ」


 土の整形魔法で穴を開けて階段を作った。メイド部屋は作りが雑なので、床の石をどけると土なのだ。

 そして、階段を作りながら掘り進み、私たちの部屋への地下通路と繋いだ。


「ここを上がれば私たちの部屋だよ。これならメイドさんも行き来できるね」

「うん!こっちの道はどこに繋がってるの?」

「お風呂だよ」

「お風呂!」

「今晩から一緒に入ろうね」

「うん!」


 マリアちゃんは、長期休み前からだんだん私への思いが募っていった感じはあったけど、長期休みで一緒に寝泊まりして私への思いが爆発してしまったようだ。妹系彼女、マジ可愛い。

 エルミロを救う前はツンケンしてたのに、この変わりよう。あのツンがなくなって今ではデレデレじゃないか…。ちょっとツンが懐かしい…。


 アナスタシアが可愛くないっていってるワケじゃないんだよ。アナスタシアは守ってあげたい系なんだ。


 穴掘り作業をした後は、学園の魔法練習場を借りて、みんなでクラブ活動をした。


 そして、寮の食堂で夕食をいただき、マリアちゃんも一緒にお風呂に入った。マシャレッリ領でもやっていたように、一人用のベッドでマリアちゃんとアナスタシアを両手に花で寝ようと思ったのだけど、最近マレリナが寂しそう…。


「ねえマレリーナ、今日は私が端でいいわよ」

「えっ、お姉様?」

「マレリーナもユリアーナを抱いて寝たいんでしょ」

「そ、そんなことは…」

「だって寂しそうだもの」

「お姉様…、ありがと…」

「うふふ」


 私とマレリナでアナスタシアを抱いて寝るという構図だったのに、いつのまにか私が中心になってる。私、モテモテ?ハーレム?むふふ。


 とても嬉しいんだけど、冷静に考えてみると、エルフが女の子を好きになるのはそういう種族だからいいとして、みんなはなんで私を好きになってくれるのかな。スヴェトラーナもそうだけど、みんな私のこと、男だと思ってない?

 ブリギッテはそんなこと言ってなかったけど、エルフが人間の女の子と結ばれる場合、人間の女の子の側もエルフを好きになってくれないと相思相愛になれないわけだ。ブリギッテにとっては、女の子が女の子を好きになるのは当たり前のことだから、言わなかったという可能性もある。

 今度ブリギッテに聞いてみよっと…。


 夜中、どさって音がしたと思ったら、マリアちゃんがベッドから落ちてた…。でも起きなかった。ちょっと四人はムリかも…。私はマリアちゃんを横抱きでベッドに上げて、ふたたびマレリナとマリアちゃんに挟まれて寝た。




 その翌日。私は喫茶店の様子を見に行くことに。やっぱりマリアちゃんが付いてくる。


 アナスタシアは付いてきたことないんだけど、それは歩くのが遅いからであって、ほんとうは付いてきたいんだろうか。マレリナもアナスタシアに付いていなければならないから、我慢しているんだろうか。


「ねえ、二人も来る?」

「いいの?私、足が遅いから…」

「急ぎじゃないから、ゆっくりでいいんだ」

「じゃあ行きたいわ」


 やっぱり付いてきたかったんだ…。二人とも私といたいのに、私がマリアちゃんにばかり構っているから、寂しい思いさせちゃったんだな…。なんか浮気みたいだなぁ…。



 アナスタシアのペースでゆっくり歩いて、喫茶店に向かう。途中、何度もマレリナが疲労回復をかけてあげてるけど、そろそろ筋肉痛になってしまったみたいだ。


「お姉様、痛いかしら?」

「ええ、でも、これを我慢しないと力が付かないのよね?」

「そうだけど」

「私、がんばるわっ!」


 けなげにがんばるアナスタシア…。可愛い…。守ってあげたい…。でもここはマレリナの役目を奪うわけには…。


 ちなみに、マレリナはアナスタシアに話しかけるとき、できるだけお嬢様言葉を使っているようだけど、私はマリアちゃんとかブリギッテに釣られて、ほとんど平民言葉になってしまってる…。気をつけないと…。セラフィーマはそういうの気にしなそうだけど、まだスヴェトラーナに平民言葉で話しかけるわけには…。


「はぁはぁ…、きゃあっ…」


 アナスタシアの脚はもう限界で、アナスタシアは脚がもつれて転んでしまいそうに…。私はすかさず手を伸ばした。もちろんそばにいたマレリナも。二人でアナスタシアを支えることができて、アナスタシアは転ばずにすんだ。


「ありがとう…」

「うん…」


 顔を赤らめてありがとうと言ってきたアナスタシアはとても可愛かった。


「マレリーナもありがとう」

「お姉様が怪我をしなくてよかったわ」


 それから、マレリナがアナスタシアをおぶって喫茶店まで移動した。アナスタシアは私の方を見つめていた。

 最近、みんなの私を見る目が変わってきてる気がする…。今のは素敵な男性に助けてもらったって顔だった…。



 喫茶店に着いた。みんなをテーブル席に待たせて、私は厨房に立った。ハニートースト風のメニューだけでは脳がないので、新レシピを投入。クレープとプリンだ。クレープの生地は配合が変わるだけでパンとあまり変わらないし、プリンも小麦粉を使わないだけで、クリームやジャム、果物をのっけることには変わりない。


 試しに作って、友達と店員に食べてもらった。


「うーん!これも美味しいね!」

「プリンってのは食感が不思議で食べやすいね」

「私はこっちのクレープが良いわ!」


「喜んでいただけて何より」


 それから、店員にクレープやプリンの作り方について問題点や改善点を挙げてもらって、また一週間ほど試行錯誤してもらうことにした。それから、店長にお店の運営状況を聞いた。


 店員に給料を支払って、原料費や店の維持費を残して、残りを異次元のふところにしまった。クラスの教材費がないから、楽器製作費にけっこう裂いてもけっこう余裕がある。


 そろそろ、マシャレッリ領の畜産業を王都でも展開すべきかなぁ。王都の郊外に農地を買って、玉子と牛乳だけでなくお肉も扱おうかな。お店の地下だけでは限界だ。そのためにはマシャレッリ家の王都邸があった方がいいな。それは私のふところから出すものではないと思うので、今度帰ったらセルーゲイに相談しよう。



 喫茶店から帰るときには、アナスタシアは歩けるほど回復していなかった。ずっとマレリナにおんぶだ。

 ここまでムリしなくていいと思うけど、寮と学園の行き来だけじゃろくに鍛えられないから、もうちょっと運動を増やさないとだなぁ。


 帰ったらクラブ活動をしようと思ったけど、アナスタシアが疲れすぎて眠ってしまったので、お開きになった。




 さて、今回は爆弾を投下していないので、長期休みは五十八日間で授業が始まった。前回六日も遅れたから、少しずつ巻き返すのかな。


 春になったから、私も十二歳だ。やっぱり身長がまったく伸びない。このペースだと二十年後にブリギッテのようにはなれない気がする。

 だけど、胸やらお尻は膨らんできていて、女の子らしくなってきている。エルフは五十歳くらいまで成長し続けるようだし、そのうち身長も伸びるといいんだけど…。


 マレリナの身長は順調に伸びてる。日本人ならそろそろ伸びが鈍くなりそうだけど、この国の人種は白人系っぽいので、成人女性の平均身長はまだまだ上だ。

 アナスタシアもほんの少しずつ伸びている。スカートが膝より数ミリ上がってるんだ。



 ところで、私に薫の記憶が宿ってから六年がたったのだ。


 四十歳のレナード神父様が半音低いハープを標準だと思っていたことからも分かるように、この世界の人間も三十から四十歳で脳みその処理速度が六パーセント遅くなる。


 だから、六年たって私も一パーセントくらい遅くなっていないだろうか。私の絶対音感は三十二分の一半音まで区別できる。仮に三十年で一半音上がって聞こえるとしたら六年で五分の一半音だ。上がったことが余裕で分かるはずだ。


 この世界に物理的な音叉はない。だけど、私は魔法が最も効率よく発動する音程というのを音叉にして、自分の聞こえる音が上がっていないか校正することができる。ところが、最近水生成の魔法を使って、音程を変えながら生成される水の量を測る実験をしたところ、聞こえる音は上がっていない。正確に分かるのが三十二分の一半音単位というだけで、それより小さい変化も感知できないわけではない。ほんとうに上がっていないのだ。


 エルフというのは五倍の寿命を持つ生き物だ。人間の一歳分の老化はエルフにとって五歳分なのかもしれない。だとしても、転生してから六年たったんだから、三十分の一半音くらいは上がってもいいと思うのだ。だけど、とにかくまったく変化がないのだ。


 まあ、エルフの脳みその劣化速度が指数関数じゃないとしたらお手上げなんだけど。そもそも十歳までは人間と同じ速度で成長して、そのあとは五分の一っていう場合分けが入っている時点で線形ではない。それも身長だけの話で、老化についてはまったく分からないけど。




 三年生になったら教室が四階になった。アナスタシアが階段を上る速度の成長よりも、階段の段数が増えるほうが速い。アナスタシアに三階分も階段を上らせたら日が暮れる。でも、いつまでたっても成長しないから、たまに筋肉痛になる程度には上らせてるよ。毎日筋肉痛はよくないから、たまにね。


 初日は魔法の座学だけで終わった。放課後はさっそくクラブ活動だ。


 スヴェトラーナの胸は、やはり二ヶ月見ない間に目を見張るほど成長していた。どう見積もっても、アナスタシアやマリアちゃんの身長が伸びるよりも、スヴェトラーナの胸の直径が大きくなる方が速い。当然そんなペースで大きくなっていれば、ブラジャーのホックを最大まで開けてもきつくなっているころだろうと思って、新しいブラジャーを持ってきてあげたのだ。


「これ、どうぞ…」

「まあ!ユリアーナ様はわたくしのことをよく分かっていらっしゃるのね。ありがとう」


 私は音程を測る以外には、とくにチート的な鑑定スキルなんてないと思っていたけど、ことスヴェトラーナの胸の大きさについては、驚異的な鑑定スキルを持っている!その鑑定スキルから導き出される予測精度によって、今回のブラジャーもぴったりなはずだ。


 私とブリギッテがスヴェトラーナの胸をデレデレと見ていると、マリアちゃんが自分の胸を見下ろしてしょんぼりとしているのが目に入った。今度、詰め物をしたブラでも作ってあげようかな…。それとも禁断の魔法に手を出すか…。

 いやいや、マリアちゃんは子供っぽくて妹のようなキャラが売りなのであって、永遠に大人にならないでほしい…。それに、やっぱり友達の肉体や精神を弄ったりするのは気が引けるのだ。


「なにさ!私なんてユリアーナといつも一緒に寝てるんだから!」


 マリアちゃんがスヴェトラーナに張り合うように、私との距離の近さを自慢した!これはなかなかの爆弾を投下したものだ…。


「な、何ですって…」


 負けた、という表情をしているスヴェトラーナ。


「聞き捨てならないです。えっと、名前なんですっけ」


 セラフィーマはマリアちゃんの名前を忘れてしまっている。いや、最初から覚えていないのかもしれない。去年はクラブ活動でほとんど毎日一緒だったのだけど、一度もマリアちゃんを呼んだのを聞いたことがない。


 人の名前を知らないなんていまさら言えないから話しかけられない。話しかけられないから人の名前を知る機会がない。というのは分からないでもない。薫はそういういう生き物だったからだ。セラフィーマほどひどくはなかったけどね。

 ちなみに、私はクラス全員の名前と顔が一致している。でも薫だったら二年たっても話さない子はずっと知らないままだったはずだ。セラフィーマもそうなんだろうな。でも一緒にクラブ活動してる子くらい覚えてほしい。


「じゃあ今日から私もー」


 軽いノリで一緒に寝ようと言うブリギッテ。


「えっと…、私たちの部屋は、もう人を増やせるほどの広さがありません…」


 もう、六歳相当のアナスタシアをもう一人追加するスペースすらない。ブリギッテは十四歳相当だからなぁ。スヴェトラーナは平均よりちょっと大きいし、何より横向きになると三人分のスペースを取るだろう。

 スヴェトラーナと一緒に寝てみたいな…。尻にも敷かれたいけど、胸にも敷かれたい…。


「冗談だよぅ。ほんとうは私も一緒に寝たいけど、メイドが許してくれないだろなー」


 ブリギッテのメイドも監視役なのかなぁ。マリアちゃんみたいにあからさまに悪事を働こうとしているわけじゃないから、さすがに洗脳したり記憶を書き換えたりするのは気が引ける。


「わたくしもご一緒したいのですけど…」


 公爵令嬢が男爵令嬢向けの部屋に泊まるワケにはいかないよね。


「私はメイドにネグリジェを取りに行かせます。メイドには翌朝迎えに来てもらいます」


 えっ、セラフィーマは自由すぎる。っていうか、広さがないって言ってるのに…。


 今日のクラブ活動は、ブラジャーをあげたり押し問答しているだけで終わってしまった。まあ、キャッキャうふふしてるだけで楽しいからいいんだけど。




 ハンカチをかんで馬車に乗るスヴェトラーナを見送り、私たちは寮へ。とりあえず部屋に荷物を置いてから食堂へ。


「セラフィーマ、この食堂は寮生なら無料で利用でるけど、外部の者は一食大銅貨五枚だそうよ」


 五〇〇円で盛り放題!だけどおかわり禁止!薫の会社の社員食堂にもそんな感じのメニューがあった。


「お願いします。あ…」


 セラフィーマが後ろを振り返り自分のメイドにお金を出させようとしたみたいだけど、メイドにはネグリジェや下着を取りに行かせたので、メイドがいなかった。


「立て替えておくわ」

「ごめんなさい…」

「いいえ」


 ご令嬢はお金を持ち歩かない。持ち歩くのは私とマレリナくらいだ。とくに大金貨を持ち歩くのは私だけだ。


 各自、お盆にお皿を載せ、お皿に野菜やスープ、パンを載せていく。


「お、このパンはロビアンコの料理人が作るものより美味しいですね。だけど、ユリちゃんと一緒に行ったパン屋ほどではないですね」

「ええ。ここの食堂には、私が食材をいくつか提供しているので」

「うーん。ますます住みたいですね」


 だからスペースないっての。今日はどうしよ…。




 私たち五人は夕食を終え、男爵令嬢一人用の狭い部屋へ…。


「狭い部屋ですね。でも狭いのは好きですよ」


 セラフィーマの好みの問題じゃない。シングルベッドに五人も寝たら、幅が収まるかどうか微妙なところだ。


「お風呂に入ろ!」

「そうだね」


「お風呂ですか?それって、王家や公爵家にはあるという…」

「あ、やっぱり王家と公爵家にはお風呂があるのね」

「こんなところにもあるんですね…」

「ええ、まあ」


 というわけで、メイド部屋から地下に降りてお風呂へ。女の子五人とメイド三人の大所帯だ。

 ちなみに、セラフィーマのメイドはネグリジェやお世話の道具を持って戻ってきていた。


「変なところを通るんですね」

「まあ、私の作ったお風呂なので」

「なんと!それは楽しみです」


 脱衣所でドレスを脱ぐ。セラフィーマは自分のメイドに、アナスタシアはオルガに脱がせてもらう。私とマレリナ、マリアちゃんは自分で脱ぐ。


 セラフィーマの体格はマレリナと同じくらいだけど、身体を鍛えているわけではないから、プロポーションはマレリナのほうが良い。だけど、生粋のお嬢様のぷにぷにお肌も捨てがたい。


「はいているのは何ですか?」

「これはレギンスよ。私とマレリーナは暴れるので、動きやすい下着にしてるの」


「それに暖かいんだよ」

「あなたもはいているんですね。ふーん」


 ドレスを脱いだらセラフィーマがレギンスを興味津々に見ている。そしてマリアちゃんもはいていると分かったら、自分にもくれと言わんばかりに私を見つめてきた。


「今度作ってあげるわ」

「ありがとうございます!」



 みんなで浴室に入って、


「まずは洗うわよ」


「ねえ、初心者にやる前にお手本見せるっていつも言ってるじゃん」

「あ、そうだった」


 お風呂初参加の子への洗礼ってワケじゃないんだよ。


「じゃあマレリナ、行くよ」

「うん」

「ふんふん……♪」


 水生成魔法と加熱魔法で、マレリナの全身をお湯で包み、かき混ぜる。


 ざばっ。ばっしゃーん。


「ぷはっ」


「セラフィーマ様、分かったかしら?」

「面白い!私にもやってくれるんですね!」

「ええ。行くわよ。ふんふん……♪」


 ざばっ。ばっしゃーん。


 セラフィーマは初お風呂だから、土整形で土を集めたけど、ほとんどなかった。生粋のお嬢様のおうちには、土埃もたたないだろう。


 ちなみにマシャレッリ家で洗ったマリアちゃんの髪には土がけっこう貯まっていた。元平民だし森にも行ったことがあるだろう。それに男爵家ではろくなお世話もしてもらってなかったかも。


 全員を洗浄してから湯船へ。


「いやー、これは良いですね。肩こりが癒さされます」

「セラフィーマ様は肩こりなのね。ふんふん……♪」


 疲労回復と、肩の筋肉の治療を歌った。


「おお!一瞬で肩こりが吹っ飛びました!そうそう、さっきから水を出したり治療したりしているのは誰ですか?ハープを持っている人がいないのですが」


「ユリアーナは歌で魔法を使えるんだよ!すごいでしょ!」


 セラフィーマの疑問に、マリアちゃんがドヤ顔で応えた。子供っぽくてとても可愛い。


 私は友達にはもうバラしていいと思ってるから、平気で鼻歌で魔法を使っている。マリアちゃんは気が付いていたんだ。だけど、まるで自分のことのように、ない胸を張って自慢している。


「うーん、しかし、水魔法は誰が?」


「ユリアーナはマルチキャストなんだよ!ねっ!」


「えっ、うん」


 そこまで気が付いていたんだね。


「なるほど、髪の色はアテにならないようですね」


「ユリアーナの髪はたくさんの色が混ざってるから灰色になっちゃったんだよ!」


 マリアちゃんはない胸を張り続ける。


「なるほど。興味深いですね」


 セラフィーマは目を輝かせて私を見る。


「でもみんなに言いふらしたら大変なことになるからダメだよ!」


「そうですね。命属性と水属性…、あ、温めたのは火属性?三つも使えるとなったら大騒ぎですね」


 私をよそに、二人で勝手に話を進めている。まあいいや。秘密にしてくれるみたいだから。


 お風呂から上がって、みんなの水滴と湯船のお湯を霧状にして、乾いた風で消滅させた。


「おお!一瞬で乾いた!それに私の髪がつやつやです!」


「そうでしょー!」


 お風呂では最後までマリアちゃんがドヤ顔で、ない胸を張りっぱなしだった。




 そして、問題のベッド。

 ネグリジェに着替えると、セラフィーマは私をベッドに押し倒して、自分も横たわった。そして、私に抱きついた。


「ちょっと!そこは私の場所だよ!」

「えー、私はゲストなんだからいいではないですか。えっと、名前なんだっけ…。今日くらいは遠慮してください」

「私はマリアだよ!とにかくそこは私なの!」

「むふふー」

「こらー!離れて!」


 セラフィーマを引っぺがそうとマリアちゃんは必死だ。セラフィーマは言うことを聞かないで、私をがしっと抱いている。薄いネグリジェの下の、セラフィーマのぷにぷにな肌の感触が伝わってくる。ごつごつのアナスタシアとも、ムキムキのマレリナとも、幼児体型のマリアちゃんとも違う…、女の子のやわらかな感触…。


 マレリナとアナスタシアは、呆れたような、そしてちょっと残念そうな顔をして、じっと見ている。


 あれぇ…、また浮気現場を見られたみたいになってる…。私はただ女の子の友達とキャッキャうふふしてるだけなのに…。いや、エルフにとっては女の子は異性も同然。これは異性とイチャイチャしてるのと同じ…。

 こういうときどうすればいいの?エルフ初心者の私に教えて!ブリギッテ先生!


 本気で電話しようかと思ってしまった。電話じゃなくて心魔法だけど。


 マリアちゃんセラフィーマを引っぺがそうとしているさなか、反対側からアナスタシアが私に抱きついてきた。そして、小さなアナスタシア越しにマレリナが私に抱きついてきた。


「ちょっとぉ!こうなったら!」


 マリアちゃんは私に覆い被さってきた。私は頑丈だけど、さすがにこれでは寝られない…。ふんふん♪と口ずさみ、筋力強化と防護強化をかける。一回の演奏で、朝までもつかなぁ…。


 こうして、私の右にセラフィーマ、左にアナスタシアとマレリナ、上にマリアちゃんという立体構造を取ることで、ベッドのスペース問題は解決したのだった。そして、私は夜中に何回か魔法が切れて、うぇえと起こされるのだった。




★★★★★★

★セラフィーマ十二歳




 セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢はユリアーナを抱いて目覚めた。


 今日は授業のない日。ユリちゃんとたっぷり遊べます!と思ったら、ユリちゃんとマレちゃんは授業があるらしいです。


「今日は私、見学に行くの」

「今日の午後は何の授業でしたっけ?」

「剣術だよ。ユリアーナを見るの」

「じゃあ私も見にいきます」


 ピンク髪の子が、ユリちゃんの授業を見学するというので、私も付いていくことにしました。

 私とアナちゃん、そしてピンク髪の子は剣術の練習場の観客席へ。


 ユリちゃんとマレちゃんは木刀を構えて対峙しています。


 マレちゃんが足を踏み出して、一気にユリちゃんに詰め寄りました!そして剣を一振り。私が危ない、と思う暇もなく、ユリちゃんは最小限の動きで剣をかわし、マレちゃんに突きを放ちました。


 筋力強化を使えば私もあれくらい速く動けるかもしれません。でもユリちゃんもマレちゃんも筋力強化を使わずに、すごい速さで駆け回り、剣を打ち合っています。


「マレリナ、筋力強化、使ってよ」

「折れるよ」

「いいから」


 二人はベンチにハープを取りに行き、ぽんぽんとハープを弾きました。マレちゃんのは筋力強化です。でもユリちゃんのは知らない曲です。


「行くよ」

「うん」


 先ほどとは比べものにならないマレちゃんの速さ。もはや目で追うのも難しい。

 マレちゃんの剣を受けるユリちゃん。木刀を振る音がびゅんびゅんと鳴り、木刀がぶつかった音とは思えないほどのガツンという轟音が練習場に鳴り響きます。


 マレちゃんは筋力強化を使ったのにユリちゃんは使ってないのでは?それなのに、ユリちゃんは私の目に追えないほどの剣を受け、そして返しています。私のユリちゃん…、マジつええ…。


「ユリアーナー!すごーい!」

「マレリーナ~、頑張ってー」


 私と観客席に座っていたピンク髪の子が立ち上がり、ユリちゃんを応援しています。アナちゃんはマレちゃんを応援しています。



「マレリーナもすごいんだね!手合わせ願うよ!」


 黄色い髪の男子がマレちゃんに勝負を挑みました。そういえば練習場には男子八人と教師がいました。空気すぎて気が付きませんでした。私の目には関わりのない子がほとんど映らないので。


 黄色い男子がマレちゃんに突きを放ちました。マレちゃんはあっさり回避。

 マレちゃんは黄色い男子に突きを放ちました。黄色い男子は、突きを放たれたことに気が付いていません。マレちゃんはため息をついて、黄色い男子を足払いして転ばせました。そして、黄色い男子の顔に切っ先を突きつけました。


「そんな技があったとは!」


 黄色い男子はやられたというのに嬉しそうです。



 一方で、ユリちゃんはブリちゃんと打ち合っていました。ユリちゃんの動きがぎこちないです。何やらぼーっと…、いや、でれーっとしているような…。


 ガツンっ!


「いったああああ」


 ブリちゃんが剣を振り上げて降ろすと、ユリちゃんの脳天に直撃。

 マレちゃんの剣よりもずっと遅いのに、なぜかユリちゃんはよけることができませんでした。


「ユリアーナはいっつもこれに引っかかるよねー」

「うぐぅ…」




 授業が終わるとクラブ活動です。


 私はユリちゃんの綺麗な声が好きです。ユリちゃんは声で魔法を使えるという類い希なる能力の持ち主。クラブ活動で演奏する音楽は魔法ではありませんが、聞いているとなんだか幸せな気持ちになります。


「今日から新しい曲をやります」


 ユリちゃんがみんなに楽譜を配りました。


「ユリアナ、これめちゃくちゃ長いじゃん」

「むふふ。時間がかかってもいいから覚えて!」


 ほんとうに長いです。


「六年生で習う魔法よりも長いのではありませんか?」

「むふふ。そうだね。でもがんばってね!」

「はい!」


 ユリちゃんに期待されては応えないわけにはいかないです。


 学園に入ったばかりのころは、一フレーズの曲を覚えるのに三ヶ月もかかっていたというのに、今では数日あれば一フレーズ覚えられます。というか、ユリちゃんにあらかじめもらっている六年生までの魔法の楽譜は、自主練でそろそろ終盤に差し掛かっています。


 ぽろりろぽろりろ♪

 ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ♪

 どんどんしゃっ、どんどんしゃっ♪


「ふんふんふんーん♪」


 ユリちゃんは右手と左手で別の楽器を弾きながら歌まで歌います。いや、右手で弾いているのは白と黒の板が三段重ねの楽器で、下段でドゥ、ドゥと身体に響くような音を鳴らしつつ、中段と上段でぽろりろと高い音を奏でます。その指の動きはとてもせわしないです。ユリちゃんは剣術で目にも留まらぬ速さで動いていたけど、楽器を弾く指だってとても速いです。

 まだみんな練習し始めたばかりだというのに、ユリちゃんだけは一人で四役をこなしています。ユリちゃんの頭の中はどうなっているのか知りたいです。


「皆様…、週末、授業が終わったあとわたくしの屋敷にご招待したいのですが、よろしいかしら…」

「行きます!」


 す…、何度聞いても名前を覚えられないです。びよんびよん髪のおっぱいちゃんが屋敷に招待してくれるそうです。ユリちゃんが真っ先に食いつきました。しまった!その手がありましたか。

 でもいいんです。今日もユリちゃんの部屋にお泊まりするんです。と思ったら、明日は授業があるからと、メイドに止められました。残念。


 マレちゃんとアナちゃんとブリちゃんと、あとピンク髪の子もおっぱいちゃんの屋敷にお邪魔するそうです。もちろん私も参加します。




 翌日は、魔道具の授業です!


 ユリちゃんは魔方陣と魔法音楽の関連性を発見した偉人です。というか、ユリちゃんは魔方陣を知る前から、魔法を紙に記す楽譜を開発しています。そして、私も今なら、魔方陣と楽譜を見比べれば、それが同じものを表していることを理解できます。私は名前を覚えられませんが、こういう法則を覚えて実践するのは得意です。


 今日の授業は、複雑な条件下で魔方陣を発動させる方法と、魔方陣を繰り返し発動させる方法。ユリちゃんは教師から少し話を聞いただけで、複数の魔方陣を組み合わせていき、条件や繰り返しを設定していきます。私も負けてはいられません。これは私の得意分野です。将来は学園で魔道具の研究を行いたいのですから!


 基本的に、本に載っている魔方陣や教師から教わる魔方陣を組み合わせて魔道具ができあがります。でも私は知っています。ユリちゃんが新しい魔方陣や魔法を作れることを。

 ユリちゃんは言いました。魔法のメロディは単語に対応していると。単語を並べて文を組み立てるように、ユリちゃんは魔法のメロディを組み合わせて新しい魔法を作ってしまいます。


 ユリちゃんは魔法のいろいろな法則を解き明かしています。むしろ、魔法というものを作ったのはユリちゃんなのではないかと思ってしまうほどです。


 ちなみに、ピンク髪の子は今まで魔道具の授業に出席していなかったと思うのですが、今期から出席するようになったみたいです。でも、今までの内容をまったく知らないから授業について行けず、ユリちゃんに教えてもらっていました。ずるい!




★★★★★★

★スヴェトラーナ十二歳




 週の最後の授業の日、スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢はそわそわしていた。


 今日は魔法戦闘の授業です。これが終われば、クラブ活動をせずに、わたくしの屋敷にユリアーナ様と皆様をお招きするのです!


 どーん!


「ぎゃー!スヴェトラーナさん、狙いを定めてください」

「あら、ごめんあそばせ」


 授業が終わったあとのことばかり考えていたら、魔法のイメージが疎かになっていたようですわ。私の放った火の玉はあらぬところへ。先生の髪がもじゃもじゃになっていました。わたくしとしたことが。


 だってしかたがないではありませんか!ユリアーナ様と一つ屋根の下ですよ!あああ、もう想像するだけで…。


 どーん!


「だから、前を見てくださいぃぃ」

「うふふ、ごめんあそばせ」


 ユリアーナ様はマレリーナ様と筋力強化の魔法を使って、素手や脚で打ち合っています。わたくしも剣術ならたしなんでいますが、武器を使わない戦闘なんて初めて見ました。


 お二人は女性とは思えないほどお強いです。とくにユリアーナ様!お互いに筋力強化を使っての戦闘訓練と言っておきながら、自分は筋力強化を使わないのです。それなのに筋力強化を使ったマレリーナ様と互角に戦っています。ほんとうにユリアーナ様はお強いのです!

 ですが、ユリアーナ様はわたくしと剣の練習をするときは、わざとわたくしに一本を譲って下さいます。ユリアーナ様はとても紳士な方なのです!


 どーん!


「だから前をー!」



 魔法戦闘の授業は、火、雷、土、水、風の魔法使い向けの授業です。ですが、ユリアーナ様とマレリーナ様は命魔法の筋力強化を使って戦闘する訓練をしています。


 他の属性の者にとっては今日はお休みです。それなのに、セラフィーマ様とマリア様は観客席でユリアーナ様をずっと見ていました。あの方たちもユリアーナ様を狙っているのかしら。


 ユリアーナ様…。可愛らしくて整った顔立ち。信じられないほどの輝きを放つ銀の髪。小柄なのに大人に近づいている体つき。

 出会いは他の生徒にいわれのない罪を押しつけられそうになっていたところを、わたくしが仲裁したことでした。公爵令嬢のわたくしに向かってはっきりと正論をいう姿勢にも興味を持ちました。

 そして、今度はわたくしがいわれのない罪で裁かれそうになっていたところをかばっていただいたのです。まるで殿方のようにわたくしを助けてくださるユリアーナ様に、わたくしの心は打ち抜かれました。



 授業が終わりました。このときをどれだけ待ちわびたことか。


「ユリアーナ様、さあ、行きましょう!」

「あ…、着替えてからでよろしいでしょうか…」


 ユリアーナ様たちは汗びっしょりです。ユリアーナ様の輝く髪に汗がしたたって、余計に輝いて見えます。それにユリアーナ様の汗の匂い…、とても好きです…。わたくしとしてはこのまま汗の染みた運動着のままでも構わないのですが、たしかに、この服は貴族家に赴くのには相応しくありません。


「はい…、待ってますわね」



 八人乗りの馬車を二台用意しました。一台目にはユリアーナ様、マレリーナ様、アナスタシア様、セラフィーマ様、ブリギッテ様、マリア様、わたくし。あとわたくしのメイドが二人。二台目にはユリアーナ様たちのメイド五人に乗っていただきます。


「あ、ありがとうございます…」


 御者がユリアーナ様をエスコートしようとしたのですが、ユリアーナ様は手を取らずにそのまま馬車に乗り込もうとしました。途中で気がついて手を取っていました。


 皆様エスコートに慣れていません。皆様は平民から貴族の養女にななったのだからしかたがありませんね。って、セラフィーマ様は生粋の侯爵令嬢のはずですが、ロビアンコ侯爵家の教育はどうなっているのでしょうか。


「こんなに立派な馬車…、初めて…」

「私もだよ」


 マリア様とブリギッテ様は馬車の内装や広さに驚いているようです。

 セラフィーマ様は興味なしといった感じです。マレリーナ様とアナスタシア様は緊張していらっしゃいます。

 ユリアーナ様はそわそわしているようです。きっとわたくしと一夜を過ごせるのが楽しみなのですわ!



 フョードロヴナ公爵家の王都邸は、王城の近くにあるので、学園から少し離れています。二十分ほどで王都邸の門まで到着しました。


「こ、これが公爵家…」

「うひょー…」


 門から屋敷までは五分ほど庭が続きます。窓から見える景色に皆様見入っています。


 馬車であれだけ驚いていたのですもの。マリア様もブリギッテ様も、驚きが止まりません。

 セラフィーマ様はあいかわらず興味なしです。マレリーナ様とアナスタシア様は庭を見て固まってしまいました。

 ユリアーナ様は外を見ていませんが、相変わらずそわそわしています。


 屋敷に到着しました。屋敷のメイドと執事八〇人が並んで出迎えます。


「「「「「ようこそおいでくださいました」」」」」


 皆様、使用人の数や四階建ての屋敷に終始固まりっぱなしです。

 でも、ユリアーナ様だけは内心そわそわしていながら落ち着きを装っています。さすがユリアーナ様。わたくし以外の前では平民のように振る舞っていますが、貴族の毅然とした振る舞いも身につけていらっしゃいます。

 あ、セラフィーマ様は普段どおりですね。


 屋敷に入ると、お父様とお母様、そして九歳の弟が出迎えます。


「よくおいでくださいました。私はウラディミール・フョードロヴナ公爵です」

「ごきげんよう、わたくしはエリザベータ・フョードロヴナです。歓迎いたしますわ」

「エドアルド・フョードロヴナです」


 お父様とエドアルドは胸に手を当て、お母様はカーテシーで挨拶しました。


 ちなみに、お母様の髪は薄紅色。炎と命の属性に適性があります。お母様の髪型は、私と同じボリュームの縦ロールが四つです。左右と、後ろ側に二つ、等間隔です。お母様はすごいのです。髪の量も胸の大きさも。


 お父様の髪はオレンジ。炎と雷の属性に適性があります。

 弟のエドアルドの髪は黄緑。エドアルドは九歳なので、来年学園に入るまで適性は分かりませんが、おそらく木属性が確実で、雷と土の属性のどちらかに適性があるとのことです。


「ごきげんよう、ユリアーナ・マシャレッリと申します」


 お父様たちの挨拶に対して、最初に動いたのはユリアーナ様。完璧なカーテシーを返しました。

 ユリアーナ様は、お母様の大きな胸をまっすぐ見ています。


「ご、ごきげんよう。マレリーナ・マシャレッリと申します」

「ご、ごきげんよう。アナスタシア・マシャレッリと申します」


 マレリーナ様は緊張していながらも、なかなか綺麗なカーテシーです。アナスタシア様は歩くのもおぼつかないほど身体の弱い方ですから、カーテシーの足さばきはお辛いのでしょう。ぷるぷると震えています。


「ごきげんよう、セラフィーマ・ロビアンコです」


 セラフィーマ様は落ち着いているようですが、カーテシーは及第点といったところでしょうか。侯爵家たるもの、もう少し努力してほしいものです。


「ま、マリア・ジェルミーニです。ご、ごごご、ごきげ…あわわわ…」

「ブリギッテ・アルカンジェリです。ごきげんよう…」


 マリア様は緊張のあまりカーテシーでバランスを崩してしまいました。ブリギッテ様は足さばきがおかしいです。


 本来、公爵令嬢としてはお友達も侯爵家以上で固めるべきなのでしょうが、わたくしのお友達は男爵家から侯爵家まで。しかも、ほとんど平民出身の養女。セラフィーマ様も侯爵家としてはあるまじきレベルです。

 お父様は口元が引きつりそうなのを必死にこらえています。お父様にお見せできるレベルではありませんでしたわね…。


 でもお母様は対面よりも友情や愛…、いえ、実益を優先してくださる方です。ニコニコとして皆を見回しつつ、そしてユリアーナ様にターゲットを絞り込みました。


「あなたがユリアーナね!とても良くしていただいているとスヴェトラーナから聞いていますわ」

「恐縮でございます。こちらこそ、スヴェトラーナ様には助けていただいております」

「うふふっ。聞いたとおりの子ですわね!皆様、ゆっくりなさってくださいまし」



 わたくしの部屋のクローゼットに荷物を運び終わり、わたくしのお部屋で一息ついたあと、夕食の席に皆様を案内しました。


 ユリアーナ様とセラフィーマ様以外は、相変わらずガチガチです。


「みなさん、そんなかしこまらなくていいのよ」


 お母様は皆様の緊張がほぐれるように、少しだけ砕けた言葉で話しかけました。

 でも、お父様が目を光らせているので、あまり砕けた言葉はいかがなものでしょうか。


「あなた、そんなに睨んでいては、お料理が美味しくなくなってしまいますわ」

「ふむ…。私は席を外しましょう。キミ、料理を私の部屋に運んでください」


「かしこまりました」


 お父様は部屋を出ました。食事の途中で席を立つなんて、よほどわたくしのお友達が気に食わないのね。


「さあ、みなさん。怖い殿方はいませんわ。いつもどおりにしていいのよ」


「「はーい!」」


 真っ先に返事をしたのはマリア様とブリギッテ様。


「ちょっとマリアちゃん…、いつもどおりはマズいって…」


「いっただっきまーす」


 マリア様はオーク肉のステーキにフォークを刺し、かぶりつきました。

 ユリアーナ様はあちゃーという顔をしています。


「うーん、ユリアーナのおうちのお肉のほうが美味しかったな」

「マリアちゃん、それはちょっと…」


「まあ。それは興味あるわ。ユリアーナのおうちというのは、マシャレッリ伯爵のお屋敷かしら?」

「うん。ユリアーナのおうちでは二種類のお肉が出るんだ。暗い茶色のお肉が美味しいんだよ。ねー?」


「マリアちゃん…」


「ユリアーナ嬢、教えてくださいまし」

「暗い茶色の肉は、ミノタウロスです。私の領地で育てております」

「まあ!魔物を育てるですって!詳しく聞かせてほしいわ!」

「地下に檻を作りまして……」


 お母様はできる女です。お肉そのものではなく、お金儲けや政治的なことを考えているのでしょう。お母様にユリアーナ様のことを認めてもらうチャンスです。


 マリア様ほど緊張を緩めてしまうのは困りますが、マレリーナ様もアナスタシア様、ブリギッテ様も適度に緊張を緩めることができたようです。三人のテーブルマナーはしっかりできています。

 セラフィーマ様は我関せずでもくもくと召し上がっていますが、テーブルマナーに問題はないようです。




 夕食のあとは、


「さあ皆さん、お風呂に入りますわよ!」


「「「はい」」」

「はーい」


 お風呂は王家と公爵家にしかないと聞いています。わたくしはそれを知っていて、皆さんを驚かせるつもりだったのですが、この反応はどういうことでしょう。


 マシャレッリ家三姉妹は淡々と応えました。マリア様もあたりまえと言わんばかり。


「さすが公爵家ですね」


 セラフィーマ様はお風呂の存在を知っているようですが、自分の屋敷にはなさそうですわね。


「お風呂ってなんですか?」


 知らないのはブリギッテ様だけ?


 脱衣所行くと、マシャレッリ家三姉妹は慣れた様子で、ドレスを脱いでいます。マリア様も慣れた様子です。

 ブリギッテ様とセラフィーマ様は、周りを見てドレスを脱ぎ始めました。


 ああ…、ユリアーナ様のお体…。素敵…。


 わたくし、エルフという種族について教わったのです。

 エルフには、人間でいう女性の姿をした者しかいません。耳が尖っている以外の外見は人間とほぼ同じです。背丈の割には胸とお尻の大きいくらいです。ですが、胸とお尻が大きいのはわたくしとお母様も同じです。


 エルフには女性しかいませんが、女性どうしで子を成すことができるそうです。しかも、エルフは人間の女性から子を授かることもできるし、人間の女性に子を授けることもできるそうです!

 そのことから、エルフは人間の女性を好きになることができ、また人間の女性がエルフを好きになることもできるのです。


 そう!わたくしがユリアーナ様に恋をするのは当然なのですわ!ヴィアチェスラフ王子殿下にいわれのない罪の問われたのをユリアーナ様に助けられたとき、わたくしは恋に落ちてしまったのです!

 昔、ヴィアチェスラフ王子殿下にいだいていたような思いを、今はユリアーナ様にいだいています。ユリアーナ様はどう見ても女性ですが、まるで殿方のように素敵なんですもの。勉学も剣術も魔術も優秀どころか、クラスの皆にその知識を分け与え、皆を豊かにしようとする高貴な姿勢。


 私の学年は、ヴィアチェスラフ王子殿下の正室を狙う者が集まる特別な学年。最初はギスギスしていたのに、ユリアーナ様のおかげで全員側室に内定したため、心に余裕が生まれ、和気藹々としたクラスになりました。そんなユリアーナ様に皆が恋心をいだいてもおかしくありません。でもユリアーナ様はわたくしがいただくのです!



 わたくしはメイドにドレスを脱がしてもらいました。


 ユリアーナ様は、わたくしから目をそらしています。いえ、わたくしのことを見たくてしょうがないという気持ちが伝わってきます。尻目がこっちに向いていますもの。そして、わたくしと目が合うと、目をそらしてしまいます。可愛いいい!


 殿方は、胸やお尻の大きな女性が好きだそうです。エルフは女性を好きになる種族ということは、ユリアーナ様もわたくしの胸やお尻が好きに違いありません!わたくしもなんだか、男性に裸を見られているような気持ちになります…。他の女性に見られてもこんな気持ちにはならないのに。

 わたくしとしては、最近大きくなりすぎた胸が邪魔でしかたがないのですけど、これはユリアーナ様にわたくしのことを好きになってもらうための武器だと考えると、わたくしも大きな胸を持っていてよかったと思います。わたくしに大きな胸を授けてくれたお母様に感謝です。


 目をそらしてこちらを見ていないユリアーナ様にわたくしは近づき、横から抱きつきました。


「ちょ…、わ…、す、すすす、す…」

「うふふ…。ユリアーナ様、可愛い…」


 わたくし、胸がドキドキしています…。そして、それ以上にユリアーナ様の鼓動がわたくしの腕を通じて伝わってきます。やっぱりユリアーナ様もわたくしのことが好きなんですわ!

 わたくしは自分の胸の鼓動を伝えたくて、わたくしの胸と胸でユリアーナ様の肩を挟みこみました。すると、ユリアーナ様の顔がぼっと火が付いたように真っ赤になり、ユリアーナ様の鼓動が速く強くなりました。わたくしの胸の鼓動を感じていただけたみたいです。


「ちょっと!なにやってるの?ユリアーナは私のなんだから!」

「あなた、なんですの!」


 マリア様がわたくしからユリアーナ様を引き剥がそうとしています。負けませんわ!


「私も混ぜて~」

「はう…」


 ブリギッテ様はユリアーナ様ではなく、わたくしに抱きついてきました。

 ブリギッテ様の胸がわたくしの腕に触れると、少しだけユリアーナ様にいだく感情と同じようなものがこみ上げてきます。ユリアーナ様のまだ咲き始めの花のような胸とは違い、エルフが持つブリギッテ様の大きな胸…。いいえ!わたくしはユリアーナ様一筋なのです!


「聞き捨てなりません。私がいただきます」


 今度はセラフィーマ様が反対から攻めてきて、ユリアーナ様はぎゅうぎゅうに。


「あら?ユリアーナ様?」


「あれ、ユリアーナ、どうしたの?」

「あららー。これくらいで。ウブだなぁ」

「気を失ってしまいました」


 どうしましょう。


「はいはい、皆さん離れてください」


 マレリーナ様は脱いだドレスの側に置いてあったオルゴールを取り出し、ボタンを押してぴぴぴぴんと魔法を奏でました。


「うーん…。はっ。はうう…」


 ユリアーナ様は目を覚ましました。これは命魔法の覚醒ですわね。でも、私を見るなりすぐに顔を真っ赤にして、落ち着かない様子です。


「こっちじゃない?」


 今度はマリア様がオルゴールで魔法を奏でました。すると、ユリアーナ様の真っ赤だった顔がいつもの白い肌の色に戻り、ユリアーナ様は落ち着きを取り戻しました。こんな魔法もあるのですね。わたくし心魔法はあまり知りません。


「ふう…」


 わたくしとしては、ユリアーナ様にはわたくしの身体に興奮していただいたままでよかったのですけど、気絶してしまうのは困りますものね。しかたがないです。



 さて、脱衣所でだいぶ長くすごしてしまいましたが、やっとこさお風呂です。

 フョードロヴナ家のメイドが、ユリアーナ様たちの一人一人をお世話させていただきます。


「ここではメイドさんが身体を洗ってくれるんだねー」

「ユリアーナの魔法は速いけど雑だからこっちの方がいいね」

「そうね、びっくりするものね」


 マリア様とマレリーナ様、アナスタシア様は、まるでお風呂に入ったことのあるような口ぶりです。


「お風呂とは本来こういうものなのですね」


 セラフィーマ様はお風呂に入ったことのある口ぶりです。


「身体を洗ってもらえるなんて幸せー」


 ブリギッテ様はお風呂に入るのが初めてのようです。


「あの…、マシャレッリ家にはお風呂があるのですか?」


 お風呂というのは王家と公爵家にしかないと聞いています。でも財力さえあれば、侯爵家でお風呂を設置して維持することも可能でしょう。でも、伯爵家でお風呂というのはいささか贅沢ではないでしょうか。


 でもわたくしは知っています。王宮に勤めるお父様に調べてきてもらったのです。マシャレッリ家は長年不作が続き、伯爵家の最下位でした。ところが、三年前から突然税収が上がり、あっという間に伯爵家の一位となりました。そして、今では税収だけなら侯爵家の上位相当です。


 それだけ潤っているのなら、屋敷にお風呂があっても不思議ではありません。


「そうだよ!ユリアーナのおうちにはお風呂があるし、寮のお風呂だってユリアーナが作ったんだから!」


 なぜマリア様が自分のことのように自慢するのでしょう。ん?


「寮にお風呂ですって?」

「うん。ユリアーナがいつもお湯を出してくれて、身体も洗ってくれるんだよ!」

「何ですって!ユリアーナ様!わたくしの身体も洗ってくださいまし!」


「あ、はい…」


 ユリアーナ様は、わたくしの身体をまっすぐ見てくれません。


「ユリアーナ様!わたくしのことを見て!」

「えっ、そ、その…はい…」


 ユリアーナ様は恐る恐るわたくしに顔を向けてまっすぐ見ました。すると、また顔が真っ赤になってしまいました。やっぱりユリアーナ様はわたくしのことが好きなのね。


「ユリアーナ、おてほ……」

「ふんふん……♪」


 マレリーナ様が何か言いかけましたが、ユリアーナ様は気が付かずに歌い始めました。

 すると、ざばーんとお湯がわたくしに降りかかり包み込みました。わたくしは何が起こったのか分からず、水を飲んでしまいました。


「がばばば…。けほっ、けほっ…」


「あああ、ごめんなさいいい。大丈夫ですか。ふんふん……♪」


 ユリアーナ様が慌てて駆け寄ってきて、わたくしの身体を支え、介抱してくれました。そして、ユリアーナ様が歌うと私は身体が楽になりました。


「ありがとうございます…」


 ユリアーナ様が支えているのは、わたくしの胸です。というか、わたくしは普通に立っていて、ユリアーナ様はわたくしの重たい胸を支えてくれているのです。わたくし…、このままずっとユリアーナ様に胸を支えてもらいたい…。胸がドキドキしてしまい、ユリアーナ様と見つめ合ったまま動くことができません…。


「はいはい、そこまで!」


 またマリア様に邪魔されましたわ…。

 ユリアーナ様はわたくしの胸を離してしまいました。ずっしりとした重みとともに喪失感に襲われました…。


「あの…ユリアーナ様は、もしかして歌うことで魔法を使えますの?」

「そうだよ!ユリアーナはすごいんだから!楽器なしで魔法を使えるだけじゃなくて、火も水も空間も治療も使えるマルチキャストなんだから!」


 だから、なんでマリア様が自分のことのように自慢するのでしょう。って、


「えっ、そんなにたくさんの属性を使えるマルチキャストなど、聞いたことありませんわ!」


「マリアちゃん…。秘密だって言ったでしょ。スヴェトラーナ様に言うのは構わないけど、ここにはメイドもたくさんいるんだから、場所を考えてね」

「あっ、ごめんなさい…」


 マレリーナ様がマリア様を諭しています。


「それはたしかに一大事ですわね。あなたたち、他言無用ですわよ」

「「「「「承知しました」」」」」



 さて、とても時間がかかってしまっていますが、やっと湯船に入れました。


「それで…、寮にもお風呂があるから、ユリアーナ様たちの髪はいつもお綺麗なのですね」

「そうなんだよ!」

「もう!わたくしはユリアーナ様に聞いているのです!ユリアーナ様も黙ってないではっきりしてくださいまし!」


「ご、ごめんなさい…。私、スヴェトラーナ様の身体を見ていると、スヴェトラーナ様以外のことを考えられなくなって…」

「えっ…。それじゃあ、馬車や食事でそわそわしていたのは…」

「お風呂でこんなふうになるのが分かっていたからなの…」

「ユリアーナ様…」


 相思相愛ですわ!他の者の入る余地なんてありませんわ!


「でも、私、マリアちゃんのこともアナスタシアのことも、マレリナもセラフィーマもブリギッテもみんな好きなの」

「えっ…。そんな…、許しませんわ!」


 いやですわ!わたくしだけを愛してほしい!


「あはは、許してあげてよ。十代前半のエルフはみんなそうなるんだ。私だってそうだったもん」

「えっ、みんなそうなの?」

「うん。エルフの里では、スヴェトラーナ様くらいおっぱいの大きい人はいっぱいいるから、目移りしちゃうんだよ。そして、そのうちずっと好きだった何人かに結婚を申し込むんだ」

「何人かに結婚…」

「だから、ユリアーナもその時が来たらみんなに結婚を申し込めばいいじゃない」

「そのとき…?」

「子供を授けられるようになるときね」

「はう…」


 わたくし、難儀な者に恋をしてしまったのですね…。この国では王家を筆頭に当主が複数の配偶者を持つことが認められています。ですが、配偶者が複数の者と関係を持つことは認められていません。


「分かりました。ユリアーナ様、ここにいる皆を娶れるように、貴族当主になってくださいまし!」

「えええ…」

「最低でも侯爵になっていただかないと、わたくし、嫁げません」

「ハードル高いわね…」


 公爵令嬢が嫁げるのは、王家と公爵家、そして上位の侯爵家のみです。


「ユリアーナ、お父様が言っていたわ。マシャレッリ家を継がせるのはエッツィオではなくてユリアーナだと」

「えっ…」


 アナスタシア様は、耳寄りな情報をお持ちでしたわ。

 この国では実子がいる場合でも養子に爵位を継がせることができます。魔力が重視されているからです。王室がいい例ですね。魔力があり優秀であれば平民出身でも妻になれるくらいですから。


「それなら話が早いですわ。ユリアーナ様。マシャレッリ家を継ぐ前でもよいので、功績を挙げてマシャレッリ家を侯爵家にするのです。そうすれば、皆を娶れますわ」

「でも…、私が貴族当主だなんて…」

「うふふ、ではもうひとつ耳寄りな情報をお教えしますわ。貴族当主になれば、王族に嫁ぐ必要はなくなりますのよ」

「マ・ジ・で…。そんな方法があったなんて…。分かったわ。私、王子の息子との婚約を破棄して、みんなと結婚できるようにマシャレッリ侯爵になるわ!」

「「「「おおおー」」」」


 ユリアーナ様の目に火が灯りました!


「はぁ…。ユリアーナはまだアレが来てもいないのにモテモテだねー。うらやましいなー。ねえ、みんな、ユリアーナに嫁いだら、私の子も産んでくれないかな…」


 ブリギッテ様の要求はみんなスルーです。



 お風呂から上がると、今度はメイドにマッサージをしてもらいます。


「スヴェトラーナ様のスタイルの秘訣はこれかぁ」

「そんな…。まじまじと見られると恥ずかしいですわ…」


 ブリギッテ様はユリアーナ様と同じ目で私を見てきます。そして、他の女性に見られるのとは違って、ブリギッテ様に見られるのはなぜかちょっと恥ずかしいのです。これがエルフなのですね。


 みんな気持ちよさそうです。とくにマレリーナ様にとても喜んでいただけました。マレリーナ様は殿方のような筋肉が付いているため、マッサージがよく効くようです。

 ユリアーナ様は、筋力強化を使ったマレリーナ様と互角の筋力があるはずなのに、筋肉質ではありませんね。エルフの特性でしょうか。



「あの…、脱ぐときはユリアーナ様に身体に見入ってしまい気が付かなかったのですが、それは下着ですの?」

「はい。その…、スヴェトラーナ様にも用意してるの…。どうぞ…」


 ユリアーナ様はスカートの下に何もはいていないのかと思いきや、白い逆三角の布をまとい、およそ大事なところだけ隠していました。そして、それと同じものをわたくしにくれました。わたくしは、二つの穴に脚を通します。ブラジャーと同じ素材で、肌触りが良いです。そして、よく伸びるので、紐で結ばなくても身体にフィットします。


「どうかしら…」

「とても…良いわ…」

「うふふ、ありがとう」


 ユリアーナ様はわたくしの身体を見たくてこのような下着を作ったに違いありません。これなら大事なところを隠していながら身体のラインを確認できますもの。




 そして、お待ちかね。就寝の時間です。ベッドは六人寝られる大きさを用意しました。


 ユリアーナ様のネグリジェ姿…。可愛い…。

 ユリアーナ様も、大きく胸の開いたわたくしのネグリジェ姿を気に入ってくれたようです。


「ユリアーナ様…」

「はい…」


 わたくしたち、今日は見つめ合ってばかりです…。まるで新婚夫婦…。

 わたくしはユリアーナ様をベッドに押し倒しました。わたくしは隣に横たわり、ユリアーナ様の肩を、わたくしの胸と胸で挟みこみます。

 ユリアーナ様はまたもや真っ赤になってしまいました。


「もう!ずるいよ!私がこっち!」

「いや、私がいただきます」

「私も入れて~」


「アッー!」


 ううう…。ユリアーナ様との新婚初夜のような雰囲気は一瞬で奪い去られました…。


 そのとき、わたくしは、わたくしよりも胸を痛めているマレリーナ様とアナスタシア様の存在に気が付いていなかったのです。




 翌日、朝食をいただいたあとはクラブ活動です!王都邸には、学園の魔法練習場と施設があります。


 ぴーひょろろ♪

 かっかっかっ♪

 ぽんぽんぽん♪


 新しい曲はとても長いです。それに、リコーダーと木琴にハープも加わっています。魔法でない曲をハープで奏でるなんて新鮮。

 アナスタシア様とマレリーナ様はリコーダー。マリア様とセラフィーマ様は木琴。ブリギッテ様とわたくしはハープです。


 ぽろりろぽろりろ♪

 ドゥ、ドゥ、ドゥ、ドゥ♪

 どんどんしゃっ、どんどんしゃっ♪


「ふんふんふんーん♪」


 そして、ユリアーナ様は一人で四種類の音を鳴らしています。右手でハープのような音とドゥドゥなるキーボードという楽器を弾き、左手でどんしゃっという音が鳴るドラムという楽器を弾いています。さらに、声で歌まで歌っているのです。

 ユリアーナ様は音に愛されたお方。音の神様といっても過言ではありません。



「ねえ、何をやっていますの?」


「お母様。そうですね。ユリアーナ様、お花の歌を演奏しませんか?」


「ええ、そうしましょう。みんな、準備して」

「「「「はーい」」」」


 魔法練習場にお母様がやってきました。音の漏れない防音室なのですが、お母様は普通に交流を持ちたくてやってきたのでしょう。


 今練習している曲は途中までだし聴かせられるレベルではありません。すでに熟練しているお花の歌がいいでしょう。


「お母様はそこに座ってくださいまし」

「ええ。何が始まるのかしら」


「一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー♪(リコーダー)

 かっかっかっ♪(木琴)

 ドゥドゥドゥー♪(ベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ♪(大太鼓、シンバル、スネアドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ♪」


「まああああああぁ~!素敵だわ!」

「うふふ、そうでしょう」


 ユリアーナ様のかけ声で始まったお花の歌にお母様は感動してくださいました。お母様は感動のあまり、少し砕けた言葉になっています。貴族言葉に慣れないマリア様たちのためではないと思います。


「これはなあに?とても楽しい気分になったわ!心魔法なのかしら?」

「いいえ、これは魔力の消費もなく、聞いているだけで楽しくなれる音楽なのです。ユリアーナ様が考えたのですわ!」

「ハープにこんな使い方があるなんて…。それに、ハープ以外にも面白いものがたくさんあるわねえ。これはなあに?」


 お母様はユリアーナ様の楽器に興味津々です。


「これはですね、中にハープが入っているのです。それだけでは大きく低い音を出せないので、ここが風属性の魔道具になっています」

「ユリアーナ…、あなた…、三年生よね。もうこんなにしっかりとした魔道具を作れるのね」

「あっ、はい。学園で習いましたしね」


 ユリアーナ様の楽器が魔道具だなんて初めて聞きましたわ。ユリアーナ様は何でも作ってしまいますのね。


「こちらも魔道具なのかしら?」

「いえ、その二つは魔道具ではありません」

「でも、面白い音が鳴るのねえ」

「いろいろな音があって楽しいでしょう」


 お母様はマレリーナ様のリコーダーと、セラフィーマ様の木琴を見て問いました。

 セラフィーマ様からバチを借りて、かっかっと鳴らしていますいます。


「もしかしたらこれは魔法を奏でられるのかしら?」

「はい、そうですよ」


 お母様がしてやったり、という顔をしました。何か思いついたようです。


「これはー…、押して音が鳴るのならハープより弾きやすいわね…。ねえ、もっと弾きやすい楽器はないの?」


 お母様はユリアーナ様のキーボードの鍵盤を押して、弾きやすさを試しています。


「弾きやすい楽器ですか。それなら…」


 ユリアーナ様はわたくしのほうを見ています。弾きやすい楽器…。わたくしはそれを知っています。


 わたくしは相づちを打ちました。

 そして、オルゴールを取り出しました。そして、周辺に誰もいないのを確認して射撃用の的に目標を定め、オルゴールのボタンを押しました。


 ぴぴぴぴん…♪


 ごおおおおお!


 わたくしの得意技、炎の竜巻です!


「えっ…、炎の竜巻を奏でた音は聞こえなかったわ」


 わたくしは、イメージをせずに、オルゴールを空打ちしました。私の巻いたぜんまいでは、他の者には使えないからです。


「お母様、これを回してください。そして、炎の竜巻のイメージをしながら、このボタンを押してください」

「ええ。こうかしら」


 ぴぴぴぴん…♪


 ごおおおおお!


「発動したわ…」

「ユリアーナ様が発明したんですのよ」

「ユリアーナ…。あなた…、天才よ!」

「そうですわ。ユリアーナ様は天才なのです!」


「あわわわ…」


 そのあとはもう大変でした。お母様はユリアーナ様に食いついて、オルゴールの構造を聞いたり、販売権を売るように要求したり。おかげでクラブ活動どころではなくなってしまいました。


 ユリアーナ様は、お母様の胸にたじたじ。ユリアーナ様が情報を出し渋っていると、お母様はユリアーナ様の顔に胸を押しつけます。ですが、オルゴールの構造については、ユリアーナ様はなかなか口を割りませんし、かたくなに販売もしないと申しておりました。




 そして、日も暮れるころ。


「今回はとても楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました」

「ええ、またいらしてね」


 わたくしがお招きしたというのに、いつのまにかお母様がホストみたいになってしまいました。それに、他の皆様は空気になってしまいました。まあ、わたくしとしても、本当はユリアーナ様だけをお招きしたかったのですがね。


 皆様の乗る馬車が見えなくなると、お母様は私に言います。


「スヴェトラーナ」

「はい。お母様」

「あの子をものにしなさい」

「分かっておりますわ。ユリアーナ様はマシャレッリ家を継ぐそうです。ですからわたくしはユリアーナ様に嫁ぎますわ」

「あなたにフョードロヴナ家を継がせて、ユリアーナには嫁いでもらいたかったのですが、しかたがありませんわね」

「ユリアーナ様はわたくしの妻に収まるような器ではございませんわ」

「そのようですね…。このフョードロヴナ公爵夫人を前にして肝の据わった娘だこと。あのような商売っ気のある娘は見たことがありませんわ。平民出身の養女だと聞いていますが、商家の出でしょうかね」

「コロボフ子爵領の農村出身だと聞いていますが」

「農村に商家はありませんわね…。不思議な娘ですわ」


 ユリアーナ様はお母様の色仕掛けで、いろいろなことをしゃべっていました。


 これはお食事中にお話ししていたことですが、ミノタウロスから採れる牛乳と、コカトリスから採れる卵を使って、「喫茶店」というお店を開いていること。ここまではわたくしも知っています。ですが、その魔物を店の地下やマシャレッリ領で飼育しているとは思いませんでした。

 さらに、それらの魔物のお肉をマシャレッリ領では卸していて、大きな儲けとなっているそうです。


 そして、ここからはオルゴールの構造をしゃべらない代わりに、お母様を引き下がらせるために仕方なく漏らした情報という感じです。

 果物を育てているそうです。果物の栽培はできないとされてきましたが、木魔法の成長促進を使うと育てられることと、魔物をそばに置いておくと育てられることを教えてくれました。それによって、喫茶店では果物や、そのジャムを使ったお菓子を安価で出すことができるのです。


「それから、あの髪の色。灰色なのに、学校の成績では魔力が非常に高いことになっていますのね」

「そうなのです。ユリアーナ様は筋力強化で出せる力が尋常ではありませんし、複雑な治療も難なくこなします」

「髪の色は当てにならないということですわね。エルフにはマルチキャストが多いと聞きます。ユリアーナは命属性以外にもいくつか使える魔法があるのではありませんか?」

「火、水、空間、命だそうです」

「四属性のマルチキャスト…。多くの属性を持つ者の髪は、いろいろな色が混ざって灰色に近くなる場合があると聞きます」

「なるほど…、それで…」

「ますます離せませんわね。あなたがユリアーナの子を授かれば、三属性持ちの子が生まれるのですよ」

「わたくしの子が三属性持ち…」

「わたくしもいただきたいくらいですわ」

「お母様にはあげません!」

「あら残念ですわ」

「冗談はおよしになって!」


 はたして、ユリアーナ様をお母様に会わせてよかったのか…。わたくしはユリアーナ様と一夜を過ごしたかっただけなのに…。




★★★★★★

★ユリアナ十二歳




 フョードロヴナの王都邸からの帰り。私はだんだん青ざめてきた。


「ユリアナ…」


「ねえ…、私…、なんかいろいろヤバいこと話してなかった?」


「なんで私にも話してくれないことをべらべらしゃべっちゃうのさ」

「そうよ。ユリアーナはデレデレしすぎよ!」


 うわあ…。マレリナもアナスタシアもおかんむりだ…。


 公爵家だからお風呂があるだろうと思っていた。そうなると当然、スヴェトラーナと裸のお付き合いをすることになる。スヴェトラーナのたわわに実った胸とお尻。鋭角に迫るほどのくびれ。拝みたいと思う半面、理性を保つことができなくなることは分かっていたので、スヴェトラーナのお宅にお邪魔するのは危険だと思っていたんだ…。


 そしてスヴェトラーナを超える予想外の難敵…。薄紅色四連装ドリルで爆乳のエリザベータ奥様…。二十半ばか後半だろうか。薫は三十六歳だったから、三十前の若奥様なんて女の子の範疇だ。それか、私の守備範囲が広いのか…。


 エリザベータのハニートラップに引っかかったのは覚えてるけど、何を話してしまったのか覚えてない。転生者であることとかしゃべってないかな…。


「ねえ…、ユリアナは胸の大きな女性が好きなの?」

「私…、全然ないから…」


 マレリナとアナスタシアを悲しませてしまうほど、私はデレデレしてたのか…。


「そ、そんなことはないよ…。あ、いや…、そんなことあるけど…、それだけじゃないよ…。マレリナは物心つく前から付き合ってくれてた幼なじみだし、か弱いアナスタシアは守ってあげたいと思う。妹みたいなマリアちゃんも可愛い。マッドな研究者肌のセラフィーマとも趣味が合うし、ブリギッテは胸が大きいし」


「ちょっと!やっぱり胸なんじゃん!」


「あっ…」


「はははっ。まだウブなんだから勘弁してあげてよ。エルフなら誰だって通る道なんだよ。十五くらいになると、胸とお尻だけじゃないって分かってくるさ。そうしたら、幼なじみとか、か弱い子だって、妹みたいだとか趣味が合うとかも、結婚と結びつく要素になってくるんだよ」


「ブリギッテ…」


 女の子の胸とお尻が好きなんて、男なら誰でも持ってる本能だと思うけど、エルフの本能、強すぎるよ…。理性を保てない…。


「三年だけだよ!スヴェトラーナ様とブリギッテの胸にデレデレしていいのは三年だけ」

「そうね。そこまでは待ってあげるわ」


「は、はい…。それまでになんとか克服します…」


 ブリギッテに助けられた…。三十二歳だもんね。経験豊富なんだろうな…。いや、そうなのかな。人間の十四歳相当なんだから。体つきは完全に大人だけど、顔つきは幼さが残ってるし。エルフの肉体年齢はちぐはぐだけど、精神年齢ってどうなってるの?

★ユリアナと同級生

 とくに記載のないかぎり十一歳から十二歳に成長。女子の身長はマレリナと同じくらい。

 ユリアナとマレリナは、よく言葉が乱れる。平民言葉と、貴族令嬢の砕けた言葉と、貴族のフォーマルな言葉の使い分けができていない。


■ユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。


■マレリーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一四七センチから一五〇センチへ。


■アナスタシア・マシャレッリ伯爵令嬢

 若干青紫気味の青髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二一センチから一二二センチへ。ぺったんこ。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三一センチから一三二センチへ。ぺったんこ。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。

 身長一五二センチから一五五センチへ。巨乳。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子

 黄色髪。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十一歳~三十二歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。

 身長一六一センチから一六二センチへ。大きな胸。

 エルフの成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。



★マシャレッリ伯爵家


■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(六歳)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。おばあちゃん。濃くない緑髪。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★その他


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 明るい赤の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(九歳)

 黄緑髪。


◆花が咲いた、綺麗だわ♪

 日本で聴いた童謡(架空)。二十四小節。


◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□□□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

    ③

    S


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。


◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□□■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□□□□②■

 ■□⑤□③□■

 ■■■□■■■

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸


◆座席表

  ス□□□□□

  ヴ□□□□②

  □□□□□①

前 □□□ブ□③

  ア□□□□④

  □□□パ□エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1、②エンマの下僕2

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1、④=パオノーラの下僕2


◆ベッド上のポジション

・二年生後期まで

   ユリアナ

頭側 マレリナ

   アナスタシア


・マシャレッリ家帰省時、三年生前期以降

   マリア

   ユリアナ

頭側 アナスタシア

   マレリナ


◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

?長調、?短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

?長調、?短調:邪、不幸、呪い、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金

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― 新着の感想 ―
[一言] もうなんかユリアーナちゃんは愛の重いみんなに組み伏せられながら お前がママ(パパ?)になるんだよぉ!ってされそうで... 可哀想は可愛いってね!
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