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16 鼻歌の魔女は日本でもアニソン歌手になりたい

★ユリアナ六十四歳

★ユリアナ七十六歳(日本戸籍上二十六歳)

★ユリアナ一三〇歳(日本戸籍上八十歳)

★薫三十六歳



 目覚めると、ベッドで布団をかぶっていた。

 オレはよく知っている天井を見つめて考える。


 おかしいな…。オレは昨日、ベッドに入らずにこたつでアニメを見ながら寝落ちしたような…。


 何よりおかしいのは右手にも左手にも柔らかい人肌の感触があるということだ。おれは三十六歳の冴えないサラリーマンで一人暮らしなんだ。こんな暖かくていつまでも触れていたくなるような感触のものがベッドの左右にあるはずはないんだ。


 それになんだか良い匂い…。すーすーという息づかいが左右から聞こえてくる。


 オレは恐る恐る右に首を振った。すると、そこには女の子の顔が…。この世の者とは思えないほど綺麗な、人形のように整った白くて雪のような肌。朝日よりも眩しく輝く銀髪。


 そして、オレが右手を入れているのは、女の子の…キャミソールと胸の隙間…。オレは慌てて右手を引っ込めた。すると、女の子の胸がぷるんと揺れて、女の子は「ああん…」ととても可愛くて色っぽいアニメ声を上げた。


 オレは落ち着きを取り戻そうとして、顔を反対側に向けた。すると、そこには女の子の顔が…。この世の者とは思えないほど綺麗な、人形のように整った白くて雪のような肌。朝日の反射よりも眩しく輝く銀髪。って同じ女の子じゃんか…。双子かな…。


 そして、オレが左手を入れているのは…、あああ、もう!なんで両手を双子の女の子のキャミソールの胸元に突っ込んでるんだ!


 オレは左手を引っ込めて顔を天井に向けて考えた。アニメの見過ぎだろうか。昨日見ていたアニメの中には、そんなアニメもあったような…。ある日、可愛い女の子が突然現れて、彼女になってくれる系の展開…。これは夢なんだ。もう一度眠れば、次はこたつで目を覚ますだろう。今日は土曜日だ。このまま二度寝しよう。



 しかし、次に目を覚ますと、右にも左にも信じられないほど美しい女の子の顔があった。オレは諦めて布団をはいで身体を起こした。


 布団をはいであらわになった二人の女の子の全身。案外背は低い。小学校高学年くらいか。着ているのはキャミソールじゃなかった。ネグリジェかな…。一応お尻が隠れるくらいの長さはあるけど、とても薄くて軽く透けていて、身体のラインが丸見えだ…。背が低くて童顔なわりには胸やお尻が大きくて、とても色っぽい体つきをしている。白人系だとこんなものなのだろうか。いやそれにしても大きい…。日本人の平均的な成人女性より凹凸の激しい体つきをしている…。背は低いけど脚は長くてとても色っぽい太もも…。


 顔も身体も同じで双子にしか見えないけど、右の子の髪は腰くらいの長さで、左の子は足首くらいまでありそうだ。髪の長さ以外で区別できる要素がない。


 右を見ても左を見ても銀髪の同じ女の子。仲良くオレを囲むように左右対称に寝ている。なんで俺の部屋にいるんだろう。どんな子なんだろう。魔法とか使えるかな。この可愛さなら女神とか。


 オレが布団を出ても二人の女の子は目を覚まさなかったけど、寒かったのかぶるっと震えて、オレがいたところを手で探り始めた。そして、互いの手が触れあったとき見つけたといわんばかりに互いをたぐり寄せて…、そして抱き合った…。エロ可愛い双子の女の子が抱き合ってる姿…。絵になりすぎる…。思わずスマホでパシャってしまった…。

 撮影を続けていると、二人の女の子の行動がだんだんエスカレート…。互いの胸に手を突っ込んで「ああん…」とアニメ声なのに色っぽいあえぎ声を上げて、しまいにはディープキス…。


 本当にこの二人は人の部屋で何をやっているのかな…。目の保養をさせてもらってるから、不法侵入とかとやかく言うつもりはないけど…。




「ん、ん~…」

「あー…」


 しばらく百合双子姉妹を撮影していたら、やっと目を覚ましたようだ。片方は大きなあくびしちゃって…。


「知らない天井だ…」


 髪が短い方…、短いっていっても腰まで伸ばすなんて世間的にはすごく長いんだけど、まあ短いほうの子がありきたりなセリフを吐いた。まさか、知らないうちに連れ込まれて襲われたとか言ったり…。


「昨日は疲れてここで寝ることにしたんじゃったの」

「ルシエラ…、昨日も言ったけど、なんで私の記憶から日本語を抜き出してまで、のじゃ子なのさ…」

「あの世界の口調を翻訳するとこうなるんじゃろ?」

「いや、だから、合わせる必要ないよね…」


 髪が長い方は、まさかののじゃキャラ…。というか二人とも流ちょうな日本語だ。翻訳魔法だろうか。


「ほら、あやつが呆れておるぞ」

「あーごめんごめん」


 二人はオレのほうを向いて言った。


「私はユリアナ」

「わらわはルシエラじゃ」


「オレは薫。真北薫だ」


 二人はベッドに腰掛けてオレのほうを向いた。ネグリジェはとても短くて、二人ともパンツが丸見えだ…。


「あの…。なんでオレの部屋にいるのか聞いていいか?」

「簡単に言うと、死にかけてた薫を救うために来たんだ」

「えっ、オレ死にかけてたの?原因は?」

「えーっと…」

「死ぬ予定じゃなかったけど死んじゃったからお詫びに転生させてくれるとかじゃないのか」

「うーん、まあお詫びはしてもいいよ…。死にかけたのはルシエラのせいだから」

「よく分からないけど、聞かせられないならそれでいいよ。救いに来たってのも信じる」

「信じてくれてありがと…」


「そんな簡単に信じてよいのか?わらわたちがおぬしを害するかもしれんじゃろう」

「二人は女神とかなんだろ?やろうと思えばいつでもやれるんだろう」

「わらわは女神ではないが似たようなものじゃな。たしかにいつでもやれるぞ。おぬし、潔いな」


「それでさ、お詫びって何してくれるんだ?チート能力をくれるとか、かっこよくしてくれるとか、異世界の可愛いアニメ声の美少女に転生させてくれるとか、二人とキャッキャうふふして暮らせるとか?」

「異世界のアニメ声の美少女に転生…」

「できるのか?それで頼む!」

「いや、それはダメ…」

「じゃあチート能力とかっこいい容姿と、二人との生活?」

「能力はあげられないけど、魔法のアイテムと容姿の変更なら…」

「ひとまず、二人が一緒に暮らしてくれるなら、アイテムとかは後でもいいや。その…、二人は服とか持ってないのか…。その…、目のやり場に…」


 さっきから二人のいろっぽい太ももやらパンツやらがチラチラと目に入って…。とくにルシエラの方が恥じらいがなくて、大股広げたりあぐらをかいたり…。


「ああ、もっとよく見たいか?ほれっ」

「あっ…」

「わああー!薫をからかわないで!」


 ルシエラはパンツを脱ごうとした。それをユリアナが慌てて止めた。オレはそれを、斜めを向いて尻目で見てしまった…。


「ふんふん……♪」


 ユリアナは高くて可愛いアニメ声で変イ長調の鼻歌を口ずさんだ。すると、ユリアナの側が蜃気楼のようにゆらゆらした。ユリアナはそこに手を入れると、ユリアナの腕から先が消えた。そして、ユリアナは蜃気楼から腕を出すと、手には二着のドレスがあった。


「アイテムボックス?」

「まあそんな感じ」

「魔法のアイテムにできる?」

「うん」

「やった!」


「この世界の人間は、これほどに魔法に明るいのか?」

「まあ、そういう空想物語がたくさんあるからね。実際には存在しなくても、こういうものがあったらいいなと考えてる人はいくらでもいるんだよ」

「ふむ」

「はい、ドレス」


 ユリアナはドレスの一着をルシエラに手渡した。

 ルシエラは着替え始めた。ネグリジェを脱いで…。


「わああ、オレ、洗面所にでも行くから待って!」


「見たいのじゃろ?」

「だから薫にそういうのやめてよ!」

「わらわが薫を殺しかけてしまったからのぉ。わびのつもりなんじゃが?」

「とにかくあからさまなのはダメ!」

「つまらんのぉ」


 二人とも身長は低いけど、体つきはとても立派だ…。ルシエラがネグリジェを脱いだらもちろんノーブラだった。オレはじっくり見たいのを抑えて、洗面所に逃げ込んだ。




 しばらくして戻ると、二人は中世の簡単なワンピースドレスを着ていた。スカートは膝下まであるけど、胸元は大きく開いている。日本でこんなに胸の開いた服は一〇〇〇人に一人も見ない。外国人観光客くらいだ。ああ、この二人も外国人か。ならまあいっかな…。


 まず、二人のことを聞いた。二人は人間の一〇〇〇倍の寿命があるエルフという種族で、オレの寿命程度では外見が変わらないらしい。髪に隠れていて分からなかったが、髪をかき分けると耳が少し長かった。だから女神とかではないらしい。


 エルフなので外見の年齢はアテにならない。二人とも十歳くらいの身長しかないけど、ユリアナは六十四歳で、ルシエラは十六歳。ルシエラに手を出すのはちょっとマズいけど、ユリアナは合法ロリだ。合法ロリ巨乳だ。

 双子ではなくて、ルシエラはユリアナの娘だということだ。だけど、ユリアナの親はルシエラの前世だという。ということはルシエラの中身は十六歳じゃなくてユリアナより年上か…。カオス…。


 二人は魔法のあるファンタジー世界からやってきた。さっきユリアナが鼻歌を口ずさんでいたけど、音楽が魔法の呪文になるらしい。二人は女神とかではないので、オレが魔法を使えるようにはできないけど、魔道具という魔法のアイテムを都度作ってくれることになった。


 そして、これからのことを話し合った。オレの気が済むまで一緒にいてくれるらしい。オレが死ぬまででもいいとのことだ。二人は一〇〇〇年で人間の一歳分加齢するような種族なので、オレの数十年の一生なんて数日間に感じるらしい。なんなら若返ることも生まれ変わることもできるし、時間を行き来したりもできるらしい。



 ぐ~~…。ルシエラの腹が鳴り響く。


「腹が減ったのぉ」

「ああ、コンビニサラダとカップ麺くらいしか置いてないけどそれでよければ」

「ご飯なら持ってきてる。ふんふん……♪」

「そこまで気が回らんかったわい」


 ユリアナは時間停止のアイテムボックスから、できたてのステーキやらケーキやらを取り出した。ナイフやフォークなどのカトラリーも一緒に。


「うまっ!」

「美味しく育つ魔法のかかった素材を使ってるからね」

「すげー!美味しくなるアイテムは作れる?」

「そういえば、作物が美味しく育つ魔法は使ってるけど、できた料理を美味しくできるかは試したことなかったな」


 ユリアナはアイテムボックスから空の皿とインク壺を出して、何やらふんふんとト長調のメロディを歌い始めた。

すると、インク壺からインクが飛び出ていき。皿の裏に同心円が描かれた。魔方陣というやつか。


「これでいいかなぁ」


 ユリアナは慣れた様子で冷蔵庫を開けて、コンビニのサラダを取り出してきた。封を開けて、中身を魔法のさらに移した。指でキャベツを少々つまんで口に入れた。まるで自分のうちだ。


「うん。できたみたい。食べてみる?」

「うん」


 ユリアナはまた指でつまんでキャベツをオレの口元に差し出してきた。手で受け取るんじゃなくて口で受け取れと…。

 オレは耐えきれず、手を持ってきてキャベツを手で受けとってしまった。

 すると、ユリアナは自分がやろうとしたことに気が付いたらしく、顔を赤らめてうつむいてしまった。

 オレは自分の手にあるキャベツをほおばった。


「うまっ!」

「じゃあ冷蔵庫もそうしておくか」

「ありがと!」




「なあ、オレを美男子にできるか?」

「うん。でも変えすぎると周りがびっくりするんじゃないかな」

「それなら、美男子になったという事実を認識阻害すればよかろう」

「なるほど…。邪魔法ってそうやって使うんだ…」


 ユリアナはふんふんと変ホ長調のメロディを歌い、オレは変化した。中年っ腹は引っ込み、スレンダーで足長。顔も整った。そして、認識阻害の魔法を封じた指輪によって、オレが平凡な男から美男子に変わったことを、オレを見た人間が考えられないようにしてもらった。オレが先日まで平凡だったことも、オレが今美男子であることも理解できるのに、平凡から美男子に変わったということを考えたり話にできないようにするらしい。


 オレはもともとすごく太っていたわけではないが、腹が引っ込んだらズボンがずり下がってしまった。オレは慌ててズボンを上げたが、オレのパンツ姿を見ても二人はなんの反応も示さない。この二人は恥じらう乙女とかではないようだ。


「服を買いに行かないとだな…」

「ではわらわも連れてゆくがよい」

「あのさ、二人はどう見ても異世界人だとバレバレだよね」

「そうなのか?」

「銀髪なんていないし、万一、髪をかき分けて耳が見えたら、誰もがエルフって言うよ」

「それほどエルフがありふれておるのならよいではないか」

「うーん」


「ルシエラ、この世界ではエルフが空想上の生き物なんだよ」

「面倒じゃのぉ」


「さっきオレにかけた認識阻害で、銀髪がこの世界に存在しないことと、耳の長さと、エルフであることとか異世界から来たこととか、分からないようにしたらどうかな」

「なるほど。それで堂々と町を歩けるかな。ふんふん……♪どう?」

「何が?」


 ユリアナは変ト長調のメロディを歌うと、髪をかき分けてオレに耳を見せた。だから何だというのだろう。いや、うなじがとても色っぽい…。


「あれ?認識阻害で耳に関してなんか分からないようにしたってこと」

「なるほど、そういう風になるんだ」

「そうだ、外に出るならさ、そのお嬢様風のドレスはどうかと思うよ」

「あ…、それもか…。うーん」

「あ、ちょっと…」


 ユリアナはまるで勝手知ったる自分の家であるかのようにクローゼットを開けて、引き出しを迷うこともなくオレのトレーナーを二枚取り出した。それを一枚ルシエラに渡した。


 そして、またルシエラがオレのみてる前でドレスを脱いでパンツだけになろうとして、ユリアナに怒られていた。オレはそのうちに洗面所に逃げる。


「ああルシエラ、これはドレスみたいにカップがないからブラしないとダメだよ」

「そんなものいらんじゃろう」

「ダメだよ。とんがってるの見えちゃうよ」

「見せておけばよい」

「ダメだってば」


 聞いてるだけでムラムラしてくる。



 「もういいよー」との声で洗面所から部屋へ。二人は同じ声なので、口調が違うのはありがたい。のじゃキャラは盛り過ぎだけど。


 部屋にはだぼだぼトレーナー女子が二人いた。首穴が大きすぎて両肩が出て大きな胸のところで引っかかっている。胸元の開いたドレスでは外を歩きづらいから着替えたのに、胸の谷間がほんのり見えている。これだけ全体的にだぼだぼなのに、胸回りは意外に窮屈そうでお尻も丁度いいっぽい。

 生地にうっすらとブラジャーの形が浮かび上がる。そして、下にはズボンもスカートもはいてない。タイトルは幼妻といったところか…。


「あと、ルシエラはさすがに髪が長すぎるね」

「面倒じゃのぉ」


 ユリアナははさみを出して、ルシエラの髪を腰のあたりからバッサリ切ってしまった。


「ユリアナと同じになってしもた…」

「また伸ばせばいいよ」


 本当にこんなに可愛い女の子二人と同居していいのだろうか。十六歳のルシエラに手を出すのはマズいけど、六十四歳のユリアナならアリだ!六十四歳…っていったら萎えるけど、エルフの六十四歳だし、人間換算して見た目どおりの年齢だと思っておけばいいや。


「では行くぞ」


 このアパートは、鉄筋コンクリートで三階建て。オレの部屋は二階の端の1DK。玄関を勢いよく出たルシエラ。階段を降りて一階へ。


「で、どっちに行くのじゃ」

「もう…、こっちだよ…」


 ルシエラはこの世界のことを知らないけど、ユリアナは知ってるっぽい?ユリアナは迷わずバス停に向かっている。そして、ショッピングモールに行かないバスに乗ろうとしたルシエラに「これじゃないよ」と言ってバスをやり過ごし、ショッピングモールを通るバスに乗った。


 そして、「次発車したらこれを押していいよ」とルシエラに停車ボタンを押させていた。確かに、初めてバスに乗る子供に母親が乗り方を教えるようなシチュエーションだけど、どう見たって親子には見えない。


 そして、ショッピングモール前で減速し始めたときに、


「ごめん、私たち小学生にしか見えないし、子供料金二人分お願い」

「えっ、うん」


 こんなに胸の大きな小学生はいないと思うけど、背丈は小学四年生くらいだな。行けるかな…。外人だし発育が良くても小学生で行けるよね…。


 オレは子供二人分を追加でまとめて支払うことを運転手に告げ、スマホをタッチしてバスを降りた。運転手はユリアナたちの胸に目が行っていたけど、外人だし身長で未成年だと納得したようだ。



「しかしおかしいのぉ。銀髪が珍しいことは認識阻害しておるし、耳も見せておらぬ。それなのに、周りがジロジロ見よる」

「うーん、異世界人ってバレてるのかな…」


「そりゃ二人が可愛すぎるからだよ」


「そ、そんなこと…」

「わ、わらわが可愛いのは当たり前じゃ」


 両方ともうろたえてるけど、珍しくユリアナがツンデレっぽいことを言っている。


「可愛いのも認識阻害しちゃえば?」


「それはヤダ!」「それはできぬ!」


「あ、はい…」


 性格の違う二人がシンクロした。二人の大声は注目をさらに集めた。


「「あっ…」」


 そして赤くなって小さくなる二人。マジ可愛い。本当にこんなに可愛い二人とドキドキ生活だなんて、夢じゃないよな!




 ショッピングモールに着くと、ユリアナは迷わず「ユニシロ」という安い服の店に向かった。


「ちょっと待って、二人とも可愛いんだから、もうちょっとおしゃれなお店に入ろうよ…」

「はっ…」


 さっきから見ていると、ルシエラは日本に来たのが初めてみたいだけど、ユリアナは場慣れしすぎている。だけど、ユリアナもおしゃれな店に行くという考えはなかったみたいだ。


「あ…、でも…、お金を使わせるのは悪いし…」

「いざとなれば宝石やら金やら作って売ればよかろうに」

「いや、そういうのはこの世界では売りにくいよ…」

「じゃあ、カネ自体を作ればよい」

「それもダメ」

「面倒な世界じゃのぉ」


「ほら二人とも、あの店はどう?」


 オレは女の子の服のブランドのことは知らないけど、とりあえずおしゃれなお店を指さした。


「あ、あんな高そうな服の店…」

「あ、あんなちゃらちゃらした服…」


 二人はショーケースの可愛らしい服を見て文句を言っているけど、顔を赤らめて着てみたくてしかたがない様子だ。二人ともツンデレなのか。


 そして、オレが店に向かうと、二人も躊躇なくついてきた。


 何着か見繕って試着室へ。しかし…、


「胸が入らぬ…」

「肩が広すぎ…」


 二人は十歳の身長のわりには華奢であり、肩幅が狭くて腕が細い。一方で、日本の成人女性以上の大きなお胸とお尻を備えているので、平坦な日本女児向けのサイズでは合うわけがないのだ。


 結局、直しをしてもらうことになったのだけど、サイズが合わなすぎて予想以上の金額に…。そして、今日すぐに着られるような服が手に入らなかった…。


 ちなみに、パンツをプラジャーはユリアナが何枚も用意してきたようで、買う必要はなかった。ルシエラは持ってきていなかったようだけど、ユリアナと同じサイズなのでユリアナが用意してきたものを借りることになったようだ。

 とりあえず巨乳美少女の下着選びに付き合う勇気はオレにはなかったので助かった。



 服を選び終わったら十一時だった。


「混む前にお昼にしない?」


「あ、そっか。うん。いいよ」

「なんじゃ。この世界ではこんな時間にメシを食うのか?」

「うん。この世界では三食が基本だね」

「ふむ」


 ユリアナは知らなかったというより忘れてたという感じだ。だんだんユリアナとルシエラの違いが分かってきた。


 ユリアナはまた迷うことなくフードコートに行こうとする。


「ねえ、初めてなんだし、もっと良い店に入ろうよ」

「服が手に入っていればそれもありだったけど、こんな格好だからここでいいよ。それに、私はここの熊本ラーメンが食べたいの」

「わ、分かった」


 常連確定じゃないか…。しかも可愛い顔して熊本ラーメンって…。

 まあ、オレもこのチェーン店の熊本ラーメンは、他の場所でよく食ってるけど…。


 ユリアナは当たり前のように箸を使ってラーメンをずずずずとすすっている。左手で髪を押さえているしぐさが色っぽい…。食べているものとのギャップが良い…。


 ルシエラは箸を使えないようで、フォークで食べている。


「ねえ、ユリアナはもしかして、大学に時に付き合ってた彼女の生まれ変わりとか?」

「ぶーーーっ」

「汚いのぉ。こやつはおぬし……」

「ばっ!ダメっ!」

「んぐぐ…」


 ユリアナはラーメンを吹き出した。そして、ルシエラの口を慌ててふさいだ。「おぬし」のなんと言おうとしたのだろうか。

 とはいえ、オレの昔の知り合いが転生してユリアナになったに違いない。だけど、ユリアナはそれを言いたくないようだし、バレたら鶴になって去ってしまうかもしれないから、これ以上追求しないでおこう。




 昼食を食べ終えたら、今度はオレのズボン選びだ。オレは迷わずユニシロに向かった。


「ねえ、薫もイケメンになったんだから、あっちのお店にしない?」

「そ、それもそうだな」

「おぬしらはそういうところ、そっくりじゃのぉ」

「あああ、もうそういうのいいから」


 やっぱり、ユリアナはオレの過去の知り合いなんだろう…。



 オレのズボンや服を買って帰路就いた。


「なあ、時間の行き来ができるって言ってただろ」

「うん」

「未来のものを手に入れたりできる?」

「たぶん」

「じゃあさ、未来のパソコンとかスマホとか欲しい」

「いいよ。盗みはしたくないから、現代のお金で買える範囲になっちゃうけど」

「わかった」


 すると、こたつの上にスマホ三台が現れ、やや時間を空けてノートパソコン三台が現れた。


「えっ、もう行ってきたの?お金は?」

「私は行ってないんだけど…。あ、手紙が付いてるよ。私が未来に行かないでも、七十二歳の薫と一緒に暮らしてる未来の私が送ってくれたみたい」

「マジか…」

「一〇二四コアCPUだって。すげー。本当はもっといいのがあるけど、これ以降のは六十四ビットアプリが動かないんだってさ。詳しくは中のリードミーを見てだって」

「分かった」


 ノートパソコンの電源を入れてみた。指紋認証がついていたので触れると、ログインできた。


 スペックを見ると、CPUは五ギガヘルツで一〇二四コア、メモリ三二テラ、ディスク十ペタ、ビデオカードは一〇〇ペタフロップス。

 内蔵の無線は今の最先端の方式に対応してないので、かわりにUSBバージョン一二・〇の外付け式で今の最新式のものがついていた。

 ソフトも充実。AIのモデルとかもたくさん入れてくれてる…。


「スマホは別の年代から送られてきたみたい。5Gに対応した最後のモデルだって。二〇五〇年で5Gサービス終了らしいよ」

「へー…」


 スマホもCPUが三十二コアだったり、ストレージが三十二テラあったり。


「おぬしら、わらわにも分かるように説明せんか」

「えー、めんどいなぁ。ふんふん……♪」

「ぎゃー」


 ユリアナが嬰ト短調の鼻歌を口ずさむと、ルシエラが悲鳴を上げて倒れた。うるさいから気絶させたとか…。けっこう過激…。

 と思ったら、ルシエラはむくっと起き上がり、指紋認証でスマホを起動させた。


「なるほど。こんな道具があるのじゃな…」


 ルシエラは慣れた手つきでスマホを指紋認証して弄り始めた。スマホが弄れるようになる能力付与…?


 スマホは家の無線のSSIDにつながっている。何十年もパスワードを変えてないんだな…。だけど外に持っていくときは自分で契約してだってさ。未来から届けられたおもちゃに三人で夢中になって、だいぶ時間がたってしまった…。




「あのー…、二人とも、そろそろメシか風呂…」

「わかった」


 ルシエラはだぼだぼのトレーナーの首穴に胴全体を通して下から脱ぐという荒技を試みている。胸を手で潰しながら首穴からぷるんっと飛び出させると、ばさっとトレーナーが下に落ちるかと思ったら、今度はお尻に引っかかった。


「通らん…」


 お尻は予想以上に大きくて、オレのトレーナーの首穴に通らなかった。


「ちょっ、ルシ………」

「ららら……♪」


 ルシエラが変イ長調と歌うと、ルシエラの姿が消えて、すぐ隣に瞬間移動した。トレーナーをその場に残したまま。そして、残したのはトレーナーだけでなくて……、


「ルシエラダメだってば!」


 瞬間移動する際に残したのは、ブラジャーとパンツもだった…。ふわっと木の葉のように落ちるパンツとブラ…。ぷるんと揺れるルシエラの胸とお尻…。


「行くぞ。ららら……♪」

「えっ」


 ルシエラが悪ガキのように微笑み歌ったと思ったら、オレはルシエラと風呂場にいた。妙に開放感があると思ったら、オレも服を着ていなかった。オレは慌てて大事なところを手で覆った…。


「隠さずともよい。わらわはそれを気にせぬ」

「えっ…」

「わらわは男を好きにはならぬ」

「そんな…」

「じゃが、わらわはあと二〇〇〇年は妊まぬから、わらわのは好きに使ってよいぞ」


 ルシエラは腰に手を当て、大事なところをでーんとさらけ出した…。


「ちょっ、それってどういう…」

「へたれじゃのぉ…。ほれ…」

「だ、だだだ、ダメだってばぁ…」

「むぅ、ホントにヘタレじゃ。こうしてやる!ららら……♪」

「えっ」


 ルシエラが嬰ト短調のメロディを歌った。

 そのとき…、ガツンっ!けっこうすごい音が鳴った…。


「痛いではないか!」

「ダメって言ったでしょ!」


 ルシエラの後ろにワープゲートが出現して、ワープゲートからルシエラの頭にユリアナのげんこつが現れた。


 そんなことよりも、ルシエラ…。なんか突然……。


 身長も顔つきも幼くて可愛らしいのに、日本人の成人以上の体つき。胸はEカップくらいだろうか。じゅうぶん大きいけど、絶対的には巨乳といえるサイズではない。だけど、それを際立たせているのが、十歳よりもむしろ狭い肩幅や華奢な腕。大きな胸がところ狭しと窮屈そうにしているところが巨乳に見せている。それが、ユリアナげんこつを喰らったときに、ぽよんぽよんとバウンドした…。


 それに細すぎるウェストの織りなすくびれの曲線美。その下に続く、大きくて綺麗な形のお尻。ユリアナのほうを向いて抗議してると、二つの正球が形を変えて揺れている。


 それから太もも…。十歳にしてはちょっと太すぎるけど、脚がとても長いから様になっていてとても色っぽい…。身長一七〇センチのオレよりも脚が長い。


 でも…、


「ダメだ!ルシエラは男を好きにならないんだろ!じゃあ、オレを女にしてくれよ!それならオレを好きになってくれるだろ!」

「よかろう。ら……」

「ダメだってば」


 ガツンっ!ユリアナのげんこつ。

 とんでもない音がして、ルシエラは崩れ落ちた。


「あっ…大丈夫…?」

「こんくらいじゃ死なないよ」

「どうしてもオレを美少女にしてはくれないのか…」

「ダメだよ…。薫がいなくなったら、なんのために助けに来たのか分かんないじゃん…」

「オレは生き残るんだからいいじゃないか」

「周りが困るでしょう…」

「それもそうか…。なあ、可能かどうかといえば可能なんだろ?」

「まあ、できるよ…」

「オレが突然いなくならなきゃいいんだろ。じゃあさ、オレが寿命を全うしたら、そのときにアニメ声の美少女にしてくれるか?」

「えっ…」

「オレが予定外に消えることが問題なら、消えるのが確実なときにやればいいだろ」

「確かに…」

「じゃあ、オレが寿命で死ぬとき、オレをアニメ声の美少女にしてくれ!約束な!」


 オレはユリアナの両手を掴んだ。


「前見えてるよ」

「あっ…。ごめん…」

「いいよ。私も気にしないから」

「そ、そうか…」


 ユリアナもルシエラも男には興味がないんだ。ルシエラはオレをからかって誘惑してくるけど、もしオレとそういうことをしてくれるのなら、本心から好きになってほしい。だから、寿命を全うしてアニメ声の美少女になるまでは、二人とそういうのはナシだ。


 しかし、別々に風呂に入ったのはよかったが、そのあとユリアナの出してくれたご飯を食べて、二人は薄いネグリジェでなぜかオレを囲むようにベッドに入る。これから毎日こんなんで精神がもつだろうか。




★★★★★★

★ユリアナ六十四歳、薫三十六歳




 時は遡り、日本時間午前零時。ユリアナとルシエラは丁度、真北薫がルシエラに魂を抜かれた時刻の日本に転移した。


「うぇっ…。めっちゃ疲れた…」

「うむ…。わらわが手伝わなかったら失敗していたかもしれぬ…」


 魔石の魔力はじゅうぶんにあった。魔石の魔力があれば自分の魔力を消費しない。


 だけど、魔石の魔力を使って魔法を使う場合、魔石の魔力を自分の身体に通す必要がある。そのとき、わずかながら疲労感が発生するのだ。


 領民のすべてが魔力に目覚めたとはいえ、その魔力は少ない。でも発魔器が普及してからは安価な魔力を使えるようになったため、誰もがそれなりの規模の魔法を使えるようになっている。だけど、一度に流せる魔力は個人の魔力に依存するのだ。魔石から魔力をもらったとしても、魔力が少ない者が大量の魔力を魔石から吸って大規模な魔法を使うには時間がかかる。


 そして、自分の魔力に見合ってない量の魔力を身体に流し続けると疲労感が貯まっていくのだ。あくまで疲労感であり、本物の疲労ではないので、疲労回復魔法では治せない。

 世界をまたいで移動する魔法は、とんでもない量の魔力を必要としたため、私とルシエラが力を合わせても、かなりしんどい作業だった。


「疲れた…。今すぐ眠りたいところだけど、魂を抜いた身体っていつまで生きてるの?」

「さあ。わらわの身体は飲まず食わずで二年くらいは生きるが、普通の人間は知らぬ」

「まあ、今まで生きてたんだから、数時間は死なないよね…」


 しかし、薫は待ってくれなかった。


「くさっ…」

「こやつ、クソを垂れおったぞ」


 こたつの中から異臭が…。動いているのは心臓とかだけのようだ。うんちを我慢してる筋肉は自律神経ではないのだ。


「うう…」


 前世の私…。惨めな姿…。手を持ち上げても力が全くなく、だらーっとしている。眠っているのとは違う。まるで死体。これはいただけない…。

 しかたがないので、掃除して薫の身体をベッドに上げて、さっさと魂を戻すことにした。自分の身体に鞭を打って。


「ふんふん……♪」


 異次元収納の中で時間が止まっている魂を薫の身体に移した。魂を移動させる魔法を使うときだけ青白い光が浮かび上がる。

 そして薫がぴくっと動いた。足の裏をくすぐったら、足が逃げた。


「もう大丈夫かな…」

「もう限界じゃ…」

「汗びっしょり…。シャワー浴びてくる…」

「じゃあわらわも…」


 私たちはシャワーを浴びながら、


「ルシエラ、日本語の記憶をあげるね。ふんふん……♪」

「うむ…」(ここまで異世界語。ここから日本語)「これでよいか?」

「うん。いいんだけどさ…」

「なんじゃ?」

「なんで違う言語なのに、のじゃ子のままなのさ…」

「これがわらわにぴったりなのじゃろう」

「もうちょっと範囲を限定した記憶を渡せばよかった…」


 もう、疲れすぎてルシエラののじゃ口調の記憶だけ消すとかも面倒だ。

 ネグリジェに着替えて、薫を挟むようにして眠ることにした。ヴィアチェスラフに触られたときと違って、薫にイヤな感じはしなかった。




「ん、ん~…」

「あー…」

「知らない天井だ…」


 そうだ、夜中に薫の魂を戻して、魔力の流しすぎで疲れすぎて泥のように寝たんだった…。


 気が付いたらルシエラと抱き合っていた。


 薫が私たちを見て呆れていたので、薫に自己紹介。死にかけていた薫を救うために来たと説明。薫は私たちをすんなり受け入れた。まあ、寝る前に見てたアニメには、突然異世界の女の子と一緒に暮らす話もあったね…。


 薫はアニメ声の美少女への転生を要求してきた。まあ、私も六歳のとき薫が宿ったときは、私であることがとても嬉しかったからね…。


 アニメ声の美少女に魂や記憶を移したら、なんのために薫を救いに来たのか分からない。薫には天寿を全うしてもらわなければならない。しかたがないので、転生の代わりに、容姿を変えたり魔道具をあげたりすることにした。それと、薫が寿命で死ぬまで一緒にいてあげてもいい。私たちが飛んだ直後に戻れば、お嫁さんたちにとっては一瞬だ。そして、薫の寿命なんて、私にとっては十数日くらいにしか感じられないはずだ。


 薫をかっこよく改造してあげたのはいいけど、それでは周りの人がびっくりするので、「容姿が変わったことを認識できなくする」邪魔法の魔方陣を描いた指輪を渡した。なるほど…、邪魔法ってことわりをねじ曲げる魔法だけど、威力を弱めるときはこうやって使うんだ…。


 六歳で薫の魂を宿す前まで、私はここで暮らしていたんだ。つい三週間くらい前のことに感じる…。だからこそ、薫の気持ちが分かる。アニメ声のチート能力はあげられないけど、他にできることできるだけ融通を図ってあげたい。


 話していたら薫が目を泳がせていた。そういえば私とルシエラはやや透けたネグリジェだった。なんか女装した姿を自分に見られてると考えたら、ちょっと恥ずかしくなってきた。だけど、私の前世が薫であることがバレなければ、恥ずかしいことなんてない。私はもう六十四年も女の子のユリアナとして暮らしてきたのだ。女装した薫ではない。もう、っていうか、最初からユリアナとして産まれたところに途中から薫の記憶が入ってきたんだよ。エルフ自体が女のツラをかぶった男なのではないかというのはさておき。


 ドレスに着替えることにしたのだけど、ルシエラは全裸になって薫をからかう。ルシエラはまったく恥じらいがない。自分がからかわれているようでむずがゆい。


 食べ物が美味しくなるお皿の魔道具を作った。できたキャベツを薫の口まで運んでしまった。なんだか薫が自分のような気がして…。よく考えたら薫は私とは別の個体なんだから、食べ物を手で摘まんで口に持ってくなんておかしい…。まるで恋人…。いや、私は男には何も感じないし、私の中の薫だって男とどうにかなりたいなんて思わない。だけど、不思議と薫には抵抗がない。




 私が持ってきたドレスはシンプルな冬のワンピースドレスで、そんなにドレスって感じのものではないから日本でも大丈夫かなと思っていた。だけど、私は忘れていたので。ローゼンダールでは女子は十歳くらいから胸の露出がどんどん多くなっていくのが標準。それに対して、日本で胸を出してる人なんて東京を歩いていても一〇〇〇人に一人もみないだろう。たまに見かける外国人観光客くらいだ。


 というわけで、クローゼットの引き出しに入っているトレーナーを二枚出して、一方をルシエラに渡した。一度やってみたかっただぼだぼトレーナー女子。首穴が大きすぎて、首穴から両肩が出てしまった。だけど、胸で引っかかった。それにちょっと胸の部分はきつい。軽く胸の谷間が出てるけど、よく考えたら私、外国人観光客みたいなもんだから、胸を出しててもいいかな?


 もちろんスカートなんてものを薫が持っているわけないので、トレーナーの下にはスカートもズボンもはいてない。だけど、トレーナーはかなり長い、というか私の胴が短すぎるので、めくれてパンツが見えたりはしないだろう。ちょっと残念。じゃなかった、ちょっと安心。


 いや、一度子宮を加齢してから、どうも自分好きがこみ上げてくる。自分を客観的に見てエッチな目で見たくなるのだ。これも両性具有という不思議な生き物の本能なのか…。


 ルシエラがまた全裸になろうとしたので叱った。そして、ノーブラでトレーナーを着たので先端が…。エルフだって一応葉っぱ水着で隠してるでしょう…。


 それから、ルシエラの髪は足首まで伸びていて、座ったら床に擦ってしまう。ローゼンダールでは人が少ないのであまり問題にならなかったけど、日本ではそうもいってられないだろう。ということで、残念だけど、ルシエラの髪を私と同じくらいの腰のあたりで切ることにした。髪の長さも同じにしてしまったけど、私は前髪が短いし、ルシエラはハーフアップなので、まあ区別がつくだろう。



 だぼだぼトレーナー女子の双子と薫でショッピングモールにバスで向かった。なんかルシエラが初めてのバスにはしゃいでいたので、ショッピングモールのところで停車ボタンを押させてあげた。

 私たちはお金を持っていないので薫に運賃を出してもらった。小学生料金と言ったら運転手は私たちの胸を見て悩んでいたけど、身長を見て小学生と認めてくれたようだ。まあ、ルシエラは十六歳だから詐欺だけど、私は六十四歳だからシニアパスを買ったらいいだろうか?


 自分たちに認識阻害の魔法をかけて、銀髪が珍しいとか、異世界人とかいう発想に至らないようにした。しかし、なぜか私たちは注目を浴びている。それは、私たちが可愛いからだと薫に言われた。たしかに私はわりと可愛いと思っていたけど、ローゼンダールではみんな可愛かったし、有象無象だと思っていたのだけど…。改めて言われるとなんだか恥ずかしい…。ルシエラはなんだかツンじゃないデレだし…。


 私は薫だったころのノリで、安い洋服を買いに行こうとした。だけど、薫に可愛いブランドのお店を勧められた。そういえばローゼンダールでは可愛いドレスをデザインしても、スヴェトラーナが全部エロいドレスにして流行らせちゃうから、あまり可愛いドレスって作れなかったな…。でも、ここにある服は普通に可愛いのばかりだ…。なんかテンション上がってきた!


 だけど、私たちは日本人にはあり得ない体形をしている。既製の服は何一つ入らなかった。結局その日はオーダーして帰るだけになった。



 お昼はフードコートで熊本ラーメンを食べた。ローゼンダールでは肉料理とかスイーツは広めたけど、あんまりいろんなメニューを流行らせてないな。せっかくだからこっちの料理をいろいろ調べて、レシピをローゼンダールに持ち帰ろう。


 私があんまり日本人じみたことばかりやっていたからだろうか。私は、大学の時に付き合っていた彼女の生まれ変わりじゃないかと、薫に指摘されたら、ラーメンを吹き出してしまった。さらに、私が薫の生まれ変わりであることをルシエラがばらそうとしたので、とっさに口をふさいだ。




 薫に魔法とかチート能力をあげることはできないけど、便利な魔道具を与えることはできる。さらに、タイムスリップで未来のパソコンやスマホを仕入れることにした。仕入れようと思った時点で、未来の私がそれを送ってきた。出発前に未来の私が時魔法の性質について教えに来てくれたのと同じだ。


 スマホを触ったのは六十四年ぶりだというのに、つい三週間くらい前のことのように「しばらく弄ってないな」と感じながら、ローゼンダールに持ち帰るレシピとかを検索していたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。


 ルシエラにもスマホの弄り方を心魔法で教えてあげたら、夢中になっていた。

 薫は未来のハイスペックパソコンに興奮している。ソフトもいろいろ入っているようだ。



 夜になってルシエラがまた裸になって薫を誘惑した。いい加減にしろとげんこつを喰らわせて気絶させてしまった。


 薫も薫で、私たちが男を好きにならないのであれば、自分をどうしてもアニメ声の美少女にしてくれと。それじゃ薫が死なせないようにした意味がない。そもそも、薫は死んだのではなくて、私として生きてるのだから、問題なのは薫が突然死んでしまって皆に迷惑をかけることだけだ。今の薫は、体裁を整えるためのコピーロボットのようなものだ。その薫をアニメ声の美少女にするなんてなんの意味もない。


 だけど、それなら寿命が尽きて消えるのが自然になったときに、アニメ声の少女に転生させろと…。確かにそれなら問題ない…。その発想はなかった…。私は明確な返事を避けたのに、薫は約束したつもりになってる…。アニメ声の美少女に対する執着心…。波長が合う魂って、このユリアナになりたいかどうかも含まれていたのかな…。薫に合う魂はルシエラとも合うから、今の薫もユリアナになりたいのか…。




★★★★★★

★薫三十六歳





 翌日。日曜なので薫はお休み。


「ねえ。カラオケ行きたい」

「いいねぇ。ユリアナの歌声を聞かせて」

「うん」


 三人でバスに乗ってカラオケに向かった。ユリアナたちの服はまだなので、だぼだぼトレーナー女子だ。幼妻だ。いや…どう見ても娘だ。


「なあ、昨日より注目を浴びておるぞ。わらわが可愛いのはしかたのないことじゃいとうのに」

「いや…、悪意センサーが反応してる…。ふんふん…♪」


 ユリアナは嬰ト短調のメロディを歌った。


「なんか誘拐とか穏やかじゃないことを考えてる人が…」


 芸能界やモデルにスカウトしたいくらいならまだしも…。


「なあ、わらわ、ネットにアップされておる」

「えっ…」


 ルシエラとスマホをのぞき込んでいる。二人のスマホは未契約だから、オレが常にテザリングしている。


「私たちが可愛すぎるから…」

「それも一理あるがな、ここを見よ」

「銀髪の異世界美少女現る…。魔法が効いてない…」

「わらわはおぬしにインターネットのことを教えてもらったばかりなのでよく分からぬが、ここに映っておるわらわたちを見ても、魔法は発動せんのではないか?」

「あっ…。魔法は私たちを見たときだけ効果があるんだ…。動画を見ても魔法は効かないから、動画を見ると異世界人ってバレちゃうんだ…」

「最初はARでCGキャラを重畳したと思われておったっぽいぞ。わらわは信じられぬほどに可愛いからの」

「実物を見たって人が増えるにつれて、本物と認知されるようになったか…」


 こんなときに不謹慎だけど、二人がキャピキャピ言っているのを聞いているだけでオレは癒される。

 ひとまずバスはカラオケの最寄りに到着した。カラオケボックスに入って作戦会議。


「せっかくのカラオケなのに歌えない…」

「わらわがおぬしのレパートリーを歌ってやろう。ららら…♪」


 ルシエラは嬰ト短調のメロディを歌った。嬰ト短調、好きだな。調に何か意味があるのだろう。

 ルシエラは曲の本から曲を選んでリモコンで番号を入力していく。


「ルシエラはカラオケ来たことあるのか?」

「今ユリアナの記憶に聞いたのじゃ」

「そっか、じゃあユリアナは日本で暮らしたことがあるんだな」


 嬰ト短調は心を読む魔法かな。


 ユリアナはふんふんと変イ長調のメロディを口ずさみ、異次元収納から紙とインク壺を取り出して、魔方陣を描いている。


 その間に、ルシエラの歌が始まった。


「私の心、水の流れのように~♪…ぎゃあああ」


 ばしゃーん。どこからともなく水が降ってきた!


「うわっ、魔方陣があぁ」

「うわっ、なんだ!」


「ううう…。みずのな(ソラシド)はイカンな」

「ソラシドが水を出す魔法なのか?」

「うむ。飲み込みが速いのぉ」

「ト長調が水全般とか?」

「さすがじゃな」


 嬰ト短調が記憶で変イ長調が異次元収納で、あと変ホ長調が身体を弄る魔法か。おもしろいな。オレならすぐに覚えられそうだ。チート魔法能力くれないかなぁ。


 ルシエラはリモコンでキーをめちゃくちゃ上げた。ト長調の曲が変ロ長調になった。すごく高いけど、ルシエラには余裕のキーだ。


「私の心、水の流れのように~♪…うむ。これなら大丈夫じゃな」


 なるほど。調を変えれば魔法は発動しないんだ。変ロ長調の魔法はないのかな。


「ルシエラ…その前に、テーブルと床が水浸し…」

「うるさいのぉ。ららら…♪ららら…♪」


 ト長調のメロディとイ長調のメロディ。水が霧状になって、一気に消えた。ついでにコップの中に入っていたコーラも消えてカラメルだけが残った。

 ルシエラはカラオケの曲が鳴ってる中でも的確に調を使い分ける。



 ルシエラが一曲終えたら、また曲の本をめくってリモコンで番号を入れた。変ロ長調になるようにキー付きで予約だ。


「なあ、さっきから選曲が最近のアニメばっかりなんだけど」

「ユリアナのいちばん新しい記憶をたどったら、これが出てきたのじゃ」

「そうなんだ」


 ユリアナは最近死んで転生したのだろうか。いや、六十四歳だと言っているし、未来のユリアナからものが送られたりもしたから、実際にいつ死んだかとかよく分からないな。


 それにしても、ルシエラの声はマジモンのアニメ声だ。歌うときまでアニメ声を維持できる声優はなかなかいない。めちゃくちゃキーを上げているのに、ファルセットもめったに使わない。

 いつもタブレットで子守歌代わりに流していたアニメの歌を生で聴けるなんて…。それも、本物よりうまいし可愛いよ…。なんだか涙出てきた…。


「なんじゃ?」

「感動した」

「うむ。存分に感動するがよい」


 ルシエラは最近のアニソンから徐々に時代を遡っていってるようだ。歌い終わってから入れていては時間がもったいないので、オレが適当に入れていくことにした。歌えなければスキップしてもらえればいい。だけど、ルシエラはすべての曲を完璧に歌ってくれた。




「できた!」


 カラオケにフリータイムで入って、六時間が過ぎていた。


「なあ、メロディが魔法の呪文なら、その魔方陣は楽譜だったりするのか?」

「えっ、そうだよ。よく分かったね。まあそうだよね…」

「じゃあさ、歌から楽譜を起こして円状に線を並べるアプリで印刷してあげようか?」

「その手があったか…」

「っていうかね、パソコンとスマホの中にそれらしきアプリが入ってたんだよ」

「えっ…」

「未来のユリアナとオレが作ったんだろうな」

「私の苦労はいったい…。もうヤダ!歌いまくる!」


 そのあとはユリアナの独壇場で、さっきまでルシエラが歌っていた歌をおさらいしていくのであった。同じ声なのだけど、ユリアナの方がちょっと可愛いな…。それに、本物に近いような歌い方をしたりする。


 そして、朝から歌い続けてとっくに昼は過ぎているので、カラオケ屋の高くて量が少ないメシを注文した。オレとルシエラはそれを食べながらユリアナの歌を聴いていたけど、ユリアナはひとときも休むことなく歌い続けていた。




「もう帰ろうよ…」

「ヤダ」


 すでに日をまたいでいた。カラオケ屋の高くて量が少ないメシを頼んだのも二回目だし、ドリンクバーも何往復したことやら。


「明日仕事なんだよ…」

「わらわが疲労回復と治療をかけてやろう。ららら…♪ららら…♪」


 ルシエラの可愛いアニメ声のロ長調と変ホ長調のメロディ。心も体もマジで癒される。オレはそのまま眠ってしまった。


 起きたときには午前三時。ユリアナはまだ歌い続けた。オレも大学のときは朝六時に追い出されるまでよく歌ったものだ。でも社会人になってからはこれが初めてだ…。


「ユリアナ、もういいかな…」

「うん。満足した」

「こんな時間にバスないよ…」

「ひとけのないところでワープゲートを開くよ」

「世界を超えられるんだからそれくらいできるか…」


 カラオケ屋を出て、路地裏に入り、ユリアナの変イ長調のメロディで開いたワープゲートで直接部屋の玄関へ。

 オレはシャワーを浴びて一時間だけ眠り、ユリアナとルシエラにロ長調と変ホ長調のメロディで癒してもらい、万全の状態で出勤することができたのだった。




★★★★★★

★ユリアナ六十四歳




 起きたら薫は出社していた。ブラックとはいわないけど、いつも忙しいソフトウェア会社の冴えないサラリーマン。薫はもはや私ではないけど、楽をさせてあげたい。なんとか楽にお金を稼げないか。金やダイヤを生成することはできるけど、足が付かないように売るにはどうしたらいいかな…。


「これなんかどうじゃ」

「競馬?競輪?」

「うむ」

「あっ…なるほど…」


 予知能力者の金儲け…、ギャンブルか…。


「それならこっちだ!」


 株だ!私は株なんて人の気分次第で勝ち負けの決まるギャンブルくらいに思っていたので、人の気持ちの分からない私は手を出したことがない。薫というのは、セラフィーマほどではないけど、物覚えが悪く人付き合いの苦手な人間だったのだ。せっかくだからここはチート能力でお金稼ぎしよう。


 聖魔法か邪魔法を使えば、もっと簡単にお金が手に入るだろう。金運の魔法で教会の運営費をバカみたいに上げたくらいだ。具体的なことをお祈りすれば薫の給料をアップできるだろう。でもそんなことをしたら本当に邪な魔法だ…。いや、もう面倒くさいし、やり過ぎない程度にやっておくか…。仕事運の魔法で昇進させて、金運の魔法で昇給。健康祈願の魔法で残業を減らしてもらおう。


「ふんふん……♪」


 聖魔法で前世の自分を祝福するってどうなんだ…。まあそれとは別に、株もやっておくか。またマッチポンプじゃないか。


「そういうのはわからんから、わらわは競馬に行く」

「じゃあ、これ持っていって」

「昨日作っておったやつじゃの。んじゃぁの」


 ルシエラに腕輪を渡した。私とルシエラを目にすると、「異世界」とか「魔法」とか定番のキーワードを忘れてしまう。それから、誘拐とか危害を加えようとしたことも忘れてしまう。撮影もできない。



 薫のパソコンにログイン。指紋認証が登録されていた。株なんて初めてだけど、未来視できるし失敗したらタイムリープしてやり直せばいい。強気で行こう。


 未来視で近いうちに上がりそうな株を買えばいいんだっけ?未来で常に株価のページを開いておいてくれないと、未来視しても株価を見られないよ。まあ、私が今そう考えた時点で、未来の私はそうしておいてくれるだろう。 



 そして数時間後、ルシエラは…


「ほれ」

「マジで…」


 一〇〇万円くらいありそうな札束を五つばさりと落とした。


「おぬしはヘタレなのじゃ。もちろんあやつもヘタレじゃ。わらわが脱いで心魔法で性欲を三倍にしてやったのに、わらわに手を出さんかったぞ」

「そんなことしてたんだ…」

「向こうの世界でもそうじゃ。毎日もっと嫁を可愛がってやれ。あれだけ誘惑しておるのに、おぬしは我慢しすぎじゃ」

「そうなのか…」

「もっと好きに生きるがよい」

「考えとく…」


 私ってへたれなんだ…。でも強大な魔力を持つ私が欲に身を任せて生きたら、魔王になってしまうんじゃないかな。ヘタレくらいで丁度いいんじゃないかな…。



 その日、薫は残業をせずに帰ってきた。さっそく健康祈願がかなった。

 薫は携帯回線を二つ契約してきてくれた。これで私とルシエラの携帯を外で使える。


「なあ…、この札束…、何…」


「五〇〇倍の駄馬に時の流れの加速魔法をかけたのじゃ」

「未来視じゃなくてドーピングさせたんだ…」


 その手もあったか…。ルシエラの方がチート魔法の使い方をよく知ってるな…。


「何これ…。株なんて始めたの…?」

「うん。あっ、今何時?これって売り時なのかな?やった!半日で一〇〇万!」

「マジか…。二人はオレの年収を一日で稼いだのか…。っていうか、オレのアカウントとかカード番号とか…」


 パソコンで株価のページを開きっぱなしにしていたら、未来視で見た時刻に見たとおりの株価に上がっていた。


「おぬしを死なせかけたお詫びじゃ。気にするでない」

「う、うん…」


 なんか、マシャレッリ領で金策していたのがアホらしくなってくる。だけど、あのころは貴族の義務とかもあったしね…。今は自分の欲望に忠実に生きてるだけだしね…。



 薫のいない平日は、生活を便利にするための魔道具を作った。異次元収納で部屋を拡張して、発魔器を設置。電気は雷の発魔器から、水は水の発魔器から供給される。ガスは使わない。マシャレッリ家で開発したコンロはIHクッキングヒーターのようなものだ。お湯は火と水の発魔器から。暖房は火の発魔器から、冷房は水の発魔器から供給される。光熱費ゼロだ。


 それから、マシャレッリに持って帰りたいものを買いあさったり。ものを持って帰ってもただのオーパーツになってしまうから、できれば作れるようにしたいのだけど、電子機器なんて作れるわけもない。



 次の土曜日、オーダーメイドした服が届いた。


「こんなひらひらなの着られんのじゃ…」

「ど、どうかな…」


「二人ともすごく良いよ…」


 ルシエラは自分で試着して選んだのを、ツンデレらしく喜んでいる。


 私はドレスも好きだけど、普通の日本の女の子をやってみたかったんだ。

 普通のミニスカートをはいてみたかったんだ。ローゼンダールではスカートの長さは年齢によってだいたい決まっていたからね。それでもスヴェトラーナにシースルーのスカートを見せたら、ミニスカートとシースルーのロングスカートを流行らせてしまったけど。でも、ここでは本物のミニスカートをはけるんだ。


 ちょっとかがんだりしたら見えちゃうかもって、なんだかすごくドキドキする…。っていうかむしろ見られたい…。これはマザーエルフのさがなのだろうか…。一度妊娠してから子宮年齢を元に戻してもずっと、自分大好きちゃんは変わらず残っており、自分を他者のエッチな視点で見たくなるのだ…。自分でパンチラしてみたいとか変態だ…。でもエルフってみんなけっこう露出狂みたいだし…。ルシエラの言うとおり本能に忠実に生きてみたいと思う一方で、日本人の常識が邪魔をする…。


 しかし、スカートが短くなった一方で、胸元が見えないのはなんだか違和感がある…。日本じゃなくてアメリカとかに行けば、もっと堂々と胸チラもパンチラもできるだろうか。


 私とルシエラが外を出歩いても、私たちを見た者は異世界人だとか魔法だとかいう目線で私たちを見ることができない。とても可愛いと思ってくれるだけだ。でもカメラを向けることができない。私たちを無断で撮った動画は次第に減っていった。だけど、私たちが住んでいる地域はもう割れてしまっているので、私たちを一目見ようとか、誘拐しようとかいう者は後を絶たない。しかし、一目見た時点で悪意を忘れてしまうのだ。ただ可愛いと見惚れて帰るだけだ。




★ユリアナ六十五歳(薫三十七歳)




 薫とチート生活を楽しみ、年末を迎えようとしている。何が問題なのかというと、薫だって一年に一回は実家に帰っているのだ。


「さすがに彼女として紹介するわけにはいかないよな…」

「それなら、わらわを妻として紹介するがよい」

「幼妻ってとても魅力的なんだけど…」

「なんなら初潮を早めて、デキ婚というやつでよいぞ」

「ちょっ…」


 がつん。げんこつを喰らわせた。こっちに来てから本当によくルシエラを叩くなぁ…。


「バカ言ってんじゃないよ!」

「わらわは本気じゃ」

「仮に子供を作るにしても、結婚してからだよ!」

「面倒じゃのぉ。おぬしらは本当にヘタレじゃ」


「今回は諦めるよ…。オレは一人で実家に帰る。二人は好きなことしてて」


 結局、正月、私たちは薫の実家に帰らないことになった。薫の実家は私の実家…。私のいちばんのお母さんはナタシアお母さんだ。だけど、日本の母親も同じくらい大切だったことを思い出した…。まあ、いつか会う機会があるだろう。




 私が日本でやるべきこと…。ちょっと勉強していきたい…。


 マシャレッリの教会では中学までの数学やらを教えている。高校数学はちょっと記憶がおぼろげで、一部しかカリキュラムに組み込んでいない。あと、物理・化学・生物もかなり適当…。歴史とか地理なんて何も覚えてない。


 実際のところ、学のある人の記憶を自分にコピーするだけで用は足りるんだけど、急がなくても薫が寿命で死ぬまで何年もあるのだし、のんびりやればよい。


 そうだ!高校に行こう!女子高生やりたい!よーし!受付の時期になったら願書を出そう!



 そして、正月休みを終えて薫が帰ってきた。

 

「なあ、二人ともそれだけ可愛くて歌が好きならWeTuberになるとか、歌手か声優目指したらどうだ?」

「私たちね、メロディと歌詞の意味が偶然一致しちゃったときに、火が出たり水が出たりして危ないんだよね」

「カラオケで水浸しになったやつか…」

「私はもともと歌詞の意味を考えて歌わないんだけど、なんかの拍子で歌詞の意味を考えちゃうこともあるからね。幸いなことに、変ロ長調は聖魔法っていって、他人の幸福や安全を願う魔法だから危険なことは起こらないんだ。だから、全部変ロ長調にすれば歌えることは歌えるんだけど」

「なるほど…。好きな調で歌えないってきついな…」

「それにあんまり目立つとまたトラブルになるし…」

「地球人ではあり得ないほど可愛いってのはつらいな。芸能人が外を出歩けないのと同じか」


 結局のところ、歌と魔法は密接に関係しすぎていて切り離せない。魔法が発動しないようにすると、歌を思い通りに歌えないというのは難儀だ。地球ではあまり人前で歌わない方がいいな…。




 時が過ぎて、私は六十五歳、薫は三十七歳。薫が寿命で死んだ後、アニメ声の美少女に転生させてあげることを考えると、記憶は劣化しない方がいい。そこで薫の脳を三十六歳まで若返らせて、脳が老化しないようにする魔道具を持たせた。もともとあまり記憶力は良くないけど、これ以上ボケないのは安心だ。

 それに、薫の容姿はイケメンに変えてあって、歳を取ってもカッコいいのだ。まあ、私は興味ないけど。


 そして、高校の募集時期になった。偏差値とかではなくて制服の可愛さで高校を選んだ。スカートを短くしても怒られない校風が良い。私とルシエラを直視すると、異世界人とかエルフだという考えは吹っ飛んでしまう。どう見たってアニメから飛び出たようなスペックの私たちだけど、そのように例えられることはなく、たんに人外の可愛さを持っているともてはやされるだけだ。人の心を操作しないと地球ではやっていけないというのはなんだかつらい。かといって、私たちは可愛いことをやめられない。


 ちなみに、学費は私の株の儲けと、ルシエラの万馬券の当たりでまかなった。




★ユリアナ六十八歳(薫四十歳)




 さらに三年の時が過ぎて、私は六十八歳。人間の一日分しか身長は成長していないので、相変わらず十歳にしか見えないけど、戸籍上は十八歳。私たちは高校を卒業した。音楽大学に入って楽器のことを勉強したかったのだけど、私たちが楽器を弾くと魔法になってしまうのでこれまた断念しかけていた…。


「なあ、時の流れの加速魔法で音程を変えても、魔法が発動するかどうかは元の音で決まるんだろ?それなら、わざとチューニングを半半音低くして、楽器の時の流れを一・〇三倍にしたらどうだ?」

「それだ!」


 魔法音楽は音程がずれると効率が落ちていき、半半音ずれると一〇〇パーセントロスする。これを利用すれば魔法を発動できない楽器のできあがりだ!


 昔、マリアちゃんがヴィアチェスラフに洗脳魔法を発動できないようにするために、わざとチューニングをずらしたのを思い出した。ローゼンダールでは音程の分かる人がいないからできたことだけど、地球でまともに音楽をやろうと思ったらチューニングがずれたままの楽器を使うことはできないし、何より私をごまかすことができない。でも、時の流れの加速でチューニングすれば、魔法に対する挙動はそのままで、聞こえる音だけごまかすことができる。


 最後に作ったキーボードは、すべての鍵盤の弦の長さを同じにして、時の流れの加速だけで音程を変えてる都合上、魔法をまったく発動できないんだった。そんなことも忘れてたよ!


 同じ原理で私の喉を一・〇三倍加速しておけば、私は自分の出す声がちゃんとした音程に聞こえるようにフィードバックして声を出すので、実際には半半音低い声を出してることになる。せっかくだから、歌唱も履修した。


 ちなみに、時魔法の魔道具化してない楽器を使うと魔法が発動してしまうので、マイ楽器を持ち込めないピアノとかはやれなかった。


 こうして私とルシエラは音楽大学に入学して、楽器の勉強をすることになった。楽器の構造とかちょっとした弾き方だけならネットで調べれば済むんだけど、とにかく時間はたっぷりあるんだし、音大生ライフを満喫することにした。


 大学に入って分かったことだけど、私がローゼンダールにもたらした楽器は弦の数とか間違ってたりするものが多い。今度こそバイオリンの弦の数を覚えたし、もどきじゃないトランペットも構造を覚えたよ。




★ユリアナ七十二歳(薫四十四歳)




 さらにさらに四年の時が過ぎて、私は七十二歳。戸籍上は二十二歳。音楽大学を卒業したら、今度こそアニメ専門学校でアニソン歌手を目指すんだ!


 邪魔法と心魔法の魔道具で、私たちを見ても異世界人、魔法使い、エルフとか、アニメから飛び出したという考えは消えるようになっているけど、その制限を緩めて、アニメから飛び出たというのは許可するようにした。せっかくアニソンを歌うのだからね。


 高校、音楽大学、専門学校と女学生ライフを満喫したけど、それはまた別のお話。たぶん。


 そして七十四歳で専門学校を卒業して、アニソン歌手としてデビューすることになった!ルシエラとの双子ユニットだ!。

 ちなみに声優はやらない。薫ほど物覚えが悪いわけではないけど、セリフを覚えたり演技したりが得意なわけではないので。


 でも、ライブやコンサート、音楽番組には出ることにした。


 こうして、チート魔法に頼らないまっとうな方法で生活資金を稼げるようになった。魔法じゃないだけで、アニメ声というチート能力やロリ巨乳美少女というチート容姿は使いまくりである。




★ユリアナ七十六歳(薫四十八歳)




 アニソン歌手デビューしてはや二年。日本に来て好き勝手やって十二年。私は戸籍上二十六歳、薫も四十八歳である。脳を除いて。薫は毎年実家に帰っているのだけど、私は帰れていない。理由や設定が見つからないからだ。


 でも、薫は帰るたびに親から結婚しろとせっつかれている。私たちがいると薫は結婚できない。そこで…、


「ねえ薫…。結婚しよっか…」

「えっ…。だって、エルフは男を好きにならないんだろ?」

「それでもね、私たちがいるせいで薫が結婚できないと、家族にも申し訳ないから…」

「そんなことは考えなくていいよ」

「私はね、薫に幸せになってほしいんだよ。それに、寿命を全うしたらアニメ声の美少女にしてあげるからさ、それを考えれば今の薫が男でもいいよ」

「ルシエラはどうなんだ?」

「わらわも結婚してやるぞ」

「ダメだよ…。日本は一夫一妻だよ…」

「じゃあ子だけ産んでやろう」

「またそういうことを言う…」


「本当にいいのか?」

「うん」「うむ」

「分かった…。今度の正月に、親に挨拶にいこう」


「ちなみにね、私、向こうの世界に奥さんが六人いるんだ」

「えっ…、男を好きにならないって、女の子どうしで結婚できるってこと?」

「ああうん言ってなかったっけ。男とも子供を作れるけど、女の子と子供を作るのが普通なんだ」

「マジか…」

「それとは別に娘の一人とも結婚してる」

「早々意味わかんないけど…」

「でも薫がアニメ声の美少女になったら奥さんともたぶん仲良くやれるよ。みんなアニメ声の美少女が好きだから」

「オレを美少女にするってそういう意味だったんだ…」


 こうして私たちは正月に薫の実家…、つまり私の実家に行くことになった。前世の自分と婚約するために…。




「ただいまー」

「お兄ちゃんお帰り」


 薫の実家のドアを開けると、妹の翼が出迎えてくれた。なぜうちの親は、私に女と間違えそうな名前を付けて、妹に男と間違えそうな名前を付けたのやら。


「今日は紹介したい人が…」

「お兄ちゃん、まさか彼女…、ってウソっ!人気アニソン歌手のアナ・エラじゃん!うわー!お人形みたい!アニメキャラみたい!マジ可愛い!マジ小さい!マジ巨乳!マジ……」


 怒濤の勢いでまくしたてる翼。翼は私と同じでアニメ好き。翼ももう四十四歳か…。老けたな…。母さんに似てきた…。薫が独身なのも問題だけど、翼の方がもっと問題じゃないか…。子宮年齢だけこっそり戻しておいてあげようかな…。


 私たちのユニットの正式名称はユリアナ・アンド・ルシエラなんだけど、長ったらしいのでアナ・エラで通っている。四文字にするの好きだしね。


「あ、あの…とりあえず上がるぞ」

「あ、うん、ごめん。入って入って。ユリアナとルシエラも!」

「お邪魔します…」

「うむ、邪魔するぞ」

「おかあさーん。薫がすごい子連れてきたー!」


「えー、まさか彼女?」


 奥から聞こえる母さんの声。久しぶりだ。


「二人とも、こっち」

「うん」「うむ」


 当たり前だけど、薫は私を案内している。だけど、私にとって勝手知ったる実家だ。

 居間に通された。そこには私の母さんと父さん。だいぶ老けたけど。


「「えっ…」」


 両親は私とルシエラを見て驚いている。そりゃ日本人とはかけ離れてるからね…。銀髪というのは地球に存在しないけど、それを認識できるようにはしてないから、単に金髪の外国人くらいに思ってくれる。異世界人とか魔法使いとかいう発想もできない。だけど、まるでアニメから飛び出したようというのは許可してある。あとは…、


「薫…、こんな幼い子を捕まえてどうしようっていうのさ…」

「お母さん、この子たち、アニメの『異世界アイドル目指します!』のオープニング歌ってる子たちだよ」


 翼が母さんに説明してくれている。母さんは私や翼と一緒にアニメをよく見ているけど、だからといって中の人や歌手にまで興味を持っているわけではない。


「だからって、こんな幼くて可愛い子が…」

「だからさあ、これでも二十六歳の成人なんだって。胸めちゃくちゃでかいでしょ」


 さらりと説明にセクハラ発言を混ぜる翼。


「それにしても、四十八歳の冴えないオヤジが歳半分くらいの子を連れてきてどうするっていうの…?」


 母さん…、言葉が辛辣だ…。まあ、おっさんが小さな子を連れてくるなんて犯罪くさいしな…。


「オレ、ユリアナと結婚するんだ」

「「えっ…」」


 両親は思考がフリーズ気味だ。翼は目を輝かせている。


「本当なの?」

「はい。私、薫さんと結婚します」


 前世の自分と結婚…。何度言ってもカオス…。


「そ、そっちの子は双子なの?どうするの?」

「わらわも結婚したいところじゃが、子だけでももらえればそれでよいぞ」

「「子…」」

「ちょっ、ルシエラ…ややこしくなるからやめて…」

「わあぁ!ルシエラの、のじゃキャラってカメラの前だけじゃないの?ホントに地なんだね!」


 ルシエラの爆弾投下にフリーズを継続する両親。別のことにはしゃいでいる翼。

 コンサートでしゃべったり、インタビューに出演したりしてるけど、ルシエラはのじゃキャラを貫き通している。でも、普段の生活までのじゃキャラで通してると信じている人はいないだろう。


 薫はイケメンに改造されているとはいえ、四十八歳のおっさんに二十六歳の外国人の娘がなびく理由は想像できない。私と薫はなれそめを事細かに説明させられた。


 なれそめの前に、私たちが日本に来た理由から。もちろん適当な設定だけど、それはインタビュー番組とかですでに話しているので翼は知っている。だから母さん向けの説明だ。


 私たちはジャパニメーションに憧れてローゼンダールという国から日本に来た。当然ローゼンダールという国が地球の国でないこととかどこにあるのかということに疑問を持つことができないようになっている。また、私たちの親にことについても言及することができない。


 しかし、高校入学前だった私たちは資金がなくなり路頭に迷っていた。そこを薫に拾われたのだ。

 ちょっと無理のある設定だ…。薫じゃなきゃいけない理由がない。話すときは洗脳を交えて、無理矢理信じさせている…。身内を魔法で弄るのは相変わらず忍びないけどしかたがない。


「もう一度聞くけど、ユリアナちゃんは本当に薫と結婚するのね?」

「はい」

「ルシエラちゃんは薫と結婚しなくても、薫の子を産んで二人で育てる約束をしてるのね?」

「うむ」

「三人が納得してるならいいけど…」


「私たち三人は生計を共にするけど、すでに稼ぎもあるから子育て資金の目処は立ってます」

「小さいのにしっかりしてるね…」

「お母さん、小さいのは見た目だけだってば」


 母さんは相変わらず私たちを子供のように見ている。そこに翼がツッコミを入れる。


「それなら私はいいよ。お父さんは?さっきから黙ってるけど」

「もう決めているんだろう。好きにしなさい」


「ありがとう、母さん、父さん」


 薫が感慨深そうに礼を述べた。


「ありがとうございます。父さん、母さん」

「気が早いね。もう母さんって呼んでくれるんだね」

「あ、はい…」


 しまった…。この二人は私の父さんと母さんでもあるのだ…。ありがとうございますとか敬語を使っておきながら、肝心なところで癖が出てしまった…。


「わらわは結婚しないが、父上、母上と呼ぼうではないか」

「ありがと」


「ルシエラはなんのアニメを見るとそんな日本語を覚えるのさ」


 翼にツッコミをもらいまくりのルシエラ。




 こうして、私は薫と結婚した。薫が結婚できないからって、まさか自分が結婚相手になるなんて、自作自演も甚だしい。祝福のマッチポンプもここまで来ると言葉も出ない。


 歌手を休業するから結婚したことは公開したけど、結婚相手は非公開だ。公開したら薫は殺されるかもしれない。公開してなくても一緒にいるところを見られているのだけど、そのことをすぐに忘れるように邪魔法で細工してある。


 身内だけで結婚式を挙げて、その夜、薫とルシエラと3Pした…。まず、私もルシエラも子宮年齢を二〇〇〇歳加齢。初潮が来る数日前に微調整。若干、自分スキー症候群に襲われるけど、爆乳にはしてないので自分に欲情したりはしなかった。でも薫ではなくルシエラに惹かれるのを抑えるが大変だった。3Pじゃなくて別々にやればよかった…。


 私が初めて産んだのは自分で胎んだルシエラの依り代だった。だから、他の人から子供を授けられるのは初めてだ…。それが、よりにもよって前世の自分だとか…。エルフは男を好きにならないし、前世に男の記憶を持っていることからしても男と結婚することなんてないと思ってた。

 だけど、薫は前世の自分なんだ。前世の自分が幸せになるのはなんだか嬉しい。今の薫は、私と同じ過去の記憶を持ってるだけの別の個体なのに、なぜか薫の幸せが嬉しい。それに、薫が寿命を全うしたら、女に転生させてあげる予定ってのもテンションが上がる。


 そもそも、薫は四十八年間童貞だったのだ。大学の時にオタクな彼女がいたけど、そういう関係までは行かなかった。というか私は前世で童貞だったのだ。でもこれで前世で童貞だったという事実が消えた。なんか違う気がするけど…。


 私がお嫁さんたちに子を授けるときは口づけて魔力を流した。自分を胎ませたときにどうやったのかはよく覚えてないのだけど、同じく魔法によるものだろう。だから…、私…、処女だった…。もちろんルシエラも…。いや、ルシエラは過去には男から子供を授かったことがあるのだけど、今世では処女だったというだけだ。なんだか詐欺くさい…。そもそも、子宮年齢を若返らせるときに周辺部位まで若返らせれば処女膜を修復できる。実際に性行為をしたことがない女性のことを処女というのであって、処女膜が残っているかどうかは、私としてはあまり興味ないけど、新商品として売り出したら需要があるのだろうか…。そもそも普段の生活で破れてしまうこともあるそうだし…。




★ユリアナ七十七歳(薫四十九歳)




 翌年、私は七十七歳(戸籍上二十七歳)のときに出産した。アレクサンドラとアンジェリーナが嫁ぎ先の王子に授かった子もそうだったけど、私が薫から授かった子は人間になった。しかも男。(あおい)と名付けた。


 そして、ルシエラの産んだ子も人間だった。こっちは女の子。水樹(みずき)と名付けた。


 葵は赤みがかった茶髪だ。水樹はプラチナブロンドだ。二人とも青とかピンクのファンタジーな色じゃなくて、地球人としてあり得る色なので、私みたいに魔法でごまかす必要がなくてよかった。


 葵の属性は火、時、邪の三つ。

 水樹の属性は雷、命、聖の三つ。

 人間の属性は三つが限界なのだろう。魔力も私の半分くらいあったソフィアたちに比べると小さい。


 生まれたときから筋力強化で筋トレするのじゃ子ではなくて、生まれたときは何も分からない赤ちゃん…。本物の赤ちゃん…。可愛い!母乳をあげていると、愛おしくてたまらない。

 葵と水樹を交換して、私が水樹に、ルシエラが葵の母乳をあげたりもする。産みの親からもらわなければならないことはない。そもそも、クローンである私とルシエラが同じ旦那から授かった子供は、生物学上二卵性双生児と同じで、どっちが親か区別が付かない。どちらも私の子で、どちらもルシエラの子だ。


 日本では一夫多妻は認められていないから、ルシエラは結婚せずに子供を産んだことになる。だけど違法ではないようだ。ネガティブなことを言ってくるやつは魔法で黙らせるからいいよ。


 ルシエラはレティシアを産んで育てたことがあるけど、二人目でも嬉しいことには変わりないらしい。マザーエルフというおかしな種族だけど、ちゃんと母性本能を持ってるんだ。


 二人は私とはあまり似てないけど、改造前の薫とは違い、イケメンと美女だ。薫に「美しくすぐ成長する」をかけたとき、遺伝子レベルを意識した覚えはないのだけど。まあ、私には似てないけど、可愛さの数値は継承されたのかもしれない?


 二人は特定の調で歌を歌ったり楽器を奏でてはならないという制限があるのだけど、二人の波瀾万丈な物語については、また別の機会に…。たぶん…。




 時は流れ、スマホやパソコンを過去に送る日がやってきた。予定どおり、5G電波対応の最終モデルと、六十四ビットOSをインストール可能な最後のパソコンをタイムスリップ魔法で送ったのだ。


 実をいうと、スマホは三年から五年くらいでバッテリがダメになるし、パソコンだって十年ももてばいいところなので、およそ一台目がダメになるタイミングで新しいものが未来から送られて来ていたのだ。それもたくさん。一台目を送られたときにはまだ部屋を異次元収納で拡張したりしてなかったので、たくさん送られたら困っていただろう。だから二台目のタイミングでたくさん送られてきたのだ。


 私たちもそれと同じことをする。まず最初の年に一台目を送って、その三年後に残りを送るのだ。私たちが受けとったスマホとパソコンは二セットずつ余った。これも送っちゃえ。使わないまま放置しておくとバッテリとかダメになってしまうので、異次元収納に時間停止して保存しておいた。だから新品同様だ。だけど、これは未来の私からもらったものなので、私が買ったものとは少し違うかも?


 ちなみに、ここで私がいじわるして過去にスマホを送らなくても、自分たちの手元にあるスマホが消えるというタイムパラドックスが起こったりしない。私たちのいる世界線は、未来の親切な私にスマホを送ってもらった世界線なので、いじわるな私が過去にスマホを送らなかった世界線とは違うのだ。だけど、全体としては過去の自分に優しく接しようと思っておいた方が、未来の私に親切にしてもらえる可能性が高くなると思う。未来から来たロボットが過去改ざんするアニメでも、「時が来たら過去にヘルプを送ろう」と念じたら、本当に未来からヘルプが来たというお話があったはず。


 過去に送るスマホとパソコンには、送ってもらったものに入っていたのと同じアプリを入れておいた。魔方陣描画アプリとかだ。他にも、ソフトとかAIモデルとかの最新版も。薫は、アプリとかソフトに手を入れているようだった。もしかしたら私たちが送ってもらったものも改良されたものだったのかもしれない。


 別に、時の流れの加速を使えば、長い時間をかけてものを改良することを一瞬でできるのだけど、こうやって、再帰的に未来から過去にものや情報を送ることでも、進化を加速させることもできる。

 例えば、未来から来たロボットの腕とCPUを元にして未来と同じ性能のロボットを現代で実現すれば、未来はもっと進化したロボットが生まれるはず。それをまた過去に送れば…。やり過ぎると抹殺されるかもしれない…。




★ユリアナ一三〇歳(薫一〇二歳)




 葵と水樹が生まれてから数十年たった。まず、お母さんとお父さんが亡くなった。最後の数十年、私はまたお母さんとお父さんの子になれてよかったと思う。


 それから葵と水樹が結婚して出産。その子供たちの髪は全員暗めだ。よく考えたら、ローゼンダールの魔力なしは灰色だけど、日本人なら黒だ。だから世代を重ねて魔力が少なくなるほど、髪が暗くなる。だけど、茶色とか黄土色くらいまではよかったんだけど、緑とか青も生まれてしまったのだ…。しかたがないので、私と同じツッコミ防止の魔道具を持たせた…。


 孫たちは属性も一つしか持っていない。魔力もだいぶ少ない。一応、クォーターなのだけど、あまり日本人離れした顔をしていない。


 そして、孫が結婚しひ孫が生まれた。相変わらずちょっと変な髪色の子がいるけど、暗めなのでそれほど目立たない。属性も一つだったりナシだったり。このまま日本人と交配していけば、魔法使いの血は絶えるだろう。それとも隔世遺伝とかあるのだろうか。



 ひ孫が生まれたということは薫もいい歳だ。薫には治療魔法の魔道具を持たせてあるので、病気で死んだりしない。転生後の記憶に影響が出ないようにするため、脳の老化停止もしてあったのでボケることもない。もともとそんなに記憶力がよくないのはさておき。


「薫…。寿命まであと一週間だよ」

「ようやくここまで来たな。転生が楽しみだ。さあ、魂を抜いてくれ」

「うん…。またね」

「またな」


 薫の死期の一週間前だ。未来視でちょくちょく調べておいたのだ。

 私は、布団に入った薫の魂を抜いた。いろいろなところの力が抜けてまるで死体のよう。日本に来たときの薫と同じだ。表向きは、ある日薫は目を覚まさなくなり、危篤状態になったということにした。


 魂だけじゃなくて記憶もコピーしておかなければならない。三十六歳までの記憶は私が持っているものと同じだ。だけど、それ以降の私とのドキドキ生活の記憶を覗くのはちょっと忍びない。だから、私にコピーしないで、直接転生先の身体にコピーする。そして、その転生先の身体は、ずっと取っておいた古いルシエラの身体だ!リサイクルだよ!


 まず、古いルシエラの記憶を消去。そして、魂を抜いた薫から記憶を抜き出して、古いルシエラにコピー。これで記憶はOK。あとはローゼンダールに帰ってからやろう。



 薫は四十九歳という高齢で子をもったというのに、なんだかんだいって、一〇二歳まで生きて、ひ孫のツラを拝んでから亡くなった。


 薫が一〇二歳ということは、私とルシエラも戸籍上八十なのだけど、私たちは六〇年くらいじゃ身長一センチも成長しない。どうやったって八十歳には見えないのだけど、それは銀髪とかと同じで、いつまでも若いことに疑問を持たないようにしてある。それに、歌手もアニソン歌手も五十歳で引退して、魔法の効かないテレビやインターネットからも姿を消した。



 子孫やその配偶者たちには、もちろん私とルシエラが異世界人だと伝えてある。そして、薫の死と同時に異世界に帰ることも伝えてある。


「「ユリアナ母さん、ルシエラ母さん…」」


 私は水樹の母親じゃないし、ルシエラは葵の母親じゃないけど、ずっと両方が母親としてすごしてきた。否。ルシエラはまったく母親らしくないので、私だけが二人の母親だった。


「心配しなくても、二人の寿命が尽きる少し前に迎えに来るよ」


 薫と同じように、寿命をまっとうしたら異世界に連れていく約束をしている。


「「「「「おばあちゃん…」」」」」

「「「「「ひいおばちゃん…」」」」」

「あなたたちもね」


 日本でもネズミ講のように増えている孫とひ孫。この子たちも異世界行きの予定だ…。


「それじゃ何十年か後にね」

「達者での」


「「「「「またねー!」」」」」


「ふんふん……♪」「ららら……♪」


 私とルシエラは世界をまたぐ魔法を使った…。と見せかけて、口ずさんだのは変ニ長調のメロディだけ。つまり、世界をまたいだのではなくて、未来にタイムスリップしただけだ。葵の寿命が尽きたときへ。


 まず、葵の心臓が止まる前に、葵の魂を回収して、異次元収納に入れて時間を止めておく。これをやっておかないと、葵の魂はどこかに消え去ってしまう。輪廻転生するのかな。


 次はタイミングが大事だ。葵が火葬場に入れられたら、私は自分を加速させ、火が付けられる前にワープゲートで火葬場に入って葵の遺体を回収。葵の遺体も異次元収納に入れて時間を止めておく。


 葵の骨が残らないと不自然なので、かわりに魔物の骨を形が分からない程度に砕いて置いておく。葬式嬢スタッフに「これは○○の骨です」と言われて骨を受け取り骨壺に収めたりするけど、それができなくなることはあらかじめ、葬式に参加している葵の奥さんや子供たちに言ってある。


 あとは、ローゼンダールに帰ってからの作業だ。この作業を、水樹と孫、ひ孫にもやる。ついでに、それらの配偶者にも…。子供が魔法を使える都合上、パートナーにも事情を話してあるから。

 配偶者は普通の日本人なので魔法を使えない。それに、ひ孫の代には魔法を持ってない子もいて、やっかみが酷かった。だから、ローゼンダールに行ったら魔力持ちの身体に転生させてあげると約束している。魔力なしの子は日本での身体に未練はないみたいなのだけど、記憶を入れていく器が必要なので、結局遺体を火葬場から回収。


 そして、時代が前後してしまうのだけど、思いつきで翼も回収していくことにした。翼には、私たちが異世界人であることを告げていない。でも亡くなるまで私たちのファンでいてくれた。翼は結婚しなかったのだ。なんというか、私に恋をしていたような…。だから、ローゼンダールに連れていくことにしたのだ。


 子宮の年齢をこっそり若返らせたのだけど、使われることはなかった…。それよりも、いつまでも閉経しないとぼやいていた…。女性にとって閉経とは生理から解放されてハッピーなのか、それとも女性の特徴を一つ失ってブルーなのか、そのあたりのことを操作し放題の私には分からない。だけど翼にとっては後者だったようだ。翼には魔法の存在を教えていなかったので、魔道パンツをあげられなかった。苦しみを延長しただけだったのならごめん…。


 というわけで、魔力持ちの子十人の身体と魂、記憶を火葬場から回収したり、魔力なしの子供四人と配偶者十四人、それから翼の魂と記憶を回収した。全部で二十九人だよ。めんどくさ…。

 ひ孫以降の代は誰も魔力を持っていないようなので、私が異世界出身であることも告げてない。だから非回収だ。ちょっと美女、美男なだけだ。髪の色も黒だ。




★ユリアナ一三〇歳(マレリナ六十四歳)




 ようやく全員の回収が終わり、私とルシエラはキーボードと鼻歌で変ニ長調と変ト長調と変イ長調の気持ち悪い合成魔法を永遠と演奏して、日本から姿を消した。疲れた…。


「あら、ユリアーナ様、魔法は失敗しましたの?」(スヴェトラーナ)

「やっぱり私も連れていってくれるのかしら」(アナスタシア)

「どうしたんだい?」(ブリギッテ)

「私と別れるのが寂しいんだね」(マリア)

「ユリアちゃんでも失敗するんですね」(セラフィーマ)

「帰ってきてくれた…」(マレリナ)


 懐かしい声…。っていっても、出発したのはつい二十四日くらい前のことのように覚えているけどね。


「ただいま」

「戻ったぞ」


 私とルシエラは、出発した一秒後の、出発地点の一メートル隣に戻ってきた。私とルシエラ六十六年の時を過ごしたけど、お嫁さんたちにとっては一秒だ。私とルシエラは六十六年すごしたからといっても、人間の二十四日分しか身長は成長しない。誤差レベルだ。だけど、身長とは裏腹、体つきの方は成長が少し早いみたいで…、


「ユリアーナ!なんか少し胸が大きくなってない?ずるいよ!」

「異世界に行くって魔法は、胸を大きくする魔法だったのかしら?」

「そ、それは…」


 初出産の時に私と同じくらいに豊胸したマリアちゃんとアナスタシア。だけど、私の胸が大きくなってしまったので、二人はおかんむりだ。薫の子を妊娠したときにも少し大きくなっていたみたいだ。


「ルシエラ様のおぐしはどうなさいましたの?」

「本当ね。綺麗だったのに」


「おお、そうじゃったの。ららら~…♪」


 ルシエラは髪が命魔法のすぐに長く成長するを口ずさんだ。すると、腰の長さだった髪が足もとまで伸びた。髪も身体の一部か…。髪を売る商売ってアリかな…。


「それに、この可愛い服はなんですの?」

「えっと…」

「脱いでくださいまし!」

「えっ…」


 日本で買った服を着てきたら、スヴェトラーナに引っぺがされた…。私は今まで記憶の限り地球の服のデザインを思い出して、この世界のドレスのデザインに反映してきたけど、専門家ではないし女の子のおしゃれには疎かったので、私のもたらしたものはほんの片隅。だから、日本で買った服は斬新だったらしい。それに、六十六年もたてば流行も変わるし。今の私の感覚はつい二十四日前のことに感じるけど、薫だったころの感覚でいえば、一九六〇年代のアイドルの服装がダッサいみたいな感覚だろうか。


 結局、私とルシエラは大魔法を行使して疲れているというのに、二人の胸を私と同じ体積にすることで勘弁してもらった。私たちの異世界行きは、ただの豊胸魔法だと思われてしまった。まあ、私たちの少し大きくなった胸には六十六年分の思い出が詰まっている。それを事細かにお嫁さんたちに話す必要もないだろう。


 それに、スヴェトラーナに服をひんむかれ、裸で放置された。ルシエラも。扱いが酷くないかな。百年の恋も冷めるというやつ?いや、私は日本で六十六年すごしたから結婚して一一四年たってるけど、スヴェトラーナたちはまだ四十八年だよね。でもこの世界の寿命は五十歳ちょっとと言われていたし、恋が冷めるのは五十年くらいなのだろうか。私としては結婚したのはつい四十一日くらい前のことに感じられるのだけど、いくら不老にしたからといってお嫁さんたちは人間なので、時の流れの感じかたが違うのだろうか。


 しかたがないので、六十六年前のドレスを着ようと思ったけど、疲れていて眠いのでネグリジェを着た。

 他にも日本で買った服はあるけど、今出すとスヴェトラーナに取られかねないし、寝かせてもらえないかもしれない。お土産は他にもいっぱいあるし、とりあえず今日のところはお休み…。




★★★★★★

★?????



 知らない天井?真っ白だ。いや、目がぼやけていてよく分からない。


「おぬしはわらわの古い身体をこき使うのぉ」

「おかえり、薫」


 ルシエラとユリアナの声だ。だけど、日本語じゃない。英語でもない。でも知ってる言語だ。理解できる。ルシエラはこの言語でも()()()キャラだ。


「あば?」


 オレは返事をしようとした。だけど、口がうまく動かない。それに出てきたのはじじーの声じゃなくて、とても甲高いアニメ声だ。そう、ユリアナよりも可愛い声。

 そうだ!オレはユリアナに魂を抜いてもらったはず。オレはもう一〇二歳だから、手足を動かすのもおっくうだったけど、今は頑張っても手足どころか首も動かない。これはきっと新しい身体だ!ルシエラの前世の身体を若返らせて、オレの依り代にしてくれると言っていた。アニメ声の女の子だ!ひゃっほう!


「ユリアーナ様、いつの間に子を産みましたの?」


 色っぽい声が聞こえる。初めて聞く言語だけど、やっぱり理解できる。言語知識も入れておいてくれるって言ってたしな。


 なんとか首を動かして振り向くと…、ぼやけててよく分からないけど、どぎついマゼンダの…髪なんだろうか…。とてもボリュームがある…。たぶんツインドリルだ…。それに、胸元は肌色のとんでもない大きさの二つの球体がある。これは胸に違いない。ぼやけててもわかる。

 オレの魂が新しい依り代にあるってことは、ここはもうファンタジー世界だ。どぎついマゼンダ髪で爆乳の色っぽい声をしたお姉さんのいるファンタジー世界なんだ。


「その子って、ルシエラ様の生まれ変わりと同じ顔をしているわ」


 今度は青紫髪の幼い女の子の声だ。オレはルシエラと同じ顔なんだな!うんうん。


「でも今回は魂が入っているんだよね」


 今度は反対側から声が聞こえた。頑張って振り向くと、オレンジ髪で爆乳のお姉さん。


「そ、そうなのよ。薫っていうのよ。よろしくね」


 ユリアナの声だ。銀色の髪。言葉は違うけどユリアナだって分かる。オレのことを薫って紹介してくれている。


「キャロルだね!可愛い!」


 桜色の髪の子が…何て言った?キャロル?薫を聞き間違えた?いや、日本人の名前を外国人に紹介するときってたいていそんなもんだよな。


「キャ……」


 白い髪のお姉さんは、キャとだけ言って固まっている。発音が難しいのだろうか。最初から合ってないけどね。


「みんなで育てようね」


 別の白い髪のお姉さんは、オレに優しく微笑んでくれた。


「あ…、いや…、キャロルじゃなくてかおる…」


 ユリアナが正しい発音を教えようとしているけど、みんなは聞く耳持たない。オレはお姉さんたちに抱き上げられたりしてまるでおもちゃだ。でも悪い気はしない。みんなが可愛いって言ってくれる。オレは可愛くてアニメ声の女の子になれたんだ!




★★★★★★

★?????




 知らない天井だ。いや、目はぼやけていてよく見えない。

 薫お兄ちゃんが逝ってしまってから目も耳もすっかり悪くなってしまった。大好きなアナ・エラの曲がよく聞こえないのは悲しい。いろいろ衰えているのに、意識だけははっきりしてる。老人ホームに入って何十年もたつけど、ボケてないのは私だけだ。


 私も一〇〇歳を超えてから八年になる。もうそろそろお迎えかな。なんせ、手も足も動かない。明日は目覚めないかもしれない。


「ちゅばしゃ」


 小さい子が私を呼んでいる。とても高くて可愛いアニメ声。ぼやけててよく見えないけど、銀の髪…ユリアナかな。ルシエラかな。天使のような二人にお迎えに来てもらえるなんて私は幸せだね。

 でもなんだか少し小さいような。二人よりも高くて可愛い声があるなんて信じられない。


 私は嬉しくなって「ルシエラ」と言おうとした。


「ばーぶー」


 あれ?口が変…。声は…、可愛い!私の声?どういうこと?


「この子の名前は?」


 日本語じゃない。英語でもない。でも分かる。

 声のする方を向こうとしたけど、首がよく動かない。もう一〇八歳だし、ずいぶん長い間寝たきりだったからか。

 なんとか力を振り絞って振り向くと、そこには青紫の…髪?コスプレ会場?この子も幼い声をしている。

 ついにボケたかな…。老人ホームで私だけはずっとボケなかったのに…。


「翼よ」


 声の主はユリアナっぽい。銀の髪の子だ。でも、翼と言ったのは分かるけど、語尾が日本語じゃない。でも意味は分かる。女の子の口調だ。


「トゥヴァーシャね!可愛いわね!」


 トゥヴァーシャ?翼を英語っぽく言ったらそんな感じ?この、初めて聞いたのに理解できる言葉で発音すると、それが妥当かな…。


「抱かせて」

「ええ」


 青紫のカツラの子が私の首と背中に手を入れる。介護ヘルパーだろうか。青紫髪の介護ヘルパーは、私のをひょいと抱き上げた。幼い女の子の声をしていたけど、大丈夫かな…。それとも私はいつのまにか老いて、幼い女の子にひょいと持ち上げられるほど痩せ細ってしまった?


「うふふ。キャロルにそっくりね」

「オレの妹だからね」


 キャロル?いつもより幼いユリアナの声をしているのはキャロル?

 それに、オレって違う言語だけど、ちょっと悪ぶってる男の一人称だよね?やっぱりユリアナでもルシエラでもないのかな。それに、私がそのオレ様の妹?キャロル…きゃおる…かおる?まさかね。


 このとき私はお兄ちゃんと二人で、大好きだったアナ・エラになってユニットを組むなんて想像もしていなかった。

■ユリアナ(六十四~一三〇歳)

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。身長一四〇センチ。


■ルシエラ(ユリアナ-四十八歳)

 前世はユリアナの産みの親。今世はユリアナの娘。

 地面に擦りそうな長さのキラッキラの銀髪。身長一四〇センチ。


■真北薫(三十六歳)

 ユリアナの前世。冴えない独身サラリーマンだったが、魔法で美男子に変えてもらった。


■真北葵(ユリアナ-七十七歳)

 薫とユリアナの息子。


■真北水樹(ユリアナ-七十七歳)

 薫とルシエラの娘。


■真北翼(薫-四歳)

 薫の妹。


■薫の父、母


■葵の子

 瑠衣(♂)、優奈(♀)。名前未登場。


■水樹の子

 怜央(♂)、愛奈(♀)。名前未登場。


■葵の孫、水樹の孫

 男女四人ずつ。計八人。


■葵・水樹の配偶者、葵と水樹の子・孫の配偶者

 計十四人。


■キャロル(〇歳)

 ルシエラの転生前の身体に宿った薫


■トゥヴァーシャ(キャロル-一歳)

 ルシエラの産んだよりしろに宿った翼


■マレリナ(ユリアナ-六十六歳)

■アナスタシア(ユリアナ-六十六歳)

■マリア(ユリアナ-六十六歳)

■スヴェトラーナ(ユリアナ-六十六歳)

■セラフィーマ(ユリアナ-六十六歳)

■ブリギッテ(ユリアナ-四十六歳)

 ユリアナは地球に行って六十六年すごして、出発してから一秒後のローゼンダールに帰ってきた。

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