15 孫娘たちの時代
★転生二十五年目、娘たちの学園六年生、卒業、結婚
★転生二十六年目、ユリアナ三十二歳、娘十六歳、孫娘誕生
★転生二十九年目、孫娘の教会一年生
★転生三十六年目、孫娘十歳
★転生四十二年目、ユリアナ四十八歳、娘三十二歳、孫娘十六歳、ひ孫誕生
★転生五十八年目、ユリアナ六十四歳、娘四十八歳、孫娘三十二歳、ひ孫十六歳、玄孫誕生
★ユリアナ三十一歳(アンジェリーナ十五歳)
さらに時は過ぎて、娘たちももう六年生。
私がヘンストリッジに出した条件は、エルフに対する国民全員の意識の改革と、ヘンストリッジの合法的な産業の一つであるエルフ奴隷制度を潰すというものなので、数年で実現するようなものではない。「前向きに検討する」という手紙のあと進展がないのだ。
それなのに、ブラッドフォードはアンジェリーナを嫁として連れ帰りたいのは変わっていないようだ。こちらも何も進展のないまま学園卒業が近づきつつある。
一方で、西のヘンストリッジがもたもたしている間に東のヴェンカトラマン王国からコンタクトがあった。もちろん、発魔器をはじめとする便利な魔道具と魔法の知識が目当てだ。
ヴェンカトラマンからは王子が留学してきたわけではなく、娘を嫁がせるとかいう話もない。それに、ヴェンカトラマンでのエルフの扱いは、以前のローゼンダールと同じ感じだった。珍しがってときどきさらわれたりするし、ときどき差別意識を持っている者がいるけど、ほとんどの者はエルフに対して友好的だ。
そして、ヴェンカトラマンの東側にも海があるようで、見返りとして海の幸を要求した。そんなわけで、ヴェンカトラマンとの交渉はトントン拍子で進んだ。
こうして、私は発魔器や魔道具、魔法の楽譜や魔道具の設計図をヴェンカトラマンに提供し、海の幸を手に入れた。ちなみに発魔器の設計図は含まれていない。
ヴェンカトラマンの王都とマシャレッリ領をワープゲートで結ぶことになった。ワープゲートを使って、マシャレッリから発魔器と魔道具を輸出している。
一方で、ヴェンカトラマンも海の魔物の安定した漁を行っているわけではないので、私は海を一部もらうこととなった。
マシャレッリの郊外の地下に大きな洞窟を作って、ヴェンカトラマンの海とワープゲートで結んだ。海の魔物は、自分より小さな魔物か海藻を食べているようだ。海の魔物と海藻の関係は、陸の魔物と果物の関係に似ている。海の魔物を閉じ込めておいても海藻さえ一緒に置いておけば、サークルオブライフしてくれる。だけど、ワープゲートは置き網のようになっていて、海水やプランクトンはもちろん、稚魚も出入りする。
洞窟の海には、スタンガンの魔道具が設置されており、海の魔物を安全に捕獲できる。私は地球の魚もあまり知らないし、多くの魚の魔物は三メートル以上あるので、魚の魔物が地球の何の魚に該当するのか、片っ端から捕まえて味を調べている状況だ。これはマグロっぽいとかサケっぽいとか…。
三メートルのエビとかカニとかは、まさに魔物だ。巨大な虫と同じでグロテスクだけど、食べてみれば地球のエビ・カニとおよそ同じだった。
あとは、わかめ、昆布、海苔などの海草。私としてはむしろこっちが本命だったり。米はもともと見つけてあったので、これでだいぶ和食っぽいものが作れるようになった。ワープゲートと冷凍庫もあるから、全国に魚介類を提供できるようになった。魚介類は新鮮さがいちばん。時間停止の冷蔵庫は一般開放されてないけど、殺菌と脱酸素効果があるし、全国どこでも一瞬で輸送できるので、地球よりも新鮮な魚介類にありつけるのだ。
マシャレッリ領は新しい食の発祥地として、断固たる地位を築いている。
ヴェンカトラマンから海の幸を取り入れたので、私はヘンストリッジには用がなくなってしまった。
そこでヘンストリッジに目を付けたのがフョードロヴナだ。フョードロヴナはマシャレッリのマネをして、ヴェンカトラマンから海の幸を取り入れたかったのだけど、ヴェンカトラマンはすでにマシャレッリから魔道具の供給を受けているので、フョードロヴナと組む利点がなかった。
フョードロヴナはヘンストリッジと組むことにした。私がブラッドフォードに突きつけた奴隷エルフの解放を抜きにして、フョードロヴナとヘンストリッジの第二王子派が組んでしまった。フョードロヴナの爆乳娘をヘンストリッジの第二王子に嫁がせて、ヘンストリッジの王女をフョードロヴナにもらうらしい。
フョードロヴナは独自に自領の郊外の地下洞窟とヘンストリッジの海を結ぶワープゲートを設置。また、ヘンストリッジの王都ともワープゲートでつないだ。単独で交易を始めることとなった。もちろんローゼンダール王家の許可は得ている。
ヘンストリッジの海で採れるものはヴェンカトラマンの海とは少し違うみたいで、フョードロヴナの商業管轄であるローゼンダール北側と、マシャレッリの商業管轄であるローゼンダール南側では、異なる海の幸が楽しめるようになった。
ブラッドフォードが私やアンジェリーナに興味を持ったりしなければ、ヘンストリッジのエルフ事情なんて知らずに取引してたんだけどね…。おかげで、ブラッドフォード第一王子派の勢力は弱まってしまったらしい。魔法の知識を真っ先に得るために留学してきたのに、実際には楽譜があれば知識を得ることができてしまうので、留学の意味が薄れてしまった。ブラッドフォードはローゼンダールの要人を娶り、ヘンストリッジでの地位を断固たるものにすることで王位を揺るがないものにしようとしていたが、その策は第二王子に奪われてしまったようだ。
ヴィアチェスラフに触られて気持ち悪いと思ってしまった私と違って、アンジェリーナはブラッドフォードのことを気持ち悪いとか思ったりしないようだ。だからといって、エルフが男を好きになることはやはりないようだ。ブラッドフォード、いいとこナシ。でも、私はそんなところまでフォローする気はない。
とはいえ、クラスにはブラッドフォードを慕う子が二人いる。ブラッドフォードは二人の子を本国にお持ち帰るみたいだ。本命のアンジェリーナをお持ち帰れないのはしかたがない。ヘンストリッジではエルフは奴隷なのだから。
だけど、お持ち帰る二人はローゼンダールの技術の要ではないので、二人を正室にする意味はあまりないだろう。だからといって、あまりないがしろにしないようにしていただきたい。
ヴェンカトラマンとは別に、北西のウッドヴィル王国と北東のアバークロンビー王国とも交流が始まった。そこで、マシャレッリ家は王命を受けることとなった。ウッドヴィルとアバークロンビーとの同盟強化のために、娘を差し出せと…。ジェフスカーヤ以外の私が王家に授けた子はどうした?あれも王女だろうに。いやコンスタンチンの腹違いの姉妹という立派な王女が馬鹿みたいな数いるはずなんだけど…。だけど公式には存在しないことになっているので、どっちもダメなんだって…。
「そういうことなんだけど、ジェフスカーヤのように子を産める身体になっている娘はキミのところにいないかい?」
「はぁ…」
私はヴィアチェスラフ王に、王城の応接間に呼び出された。こんなデリカシーのないことを言うなんて…。昔から結婚観についてはおかしいと思っていたけど、やっぱり女性を子を産む道具としか思ってないようだ。まあ、王妃というのは政務と出産が仕事なんだよな…。
「ほら、アレクサンドラといったか。スヴェトラーナの娘だろ。ジェフスカーヤの又従姉妹にあたるんだよね。あの家系は子を産めるようになるのが早いみたいだからさ」
やっぱりそうなんだ。本当は、娘を政治の道具に差し出したくなんかないけど、ウソをつくわけにはいかない。
「はい…。アレクサンドラは子を産めるようになっております…」
「そうか。よかったよ。もう一人いないかな。あの、少し発育の良い子…」
「アンジェリーナですね。ええ。来ておりますよ」
「なら、その二人をウッドヴィルとアバークロンビーへの嫁としてほしい」
「仰せのままに……」
「今や異国でも好きなときに一瞬で行ける時代じゃないか。キミがそうしてくれたのだ。寂しいときにはいつでも会えるように約束すればよいさ」
「そうですね」
「それに、キミには魔法を広める使命があるのだろ。娘たちは魔法の伝道師なのだろう」
「そのとおりでございます」
「なら都合がいいだろう」
「はい…。ですが、こういう役目は本来、王家の娘が担うものです。今後はジェフスカーヤ王女以外にも表に出せる王子や王女を用意すべきかと存じます。もちろん、丁度良い年頃の王子や王女がいない場合は、公爵家や筆頭侯爵家がその役目を担えばよいですが」
「そうだね。今まで外交をしてこなかったから、十歳になる前に王子を決めてしまうことや、娘を表に出さないことがあだとなっているね。コンスタンチンとジェフスカーヤの子はすべて、公式の王子・王女として扱うようにするよ」
「よろしくお願いしますね」
こうして、アレクサンドラはウッドヴィルに、アンジェリーナはアバークロンビーに嫁ぐことが決まった。アレクサンドラを慕っている五人とアンジェリーナを慕っている四人を、それぞれの国に側室として連れていく許可を得た。王妃が側室を持つなどわけがわからない。その代わり、エルフは男と子をなすことができるものの、男を愛さないという性質を飲んでもらった。基本的に発魔器を提供するこちら側が優位だし、愛のない政略結婚というのはごく普通のことなので。
私はアレクサンドラとアンジェリーナを執務室に呼び出して話をした。
「わたくし、クラスの五人の子を連れていけるのなら、男性と交わることに問題はありませんわ」
「アレクサンドラ…」
真面目な子だ。私より魔法を広める使命に忠実なのではなかろうか。
「私もクラスの子四人を連れていって、アバークロンビーの女の子をたくさんお嫁さんにしたいわぁっ」
「たくさん…」
アンジェリーナはただエッチしたいだけな気がする…。まあ、それが魔法を広める手段なので、本能なんだろうけど…。
「それじゃあ、二人とも他国で魔法と音楽を広めてきてね…」
「はいっ!」「ええっ!」
私は魔法を広めなければならないと思っているわけではない。私がアニソン歌手になりたいので、音楽を広めているのだけど、魔法を広めると音楽を広めやすいから魔法を広めているにすぎない。だけど、私が歌や食文化を広めることが魔法を広めることに繋がっているのは、もしかしたら神が仕組んだことなのかもしれない。
こうして緩やかに時は過ぎ、娘たちの学園生活の終わりの時がやってきた。
「アンジェリーナ嬢…」
「ブラッドフォード王子殿下、お元気でぇ~っ」
卒業式の後、ブラッドフォードはアンジェリーナを呼び止めた。愛する人との別れが惜しいブラッドフォード。木剣で自分を打ち付けるキミの笑顔が好きだった。などと考えているに違いない。
一方、アンジェリーナはいつもどおりのおっとりとした口調で、ブラッドフォードに別れを告げた。仮にブラッドフォードが女だったら、アンジェリーナから別れを惜しむ言葉がでただろう。でもアンジェリーナはブラッドフォードのことを友人どころか、おもちゃくらいにしか思っていないかもしれない。
本当はマシャレッリの正当なる血を引いているアンジェリーナか、公爵家を立ててアレクサンドラに爵位を継ごうと思っていた。だけど、どちらも売りに出してしまった…。っていうか、マシャレッリの血を本家から絶やしてしまったのだけど、セルーゲイは気にしていないようだ。どこぞの馬の骨を王家に嫁がせるような国なので、血統とかいう概念がないのかな。いや、あるよね。
残りの娘でいちばんしっかりしているのはソフィアだ。マレリナと一緒で責任感が強くて真面目だ。っていうか、私より領地の長に向いているだろう。
私とソフィアは社交界で壇上に立ち、ソフィアに爵位を譲ることを宣言した。そして、その足で王城に赴いて、爵位を譲る許可をヴィアチェスラフ王から得た。エルフは長寿命だから、人間と同じ周期で世代交代する必要はないのだけど。っていうか私が引退したいのだ。
私は王都邸に戻って、娘たちとお嫁さんたち、そして、タチアーナとセルーゲイ、エッツィオくん集めた。
ちなみに、妾の子扱いのレティシアは呼んでいない。あくまでマシャレッリ家に名を連ねたことのある者とこれから名を連ねる者だけだ。ディミトルも呼んでいない。
「これからのマシャレッリをソフィアに任せます」
「しっかりするのよ」
「はい、ユリアーナお母様、マレリーナお母様」
ソフィアは真面目でしっかりしている。ソフィアに任せれば大丈夫だろう。
「フィオナ、マルグリッテ、ラティアは、ソフィアを支えてください」
「「「はーい」」」
この三人はしっかりしていない。フィオナはただの六歳の幼女だし、マルグリッテはチャラ男…じゃなかった、チャラ子だし、ラティアは研究バカだし…。この三人には、教会の音楽教師や研究者くらいしか期待していない…。
「伴侶となったあなた方も、マシャレッリを盛り上げてくださいね」
「「「「「はい!」」」」」
でも、ソフィアの嫁三人はソフィアの影響を受けて、けっこうしっかりしている。それに、フィオナの嫁二人はお母さんっぽいキャラで、仕事もできそうだ。マルグリッテの嫁三人はエッチしたいだけみたいなのでダメそう…。ラティアの嫁一人も、ラティアと意気投合した魔道具オタクなので、これもダメそう。
ちなみに、ソフィアの嫁は、アンドレア・ベンシェトリ伯爵令嬢、ジェニファー・シェブリエ侯爵令嬢、アストリーナ・シェルトン子爵令嬢。
フィオナの嫁は、カーシャ・フェッティ子爵令嬢、シーラ・コロボフ子爵令嬢。
マルグリッテの嫁は、フランカ・アルヴィナ男爵令嬢、ヘルミーナ・スポレティーニ子爵令嬢、ジルフィア・ジェルミーニ男爵令嬢。
ラティアの嫁は、ヴェラ・シェルトン子爵令嬢。
ちなみに、すでに家名がかぶっていたりするのは、もちろん養女だからだ。
「ソフィアぁ、手伝ってあげられなくてごめんなさいねぇ~」
「わたくしたちは他国で魔法と音楽を広めるために邁進しますので、ソフィアもしっかりするのですよ」
「ええ。アンジェリーナ、アレクサンドラ。あなたたち、アンジェリーナを支えてあげてね。あなたたちはアレクサンドラをね」
「「「「はーい」」」」
アンジェリーナの嫁四人は、アンジェリーナと同じようなノリなのでちょっと不安だ…。
「「「「「はい!」」」」」
アレクサンドラの嫁五人は、しっかりしていそうだ。
ちなみに、アンジェリーナの嫁は、ポリーナ・ルブラン男爵令嬢、ジュゼッピーナ・バトカス子爵令嬢、カトリーナ・ジェルミーニ男爵令嬢、フランチェスカ・コロボフ子爵令嬢。
アレクサンドラの嫁は、アマーリエ・ベルヌッチ伯爵令嬢、ルクレツィア・トライオン伯爵令嬢、ザビーネ・マラカルネ侯爵令嬢、クラウディア・フェッティ子爵令嬢、クレメンティア・ベンシェトリ伯爵令嬢。
もう、ローゼンダールのほとんどの貴族家と婚姻を結んでしまった。この国は派閥とかなくて平和だなぁ。ああ、王子が一人しかいないからか。というか、王家もこうやってすべての貴族家と婚姻を結んでいるから、互いに反発したりしないようになっているのか。なるほど、王家の多すぎる嫁ドラフト制度にも利点はあったのだね…。
ちなみに、ディミトルは必至に社交界に通って、バトカス子爵家のお姉さんをお持ち帰っていた。ディミトルは「元マシャレッリ家」ですらないので、必至に先代のマシャレッリ侯爵の息子であることをアピールして、己の価値を示していた。もちろん、マシャレッリの教会で学んでいるから、学問や魔法は完璧だったのだ。
娘の嫁たちは標準身長で標準体形なので、間もなく十六歳となる今はおよそ大人に見える。だけど、娘たちはまだほとんど十歳だ。いや、アレクサンドラは十歳になるまでに十一歳くらいに成長していた。
アンジェリーナも私より少しだけ背が高かった。それにハイエルフとはいえ六年たてば人間の三ヶ月相当には身長が成長している。
ソフィア、ラティア、マルグリッテも私より少し背が高くなった。六歳くらいの身長からまったく大きくなってないのはフィオナだけだ。アナスタシアよりも小さい。
娘たちの身長はともかく体つきは実年齢相当だ。ソフィア、ラティア、マルグリッテはおそらくハイエルフの標準体型なのだろう。十歳くらいの華奢な身体に十六歳の胸とお尻が付いている。というか、私とほとんど同じ体型をしている。
アンジェリーナは標準より少し発育が良いのだろうか。胸も大きい。
アレクサンドラは、スヴェトラーナとほぼ同じ爆乳に成長してしまった。これはハイエルフの成人サイズだ。あと一五〇年成長するというのに今からこんな大きさになってしまってどうするのだろう。大人のスヴェトラーナでも持て余す大きさの胸が十一歳の身体に付いている。だけど、アレクサンドラは身体能力が高いので、大きくて邪魔なのはともかく、重くて振り回されるということはないようだ。
リュドミラとかハイドラもそうだけど、大きすぎる胸を持て余さないで軽々と動いている様は可愛くない!女性というのは長い髪がかからないように手で押さえているその仕草が美しい。コルセットを締め付けすぎて気絶してしまう姿に庇護欲をそそられる。高すぎるハイヒールで足下がおぼつかない様が可愛い。美を追究しすぎて日常生活が不憫な女性をエスコートするのが男としての喜びだ。それなのに、胸が大きすぎても困っていないアレクサンドラは可愛くない!
はぁ…。アレクサンドラ…。ウッドヴィルに行っても元気でね…。あまり強がって、向こうの王子に嫌われないようにね…。
フィオナの体形は豊胸前のマリアちゃんと同じくらいだ。ほんのり胸が膨らんでいる。六歳にしては発育が良いという感じだけど、実際には十六歳間近だ。だけど、フィオナはマリアちゃんと違って精神年齢も六歳のままなので、体形にコンプレックスを持っていない。
私は十八歳くらいにピタッと成長が止まってしまったけど、ハイエルフはどうなのだろう。
レティシアも私の体形に似てきた。十六歳と十八歳では体つきに人間の二年分の差がある。マザーエルフとマザーエルフの子はマザーエルフなのだろう。
ルシエラは私と同じ顔をしているけど、レティシアは二卵性双生児といった感じなので一応顔で区別はできる。
「アンジェリーナ、元気でね」
「アナスタシアお母様も身体に気をつけてねぇ~」
「アレクサンドラ、しっかりとお勤めを果たすのですよ」
「はい、スヴェトラーナお母様」
アンジェリーナ夫婦とアレクサンドラ夫婦を、それぞれの国を結んだワープゲートで送り出した。
そして、マシャレッリ家では盛大な合同結婚式が行われた。
マシャレッリ家の屋敷を、ソフィア夫婦、フィオナ夫婦、マルグリッテ夫婦、フィオナ夫婦に譲った。
私とお嫁さんたちは新しく屋敷を建てて移り住んだ。レティシアは嫁を取ってないので、私たちの屋敷に移り住んだ。
ディミトルには小さいけどそれなりに立派な屋敷を建ててあげた。
タチアーナとセルーゲイにも小さくて立派な屋敷を建てた。
エッツィオくんにはもともと立派な屋敷を与えてある。
今までは、本家の跡取りとならなかった兄弟姉妹は平民落ちするのが当たり前だった。今でも平民落ちなのは変わりないが、商業収入があるので分家にも立派な家を与えられるようになっているのだ。
ちなみに、屋敷どうしをワープゲートで繋いであるけど常時開放ではない。それに、各屋敷の寝室は蜘蛛の糸で作った壁紙を分厚くして防音効果を高めてある。ベッドのきしみ音を聞くのはこりごりだ。
結婚式のあと、それぞれの屋敷に帰った。娘たちがベッドをきしませる音が聞こえたりはしない。と安心したのもつかの間…、
「ユリアーナ!子供ちょうだい!」(マリア)
「待ってたのよ」(アナスタシア)
「逃がしませんわ!」(スヴェトラーナ)
「約束の時が来たよ」(ブリギッテ)
「ユリアちゃんのもらいます!」(セラフィーマ)
「もう一人欲しい…」(マレリナ)
「アッー!」
私のブレスレットとアンクレットをかってに外していくお嫁さんたち。私はみなぎってきた!ベッドをきしませるのは私だった!
翌朝…。あられもない格好をしたお嫁さんたち…。あれ…、
「レティシア…?」
そういえばレティシアは私たちの屋敷に付いてきたんだった。昨夜は見なかったのに、いつの間に…。
「ああ、わらわももらったぞ」
「もう来てるの?」
「もちろん、子宮の成長を二〇〇〇年進めたぞ」
「えっ…」
約八十三年周期のルシエラの生理を早めたのだから、レティシアの初潮を二〇〇〇年早められない道理はない。
「あと…、この子誰だっけ…」
アンジェリーナに似てるけど赤い髪…。しかも爆乳…。アンジェリーナよりはだいぶ背が高い。マレリナと同じくらいか。
「ん、ん~…。おはよ~ぅ、ユリアーナ」
「お、おはよう…」
「昨日はありがと~ぅ。ユリアーナって激しいのねぇ!私、この子、大事にするわぁ~」
「えっ…」
口調もアンジェリーナに似てるんだけど、この十七歳風の口調は…。
赤い髪で背の高いアンジェリーナは、ドレスを着て、
「それじゃまたね~」
「うん…」
部屋から出ていった。ってドレスを着てやっと分かったけど、タチアーナじゃん!
「ん、ん~…。今、お母様の声がしたような…」
アナスタシアが目を覚ました。
「えっ…、そ、そうね…」
「うむ。今し方、大奥様は出ていったぞ」
「あらそうなの?イヤね…。こんな格好をしてる私たちの部屋に無断で入るなんて…。っていうか、レティシアちゃん…」
「わらわももらったのだ」
「いつの間に…。まあいいわ。ユリアーナを独り占めできないのは分かっているもの」
っていうか、私、タチアーナに…。どうしよう…。
ちなみに、ベッドにはルシエラもいたのだけど、今回ルシエラはエッチしたかっただけで、子宮年齢を進めていないらしい。ルシエラの次の子は第三子になってしまうので、魔力と属性数が五〇パーセントだ。それでも、普通のハイエルフ並みだと思うんだけど、まあそれよりレティシアが子を産んだらどうなるか実験したかったようだ。
妊娠がはっきりするまでお嫁さんたちとは毎日エッチした。だけど、ルシエラは次の生理まで数十年あるので、他のお嫁さんが妊娠しても構わずエッチし放題だ…。
ちなみに、私たちのことはさておき、娘たちもそれぞれ、嫁に子を授けたようだ。初夜の翌日にはブレスレットを外していた。
アンジェリーナとアレクサンドラも、電話で妊娠したと連絡があった。本人と嫁が。二人はそれぞれアバークロンビーとウッドヴィルに到着して翌日に結婚式を挙げて王子と初夜を過ごした。そして、その次の日にアンジェリーナとアレクサンドラが連れていった嫁に子を授けたらしい。
そしてさらに、二人は王女と数人の貴族令嬢を嫁に取り子を授けたようだ。王子の正室となったのはあくまで政略結婚であり、本命は王女と貴族令嬢だなんて、傍若無人にもほどがある。だけど、最初からそういう約束だったのだ。アバークロンビーとウッドヴィルとの同盟は、ローゼンダールにはたいした恩恵がないため、魔法を広めるというエルフの使命が最優先となった結果だ。
ところで、教会で音楽教師をしているアリアは結婚していない。耳が長くならないようにするイヤリングを付けているので、本人は自分を人間だと思っている。だけど、十歳からほぼ成長が止まっているし、他の娘たちと一緒に歌っているし、いつバレることやら…。
まあそれはさておき、アリアの成長は標準的なハイエルフのようなので、ソフィアやラティアと同じように、初潮がまだ来ていない。それに、本人は男を好きにならないので結婚する気がない。というか、一緒に歌っているフィオナやマルグリッテのことが好きだったようだ。でも相手は貴族令嬢。というか女。まあ、エルフが女と結婚することは知っているので、自分を妾にでもとか思っていたりするのだろうか…。
アリアはナタシアお母さんと十六年すごしたし、お母さんは私を途中で手放した寂しさは紛れたかな…。それに娘はいずれ家を出るもの…。だからといって、マシャレッリ家の妾にはしたくないなぁ。
ちなみに、ナタシアお母さんは着々と若返っているよ。
★ユリアナ三十二歳(ソフィア十六歳)
時は流れ翌年の秋、娘の嫁たちは出産。私に孫ができた。三十二歳で孫だよ。三十六歳で結婚もしてなかった前世とは大違いだよ。だけど、私は自分が大人である実感があまり湧かない。私はどちらかというと、六歳の少女に前世の記憶が宿ったというタイプの転生者だったためか、幼いのに大人びているという転生者の使命を全うしていない。それどころか、三十二歳になってもあまり子供気分が抜けない。まあ体つきは大人になっても身長は十歳だからかな…。エルフというのは何が実年齢相当で何が外見年齢相当なのかよく分からない。
それはさておき、私に試練が訪れた…。いや、分かってはいたんだけど…。
「ユリアーナ!どういうことだ!」
今回は私のお嫁さん以外の出産はソフィアに産婆を任せた。ワープゲートで胎盤から赤ん坊を取り上げるファンタジー出産だ。空間魔法を使えるアンジェリーナとアレクサンドラは嫁いでしまって、マシャレッリにいるのはソフィアだけだ。
私のお嫁さん以外ということは、タチアーナもソフィアに任せたのだけど、取り上げられたタチアーナの子の耳を見てセルーゲイが私たちの部屋に怒鳴り込んできた。レディの部屋なのでノックくらいしてほしい。だけどまあ、私はレディとしてではなく男としてお叱りを受けるのだ…。とはいえ、他のお嫁さんもいるんだからさ…。娘や嫁が裸だったらどうするんだよ…。そんなことも気にかけられないほど怒っているんだろう…。
「お母様に聞いてください…」
「あなたぁ、許してよぉ。私、ユリアーナの子がどうしても欲しかったのよぉ」
廊下に少し耳の長い赤ん坊を抱いたタチアーナとソフィアがやってきた。赤ん坊はアンジェリーナの小さい頃に似ている。
「だがな……」
「どさくさに紛れてユリアーナが気が付かないうちに私が押しかけて子をもらったのよぉ。ユリアーナは知らないのよぉ」
「そんなことがあるものか!」
「うふふ、本気になったユリアーナは見境ないから、ベッドに潜り込めば誰だって子をもらえるのよぉ。ねっ?」
「えっ、はい…。朝起きたらレティシアもいましたし…」
「だからユリアーナの部屋に入った人の責任よぉ。ユリアーナは悪くないのっ!」
「しかし…」
「お願いよぉ。この子も私の大事な娘なのぉ。あなたも可愛がってぇ!」
「わかった…」
「はいはい、もう生きましょぉ~」
ふぅ…、助かった…。そしてあの子も不義の子とかいわれて苛められませんように…。
ところで、魔力検査した結果、タチアーナの子は属性数六つ。十二属性の私と一属性のタチアーナの子は、第一子なら属性数六・五が期待値だけど、第四子は一・三のはずだ。おかしい…。もしかして、タチアーナを十七歳に若返らせてしまったので、十六歳でアナスタシアを生んだ後、二十二歳でエッツィオくんを生む前だから、第二子扱いになってしまったとか?これはまたとんでもないことを発見してしまったかも…。
お嫁さんたちの子の属性数は、アナスタシア、スヴェトラーナ、ブリギッテの子が七で、マレリナ、マリアちゃん、セラフィーマの子は六だった。
そして、レティシアの子の属性数は十二だった。ちゃんと魂もある。完璧なマザーエルフができあがってしまった。子宮年齢を若返らせればいくらでもマザーエルフを量産できてしまう。
娘たちがそれぞれの嫁に産ませた子の属性数は五か六だった。マシャレッリに残った娘で八属性持ちはマルグリッテだけで、あとは七だ。マルグリッテの子の属性数の期待値は四・五で他は四なのだけど、実際のところ全体的に期待値より平均値が一多い。娘の代でも孫の代でも学園で習った統計とずれている。何か別の要素が加わっているようだ。
アバークロンビーに嫁いだアンジェリーナとウッドヴィルに嫁いだアレクサンドラが連れの嫁や現地の令嬢に授けた子は五属性だった。王女は三属性持ちだったようだけど、王女の産んだ子は六属性だ。こっちは期待値より少ない。
そして、残念だったのが、二人の娘が王子から授かって産んだ子。三属性しか持っていないのだ。というか、耳が長くないのでどうやら人間なのではないかと。というか、男が生まれたらしい。
さらに、ヴィアチェスラフ前王から相談を受けたのだけど、ジェフスカーヤ女王が産んだコンスタンチン王の子は、同じく三属性持ちで耳が長くないらしい。というかこっちも男だ。
九属性持ちのジェフスカーヤが嫁に産ませた子たちの属性数は六か七だというのに。
何万年も子孫を残してきたルシエラは知らないようなのだけど、どうやらエルフが男から授かった子は人間になってしまうのではないか。言い伝えでは、エルフの子はエルフになることも人間になることもあるとのことだけど、これが人間になるケースなのかな。
そして、三属性というのは人間の最大値なのかな。属性ガチャを大人買いしてきた王族でも三属性よりも増えなかったみたいだし。
だけど、ハイエルフに関してはあまり情報がない。ハイエルフと人間の子は、ハイエルフなのか、エルフなのか。とりあえず、みんな耳が少し長いので、人間でないのは確かだけど、あとは十歳をすぎて身長の伸びがエルフレベルなのかハイエルフレベルなのか、そのときまで分からない。フィオナの子はまったく分からない可能性もあるけど…。
ところで、あまり気にしていなかったのだけど、エッツィオくんとその嫁たちも、歳を取っていない。私の娘たちの誰かが若返りの魔法をかけているのだろう。とりあえず、身内だけで使う分にはよい。
今日はお嫁さんたちとの音楽活動をしないで、マレリナだけ連れてあるところにやってきた。私たちの出身地、コロボフ子爵領の村だ。
ちなみに、マシャレッリ家とフョードロヴナ家で全国整備したワープゲートは、各領地の領都の門の外をつなぐものだ。領都と村を結ぶワープゲートの設置は、各貴族家の裁量に任されている。そして、コロボフ子爵は代々ケチでアホなので、農村と領都を結ぶことの価値に気がついていない。だから、村に行くには領都から自動車で行く必要があるのだ。
というのは一般人向けのルートであって、私は自前のワープゲートで村の外まで移動した。
私もマレリナも家族をマシャレッリ領に連れてきたけど、この村にはレナード神父がいるのだ。いまだに神父様のためだけに、この村に移動販売車をやっている。もちろん、私たちも神父様に会いに教会に来た。今までも一年に一回くらいは来ていた。
「「ごきげんよう」」
「またキミたちか」
「またとは何です」
相変わらずの憎まれ口だ。安心する。
「キミは変わらないな。いや、マレリナも変わらないよな。たしか三十二だろう」
「えーっと…。レディに歳を聞くものではないですよ…」
お嫁さんたちは毎年十七歳に戻しているので、マレリナは永遠の十七歳だ…。マシャレッリ領にはエルフがたくさんいるからそれが隠れ蓑になっているけど、ここでは歳を取らないのはおかしく見えるだろう…。
神父様はもうよぼよぼだ。六十を超えているだろう。
「実はそのことで話があって来たんです…」
「ふむ」
神父様に群がる子供たちをなんとか引き剥がして、教会の個室に移動。そして、若返りの魔法のことについて話した。
「私には必要ない」
「えっ、だって…」
「私はもうじゅうぶんに生きたよ」
「ここの子供たちはどうするんですか」
「後任を選んである」
「しっかりしてますね…。でも自分の使えない属性の魔法を覚える変態なんて神父様以外にいたんですか?」
「ははは、今はキミが作った楽譜があるだろう。何の属性とも関わりのない音楽を作り上げたのもキミだ」
「そうでしたね。でも…」
「私はもうすぐ天寿を全うするだろう。キミの都合でことわりをねじ曲げるのではない」
「若返りは聖魔法じゃありません」
「私は役目を終える。それでよいのだ」
「だって…」
私の目から涙が溢れてきた。私を魔法と音楽の道に導いてくれた神父様にはずっと生きていてほしかったのに…。
「キミのおかげで最後まで大忙しだったぞ。うるさいガキどもの声がここまで聞こえるぞ」
うるさいと言っておきながら、神父様は優しい目をしている。なんだかんだいって面倒見が良いのだ。
マシャレッリ以外の領地では、魔力を持つ子供にだけ教育を施している。だけど、神父様で
は魔力の有無に関係なく、読み書き・計算を教えているようだ。子供たちは木琴と笛で音楽を楽しむだけでない。将来有望な職に就くための基礎を楽しく学んでいるのだ。
この村は農業と狩猟だけで生計を立てていたのだけど、いつのまにか商店ができていた。神父様に教えられて職の選択が増えたのだろう。
「さあ、私はガキどもの相手をしなければならない。帰った帰った」
「ええっ?」
私たちは教会を追い出された。そして、子供たちに慕われる神父様を遠くから見守りつつ、ワープゲートでマシャレッリに帰った。
数ヶ月後、レナード神父が亡くなったと一報があった。享年六十六歳だったそうだ。この国は結婚式も身内で簡素に行うことから、葬式はもっと簡素だ。だけど、子供たちや村の人たちに慕われていた神父様は、盛大に送られていったという。
引き継ぎの若い神父はレナード神父の意思を継ぎ、魔力の有無にかかわらず教育を行ってくれるようだ。レナード神父と違って優しい感じの人だ。いや、中身もちゃんと優しいことは、心魔法で確認している。表面上は辛辣な感じのレナード神父と違って、裏表なく優しいというだけだ。
寂しいのは確かだ。だけど、もし会いたくなったらタイムスリップでもタイムリープでも会いに来られる。その気になれば本人の意思を無視して延命すればよい。私は人の生死についていくらでもやり直しができるのだ。
★ユリアナ三十五歳(ソフィア十九歳)
時が流れるのは速い。孫娘も三歳になり、教会で勉強するようになった。寿命の長い種族は「ちょっと待つ」といったら何年も平気で待てるとかいうけど、私も寿命の長い種族が板に付いてきたのだろうか。まだ前世の分も生きてないのに。いや、前世も合わせれば七十歳を超えているのだ。だけど、おばあちゃんになった感じは全くないね。
新しい魔道具を開発した。その名も魔道パンツだ。子宮の成長を阻害する時と命の合成魔法が込められている。レティシアが子宮年齢を二〇〇〇年早めたり、タチアーナの子宮年齢を若返らせたことで思いついたのだけど、それなら時間を止めることもできるだろうと。たんに時間を止めると血管やらが詰まって周りの細胞が壊死してしまいそうだけど、命魔法との合成魔法にすることで人体の仕組みに沿った形で時を止められるのだ。つまり、排卵を停止させる魔道具なのだ。ちなみに、女性ホルモンの分泌などの基本機能が停止しないようにはしてある。
毎月の生理の煩わしさから解放されるのはもちろん、避妊に使えるし、いつまでも閉経しないから更年期障害対策にもなる。ハンターギルドから女奴隷を買って実験済みだ。もちろん、実験に使った女奴隷は、記憶をリセットして赤ん坊にして教会行きだ。
全身の若返りや不老の魔道具を公表してしまうと戦争が起こりかねないので、あくまで子宮のみだ。脱いだら効果がなくなってしまうので、お風呂で使える水着タイプとか、はいたままエッチできるようなタイプのパンツも開発したよ。もちろん、脱いですぐ排卵するわけじゃないけど、毎日お風呂で一時間ずつはかないでいたら、二、三年おきに生理が来てしまって、うっかり子供ができてしまったりしそうじゃん。
エルフはもともとパンツを脱がなくてもエッチできる。お嫁さんたちとは毎日エッチ三昧だ…。お嫁さんたちには毎年若返りの魔法をかけているので、十七歳から十八歳を繰り返している。避妊しておかないと子供だらけになってしまう。
私とお嫁さんたちは学園の教師も教会の教師も辞めた。私がエルフであることは周知されたけど、お嫁さんたちがいつまでも若いのはおかしいのだ。後のことはソフィアに任せて、私たちは表舞台から消えるのだ。だけど、ときどき教会を訪れて、子供たちと音楽を楽しんでいる。そう、これをやりたかったのだ!身分を捨てて、好きなことだけをやっている…ニート?身分は魔法や音楽を強引に広めるには役に立ったけど、十六年間事務仕事はつらかったなぁ…。でもこれからは歌ってるだけ!老害万歳!
ディミトルは嫁探しのために学園に通ったけど、私たちの第二子で学園に通わせるのはソフィアの子だけにした。もう、学園で学ぶことはない。魔物討伐訓練などもマシャレッリの教会に取り入れた。学園に行かなくてもマシャレッリの影響は大きい。ソフィアの娘だけが跡取りを生む嫁を探せばよい。
音楽文化はローゼンダール王国に欠かせないものになっている。だけど、歌というのはこの世界の人間を遺伝子レベルで進化させないとできないらしい。孫娘は私の血が四分の一しか入っていないけど、幸いなことに歌の能力は娘と同等レベルだ。このまま私の血を薄めていっても歌の能力を維持できるだろうか。
とはいえ作曲人口はまだ足りない。普通の人間は、十人がかりで一年かけて一分半の一曲を作り上げるのがやっとだ。娘は一人で二ヶ月くらいかければ一曲仕上げる。私がこの世界にもたらした音楽のジャンルは、子供や初心者向けの童謡とアニソンだけだ。アニメはないのでアニソン風というだけだけど。
作曲して私に曲を捧げると、一時金と楽譜のロイヤリティが支払われる。著作権制度と同じようなものだ。主にマシャレッリのお店で演奏しているマシャレッリ楽団のメンバーが作曲したものが今までに十曲。私のお嫁さんたちと娘が今までに作曲したのが五十曲。そして、私が作曲したのが一〇〇〇曲だ。もちろん私の曲の大半は前世の記憶から掘り起こしたものだ。前世の知識を自分の発明として広めるのは転生者の嗜みだ。
ちなみに、マシャレッリ領で生まれる子はすべて魔力持ちになった。他の領地でも魔力なしの子は少なくなりつつあるが依然として存在する。やはり、貧乏で魔物の肉や果物の摂取量が少ないことが原因のようだ。他領の教会は魔力持ちしか教育してくれないので、そういう子は差別や迫害の対象となりがちだ。
そこで、マシャレッリ領の教会は、他領から魔力なしの子を受け入れて教育を提供している。ワープゲートは本来ならわずかながら通行料が必要だが、魔力なしの子には通行証を与えて、タダでマシャレッリ領に通えるようになっている。まるで障害者手帳だ。まあ、今となっては魔力なしの方が少なくなってしまったので、ある意味障害ともいえる。「魔力なし」ってのは差別用語な気がしてきた。そのうち言葉を改めよう。
まあ、魔物肉や果物を食べると魔力が発現すると聞いて間もない他国では平民の魔力持ちなんてまだ一〇〇人に一人のレアキャラだから、魔力なしなんて差別用語は生まれようもないんだけどね。他国での差別抑制はアバークロンビーに嫁いだアンジェリーナとウッドヴィルに嫁いだアレクサンドラに任せよう。
魔力を持たない子でも、マシャレッリの教会で勉強すれば働き口はいくらでもある。マシャレッリは居心地が良いので、そのままマシャレッリで就職する者も多い。ローゼンダール内で魔力を持たない子はマシャレッリへというのは常識になりつつある。だけどマシャレッリのことは他国にはそこまで知られていない。というか、国民全員を受け入れられるわけないので、まだ他国の国民を教会で受け入れる体制はできていない。その辺のことはソフィアに頑張ってもらおう。
でも、すべての人間に音楽と歌を広めるのは私のやりたいことにかなっているのだろうか。私のために作曲人口を増やすには、他国の人間も巻き込んだ方がいいだろうけど…。
ひとまず、私はときどきお嫁さんたちと一緒にマシャレッリの教会を訪れて、捧げられた曲や自分で出版した曲をアイドルのように披露して、皆にキャーキャー言われている。あれ、もしかして私、念願のアニソン歌手になれたんじゃない?
でもなんか物足りない…。やっぱり魔法を広めるというマザーエルフの使命がそう思わせるのか…。まあいいや…。何十万年もマザーエルフをやっているルシエラと違って、私はマザーエルフ初心者なんだ。何万年サボっていても誰かに怒られるわけじゃない。ありとあらゆる手段で魔法を広めようとした結果が、私の召喚なのかもしれない。
というわけで、私は日々をお嫁さんたちと楽しく歌って過ごしている。
★ユリアナ四十二歳(ソフィア二十六歳)
春になり、孫娘が十歳になったある日、
「ユリアーナお母様、王家から軍の出動要請がありました」
「えっ…」
当主をソフィアに変わってから十年間、ソフィアはずっとうまくやってきており、私への相談なんてほとんどなかった。だけど…、
「軍をどこに出動するのかしら…」
「ローゼンダールの北側です。北のリオノウンズが宣戦布告してきたのです」
「なるほど…」
ローゼンダールの西はヘンストリッジ。フョードロヴナと組んだ第二王子派に押され気味のブラッドフォードはどうしてるかな。
それから、東側は私が交易をしているヴェンカトラマン。
北西はアレクサンドラの嫁いだウッドヴィル。
北東はアンジェリーナの嫁いだアバークロンビー。
南側はエルフの森とされていているけど、魔物が多すぎて手つかずだ。
そして、国交がなかったのが北のリオノウンズだ。
「なんで戦争になっちゃったの…」
「それはですね……」
だいたい想像は付いていたけど、リオノウンズは数百年前、食料を求めてローゼンダールと戦争をしたことがあった。今回も、簡単に言うと「ローゼンダールだけ潤っててずるい!他国を懐柔してリオノウンズを攻めてくる気だろう!」ということだ。
確かに、魔物を手懐けて食料にしたり、魔法で果物を育てるのは、ローゼンダールも他国も目からうろこだったのかもしれない。だけど、エルフは普通に魔物を食べていたし、エルフから文化を伝えられる機会は何十万年もの間にいくらでもあっただろう。それを伝えずに忘れていってしまったのは人間だ。
チート転生者である私だからこそ凶暴な魔物を家畜にして食べたり服にしたりを思いついたのかもしれない。だけど、そのこと自体はチートでも何でもない。私はチートで国を豊かにしたわけではない。潤っててずるいなんて完全に言いがかりだ。
「で、私へ相談は何かしら」
「私たち姉妹は軍を率いて北に向かいます。マシャレッリにも軍を残しますので、ユリアーナお母様には領地の守りをお願いしたく…」
「あなたたち四人が出向かなければならないほどなの?」
「はい…。出動要請は二〇〇〇人でして…」
「はぁ?王国は何をやってるの?」
「王国もフョードロヴナも二〇〇〇ずつ出すそうです。他の領地にも数百ずつの出動要請が出ています」
「敵はそんなにいるの?」
「五万だそうです…」
「それってリオノウンズ国民の半分とかなんじゃ…」
私がマシャレッリの養女となった二十七年前、マシャレッリ領は人口三〇〇〇人規模の小さな領地だった。だけど、今では一万二〇〇〇人のローゼンダール一の大領地だ。人口一万人のフョードロヴナを超えているのだ。えっ、いつ超えたの?ソフィア、がんばりすぎじゃない?
そして、すべての領民は兵役制度により、交代制で自領を守っている。教会では剣術や弓術、魔法を教えられる。一万二〇〇〇人ほぼすべての領民が兵士なのだ。専任の兵士を数千持っている国やフョードロヴナに比べても、ほぼすべての領民が魔法戦闘を学んでいるマシャレッリ軍は劣らないのだ。
「じゃあ、姉妹じゃなくてあなたの娘を連れていったら?」
「えっ…」
「あなたの娘はもう十歳で教会を卒業したんでしょ。それにあなたが直々に戦闘訓練を施していたわよね。マルグリッテやフィオナよりよほど頼りになるんじゃないかしら」
「そ、その通りです…」
マルグリッテはチャラ男だし、フィオナは幼女だし、ラティアはオタクなので、全然指揮官向きではないのだ。やっぱりアレクサンドラを売りに出しちゃったのは痛いよ…。
一方で、ソフィアの嫁たちは侯爵家や伯爵家が多く、しっかりとした子ぞろい。それにソフィアの真面目な性格が合わさったソフィアの娘たちは、とても真面目で良き指導者になると思う。
「軍を五〇〇人ずつに分けて、あなたとあなたの娘の三人が指揮を執りなさい。ワープゲートは承認モードに切り替えておけば、マシャレッリのような内部まで敵が侵攻してくることはまずないだろうから、領地の守りはマルグリッテたちでじゅうぶん。いざとなったら私が打って出るわ」
「分かりました」
ワープゲートの承認モードとは、いちいち承認者が小さな魔力を送らないとかってには通れないようにするモードである。北側から他への移動を制限できる。一方で、北側へ軍を送るときに制限はない。そもそもワープゲートとは一方通行の魔道具であり、入り口と出口が対になったものではない。ただし、マシャレッリから開いたワープゲートを使って北側から敵軍を送り込まれないように注意しなければならない。
ちなみに、ワープゲートには封鎖というモードがある。銀行強盗に襲われてシャッターを閉めちゃう的なモードであり、ワープゲートの管理者権限では開くことができないようにする。脅しに屈しないようにするためのモードだ。封鎖の解除はマシャレッリ家の面々でしかできない。
「では行ってきます」
「気をつけてね」
ソフィアと孫娘の防具は、ほとんど透明のクリスタルアーマーとインナーパワードスーツ。スヴェトラーナがデザインしたんだって…。パワードスーツは全身タイツだから露出はないけど、身体のラインが丸見えで、それが透明なクリスタルアーマーごしに丸見えだから、裸に見えないこともない…。左右独立の乳袋もある…。
武器は遠距離スタンガンとスタンガンソード。あくまで殺さないことにこだわるのは転生者の嗜みだ。
ソフィアはいわゆる攻撃魔法の花形といわれる属性を持っていないし、孫娘たちの属性もばらばらだ。でも今は魔道具で誰でも同じように戦えるようにしてあるのだ。
この装備はソフィアたちだけでなく、マシャレッリの兵士に支給されているし、他の領地や国の兵士にも導入されている。なんなら、王都の武具店でハンターが普通に買える。
兵士たちのパワードスーツと武器は、異次元収納に格納された小型発魔器と魔石から魔力が供給されるけど、発魔器の出力は弱いので、強力な攻撃を繰り返すとあまり長くもたない。だけど、娘たちにはかなり大きな発魔器を格納した異次元収納の指輪を渡してあるので、ほぼ無制限に攻撃できる。
こうして私は、二〇〇〇人のマシャレッリ領軍を引き連れてワープゲートをくぐるソフィアと孫娘三人を見送った。
数日後、私の電話にコールがあった。
「ユリアーナお母様、終わりました」
「お疲れ様。早かったわね」
まあ、この結果は当然だ…。パワードスーツを着て武器を持った兵士は普通の人間の五倍くらいの戦力はある。そもそも、五万人の兵士が何ヶ月もかけてリオノウンズからローゼンダールまでやってくるのに、食料は足りていたのだろうか。やってくるまでに虫の息だったのでは。
ローゼンダールの主な武器はスタンガンの剣と銃だったため、ほとんどのリオノウンズ兵は生き残った。指揮をとっていた王族と貴族だけを処刑して、五万人の兵士は国に帰されることとなった。兵士といっても専業軍人は二割だけで、八割は農民や狩猟民だ。処刑することはない。
しかし、兵士たちは片道切符でローゼンダールまで進軍してきていた。ローゼンダールに到着した時点で食料も水もゼロなのだ。そもそも片道分の食料すら足りなかった。むしろ度重なる飢饉で食料がなくなったから、ローゼンダールまで略奪に来たのだ。まあ、こういう時代の戦争というのは、食料を現地調達するのが基本だ。
そんなんだから、無罪放免だからといって、帰っていいよというのは死ねというのと同じだった。
そこで名乗りを上げたのがフョードロヴナだ。処刑された王族に代わって、リオノウンズを属国として支配するのだと。フョードロヴナはマシャレッリから技術供与された農業でリオノウンズに食料をもたらす。木魔法で育てる果物は、太陽も気温も水も肥えた土も必要なく、とりあえず適当な土さえあればよい。
ひとまず、リオノウンズ兵の当面の食料はフョードロヴナやマシャレッリから供給されることになった。蓄えはそれなりにあったけど、さすがに五万人分は多い。ノーカロリー食料の生産分を高カロリー食料の生産に回すことにして、レストランで出すおかわり用のノーカロリー料理はしばらくお預けにした。
戦争なんて起こさなくても、ひもじいから助けてくれと頼めば、ローゼンダールは支援しただろう。だけど、リオノウンズ王家と貴族はプライドを捨てられず被害妄想に浸っていたたため、頭を下げることなんてできなかったのだ。くだらないプライドを持った無能な王族など死ぬしかなかったのだ。
まず、フョードロヴナの開拓要員がリオノウンズまで念動自動車で赴き、ワープゲートを設置。数日間野外で拘束されていたリオノウンズ兵は、ワープゲートで本国に帰された。
そして、フョードロヴナは刃向かう王族と貴族を一掃。国民に食料と職を与えたフョードロヴナは、瞬く間に国民の支持を獲得し、リオノウンズの支配者として君臨した。フョードロヴナはリオノウンズを属国として、投資した分を回収できるように模索している。もちろん、マシャレッリが無償提供した食料分も返してもらう。
なんか歴史の授業でも数百年前に同じようなことがあったと習ったけど、今度こそ国がなくなっちゃったね。
結局、ローゼンダールは五つの周辺国と友好を結んだり支配することになり、今後の文明発展の中心となっていった。
★ユリアナ四十八歳(ソフィア三十二歳)
さらに時はすぎて、孫娘たちは十六歳。私もそうだけど、エルフは長寿命なのだから人間と同じ周期で世代交代しなくていいと思うのだけど、ソフィアは私にならって娘が十六歳になったのを機にマシャレッリ家当主の座を譲った。
そして、レティシアもエルフの王の座を娘に譲ってしまった。一〇〇〇倍の寿命を持つマザーエルフにとって十六年は五日くらいだ。レティシアの王座は五日坊主で終わってしまった。そもそも仕事したのかな。
ちなみに、三十二歳になったソフィアたちハイエルフの娘たちは人間の十一歳相当の身長だ。十八歳になった後は多少ゆっくりではあるが胸やお尻も成長しており、みんな私より年上に見える。フィオナを除いて。
十六歳になった孫娘たちは、三十二歳の娘たちと同じくらいの身長になった。孫娘たちはどうやらハイエルフではなくてエルフのようだ。
孫娘たちは結婚し、子を産んだ。私にひ孫ができたよ。私はこの世界で四十八年生きてるけど、人間でいうとまだ十歳なのにひいおばあちゃんだよ。
別に制限しているつもりはないのだけど、私も娘も孫娘もお嫁さんをいっぱいお持ち帰ってくるので、お嫁さんに子を生ませた後は、連続で妊娠しないように魔道パンツをはかせるのが通例となっている。でも、なぜか娘の出産に合わせて親も出産して、同い年の叔母姪を作るのも通例となっている。私の子孫は着々とネズミ講のように増えている。子孫がネズミ講で増えるのは当たり前か。
私のお嫁さんたちも、娘たちの嫁たちも人間なのだけど、一年に一度若返りの魔法をかけている。そして、今回、孫の妊娠に合わせて、お嫁さんたちと娘の嫁の年齢を、第一子出産前の十五歳の冬まで戻した。その結果、生まれた子供の魔力と属性数は第一子と同じになった。子宮は出産のたびに魔力と属性数に関する何かを消費するが、若返らせることでそれを回復できることになる。
この世界の魔法使いは、第二子、第三子とその能力が減っていく。両親の魔力と属性数の平均を基準として、第一子なら一〇〇パーセントだけど、第二子で九〇パーセント、第三子で五〇パーセント、第四子で二〇パーセント、第五子はほぼ〇パーセントだ。だから、だいたい子をもうけるのは二人までであり、三人目はめったに作らない。魔法使いでなくなった者は貴族として生きていく目がなくなるからだ。魔法を持たない子はまるで障害児のような扱いだ。このことは、魔法使いである貴族の出生率が上がらない原因となっていた。ところがそこで、何人産んでも第一子と同じ魔法能力を持つ子を産めるようになったらどうなるだろう。貴族は喜んで子作りに励むんじゃないだろうか。
そもそも、平民はもともと魔法使いのことなんて気にして子供を作ったりしないし、産んだところで死亡してしまう可能性がかなり高いから、四人や五人子供を産むのは当たり前だ。それなのに、ここ数十年、マシャレッリ領で生まれる子供はすべて魔力持ち。魔力を持つ食べ物で魔力を発現させた平民の魔力は、もともとそれほど高くないけど、第五子で属性数がゼロにならないのは今までの統計を覆す結果となっている。食べ物で発現した魔法は従来とは違う法則で継承されるのかもしれない。
私の娘たちが期待値よりも多い属性数を持っているのは食べ物ボーナスのたまものなのだろうか。アンジェリーナとアレクサンドラが他国の王族と貴族に産ませた子の属性数が少ないのは食べ物ボーナスがないからとか。
食べ物ボーナスはさておき、何度も第一子を産めるようにする魔道具を、魔道具オタクチームであるセラフィーマ、ラティア、妻のヴェラと、その娘に開発させて、ロビアンコで生産させるようにした。そもそも、子宮の加齢を停止させる魔道パンツというものをすでに広めているのだけど、このベルトのような魔道具を子作り前に付けると、子宮年齢を第一子妊娠前まで戻すことができる。
身体を部分的に若返らせる魔道具なのだけど、原理については公表していない。だから、身体も若返らせられるという発想には至らないだろう。
メロディを自由に組み合わせて新しい魔法を作れることは秘密であるため、この魔道具の魔方陣も古代遺跡から発掘してきたことにしてある。
何人でも子供を作れることになると、歳を取っても子供を作りたくなるだろう。でも子宮の年齢は若いままなので、高齢出産リスクとかも軽減できるはず?
一つ購入して命と時の魔石を交換すれば何度でも使えるものなので、せいぜい貴族家の数しか売れないので、とりあえず男爵家がなんとか買えるくらいの値段で売り出した。そして、ローゼンダールと周辺国の貴族にベビーブームが沸き起こったのはいうまでもない。ひどい国では、二人子を産ませた第一夫人はぽいっと捨てられて第二夫人を迎え入れたりしていた。しかし、何度でも第一子を産めるようになったため、一人の女性がいつまでも第一夫人でいられるのだ。良い傾向だ。
子宮年齢を第一子を産む前まで若返らせるベルトなのだけど、私はこの魔道具が持つもうひとつの効果に気がつかずにこれを世に送り出してしまっていた…。第一子を産むのはたいてい十六歳。十六歳といえば成長期。若返るのは子宮だけなので、他の部分の成長とは関係ないと思ったら大間違い。子宮を十六歳に若返らせることでなんと、胸やお尻といった女性としての体つきの成長が再開されるのだ。私は豊胸アイテムを作り出してしまったのだ…。
三十代でこの魔道具を使って第一子と同等の魔力を持つ子供を産み、そのあと魔道パンツで子宮の成長を止めている奥様は、最初、授乳のために胸が大きくなったのだと思っていたが、授乳終了後も胸が大きくなり続けているという。魔道パンツは子宮の成長を止めるけど、女性ホルモンなどの必要なものの分泌を止めたりしないので、普通なら二十歳前に止まるはずの成長ホルモンを、十六歳相当の分量で出し続けているのだ。
胸やお尻が大きくなりどんどん魅力的になっていく奥様を見た旦那は我慢できなくなり、お盛んな家が増えているようだ…。だけど、幸いなことに魔道パンツは避妊パンツなので、望まぬ子供を作ってしまうことはないようだ。
胸やお尻の成長が止まらないのは、子宮を若返らせた奥様だけではない。初潮が来てから魔道パンツをはき続けている子はの子宮年齢はずっと初潮の来た年齢であり、二十歳になっても三十歳になっても女性としての成長を促し続けている。
こうして、ローゼンダール王国の貴族女性は結婚適齢期というかせから解放されただけでなく、歳を重ねるにつれて魅力的になっていく美魔女であふれかえることとなった。例えば、十代と同じペースで五十歳まで成長するのは、エルフの体つきの成長に似ている。マシャレッリにはエルフがたくさんいるので巨乳なんて見慣れたものなので、引退した大奥様が巨乳でもそれほどびっくりすることではないのだけど。
さすがにエルフのようにずっと若い姿を保っているわけではないけど、それでもまったく閉経しない奥様たちは、以前に比べると格段に美しさを保っている。
これは世界を滅亡に導くアイテムだ…。ロビアンコで生産させていて、一つの貴族家に一個ずつ行き渡るくらいしか作っていなかったのだけど、他国からの引き合いはもちろん、魔力の有無にかかわらず、裕福な商人からも引き合いが来るようになった。あまり広めたくないのだけど、生産中止にしたり値段をつり上げたりするとひんしゅくものだ。しかたがないので、男爵家がなんとか買えるくらいの値段のまま生産を続けている。
でも、なんだかんだいって魔力持ちが子作りする機会が増えているみたいなので、結果的に魔法を広めることになっているみたい…。これを世に送り出したのは、マザーエルフとして必然だったのかもしれない…。
ソフィアとその嫁たちはマシャレッリ家当主を引退して何をやっているかというと、私と同じようにプー太郎になって毎日歌と音楽で楽しく暮らしている。マルグリッテとフィオナとその嫁たちは、一応教会の音楽教師をやっていたけど、娘たちにその座を譲り、こぞって辞めてしまった。もともとほとんど遊んでいるだけだったのだけど。
ちなみに、ラティアと嫁のヴェラの魔道具作りは趣味なので、いくつになっても研究室にこもったりしているのは変わらないようだ。まあそれはセラフィーマも同じことだ。
プー太郎メンバーが一気に増えた。私とお嫁さんたちは教会にゲリラ的に出没するアイドルグループをやっていたけど、タチアーナとセルーゲイ、エッツィオくんとその嫁も独自にユニットを組んで教会で音楽を披露していた。そこに、レティシア、ソフィア、フィオナ、マルグリッテ、ラティアと、その嫁たちが加わった。娘とその嫁たちは仲が良く、一つのグループでやっている。
何十年も歳を取らない人間は何なのか。アイドルグループに混ざってでハープを弾いているタチアーナなんて六十四歳だけど永遠の十七歳だ。マリアちゃんもアナスタシアも永遠の少女だ。だけど、マシャレッリ領にはエルフが蔓延しているので、何十年も見た目の変わらない人なんていくらでもいる。一応耳の長さの違いはあれど、エルフの外見年齢が変わらないのが隠れ蓑になっていて、タチアーナやお嫁さんたちの年齢を言及する者はいない。三十二年前の領主だなんてみんな覚えていない。一応綺麗な服を着ているので、領主家の分家か何かだと思われているようで、ぞんざいに扱う者はいない。
私は貴族当主の座を降りてから三十二年になるけど、実は王都の喫茶店一号店のオーナーを続けている。他の店は領地持ちだけど、喫茶店一号店だけは私の名義なのだ。何も仕事をせずに金を巻き上げているだけだけど。当初から儲けはクラスメイトの成績を上げるための紙代に消えていたのがつい最近のことに感じられる。
スヴェトラーナは服飾関係で利権を持っていて、何もしなくてもお金が入ってくる。スヴェトラーナはこういうところをうまくやっているのだ。
セラフィーマも魔道具の利権をたくさん持っている。セラフィーマはこういうところを何も考えていないのだが、有能執事がよく考えていてくれていたのだ。
だけど、アナスタシア、マレリナ、ブリギッテ、マリアちゃんは完全なプー太郎だ。私と政務をしていたときの給料は貯まっているのだけど、何十年か遊んで暮らせるお金はあっても、何百年も暮らせるかは分からない。不老が一生遊んで暮らすには無限のお金が必要なのである。まあ、貯金が尽きたら利権を持っている三人でお金を出し合えばいいか。
ソフィアとラティアも新商品を出したりして、個人で利権を持っているので大丈夫だけど、マルグリッテとフィオナは遊び人なので、まあプー太郎になるなら私たちと同じようにうまくやってほしい。
うーん…。遊び人と真面目くんではけんかになりそうだ…。
アバークロンビーに嫁いだアンジェリーナとウッドヴィルに嫁いだアレクサンドラは、それぞれの国での任期を終えてマシャレッリに戻ってくることとなった。一年に一回くらいは会っていたけど、やはり帰ってきて近くにいるのは嬉しい。だけど、この嫁の数はいかなるものか。ローゼンダールから連れていった嫁の数は、アンジェリーナが四人、アレクサンドラが五人だったけど、二人とも嫁がそれぞれ十五人に増えている。
アンジェリーナとアレクサンドラは二人とも命と時の属性を持っているので、若返りの魔法を使うことはできた。だけど、マシャレッリのようにエルフが蔓延しているわけではないので、嫁たちを不老にすることはできなかったらしい。嫁は三十二歳前後であり、私からすれば女の子の範疇だけど、永遠の十六歳になった私のお嫁さんやソフィアの嫁と比べると、お肌の張りが気になる。二人とも帰って早々嫁たちに若返りをかけていた。ただし、それだと、せっかく子宮年齢を停止させて三十二歳まで成長させた胸がなくなってしまった。しかたがないので、若返らせた後、「乳房がすぐに成長する」をかけて、三十二歳のときの大きさに戻してあげていた。もうやりたい放題だ。
ハイエルフの十六年は人間の一年分も身長が伸びないのだけど、アレクサンドラの胸は見るたびに大きくなっている。十八歳でスヴェトラーナの爆乳と並び、そこからさらに成長を続けていた。さすがに十代のときほどの成長速度ではないけど、それでもスヴェトラーナと並ぶと明らかに大きさが違う。世界一大きいのではないだろうか。このまま成人まで成長すれば、さすがに胸が大きすぎて重すぎて困っちゃうか弱い女子になってくれるのではないかと期待している。
アンジェリーナとアレクサンドラの嫁はそれぞれ他国で音楽活動をしていたようで、マシャレッリに帰ってもすぐにアイドルユニットとして活動を始めた。さすがに多すぎるので、ソフィアのアイドルユニットには合併しなかった。五十人くらいまでは許容範囲と思うのは前世で見慣れているからだろうか。
アンジェリーナとアレクサンドラは、それぞれの娘たちを一部、嫁ぎ先に置いてきた。ソフィアの娘と同じく、エルフだけど歌うことができるらしい。今頃歌姫として活躍していることだろう。私の子孫しか歌えないのはちょっと困るけど、このまま歌という文化を広めてほしい。
私も四十八歳か…。いつのまにか前世の享年をすぎていた。時が流れるのは早い。やっぱりマザーエルフは人間の一〇〇〇倍の寿命を持つからなのか、十六年がつい五日くらい前のことに感じられる。長寿命種族ののんびりさが板に付いてきた。
私は飽きることなく毎日歌と音楽で楽しくやっている。飽きを感じるスパンも一〇〇〇倍なのだろうか。じゃあお嫁さんたちはどうなってるのかな。記憶を若返らせてはいないので、飽きを巻き戻したりはしていないはずなのだけど。
お嫁さんたちを不老にしてしまったので、念のために試しておいた魂を移し替えは日の目を見ていない。ところが…
「なあおぬし、わらわの依り代を産んでくれぬか」
「えっ、自分でやってよ」
ルシエラは藪から棒に何を言うのか。
「わらわの腹はもう二人産んだから、次の子は魔力とか半分じゃろう」
「私を産む前まで子宮年齢を戻せばいいでしょ」
「それでもよいのじゃが…。別にわらわはおぬしの子になりたいとかじゃ…」
「ルシエラが産んでも私が産んでも同じ遺伝子なんでしょ」
「別にわらわは誰かの子になりたいとかじゃ…」
斜めを向いて尻目で私を見ながら言う否定表現は肯定と見なされる。反語のようなものである。反語というのは「あなたの子供になりたいなんてことがあろうか。いや、ない」というような表現で、後半の「いや、ない」を言わなくても「あろうか」の時点で「ない」という意味を表す。同じように、ツンデレ語は「あなたの子供になりたくなんか、ないんだからね」と言ったら、後半の「ないんだからね」という言葉を言わなくても実際には「なりたい」という意味になる。
「それにおぬしも一度やっておくがよい。いざというときにできぬようでは困るぞ」
「自分で自分を妊娠させて子を産まなきゃいけない非常事態が来るかは分からないけど…、まあいいよ…」
私は転生して女の姿をしていながら、あまり女らしいことをしてこなかった。ここらで女としての勤めを経験してみるのもいいかもしれない。
「どうすればいいの?ルシエラが私に子をくれるの?」
「それではレティシアのように魂を持った子が生まれてしまうじゃろう。おぬしがおぬしを胎ませるのじゃ」
「ごめん…、どうすればいいのかわかんない…」
「まず、おぬしの魔法で子宮とやらを二〇〇〇歳まで成長させるがよい」
「ああそっか」
この身体はルシエラの経験上、二〇〇〇歳くらいで初潮がくるらしい。普通の人間じゃ二〇〇〇歳も加齢したらミイラになってしまう。ちょっと勇気がいる。でもレティシアもやってたっけ…。
「ええい、早くせい!ららら……♪」
「ぎゃー…。うう、おなか痛い…だるい…」
これが生理…。
「…で、次はどうすれば…」
「ふむ。そんなちんちくりんじゃ発情できぬな。ららら……♪」
「ぎゃー」
ルシエラは「乳房とお尻がすぐにすごく大きく成長する」メロディを口ずさんだ。私の胸とお尻が風船のように…。胸に貼り付けるだけの夏のドレスは、少し伸びた後、耐えきれずにペロンと剥がれた。パンツがきつくて食い込んでいく…。あっという間に世界一のアレクサンドラの胸を超えてしまった…。
「どうじゃ?」
「重力に引っ張られて痛い…。足下が見えない…」
「それだけか?そうじゃ。鏡というものがあった」
ルシエラは姿見を持ってきた。鏡には胴体の数倍の大きさの胸を持つ…私…。十歳の華奢な身体に細くびれた腰に、これまた数倍の大きさのお尻…。さすがにやり過ぎ…。いや…、なんだか…
「乗ってきたようじゃの」
「えっ、そんなこと…」
胸が垂れ下がってて痛いので、腕で持ち上げようとした。先端まで手が届かないし、やわらかすぎて腕が胸の中に吸い込まれるだけで、持ち上げられない…。それなのに…
「ああん…」
胸がむにっと潰れると、とても気持ち良かった…。何これ…。体中、自分で触るだけで気持ち良い…。胸だけじゃなくて全身柔らかい…。エルフは力があるのに筋肉が少ないとかいっておいて、いちばん筋肉がなくてふにふになのって私じゃん…。
「むふふ…」
自慰行為のようなことをしている私を、ルシエラはニヤニヤと見ている。恥ずかしい…。それなのにもっと見てほしい…。可愛い私を…。
私…こんなに可愛かったっけ…。胸とかだけじゃなくて、顔もこんなに可愛かったかな…。いや、けっこ可愛いと思ってたけど、お嫁さんたちはみんな可愛くて美人だし、クラスメイトも芸能人並みに綺麗な子ばっかだった。だから、私は自分のことを可愛いと思っていても、特別に可愛いとは思ったことなかったんだけど…。
それなのに、今の私はなんだろう…。じつは世界一可愛いんじゃないかな…。どうしよう…。ユリアナって可愛い…。可愛すぎる…。大好き…。
幸いなことに、部屋にいるのはルシエラだけだ。いや、お嫁さんたちにも今の私を見てほしいかも…。見せたがりなのかな…。
「はぁ…はぁ…」
鏡に映る私…。どうしようもないほど好き…。これが自分に胎ませるということ…。
そのあとのことはよく覚えていない…。
気が付くと、私は何か満足感を感じていた。たぶん胎んだのだと思う…。これが両性具有…、いや、雌雄同体の生き物…。
胸が重くて起き上がるのもおっくう…。というか、胸がむにむにと変形すると気持ち良くなってしまい、それ以外のことをしたくなくなってしまう。
「ねえ…。ルシエラ…助けて…」
「もう満足したのか?」
「このままじゃ私、自分でエッチしてるだけで何もできない…」
「その快感を捨てようとするとはなかなかの精神力じゃの。でも、言っていることとやっていることが逆のようじゃの」
「はぁ…はぁ…、ルシエラに言われたくない…」
私はルシエラにそう言っておきながら、自分の身体を愛でるのをやめられない。自分の身体を触ってるだけで気持ちよくなってしまう…。元の体形に戻すために魔法を口ずさむことができない。
「いいから…おねがい…」
「わかった。ららら……♪」
「ああ…、やめて…」
「むふふ…」
しぼんでいく私の胸とお尻…。なんという喪失感…。
「うう…」
もとの大きさでも、十歳にしてはだいぶ大きいというのに、この大きさでは物足りない。この貧乳め!
なんだか自分が嫌いになりそう。自分の小さい胸にコンプレックスを持つ女の子の気持ちと、小さな胸では満足できない男の気持ちを併せ持つ…、これが雌雄同体…。
「ルシエラっていつもこんな気持ちなの?」
「ふむ。それはな……」
いつもなら、二〇〇〇歳くらいで初潮が来るけど、二〇〇〇歳のときの胸は通常エルフサイズ。さらに二〇〇〇歳たって四〇〇〇歳になるとハイエルフサイズになるけど、そのサイズでは自分に発情できないらしい。そして、一万歳のころになると、さっきの私のサイズになる。すると、自分に発情していつのまにか胎んでいるらしい。
そのまま出産まで自分を愛でながらすごし、出産すると自分の魂を移す。そして、母体の胸から母乳をもらって成長するらしい。しばらくすると、魂が抜けて飲まず食わずの母体は死亡する。しばらくっていっても、二年くらい生きてるらしい。あの大きな胸は二年も飲まず食わずで母乳を出すためのタンクなのか?いや違うでしょ…。
赤子が生まれると、魂を持たない赤子はそのままでは何もできずに死んでしまう。そこで今度は、自分の可愛さよりも母性本能が優先され、赤子を生かすために自分の記憶と魂を移したくなるらしい。
とはいえ、大きな胸にはそういう意味があるわけだ。男が大きな胸を好むのは、それが母乳を出して子供を育てる能力だと本能的に理解しているからだ。私の胸がしぼんで自分をイヤになったのは、自分に子供を育てる能力が足りないからだろう。赤子を産んだあとの母体は、赤子に食わせるための身体だ。そういう生態を持つ生き物はいる。だけど、こんな小さな胸では赤子を育てられないから、本能がダメだと言っているのだ。
でも、この腹に宿った子は、自分ではなくてルシエラのための依り代。私は腹の子を自らの手で育てられるのだ。飲まず食わずで育てるために蓄える必要はない。だから、あんなに大きな胸は必要ないと、自分の本能に言い聞かせる…。
「ルシエラはなんで新しい身体が欲しいの?まだ人間の十二歳相当じゃん」
「おぬしの知識を借りると、人間の十二歳は十歳の時と比べると、何半音分狂うのじゃ?」
「あ、そういうことか」
人間はおよそ三十歳で、聞こえる音が約半音上がるというのが、前世の薫が導き出した仮定だ。
「つまり、十二歳だと自分がベストだと思っている音よりも高い音を出さないと魔法の威力が最大にならないのが不満ってこと?」
「うむ。おぬしは話が早いのぉ」
この身体は分解能が三十二分の一半音単位の絶対音感を持っている。四十八歳になった今でも聞こえる音が上がった感じはしない。だけど、一〇〇〇歳になったら分かるほど変わるのだろう。
「でもさ、それならやっぱり自分が若返ればよかっただけじゃないの?私の産んだ子って重要?」
「べ、別にわらわはおぬしの子になりたかったわけではない!おぬしに生まれ変わりの儀を味あわせたかっただけじゃ!」
「そっか」
ルシエラは誰かの子供になってみたかったんだ。それだとやっぱり、若返るのと生物学的には同じになりそうだから、若返りでよかったんじゃないかと思うけど。
そしてしばらくして、私は初めてのつわりや、身体のだるさに悩まされるのであった。まあ、女性やマザーエルフとしての経験はしておいて損はないか…。ルシエラのいないときに一万歳になって、突然自分が好きになっちゃうよりマシだ…。
季節はすぎた。身ごもっているのは私だけではない。お嫁さんたちも、娘の嫁たちも、孫娘の嫁たちも身ごもっている。孫娘たちだって王族と合わせる必要はないと思うし、引退して平民となった私たちもソフィアたちもまったく関係ない。それなのに、なぜ十六年周期で子を産む必要があるのか。
「ユリアーナ様、それは誰の子ですの?」(スヴェトラーナ)
「私というものがありながら酷いわ」(アナスタシア)
「浮気者!」(マリア)
「ユリアちゃんに胎ませたのが誰か気になります」(セラフィーマ)
「ユリアーナも大人になったんだねー」(ブリギッテ)
「ユリアナのバカ…」(マレリナ)
「えっと、マザーエルフは自分で自分の依り代を産むって生態を以前話したわよね。これはルシエラの依り代なの」
自分で自分にエッチしたことは話さなかった。
「では次はわたくしの子をもらってくださいまし!」
「私のよ!」
「わた……」
「おぬしらではおそらくムリじゃ」
「「「「「「えっ…」」」」」」
エルフどうし、またはエルフと人間女性の交配は口づけだ。口から相手に魔力を送ることで胎ませることができる。人間からエルフを胎ませることもできる。だけど、魔力が弱い者から強い者に魔力を送るのは抵抗が強くて大変らしい。相手が完全に受け入れた状態で相当頑張る必要があるらしい。頑張りすぎると、相手を思う気持ちが疎かになりがちで、魔力がうまくこもらないらしい。
ちなみに、人間の男からエルフを胎ませる場合は、人間の本来の方法で交配できるので、この限りではない。
私の本能は、このままの胸では赤子を食わせることができないと警告を発している。私が赤子を産んだあとに生き続けられることを本能は知らない。今すぐあのときの大きさの胸にしたい。これはマリアちゃんが大きな胸に憧れるコンプレックスとかとは違う。しかたがないので、私は精神治療のブレスレットでこの本能を抑えた。
秋になり、孫たちの嫁の第一子、ソフィアたちの嫁の第二子、私のお嫁さんたちの第三子、そしてタチアーナの第五子が生まれた。ひ孫と娘が同い年とか意味が分からない。二世代違う姪と叔母ってなんていうの?
ちなみに、アナスタシアだけは未熟児を早産した。だけど、健康に問題はない。しばらくすると他の子と同じサイズになった。
そして、二ヶ月ほどして冬になると、私の番がやってきた。これが陣痛…。私はソフィアの空間魔法で赤子を取り上げてもらった。予想はしていたが、私の産んだ子は産声を上げない。本来ならすぐに記憶と魂を移して自ら産声をあげないと窒息死してしまうけど、気道の羊水は除去済みなので、スースーと呼吸をしている。だけど、力はなく、でろんとしている。まるで死産…。
「まあ、レティシアの生まれた頃に似ていますのね」
「寝ているようだけど、魂がないなのね」
「かわいい!」
「これがマザーエルフの神秘…」
「ついにユリアーナもお母さんだね」
「赤ちゃんのユリアナなんていたずらしたくなるね」
「こら!これはわらわの依り代なのじゃ。遊ぶでない」
「ちょっと、ルシエラ…、何するの…」
「いいから」
ルシエラは私のドレスを引っぺがした。冬のドレスだから、無理矢理脱がしたら痛いよ…。
ルシエラは赤子を抱き上げて、そして、私の胸に赤子の口を押しつけた。
「それじゃあの。ららら……♪」
「えっ」
ルシエラは「記憶の書き込み」を繰り返し歌った後「魂の移動」を歌った。すると、ルシエラが突然倒れた。
「「ルシエラ様!」」「「「「「ルシエラ!」」」」」
そして、私の胸を吸い始める赤子。ルシエラはもう赤子の中だ。
赤子は動けないのはもちろん、首が据わってすらいない。自分でこれをやる場合は、赤子が母乳を吸える状態にしてから移り変わらないといけないということか…。一歩間違えたら大惨事じゃないか…。今まで何回転生を繰り返してきたか知らないけど、よく失敗しなかったな…。
私が産んだ子は、お嫁さんたちに産ませた子とは気の持ちようが違う…。母乳を吸っている姿はとても可愛い…。守らなければと思う。これが母性本能…。
やっぱり今まで私は父親しかやってなかったんだな。エルフってホント外見詐欺だ。
それにしても、相変わらずこの胸のサイズでは赤子を育てる栄養が足りないと本能が警告してくる。あのサイズだと手が回らなくて、ルシエラを抱いて母乳をあげられないよ…。私は魂を持っていてご飯を食べられるから、二年分蓄える必要はないんだよ…。
ところで、元のルシエラの身体は魂が抜けて倒れたままだ。呼吸はしているけど、自らの意思で動くことはもうない。本来なら、赤子に移った自分の栄養源になるだけ。だけど、母乳は私が与えるからこの身体は必要ない。だからといって、今まで動いていて、今でも息をしてるのに、火葬したりしなきゃいけないのはちょっとしんどい…。
私は異次元収納にルシエラだったものを入れて時間停止した。これなら腐らせないでそのままにしておける。それに魂のない身体は、何かしら使い道があるだろう。
ルシエラは普通の赤ん坊のように、母乳を飲みながら寝てしまった。そして、しばらくしてまた起きた。口が回らなくてしゃべれないらしい。だけど…
「ららら……♪」
変ト長調のメロディ…。邪魔法だ。いや、魔力がこもってない。そして、内容が「おむつ替えてほしい」だ…。仮に魔力を込めたとしたら、誰かがおむつを替えてくれるという出来事が起こるのだろう…。
「まあ、ルシエラ様は赤ちゃんなのに、もう歌えますのね」
「何の魔法なのかしら」
スヴェトラーナとアナスタシアがルシエラをのぞき込んでいる。
「おむつを替えてほしいんだって」
「それなら私がやるよ」
こういうとき率先して面倒を見てくれるマレリナ。
うーん…。どうせ産むなら、何も分からない普通の赤ちゃんがよかったな…。転生者を子に持つ親の気持ちってこんな感じか…。
★ユリアナ六十四歳(ルシエラ十六歳)
ルシエラは他の子供たちと一緒にすくすくと成長している。だけど、他の子と違って首が据わるように鍛えたり、寝返りトレーニングをしたりするのは転生者の嗜みだろう。ルシエラはベテランの転生者なので、何をすべきか段取りを分かっているようだ。まあ、日本からの転生者ではないので、領地改革したりスイーツを作るのは嗜みの範囲外だ。
筋力強化を使って一ヶ月で首が据わり寝返りを打ち、二ヶ月ではいはいを始め、三ヶ月でつかまり立ち、四ヶ月でよちよち歩くようになった。
生まれ変わりでは、記憶と魔力を引き継ぐことができても、筋力を受け継ぐことはできないのだ。今までも子孫のエルフが守ってくれていたのだろうか。ある程度育つまでは、狙われたら殺されてしまう可能性が非常に高いと思う。
ちなみに、なんで筋力の鍛え直しをしてまで転生したのか。それは、魔力にある。魔力というのは若い方がよく育つのだ。私は小さい頃から祝福のメロディを口ずさみ続けて、ルシエラを超える魔力に到達していた。それに、二〇〇〇歳のルシエラと四十八歳の私では、魔力トレーニングの効率にかなりの差があるようだ。
そこで、転生だ。転生すると転生する前の魔力から始めて、ゼロ歳での効率を得られる。ルシエラはぐんぐん魔力を伸ばして、あっという間に私を超えてしまった。転生前のレベルで冒険を始めたのに、レベル1ころの上がりやすさでレベルを上げられるバグ技のようなものだ。
でも、それならやっぱり、若返るだけでよかったんじゃなかろうか。
まあいっけど…。いや、あまりよくない…。あれからずっと、自分可愛い症候群に襲われている…。自分に欲情したり、もっと胸の大きい自分を求めたり、第三者目線で自分のことが好きなのだ…。
しかし、マシャレッリは平和そのもの。一歳になったルシエラは子供たちに混ざって、教会で歌って遊んでいる。いや、歌って遊んでいるのは私も同じだった。
ルシエラを産んで二年ほどたつと、私の母乳は出なくなり、胸の大きさが足りないという本能の警告も収まった。だけど、自分可愛い症候群は残った。やっぱり胸の大きさが物足りないのだ。精神治療のブレスレットの魔力がバカにならないし、ずっと感情の起伏がないのもイヤなので、子宮の年齢を実年齢に戻してみた。すると、自分可愛い症候群は治まった。
でも、自分可愛い症候群のときの気持ちを思い出すと、自分のことが世界一可愛いのではないかと思えていた…。ほとんど同じ姿のルシエラがそばにいたというのに、自分の方が圧倒的に可愛く見えるのだ。きっとマザーエルフが自家交配するための本能なのだろう…。エルフが両性具有というだけで混乱の極みなのに、雌雄同体のマザーエルフという種族に転生してしまって、いまだに戸惑いも多い。だけど、そんな自分が好きだったりする。それも自分可愛い症候群の症状の一つかもしれない。
そして、さらに時はすぎ、ルシエラは十六歳。背丈も顔つきも私と同じ。体形もほとんど同じ。ほぼ一卵性双生児だ。レティシアもレティシアの子も似たようなものだけど、こちらは顔つきが少し異なり二卵性双生児っぽい。
ちなみに、ルシエラはまた髪の毛を足首ほどにまで伸ばしたので、服を脱いだら髪の長さで区別できる。
「ところでルシエラ。ルシエラの前の身体は時間を止めて取ってあるんだ」
「わらわが燃やしてやろうか」
「脱皮みたいな気分なのかね。でも息してるものを燃やすのはイヤだよ」
「軟弱じゃのぉ」
「でもさ、魂の抜けた身体って、すぐ死ぬわけじゃないんだよね」
「うむ」
「あのさ、私の前世の肉体ってどうなったの?」
「さあ知らぬ」
「えっ…」
「あれはな、邪と空間と時間と心と合成魔法で、あらゆる異世界のあらゆる場所のあらゆる時間から波長の合う魂を探して抜き取る魔法じゃから、魂の器を見たりはしておらぬ」
「はぁ?じゃあ、私って死んだわけじゃないの?」
「死んですぐなら魂を抜き取れるじゃろうが、生きている身体から抜く方が楽じゃな」
「ってことは、薫は魂が抜けて植物状態…」
「なんじゃ、前世に未練があるのか?」
「一人暮らしだから誰にも発見されずにそのまま脱水と飢餓で死んだのかな…」
「魂の召喚は世界はもちろん、時間を超えて魂を取りに行くものじゃから、死ぬのがイヤなら死ぬ前の時刻に行ってどうにかすればよい」
「なるほど…。地球に行けるのか…」
「たぶんな」
私の口から出たのは地球に「帰る」ではなく「行く」だった。私はこの世界でナタシアお母さんに育てられたユリアナなのだ。
その召喚魔法というのは、ルシエラに与えられた記憶の中にある。たんにこの世界にある目に見える範囲の生き物の魂を移し替えるだけなら心魔法でよい。世界を移動するには邪魔法によってことわりを超える必要がある。ことわりを超えた時点で場所も時間も分からなくなるので、空間魔法と時間魔法が必要になる。
これは魂の召喚魔法なので心魔法必要だけど、行き来するだけなら心魔法は必要ない。魂を抜き出す部分を瞬間移動に変えれば、異世界転移の魔法に早変わりだ。たぶん。
魂の抜けた薫を死なせないようにするためには、魂を入れる必要がある。もちろん、私の魂を薫に戻すのはナシだ。私は薫の記憶を持ってるだけのユリアナ。薫だって、アニメ声というチート能力を失いたくない。
では誰の魂を入れればいいのか。魂はただの電池のようなものと考えるのなら、ハンターギルドから奴隷を買えばよい。だけど、三十六歳の薫というのはユリアナの波長に合うから選ばれた魂なのだ。波長というのは、聞こえる音だ。三十六歳の薫が聞くドレミがユリアナの聞くドレミに一致したのだ。それに、アニメ声好きというのも一致している。
それに、魂だけ呼び出したといっておいて、ユリアナには薫の記憶が蘇った。魂も記憶を持っているのではないかという仮説が浮かぶ。ルシエラから与えられた知識にはちょっと抜けがあるのだ。
しかたがないので、また奴隷を買って、魂に関する実験をすることにした。
奴隷の到着までに、二十二年前に奴隷として買って、魂を入れ替えてから赤ん坊まで若返らせて、孤児として教会に預けた三人がどうなっているか確認した。記憶を消す前にやらかした悪行の記憶は、私が読み取って覚えている。教会を訪れてこっそり三人の記憶を読んでみたけど、それらしい記憶が蘇ったりはしていない。それに、可愛く成長する魔法をかけてしまったので、誰が誰だか分からない…。
記憶を消す前の三人の所行を覚えているか、三人にアンケートを取ってみた。残念ながら思い当たることはなし。
そして、奴隷が納品された。私とルシエラは地下の実験場に赴いた。ここで、異次元収納に入れて時間停止しておいた古いルシエラの身体が登場。奴隷たちから魂を抜き取ってルシエラの身体に移し替えてみる。魂の移し替えの魔法で移動させる魂は青白い光のようにみえるけど、実際にフォトンとかを発しているわけではなくて、幽霊みたいな存在のようだ。
「ん、ん~…。なんじゃ…。わらわは魂を赤子に移したはずじゃが…」
目覚めたルシエラ。赤子に魂は移したけど、記憶はコピーしただけで、元の身体から消去したわけではないのだ。記憶をコピーして魂を移動したルシエラのアイデンティティは、今私の隣にいる十六歳のルシエラにあるはず。じゃあ、記憶が元のままで、魂だけ入れ替えた古いルシエラはルシエラじゃないのかな。
「ユリアナが二人おる…」
十六歳のルシエラと私を交互に見て、両方ユリアナだと判断した、古いルシエラ。
「わらわはルシエラじゃ。古い身体に別の魂を入れたことでおぬしの意識は蘇った」
「なんじゃ、古い身体を燃やさんかったのか。人の身体で遊ぶでない」
「ねえ古いルシエラ。今ね別の魂を入れてあるんだけど、魂が持ってる記憶を思い出せない?」
「んー。わからん」
「じゃあ、加速試験してもいいかな。加速して何十年か何百年かここで過ごしてもらってもいい?」
「よいぞ」
「即答か。じゃあ。なんか思い出したら合図して」
「うむ」
奴隷でやった加速試験を古いルシエラにやらせてみる。ルシエラが早廻しでからからと動いたり寝たりしている。そして、ルシエラの髪がどんどん伸びていく。親しい者に対してあり得ないと思って一応聞いてみたけど、数百年なんて数ヶ月くらいにしか感じないし、ルシエラはその気になれば平気で何万年も引きこもっていられるので、これくらいどうってことないのだ。
古いルシエラを牢に閉じ込めて果物や生活用品などを配置。そして一万倍加速。数分して古いルシエラは合図をよこしたので、加速を解除。
「何か思い出した?」
「なんも思いださんが、魔法が発動せんのじゃ。それでな、おぬしに声がやけに高く聞こえるから、その分高い声で歌ってみたら、それなりに発動したのじゃ」
「魂を入れ替えたら聞こえる音が狂うのかな」
「かもしれぬ」
「魂の元となった記憶は蘇んないか」
「何か聞いたら思い出すかもしれん」
「あっちの牢で寝てる女盗賊の魂だよ。殺した人の数は六十五人」
「おぬしは魂に記憶が宿ると仮定しておるのに、よくそんな危険なものをわらわの身体に入れるのぉ」
「そうだねえ。悪いことする前に言ってね」
「もう悪い魔法を仕込んでるかもしれんぞ」
「うーん。じゃあ、危ないから古いルシエラの記憶から魔法に関する知識を消すね。最後には今のルシエラから記憶を戻すから」
「戻さんでよい。終わったら魂を抜いて燃やすがよい」
「燃やさないよ」
「そっちのが本物のわらわなのじゃろう。わらわは消えるべき存在じゃ」
「まあ、どうしても消えたいっていうなら、また魂を抜いて時間を止めておくよ」
「かってにせい」
アイデンティティが魂にあるといわれても、同じ記憶を持ってる身体に未練がないわけないでしょう。本来は母乳を与えて朽ちるだけといわれても納得できない。
結局、古いルシエラに女盗賊の記憶は蘇らなかった。でも、波長のあった魂を入れないと、音感が狂ってしまうことは分かった。
まあ、そのために同じ波長を持つ魂を探すというメロディが入っているのだ。魂の抜けた薫に入れる魂は、波長の同じものにしたい。薫はもう私とは別人だけど、生かせるなら生かしたいし、絶対音感が狂うようないい加減な対処もしたくない。かといって、生きている誰かの魂を抜き取ってしまっては、玉突きしてるだけなので、死ぬ寸前で波長が同じ者という限定を加えて検索することにした。死ぬ寸前の人間の魂が抜けて昏睡状態になるのはそれほど不自然ではないだろう。
「じゃあ古いルシエラ、またね」
「もう呼び起こすでない」
「ふんふん…♪」
でろんと崩れ落ちる十二歳…から数百年たって少し成長した、古いルシエラ。おやすみ。
とりあえず、魂は女盗賊に戻した。
それと、時魔法の実験をすることにした。時魔法はけっこういろいろできるのだけど、ルシエラから受け継いだ知識には細かい仕様情報がないのだ。
ものや空間の時間が流れる速さを変える。
ものや空間を違う時刻のものにすり替える。
ものや空間を違う時刻に移動させるタイムスリップ。
生き物の意識を、違う時刻の同じ固体にコピーするタイムリープ。
違う時刻のことを見たり聞いたりする、過去知覚、未来知覚。
回生魔法だけど、ものや空間の時間の流れを止めるか遅くする。
違う時刻というのは過去でも未来でもよい。時間を行き来したりするひととおりのフィクションができることになっている。
ここで問題になるのは過去に行ったり未来を知ったりした場合のタイムパラドックスだ。未来知覚をするか、現在の出来事を知ったまま過去に移動したら、当然悪い出来事を回避しようとする。悪い出来事を回避したら、知っていた未来の情報はウソになってしまう。その未来は起こりえないので、情報を入手することはできないから、情報を持って過去に行くことはなくなってしまうという矛盾が発生する。
先祖の頭が悪くて子孫が借金まみれになってしまったので、先祖を校正するために過去にロボットを送り込むという有名な話がある。ロボットのおかげで先祖は校正し、子孫は借金を免れるのだろうか。
タイムマシンを悪者に奪われて、自分の先祖を殺されて自分が生まれなかったことになりかけるという話がある。私が過去に行って、ルシエラが薫の魂を召喚することを阻止したら、私は消えるだろうか。
などと考えていたら、突然それは現れた…。
「ごきげんよう」
「えっ」
可愛いアニメ声の少女。私と同じ姿形をしている。今やルシエラも私となんら変わらないし、さっきまでルシエラの記憶を持った生き物がもう一人いたのだから、この際私と同じ顔がもう一人増えたところであまり驚かない。
「私は翌日のあなただよ」
「ああ。一日後からタイムスリップで来たんだね」
「疑問に思っていることを教えてあげる」
「なるほど…」
「私も昨日、一日後の私に教えてもらったんだ」
「へー…」
まず、私の目の前にいるユリアナBは、実のところ翌日の私ではない。私は明日、一日前にタイムスリップしないかもしれないし、一字一句同じ言葉をしゃべらないかもしれない。このユリアナBは別の個体なのだ。
このユリアナBはさらに一日後のユリアナCから情報を得たかもしれないけど、でも最後には一日後のユリアナから情報を得たのではなく、自分で実験調査して情報を得たユリアナZがいないとおかしいのだ。そして自分で実験調査したユリアナZが私でないのは明らかだ。途中には、翌日のユリアナから聞いた情報だけでは足りずに、自分で追加試験をしたユリアナDとかEもいるかも知れない。
時間の移動は世界線の作成だ。一本の時間軸を前後に移動するのではない。過去にタイムスリップするか、過去にタイムリープするか、未来知覚した場合は、未来の情報を得た世界線を作成して、その世界線に移動したことになる。未来の情報を得なかった世界線には二度と戻れない。世界線はイミュータブルであり、改変された世界線を作成することはできても、既存の世界線を改変することはできない。イミュータブルオブジェクトを更新するときはコピー・オン・ライトが基本である。未来の情報が加わった新しい世界線を作るしかないのだ。
つまり、私が過去に戻って私やルシエラを殺しても、私が消えることはない。逆にいうと、私が薫を助けに行ったところで、薫が助けられなかった世界線というのは依然として存在する。助けることにいまいち意味があるのか分からなくなってしまったけど、とりあえず行ってみたいと思う…。
ところでタイムスリップの魔法だけど、未来知覚やタイムリープと違って、かなりエグい…。この、翌日のユリアナBは話を終えて翌日に帰ったようだけど、実際のところ帰らなくても一日待てば明日になるのだ。するとこの世界線にはユリアナが二人いることになってしまう…。
それに、ユリアナがBが帰った翌日は、ユリアナがBが前日にタイムスリップした世界線を元にして作成された世界線だけど、実際のところ、今私がいる世界線を元にして翌日の世界線を作ってもいいのだ。すると、私はそのまま翌日に存在するから、私はユリアナBが帰ってくるのを目の当たりにして、やっぱりユリアナが二人いる世界線になってしまう。
それから、タイムスリップの魔法では、人物を指定する場合、「身につけているものも一緒に」というメロディが含まれている。そして、身につけているものには、異次元収納も含まれているのだ。
結局、時魔法の実験はせずに済んだ。最後に、女盗賊の記憶を消して赤ん坊に若返らせて、可愛く成長する魔法をかけて教会にぽいっと。これは犯罪者の更生プログラム、もしくは人間リサイクルなんだ。
というわけで、また地下の実験場に赴いて、まず、薫に入れる魂を探すのだけど、
「ルシエラ、これどんだけ魔力いるの?」
「わらわはおぬしを呼び寄せるのに二万年間魔石に魔力を貯めたぞ」
「まあ、今の発魔器なら余裕だね」
「邪属性も必要じゃぞ」
「あ…、そうだった…」
「にひひ。わらわは毎日全部の魔力を魔石にためておるぞ」
「ナイス!ルシエラ!」
ルシエラは二年間ヒキニートをしていたと言っていたが実際には魔力を貯めていたのか…。
というわけで、薫用の魂を召喚した。薫や私と同じ波長を持ち、死ぬまで一週間を切っている者。それを、あらゆる世界のあらゆる時間から探したのだ。
そして、異次元収納から取りだしたるは、またまた古いルシエラ。召喚した魂を古いルシエラに入れてみよう。
「んん~…。なんじゃ、まだ何か用があるのか…」
「古いルシエラ、魔法音楽を歌ってみて」
「ふむ…。ららら……♪ああ、さっきと違って魔法が発動するな。別の魂を入れたのか?」
ルシエラの中では時間がたってないので、盗賊の魂を抜いてからすぐに薫用の魂を入れられたことになる。
古いルシエラは水を出す魔法で効率を確かめた。
「うん。波長の合う魂」
「そうか。それはよかったな。はようわらわを燃やしてくれ」
「さよなら。ふんふん……♪」
魂が抜けてバサリと倒れる古いルシエラ。私は魂を異次元収納に入れて時間停止させた。
ちなみに、この薫用の魂を召喚するとき、ルシエラの魔法に手を加えて、どこのどの時代から誰の魂をもらってくるのか調べられるようにしたのだ。その結果、この魂は薫のひいおじいちゃんの魂であることがわかった。波長の合う魂って、血でもつながっているものなんだねぇ。
あとは、魔力の準備だ。発魔器を加速すれば、単位時間あたりの発魔量はいくらでも上げられるけど、一度に大量の魔力を食う異世界転移魔法を使おうと思ったら、必要な魔力を瞬時に引き出せるように魔石に貯めておかなければならない。
しかし、その魔石の量が半端じゃない。六十四年前にルシエラが薫の魂を呼び寄せるのに使った魔石がルシエラの村にあった。だけど、魂の移動よりも肉体ごと移動させる方が何倍も魔力を食う。しかも、ルシエラもついてくるとか言っているし、一応往復できるだけの魔力も貯めていった方がよいと思うので、結局のところ、一〇〇トンほどの魔石を用意するはめになった。魔石を農場の魔物から捕れるようにしてなかったら大変になるところだった。
それに、世界をまたぐには邪魔法が必要になる。そして、邪の魔力は発魔器で生み出すことができない。そのため私は、邪とか、発魔器で生み出せない聖と心の魔力を、毎日コツコツ魔石にためていたのだ。
「これで大丈夫かな…」
「心配性じゃのぉ。仮に失敗しても、今はマザーエルフがいっぱおる」
「いや、まあそうだね…」
ルシエラは個にあまり執着がなくて、種が存続すればよいと考えているようだ。
「お気を付けて」(スヴェトラーナ)
「私も行きたかったわ」(アナスタシア)
「お土産よろしくー」(ブリギッテ)
「ルシエラだけずるい!」(マリア)
「魔力なしで動く道具をいっぱい持ち帰ってください!」(セラフィーマ)
「ユリアナ…」(マレリナ)
「まあ、うまくいけば私たちが消えた直後に戻ってくるよ。みんなには私たちが移動したのか分からないかも。それじゃ!」
私とルシエラはキーボードと鼻歌で変ニ長調と変ト長調と変イ長調の気持ち悪い合成魔法を演奏して、マシャレッリから姿を消した。
★ユリアナと嫁
とくに記載のないかぎり三十一~歳。
■ユリアナ(ユリアーナ・マシャレッリ侯爵)
キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。身長一四〇センチのまま。口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■マレリナ(マレリーナ・マシャレッリ侯爵夫人)
かなり明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。身長一六五センチ。口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■アナスタシア・マシャレッリ侯爵夫人
濃い青紫髪。ストレート。腰の長さ。身長一二五センチ。口調はお嬢様言葉。
■マリア・マシャレッリ侯爵夫人
濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。身長一三五センチ。口調はほぼ平民言葉。
■スヴェトラーナ・マシャレッリ侯爵夫人
濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。爆乳。身長一七〇センチ。口調はですわますわ調。
■セラフィーマ・マシャレッリ侯爵夫人
真っ白髪。口調はですます調。
■ブリギッテ・マシャレッリ侯爵夫人(ユリアナ+二十歳)
濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。爆乳。身長一六五センチ。口調は平民言葉。
■ナタシア(ユリアナ+十二歳)
ユリアナの育ての親だったのに子を孕んでしまった。
■ルシエラ
ユリアナの産みの親。マザーエルフと呼ばれている。二〇〇〇歳くらい。
地面に擦りそうな長さのキラッキラの銀髪。身長一五〇センチ。人間の十二歳くらいの顔つき。エルフ級の巨乳。
★ユリアナの子(ユリアナより十六歳下)
とくに表記がないかぎり一四〇センチ。
■アンジェリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢
アナスタシアの産んだ子。くすんだ輝く黄金の髪。少し耳が長い。アナスタシアではなくタチアーナに似ている。ハイエルフ。
■アレクサンドラ・マシャレッリ侯爵令嬢
スヴェトラーナの産んだ子。くすんだ輝く青紫髪。少し耳が長い。ハイエルフ。一四五センチ。
■ラティア・マシャレッリ侯爵令嬢
セラフィーマの産んだ子。くすんだ赤の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■ソフィア・マシャレッリ侯爵令嬢
マレリナの産んだ子。くすんだ緑の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■フィオナ・マシャレッリ侯爵令嬢
マリアの産んだ子。くすんだ赤紫の髪。少し耳が長い。六歳相当の身長と童顔。ハイエルフ。一二〇センチ。
■マルグリッテ・マシャレッリ侯爵令嬢
ブリギッテの産んだ子。くすんだ橙色の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■レティシア
ルシエラの産んだ子。明る銀髪。少し耳が長い。マザーエルフ?
■アリア
ナタシアの産んだ子。明るい銀髪。耳が長く成長するのを阻害する魔道具を使ってるので耳は長くないが本当はハイエルフ。
★ユリアナの子の嫁
・ソフィアの嫁
アンドレア・ベンシェトリ伯爵令嬢、ジェニファー・シェブリエ侯爵令嬢、アストリーナ・シェルトン子爵令嬢。
・フィオナの嫁
カーシャ・フェッティ子爵令嬢、シーラ・コロボフ子爵令嬢。
・マルグリッテの嫁
フランカ・アルヴィナ男爵令嬢、ヘルミーナ・スポレティーニ子爵令嬢、ジルフィア・ジェルミーニ男爵令嬢。
・ラティアの嫁
ヴェラ・シェルトン子爵令嬢。
・アンジェリーナの嫁
ポリーナ・ルブラン男爵令嬢、ジュゼッピーナ・バトカス子爵令嬢、カトリーナ・ジェルミーニ男爵令嬢、フランチェスカ・コロボフ子爵令嬢。アンジェリーナと共にアバークロンビー王国へ。
・アレクサンドラの嫁
アマーリエ・ベルヌッチ伯爵令嬢、ルクレツィア・トライオン伯爵令嬢、ザビーネ・マラカルネ侯爵令嬢、クラウディア・フェッティ子爵令嬢、クレメンティア・ベンシェトリ伯爵令嬢。アレクサンドラと共にウッドヴィルへ。
★マシャレッリ元侯爵家
■エッツィオ(ユリアナ-六歳)
タチアーナとセルーゲイの子。濃いめの緑髪。
■セルーゲイ
引取先の貴族当主。濃いめの水色髪。
■タチアーナ
濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。
■ディミトル(ユリアナ-十六歳)
タチアーナとセルーゲイの子。淡い黄色。一五〇センチ。
■オルガ
マシャレッリ家の老メイド。
■アンナ
マシャレッリ家の若メイド。
■ニコライ
マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。
■デニス
マシャレッリ家の執事、兼御者
★エッツィオの嫁
■ヴァレーリア・フェッティ子爵令嬢
オフィーリアの妹。淡い黄色髪。エッツィオの同期。
■フランチェスカ・マラカルネ侯爵令嬢
濃い水色髪。エッツィオの嫁。エッツィオの同期。
■ミシェーラ・ベンシェトリ伯爵令嬢
赤髪。アルメリアの妹だ。エッツィオの二歳上。
■カトリーナ・ベルヌッチ伯爵令嬢
緑髪。パオノーラの妹だ。エッツィオの一歳上。
■ジュリエッタ・シェルトン子爵令嬢
淡い白髪。エレノーアの妹。エッツィオの一歳下。
■マルセーナ
淡い青髪。アルベール男爵の妹。エッツィオの二歳下。
★エッツィオの子
■ヴィクトリア
淡い赤髪。♀。ヴァレーリアの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■ジナイーダ
濃い桜色髪。♀。フランチェスカの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■マフマドベク
黄色髪。♂。ミシェーラの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■オレイシャ
淡い水色髪。♀。カトリーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■アルトゥール
淡い青髪。♂。ジュリエッタの産んだ子。年齢はエッツィオの十七下。
■カーシャ
淡いオレンジ髪。♀。マルセーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十八下。
★エッツィオのその他の同期生
■カルーロ・スポレティーニ子爵令息
エンマの弟。淡い赤髪。
■ロレンツォ・ジェルミーニ男爵令息
淡いオレンジ髪
■アンジェロ・コロボフ子爵令息
淡い青髪。
★ローゼンダール王と王妃(ユリアナの同期)
■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王:黄色髪
■エミリーナ(正室):濃いめの赤髪
■エンマ(側室):薄い水色髪
■パオノーラ(側室):水色髪
■アルメリア(側室):オレンジ髪
■ベアトリス(側室):薄い青髪
■キアーラ(側室):濃い赤髪
■エレオノーラ(側室):オレンジ髪
■オフィーリア(側室):青髪
■ヘレン(側室):淡い赤髪
■シェリル(側室):淡いオレンジ髪
■テレサ(側室):青髪
■エレノーア(側室):淡い水色髪
同期の王妃は全部で十九人おり、上記以外にも七人いる。
他にも同期でなく、一つ上の代の王妃が三人、一つしたの代の王妃が三人いる。
★ユリアナのその他の同期
■アルベール・ルブラン男爵
薄めの黄色髪。
■イアサント
エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。退学。
■ジョジョゼ
エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。退学。
■ドリエンヌ
パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。退学。
■クレマノン
パーノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。退学。
★学園の教員、職員
■ワレリア
引退。元女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。
■アリーナ
明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。
■ダリア
紫髪。空間魔法の女教師。
■アレクセイ
ピンク髪のおっさん教師。
★ユリアナの娘の同級生
■コンスタンチン・ローゼンダール王子
髪色はオレンジ。
■ジェフスカーヤ・ローゼンダール王女
髪色はくすんだ紫。六連装ドリル。耳が少し長い。ユリアナの隠し子。ハイエルフ。
■ブラッドフォード・ヘンストリッジ王子
エメラルドグリーン髪。ローゼンダールから西に一〇〇〇キロ離れたヘンストリッジ王国の王子。
■ポリーナ・ルブラン男爵令嬢
淡い赤髪。
■淡い黄色髪のクセーニア・アルヴィナ男爵令嬢
淡い黄色髪。
■オレイシャ・パレルモ子爵令嬢
淡い青髪。
■ディアーナ・シェルトン子爵令嬢
淡い水色髪。
★ユリアナの嫁の家族
■オレリア
マレリナの母。
■イゴール
マレリナの父。
■ビアンカ
マリアの母。
■ステファン
マリアの父
■エルミロ
マリアの弟。
■ウラディミール
オレンジ髪。スヴェトラーナの父。
■エリザベータ
薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。スヴェトラーナの母。
■エドアルド・フョードロヴナ公爵(ユリアナ-二歳)
黄緑髪。公爵位を継いだ。
■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵
セラフィーマの父。オレンジ髪。
■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人
セラフィーマの母。レモンイエロー髪。
■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵
淡い黄色髪。ブリギッテの養父。
■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人
淡い水色髪。ブリギッテの養母。
■ジュリクス・ジェルミーニ男爵
ピンク髪。マリアの養父。独身。
★その他
■ハイドラ
成人ハイエルフ。エリザベータ級の爆乳。五〇〇歳くらい。
やや明るく緑がかった銀髪。紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■サンドラ
成人エルフ。巨乳。
葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■リュドミラ
ルシエラの側近のハイエルフ。やや水色がかった明るい銀髪。八〇〇歳くらい。
紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■ラーニナ、アネスタ、エリザンナ
他のエルフ村の村長。ハイエルフ。
■ニーナ
成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。
十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。
■アブドゥルラシド、元ローゼンダール王
空色の髪。
■ヴァレンティーナ、元ローゼンダール第一王妃
明るい青の髪。
■レナード(ユリアナ+三十四歳くらい)
コロボフ子爵領の村の神父。
■ハンス
マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。
兼教会の木琴教師。
■クレマノンの母
元男爵夫人。淡い赤髪。
■ジョジョゼの母
元男爵夫人。淡い水色髪。
◆エルフ
耳が長い。女性しかいない。人間の五倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から五十歳までは、身長と顔つきの成長が五分の一になる。胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。五十歳エルフの胸の大きさを巨乳と記す。五十歳を超えると成長は止まり二五〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。二五〇歳以降は人間と同じ速さで老化して数十年で老死に至るが、その前に自殺してしまう者が多い。
◆ハイエルフ
耳が長い。成人するとエルフよりも耳が長いが、実年齢ではエルフよりも耳が短い。女性しかいない。人間の二十倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から一七〇歳までは、身長と顔つきの成長が二〇分の一になる。十八歳までは胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。十八歳以降は若干遅くなるが、一七〇歳まで成長し続けるので、エルフを超える爆乳になる。一七〇歳ハイエルフの胸の大きさを爆乳と記す。一七〇歳を超えると成長は止まり一〇〇〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。一〇〇〇歳以降は人間と同じ速さで老化して数十年で老死に至るが、その前に自殺してしまう者が多い。
◆マザーエルフ
ルシエラとユリアナだけの種族。人間よりも耳が長いが、若いときはエルフよりも耳が短い。人間の一〇〇〇倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から一〇〇〇〇歳までは、身長と顔つきの成長が一〇〇〇分の一になる。十八歳までは胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。十八歳以降は成長がほぼ見られなくなるが、一〇〇〇〇歳まで成長し続けるので、ハイエルフを超える、動くのもおっくうなほどの爆乳になる。一〇〇〇〇歳を超えると成長は止まり五〇〇〇〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。五〇〇〇〇歳以降は老化が始まるが、老死する前に自家交配により自らの分身である子を成して転生してしまうので、老死に至ったことはない。
◆ローゼンダール王国
貴族家の数は二十三。
N
⑨□□□⑧
□□□④□⑪□
W□⑥□①□⑤□E
□□□□⑦□□
□□②□□
□□□
⑩③
S
~
□□?⑬
~
⑫
~
⑭
①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領
⑩巨大ミツバチの巣(国外)
⑪ルブラン子爵→男爵領
⑫エルフの村1、⑬ブリギッテの出身地?、⑭ルシエラ王の村
一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。
◆ローゼンダール王都
N
■■■□■■■
■□□□□⑨■
■□□□□□■
W□□④①□□□E
■□⑥□□②■
■□⑤□③□■□□⑧
■■■□■■■□□⑧
□□□□□⑦□□□⑧
S
①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁
◆周辺国
N
③□④□⑤
□□□□□
W⑥□①□⑦E
□□□□□
②②②②②
S
①=ローゼンダール、②=エルフの森、③=ウッドヴィル、④=リオノウンズ、⑤=アバークロンビー、⑥=ヘンストリッジ、⑦=ヴェンカトラマン
1マス=1000キロくらい
◆音楽の調と魔法の属性の関係
ハ長調、イ短調:火、熱い、赤
ニ長調、ロ短調:雷、光、黄
ホ長調、嬰ハ長調:木、緑
ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色
ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青
イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色
ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク
変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色
変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白
変ト長調、変ホ短調:×邪、不幸、呪い→○世の中のことわりの管理、黒
変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫
変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金