14 娘たちの時代
★転生十九年目、冬
★転生二十年目、春夏、娘たちの学園一年生前期、夏休み、後期
★転生二十一年目、夏冬、娘たちの学園二年生後期
★転生二十二年目、冬、娘たちの学園三年生後期
★転生二十三年目、夏、娘たちの学園四年生後期
★アリア九歳
私、アリア。ナタシアお母さんと農村に暮らす九歳の女の子。お母さんや他の大人たちも髪はみんな灰色だけど、私は少し明るい灰色の髪をしている。周りの子も少しだけ色の付いた髪をしているので、別段珍しいことじゃないみたい。でも、私の髪だけピッカピカなんだよね。
ピッカピカの髪といえば領主様の娘たち。私は三歳の時からワープゲートでマシャレッリの領都にある教会に通っている。領主様の娘の髪は私と同じくらいピッカピカ。とくにレティシアちゃんは私よりもピッカピカ。ピッカピカの髪を持ってる子は領主様の娘以外にいない。領主様の娘は耳が長いエルフっていう種族らしい。私は領主様の娘じゃないしエルフみたいに耳が長くもないのに、髪がピッカピカなのはなんでだろう。まあいいや。
教会では魔法や読み書き、計算とか、社会、理科、いろんなことを教えてもらえる。中でもいちばん楽しいのが音楽。三歳で通い始めたときに、まず全員に木琴とリコーダーをもらえる。みんなと音楽を演奏する時間がとても楽しい。
「アリアちゃん、一緒に歌おう!」
「はーい!」
緑髪のソフィアちゃんが私に声をかけてくれた。
「「春が早く来ないかな……♪」」
それからレティシアちゃん、アレクサンドラちゃん、アンジェリーナちゃん、ラティアちゃん、フィオナちゃん、マルグリッテちゃんが加わって八人で歌った。
そこにユリアナ先生とルシエラ先生が加わった。先生たちは違うパートを歌ってくれるので、歌の音がいっきに広がる。私はこの時間がいちばん好き。だってユリアナ先生、やさしいから。
私たちが歌っていると、他のみんなが集まってきて、春の歌を木琴とリコーダーで演奏し始めた。他のみんなも一緒に歌えばいいのに楽器だけなんだよね。
私はワープゲートを通ってお母さんの待つ家に帰った。
「ただいまー」
「お帰りなさい。今日はどうだった?」
「今日はね、友達の女の子たちと歌ってたら、ルシエラ先生とユリアーナ先生も加わって、それから他のみんなも楽器で参加してくれて、みんなで仲良くすごしたんだー」
「そう…。友達と仲良くやれてよかったわね。ユリアーナ先生に迷惑かけちゃダメよ」
「ユリアーナ先生も楽しかったみたいで喜んでたよ」
「それならいいわ」
私が楽しかったという話をしたのに、お母さんはなんだかちょっと寂しそうな顔をしていた。なんでだろうな。もうすぐ卒業で友達とあまり会えなくなるからかな。
領主の娘は十歳から王都にある学園に行くんだって。休日は一緒に遊べるといいな。
私は卒業したら教会で音楽の先生をやることになった。私の音楽の才能はすごいからってユリアーナ先生に斡旋されたんだ。春から毎日楽器を演奏したり歌ったりしていられるなんて楽しみだな。
★★★★★
★ユリアナ二十五歳
季節は冬。私の子供たちは九歳。みんな、それぞれの産みの親と私に面影がある。まだ耳はそれほど長くないけど、幼少期のショートヘアでは耳が隠れなかったから、周囲にはエルフだと認識されている。ハイエルフというのはあまり認知されてないので、エルフでひとくくりだ。
アナスタシアの産んだ、くすんだ黄金髪のアンジェリーナはアナスタシアに似ている。だけど、七歳のときにアナスタシアの身長に並び、九歳の今ではアナスタシアを抜かしてしまった。アンジェリーナの方が姉に見える。もうすぐ私に並びそうだ。
アナスタシアが大きくなれなかったのは栄養失調が原因だ。ちゃんと食べているアンジェリーナはすくすくと成長している。標準身長で標準体形だ。だけど、アナスタシアの胸は成人相当に改造してあるので、まだ膨らみ始めたばかりのアンジェリーナには負けないよ。
性格はアナスタシアではなくてタチアーナに似ているようだ。アナスタシアほど真面目ではなく、情熱的。口調も十七歳っぽいし。アナスタシアの真面目な性格はセルーゲイ似なんだな。
スヴェトラーナの産んだ、くすんだ青紫髪のアレクサンドラは、悪役令嬢っぽい顔立ちがスヴェトラーナにそっくりだ。スヴェトラーナに似て長身で、他のみんなよりも五センチほど背が高い。というか、私と並んでしまった。なんてこった。
それに、胸が…すでに私より大きい。六歳から膨らみ初めて急激に大きくなった。スヴェトラーナの胸は十歳の時にエルフサイズの巨乳だったので、アレクサンドラも来年には巨乳になりそうだ。ハイエルフは成長期が一〇〇年以上あるから爆乳になるというのに、今からこんな大きさになってしまってどうするのだろうか。
それに、髪の毛がめちゃくちゃ多い。エリザベータと同じ四連装ドリルを作ってもなお、人一倍の髪の毛が残っており、残りの部分はウェーブロングにして腰まで伸ばしている。
セラフィーマの産んだ、くすんだ赤髪のラティアはセラフィーマによく似ている。だけどセラフィーマと違って名前を覚えることはできるようだ。
それに、魔道具や研究バカなのもそっくりだ。教会で魔道具も教えているのだけど、食いつきがすごい。
マレリナの産んだ、くすんだ緑髪のソフィアは、マレリナに似て真面目で献身的。アナスタシアのような身体の弱い子はいないけど、教会で下の子の面倒をよく見てくれている。
マリアちゃんの産んだ、くすんだ赤紫髪のフィオナは、マリアちゃんに似て小柄。アレクサンドラだけは少し長身だけど、他の子はみんな標準体型なのにフィオナだけは幼女だ。九歳だけど六歳くらいに見える。マリアちゃんの母親のビアンカも小柄で童顔だから、これは遺伝だね。
まあ、マリアちゃんもフィオナも子供っぽい性格をしてるし、見た目と中身が一致してて、可愛い妹系キャラを貫いてるよ。
ブリギッテの産んだ、くすんだ橙髪のマルグリッテは、ブリギッテに似てアクティブでボーイッシュ。剣術や弓術で暴れまくっている。
エルフの産んだ子だからといってそれほど特別ということもないみたい。ブリギッテが巨乳だったのはエルフで成長期が長いからであって、あれは標準体型なのだ。アレクサンドラみたいに遺伝子レベルで巨乳というわけではない。
お嫁さんたちの産んだ子はお嫁さんたちによく似ている。だけど、私にはあまり似てないような気がする。そもそも、エルフというのはすべてルシエラの子孫だし、魔法使いというのもほとんどルシエラの子孫だ。だけど、マザーエルフの容姿はあまり遺伝しないようになっているのかな。
一方でルシエラの産んだ、明るい銀髪のレティシアは、私と完全に同じ顔!というわけではなかった!ルシエラは私の成長した顔をしているのに、レティシアは私が九歳のときの顔とちょっと違う。
そもそも、私ってルシエラのクローンなの?一卵性双生児ならクローンになるのはわかる。でもルシエラが子供を産むときにルシエラと同じ卵子というわけでもないだろうから、一卵性双生児じゃなくて二卵性双生児か姉妹ってところなんじゃないの?まあ、自家交配ってちょっとファンタジーすぎてよく分からないので、必ずクローンができるようになってるのかな。
それに対して、私がルシエラに子供を授けるのは決められたやり方じゃないから、クローンにはならなかったってことなのかなぁ。レティシアは一歳下の妹ってところだね。
そして、私の隠し子…。ナタシアお母さんの産んだ、明るい銀髪のアリア。耳が伸びないようにするイヤリングのおかげでエルフだとは思われてないんだけど…。性格は前世の記憶を思い出す前のユリアナに似てるんだよね。お母さんに育てられたところも共通だし。天真爛漫でいつも笑顔なアリア。とても可愛い。薫が宿らなければ、私ってあんなだったのだろうか。
何よりマズいのが、私の娘たちは歌を教えたら相対音感を身につけて、地球人並みに歌えるようになってしまったことだ。アリアはマシャレッリ侯爵令嬢ズに混ざって、教会で歌っているのだ。歌えるのは私とルシエラと私の子だけなのだ。
六歳のころから二十五歳に至る今まで私と音当てクイズをやっているマレリナでさえ、歌えるようにはなっていない。もちろん、他のお嫁さんたちも歌えない。
マシャレッリ領内でよく見かけるようになったリュドミラや他のハイエルフでさえ、歌わせてもあまり正しい音を出せない。ハイエルフというのは、ルシエラの子を掛け合わせて生まれる、ルシエラの遺伝子を五〇%以上持った者のはずだ。ルシエラか私の子供でなくとも、小さいころから教育すれば他のハイエルフだって歌えるようになると信じたい。
「アリアちゃん、一緒に歌おう!」
「はーい!」
私は教師として教会を訪れた。一緒にやってきたソフィアがアリアに声をかける。小さいころのマレリナと私を見ているようだ。いや、大きさは今の私とあまり変わらないけど。
かっかっ。木琴を鳴らしてキーを確認している。二人が持っているのは絶対音感ではなくて相対音感なので、最初の音を楽器で調べなければならない。
「「春が早く来ないかな……♪」」
そして、楽器を鳴らさずに歌っている。弾き語りはできないみたいだ。でもなにより、その声はアニメ声でとても可愛い…。いつまでも聞いていられる。
「わらわも入れるのじゃ!」
「「いいよ!」」
そこにレティシアが加わる。レティシアはなぜかルシエラの口調をまねて、のじゃキャラになってしまった。ルシエラはあまり子育てしてないので、レティシアの生活面は主にメイドが見ているのに。口調とか遺伝するものじゃないだろう。でもアンジェリーナの十七歳口調は隔世遺伝かな?
かっかっ……♪
「「「春が早く来ないかな……♪」」」
レティシアは絶対音感を持っているので、キーを確認する必要がない。それに、木琴を叩きながら弾き語りできる。およそ私と同じことをできるようだ。魔法の属性が一つ少ないからといって、マザーエルフの出来損ないというわけじゃない。なにより、私とほぼ同じアニメ声というチート能力を持っている。他の子もアニメ声だけど、レティシアは別格だ。やはり、アニメ声というチート能力はルシエラの遺伝子に備わっているものようだ。
ちなみに、レティシアはマシャレッリ侯爵令嬢じゃないけど、仲間はずれにしたら可哀想だからそれなりのドレスを着ている…。まあ、他の娘も、平民とか貴族とか関係なしに教会の他の子供たちと打ち解けているから、レティシアが何者だろうと関係ないんだけどね。
「わたくしも一緒にやりたいわ」
「私もぉ~」
「私も入れてください」
「ずるい~」
「私も入れてもらおっかなー」
「「「もちろん!」」」
「「「「「「「「春が早く来ないかな……♪」」」」」」」」
さらに、アレクサンドラ、アンジェリーナ、ラティア、フィオナ、マルグリッテが加わって大合唱。みんな少しずつ声が違う。ああ…、可愛いアニメ声の娘たちの歌で、私は天にも昇る気持ちだ…。
「おかあさまぁ~、とろけてないで一緒に歌いましょぉ~」
「えっ、ええ」
私が昇天していると、アンジェリーナがやってきて私の手を引っ張った。
「ルシエラ母様もやるのじゃ!」
「しかたがないのぉ」
常勤のルシエラ先生がうらやましそうに子供たちのことを見ていると、レティシアが声をかけてきた。待ってましたと言わんばかりのルシエラ。
「「「「「「「「「「春が早く来ないかな……♪」」」」」」」」」」
子供たち八人に私とルシエラが加わった。でも私とルシエラの声はレティシアとほとんど同じなので、私とルシエラは別々のハモりパートを歌って、子供たちの歌を引き立てた。
ああ…楽しい…。ああ…癒される…。私、ずっとこの子たちと歌っていたい…。でも私には他の仕事もあって、教会で教師をやっていられるのは一週間に付き半日だけだ…。誰か…、領主代わって!私も常勤になりたい!
私はアリアに親だと名乗ることはできない。私が親だと知ったら、私がアリアをお母さんから取り上げることになってしまうかもしれない。教会で一緒に歌っている時だけ、私とアリアは一緒にいられる。
私が学園を卒業してからの十年間、音楽というものは国中に浸透した。娯楽音楽は平民の嗜み。芸術音楽は貴族の嗜み。
ワープゲートのおかげですべての領地の食糧事情が改善され、領民の生活に余裕ができたため、大銀貨一枚で買える木琴とリコーダーはほぼすべての家庭に行き渡っている。町中のあちらこちらから、かっこっかっこっという木琴の音と、ピーひょろろというリコーダーの音が聞こえる。リコーダーを吹きながら下校する小学生があちらこちらにいるようだ。
裕福な者は平民でもラッパやバイオリン、鉄琴やハープなどの少し高価な楽器に手を出す。ハープも数が出るようになったので、昔は金貨三枚だったのが今では金貨一枚で買える。
ちなみに、調律のためにチューナーの魔道具を開発した。正しい音に近づくほど魔石が強く光る。木琴や鉄琴などは制作者がチューニングして出荷するし、他の楽器は演奏者がチューニングする。
調律師は廃業だ。調律が金貨一枚なんてぼったくりなんだよ。しかも微妙に低い音にしかチューニングできないくせに。
私は前世の記憶を元に、一〇〇〇以上の楽譜を出版した。また、お抱えの演奏家たちにも作曲させたし、新しい曲を公募もした。私に新曲を奉納すると、報奨金と祝福を与えるとともに、楽譜が売れればロイヤリティも支払われるよ。
だけど、この世界の人間にとって作曲は厳しいらしい。十人がかりが一年かけてやっと一曲できるような状態なのだ。やっぱり、この世界の人間の遺伝子に音楽能力を与えるには、マザーエルフががんばって子作りしなければならないのだろうか。それがマザーエルフの使命…。ルシエラみたいに何万人もの女の子とエッチしなければならないのかな…。でも今はお嫁さんたちを大切にしたいんだ。
読み書きや音楽、魔法を学べる教会も、すべての領地に設置された。ただし、魔力を持たない者に教えているのはマシャレッリだけだ。マシャレッリがいちばんお肉や果物が普及しているけど、それでもまだ一パーセントは魔力を持たない子が生まれるのだ。マシャレッリ領では、魔力の有無での差別は厳罰に処する。
フョードロヴナもマシャレッリに迫る数の魔力持ちが生まれているので、同じようにやってほしいのだけど。その他の領地では、魔力持ちはそれほどでもない。一般的には教会は魔力持ちを育てる組織だと認識されている。
ちなみに、お嫁さんたちの実家の当主は世代交代している。フョードロヴナの当主はエドアルドだ。利に聡いけど情はあまりない感じで、いまだに魔力を持たない子に教育を受けさせない方針なのは彼のせいだ。業務提携しているのだけど、ちょっとやりにくい。
エドアルドの嫁は同学年の爆乳っ子だった。フョードロヴナの嫁は爆乳じゃなきゃいけない決まりがあるのだろうか。
ロビアンコの当主も交代した。セラフィーマの七つ年下の子だ。だけど、私がやりとりしているのは、できる執事だ。できる執事も四年前から次世代が顔を出してくるようになった。
アルカンジェリの当主も交代した。私たちの代より少し下の嫡男がいたらしい。
ジェルミーニ男爵家の当主はロレンツォだ。エッツィオくんの同期だ。最初はクソガキだったけど、今ではまともな感覚の持ち主になっている。私が育てたんだよ。それにしても、子が生まれなかったら拾ってきた平民を平気で後継者にしちゃうもんなんだね。って私も同じか。
どうでもいいけど、公爵家というのはこの国にはフョードロヴナしかない。大昔に王家から分家したらしい。
今でも家が途絶えそうになったときに王子ドラフトに落ちた王の息子や娘が貴族家の養子に出されることがあり、各貴族家にはけっこう王家の血が入っているのだけど、それは非公式なので表向きには王家の血が入っていないことになっている。だけど、近親婚にならないように王家の血を取り入れたら三世代は王子の嫁ドラフトにエントリーしないことが暗黙に決まっている。
ところで、王族の女の子に授けた私の娘はどのような扱いになるのだろうね…。
私と私のお嫁さんたちはもうすぐ二十六歳。あ、ブリギッテは四十六歳だ。老化とはまだまだ無縁の私とブリギッテはともかく、お嫁さんたちはターニングポイントを迎えている。そろそろ、お肌が気になるとか、胸が垂れ下がってくるとか、しわができたとか、老化の片鱗が見えてくるころじゃないだろうか。
とくにスヴェトラーナの爆乳が垂れ下がったらどうなるのだろう…。母親のエリザベータとはしばらく会ってないけど、エリザベータは三十間近とは思えないほど若かったなぁ…。今はどうなっちゃってることやら…。
エルフのブリギッテには人間の五倍の寿命があるし、マザーエルフの私には寿命なんてないに等しい。私はお嫁さんたちが老いていく姿を見続けて、やがてお嫁さんたちに別れを告げなければならないだろう。これが異種族婚の定めというやつか。
この世界、人間五十年とか言われていて、だいたい寿命は五十年から六十年くらいだ。オルガは出会ったときからよぼよぼのおばあちゃんだったし、もう六十超えてると思うけど、いまだに私たちの面倒を見てくれる。学園の寮監で木魔法の教師だったワレリアも私たちの卒業と一緒に引退してしまった。この世界の人間も老化しておばあちゃんになるのだ。
だけど、タチアーナがあと十年ちょっとでおばあちゃんになるとは思えない。タチアーナとセルーゲイは四十歳を超えてると思うのだけど、いつまでも若々しいなぁ。タチアーナは十年前、ルシエラによってハイエルフ級の爆乳にされちゃったんだけど、胸が垂れ下がってるとかしわが気になるとかないんだよね…。むしろ、出会ったときよりも若返ってるような…。まるで十七歳…。口調は永遠の十七歳っぽいんだけど、まさか容姿も永遠の十七歳ってことは…
などと考えながら、執務で書類仕事をしていたら…、
「ルシエラちゃぁん、いつものおねがぁいっ」
「うむ。よかろう。ららら……♪」
ぽんぽん……♪
屋敷の別の部屋の声を、私の地獄耳が捉えた。ルシエラが口ずさんだのは「容姿の時間を十七歳に戻す」という変ニ長調メロディ。そして同時にハープで同じ旋律を一音だけずれた変ホ長調で奏でるという気持ち悪い和音…。つまり、命魔法と時魔法の合成魔法だ。何それ…、そんなのアリ?
私は執務室を出て、音の聞こえた部屋に向かった。そして、ノックをすることもなく扉を開けた。すると、そこにはルシエラと胸のあらわになったタチアーナ…。あれ…、爆乳じゃない…。
「あらぁユリアーナ、ダメよぉ。まだできあがってないんだから」
「えっ…」
「ららら……♪これくらいじゃったかの」
「ええ!」
ルシエラが「乳房がすぐに大きく美しく成長する」メロディを口ずさんだ。すると、タチアーナの胸がたちまち風船のように膨らんで…。ああ、爆乳魔法をかける前の十七歳の容姿に戻したから、しぼんでしまったのか。それにしても胸が膨らんでいくって素晴らしい…。もういっかい見たいな…。じゃなくて!
「ルシエラ!人の身体を弄る魔法はダメって言ったじゃん!」
「すまんのぉ。鬼気迫るタチアーナに負けてしまってのぉ」
「ユリアーナやブリギッテちゃんだけいつまでも若いなんてずるいじゃない!私だってずっと綺麗でいたいのよ!」
「はぁ…」
返す言葉もない。エルフというのは人間の五倍の寿命があるだけでなく、成人したらしばらくまったく老化しないのだ。いつまでも若い身体、スタイル抜群、大きな胸。人間女性が欲しがるものを持っているエルフ。ずるいと言われてもしかたがない。
「そんなことだろうと思っていたわ。最近のお母様は私より肌が綺麗だもの」
扉の外からアナスタシアの声が聞こえてくると同時に、お嫁さんたちが部屋に入ってきた。
「最近わたくしだって胸が垂れ下がってきたというのに、タチアーナ様だけ魔法の恩恵にあやかろうなんていただけませんわね」
スヴェトラーナのすごんだ声はまるで悪役令嬢。
「私なんて成長しきってないのにお肌が気になってきたんだよ」
子供っぽいマリアちゃんでもやっぱり女の子なんだね…。
そして、何が言いたげだけど思いとどまっているマレリナ。付いてきているけど意見がない、残念美人のセラフィーマ。さらに、まだまだ成長期のブリギッテは最後尾でニタニタと事態を傍観している。
「ユリアーナが人の容姿を変える魔法を広めたくないのは分かるわ。でも、私、ユリアーナといつまでも一緒にいたいのよ。私、もしユリアーナが先に死んでしまったらイヤだもの。ユリアーナだってそう思っているのが分かるわ」
「アナスタシア…」
「たしかに、私もユリアちゃんとずっと魔道具の探求をしていきたいですね」
「セラフィーマ…」
「そうだね、私もユリアナと一緒にいたいな」
「マレリナ…」
「私も二五〇年だけとは言わず、ユリアーナの使命のお手伝いを無限に続けていたいね」
「ブリギッテ…」
みんな容姿のことよりも、私と一緒にいたいから若さが欲しいんだね…。
「皆、すまぬが、わらわが時間を戻せるのは姿だけじゃ」
「「「「「「えっ…」」」」」」
「若返りたいという願いなど何万とかなえてきたが、寿命まで戻そうとしたら、その者の生きてきた記憶まで元に戻ってしまうのじゃ」
「みんなが私といたいって気持ちは分かったよ。私の持てる知識でどこまでできるか分からないけど、記憶を失わずに若返る魔法を考えるから数年待って」
「さすがユリアちゃんです!」
「でも一般に広めるのは絶対にダメだからね!」
「「「「「「「はーい」」」」」」」「分かったのじゃ」
「でもひとまず今日はお母様と同じコースで魔法をかけてよ」
「そうですわね。ルシエラ様、お願いしますわ」
「よかろう」
「あ、私にはかけないでね」
「わかっておる」
ブリギッテはまだ成長期なのだ。というか、エルフの四十六歳は人間の十七歳くらいじゃない?
「ららら……♪」
ぽんぽん……♪
ルシエラは「容姿の時間を十七歳に戻す」を変ホ長調で口ずさみ、ハープで一音ずれた変ニ長調の音を奏でた。豊胸魔法を使ったのは十六歳だったので、十七歳に戻して胸がしぼんでドレスが脱げるということはなかったようだ。
「肌荒れが治ったわ!」(アナスタシア)
「胸の張りが!」(スヴェトラーナ)
「身体が軽い」(マレリナ)
「肩こりが治りました」(セラフィーマ)
「おなかが引っ込んだ!」(マリア)
容姿とはいうけど、筋肉とかも戻ったのかな。薫は三十六歳だったから、三十歳くらいまでは女の子の範疇だと思っていたけど、やっぱり高校生くらいの女の子はいいな。アナスタシアとマリアちゃんは小学生だけど。あ、私も小学生か。
「みんな、よかったわね~。みんなも一年ごとにかけてもらうといいわぁ」
タチアーナとセルーゲイは私にばれないように四年前から少しずつ若返らせてもらっていたらしい。姑息な…。
スヴェトラーナはフョードロヴナ公爵家から連れてきたメイドに毎日マッサージされているし、化粧水もふんだんに使っているのだけど、年齢には勝てないみたい。まだ二十五歳なんだけどね。
こうして、私は若返りの魔法を真剣に研究することにした。
まず、肉体の時間を元に戻すだけなら時魔法だけでいいだろう。命魔法が入っているのは、外見だけ元に戻したら血管のつながりとかどうなるんだとか、そういうつじつま合わせを適当に治療していると考える。ルシエラには人体の知識がないから記憶を司るものがどこか分からなくて内臓にも手を付けていなかったみたいけど、私なら内臓も対象にできる。脳みそ以外は容姿と同じように命魔法と時魔法で戻してしまっていいだろう。問題は脳みそだけど、これをそのまま元に戻してしまうと記憶がなくなってしまう。そこで、脳みそだけはテロメアの長さだけを元に戻すとか、活性酸素を除去するとか、細かいアンチエイジングをするしかない。もしそれで脳を若返らせられなかったときのために、最後の手段も考えておこう。
よし、構想は決まった。だけど、いきなりお嫁さんたちにかけて失敗したらどうしよう…。時魔法で戻した時間を、時魔法でやりなおすことはできないかもしれない。危ない橋は渡れない。
そこで、ずっとやりたかった女盗賊による人体実験だ。だけど、マシャレッリや王都は飢えが減って、盗賊なんてほとんどいなくなってしまった。っていうか、誰も馬車で移動しないから街道には生息していないのだ。
でも、自分の足で探し歩くことなんてなかった。採集した盗賊の納品先はハンターギルド。そしてハンターギルドでは盗賊を奴隷として売り出している。女盗賊はなかなか売りに出ないけど、ハンターギルドに買い取り予約を出しておいた。でも、けっこう予約が入ってるみたいだね…。やっぱり探し歩かないとダメかな…。
女の奴隷の行く末を考えるなら、私が買い取って上げた方がよほど良い。最終的には容姿も記憶もリセットして、別人として解放してあげるよ!
私は魔法でお嫁さんたちを延命して永遠の時をともに歩む決意をした。そうなると、娘たちもとか考えてしまうけど、ハイエルフの寿命は一〇〇〇年。西暦一〇〇〇年って平安時代くらい?この世界は魔法があるから文明が発達しないのか、それとも音楽の才能みたいに何か足りないものがあるのか。
まあ、娘たちの寿命はとうぶん考えなくてもいい。季節は春。娘たちはもうすぐ十歳。娘たちは春休みとともに教会を卒業した。王都の学園みたいに学長の念仏を聞かせたりはしない。
春休みっていっても王都の学園から領地に帰省するわけじゃないから一週間しかない。三歳から九歳までの七年間で小学校と中学校の授業を詰め込んであるから、休む暇などないのだ。
卒業した平民の子たちは仕事に就く。もちろんアリアも。アリアには教会で音楽の先生になってもらうことにした。そうすれば毎週会えるので…。
正式なマシャレッリ侯爵令嬢であるアンジェリーナ、アレクサンドラ、ラティア、ソフィア、フィオナ、マルグリッテの六人は、これから王都の学園に通う。レティシアはどうしよ…。
「レティシアよ」
「はい、ルシエラ母様」
「おぬし、エルフの王になって、ときどきエルフの村に顔を出すがよい」
「エルフの村で何をすればよいのじゃ?」
「さあな。わらわは引きこもっておった」
「そんなんイヤじゃ。エルフたちと歌っておればよいか?」
「ああ、それでいいのではないかの」
「じゃあルシエラ母様も来い」
「わらわも行かんとならんのか?」
「皆の前で王位の引き継ぎをせんと、独りよがりでは誰も王と認めんじゃろう」
「うむ、しかたがないのぉ」
のじゃ子が二人でなんか話してる…。
「よし、ユリアナ、おまえも来い」
「えっ、私?」
「おぬしがエルフの王にならんからいかんのじゃ」
「私はローゼンダール王国の侯爵だからしかたないじゃん」
「じゃからレティシアに王をやってもらうのじゃ」
「じゃあ私行かなくてもいいじゃん」
「わらわとおぬしがレティシアを王と認めることでレティシアが王になるのじゃ」
「はぁ…。まあいいよ」
とういうわけでワープゲートでルシエラの村に移動した。っていうか、エルフの大半はマシャレッリに出払ってるんだけど?
「今日からこのレティシアが王じゃ。皆、よろしくな」
「ルシエラの娘のレティシアじゃ。わらわはたまに顔を出すが、普段はマシャレッリで歌っておるから、何かあったら呼びに来るがよい」
「「「「「はーい」」」」」
「それじゃまたの」
「私たちもレティシア様と音楽を演奏しにいくよ」
「うむ、付いてくるがよい」
というわけで、レティシアはエルフの王になったのに、エルフ村にいた小数のエルフを引き連れてマシャレッリの教会にやってきた。エルフたちには人間社会に葉っぱ水着のまま行くわけにはいかないので、簡素なワンピースを与えてある。あ、でも町中を水着で歩けるようなリゾート地っていいな…。
それはさておき、教会は春休みだけど、音楽室には人が集まっていて、木琴とリコーダーの音が聞こえていた。子供もいれば大人もいる。なんなら、すでにエルフもいる。
「あっ、ルシエラ先生だ!」
「レティシアちゃんとユリアーナ先生も!」
私たちの姿に気が付くと、演奏をやめて駆けてきた。子供たちに人気のルシエラ先生。子供っぽいからかな。
「皆の者、聞くがよい。今日からこのレティシアがエルフの王じゃ」
「わらわがエルフの王じゃ。皆で演奏しよう!」
「「「「「はーい」」」」」
教会で子供も大人もエルフも一緒になって木琴とリコーダの演奏を始めた。それに合わせてルシエラとレティシアも歌っている。私、何しに付いてきたのかな。エルフの王って引きこもりから歌ってるだけに変わっただけ?私、いなくてもいいんじゃない?
まあいいや。ここは楽しまなくちゃ損だ。私も一緒になって歌うことにした。
「西の農村の郊外で強力な魔物が出たと、ハンターギルドから電話がありました!」
執務室にデニスが駆け込んできた。デニスも老けたなぁ。
「デニス、娘たちに連絡を」
「了解です」
アンジェリーナ、アレクサンドラ、ラティア、ソフィア、フィオナ、マルグリッテ、レティシア、ルシエラの八人を連れて、ワープゲートを通り西の農村へ。そこから走って現地に向かった。
娘たちはみんな命魔法を使える。このメンバーで魔力がいちばん強いのは私だけど、地力は二〇〇〇年鍛えたルシエラにかなわないので、総合的にはルシエラがいちばん怪力だ。次に私、その次にレティシア。あとの六人は同じくらいだけど、マレリナよりもはるかに強い。
走って向かっていると、バキバキと蹴るの音が聞こえた。すでに誰かが戦ってる。
数十頭の三メートルの大きな熊が見えてきた。その中に、ふわふわと飛び回っている銀髪の少女…。
「アリアちゃんよぉ」
アンジェリーナがおっとりと言った。もうみんな視認してるだろうけど。
西の農村から近いから、真っ先に駆けつけたんだね。
ぽんぽん……♪
木を操るで作った木のお化けに敵を引きつけつつ、土壁で背後を守りつつ、自分はスタンガン付きの蹴りで確実に敵の数を減らしていく。
これはハープボウの音域だ。一オクターブ分しか弦がないので、上に行く代わりに一オクターブ下の音を鳴らしたりして不自然だ。
ハープボウは教会で安く売っている。弓術の授業で弓矢の打ち方を学べるが、今回は弓として使っていないようだ。ハープボウで魔法を使いながら足技で敵をなぎ倒している。
アリアが持っているのは相対音感なので、出だしに音だけはハープなどで確認しなければ歌うことができない。音を確認するためにハープボウを使うのであれば、そのまま最後まで引き切ってしまった方がいい。
そして私たちの部隊が到着した。
「アリアちゃん大丈夫ぅ?」
「アンジェリーナちゃんたち!来てくれたんだね!」
娘たち七人が加わって大乱闘。私とルシエラは傍観。娘たちは連携とか関係ない…。主に筋力強化に任せて殴る蹴る…。この子たちにとってはたいしたことない魔物かもしれないけど、もっと強い魔物が出たときに対処できなくなっちゃうんだよね…。何回か魔物討伐をやらせてるんだけど、連携の練習をする機会はなかったなぁ…。
蹴りにまとわせる属性に雷や炎など多少の違いはあれど、みんな基本的に手にハープボウを持って魔法を使い、熊の魔物を蹴りだけで倒した。
娘たちにはオルゴールを渡してある。だけど、オルゴールは秘密なのだ。でも一人でムチャをするなら、アリアに持たせておきたいな…。
「アリアちゃん…、村が襲われないように魔物をせき止めておいてくれるのは嬉しいけど、ときどき強い魔物が現れるから危ないと思ったら逃げるんだよ」
「でも、村が…」
「でもはナシだよ。村には他に魔法を使える大人だっているんだから、みんなでやっつければいいんだよ」
「うん…」
「アリアちゃんに何かあったら私…悲しいし、お母さんに顔向けできないよ…」
「ごめんなさい…」
「分かったらヨシ。じゃあ私たちが駆けつけるまでにアリアちゃんが倒した分が半分くらいかな」
「一人でいっぱい倒したねー」(ソフィア)
「すごいでしょー」
「調子に乗らない!」
「はーい…」
「異次元収納に入れてギルドに納品しなね」
「はーい」
「私のもあげるよ」(ソフィア)
「私もぉ」(アンジェリーナ)
「わたくしの分もどうぞ」(アレクサンドラ)
「わたしもいいよ!」(フィオナ)
「これは魔道具の素材にならないからいらないです」(ラティア)
「私のもあげるよー」(マルグリッテ)
「わらわの分も持っていくがよい」(レティシア)
「みんな、ありがとー!」
アリアの開いた異次元収納に、三十頭くらいいる熊の魔物をぼんぼんぶっ込んでいく。今までナタシアお母さんの農業収入だけでも食い扶持には困らなかったはずだけど、こういうのはしばらく働かなくてもいいくらいの報臨時収入になるのだ。もちろん、五毛作とか六毛作をしているこの世界で農作業を一時的にサボるということはなかなかできないけど。
これからはアリアが音楽教師で稼ぐから、家庭にもっと余裕ができるはず。私が親であることを打ち明けて引き込まなくてもじゅうぶんに幸せに生活できるはずだ…。
★ユリアナ二十六歳(ソフィア十歳)
短い春休みが終わり、マシャレッリ侯爵令嬢の六人とは王都の学園に入学した。タチアーナの第三子であるディミトルも一緒だ。私とお嫁さんたちも教師として学長の念仏を聞きにいった。
娘たちは学園で学ぶ内容なんて教会でほとんどやっているので、お嫁さんを探してくるだけなのだ。もちろんディミトルも嫁探しだ。でも、王子の嫁ドラフトがあるのだ…。っていうか、王子と同じ年に子を産んだら、毎回嫁ドラフトに巻き込まれるじゃないか…。でもその分、女の子がいっぱいいるので、娘たちがお嫁さんを探すのにはいいのかな…。ああ、貴族って出産の年を合わせるものなのか。
他の年だと同期の女の子は二、三人しかいないので、娘たちが食いっぱぐれるよねえ。いや、エッツィオくんみたいに、上下二学年から補充すればいいのか。まあ、何でもいいや。ハイエルフは女の子に見えるのに王子の嫁になれないことは承知してるだろう。むしろ、あぶれた女子を狙っている男子と同じ立ち位置なのだ。
入学式の後、教師で会議をした。今年は王子だけでなくて王女がいるらしい。今までも王の娘というのはいたはずだが、表舞台に出ることはなかった。私が子を授けた女の子たちのように…。
と思ったら、王女というのはエルフらしい。魔力検査の結果…、八属性…。そして、魔力の量が…、私の娘たちと同じくらい…。ってこれ私が王の娘に授けた子じゃん!一人だけだけど。
ちなみに、私が作って寄付した魔力検査具は、一定以上は対数スケールの光量で光るようになっているから、私の娘たちはもちろん、私の魔力にも対応できるのだ。
次回から王と女王の二つの政権が立ち上がるらしい。そんなカオスな政権にしてまで高い魔力を王家に取り入れたいのか…。
王に内定しているのがコンスタンチン・ローゼンダール王子で、女王に内定してるのがジェフスカーヤ・ローゼンダール王女だ。コンスタンチンはヴィアチェスラフと王妃ーズの誰かの息子だ。ジェフスカーヤはアブドゥルラシド前王の娘に私が授けたハイエルフの娘だ。ハイエルフというのは一般には浸透していない言葉なのでエルフとしたのだろう。っていうかジェフスカーヤは主家の娘じゃないだろうに…。まあ、この国は血統より魔力か。
ちなみに、コンスタンチンの髪色はオレンジで、火、雷、土の三属性持ちだ。ジェフスカーヤの髪色はくすんだ紫で、火、雷、土、水、風、時、命、空間、聖と、なんと九属性持ちだ。お相手の子が何属性持ちだったのかは分からないけど、属性ガチャで当たりが出てよかったね…。
王子はもちろん、エルフの王女も妃を娶る。王女は女の子のように見えているけどやることは王子なのだ。みんな騙されがちだけど…。
奪い合いになるのはよくないから、今回はそれぞれ十人までしか募集しないんだって…。だから就職と結婚は分けた方がいいと思うんだけど…。まあ、私のお嫁さんも全員表だって仕事をしているから、私も人のことを言えない。貴族の結婚って就職みたいなもんだね…。オフィスでラブするんじゃなくて、ラブしてからオフィスというか…。
さらに、このカオスな状況に拍車をかけているのが、ブラッドフォード・ヘンストリッジ…第一王子だ…。ローゼンダールから西側に一〇〇〇キロほど行ったところにあるヘンストリッジ王国の王子が留学してきたのだ。
何しに来たかって、そりゃ女の子を探しに…。というのは表向きで、今や産業や魔法で潤っているローゼンダールの偵察が目的だろうか。いや、偵察が表向きの目的で、女の子捜しが裏かな?
ブラッドフォードの髪はエメラルドグリーン。属性検査の結果は木、風、命。王族が三属性ってのはどこも同じなのか。
もちろん類を見ないイケメンで、ときめいている女子も多い。もちろん、ジェフスカーヤ王女とうちの娘たちは王子にはときめかない。王女と娘たちは互いにときめいている。
そして、今回のクラスは過去最大の四十五人。そのうち女子も過去最大の三十五人。と見せかけて、ジェフスカーヤ王女と私の娘六人は女子の枠内ではないので、実質二十八人の女子をコンスタンチン王子とジェフスカーヤ王女、ブラッドフォード王子、私の娘六人、男子八人で奪い合うのだ。男子の中にはディミトルもいる。コンスタンチンとジェフスカーヤで二十人持っていったら、残り八人じゃないか…。いや、ブラッドフォード王子は何人お持ち帰るつもりだろうか。それとも、私の娘とジェフスカーヤ王女でコンスタンチン王子の取り分を奪ったりするのかな。男子の取り分どころか王子の取り分すらないんじゃないかな。
まあ、最悪の場合でも、私の娘たちは互いを伴侶にすればよい。リュドミラやハイドラは、ルシエラの子供ではなくて、ハイエルフどうしを何回か掛け合わせた子なのだ。ルシエラの遺伝子は近親婚の恐れがないのだ。だから、親の遺伝子が被ってない娘たちは結婚できるのだ。まあ、その場合どちらかが子を産めるようになるまで待たなければならないのだけど、ハイエルフの場合その年齢が十歳から九十歳までと幅が広すぎるのが難点だ…。
ちなみに王女には、ジェフスカーヤ以外に四人の候補がいたはずだ。アブドゥルラシド前王の孫に該当するので、いとこ婚になる。この国では禁止されていないし、日本でも禁止されていなかった。ジェフスカーヤにお相手が見つからなければ、従姉妹と結婚すればいいよ。そこんところヴィアチェスラフに教えてあげよう。
あ、ハイエルフが結婚できる歳になるまで待てるなら、うちの子をもらってくれてもいいよ!王子には嫁げないけどハイエルフの王女になら嫁げるよ!
というのも、ジェフスカーヤ王女はけっこう可愛いからだ。っていうかアレクサンドラに似ている…。アレクサンドラよりつり目でちょっときつい印象だけど。そしてアレクサンドラに迫る巨乳だ。そういえば、私が子供を授けた女の子たちの中にけっこうな巨乳がいたけど、あの子の産んだ子だろうか…。もしやエリザベータの血縁?ややくすんだ金髪はアンジェリーナの髪色に似ている。それを六連装のドリルに仕立て上げている。エリザベータの家系はドリルじゃなきゃいけないのかな。
クラスの属性をまとめると…、
アンジェリーナは火、雷、木、土、時、命、空間、聖。
アレクサンドラは火、水、風、心、時、命、空間、聖。
ラティアは火、木、土、時、命、邪、聖。
ソフィアは木、土、時、命、邪、空間、聖。
フィオナは火、土、水、風、心、命、聖。
マルグリッテは火、雷、木、土、風、時、命、聖。
ディミトルは雷。
ジェフスカーヤは火、雷、土、水、風、時、命、空間、聖。
コンスタンチンは火、雷、土。
ブラッドフォードは木、風、命。
その他の生徒の属性は一つずつ。
ディミトル、コンスタンチン、ブラッドフォードを除く男子七人の属性内訳は、火二、雷一、木一、土一、水二、風二。
私の娘とジェフスカーヤを除く女子二十八人の属性内訳は、火五、雷五、木四、土四、水四、風五、命一。
私の時と同じように、まず教室の壇上に向かって右から基本属性の火七人、雷七人、木六人、土六人、水六人、風七人の六列があって、一番左にカオス属性七人の列がある。
カオスというのはもちろん私の娘の六人とジェフスカーヤの七人だ。
ちなみに、コンスタンチンは土の列の先頭で、ブラッドフォードは木の列の先頭にいる。また、一人だけいる命属性持ちの女子は水の列の最後尾にいる。
髪色は、オレンジのコンスタンチンとエメラルドグリーンのブラッドフォードはちょっと違うけど、前列ほど濃いのはやっぱり基本だ。私の時よりも全体的にほんの少しだけ色が濃い気がする。みんな鍛えたのかな。いや、果物や魔物肉が普及したからかな。
相変わらず貴族家の数より大幅に多い。って、その筆頭がマシャレッリ家か。でも今回マシャレッリ家は全員実子だよ。養子を二、三人ずつ送り込んできてる他の家とは違うよ。
ちなみに、コンスタンチンの母親は誰か知らされていないのだけど、母親の家には近い血の娘をエントリーさせないように通達されているんだって。その場合でも養子を送り込んできたりするから、このクラスの子の大半は前回王妃を輩出した家の子だ。王妃を輩出した家には便宜が図られたり発言権が与えられたりするようだけど、そんなやり方じゃなくて真面目に功績を挙げればいいのに。なんて言えるのは領地改革を嗜みとしている転生者だけか。
ちなみに、フョードロヴナ侯爵家、ロビアンコ侯爵家、ジェルミーニ男爵家はエントリーしていない。アルカンジェリ子爵家はまた養子がエントリーしている。エルフは懲りたらしく人間の女子だ。
火魔法使いと雷魔法がいまだに戦いの花形だと思われているのか、その二つの属性持ちが少し多い。今や国の産業を支えているのは木魔法使いと土魔法使いだというのに。ワープゲートでどこにでも行けるのに、国の情勢が見えてないのかね。
そんなこんなで娘たちの学園生活が始まった。私と私のお嫁さんも音楽の教師として一週間に一日は学園に通っている。といってもみんなに一度やらせてみたところ、マリアちゃんとブリギッテ、セラフィーマは教師に向いてないし、アナスタシアは小さすぎてなめられるので、残ったのはスヴェトラーナ先生とマレリーナ先生だけだ。私だってなめられがちだけど、私が卒業した翌年みたいな感じではない。
今では音楽は国民全員の嗜みとして認知されており、とくに貴族で芸術音楽をまともに演奏できない者は恥ずかしいというレベルまで音楽の地位は押し上げられている。そして、ユリアーナ先生は音楽の第一人者という認識ができあがりつつあるのだ。私がエルフであることも認知されつつある。私はいまだに耳を髪の中に隠しているので一見エルフと分からないが、外見で侮っても名前を聞けば考えを改める者は多い。
とはいえ、マザーエルフでもハイエルフでもなくてあくまでただのエルフだと思われているので、二十六歳にもなったら人間の十三歳くらいの身長になっているんじゃないかと勘ぐられるかなと思ったのだけど…。
この世界の算数のレベルは小学三年生なので、エルフの十歳以降は成長が五分の一になることを知っていても、エルフの二十六歳が人間の何歳に相当するの計算できる人はいない。二十六から十を引いて十六、十六を五で割って約三、十に三を足して十三歳というように暗算できるような人は、学園にはいないっぽい。でも、マシャレッリの教会では中学三年生レベルの数学まで教えているので、それくらいできる人もいるはず。そろそろ疑問に思っている人もいるかも…。
学園が始まると、今まで私たちと一緒のベッドに寝ていた娘たちは、違う部屋で寝るようになってしまった。ちょっとさびしい。でも娘たちは娘たち七人で一緒に寝ている。べつにレティシアと嫁みたいなツリー構造があるわけじゃない。みんな平等だ。誰かが好きで襲ってしまうということはないはず…。襲ったところでハイエルフが子供を産めるようになるのは期待値で五十歳だ。間違いは起こらないはず…。
と思っていたのに…。学園が始まって夏の暑さが近づいてきた頃、それは起こった。
「きゃぁ…」
夜中に娘の寝室からアレクサンドラの悲鳴が…。といっても、私の寝室から聞こえるのは地獄耳の私とルシエラだけだけど。
私とルシエラだけが目を覚まして、急いで娘の寝室に駆けつけた。
「血が…」
ベッドの上のアレクサンドラの足下に血が垂れている。アレクサンドラの顔は真っ青だ。他の娘も口元を手で押さえて、この世の終わりのような顔をしている。
「えっ…、まさかもう来たの?」
「ハイエルフ至上最速じゃの」
アレクサンドラの初潮が来てしまった。ハイエルフの成長は、十歳までは人間と同じだけど、十歳以降は胸とお尻を除いて二十分の一だ。人間の初潮が十歳から十四歳くらいのようなので、ハイエルフの初潮は十歳から九十歳なのだ。アレクサンドラはそのほとんど最初を引き立ててしまったのか。
アレクサンドラはすでに私より大きい。ハイエルフだって十歳になれば成長が遅くなるけど、十歳になるまでの成長が速かったのだ。スヴェトラーナは標準身長より高いし、アレクサンドラにも遺伝しているのだろう。
その日はタンポンを付けてもらいつつ、女性の身体の仕組みについて説明して事なきを得た。
ところが翌日…、
「ああああん…」
娘たちの部屋からアレクサンドラのあられもない声が…。
ふたたび駆けつける私とルシエラ。
アレクサンドラが他の娘たちにネグリジェを脱がされて囲まれていた。
「ちょっと、何やってるの!」
「ユリアーナお母様もルシエラ様も来てくださったのね!わたくしを抱いて!」
「えっ…」
アレクサンドラから誘ってる…。あんな風に誘われたら…。
「うむ、よかろう」
「ちょっ、ダメだってばルシエラ!」
「また卒業待ちか?面倒じゃのぉ」
「アレクサンドラちゃんったらすごく可愛いのよぉ?」(アンジェリーナ)
「ずっと気になっていたアレクちゃんの胸を研究したんです」(ラティア)
「なんか…こう…触りたくてたまらなくて…」(ソフィア)
「アレクサンドラを抱きたくてしょうがなくなっちゃってさ!」(マルグリッテ)
「私、アレクサンドラの胸が好きなの」(フィオナ)
「自然に身体が動くのじゃ」(レティシア)
「とりあえずみんな落ち着きなさい!ふんふん……♪」
精神治療を口ずさんだ。
「あっ…、わたくしとしたことが…」
アレクサンドラは子供を産めるようになってしまった…。だから、他の娘は発情期のメスを目にしたようになってるみたいだ…。っていうか、スヴェトラーナを目にした私と同じか…。
「あなたたちにはこれを付けて生活してもらいます」
興奮抑制の腕輪を付けさせた。私が予備として持ち歩いている心拍数制限八〇の腕輪と足輪合わせて四つと、以前使っていた心拍数制限九〇のをとりあえず三つだ。八〇のはアレクサンドラ本人とアンジェリーナ、マルグリッテ、レティシアに。なんかこの四人は本能に忠実そうなので。まあ、残りの三人も九〇で押さえられなそうなら八〇のを作るけど。
「それから、口づけは禁止です。まだ子供ができたら困るので」
「「「「「「「はーい…」」」」」」」
私とルシエラは娘の部屋を後にした。私は廊下をとぼとぼと歩いていた。
「はぁ…娘たちがあんなに淫乱だったなんて…」
「何を言うておる。あれが普通のエルフじゃ」
「えっ…」
「おぬしがへたれなのじゃ」
「へたれ…」
「毎日おなごと一緒に寝ておるのに、なぜ可愛がってやらん」
「人間はすぐに妊娠しちゃうよ」
「それでもよかろうに」
「うーん…。引退したらそれもいいかもね…」
アレクサンドラは生理が来たばかりなのでしばらく妊娠しないだろう。でもハイエルフの安全日ってどれくらい?エルフは生理が来てから次の生理が来るのは平均五ヶ月くらいなのだけど、実際のところ三ヶ月から七ヶ月くらいでランダムな生理不順なのだ。ハイエルフだと平均二十ヶ月なのだろうけど、乱数分布がどれくらいあるのか分からない…。ハイエルフというのは人間にはあまり認知されてないし、ハイエルフ自体も自分たちで統計を取ったりしないのだ。
ところで、私の娘たちは互いを交配相手だと認識しているようだね…。ジェフスカーヤ王女にもときめいていたし。普通の人間は、パパくさーい!とか洗濯物一緒にしないで!とかいって近い遺伝子を避けるようにできている。だけど私の遺伝子は近親婚扱いにならないので姉妹での交配を避けるようにできていないのだろう。
っていうか、私もアレクサンドラにときめいてしまった…。っていうか、私って娘と交配できちゃうのか…。ルシエラと交配したくらいだからね…。親とか娘と交配するなんてファンタジーすぎて理解がおっつかない…。
ところで、ジェフスカーヤ王女はコンスタンチン王子の正室に内定してるんだって…。それってつまり、ジェフスカーヤも初潮が来てるってことだ。アレクサンドラだけじゃなかったらしい…。やっぱりエリザベータの血筋が早熟なんだ。それにしても、私はいつ子を産めるようになるか分からないから王子の嫁を免れたのに、早く子を産めるようになるハイエルフなんてものが現れてしまった。王家にとってとても都合がいい。
でもアレクサンドラを取られないようにしないとな。アレクサンドラに初潮が来てることは絶対に秘密だ。まあ、おおっぴらに言って回ることじゃない。
それに、正室はもう決まってしまっているのだけど、側室はコンスタンチンとジェフスカーヤがそれぞれ十人まで募集することには変わりないそうだ…。ジェフスカーヤはせっかく女の役目を果たせるのだけど、女は一度にたくさんの男から子を授かれるわけじゃないからねえ。っていうか、ジェフスカーヤはコンスタンチンとイヤイヤ結婚させられるのか…。あれでも私の血が通った娘なんだよねえ…。
「そうでもないのだぞ」
「へっ?私、声に出てた?」
「うむ。ブツブツ言うておった」
うわ…、ベッドの上で、お嫁さん全員いるじゃないか…。地獄耳のルシエラにだけ聞こえてたと思いたい…。
「どっからどこまで…」
「エルフは別に男と交配するのを嫌う性質を持っておるわけではない。単に、男を好きにならぬだけじゃ」
「えっ、だって私、王子に触られたとき虫酸が…」
「それはおぬしの前世が……」
「わあああ、ダメーっ!」
「んぐぐ」
周りのお嫁さんたちに笑ってごまかした。私の前世が男だったなんて、今さら言いたくない。
それにしても、私がヴィアチェスラフに触られて虫酸が走ったのは、エルフだからじゃなくて、薫の記憶が引き起こしたもの?ブリギッテもイヤだというよりは何も感じないと言っていたし、男嫌いなのは前世が男だったからからであって、本能的なものではないのか…。まあ、何も感じないのにあえて男と付き合おうとは思わないけど…。
ある日…、
「ユリアーナ様、ジェフスカーヤ王女はアレクサンドラによく似てますわね」
「えっ…。まあ…、そうね…」
スヴェトラーナに問い詰められた。スヴェトラーナは無言のまま私を見つめる。
「ごめんなさい…」
「あと何人いますの?アリアちゃんもユリアーナ様の娘なのでしょう」
「げっ…、ばれてましたか…」
「わたくし、若返りましたのよ…。他の女に手を出すくらいなら、わたくしをまた抱いて…」
「ろ、ろろろ、六年待ってください…。娘が卒業したら爵位を譲ります…。引退したらみんなで幸せに暮らしましょう…」
「分かりましたわ…。そのときまでにわたくしたちを完全に若返らせる魔法を完成させてくださいまし」
「はい…」
「ユリアーナ、約束よ!」(アナスタシア)
「私は永遠の五十歳にしてもらおっかなー」(ブリギッテ)
「私、大人になりたい!」(マリア)
「頭がいちばん活性化してる年齢にしてください!」(セラフィーマ)
「私もお願いね」(マレリナ)
「はい…」
というわけで、全国のハンターギルドに女奴隷買い取り依頼を出した。女奴隷の買い取り目的といえば性奴隷と決まっているわけで、若くて可愛い子を求めていると勘違いされていたようだ。おかげで順番がなかなかまわってこなかったのだけど、年齢、容姿問わずで依頼を出したら、すぐに三人手に入った。一人は五十歳で、昔は美人で男に貢がせまくっていた詐欺師らしい。それから、三十歳くらいのマッチョな女盗賊。最後に、不倫がバレて商人の夫を殺した四十歳の女。人体実験に使っても心が痛まないラインナップだ。
今となっては実験場としても機能していない地下に隠し部屋を作った。そこに三つの牢屋を作った。私が中を観察するための通路もある。通路は外に繋がっておらず、隠し部屋にはワープゲートで行く必要がある。空気穴はあるよ。床や壁は岩作りだけど、ゴミや砂はすべて取り去ってあるので清潔だ。簡素な布団と水洗トイレ付き。
一応、自分に時の流れの加速をかけて短期決戦で終わらせるつもりだけど、ダメだった場合に備えて衣食住の準備をしておいた。
「私をこんなところに閉じ込めてどうするつもりなの?」(詐欺女)
「お嬢様があたいと遊んでくれるのかい?」(女盗賊)
「これがわたくしの償いなのですね」(商人殺しの女)
「ふんふん……♪」
「「「魔女…」」」
実験を始める前に、最終手段について確認しておく。最終手段とは、魂と記憶を新しい身体に移し替えることだ。ルシエラから受け継いだ記憶によると、生き物の魂は、身体が死ぬと新しい命に移し替えられるらしい。輪廻転生というヤツだ。だけど、記憶が受け継がれるわけではない。
そして、魂の移し替えというのは、心魔法で意図的に起こすことができる。薫の魂は、ルシエラの時魔法と空間魔法、そして邪魔法によって異世界の特定の日時から呼び出され、心魔法によってユリアナの身体に移し替えられた。記憶は本来魂に備わっているわけではない。だけど、なぜかユリアナは薫の記憶に目覚めてしまった。
まあ、魂というのは生き物を動かす電池みたいなものかもしれない。魂のないマザーエルフのよりしろは、植物人間のような状態で生まれてくると言う。記憶を受け継がせたかったら、別途記憶の読み取りと書き込みをすればいいだけだ。
ここで、最終手段というのは、万が一お嫁さんたちの脳みそを若返らせられなかった場合、お嫁さんたちの魂を吸い出して新しい身体に移し替えつつ、古い脳みそから記憶を読み取って新しい脳みそに書き込めばよい。
実際のところ、人のアイデンティティというのは何なのか。魂を移し替えなくても、記憶だけコピーしてしまえばそれはその人なのではないかとも思えなくもないのだけど、一応魂という概念があるようだし、薫の魂だけ移し替えたはずの私には薫の記憶が蘇ってしまったりもしているので、念のため魂ごと移し替えた方がいいだろう。
というわけで、最終手段というのは、お嫁さんたちが死ぬ寸前に、私が加速して自家交配で魂のない身体をお嫁さんの人数分用意して、お嫁さんの魂と記憶を宿らせるというものである。
マザーエルフのよりしろを使うのはなぜかというと、普通の赤子には魂が宿っているので、それを追い出してお嫁さんの魂を入れてもいいのだけど、でもそうすると赤子の魂はどうすればいいのかわからないからだ。生まれたばかりなのに成仏できずに辺りを彷徨う幽霊とかになられても困るので、最初から魂の宿っていない依り代を使うのがいちばんいいだろう。
そんなわけで、最悪、脳の若返りが失敗してしまってもいい。ただし、移し替えるならボケる前に記憶を吸い出さないといけないね。
さてさて、最終手段の実験は最後にしよう。まずは身体と内臓の若返りだ。
「ふんふん……♪」
まず、牢屋から通路側を見えないようにする。五十歳の詐欺女の記憶を読んで、今のボケ具合を確認。
五十歳の詐欺女に十分に果物の木を与えつつ、洗脳で食料を摂取して普通に生活するように促す。そして、その部屋の時の流れを五十二万倍に加速する。これで、一分で一年すぎるようになる。超高速で果物を食べたり用を足したり布団に入ったりを繰り返すのが面白い。口がパクパク何かを言っているようだけど、私は五十二万キロヘルツの超音波を聞くことはできない。
ちなみに、果物の木には成長促進の魔道具を付けてあるので、超高速で育っている。
そして、数分すると詐欺女の動きが鈍くなってきた。もう一度記憶を読んでみて、どれくらいボケたか調べる。といっても、五十歳から数年たっただけなので、たいしてボケていないだろうか。この世界では人間五十年と言われているけど、それは食糧事情や衛生環境が悪いからである。この部屋は無菌室にしてあるし、食料は十分に与えているので、五十代で死んだりボケたりするとは考えにくい。しかたがないのでもうちょっと待つか。
十分以上たった。六〇代後半くらいの外見になってきた。この世界では超高齢のおばあちゃんだ。記憶を読んでみたら、だいぶ記憶が欠落していてボケている。暗い牢屋で二十年近く閉じ込められた老婆がボケないはずはない。
ここからが本番だ。外見を若返らせられるのは分かっているので脳みその若返り実験だ。テロメアを治療するとか、テロメアの時間を戻すとか、活性酸素を除去するとか、とにかく前世で老化の原因と言われていたものを思い出して、それをやってみた。
その結果、記憶を読んでみたところ、欠落した記憶はそのままみたいだけど、ボケは治ったみたい?
あとは、ちゃんと寿命が戻ったのかどうかだ。外見と内臓の年齢を十七歳に戻して、そこから五十年分加速試験。一三〇歳くらいになったと思うけど、ぽっくり逝ったりはしない。
そしてまた同じ処置を施して加速試験の繰り返し。
同じ内容を他の二人でも試してみる。でも今度はボケる前に処置を施して、記憶を維持できるかどうかを試す。結果的に十七歳から四十七歳を三十回くらい繰り返して、九〇〇年間ほど生かしてみたけど、記憶にはほとんど欠落がなかった。
九〇〇年間ずっと洗脳で同じ生活をさせていたから、ちょっとアホになってしまったかもしれないけど、記憶には問題なさそうだ。
そのまま三〇〇〇年分くらい加速試験を続けてみた。死にもしないし記憶も失われない。あくまで心魔法で記憶を読めるだけであって、三九〇〇年も前のことだから思い出しにくくなっているみたいだ。
さて、若返りはじゅうぶんにできることが分かった。次に、発魔器に使っている回生と同じ原理で、生き物の老化を回生できないかを試そう。命魔法の発魔器は、微生物の成長を回生することによって成り立っており、微生物は成長することなく死んでしまう。だから成長を回生してもしょうがないのだけど、じゃあ老化を回生したらどうなるのかな?
結果的には、老化という単純なメロディでは目的を達成できなかったけど、若返りと同じメロディを回生するようにしたら、老化を止めることができた。かなり長くなってしまうけど、魔方陣にもできる。
回生装置なので、時の魔力と命の魔力を生み出す。不老の効果を得つつエネルギーを生み出すなんて飛んだバグ技だ。ただし、生み出した魔力は使わないで放っておくと爆発したりするので、無駄に治療をかけ続けるとか、無駄に時の流れを遅くしたり速くしたりとかする仕組みを入れておかなければならない。
それから、奴隷の三人を使った最後の実験だ。魂の入れ替えである。ルシエラの記憶によると、魂は心魔法で身体から取り出したり別の身体に入れたりできる。一応お嫁さんたちを若返らせて不老にする方法はできたのだけど、念のためお嫁さんたちの魂と記憶を別の身体に入れ替える練習をしておくのだ。
魂を取りだして逃げないように時間停止でその場に留めておくとか、魂を入れたあとに記憶を入れ替えるだとか、段取りを把握しておいた。
奴隷の三人は、真っ暗の中で果物を食べて寝るだけの生活をするように洗脳し続けていたし、魂と記憶を入れ替えたりする実験を繰り返したので、記憶は奥深くにちゃんと残っているものの、おかしくなってしまった。どうせ犯罪を犯した記憶や人格など消去するつもりだったので丁度いい。予定どおり、記憶や人格を消去した。
そもそも記憶を維持する必要はないのだけど、お嫁さんたちに施す予定の脳みその若返りの魔法をかける。さらに、外見と内臓も若返らせる。新生児になるまで。記憶は何も植え付けない。赤ちゃんなので、ゼロから学んでいけばいいのだ。
そして、他領で親が死に身寄りのなくなった孤児として教会に預けることにした。三人の女奴隷は三九〇〇年間暗闇で人体実験させられる刑を受けたのち、生まれ変わったのだ。転生者特典として、可愛く育つ魔法をかけておいた。記憶を消して若返らせただけで、転生はしてないんだけどね。あ、魂を入れ替えたから転生はしたのか。ローテーションしただけだけど。
私はお嫁さんたちを部屋に集めた。そして、
「ふんふん……♪」
みんなの内蔵年齢と脳の年齢を十七歳に若返らせた。
「これで若返れましたの?」(スヴェトラーナ)
「実感ないわ」(アナスタシア)
「何か変わったのかな」(マリア)
「体力回復が早くなったりするのかな」(マレリナ)
「物覚えが悪いのが治ったかもしれません」(セラフィーマ)
「なんだか胃もたれが減った気がするわぁ!」(タチアーナ)
四十二歳のタチアーナはともかく、二十六歳のお嫁さんたちはまだまだ内臓年齢を気にする歳じゃない。成人病にならないように、ノーカロリーの食材を組み合わせて栄養はコントロールしてあるのだ。
「容姿はこの前戻してもらったし、中身だけじゃ分からないみたいだね」(ブリギッテ)
「人間は大変じゃのぉ」(ルシエラ)
ブリギッテは四十六歳であり、エルフの四十六歳は人間の十七歳相当なので、今回除外してある。
「ねえ、自分の若いときになるんじゃなくて、私、スヴェトラーナみたいに大人になりたい」
「マリアちゃん…」
胸だけでもどうかと思うのだけど、やっぱり身長が低いとか童顔なのはコンプレックスなんだね…。私は九歳くらいの可愛いマリアちゃんが好きなんだけど…。
じゃあアナスタシアもそうなのかな…。と思ってアナスタシアを見ると、
「なあに?私はいいわ」
「えっ」
「そんなに意外かしら?うふふ、私、知ってるのよ。ユリアーナは小さい私のことを好きだってこと」
「あ、いや…、その…」
私は別にアナスタシアが七歳くらいの小さな女の子に見えるから好きってわけじゃ…。いや…。
「ほら、赤くなっちゃって」
「はう…」
アナスタシアは七歳に見えるだけであって、実際は二十六歳。私はロリコンではないはず…。
「ユリアーナは娘たちのことをどんな風に見てるかも知ってるんだから」
「えっ、えっ、私が娘をどんな風にって…」
「うふふ、小さい子が好きなんでしょ。私を抱きしめて」
「……」
私はアナスタシアを抱きしめずにはいられなかった。子供にしか見えないのに、色っぽくいたずらな顔で見つめられたら、身体が勝手に動いた…。
私は自分の娘たちを可愛いと思っている。でもそれは、赤ちゃんをはむってやりたくなるような好きであって、性欲の対象として見ているわけじゃ…。
「えっ、じゃあ私、フィオナと同じくらいに小さくしてもらおうかな。それとも、他の娘くらいに大きくしてもらった方がいいかな」
「マリアちゃんは私の一歳下の妹系キャラってところがいいんだよ」
「妹系きゃ…ら?」
「あ…、えっと…」
「お姉ちゃん…、こうかな」
「かーわーいーいーっ!」
「わっ」
お姉ちゃんだって…。マリアちゃんが普段やらないような、おねだりモードみたいな上目遣いになったので、思わず抱きしめてしまった。
「ユリアーナ様が好きなのはわたくしの身体ですわ!」
「ふがっ…」
スヴェトラーナは爆乳の谷間に私を挟んだ。最近お風呂やベッドでもやってこなかったのに、若返ったからなのか性欲が回復してしまったらしい?ブレスレットの魔力がどんどん減っていく。
「私のも好きだよねー」
「んぐぐ…」
後ろからはブリギッテの爆乳に挟まれた。
心拍数を制限しているとはいえ、少しは鼓動が早まってるわけで、酸素の消費も大きい。私はふんふんとワープゲートで空気穴を作った。そして、前からも後ろからも柔らかいものに包まれる感触をしばらく味わっていた。
そして、誰かに引っ張られて極楽の奈落から救い出されてしまった。
「ユリアちゃんは私と魔道具を作るのが好きなんです!」
「ユリアナ、私はどうかな…」
「セラフィーマ…、マレリナ…。どっちも好きだよ…」
「もう!結局、私は大きくなればいいの?小さくなればいいの?」
「わらわはどんな娘でもイケるぞ」
「ルシエラは黙ってて!」
「私はそのままのみんなが好きだよ…」
「そうなの?じゃあこのままでもいいや」
悪役令嬢風美人、ボーイッシュなエルフ、大人っぽい幼女、妹、残念美人、お母さん、ツンデレのじゃ…。個性があってみんな好きだよ…。
その日からお嫁さんたちはベッドで私にアタックしてくるようになった…。私は油断するとすぐキスしてしまいそうになる。まあ、みんなの第二子を作ってもいいんだけど、卒業直後と違ってみんな仕事をしてるから突然抜けるのはね…。でも女の人が妊娠ですぐに仕事を抜けられない社会はよくないか。いや、日本でも仕事とかの兼ね合いを見てもうちょっと計画的に子作りするよね?爵位を娘の誰かに譲ってからにしようよ…。
ところで、お嫁さんや養母を不老にしたのなら、お母さんを不老にしない手はない。お母さんは私より十二歳上なので三十八歳のはずだ。お母さんにも十七歳になってもらいたい。私が薫の記憶を取り戻したときに十八歳だったろうから、それよりちょっと若いくらいになるかな。
加齢を回生してある程度魔力がたまったらその魔力を使って等速で若返るようにしよう。一日加齢を止めたら一日若返るようにして、四十二年で十七歳まで若返る魔道具を作った。四十二年たったあとは加齢を止めるだけで、生成した魔力は治療に使うことにする。この魔道具を腕輪にして、アリアにお守りだと言ってお母さんに渡してもらった。これでお母さんが八十歳になるときに十七歳のお母さんが完成だ。
なんだかんだいって大事な人を魔法で改造しまくりだ…。一度手を染めたらたかが外れてしまった。
だいたい、かりに寿命で死んでしまっても、タイムスリップやタイムリープの魔法があるから、生前に戻ることができる。死んでしまって寂しさに潰れてしまいそうとか、あのとき若返らせておけばよかったと後悔したら、やりなおせばよいだけなのだ。
ちなみに、私のお母さんを若返らせるならということで、マレリナの家族も若返らせるかこっそり聞いてみた。だけど、返事はノーだ。マレリナはほぼ不老の私と歩むために若返ったのであって、不老のパートナーのいない家族には若返りは不要と。だから、アリアのためにナタシアお母さんを若返らせるのは、マレリナ的にはアリなのだ。
他のお嫁さんたちも自分の家族を若返らせてほしいとは言ってこないし、気にしなくてもいいのかな…。
私とお嫁さんたちは学園の他の学年の授業も受け持っている。今回は上下の学年では嫁ドラフトを行っていないらしい。前回大漁だったからいらないよね。前回大漁だったのは私がほぼ全員を優秀にしてしまったからなのだけど。
もともと優秀な子などあまりいなかったから、同期だけではなくて上下の学年からも募集していたみたいだ。だけど、ヴィアチェスラフが王に即位してからの十年間、ほとんどの子が王妃になれるほど優秀な成績を収めてきた。私がカリキュラムを見直したからね。男爵家だろうと元平民だろうと、学園で真面目に授業を受けていれば王妃になれるなんて、意外に身分にうるさくない世界だよ。
だいたい基準がおかしいんだよ。一定以上の成績を満たす子全員じゃなくて、上位何名って決めておこうよ。っていうか、今回は上位十名が基本であることが言い渡された。ただし、めぼしい子が十人を超えたらそのときはもっといっぱい取るってことで。
そのせいで、誰がコンスタンチン王子の嫁になるか、今回は女子たちは目からプラズマを発して競っている。がんばって全員で王妃になりましょう!という雰囲気じゃない。なるほど…。私の時は私たち以外全員王子の嫁に内定したから雰囲気が良かったんだ…。基本十人って決まっているなら、みんなライバルになってしまうからギスギスするよねえ…。
ところがどっこい、今回はコンスタンチン王子だけでなく、ジェフスカーヤ王女も嫁を十人募集しているのだ。だけど、王女の嫁というのは一見理解不能なので、誰も見向きをしていなかった。でもそれは最初のうちだけだった。女子たちはジェフスカーヤのことを素敵な男性のように見るようになってきたのだ。私の時と同じだね…。でも、ハイエルフはマザーエルフほど素敵には映らないらしい。女子たちはジェフスカーヤばかりに目が行っているわけではなく、コンスタンチンとジェフスカーヤの間で目移りしているようだ。
そして、この状況をさらにカオスにしているのが、ヘンストリッジの王子、ブラッドフォードだ。ブラッドフォードは嫁探しをしているとは明言していないが、していないとも明言しておらず、第三のターゲットになっている。他国の娘を十人お持ち帰るかどうかは分からないけど、王女と私の娘を除いた二十八人の女子は誰もあぶれないんじゃないかな。
そして、さらにさらにカオスに拍車をかけているのが、私の娘たちの存在だ。マシャレッリ侯爵家といえば、フョードロヴナ公爵家と並ぶほどの財産を持ち、国の産業を支えている家だと認識されている。その娘が六人もいるのだ。ジェフスカーヤ王女とよく似ているアレクサンドラを始め、六人の娘は女子のターゲットになってしまっている。やはり、マザーエルフほど絶対的な魅力があるわけではないようなので、コンスタンチン王子とジェフスカーヤ王女、ブラッドフォード王子と私の娘六人は、およそ均等に女子の目線を奪い合っているような状況だ。
ちなみに、フョードロヴナの現当主であるエドアルドはスヴェトラーナの二歳下であり、その息子は十六歳下であるようなので、今回の嫁ドラフトにはエントリーしていない。いたら大変なことになっていた。
ジェフスカーヤ王女がコンスタンチン王子の正室になることは明言されているけど、子を産めるようになっていることは明言されていない。そんなこと、堂々と発表するものではない。だけど、正室になるからには子を産めるであろうことは明らかだ。それにジェフスカーヤも募集しているのは嫁だけだ。女としてのジェフスカーヤ王女は売約済みであり、男子はその美貌に目を奪われながらも、他の女子に目を向ける必要がある。
私の娘たちは一見、男子が婿入りするのにとても魅力的な物件であるが、エルフはいつ子を産めるようになるのか分からないことも認識されているので、私の娘たちに婿入りを狙うのはバクチなのだ。だから男子は私の娘たちに目を惹かれながらも、やっぱり他の女子から伴侶を探さなければならないのだ。
ここでもしアレクサンドラが子を産める身体になっていることがばれたら、男子の集中砲火を浴びるのは間違いない。生理で体調が悪いようなそぶりを見せるのは絶対に避けなければならない。でも、タンポンは優秀で、めったなことでは漏れたりしないし、それに新製品、魔道タンポンは子宮内膜を治療する機能もあるので、生理で身体が不調になることもない。アレクサンドラの生理がばれることはないだろう。剣術の授業を休んだりしなくてよいのだ。
そんなわけだから、二十八人の女子はコンスタンチン王子、ジェフスカーヤ王女、ブラッドフォード王子、私の娘たち六人に目が行っていて、他の八人の男子はまたもや誰もお相手がいないという状況だ。例年、王子の嫁ドラフトにあぶれた女子を狙って、男子も多めに集まっているのだけど、考えを改めた方がいいかもしれない。ディミトルにも早々と他の学年の女子を狙うように仕向けるべきか。
ところでブラッドフォード王子は、なにも嫁を探しにきたわけではない。
ローゼンダールの周辺には五つの国がある。西はヘンストリッジ、北西はウッドヴィル、北はリオノウンズ、北東はアバークロンビー、東はヴェンカトラマンという王国だ。三〇〇年前にリオノウンズと戦争をした記録が残っているが、今はどの国とも敵対していない。かといってそれほど友好的な付き合いをしてきたわけでもなかった。
しかし、ここのところ周辺国はローゼンダール王国のことを魔法大国と呼ぶようになっているのだ。珍しい魔法や溢れる魔力など魅力的なものの噂を聞きつけて寄ってきたというわけだ。交易などほとんど行われていなかったけど、何ヶ月も馬車を走らせて手に入れたい情報やものが盛りだくさんだ。
そこでまず王子の留学だ。ヴィアチェスラフ王は私がもたらした新しい魔法を、周辺国に広めることにしたのだ。ヴィアチェスラフは魔法を広める使命を負っている私よりも意識が高いな。まあ、私は音楽を広めてアニソン歌手になるのが主目的なのでしかたがない。
とはいえ、魔法の情報を持って帰るだけなら王子が来なくても教師とかでいいと思うのだけど、ここには意識の違いがあったのだ。周辺国では魔法というのは弦の位置を見て覚えるしかないものなのだ。ローゼンダールでは私が楽譜を発明したからこそ、書物から魔法を学ぶことができるようになっているが、ブラッドフォードはまずそのことに驚いていた。知識を得るのであればまず王族がいちばんという考えがあったため王子がやってきたのだが、ローゼンダールでの魔法の知識の扱いが軽くて、王族だけが知識を独占するつもりだった計画がご破算だろう。
まあ、知識を独占してるのは実質私で、世の中に出回っている魔法は危険の少ない魔法だけなだんけどね。
★★★★★★
★ブラッドフォード十歳
ブラッドフォード王子は学園で魔法を学ぶだけでなく、休日は王都に出て町並みや店を見て回っている。
今やローゼンダールは、どの領地にも発魔器と魔力インフラが整備されていて、コンセントから供給される安い魔力で使える便利な家電で、貴族から平民まですべての民の生活が高度化している。町や街道には街灯があり夜でも明るいため、犯罪が起こりにくくなっている。掃除機や洗濯機、水道などにより、人々は生活にかかるコストが低くなり、その分生産性の高い仕事に時間を割くことができる。
ヘンストリッジ王国では王族でなければ風呂に入れないというのに、ローゼンダール王国では平民が毎日風呂に入っている。それにより病気が激減し、人々は常に元気に働ける。
ヘンストリッジ王国では肉や果物は王族や貴族の贅沢品されているが、ローゼンダール王国では平民の誰もが市場で買うことができる。さらに、王族の菓子にも出されないような甘味を喫茶店という店で味わうことができる。
その肉や果物を食べた者やその子供には、微量ではあるが魔力が発現するという。どの領地でも魔力持ちの子供が増えており、教会では魔力持ちの子供が無料で教育を受けられる。そして、育児から解放された母親は、別の仕事にありつける。これにより、さらに生産性が高まっている。
町の通りは音楽と笑顔で溢れている。学園の娯楽音楽の授業で習っている音楽も聞こえる。平民は仕事に明け暮れるだけでなく、娯楽に費やす時間があるのだ。
ブラッドフォードは驚愕した。ローゼンダール王国の国力や文明はヘンストリッジ王国とは比べものにならない。新しい魔法の知識だけでなく、便利な魔道具も取り入れる手はずを進めようと考えた。
聞けば、便利な魔道具の設計書や魔方陣は王家が握ってはいるものの、それをもたらしたのはマシャレッリ侯爵家であり、生産しているのはマシャレッリ侯爵家とロビアンコ侯爵家だという。夏の長期休暇にはマシャレッリに視察に行こう。と思いきや、ローゼンダールの各領地はワープゲートの魔道具で繋がっているという。しかも、平民でも利用できるような通行料で。
「ユリアーナ先生」
「はい、ブラッドフォード王子殿下、何用でございますか」
ブラッドフォードは芸術音楽の授業の終わりに、クラスの女子と同年代にしか見えない灰色髪の教師に話しかけた。
「今週末、マシャレッリ領を視察したいのだが、案内してもらえるだろうか」
「また急ですね…。案内の者を用意しましょう」
「そなたが案内するがよい」
「私は仕事がございます」
「そなたのような子供に他国の来賓の案内より優先する仕事があるというのか」
「私はエルフなのです。これでも二十六歳で、マシャレッリの侯爵をしているのですよ」
「そなたが侯爵本人?令嬢ではなく?」
小さな教師は顔を赤らめながら自分の髪をかき分け、少し長い耳をさらけ出した。一瞬、何が恥ずかしいのか分からなかったが、たしかに触ってみたくなる衝動に駆られる。だが、他国で騒動を犯すわけにはいかないので、ぐっとこらえた。
「ええ」
「それはすまなかった」
エルフの存在は知っているが、ヘンストリッジでは人として認められていない。
耳が長い以外は、ずっと見目麗しい人間女性の姿をしているということで、愛玩動物として飼っている貴族がいる。それが王女だけでなく、侯爵の位についているとは勉強不足だった。
エルフの寿命は人間の五倍だという。それにしても、このユリアーナ女史は小さすぎはしないだろうか。
ユリアーナがマシャレッリ侯爵だというのなら、六人もいるマシャレッリ侯爵令嬢は皆ユリアーナの娘?あまり似ていないが、まあ、そうなのか…。
などと考えていたら、ユリアーナは少し警戒の態度をあらわにした。子供扱いしたことが不快だったか。
「週末にお越しくださるなら、案内の者を付けます。私は『他国の王子よりも優先する仕事』がございますので、付きそうことはできません。それでもよいですね?」
「そ、そうか。急ですまないな」
イヤミを言われたにもかかわらず、なんだか妙な威圧が込められており、折れるしかなかった。
次の休日、マシャレッリ侯爵から案内係と馬車、御者を借りて、護衛とメイドを伴ってマシャレッリ領へのワープゲートをくぐった。ローゼンダールの治安はヘンストリッジよりも圧倒的に良いが、さすがに王子の私が護衛なしで出歩くわけにもいかない。その馬車も馬が引いているのではなく、空間魔法の念動で動いている、自動車という魔道具だ。ほとんど揺れることがなく、ふかふかの椅子に座っていると眠りこけてしまいそうだ。
ワープゲートは希少な空間属性の魔法であり、ヘンストリッジの空間魔法使いが扱えるのはせいぜい数キロ距離のものだ。しかし、このワープゲートは二五〇キロの距離を繋いでおり、一日に何百人もの人や何十台もの馬車が行き交うのだ。
いったいどれだけ魔力を潤沢に使えるかと思うが、それもこれも魔力を生み出す発魔器という魔道具のおかげだ。発魔器、ヘンストリッジにも絶対欲しい。しかし、発魔器の供給にはローゼンダールから見返りを求められている。圧倒的に裕福で高度な文明を持つローゼンダール王国に我が国が差し出せるものを考えなければならない。
ワープゲートを出るとマシャレッリ領都の入り口だった。この自動車は登録されているため、入門手続きをスルーして領都に入った。というか、商人の馬車もほとんど素通りしている。認証の魔道具というものを使っており、出入りが自動で記録される。
マシャレッリ領都は王都よりも賑わっており、あちらこちらから音楽が聞こえ、人々は笑顔で溢れている。案内係に尋ねると、王都で展開されている魔道具や料理のすべてはマシャレッリ領が発祥の地だという。
平民に教育している教会も王都に比べると巨大だ。ここでは魔力を持たない平民にすら教育を与えているという。魔力がなくとも、知識を付けた平民は高度なものを生み出すことができる。それがさらに民の暮らしを豊かにしている。
その、魔力を持たない平民に教育を施しているという教会を訪れた。教室の外に、美しい声が漏れ聞こえる。これは、学園の授業で聞いているユリアーナ女史の声ではないか。
教室を覗くと、案の定ユリアーナ女史と多くの者が壇上に上がり、無数の子供とともに音楽と歌を演奏していた。いや、子供だけでなく大人も混ざっている。それに耳の長いエルフもけっこういる。なんなのだこの場所は。
ユリアーナ女史以外に交代で訪れる娯楽音楽と芸術音楽の教師が六人、それからマシャレッリ侯爵令嬢の六人もいる。
ん?ユリアーナ女史が三人いる…。いや、一人は顔つきが微妙に違うし、もう一人は少し大きいか。それに、ユリアーナ女史に似た灰色髪の少女はもう一人いるな…。貴族の装いではないが…。
ユリアーナ女史はエルフなので子供に見えるが、二十六歳ということなので、子供がたくさんいるということか…。王族並みだな…。ユリアーナ女史よりも大きいのは子供ではなく姉か?すると子供は八人…。十六歳から一人ずつ産んで…、いや、侯爵令嬢の六人は皆学園に通う十歳だから…。そうか!エルフは女に姿に見えるが、女と交わり子を授けることができるのであった。ユリアーナ女史以外の音楽教師はマシャレッリ侯爵夫人だ。彼女らが産んだ子供が、学園に通う侯爵令嬢か。エルフを愛玩動物としてしか扱っていない我が国では信じられないことだ。
ユリアーナ女史は私が教室に入ったのに気が付いたが、そのまま歌を続けている。歌いながら、信じられないほど速い指に動きで白と黒の板が打ち付けられた楽器を奏でている。
曲が終わっても私に振り向くことなく、次の曲を始めた。私よりも重要な仕事とは、平民とともに音楽を演奏することなのか。なめられたものだ。これが大国の余裕。私は発魔器や他の便利な魔道具をヘンストリッジに持ち帰るために、ローゼンダールの王族や貴族の機嫌を損ねるわけにはいかない。
しかし、ユリアーナ女史以外にも、歌うことができる者はいるのだな。ユリアーナ女史とよく似た二人と、侯爵令嬢の六人、それにもう一人平民の装いの灰色髪も一緒に歌っている。そして、その歌声は美しく心地よい。ユリアーナ女史は心からこの時間を楽しんでいるようだ。学園では清まして歌っているが、ここでは外見どおりの娘のようにはしゃいでいる。こうして聞いていると、たしかにこの時間が大切なものに思えてくる。
そして、なぜかユリアーナ女史のことが…。いやいや、ユリアーナ女史はマシャレッリ侯爵なのだ。他国に嫁ぐことはできない。それに、私と同年代に見えて、実際は八人の子を持つ親。しかもエルフ。ヘンストリッジに連れ帰ることはできない。
ならば侯爵令嬢を…。彼女たちも楽しそうに歌っている姿が美しい…。いや、彼女たちもエルフなのだ…。
それから、レストランや喫茶店、仕立屋などの主要産業の店を回った。王都とそれほど変わらないが、マシャレッリの方が品揃えが多く、また服にデザインも先進的だった。
視察の終わりに、ユリアーナ女史との会談の機会を得ることができた。応接間でユリアーナ女史は護衛やメイドを一人も付けていない。平和ボケしているのか。私の護衛は帯刀しているのにもかかわらず、彼女は無防備だ。
「ごきげんよう、ブラッドフォード王子殿下」
「忙しいところ、話す機会を設けていただいてすまない」
「マシャレッリ領はいかがでしたか」
「王都にあるものはマシャレッリが発祥というのは本当のようだな」
「ええ」
「発魔器もマシャレッリが握ってるという」
「そうですよ」
「ヘンストリッジに発魔器を卸してもらうには、何が必要だろうか」
「私はヘンストリッジ王国を訪れたことがないので、ローゼンダール王国になくてヘンストリッジ王国にあるものが分かりません」
「ヘンストリッジだけにあるものか…」
「ローゼンダールでは食べられないものがありませんか?」
「ヘンストリッジからローゼンダールは馬車で三ヶ月以上かかるのだ。食料品は傷んでしまうだろう」
「友好を結び必要があれば国どうしをワープゲートで繋ぎましょう。それに、鮮度を保つことのできる冷蔵庫の魔道具もありますよ」
「国を結ぶワープゲートだと!?」
「ローゼンダールの国の端から端までとあまり変わらないでしょう」
「たしかに…」
「さあ、ローゼンダールにないものが何かありませんか」
「ヘンストリッジの西側には対岸の見えないほど巨大な湖があっ……」
「それはもしや海ではありませんか!」
「あ、ああ。ローゼンダールには海がないのに、よく知っているな」
ユリアーナ女史は身長と顔つきに似合わない大人の対応をしていたのだが、海の話を出した途端に立ち上がり、身長と顔つきにふさわしい少女の振る舞いをし始めた。あまりに食い気味に話をされて、私はたじろいでしまった。
「魚という種類の魔物がいますね?」
「ああ、海の魔物だな」
「海藻という海の植物がありますね?」
「海の魔物に引っかかった植物はあるが…」
「海の魔物と海藻を卸してください」
「はぁ?魔物が欲しいのか?」
「ええ。レストランや精肉屋に魔物の肉があるのは知っているでしょう」
「そうだが…。それにマシャレッリ侯爵の裁量でよいのか?」
「ええ。私が作ったものですし」
「なんと…」
この国を牛耳っているのは王ではなくマシャレッリ侯爵だったのか…。
「しかし、海の魔物は、海外に使者を派遣するときに攻撃してきたものを撃破するだけで、輸出するほどの量を確保できるとは思えないが…」
「では、いろいろな海の魔物のつがいを生け捕りにして二ペアずついただけますでしょうか」
「生け捕り…」
「ローゼンダール内で繁殖させて養殖します」
「繁殖…」
この御仁は何を言っているのだ…。魔物を育てて増やす…?
「来週また視察においでくださいますか?別に隠しているわけではないのですが、今回ご覧になったのはお店や教会など、目に触れやすい部分ばかりではないですかね」
「ふむ。いいだろう」
「それではまた来週おいでください」
そして、次の休みの日。
「今日はそなたが案内してくれるのか?」
「ええ。ヘンストリッジ王国と友好を結び、海産物をいただけるのであれば、ブラッドフォード王子殿下に我が国の産業を理解していただくのは普段の仕事より重要な仕事ですから」
と言われて案内されたのは、地下の…、
「臭いな…」
「申し訳ございませんが、そのうち慣れます」
「これは…、魔物?オーク?ミノタウロス?」
牢に閉じ込められた魔物がうじゃうじゃいる。
「ええ、それをですね、」
スタッフがやってきて、ハープでポンポン♪と魔法を奏でると、ミノタウロスに小さな雷が走った。そして、ミノタウロスは気を失った。
スタッフは牢に入り、ミノタウロスの腹の辺りで何か作業している。牢には他のミノタウロスもいるというのに、ミノタウロスはスタッフを襲う気配がない。
「あれは何を?」
「搾乳です」
「搾乳?」
「ミノタウロスのお乳を採っているのです」
「そんなものが何になる?」
「喫茶店でパンにかかった生クリームをお召しになりましたよね?」
「ああ…。まさかあれはミノタウロスの乳なのか?」
「その通りです」
「魔物からあのようなうまいものを採取できようとは…」
「うふふ、他にもたくさんあるのですよ」
自称二十六歳の少女は、見た目どおりの十歳の少女のようにいたずらに微笑んだ。私の胸が高鳴る…。この少女がクラスメイトだったらいいのに…。
そのあとは、コカトリスの卵がケーキの生地やカスタードクリームになることや、各種肉料理の元となる魔物、服の原料を採取できる羊の魔物と蜘蛛の魔物について教えてくれた。それから、果物を育てるのには木魔法使いが必須だという。私の得意な木魔法が人々の生活に役立ってると知ると、少しだけ嬉しくなった。だがそんなことよりも、一緒にいられる時間が嬉しかった。
「分かりましたか?ヘンストリッジ王国の魔物もうまく狩りやすい状態で繁殖させれば重要な食料源になるのですよ」
「十分に理解した。しかし、海に住まう魔物を、どうやってここまで運べばよいか…」
「それでは友好を結んだ暁には、私がヘンストリッジ王国にお邪魔して、海の魔物を捕獲します。それでいくつかの発魔器とその設計図をお渡ししましょう」
「本当に見返りがそのようなことでよいのか?」
「それではもうひとつ」
「えっ…」
「音楽の授業は楽しいですか?」
「ああ。とくにそなたの授業が楽しいが、それがどうした」
「それでは、卒業して国に戻ったら音楽とその楽しさを広めてください」
「それもまた対価にならぬであろう…」
「私にとっては大変価値があるのです」
「よく分からぬが…、その程度でよければいくらでもやろう」
「ありがとうございます。では、ヘンストリッジ王国向けの手紙をしたためますので、後日…」
視察を終えて、乗り心地のよい馬車でワープゲートをくぐり、王都に借りている屋敷に戻った。
ユリアーナを連れて帰れないのなら、ヘンストリッジに戻りたくはないな…。いっそこのままローゼンダールに留まりたい…。
まあ、まだ六年近くあるのだ。それまでに、なんとかユリアーナを連れ帰る算段をすればよい。
★★★★★★
★ユリアナ二十六歳
なんと、ブラッドフォードとの話し合いから、ヘンストリッジの西側に海があることがわかった。じつは、ルシエラの記憶には海の魔物との戦闘経験もあったのだけど、海の場所が分からなかったのだ。ルシエラはこの大陸の地理がほとんど分からないからだ。
海の幸で無双するのは転生者の嗜みだろう。といいたいところだけど、私はあんまり海鮮料理って知らないんだよね…。薫の好きな海産物って、焼き魚と刺身とか、海苔と昆布くらい。どちらかというと、魚と昆布出汁の味噌汁や煮物を作りたいなぁ。
ローゼンダール王国は内陸なので海がない。海がないのに海魚を連れてきてどうするのかって?海がないなら作ればいいじゃない。マシャレッリの地下に大きな空洞を作って、ヘンストリッジの海までワープゲートをつなごう。海水ごともらってくればよい。
水が土に染みて周囲の農産物に塩害をもたらさないように注意しなければならない。周囲は岩でガチガチに固めよう。
ローゼンダールにも川くらいはある。王都の農場に水を引き入れるために、川から水路を作ったりもした。川魚がいるのは確認した。魔物ではないのかもしれないけど、泥臭くて食べ物だと認識されていない。存在を知らない人も多い。
手紙のやりとりではいつになるか分からないけど、とりあえず私には無限の時間があるのだから、焦る必要はない。海の工事もスタッフに任せてのんびりしていよう。
それにしても、またやってしまった…。ブラッドフォード王子が恋する乙女のようになってしまった…。気持ち悪いから男が乙女にならないでほしい…。マザーエルフ…、罪な種族…。
学園の夏の長期休暇に入った。学園が長期休暇だからといって、マシャレッリの教会は休んだりしない。
そもそも、長期休暇というのは帰省に何日もかかる遠い領地の者のための休みである。ワープゲートで一瞬で帰れるこのご時世、長期の休みなど不要だ。何なら寮や王都邸すらいらないのではないか。寮の賃料や王都邸の維持費よりも、ワープゲートの通行料のほうがよほど安いのだ。東京の一等地に狭い住居を構えるよりも、広々とした田舎に大きな屋敷を構えて、超高速の新幹線で通勤するみたいな文化が生まれつつあるのだ。
というわけで、教会の夏休みは、学園の夏休みの終わりごろに一週間くらいしかない。冬休み、というより春休みも、学園の冬休みの終わりごろに一週間だけだ。
教会は通常営業。私とお嫁さんたち、レティシアとアリアは教会で娯楽音楽の教師をやっている。その教室に招かれざる客が…。
木琴や笛を演奏している子供に交ざって、ハープを奏でているブラッドフォード・ヘンストリッジ王子…。王都の借家からワープゲートで毎日やってくるのだ。
何しに来たのかって、自国に音楽を広めるためにここでもっと音楽を学びたいとか言ってるけど、歌っている私を見て赤くなって目をそらしたり…。人間の女の子ならイケメン王子が照れていたら可愛いとか思うのかも知れない。普通のエルフならとくに何も感じないのかもしれない。だけど私は前世に男の記憶を持つエルフだからなのか、男がくねくねしてても気持ち悪いとしか感じない。
心を読んでいるわけではないのだけど、私だけではなく、娘たちにも気があるように見える。いや、私への恋はかなわないから、自分の気持ちを娘に切り替えようとしているようにも見える。いや、娘たちだって見た目も声も可愛いし、惹かれるのは当然なのかもしれない。でも、娘を男に嫁がせるなんて…。アレクサンドラが子供を産める身体になっていることは絶対に秘密だ。
いや、でも、エルフが男と結婚するのは、私にとっては男と男が結婚するように感じられるけど、普通のエルフにとっては愛のない政略結婚くらいにしか感じられないのかもしれない。政略結婚ならしかたがないのか…。でもできるなら好きな人と結婚してもらいたい。
まあ、娘のことはさておき、ブラッドフォードは音楽の授業だけじゃなくて、算数や理科の授業にも顔を出している。算数は小学四年生レベルから。理科はこの世界にある学問ではないので最初から。どちらも子供に交じって熱心に授業を受けている姿が微笑ましい。だからといって私はときめかない。
娘たちは学園に入学してから身長の伸びがピタッと止まってしまった。正確には、前の年の秋くらいからだろうか。十歳から成長が止まるというけど、この世界では数え年を使うから、実際には前の年の秋で九歳になったばかりであり、九年間生きたあたりで成長が止まるのではないだろうか。
止まるといっても、私みたいに一〇〇〇分の一の速度ではなくて二〇分の一だから、四年につき一センチくらいは伸びるはずだ。ほとんどわからないだろうけど。
九年生きるまでにどれだけ滑り込みで成長できるかという感じだろうか。娘たちの成長にはそれなりに差がある。
とくにアレクサンドラは標準身長より五センチ高いし、すでに成人エルフサイズ以上の巨乳を持っている。身長と顔つきの成長が止まっても、十八歳までは胸やお尻などの体つきは等速で成長する。いや、スヴェトラーナと同じで、五倍速で成長している。三ヶ月でドレスのトップスを作り直さなければならないのは親譲りだ。このまま成長したらどんなロリ爆乳少女になるのか楽しみだ。
それから、アンジェリーナも少し成長が速い。早産で若干未熟児だった面影は全くない。標準よりは身長も体つきも少しだけ大人だ。おかげで、私よりも少し背が高い。アナスタシアは遺伝子レベルで小さいわけではないので、アンジェリーナはタチアーナによく似ている。タチアーナはエロいママなので、アンジェリーナもそんな感じだ。
フィオナは生まれて真っ先に体重をアンジェリーナに抜かれ、そのあとも成長が遅い。十歳までに六歳相当までしか成長しなかったのに、成長が止まってしまった。私としてはとても可愛い幼女なので好きなのだけど、やっぱり本人はコンプレックスなのだろうか。
マリアちゃんはエルフとは何も関係ないけど、身長や体つきすべての成長速度が五分の一くらいだった。今後、フィオナの身長は五分の一の二十分の一で一〇〇分の一になるのかな…。だけど、体つきの成長は五分の一のままだから、それなりに成長するんじゃないかな。まあ、本人は命魔法を使えるし、魔法の単語を組み合わせて任意の魔法を作ることも知っているから、コンプレックスに耐えられなくなったら、自分で身体を弄る魔法を使えばいいと思う。
ラティアとソフィア、マルグリッテは標準体型だろうか。セラフィーマとマレリナが標準体型だからね。ブリギッテは今では爆乳に改造済みだけど、もともとの巨乳はエルフとして標準体型だろう。
セラフィーマに筋肉は見えないけど、マレリナはけっこうムキムキなのだ。だからといって、ソフィアには筋肉があまり見られない。それにもかかわらず、ソフィアはマレリナより力が強い。エルフというのは筋肉で力を出すんじゃないのか。まあ、マレリナにいくら筋肉があるからって、見た目からは信じられないような力を出すし、筋力強化の魔法は本物の筋肉以外にも魔法の筋肉みたいなものを身体に染みつかせているのかもしれない。
レティシアはやはり皆と同じく十歳で身長の伸びが止まったけど、今のところマザーエルフなのかハイエルフなのか分からない。数年たてば差が付いて分かるだろう。
アリアは標準体型だ。アリアは耳の長さの成長を阻害するイヤリングの魔道具を付けているので、ちょっと明るめでかなりキラキラした灰色髪の人間にしか見えない…はずだったのだけど、お嫁さんたちに私の子であるとバレてしまった。他の娘と髪の艶や魔力が同じだし、一緒に歌うし、バレバレだったか…。
★★★★★★
★ブラッドフォード十歳
ある日、ブラッドフォードがマシャレッリの教会で音楽を奏でながらユリアーナやその娘たちに見とれていると、教室に慌てて駆け込んできた者が言った。
「郊外で巨大な魔物が現れました!」
「場所を教えてください!」
ユリアーナとユリアーナの姉?と妹?と娘たち六人、それからもう一人の教師、つまり歌うことにできるメンバーは教室を出ていく。私はユリアーナの肩を掴んで、
「私も参ろう」
「ブラッドフォード王子殿下…、危険なのでここでお待ちください…」
「いや、私の王族としての魔力が役に立つであろう」
「そうですか…。とりあえず、肩をお離しください…」
「す、すまない…」
私はずっとユリアーナの肩を掴んだまま話していた。とても柔らかくて心地よくて、手がそれを自然に求めていた…。十歳の華奢な娘の肌…。強く触れたら折れてしまいそうなほど…。痛かっただろうか…。怖がらせただろうか…。ユリアーナは若干身体をブルブルと震わせた。
「あのぉ…、行きますよぉ~…」
金髪のアンジェリーナ嬢がおっとりとした声とともにハープを奏でると、ワープゲートが現れた。エルフとは七属性も八属性も持っているものなのか。空間属性のカラーは紫であり、金の髪からは想像できないが、魔力検査でもちゃんと出ていたからその通りなのだろう。
ワープゲートを通るとそこは森。そして、全長三メートルで四足歩行の魔物があたり一面を覆い尽くしている。背中は堅い甲羅で覆われ、それ以外の部分も堅いうろこで覆われている。足が遅いのだけが幸いだ。
私は魔物討伐を見学したことがあるが、これは他領に援軍を求める案件なのでは…。十歳の娘が集まってどうこうできるものでは…。
「スッポン!これは食べられそうですね!つがいを二組もらっていきましょう!」
ユリアーナは何を言っているのだ…。そんな場合ではないだろう…。と思いきや、いつのまにかユリアーナの周りにいた魔物のうち四体が異次元収納の穴に落ちて姿を消した。
ユリアーナの属性は何だ?髪は少しだけ明るい灰色だから命属性と聞いていたが…。それとも、異次元収納は魔道具か?
「この魔物は堅そうですね。いつもみたいに殴る蹴るでは倒せませんよ。今日は連携を練習しましょう」
「「「「「はーい」」」」」
ユリアーナと娘たちの甲高く脳天気な声が鳴り響く。
「おい、来るぞ!」
「じゃあ、壁役、マルグリッテ」
「はーい」
ぽんぽん♪と橙色髪のマルグリッテがハープボウを奏でると、我々の前に壁が現れた。不思議な形をしており、我々の側がつぼんでおり、魔物が一体だけ通れるほどの通路になっている。そして最後は閉じられていない。魔物が通路を通って一列になり、どんどん集まってくる。
「おい!大丈夫なのか!」
「それでは、木を操る役、ラティア」
「了解です!」
私の忠告など聞く耳持たず、次の指示をするユリアーナ。
赤髪のラティアがハープボウを奏でると、遠くの方で木が動き出し、魔物と対峙し始めた。木魔法にこのような使い方があろうとは!
「それから、門番、ソフィア」
「わかった!」
緑髪のソフィアがハープボウを奏でて、我々の前に出た。あの巨体を前にどうしようというのだ!
「アリアはヒーラーとして待機」
「はい!」
やはり、あの音楽教師の髪は少し明るい灰色だから命魔法使いなのか。
「フィオナはガソリンを気化させて、アレクサンドラは酸素生成」
「はーい」「分かりましたわ!」
赤紫髪のフィオナと青紫髪のアレクサンドラがハープボウを奏でると、魔物の周囲に霧が立ちこめた。私の知らない魔法だ。
「マルグリッテ、壁を閉めて!」
「よし!」
マルグリッテがハープボウを奏でると、ソフィアの前に壁が現れ、完全に魔物の行き先をふさいだ。
「アンジェリーナ、ファイヤ!」
「は~いっ♪」
ユリアーナの合図に金髪のアンジェリーナの間の抜けた返事。そして、アンジェリーナのハープボウの音が鳴り終わると、壁の上が赤く染まった。そして、地響きとともにドゴーンとものすごい音が鳴り響き、熱を帯びた暴風が壁の上を吹き荒れた。
「なんという威力だ…」
直接見ていなくても分かる。まるで火山でも爆発したようだ。アンジェリーナの火魔法なのか?
「レティシアは透視で戦況を確認」
「うむ!ららら~……♪……全滅じゃ!」
「ちょ…レティシア…。ハープ弾いてよ…」
「あ、すまぬ、母上よ…」
あれはユリアーナの妹ではなく娘だったのか…。妾の子であろうか。透視といえば空間魔法だが、あの灰色髪の娘は空間魔法を使うというのか?それとも、ハープを使わなかったようだから魔道具なのだろう。そのような魔道具まであるとは…。いや、ハープでも空間魔法を使うことができるのか?
ちなみに、ユリアーナの姉であるルシエラは傍観していただけだったな。ユリアーナも指示をしていただけだ。二人とも命魔法使いなのだろうか。この者たちの髪色はまったく当てにならない。
壁が崩れ落ちると、辺り一面焼け野原。木も草も何もかも炭になっている。光と音から想像したとおりの威力。アンジェリーナは火魔法の化け物なのか…。
「じゃあ、アンジェリーナ、ラティア、ソフィア、マルグリッテ、アリア、レティシアは手分けして木を元に戻してね。フィオナは陥没した土を戻して」
「「「「「はーい」」」」」
娘たちがハープボウを奏で始めた。すると、ぼこぼこだった真っ黒の地面は平らにならされて、炭の間から草木が生えてきた。草木はあっという間に大きくなり、森となった。
「こ、これは…」
私は木、風、命の属性を持っているが、木魔法を最も得意とする。木魔法には攻撃魔法がないので、基本六属性の中ではハズレと言われている。私はハズレの王子なのだ。
娘たちが使ったのは「作物が育つ」魔法に似ているが少し違うようだ。私とて王族の端くれなので、自分の得意な属性くらいある程度学園に入る前に覚えている。しかし、ローゼンダール王国にはヘンストリッジにはない珍しい魔法があるというし、それもマシャレッリ領の教会では三歳から学び始めて十歳になるまでにすべて覚えてしまうという。
こんなにすぐに植物が育つ魔法を初めて見た。それに、これだけ広範囲に効果を及ぼすには、非常に多くの魔力を消費するだろう。これも魔力を生み出す発魔器の成せる技なのか。それとも、娘たちの持つ魔力が多いのか。
王族の私は魔力の多さに誇りを持っていたが、森と魔物を一瞬で炭にする魔力といい、森を一瞬で元通りにする魔力といい、この国では私程度の魔力などなんでもないようだ。
そして、今回ユリアーナが捕獲した「スッポン」という魔物は、マシャレッリ領で新たに育てられることになり、新しい味として広まることとなった。ユリアーナは、領地を襲った魔物をなんでも食料にしてしまうのだ…。どおりで海の魔物が欲しいなどと言うわけだ…。
★★★★★★
★ユリアナ二十六歳
時は過ぎて、学園の後期が始まった。マシャレッリの教会でひととおり学んでいる娘たちには、前期の授業は暇だっただろう。私は気になって、剣術の授業を見学に行った。
後期になってやっと剣術の授業が始まり、少しはマシになるか…。まあ、娘たちは娘たちだけで、目にも留まらぬ速さで剣を打ち合っているのだけど…。
ジェフスカーヤ王女は幼少期から筋力強化でトレーニングしてきたわけではないので、剣術の授業を受けても娘たちの相手にはならなかった。
おそらくエリザベータの血筋であるジェフスカーヤは、アレクサンドラと同じレベルの爆乳に育つだろう。スヴェトラーナは剣術をがんばっていたのに、胸が大きすぎてうまく剣を振るえなくなってしまった姿がとても可愛いかった。ジェフスカーヤでも同じものが見られるかもしれないと思うと楽しみだ。
とはいえ、ジェフスカーヤは可愛い顔して、ちょっときつい…。スヴェトラーナもアレクサンドラも顔だけ悪役令嬢なのだけど、ジェフスカーヤはどうやら本物の悪役令嬢、いや悪役王女のようだ…。自分の気に入った女子を取り巻きにして、気に入らない女子をいじめている。とくに顔や体型が似ているアレクサンドラのことが嫌いのようだ。
アレクサンドラはスヴェトラーナと似ているかと思ったけど、意外に泣き虫…。アンジェリーナとソフィアに守ってもらっている状況だ。私がなんとかしてあげたいけど、先生としても親としても子供同士のけんかに口を挟みづらい。今回はみんなで王子の嫁になりましょうという雰囲気ではないので、クラスメイトの溝は埋まらないかもしれない…。
そして、今回も王子はドMのようだ。コンスタンチンは娘たちに完膚なきまでにやられて喜んでいる。娘たちは私みたいに手加減しない。骨が折れるほど殴っては、治療の魔法をかけて元通りにするまでがルーチンになっている。
ちなみに、本物の女王様なジェフスカーヤは力が弱いし下手くそなので、コンスタンチンは甘んじて剣を受けても物足りなそうだ。ジェフスカーヤはドSのようだ…。木剣じゃなくて鞭を与えてはどうか…。衣装もレオタードのようなものにして…。
ドMなのはコンスタンチン王子だけではない。ブラッドフォード王子もドMだった…。とくにアンジェリーナにめった打ちにされるのが好きみたい…。アンジェリーナも「あらあらうふふ」とか言って楽しそうに王子を打ち付けている。
ブラッドフォードは私のことは諦めてアンジェリーナに乗り換えたようだ。
★ユリアナ二十七歳(ソフィア十一歳)
その後、二年生の後期になり、魔法戦闘の授業が始まった。バンバンと大技を撃ちまくる娘たちに二人の王子はたじたじ。さすがに攻撃魔法を喰らって喜ぶ趣味は持ち合わせていないようだ。
魔法戦闘の授業は、基本六属性のうち火、雷、土、水、風の属性持ちが参加するのが基本だったが、私が「木を操る」の有用性を示したことで木魔法使いも参加することになった。また、筋力強化と防御強化で格闘するのも命魔法使いの戦い方として取り入れられている。他にも、心魔法の戦意喪失による防御や、念動による攻撃なども授業のカリキュラムに組み込んでもらったけど、レア属性持ちは私の娘以外にはいない。
他の女子は背が伸びて顔つきも大人っぽくなる一方で、私の娘たちとジェフスカーヤ王女は主に胸とお尻などの体つきしか成長しない。ジェフスカーヤとアレクサンドラは、十歳になるまでは標準より身長が少し高かったけど、十一歳になるまでに他の女子に抜かれてしまった。だけど、胸だけは爆乳に向かって目に見えるほどに成長しており、他の追従を許さない。
そんなロリ巨乳のジェフスカーヤ王女に婚約者のコンスタンチン王子はムラムラしまくっているようだ。私の娘たちには興奮抑制の腕輪を与えてあるけど、生殺しの王子には地獄なのではないだろうか。まだ卒業まで四年半あるのだから、事故が起こらないように気をつけてほしい。
ハイエルフの身長は一年半では伸びているように見えないけど、スカートは年齢に応じて長くしていくのが通例だ。だけど、夏のスカートはミニスカートの上にはくレースのスカートだけを長くしていくのが流行り。ジェフスカーヤとアレクサンドラの薄いレースから覗くぷるぷるとした太ももは、常に男子の視線を釘付けにしている。
色気でジェフスカーヤとアレクサンドラの右に出る者は他になかなかいないのだけど、アンジェリーナもなかなか色っぽい。そんなアンジェリーナに、それは訪れた…。娘たちの寝室から夜中に悲鳴が聞こえて行ってみれば…、
「私にも来ちゃったのねぇ~」
「アンジェリーナも大人の仲間入りですわ」(アレクサンドラ)
「いいな…」(フィオナ)
「そんな顔されても、おなかがしくしくと痛くて脚もだるいのよぉ」
アンジェリーナにも初潮が来てしまったのだ。アナスタシアは無理矢理成長させて来させたのに…。
「あらぁ~!おめでとう!」
騒ぎを聞きつけてタチアーナがやってきた。
「ありがとう…、おばあさまぁ…」
「つらそうですから、早く魔道タンポンをお召しになって」
「アレクサンドラちゃん、ありがとう~」
そして、翌日。
「アレクサンドラ、アンジェリーナ。あなたたちに聞いておきたいことがあるの。あなたたちは人間の男性から子を授かれるようになってしまったわ。もちろん、学園を卒業するまでは男性とも女性とも交わることを許しません。でも、卒業したあとはどうしたいかしら」
「わたくしがいちばん授かりたいのは、ユリアーナお母様の子ですわ」
「私もよぉ」
「えっ…」
「その次はルシエラ様ですわ」
「ルシエラ様の次はレティシアちゃんね~」
「それって魔力順…」
魔力とは強さ。生物学上、メスは強い者の子孫を残したがる。でもそれじゃあ人間じゃなくて動物や虫と同じじゃん…。
「魔力はよく分からないけど、ユリアーナお母様の声がいちばん素敵だものぉ」
「そうですわ。わたくし、ユリアーナお母様の声をずっと聞いてすごしたいですわ」
「そうなんだね…」
私は六歳の頃から変わらぬ可愛いアニメ声でずっとしゃべったり歌ったりし続けてるのに、可愛いとは一度も言われたことがなく、美しいとか綺麗と言われてうっとりされるばかりだ。鳥や虫には綺麗な声で鳴くことで己の強さを示すものがあるけど、この世界の人間の遺伝子にそう組み込まれてるのかな…。
「でも、ユリアーナお母様の使命は魔法を世界に広めることですわ。だから、身内でばかり結婚してもしかたがないことを承知しております」
「そうね~。レティシアちゃんじゃなければアレクサンドラちゃんもフィオナちゃんも可愛いけどぉ、魔法使いの血は広まらないわね~」
「ですから、他領のご令嬢を娶るのがいちばん良いのでしょう」
「最悪、側室か妾を付けてもらえれば、男性に嫁ぐのでもいいわよぉ」
「えっ、いいの?」
「ええ」
「わたくしも構いませんわ」
「お母様はブラッドフォード王子殿下のことをおっしゃっているのでしょぅ?」
「気が付いてたのね…」
「それは分かるわよぉ。あの人、私の木剣に打ち付けられてうっとりしてるのよぉ。私も楽しくないわけじゃないわぁ」
「そのようね…」
「今後、ヘンストリッジ以外の国と交流があった場合、わたくしも覚悟を決めますわ」
「アレクサンドラ…」
魔法を広めるために、大事な娘を男にくれてやらなきゃならないなんて…。でも、私と違って二人は男と交わることが気持ち悪くはないんだ…。ルシエラも言ってたし、そこは私の前世が男だからなのか…。エルフっていうのは女好きだから、前世が男の私にぴったりな種族だと思っていたけど、少し違うんだね…。
「でもねぇ、私聞いちゃったのよぉ。ヘンストリッジでエルフは奴隷としてしか扱われてないんですってぇ」
「えっ、そうなの?それでかぁ。耳を見せたときブラッドフォードから一瞬、嫌悪感みたいなものを感知したんだよね…。すぐになくなったけどさ…」
そのあと悪意センサーに引っかからなかったってことは、ブラッドフォードはそれほどエルフに忌避感がないのだろう。
ローゼンダールでもエルフはさらわれたり売買されていたことがあった。村から売られたブリギッテがいい例だ。だけど、今はワープゲートを開いているから、マシャレッリを始め、エルフはどこにでもいるのだ。エルフの私が侯爵になったことで、表だってエルフをぞんざいに扱う者はいなくなった。
「お母様の使命をお手伝いするためなら、他国に嫁いでもいいのだけど、エルフが人扱いされてないのはきっと大変よね~」
「うーん。ちょっとヘンストリッジとの友好条件を見直そうかしら」
ヘンストリッジまでの道は険しく、去年の夏に出した手紙の返事はまだ戻ってきていないのだ。もう一年以上たつから、一日五キロしか進めなくてもそろそろ返ってきそうなものだけど、エルフが奴隷扱いだから、返事に困ってたのか…。
次の休日、マシャレッリの教会に勉強に来ているブラッドフォード王子を帰りがけに捕まえて応接間で話をした。
「ヘンストリッジでのエルフの扱いについて聞きました」
「わ、私はエルフをもののように扱ったりしない!」
「その言葉を信じましょう」
「そうか…。すまない…。隠していて…」
「あなたはアンジェリーナを娶りたいと考えているのでしょう」
「うむ…。ばれていたか…」
「最初は私に手を出そうと考えていましたね?」
「いや…」
王子は順調に成長している。一年半で身長は十五センチ伸びたので、私もアンジェリーナも同年代の女子には見えなくなってしまった。
「まあそれはさておき、エルフが奴隷として扱われている国に娘を嫁がせることができるとお思いですか?」
「それは…」
「魔道具を融通する条件にもうひとつ加えさせていただきます」
「なぬっ…?」
「エルフへの差別意識を排して、エルフを人として扱うようにしてください」
「それは大きな条件だな…」
「生まれながらに無条件に奴隷されているエルフを解放してください」
「…」
「犯罪を犯して奴隷とされた者もいるでしょう。私はそのような奴隷を解放しろと言っているのではありません。エルフだからという理由で奴隷にされている者を解放してください。エルフの私が作ったものにあやかるのですから、当然の条件ですよね?」
「その通りだ…」
別に、私がエルフに誇りを持ってるとかじゃない。私はまだまだ二十七歳なので、ちょっと胸とお尻の大きい十歳の人間の女の子という意識しかないのだ。だから単に人種差別を排すべきだと考えているだけだ。
「前回の手紙の返事を待たずに、もう一通手紙をしたためましょう。あなたが卒業して国に帰るまでに海の魔物をいただければと思っていたのでのんびりしていましたが、人々の意識を変えるとなってはあと四年半では済まないかもしれませんね」
「分かった…。それで頼む…」
ヘンストリッジへの手紙には、発魔器を作ったのがエルフである私であることや、エルフの王女が人間の王子と結婚し、次期女王に内定していることなどをつづった。そして、ヘンストリッジでのエルフの扱いについて要望を述べた。貴族とか商人は性奴隷としてエルフを所有しているようだ。人としての尊厳すら与えられていない。エルフの差別を排するのはもちろん、そのエルフに教育を施して、普通の人間として暮らしていけるようにするところまでが条件だ。あと三年で終わるわけないね。
海の幸は遠のいた。別にすごく欲しかったわけじゃないんだからね!たんに転生者としての務めを全うする機会があったから逃さないようにしようと思っただけで、私は食いしん坊さんというわけじゃないんだからね!
その後、秋が来て冬になろうかというころ、ヘンストリッジからの手紙の返事が来た。前の手紙は、海の幸をくれるなら喜んで魔道具をあげるよ!ってテンションで書いたので、向こうもそんなものでいいならぜひぜひ!とばかりのテンションで、条約締結のための段取りとかを書いていた。私がこの手紙に同意の返事を出したら、ヘンストリッジから使者を送ってくるとのことだった。
とりあえず、私の激おこの手紙と行き違いで使者がやってくるなんてことにならなくてよかった。
この手紙をブラッドフォードに見せたら、申し訳なさそうにしていた。でも、自身のドMな性欲を満たしてくれるドSなアンジェリーナのことを諦めきれないようで、剣術の授業では相変わらず木剣を打ち付けられて喜んでいた。
アンジェリーナに打たれているブラッドフォードはとても痛そうなのだけど、同じくジェフスカーヤに打たれているコンスタンチンは、痛みが物足りないのか、アレクサンドラに目移りしているようだった。
★ユリアナ二十八歳(ソフィア十二歳)
そして、次に手紙の返事が来たのは翌年(娘三年生)の冬だった。やっぱり手紙の往復に十四ヶ月くらいかかる。
「前向きに検討する」とのことだ。本当かどうかは分からないけど、改革に時間がかかるのは分かる。今は合法なエルフ奴隷市場をこれから違法にしなければならないのだ。これからたばこは麻薬だから、たばこ農家や販売業者に廃業しろと言っているのに等しい。でも、そんなブラックな商売を辞めてでも、無限のエネルギーを生み出す発魔器を手に入れたいだろう。
エルフ奴隷が違法になったら、きっと闇市とかで取引されるようになる。その取り締まり体勢についても考えてほしい。種族や生まれで奴隷にされることなどない国にしてほしい。
人のことを言っていて、自分の国でどうなっているのか気になってきた。今でこそマシャレッリにはエルフが溢れており、王都やその他の領地にもちらほら見られるようになっているけど、マシャレッリ以外の貴族や商人がエルフの奴隷を隠していないとも限らない。
こういうときはスヴェトラーナに頼ろう。スヴェトラーナの弟のエドアルド・フョードロヴナ公爵はちょっと付き合いづらい人なのだけど、もともと貧乏伯爵家だったマシャレッリなんかよりはずっと国の裏のことに詳しい。
娘たちは十二歳。身長と顔つきは成長しないけど、アレクサンドラ以外も大人の女性の体つきになりつつある。フィオナを除いて。
十二歳といえば、スヴェトラーナの胸が大きくなりすぎて、剣をまともに構えられなくなってきた頃だ。アレクサンドラも同じ道を辿るのかと思ったら、ハイエルフのアレクサンドラは持ち前の身体能力を駆使して、変な構えでも自在に剣を使いこなしている。そういえば、ハイドラも爆乳にも関わらず、剣や弓を使いこなしていた。
野球ボールをうまく投げられない女の子みたいなのが可愛いのに、そんなに高速で胸をばいんばいん揺らして剣ができても何も可愛くない。
などと不満を胸に秘めつつ剣術の授業を見学していたら、ジェフスカーヤ王女はハイエルフのくせにとてもどんくさかった!筋力強化を使ってトレーニングしてないからだろう。大きすぎる胸を持て余していて、うまく剣を振るえない姿がスヴェトラーナを思い出させる…。本物の悪役令嬢だったのに、やっぱ可愛い…。そう思ってるのは私だけじゃなくて、コンスタンチンとクラスの男子全員、そして、私の娘たちもだった!
唯一ブラッドフォードだけは、アンジェリーナに打ちのめされるのに必死で、ジェフスカーヤには見向きもしていなかった。
★ユリアナ二十九歳(ソフィア十三歳)
さらに時は過ぎて、娘たちが学園四年生の後期、魔物討伐訓練の授業が始まった。
娘のクラスは全部で四十五人。そのうち、女子が三十五人、男子が十人。今回は木魔法使いと命魔法使いも戦力として含まれているので全員参加だ。
アンジェリーナは火、雷、木、土、時、命、空間、聖。
アレクサンドラは火、水、風、心、時、命、空間、聖。
ラティアは火、木、土、時、命、邪、聖。
ソフィアは木、土、時、命、邪、空間、聖。
フィオナは火、土、水、風、心、命、聖。
マルグリッテは火、雷、木、土、風、時、命、聖。
ディミトルは雷。
ジェフスカーヤは火、雷、土、水、風、時、命、空間、聖。
コンスタンチンは火、雷、土。
ブラッドフォードは木、風、命。
残りの男子七人の属性内訳は、火二、雷一、木一、土一、水二、風二。
残りの女子二十八人の属性内訳は、火五、雷五、木四、土四、水四、風五、命一。
私の娘とジェフスカーヤを除いて、コンスタンチンを土、ブラッドフォードを木に割り当てると、火七、雷七、木六、土六、水六、風七になる。
六人ずつの木、土、水にそれぞれアンジェリーナ、ラティア、フィオナの三人を割り当てて、これでとりあえず、各属性が七人ずつになったので、七個のパーティに分けた。
最後に、アレクサンドラ、ソフィア、マルグリッテ、ジェフスカーヤを私の他の娘と被らないように配置しつつ、命属性持ちの女子を娘以外で唯一命属性を持っているブラッドフォードとは違うパーティに入れてパーティ分け完了だ。
もちろん、各パーティは剣術の授業を受けている男子がばらけるようにしつつ、髪の色の濃さが偏らないように決めてある。
そして、運命の巡り合わせか、それとも仕組まれたのか…。アンジェリーナとブラッドフォードは同じパーティになった。
魔物討伐訓練には魔法実習の先生と護衛のハンターが付き添うのが基本だけど、私は魔法実習を受け持っていないので、護衛ハンター枠で参加することにした。私、ランクAハンターだし。目的はもちろん、娘を夜這いから守ること。って、最初は泊まりじゃないから夜這いはないんだった。
そして、教師の私が参加するのなら、別の教師を付ける必要がないだろうということで、なぜか私は採点および監視の係をさせられることになった。願ったり叶ったりだ。
アンジェリーナのパーティは、
火魔法使いで淡い赤髪のポリーナ・ルブラン男爵令嬢。
雷魔法使いで淡い黄色髪のクセーニア・アルヴィナ男爵令嬢。
木魔法使い役、兼命魔法使い、兼剣士役、くすんだ金髪のアンジェリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢。
土魔法使い役、兼命魔法使い、兼剣士役、オレンジ髪のブラッドフォード・ヘンストリッジ王子。
水魔法使いで淡い青髪のオレイシャ・パレルモ子爵令嬢。
風魔法使いで淡い水色髪のディアーナ・シェルトン子爵令嬢。
ルブランといえば家族が私の殺人計画に加担していたことで処刑になり、在学中に男爵になってしまったアルベールだ。アルベールが卒業直後に結婚したという話はなかったけど、アルベールの面影があるから、姉の娘とかかな。
シェルトン家といえば同期のエレノーア王妃がいる。それにエッツィオくんの嫁のジュリエッタもシェルトン家がいる。
それから、アルヴィナ家といえば同期のベアトリス王妃だし、パレルモ家はエレオノーラ王妃だ。
なんだ…、みんな同期の友達の娘じゃないか…。ってそんなもんか。私の殺人未遂で四つの男爵家が減ったままで、クラスに女子がたくさんいるわりには家名が被りまくってるんだよね…。
それにしても、私って娘と同年代にしか見えないんだ…。十センチのハイヒールを履いてても、すでに娘や娘の同期に身長を抜かれてる…。不老ってこんな気持ちになるのかね。不老っていうかほぼ不老だけど。
まあ、私の周りには魔法で不老になってる人がいっぱいいるのだから、孤独になんてならないだろう。
というか、その気になれば成長を促進して大人になればよい。ルシエラの生理が来るまで子宮を数十年勧めたのだから、自分の身長を一〇〇〇年や二〇〇〇年成長させるのは造作もないことなのだ。
そして、なんだかんだいって私はロリ巨乳少女が好きなので、十歳の身長でいることをけっこう気に入っているのだ。
それにしても、女の子もみんなキュロットだ…。蜘蛛の糸のドレスは破れないので、マシャレッリでは魔物討伐に普段のドレスで行くのが基本になっていたので忘れていた。私とアンジェリーナだけ普段のスカートで来てしまった。トップスは夏だから胸とへそにペタって貼るだけの露出度高めのやつ。マシャレッリのドレスは既存のドレスを駆逐してしまったので、みんなが普段来ているのも蜘蛛の糸のドレスだから、それで来ても破れたりしないし丸洗いできるんだけどね。まあ、ドレスで戦うのは転生令嬢の嗜みなのだけど、普通の子はマネしなくてもいいよ…。二十九歳にもなって令嬢っていってて恥ずかしくなったりはしない。私は十歳のロリ巨乳少女なのだから。
私のことはさておき、私はアンジェリーナのパーティを護衛ハンター、兼教師として見守ることになった。よほどの危険がない限りサポートはもちろん発言すらしてはならない。アドバイスは後日の反省会でしなければならないのだ。そもそも最初の魔物はつのウサギなのだ。危険などあり得ない。
「来たわよぉ~っ」
つのウサギが三羽接近してくる音が聞こえる。私の地獄耳は先に気づいていたけど、アンジェリーナもなかなかの地獄耳だ。アンジェリーナの脳天気でおっとりとした十七歳風のかけ声により、皆は戦闘態勢に入った。
「行くわ」
クセーニアがハープをぽんぽん♪と奏でて雷撃を放った。
「くっ、当たらないわ」
しかし、素早いつのウサギには当たらなかった。
「ちょっとぉ、授業で連携を習ったでしょぉ~?」
「あなたうるさいわよ。しゃべり方も癪に障るのょ」
オレイシャはアンジェリーナの十七歳風の口調が気に食わないらしい。アニメ声で十七歳風だなんて最高の癒しなんだけど、分かってないなぁ。
そして、オレイシャはハープをポンポン♪と奏でて氷の矢を放った。
「外れたわ!もーう、あなたのせいよ!」
「わたしぃ?」
オレイシャはアンジェリーナに文句を付けているが、アンジェリーナはニコニコしているだけで気にしていないようだ。アンジェリーナ…、最強かも…。
そうこうしているうちにディアーナもハープをポンポン♪と奏でて火の玉を放った。
「当たらない…」
やはりつのウサギはすばしっこくて当たらない。
一方、ポリーナはおびえていて何もできていない。
「おいおまえら、座学で連携を習っただろう。私がまず壁を作ってからだ」
先攻した三人をブラッドフォードが叱咤した。そしてハープを奏で始めたが出遅れてしまった。
先攻した三人めがけてつのウサギ三羽が突進してきたのだ。
「「「きゃあっ」」」
ブラッドフォードの壁は間に合わない。そもそも、全面を覆うものではなくて、つのウサギ一羽だけが通れるように最後がつぼんだ形状のものだ。完全に壁で遮ってしまうと魔物は壁を壊そうとするが、通れる穴があると一体ずつそこを通ってやってくる。後ろの魔物は壁を壊してくれば速いのに、律儀に前の魔物が通り終わるのを待っているという、魔物の単純なAI(?)を利用した戦術なのだ。私がこの戦術を学園の訓練で取り入れるようにしてもらったのだ。他の学年ではうまくいっているようだったのに…。
たかがつのウサギだが、つのが内臓に突き刺さったりすると致命傷になりかねない。とはいえ、死んでしまったら時間を戻せばよいだけだ。それくらいアンジェリーナでもできるし、公開済みの時魔法でもある。
私が心配するまでもなく、アンジェリーナが鞘からクリスタルソードを抜いて、瞬く間に三羽のつのウサギのつのを切り落とした。それも豆腐のように何の抵抗もなく。だけど、それがあだとなった。いや、むしろアンジェリーナはそれを狙ったのかもしれない。
「いったぁ!」「はぅ…」「あいたたた…」
三羽のつのウサギの胴体は勢いを殺されることなく、そのままクセーニアとオレイシャ、ディアーナの身体に激突した。つのウサギはそれほどの大きさではないので、衝撃は幼児に飛び掛かられたくらいだ。だけど、三人のご令嬢は例に漏れなく運動不足なので、それだけで倒れてしまった。
「痛いじゃない!」(クセーニア)
「あなた、ちゃんと止めなさいよ!」(オレイシャ)
「下手くそね!」(ディアーナ)
「あらぁ、ごめんなさぁいっ。また来るわよぉ~?」
わざとだ。絶対わざとだ。アンジェリーナ…、いい性格してるかも…。案外悪役令嬢なのでは…。
つのウサギたちはつのを斬られたのに気づいていないようだ。衝撃が全くないのも問題かな。そして、三人の令嬢にふたたび突進しつつある。
ブラッドフォードはアンジェリーナたちのやりとりを見るに見かねて、壁の演奏を途中でやめた。そして、ハープを背に回して、鞘から剣を抜き、つのウサギの一羽を切りつけた。
「ぶうううっ!」
つのウサギは剣をよけきれずに前足の一本を失った。
残りの二羽のつのウサギは、クセーニアとオレイシャに向かっていく。
「「きゃぁっ…」」
そこにアンジェリーナが割り込んだ。
「ぶぅぅ!」「ぶううう!」
クリスタルソードの腹でぺしぺしと二羽のつのウサギをはたいた。はたいたといっても、肋骨が折れて身体がひしゃげるほどだ。二羽のつのウサギは息があるものの、気を失った。
前足を一本失ったつのウサギは、痛みのあまり動けないでいる。
そこにすかさずブラッドフォードが胴に剣を突き刺し、息の根を止めた。
「おいおまえら、座学の授業で習ったとおりにやらないか」
ブラッドフォードが女子を怒鳴りつけた。
「ごめんなさい…、私何もできなくって…」(ポリーナ)
「で、でも…、私、エルフなんかとご一緒できないわ」(クセーニア)
「私はコンスタンチン王子殿下としか連携できないわ」(オレイシャ)
「アンジェリーナ様が連携を乱したのよ」(ディアーナ)
「あらぁ、わたしぃ?うふふっ、ごめんなさいねぇ~」
アンジェリーナ…、種族差別されようと言いがかりを付けられようと、のれんに腕押し…。
まあ…、最初はこんなもんだよね…。と思ったけど、そのあとも連携する様子はない…。ブラッドフォードが壁を張る前にいいところを見せようとして魔法の演奏を始める突っ込むクセーニア、オレイシャ、ディアーナ。おびえて何もできないポリーナ。戦闘能力はともかく、突っ込んだ三人をかばうと見せかけて、うまくつのウサギを三人にけしかけるアンジェリーナ…。真面目にやろうとしているのはブラッドフォードくらいだ。
訓練中、私はアドバイスできないから、ブラッドフォードを除く全員の連携の得点に黙ってゼロ点を付けた…。ブラッドフォードもやろうとしていただけで実際にはできなかったので低得点で…。
そして、魔物討伐訓練の後日、反省会の授業で私はダメ出しした。他のパーティも同じようなものだったらしい…。その後の魔物討伐訓練では毎回パーティメンバーが微調整された。私はアンジェリーナ以外のパーティも見回った。
聞くところによると、女子たちにはすでに推しメンがおり、今回のパーティは属性と魔力が均等になるように分けただけではなく、あからさまに推しが決まっている者を推しとくっつけないようにしたらしい。魔物をハントしに来たのに、男をハントしないようにということで。あくまで女子目線の推しを考慮して決めたのであって、男が誰を狙っているかは考慮していないらしい。
メンといったけど、実際にはジェフスカーヤと私の娘も推しの対象みたい…。二十八人の女子が誰を推しているのか分からない者もいたけど、何回か魔物討伐訓練を繰り返すうちに教師たちは分析を終わらせたらしい。というか、二回目の魔物討伐訓練から私も分析を手伝わされた…。
内訳は、コンスタンチンが二人、ジェフスカーヤが六人、ブラッドフォードが二人、アンジェリーナが四人、アレクサンドラが五人、ソフィアが三人、フィオナが二人、ラティアが一人、マルグリッテが三人、他の男子がゼロ。もちろんディミトルもゼロ。
十人お持ち帰る計画はどうなった、コンスタンチン!まあ、ジェフスカーヤがいるんだし、側室が二人でもまったく問題ないと思うけど。
コンスタンチンはヴィアチェスラフによく似た優しい王子タイプなのだけど、すでにジェフスカーヤの尻に敷かれている感じで威厳があまりない。
ジェフスカーヤは六人お持ち帰るのか…。次点でアレクサンドラ。胸か?二人の胸は巨乳と爆乳の中間といったところだ。それなのに、身長は十歳のときに十一歳相当あったとはいえ、それからようやく一センチ伸びたかどうか。クラスの女子よりも少し背が低くなったロリ爆乳ドリル少女。二人はクラスの女子を奪い合っている。
ブラッドフォードは少し乱暴な物言いだし、遠い異国に嫁ぐのに抵抗もあってか、あまり人気ないね。本人はアンジェリーナが好きみたいだし。
なにげにアンジェリーナって人気なんだな…。アンジェリーナは敵には容赦がないけど、慕っている子をとても可愛がっているみたいだからな…。
ソフィアって実は二人の王子よりも王子っぽかったりする。誰にでも優しいのだ。それに強くてかっこいい!
それと、マルグリッテもなんだか王子っぽい。チャラ王子だけど。
フィオナは優しいお姉さん二人に好かれている。たぶん、恋愛対象じゃなくて娘だと思われている。
ラティアには一人だけオタク友達がいる。私とセラフィーマも恋愛べったりとかじゃなくて、趣味の合う友達という感じなので、そういう家系なのだろう。
好意の種類はいろいろだね。男子が私の娘を見る目は普通の女子を見る目とだいたい同じだ。だけど、女子は私の娘の色気に惹かれたり、姉っぽさに惹かれたり、王子っぷりに惹かれたりと、さまざまな好意を持っているようだ。
残念ながら、ディミトルはエッツィオくんのような王子タイプではない。ただのやんちゃなガキだ。たぶん、セルーゲイではなくタチアーナ似なのだろう。そして、強敵からお相手を奪うほどの魅力を持ち合わせていない。「その他の男子」の一人に成り下がっている。ディミトルも魔法の扱いや剣技はかなりうまいのだけどね。ディミトルがマシャレッリゆかりの者だとは知られているけど、エッツィオくんのときと違ってマシャレッリの直系がいるのだから、それほど効果はない。
魔物討伐訓練のパーティ分けの話から人気の分布の話になってしまったけど、好意をいだいている相手をわざと外すようにしてあるので、戦闘の連携はいまいち上達しなかった。とくに、コンスタンチンとジェフスカーヤ狙いの子たちが足の引っ張り合いをしている。今回は一定の成績以上全員が嫁に内定するわけではないので、競争心がそうさせているようだ。
だけど、そもそもそれぞれの王子・王女の嫁は定員に達していないので、競争する必要はないのではないかと私は学園に提言した。ヘタな競争心を煽って対立させるより、王子・王女の側室に内定させて協力体制を築いた方がよい。コンスタンチンとジェフスカーヤの正室にはそれぞれが内定しているので、クラスの女子は正室を争う必要もない。
そういうわけで、パーティを希望する嫁ぎ先を考慮して決め直した。属性や戦力よりも最優先で決めた。ジェフスカーヤの希望者六人が綺麗に属性が分かれていたりなんかしない。結局、魔物討伐訓練はそれなりに連携を練習できたけど、私の娘たちやジェフスカーヤを中心とした戦術をとることになった。まあ、嫁ぎ先でうまくやれればいいんじゃない?
★ユリアナと嫁
とくに記載のないかぎり二十五~歳。
■ユリアナ(ユリアーナ・マシャレッリ侯爵)
キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。身長一四〇センチのまま。口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■マレリナ(マレリーナ・マシャレッリ侯爵夫人)
かなり明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。身長一六五センチ。口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■アナスタシア・マシャレッリ侯爵夫人
濃い青紫髪。ストレート。腰の長さ。身長一二五センチ。口調はお嬢様言葉。
■マリア・マシャレッリ侯爵夫人
濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。身長一三五センチ。口調はほぼ平民言葉。
■スヴェトラーナ・マシャレッリ侯爵夫人
濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。爆乳。身長一七〇センチ。口調はですわますわ調。
■セラフィーマ・マシャレッリ侯爵夫人
真っ白髪。口調はですます調。
■ブリギッテ・マシャレッリ侯爵夫人(ユリアナ+二十歳)
濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。爆乳。身長一六五センチ。口調は平民言葉。
■ナタシア(ユリアナ+十二歳)
ユリアナの育ての親だったのに子を孕んでしまった。
■ルシエラ
ユリアナの産みの親。マザーエルフと呼ばれている。二〇〇〇歳くらい。
地面に擦りそうな長さのキラッキラの銀髪。身長一五〇センチ。人間の十二歳くらいの顔つき。エルフ級の巨乳。
★ユリアナの子(ユリアナより十六歳下)
とくに表記がないかぎり一四〇センチ。
■アンジェリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢
アナスタシアの産んだ子。くすんだ輝く黄金の髪。少し耳が長い。アナスタシアではなくタチアーナに似ている。ハイエルフ。
■アレクサンドラ・マシャレッリ侯爵令嬢
スヴェトラーナの産んだ子。くすんだ輝く青紫髪。少し耳が長い。ハイエルフ。一四五センチ。
■ラティア・マシャレッリ侯爵令嬢
セラフィーマの産んだ子。くすんだ赤の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■ソフィア・マシャレッリ侯爵令嬢
マレリナの産んだ子。くすんだ緑の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■フィオナ・マシャレッリ侯爵令嬢
マリアの産んだ子。くすんだ赤紫の髪。少し耳が長い。六歳相当の身長と童顔。ハイエルフ。一二〇センチ。
■マルグリッテ・マシャレッリ侯爵令嬢
ブリギッテの産んだ子。くすんだ橙色の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。
■レティシア
ルシエラの産んだ子。明る銀髪。少し耳が長い。マザーエルフ?
■アリア
ナタシアの産んだ子。明るい銀髪。耳が長く成長するのを阻害する魔道具を使ってるので耳は長くないが本当はハイエルフ。
★マシャレッリ元侯爵家
■エッツィオ(ユリアナ-六歳)
タチアーナとセルーゲイの子。濃いめの緑髪。
■セルーゲイ
引取先の貴族当主。濃いめの水色髪。
■タチアーナ
濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。
■ディミトル(ユリアナ-十六歳)
タチアーナとセルーゲイの子。淡い黄色。一五〇センチ。
■オルガ
マシャレッリ家の老メイド。
■アンナ
マシャレッリ家の若メイド。
■ニコライ
マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。
■デニス
マシャレッリ家の執事、兼御者
★エッツィオの嫁
■ヴァレーリア・フェッティ子爵令嬢
オフィーリアの妹。淡い黄色髪。エッツィオの同期。
■フランチェスカ・マラカルネ侯爵令嬢
濃い水色髪。エッツィオの嫁。エッツィオの同期。
■ミシェーラ・ベンシェトリ伯爵令嬢
赤髪。アルメリアの妹だ。エッツィオの二歳上。
■カトリーナ・ベルヌッチ伯爵令嬢
緑髪。パオノーラの妹だ。エッツィオの一歳上。
■ジュリエッタ・シェルトン子爵令嬢
淡い白髪。エレノーアの妹。エッツィオの一歳下。
■マルセーナ
淡い青髪。アルベール男爵の妹。エッツィオの二歳下。
★エッツィオの子
■ヴィクトリア
淡い赤髪。♀。ヴァレーリアの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■ジナイーダ
濃い桜色髪。♀。フランチェスカの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■マフマドベク
黄色髪。♂。ミシェーラの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■オレイシャ
淡い水色髪。♀。カトリーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。
■アルトゥール
淡い青髪。♂。ジュリエッタの産んだ子。年齢はエッツィオの十七下。
■カーシャ
淡いオレンジ髪。♀。マルセーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十八下。
★エッツィオのその他の同期生
■カルーロ・スポレティーニ子爵令息
エンマの弟。淡い赤髪。
■ロレンツォ・ジェルミーニ男爵令息
淡いオレンジ髪
■アンジェロ・コロボフ子爵令息
淡い青髪。
★ローゼンダール王と王妃(ユリアナの同期)
■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王:黄色髪
■エミリーナ(正室):濃いめの赤髪
■エンマ(側室):薄い水色髪
■パオノーラ(側室):水色髪
■アルメリア(側室):オレンジ髪
■ベアトリス(側室):薄い青髪
■キアーラ(側室):濃い赤髪
■エレオノーラ(側室):オレンジ髪
■オフィーリア(側室):青髪
■ヘレン(側室):淡い赤髪
■シェリル(側室):淡いオレンジ髪
■テレサ(側室):青髪
■エレノーア(側室):淡い水色髪
同期の王妃は全部で十九人おり、上記以外にも七人いる。
他にも同期でなく、一つ上の代の王妃が三人、一つしたの代の王妃が三人いる。
★ユリアナのその他の同期
■アルベール・ルブラン男爵
薄めの黄色髪。
■イアサント
エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。退学。
■ジョジョゼ
エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。退学。
■ドリエンヌ
パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。退学。
■クレマノン
パーノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。退学。
★学園の教員、職員
■ワレリア
引退。元女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。
■アリーナ
明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。
■ダリア
紫髪。空間魔法の女教師。
■アレクセイ
ピンク髪のおっさん教師。
★ユリアナの娘の同級生
■コンスタンチン・ローゼンダール王子
髪色はオレンジ。
■ジェフスカーヤ・ローゼンダール王女
髪色はくすんだ紫。六連装ドリル。耳が少し長い。ユリアナの隠し子。ハイエルフ。
■ブラッドフォード・ヘンストリッジ第一王子
エメラルドグリーン髪。ローゼンダールから西に一〇〇〇キロ離れたヘンストリッジ王国の第一王子。
■ポリーナ・ルブラン男爵令嬢
淡い赤髪。
■クセーニア・アルヴィナ男爵令嬢
淡い黄色髪。
■オレイシャ・パレルモ子爵令嬢
淡い青髪。
■ディアーナ・シェルトン子爵令嬢
淡い水色髪。
★ユリアナの嫁の家族
■オレリア
マレリナの母。
■イゴール
マレリナの父。
■ビアンカ
マリアの母。
■ステファン
マリアの父
■エルミロ
マリアの弟。
■ウラディミール
オレンジ髪。スヴェトラーナの父。
■エリザベータ
薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。スヴェトラーナの母。
■エドアルド・フョードロヴナ公爵(ユリアナ-二歳)
黄緑髪。公爵位を継いだ。
■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵
セラフィーマの父。オレンジ髪。
■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人
セラフィーマの母。レモンイエロー髪。
■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵
淡い黄色髪。ブリギッテの養父。
■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人
淡い水色髪。ブリギッテの養母。
■ジュリクス・ジェルミーニ男爵
ピンク髪。マリアの養父。独身。
★その他
■ハイドラ
成人ハイエルフ。エリザベータ級の爆乳。五〇〇歳くらい。
やや明るく緑がかった銀髪。紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■サンドラ
成人エルフ。巨乳。
葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■リュドミラ
ルシエラの側近のハイエルフ。やや水色がかった明るい銀髪。八〇〇歳くらい。
紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。
■ラーニナ、アネスタ、エリザンナ
他のエルフ村の村長。ハイエルフ。
■ニーナ
成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。
十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。
■アブドゥルラシド、元ローゼンダール王
空色の髪。
■ヴァレンティーナ、元ローゼンダール第一王妃
明るい青の髪。
■レナード(ユリアナ+三十四歳くらい)
コロボフ子爵領の村の神父。
■アルフレート
マシャレッリ領都の神父だったが引退。
■ハンス
マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。
兼教会の木琴教師。
■クレマノンの母
元男爵夫人。淡い赤髪。
■ジョジョゼの母
元男爵夫人。淡い水色髪。
◆エルフ
耳が長い。女性しかいない。人間の五倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から五十歳までは、身長と顔つきの成長が五分の一になる。胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。五十歳エルフの胸の大きさを巨乳と記す。五十歳を超えると成長は止まり二五〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。二五〇歳以降は人間と同じ速さで老化して数十年で老死に至るが、その前に自殺してしまう者が多い。
◆ハイエルフ
耳が長い。成人するとエルフよりも耳が長いが、実年齢ではエルフよりも耳が短い。女性しかいない。人間の二十倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から一七〇歳までは、身長と顔つきの成長が二〇分の一になる。十八歳までは胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。十八歳以降は若干遅くなるが、一七〇歳まで成長し続けるので、エルフを超える爆乳になる。一七〇歳ハイエルフの胸の大きさを爆乳と記す。一七〇歳を超えると成長は止まり一〇〇〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。一〇〇〇歳以降は人間と同じ速さで老化して数十年で老死に至るが、その前に自殺してしまう者が多い。
◆マザーエルフ
ルシエラとユリアナだけの種族。人間よりも耳が長いが、若いときはエルフよりも耳が短い。人間の一〇〇〇倍の寿命を持つ。十歳までは人間と同速度で成長。十歳から一〇〇〇〇歳までは、身長と顔つきの成長が一〇〇〇分の一になる。十八歳までは胸やお尻など女性的な体つきは人間と同速度で成長する。十八歳以降は成長がほぼ見られなくなるが、一〇〇〇〇歳まで成長し続けるので、ハイエルフを超える、動くのもおっくうなほどの爆乳になる。一〇〇〇〇歳を超えると成長は止まり五〇〇〇〇歳まで老化せず、ずっと若い成人の姿を保つ。五〇〇〇〇歳以降は老化が始まるが、老死する前に自家交配により自らの分身である子を成して転生してしまうので、老死に至ったことはない。
◆ローゼンダール王国
貴族家の数は二十三。
N
⑨□□□⑧
□□□④□⑪□
W□⑥□①□⑤□E
□□□□⑦□□
□□②□□
□□□
⑩③
S
~
□□?⑬
~
⑫
~
⑭
①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領
⑩巨大ミツバチの巣(国外)
⑪ルブラン子爵→男爵領
⑫エルフの村1、⑬ブリギッテの出身地?、⑭ルシエラ王の村
一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。
◆ローゼンダール王都
N
■■■□■■■
■□□□□⑨■
■□□□□□■
W□□④①□□□E
■□⑥□□②■
■□⑤□③□■□□⑧
■■■□■■■□□⑧
□□□□□⑦□□□⑧
S
①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁
◆周辺国
N
③□④□⑤
□□□□□
W⑥□①□⑦E
□□□□□
②②②②②
S
①=ローゼンダール、②=エルフの森、③=ウッドヴィル、④=リオノウンズ、⑤=アバークロンビー、⑥=ヘンストリッジ、⑦=ヴェンカトラマン
1マス=1000キロくらい
◆音楽の調と魔法の属性の関係
ハ長調、イ短調:火、熱い、赤
ニ長調、ロ短調:雷、光、黄
ホ長調、嬰ハ長調:木、緑
ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色
ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青
イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色
ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク
変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色
変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白
変ト長調、変ホ短調:×邪、不幸、呪い→○世の中のことわりの管理、黒
変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫
変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金