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13 お母さんたちと一緒

★転生九年目、冬、学園六年生の後期、卒業

★転生十年目、春夏秋冬、娘誕生

★転生十三年目、娘三歳

★転生十六~十八年目、娘六~八歳

★ユリアナ十五歳




 季節が冬に変わり、社交界のシーズンがやってきた。私はいつもより一段と装飾の多いドレスを着て、セルーゲイと社交パーティに赴き、壇上に上がった。


 今日の髪型は、わざと耳を出すようにしてエルフであることをアピール。私はエルフだから顔と身長が十歳なのだよ。本当はマザーエルフだから数百年はこのままだけど…。何か言われたら「エルフですので」で通すし、それにしても成長が遅いのではないかと言われれば「実はハイエルフです」と返せばいい。そして、ハイエルフの寿命スパンで成長が遅いと言うような人間がいるはずもない。


 しかし、耳をさらすのは相変わらず陰部をさらしているようで恥ずかしい…。


「皆様、お聞きください。私、セルーゲイ・マシャレッリは、この冬に我が娘、ユリアーナに侯爵位を譲ります」

「私、ユリアーナは、父、セルーゲイから侯爵位を譲り受け、ユリアーナ・マシャレッリ侯爵となります」


「「「「「(ざわざわ)」」」」」


 驚きの声は少ない。クラスでみんなにも教えてるしね。子から親に伝わっているだろう。

 社交界では、あらかじめ申請しておけば、こうやって壇上を借りて、重大発表したりできるのだ。子供に爵位を譲るときには、よく使われる。


「若輩者ではございますが、皆様のご指導を賜りますようお願い申し上げます」

「おめでとう!ユリアーナ!」

「殿下…、ありがとうございます…」


 ヴィアチェスラフ王子が壇上に寄ってきて私に賞賛の言葉をくれた。しかし、その表情は少し残念そうだ。なんというか…、失恋…。失恋した乙女…。私の前では王子までもが乙女になる…。やめてほしい…。


「「おめでとうございます。ユリアーナ様」」

「ありがとうございます。ウラディミール公爵、エリザベータ夫人」


 フョードロヴナ夫妻が笑顔とともにやってきた。


「「おめでとうございます、ユ…、ユ……」」

「はい、ありがとうございます。サルヴァトーレ侯爵、エカテリーナ夫人」


 ロビアンコ夫妻も笑顔でやってきたのだけど、途中で名前を思い出せなくて難しい顔になったので、被せて返事をした。仕事では有能執事としか会ってないしな。


「「おめでとうございます。ユリアーナ様」」

「ありがとうございます。ヴェネジーオ子爵、クレメンス夫人」


 アルカンジェリ夫妻はほっとした様子だ。私が爵位を継がなかったら公約違反だからね。


「おめでとうございます。ユリアーナ様!」

「ありがとうございます。ジュリクス男爵」


 ジェルミーニ男爵は良い人に改造済みなので、心から喜んでくれている。ところで、いつまで独り身なのだろう?たしか王位を簒奪した後、可愛い子を選び放題って計画があったはずだけど、その記憶を消したら別の結婚計画を植え付けてあげなきゃいけなかったんだろうか。



 爵位継承の発表を終えた。アルカンジェリ夫妻とジェルミーニ男爵には、ワープゲートを使って来てもらったので、トンボ返りだ。まあ、うちに泊まりたかったら泊めてあげてもいいけど…。


 そして、私とセルーゲイは王城へ。応接間ではなく謁見の間に通された。


「おもてを上げよ」

「「ははっ」」

「爵位の譲渡であったな。許可しよう」


 あらかじめ段取りを整えてあったので、とくに問題なく済んだ。いつもの応接間でよかったんじゃない?


「ところでユリアーナよ…。例の…」

「あああ、それはもう少しお待ちください」

「できるだけ早くするのだぞ」

「わ、分かっております…」


 帰りの馬車で、


「今日からおまえがマシャレッリ侯爵だ」

「まだまだお父様に楽はさせませんよ」

「おまえの領地の勢いが衰えることはなさそうだな」


 書類仕事はまだまだ頑張ってもらいたい。私はやりたくないので。まあでも、スヴェトラーナとかアナスタシアとか、書類仕事では優秀なお嫁さんがいるからな。


「ところでユリアーナよ、王が言っていた例のとい……」

「そ、そそそ、それは、新しい魔道具を献上する件でして…、ま、まだ仕上がっていないのです」

「おまえにしては珍しいな」

「はい…」


 お嫁さんたちの前にあげるわけにはいかないのだ。



 屋敷に戻り、ベッドの上で私は真剣な眼差しでアナスタシアに問うた。


「お姉様」

「何かしら…」

「お姉様は初潮が来ていないわね」

「そうね…」


 マリアちゃんだって去年来たのに。アナスタシアの時間は七歳で止まってしまったのだろうか。


「私は人の身体を成長させる魔法を知ってるの」

「ユリアーナのことだから、それくらい知っていると思っていたわ」


「えっ、ユリアーナ、私も大人になれるの?」

「ご、ごめん、マリアちゃん。後でね…」

「うー」


「だけどね、私はあまり大事な人の身体を魔法で弄りたくはないの」

「そうなのね…」

「だからね、これっきりにしたいの。お姉様の子宮と卵巣の成長を促す魔法を使ってもいいかしら」

「まえに言っていた内臓のことね。お願いするわ」

「分かったわ。ふんふん……♪ふんふん……♪」


 子宮や卵巣という言葉は、ルシエラからゲットしている。ルシエラが透視で体内を覗いたときに作ったメロディだ。ただし、特定の場所にある臓器というのは分かっているが、それが何の臓器なのかということまでは知らなかったようだ。まあ、今なら私が新たな臓器に対応するメロディを好きなだけ作れるのだけど、すでにあるメロディはそれを使わなければならない。


 アナスタシアの子宮と卵巣がすぐに元気に成長する魔法を使った。それから、聖魔法の安産祈願と健康祈願も。



 一週間後…、


「きゃあ…。タンポンに血が…」


「お姉様!おめでとう」

「お姉様…、よかったわね…」

「アナスタシア様、おめでとうございます」

「よかったね、アナスタシア!」

「よかったですね。アナスちゃん」

「アナスタシアも大人の仲間入りだね」


「こ、これが生理なのね…。身体がだるいけど嬉しいわ…」


 こうして、アナスタシアは子供を産める身体になった。



「ブリギッテ、周期は?」

「前回から三ヶ月たってるんだ。あとはいつ来るかわからない」


 エルフの生理の周期は平均五ヶ月。長いだけならまだいいのだけど、実際には三ヶ月から七ヶ月くらいでいつ来るかわからないのが問題だ。


「じゃあ、ブリギッテの卵巣にも成長魔法をかけていい?」

「なるほど。そうしてもらおう」

「ふんふん……♪」


 卵巣をすぐに育てるべきなのか、卵子をすぐに育てるべきなのか分からないので、とりあえずどっちもかけておいた。




 今期もまた演奏者のオーディションの一次試験を行った。リズム間違いをイアサントたちに落としてもらって、私が音外しとかを落とした。そして残った十人に課題曲を出して、三ヶ月の後に披露してもらう。



 そして、最後の試験を終えて、学園の卒業式。私たちはホールへ入場した。


 六年前、足もとのおぼつかないアナスタシアをマレリナと支えて、皆に追い抜かれつつもなんとかたどり着いた。今ではアナスタシアはマレリナと並んでしっかりと歩いている。それに、あのとき悪役令嬢だと思っていたスヴェトラーナも私の隣で微笑んでいる。入学前から狙っていたヒロインキャラっぽいマリアちゃんもゲットした。エルフ仲間のブリギッテとオタクのセラフィーマも一緒だ。


 お嫁さんたちはみんなこの日のために新しく晴れ着のドレスを用意した。ちなみに私は先日謁見に使ったドレスだ。スヴェトラーナとブリギッテは冬なのにあいかわらず露出が多くて寒そうだ。クラスで一番の爆乳と二番の巨乳だからそこは譲れないのだ。


 学長のありがたくない挨拶を聞き流して退場。アナスタシアはもう遅れたりしない。かかとを踏んづけるいじめっ子もいない。クラスのみんなと、よく仲良くなれたものだ。そんなつもりは全くなかったのにな。



 そして、卒業式の翌日。私たち七人は純白のドレスをまとい、王都邸で結婚式を挙げた。卒業と同時に結婚式を挙げる者は多い。王子も今頃二十…何人だっけ……、上の学年もいるんだよね。下の学年ってどうなってるの?もうしーらない。

 まあ、そんなんだから、招待客は基本的に身内だけなのが基本だ。


 私たちの学年は、王子の妃候補としてたくさん集まっているのだが、例年だと数人妃として娶ったら、残りの女子はあぶれる。そして、男子たちは残り物の女子をえり好みして、結婚式を挙げているはずだった。ところが、私たちの学年の女子は全員王子と私がもらってしまったので、男子たちにはお相手がいないのだ。女子がいっぱい集まる年だからと、貴族たちはこぞって王子と同じ学年の男子を送り込んだのに、女子が残っていないのだ。彼らは社交界に出て他の学年からお相手を探さなければならない。がんばれ、アルベール。


「私はスヴェトラーナを正室として迎え、アナスタシア、マレリーナ、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアの五人を側室として迎えます」


 結局、アナスタシアとスヴェトラーナの壮絶な譲り合いの戦いの結果、フョードロヴナの顔を立てて、スヴェトラーナを正室とした。


「いきなり六人の嫁を娶るとは、王族並みだな」

「ユリアーナはエルフの王の娘ですものぉ。そういう血筋なのよぉ」

「そのようだな」

「私もあの中に入りたかったわぁ」

「それは許さん」

「ちょっ、あな……、んむ……」


 タチアーナが不穏なことを言っていると、セルーゲイがタチアーナを抱き寄せ、有無を言わさず口づけ。何、見せつけてるんだ。おまえらの結婚式じゃねーよ!



 日本の結婚式みたいにバージンロードを歩いたりはしないし、神父が壇上に待っていたりもしない。だけど、私が日本風にみんなの左手薬指に結婚指輪を填めていった。


「綺麗ですわ…」

「ありがとう、ユリアーナ!だーいすき!」

「一生大事にするよ!」

「ユリアナ…」

「素敵ね…」

「ユリアちゃんのことだから、これも何かの魔道具なのでしょう!」


「うふふ、よく分かったわね」


 小さなカットダイヤをプラチナリングに一周ちりばめてある。ダイヤもプラチナも土魔法製。

 見た目だけじゃなくて、高機能魔道具になっている。まず、異次元収納機能があり、中には大型の発魔器が入っているため、半永久的に使用可能。着用者が傷ついたときに自動治療。着用者に害虫や細菌。ウィルスを寄せつけない。攻撃されたときに防護強化。それでもダメなら鉄壁生成。使用者の魔力を発魔器でためた魔石で補助。


「私も欲しいわぁ、あれぇ」

「そうだな…。売ってしまったからな」


 えっ…。それってアナスタシアの治療費…。本人の前で言うなよ…。


「それはどういう魔道具なのですか?」

「私にも見せてください」


 ロビアンコ夫妻がセラフィーマに寄ってきて、指輪を取り上げようとしている。


「ダメです。私が解析してからです」


 えっ、セラフィーマ、分解したりしないよね?


「結婚式で指輪を贈るって、いいわね」

「ああ、儲かりそうだな」


 フョードロヴナ夫妻を商売に目覚めさせてしまったのは私なのだけど。


「これで一安心だな」

「何を言ってるのよあなた。マシャレッリにはもうたくさん援助してもらってるでしょ」


 アルカンジェリ夫妻はこんなだから、甘い汁を吸わせたくないんだけど、公約だからしかたがない。


「マリア、よかったな。良家に娶ってもらえて」

「え、ええ。ありがとう。お父様」


 ジェルミーニ男爵は、王位簒奪の計画がすっぽり抜けていて、マリアちゃんを何のために養女にしたのか覚えていない。



「それではわたくしたちからユリアーナ様に贈り物を」

「えっ?」


 思っても見なかった言葉をもらった。


「聞いてね、ユリアーナ」

「えっ?」


「はい、楽譜」

「えっ?えっ?」


 えっ、しか言ってないアホな私。


 お嫁さんたちが楽器を構えて演奏し始めた。


 ぱーぱーぱーぱー♪(マレリナのラッパ)

 ぴーぴーひょーひょー♪(アナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっかっ♪(マリアの木琴)

 きんきんきんきん♪(セラフィーマの鉄琴)

 きーこーきーこー♪(スヴェトラーナのバイオリン)

 ぽんぽんぽんぽん♪(ブリギッテのハープ)


 私の聞いたことがない曲…。楽譜を見てもやっぱり知らない。


 楽譜には歌詞が書いてある。

 『目を覚ますとそこは歌のない世界。音楽を楽しむことすら知らない世界。私は絶望しかけた。だけど、私は負けない。私は音楽文化……』


「……を作る♪演奏家に作曲家、作詞家も全部私がいちから育てる♪何年、何百年、何万年かかっても私が人々に歌う喜びを教えるんだ♪この世界を歌で満ちあふれた世界にするんだ♪」


 頭の中で歌っていたのだけど、気がつくと、私は楽譜と歌詞を見ながら歌っていた。薫は楽譜を見てすぐにハミングすることはできても、マルチタスクできないので、歌詞が付いてくるのはけっこう後になってからだった。だけど、この脳みそは優秀、いや、一般的な語学力があるので、歌詞もすぐ入ってきた。


 これって、普段ろくに歌詞の意味を考えない私でも分かるよ…。私の人生の歌じゃん!アナスタシアが作詞してくれたのかな…。ルシエラに与えられた記憶のことを話したときに、私の素性もある程度は話したけど、ここまでくみ取っていてくれたとは。

 それに、旋律もちゃんとできている。私は頭の中で作曲できるけど、音感のない人って楽器を鳴らしながら作曲するんだっけ?大変だったろうな…。しかも、童謡じゃなくてアニソンチックだ。全部で一分三〇秒ってところかな。TVサイズバージョンだね。ちなみに、変ロ長調だ。


 ああ…、なんだか嬉しすぎて涙が出てきた。この歌詞のとおりだ。せっかくアニメ声という脅威のチート能力を持って生まれたのに、ここは歌どころか音楽さえない世界だった。前世の記憶が蘇ってからもうすぐ十年。身内とはいえ、私のためにアニソンを作ってくれる人がやっと現れた。


 私が歌うことが想定外だったのか、みんなちょっと目を見開いている。それに、主旋律を奏でる楽器が交代で何かしらある。


 演奏が終わった。今日は転生者人生で最も素晴らしい日だ。


「本当ならわたくしたちが歌って捧げることができればよかったのだけど…」(スヴェトラーナ)

「私たちが一年かけて作り上げた曲を初見で歌ってしまうとは、さすがユリアちゃんですね」(セラフィーマ)

「私たちがユリアーナの夢を叶える決意を表した歌なのよ」(アナスタシア)

「最初の方は私たちの育った村でのユリアナの様子を思い出してアナスタシアに歌詞にしてもらったんだよ」(マレリナ)

「これからも私たちがユリアーナの夢と使命のお手伝いをするよ」(ブリギッテ)


「みんな…、こんな素晴らしい贈り物を本当にありがとう…」



「アナスタシア、マレリーナ、ユリアーナよ、私たちはこれを贈ろう」


 セルーゲイの後ろから、デニスとニコライが二人でやや大きな箱三つを抱えてきた。形から丸わかりだ。


「これは大人用のハープね!」(アナスタシア)

「ありがとうございます、お父様」(マレリナ)

「ありがとうございます」(ユリアナ)


 魔法を使うだけなら、大人用のハープを使う必要は全くない。大きくて邪魔なだけだ。でも、音楽を奏でるなら低音域を使える大人用のハープは魅力的だ。大きなハープがあるってことは、かつて音楽をたしなんでいた時代があったのではないかな。

 とりあえず、大人用ハープのための楽譜を描いてもいいかもね。


 スヴェトラーナ、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアちゃんは、それぞれの親からハープをもらっていた。学園を卒業すると親が大人用ハープを贈るのが慣習みたいだね。


 ちなみに、子供用ハープは金貨三枚だけど、大人用ハープは十枚だ。うちは三人で三十枚だよ。アナスタシアの子供用ハープすら買ってあげるほどのお金がなかった七年前のマシャレッリ家の面影は全くない。

 あっ、ジェルミーニ男爵家では一人分もきついのかも?ジュリクス男爵の顔が引きつってるよ。これはある意味嫁入り道具なんだから、出し渋ってはダメだよ。


 結婚式は大盛況のうちに終わった。




 結婚初夜…。


「さあアナスタシア、あなたがいちばんですわ」


 スヴェトラーナが正室の肩書きをもらう代わりに、アナスタシアにいちばんの座を譲ったのだ。


 ちなみに結婚して家を出たお嫁さんたちはもうご令嬢ではないので、互いを様付けで呼んだりしないのが普通なのだけど、それを理解しているのはごく一部だ。


「ホントにいいのかしら」

「じゃあ私がいちば……離して!」

「いけませんわ」


 アナスタシアが躊躇してると、マリアちゃんが私に飛びつこうとしてスヴェトラーナに止められた。


「ユリアーナ…」

「お姉様…」

「お姉様じゃないわ。もう妻なのよ。名前で呼んで」

「アナスタシア…」

「ユリアーナ…」


 ちっちゃくて子供にしか見えないアナスタシア。こんな子供に手を出したら犯罪…。まあ、私も十歳の身長だからたいして変わらないしいいか。


「ねえ、ユリアーナ。その腕輪って、興奮を抑えるためのものなんでしょ?」

「そうだったわ…」


 私は慌てて腕輪と足輪を外した。まあ、まだ心拍数は上限の八〇に達していなかったと思うけど。

 そうだ。私はもう我慢しなくていいんだ!


「きゃっ、ユリアーナ…。ああん…」


 私はアナスタシアを押し倒した。私の身体から魔力が溢れてくる。属性を持ってない、透明の魔力だ。魔力にこんな使い方があったなんて…。

 私が魔力を帯びた手でアナスタシアに触れると、アナスタシアはビクッとなって顔を赤らめた。


「もっとぉ。もっと触れてぇ!」

「アナスタシア…、可愛い…」



「すごいな…。さすがユリアーナ。普通は指先にしか魔力を帯びないし、耳を触ったときにしか気持ちよくならないんだけど…。もう我慢できない!」

「ふふっ、ブリギッテも一緒だね」


 私がアナスタシアを可愛がっているのを見て我慢できなくなったブリギッテが乱入してきた。私がブリギッテを腕で受け止めると、


「ああん…。ユリアーナ…、すごい…」


 私が触れるだけで顔を赤らめて、気持ちよくなってしまうようだ。


「ずるいですわ!」「ずるい、ブリギッテ!」「私も!」「私も!」


 ついにはスヴェトラーナ、マリアちゃん、セラフィーマ、マレリナも乱入してきた。私が受け止めると、


「「「「ああああん…」」」」


 女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう。胸とかお尻だけじゃなくて、全身柔らかい。私も触れあっているだけで気持ちいい。


 それと…、なんだかみんなの耳を無性に食みたくなる…。私がみんなの耳を食んでいると、みんなも私の耳を食んでくる…。それがまた特別に気持ち良い…。


 しばらく愛撫したあと、私は目の前にある小さな唇に、自分の唇を重ねた。


「んんんん…!」


 アナスタシアの可愛い声。アナスタシアに私の…あげたい…。


「次はわたくしですわ!」「いや私だって!」「ユリアちゃんの唇、いただきです!」「私だって…」「うふふ。私は最後でもいいよ。まだ触れあってたいもん」


 まさに組んずほぐれつ。アナスタシアの後は、どういう順番で口づけしたのか分からない…。


 これがエルフのエッチか…。耳以外は人間のとかけ離れてなくてよかった。何年も我慢したかいがあった。



 翌日、目を覚ますとお嫁さんが顔を赤らめていた。


 その後、毎日みんなとエッチ三昧。安全日とか危険日とかみんなばらばらなのだ。とくにブリギッテはいつ来るかわからないし。そもそも排卵日と関係あるのかとか、口づけで受精する原理とかも分からないけど…。

 毎日安産祈願や健康祈願、治療魔法などをかけた。きっとすぐに着床するはずだ。


 ちなみに、エルフは生理の周期が人間の五倍だけど、妊娠期間は普通に四〇週らしい。仮に妊娠期間も五倍だとしたら二〇〇週…、四年弱じゃん…。それがハイエルフだと十六年、マザーエルフだと一一〇年…。ああ、妊娠期間が人間と同じで本当によかった。




 私は仕事があるといって王城に赴いた。応接間に通された。


「よくぞ参った」

「ごきげんよう…」


 応接間にはアブドゥルラシド王がいた。ヴィアチェスラフ王子はいない。


「では、付いてこられよ」

「はい…」


 後宮の方へ通された。私は廊下を歩きながら考える。王に催促されてしまったのだ。別に、新年が始まってから二ヶ月以内に種付けすれば同じ学年にできるだろうに。


 まだお嫁さんたちの着床も確認してないのに、他の女の子に手を出すなんて…。しかも朝っぱらから…。私は気乗りしないまま後宮の一室に通された。


「それでは頼むぞ」

「はい…」


 扉を開けると、王の面影がある五人の綺麗な女の子がベッドにネグリジェ姿で座っていた。これが表に出ない王の娘か。王子争いに脱落した息子たちと違って、娘はチャンスも与えられないんだな。


 自分の娘に娼婦みたいなマネさせやがって…、とかお嫁さんたちを裏切ることを心苦しいとか思っていたのもつかの間、なんだか身体中から魔力がこみ上げてきてテンションが上がってきた!


「「「「ああああああん…」」」」


 私って人でなし?しかたがないじゃん!これがマザーエルフの仕事なんだから!


 卵巣と卵子に成長促進をかけつつ、安産祈願や健康祈願を使った。こっちもいつ着床するか分かんないからって、毎週通うことになっちゃったから、できるだけ早く終わらせたい。貴族や王族の子作りって、とても事務的…。


 とか考えつつも私の身体は正直で、五人の女の子との時間を満喫してしまった…。



 私は王都邸に帰って、お嫁さんたちに相談を持ちかけた。


「あの…、ルシエラに…」


「わたくしは構いませんわ」(スヴェトラーナ)

「いいのよ。気にしなくて」(アナスタシア)

「欲しいってずっと言ってたもんね」(ブリギッテ)

「産みの親に子を授けるって神秘ですね!」(セラフィーマ)

「ユリアーナは独り占めできないって分かってるもん…」(マリア)

「わたしもいいよ」(マレリナ)


「みんな…、ありがと…」



 私はワープゲートを使って、一人でルシエラの村に赴いた。リュドミラに挨拶してからルシエラの部屋へ。


「ルシエラ。来た…うわっ」

「遅いのじゃ!」


 入り口をくぐるなり、ルシエラに飛びかかられて押し倒された。


「んむ…」


 そして、おもむろに口づけ…。ルシエラの魔力が流れてくる。なるほど、私はこれをみんなにやっているわけだ。でも、なんか詰まってるみたいで流れが悪い。


 私は唇に吸い付いているルシエラを剥がした。だけどルシエラは私に馬乗りのままだ。


「ルシエラ、流れてこないよ」

「なぜおぬしが流さんのじゃ」

「いやあ、いきなり飛びかかられてムードもなにもあったもんじゃないし…」

「へたれめ!」

「はぁ…」


 この子はツンデレなんだ。言動は照れ隠し。うん、可愛く見えてきた。たぶん。


「わっ」


 私は寝返りをうってルシエラのバランスを崩させて転がし、逆に馬乗りになった。

 すると、ルシエラは顔を赤らめて横を向き、私と顔を合わせようとしない。そして、尻目で私をちらっと見ては、私と目が合った途端に顔を赤らめてはまた目をそらす。


「かわいいぃぃ!」

「あああん…」


 これがツンデレの本気。私は一発で墜ちた。

 私はルシエラの腕を掴んで、ふくよかな胸に覆い被さった。すると、ルシエラがあられもない声を上げた。私とほとんど同じ声なのに、とても色っぽい声…。その可愛い声を出す唇が欲しい…。



 気が付くと、二人で床に寝そべっていた。エルフのエッチは服脱がなくてもできちゃうんだね。まあルシエラはほとんど裸だけど。

 私が目を覚ますとルシエラも目を覚ました。私と目が合うなり、そっぽを向いて尻目でチラチラ見てくる。これは上目遣いならぬ、横目使いという技なのだろうか。けっこう破壊力高い。


「ねえルシエラ。最後の生理はいつ?」

「さあ、何十年前じゃったか、はたまた何百年前じゃったか」

「それ覚えてないと、妊娠できないじゃん」


 っていうか、アナスタシアとブリギッテに執った手段を使えばいいのか。


「ふんふん……♪」


 卵巣と卵子がすぐに成長…。アナスタシアの一〇〇〇倍…、ブリギッテの二〇〇倍。間違って寿命を使い切ったりしないよね。


「これで人間と同じ周期で生理が来るから、一ヶ月くらいは毎日来るよ」

「……」


 私のスカートを掴んで離さないルシエラ。


「毎日来るってば」

「……」


 無言ってどういう意味?


「一緒に来る?」

「に、人間の国になんて行かんのじゃ」

「わかった。じゃあさ、これを着て。ふんふん……♪」


 私は異次元収納から夏のドレスを出した。


「そんな暑苦しいの着ないのじゃ」


 セリフに反して顔は嬉しそうだ。じつは着てみたかったってところだろう。


 葉っぱパンツはそのままでいいか…。葉っぱパレオを脱がして。スカートをはかせた。そして、葉っぱブラを剥いで、ドレスのトップスをペタッとくっつけた。私よりはるかに胸が大きいので、カップに胸を合わせたら窮屈そうだ。帰ったら新しいのを作ってあげよう。


 あと、パンプスもあげた。かかとの高くないやつ。よし、これで私と背丈が同じだ。まあ、ルシエラは完全な大人の体つきで、私は大人になりかけの体つきだけどね。


「それとさ、髪も半分くらいにしていい?」

「勝手にせい」


 異次元収納からはさみをだして、ルシエラの髪を床に付かないところで切った。私と違って前髪も全く切ってなかったから、ちょっとウザそう。前髪を横から後ろに回して、髪留めで留めた。ハーフアップって感じか。前から見ても私とは髪型が違う。これで背丈と胸以外でも私と区別付くかな。



 部屋をでてリュドミラに話を付けることに。


「る、ルシエラ様…おぐしが…。それにその装い…」

「そうなのじゃ、動きづらくてかなわん」


 ルシエラはふわっとスカートをひるがえし、「えへへ、どう?似合う?」とでも言い出しそうな顔だ。


「ねえリュドミラ。ルシエラを一ヶ月くらい借りていくね。その間、村の統治をお願いね」

「分かった…」


 ワープゲートを開いて、マシャレッリの屋敷に戻った。そして、常設ワープゲートで王都邸に帰った。




「あのー…」


「知ってましたわ」(スヴェトラーナ)

「ユリアーナだもんね」(マリア)

「ルシエラ様ならしかたがないわね」(アナスタシア)

「ユリアナ、これっきりだよ」(マレリナ)

「ユリアちゃんのお母様なら大歓迎です」(セラフィーマ)

「やっぱりお持ち帰りしたんだねー。私、ルシエラ様でもいいな~」(ブリギッテ)


 お嫁さんたちの私への信頼は厚いな!いや、むしろなんだか嬉しそうじゃない?ルシエラは私と同じ遺伝子だからって別人だよ?私が二人に増えたと思ってない?


「まあ~!ちょっとぉ、ユリアーナの胸が私のより大きいじゃなぁい!ずるいわ!私も大きくしてぇ!」


 タチアーナ、着眼点が違うね。ほぼ同じ顔が二人いることよりもそっちが大事。


「ユリアーナよ、どういうことなのだ…」


 セルーゲイは私とルシエラをキョロキョロ見比べて、困り果てている。これが普通の反応だよね。


「お母様、お父様、こちらは私の産みの親のルシエラなのです」

「ルシエラじゃ。世話になる」


「まぁっ!ルシエラちゃんっていうのねぇ!よろしくね~!」

「ということは、エルフの王…。これは失礼しました…」

「ねえ、ルシエラちゃんはなんでそんなに胸が大きいのよぉ。私の胸も大きくしてよぉ!」


 ルシエラは私の親だと言ったのに、なぜかその胸のサイズが私のサイズから大きくなったものだと勘違いしたままだ。


「お母様、ルシエラは二〇〇〇年生き……」

「よいぞ。あれくらいでよいか?らーらー……♪」

「ちょっとルシエラ…」


 ルシエラはスヴェトラーナの爆乳を参考にして、タチアーナに「乳房がすぐに大きく成長する」メロディを口ずさんだ。


「わ…、わあぁ、大きく……ぐるじいぃ」


 タチアーナの胸が風船のように膨らんでいき、今にも爆発しそうだ。冬のドレスは夏のドレスのようにペタッとくっつくようになっていないため、今にも飛び出しそうだ。


「い、イカンっ。こっちへ来い」

「ああん、あなたぁん…」


 万一タチアーナの胸が飛び出してもいいように、セルーゲイがタチアーナの前を隠すようにして…、二人の寝室にかけていった。セルーゲイは危険を回避しなければという焦りではなくて、タチアーナの大きくなった胸を見て、いても立ってもいられなくなってしまったようだ。ここ最近、二人は私につられるようにして毎日頑張っていたみたいなのだけど、胸が大きくなったもんだから、お楽しみが増えたのではないだろうか。


 いや、そうじゃなくって…、


「「「ユリアーナ!」」」


 アナスタシア、マリアちゃん、ブリギッテが私を睨みつける。


「ユリアーナは子宮を成長させる魔法を知っていたくらいだから、胸を大きくする魔法も知ってたのよね?」

「それは、まあ…」


「私もスヴェトラーナ様にしてほしい!」

「私も!」


「ええぇ…、マリアちゃんはともかく、ブリギッテまで…?」


「わたくしを引き合いに出されましても…」


 なぜか顔を赤らめて、両手をバッテンにして隠しきれない胸を隠そうとするスヴェトラーナ。どう見てもその服装の胸は見せ物なのに、こういうときだけ隠そうとするギャップが萌える。


「よいぞ。らららら……♪」

「ちょっルシエラ~…」


 ルシエラは、「乳房がすぐに大きく成長する」を口ずさんだ。


「うごぉ、苦しい…」

「あはは!おもーっ!」


 マリアちゃんの胸はドレスから飛び出してしまった。苦しいと言いながらも嬉しそうだ。

 ブリギッテは重量感の増した胸にご満悦のようだ。「重くて困っちゃーう」みたいな嬉しさは分からないでもない。ブリギッテは夏のドレスを着ているので、丁度私のドレスを着ているルシエラのような感じだ。


「助けて…はぁはぁ…」

「わああ、お姉様、ふんふん……♪」


 アナスタシアは口に出して頼んだわけではないけど、物欲しそうな顔をしていた。だからなのか、それともぺったんこなアナスタシアも当然爆乳を欲しがるだろうと判断したのか、ルシエラはアナスタシアにも魔法をかけていたのだ。


 アナスタシアのドレスに膨らみが…。でもアナスタシアのドレスは胸が開いていないし、パワードスーツも着ているので、自分の胴よりもはるかに大きい二つの球体が逃げる場所などないのだ。しかも、このドレスは蜘蛛の糸の生地なので、簡単には破れないのだ。


 私は慌てて乳房がすぐに小さく成長するを口ずさんだ。


「はぁ、はぁ…助かったわ…。ありがとう、ユリアーナ」


「ルシエラ、やり過ぎだよ…」

「スマンかった。じゃが、それくらいの大きさ、ハイエルフにはざらにおるじゃろう」

「そういう問題じゃなくて、人間は服を着てるんだから…」

「ふむ。面倒じゃのう」


「マリア様…、誰か…お召し物を…」

「んぐぐ、痛い…」


 マリアちゃんは胸が丸出しになったままだった。それをメイドが隠そうとしてるけど、ひとふさでマリアちゃんの肩幅を超える爆乳はメイドの身体を張っても隠しきれない。おまけに、マリアちゃんのドレスは胸元が開いてはいるものの、ほぼぺったんこのマリアちゃんの胸に合わせて作られていたので、スヴェトラーナサイズの胸がはみ出すには首穴が小さすぎるのだ。


 胸が大きすぎてはみ出しちゃうなんて、とても素晴らしい!じゃなかった、


「ふんふん……♪」


 私は乳房がすぐに小さく成長するを口ずさんだ。すると、マリアちゃんの胸元から生えた風船がしぼんでいき、ドレスの胸元に空間が発生した。


「ふう…助かった…。って、私もうちょっと胸あったよ!ユリアーナのバカぁ!毎日見てるくせに!」

「ご、ごごご、ごめんん!ふんふん…♪」


 私は「乳房がすぐに少し大きく成長する」を口ずさんだ。


「もっと大きかったはず!」

「えー…、ふんふん……♪」

「もっとだよ!」

「ふんふん……♪」

「んぐ…、もっと…」

「ん~、ふんふん……♪」


 もうとっくにデフォを超えてる。苦しそうだし。


「そうそう、これくらい…」


 私と同じくらいだろうか。マリアちゃんは満足したようだ。あと、こっそり乳房が美しく成長する魔法もかけておいた。



「ねえ、私ももうちょっと大きくしてもらえるかしら。その…、赤ちゃんが生まれてもこれじゃ困るし…」

「そ、そうよね…。ふんふん……♪ふんふん……♪」


 アナスタシアは本当に七歳くらいにしか見えなくて、胸も真っ平らだったのだ。やっぱりコンプレックスだったんだね。大事な人を改造したくないなんて私のポリシーは早く捨ててしまえばよかった。

 私は乳房がすぐに少し大きく美しく成長すると、乳腺が成長するを口ずさんだ。生理が来ていなかったんだから、母乳を作るところも発達していないかもしれないので。


「ルシエラ、人の成長を弄る魔法は禁止ね」

「なぜじゃ」

「とくに胸を大きくする魔法とか美人にする魔法は国が傾くから、一般公開禁止ね」

「面倒じゃのぉ」


 傾国の美人を量産してしまうと、本当に国が傾いてしまう。それに、胸を大きくする魔法や魔道具巡って戦争が起こりかねない。女性の食いつきっぷりからも分かるように、女性が喉から手が出るほど欲しいアイテムなのだ。


 とはいえ、マレリナはほとんど反応しないし、セラフィーマは完全に無関心だな。二人とも標準体型だから満足なのかな。まあ、この国の女性の標準体型だとみんな胸の谷間がけっこうあるし。


 マリアちゃんとアナスタシアは、年相応のサイズの胸を手に入れた。年相応ではあるけど、身長には不相応である。まあ私だって十歳の身長で十六歳の成人の胸が付いてるわけだから、不相応な胸が付いてるわけだ。マリアちゃんとアナスタシアは私よりも小柄なのに、十六歳の胸が付いていて、相対的にはけっこう巨乳に見える…。二人は慌てて仕立屋を呼びつけて、ドレスを一新していた。

 ブリギッテも巨乳から爆乳にパワーアップした。夏のドレスは胸とおへそにペタッと貼り付けリだけなので苦しくはならないけど、ちょっとサイズが合っていないので、やっぱり新調することにしたようだ。

 ついでに、ルシエラのドレスも注文しておいた。



「ルシエラ、人間に公開する魔法は私が厳選してるから、魔法を使うときは私に聞いてね」

「なぜじゃ。すべて教えればよかろう」

「さっきも言ったけど、戦争が起こったり、危険な使い方のできる魔法はダメ」

「ふむ。魔法を広める使命はおぬしに託したのじゃから、おぬしに従おう」

「うん」


 その日の夜から、ルシエラも一緒に組んずほぐれつすることになった。しかし、私が相手をしないとルシエラは男役に回ってしまうようで、お嫁さんたちに触れただけでお嫁さんたちを気持ち良くしてしまう。遺伝子的には同じなのかもしれないけど、私のお嫁さんなんだからあげないよ!




 バタバタしたから報告が遅れてしまったけど、私は農村に赴き、お母さんに結婚を報告することにした。


 トントン。


「お母さん、いるー?」

「ユリアナ?よく来たわね…」


 お母さんが戸を開けて出てきた。だけど、私を見る目が、久しぶりに帰ってきた娘を見る目じゃない。顔を赤らめて、ちょっと顔を逸らして、横目で私を見つめる。見ていたいけど直視できない。なんだっけ…、この目は最近よく見るような…。


 ダイニングに通され座っていると、お母さんは水を出してくれた。お母さんも席に着いた。


「私ね、この前紹介した六人と結婚したんだ」

「えっ、そうなのね…。お、おめでとう…」


 なんだか嬉しそうじゃない。むしろ残念そう。


「ユリアナ…」

「お母さん…?」


 お母さんは立ち上がり、私の頬をなでた。


「愛しいユリアナ…。四年前、あなたが村に現れるまで、あなたは私の可愛い娘だったわ」

「私…、もうお母さんの娘じゃなくなっちゃった…?」

「そうよ。今はあなたのことを…その…好きっ!」


 お母さんはいきなり私に口づけしてきた。すると、私の身体から魔力があふれ出てきてしまった。


「はあああん…」


 お母さんは唇と私の頬に触れた手がとても気持ち良かったみたいで、目を見開いて驚き、唇と手を離してしまった。


「お母さん…」


 お母さんってけっこう美人…。私の身体が勝手に動く。お母さんを抱き寄せ、お母さんの唇に私の唇を重ねた。私のナタシアお母さん…。



 気が付くと、お母さんはとろとろになっていた。私、お母さんの唇に魔力を流しちゃった…。


「はぁ…、はぁ…、ユリアナ、ありがとう…」

「私…、お母さんにとんでもないことしちゃった…」

「いいのよ。私が望んだことだもの。私、ユリアナのお母さんじゃなくて、お嫁さんになりたくなっちゃったのよ…。そしたら急にユリアナの唇が欲しくなっちゃって…」

「お母さん…、エルフと口づけする意味、分かってるの?」

「感じたの。それが幸せに繋がるって」

「そっか…」


 なんでお母さんがエルフの交配のしかたを知ってるの?人間が私の唇に口づけしたくなるフェロモンのようなものを、私は出しているのだろうか。それとも、雌は強い雄の子を求める自然の摂理か何かだろうか。マザーエルフ…、ちょっと怖い…。やっぱ興奮抑制ブレスレットしておかないとダメかな…。


「もしかしたらね、私、お母さんに子供を授けてしまったかも…」

「やっぱりそうなのね。私、ユリアナの子供を授かれたら幸せよ」

「うーん…」


 ハイエルフが生まれたら私の子ってバレちゃうじゃん…。そうだ!耳が長く成長するのを阻害すればエルフってバレないかな?寿命とか後回しで…。よし、透視で胎児を確認できたら、おなかの子の耳が長くなりすぎないように成長を阻害して回生する腹巻きをお母さんにプレゼントしよう。


 はぁ…、お母さんに結婚の報告をしにきたのに、お母さんに胎ませてしまったかも…。



 屋敷に帰るとルシエラに


「おぬし、おなごを胎ませたくてしかたがないようじゃのぉ」

「ばっ!そんなバカな…」

「身体から魔力があふれ出ておるぞ。近くにおるだけで…ああ…心地よい」

「ちょっと…」


 ルシエラは私に寄り添ってきた。すると、顔を赤らめて、とても気持ちよさそうな顔をしている。


「おぬしは魔力が高いんじゃのぉ。これならおなごの近くにおるだけで胎ませることができるぞ」

「ちょっ、そんなことしたくないよ!」


 近寄るだけで妊娠しちゃうなんて、そんな危険な生き物になりたくはない!

 私は異次元収納から興奮抑制のブレスレットを取り出してはめた。だけど、私は興奮して心拍数が上がっているわけではない。


「どどど、どうしよう…」


 慌てたら心拍数が上がって精神治療が発動した。すると、


「お、魔力が溢れんようなった。つまらぬ…。もっと出せぃ」

「ふう…」


 とりあえず精神治療で収まるようだ。心拍数じゃなくて、属性のない魔力が漏れ出ることをトリガーとして追加すればいいかな…。これでタチアーナやメイドを胎ませることはないはずだ…。




 王都邸と領地をワープゲートで行き来しながら、農園やお店の経営状況確認や、街道整備の状況確認などの仕事をしている。また、春から始める新しい仕事の準備もしている。


 そして一週間に一度王城に赴き、お勤めを果たしている…。この身体は、そのお勤めを欲しているから困る…。


 もちろん、夜はお嫁さんたちと毎日エッチしている。ブレスレットを外して。そろそろ生理の周期をすぎても生理が来ていないお嫁さんも出始めた。ブリギッテだけは分からないけど。


 そこで、私は透視でお嫁さんたちの胎盤を覗いた。でも、医学知識のない私には、いくら高性能なCTスキャン映像を見られても、どれが卵子で、着床するとどうなるかなんてしらないから、まだ見ても何も分からない。ドラマでエコー写真くらいは見たことがあるけど、ヒト型っぽくなるまでは分からないだろうな。

 ちなみに透視魔法は放射線とかではないので、母子には無害だ。


 そして、一ヶ月以上がすぎ、みんなつわりが始まった。


「うぅ、気分がすぐれませんわ…」(スヴェトラーナ)

「おなかがムカムカする」(マリア)

「何も食べたくないです…」(セラフィーマ)

「私も調子悪い…」(マレリナ)

「頭痛い…」(ブリギッテ)

「ああ…」(アナスタシア)

「きよった」(ルシエラ)


 みんなつらそうだ。アナスタシアがふらっと倒れそうになったのを私は支えた。


「アナスタシア、大丈夫?」

「これが赤ちゃんを授かるってことなのね」

「そうよ」

「つらいけど嬉しいわ」


 つらい思いや痛みに耐えて子孫を残さなければならないなんて女性は大変だな…。人ごとではないのかもしれないけど、私は二〇〇〇年後とかだろうし…。


 アナスタシアはこの体格で子供を産めるのかな。身体にすごい負担なのでは。早産とか帝王切開はイヤだな…。でも、私のつたない医学知識と魔法で母子ともに必ず取り上げてみせる。私はふんふん…♪と安産祈願、健康祈願、治療魔法、疲労回復などをみんなにかけた。


「みんな、もしよかったらこれを食べてみて」


「リンゴだわ。そのままいただくのは久しぶりね」(アナスタシア)

「オレンジもありますのね」(スヴェトラーナ)

「紫色のは初めて見ました」(セラフィーマ)

「レモンってそのまま食べるの?」(マリア)

「エルフの村では果物をそのまま食べることが多かったなぁ」(ブリギッテ)

「あまり進まないけど食べてみるよ」(マレリナ)

「いつも食ってるもんなら食えるかもしれぬ」(ルシエラ)


 妊娠したら酸っぱいものっていうよね?私が果物を流行らせるまでは酸っぱいものってなかったんじゃないかな。妊婦は何食べてたんだろう。

 みんなは「これなら食べられる」と言って、少しは食べられたようだ。正解だったみたいだ。



 お嫁さんたちのこともさることながら、私は王宮でのお勤めも無事に成し遂げたようだ。でも私は女の子を妊娠させてはい終わりなんて酷い父親にはなりたくない。しばらくは毎週お嫁さんたちと同じ魔法セットをかけに通うつもりだ。

 っていうか、私は女の子に転生したのに父親になったんだな…。



 そして、私はマシャレッリ領の農村に赴き、


「お母さん、調子どうかな」

「ええ…。これが子供を授かるってことなのね…。頑張るわ…」


 一回しか口づけしてないのに妊娠しちゃった…。魔法だから安全日とか関係ないのかな…。いや、エルフは常に生理不順だから、いつ来てもいいように毎日エッチしてるってブリギッテが…。


「お母さん、これを付けて」

「なあに?」

「生まれてくる子の耳が長くならないようにする魔道具」

「わかったわ。エルフであることは隠したほうがいいのね」

「うん」


 産みの母親と育ての母親、両方を妊ませてしまった…。これからは頻繁に魔法をかけにこよう。




 屋敷に帰って晩ご飯なのだけど、食欲のない子が八人…。一人増えてる…。


「お母様…」

「私ぃ、できちゃったみたぁい」


 おなかをさすって大事そうにしているタチアーナ。やっぱり子供ができるって嬉しいんだね。私は二〇〇〇歳になったときその気持ちを味わえるのだろうか。


「そのようですね」

「本当はユリアーナの子が欲しかったのにぃ」


「頼む…、もうそれを言わないでおくれ…」

「あなたったらもーぅ」


 産みの母親と育ての母親に加えて養母まで妊ませることにならなくてよかった…。


「わらわが代わってやってもよかったのだぞ」

「ちょっとルシエラ…」


「そうねぇ、ルシエラちゃんでもいいわぁ」

「だからやめておくれ…」


 マザーエルフという大いなる生物の前には人間の男はなすすべもない。私はクラスの女子全員を王子から奪わないでよかったと思う。




 王城で王位の継承式、兼王子の結婚式が行われた。私はマシャレッリ侯爵として参列した。正室であるスヴェトラーナを連れて。もちろん側室を連れてきている人はいないよ。だけど女二人で並んでる家もないよ。ちょっと注目を浴びてしまった。


 アブドゥルラシドからヴィアチェスラフの頭に王冠が乗せられ、この国の王が交代したことが告げられた。


 そして、入場してきた、一、二、三、四……、私の元クラスメイトの女子十九人と、たぶん上下の学年の知らない女子六人。合計二十五人。アブドゥルラシドも十人の嫁を連れていたけど、ヴィアチェスラフは二十五人だよ。人数制限とかないのかな!貴族の誰も側室を連れてきてないのに、王族は側室を自慢げに紹介するものなのかな!


 ちなみに正室はエリミーナ、元シェブリエ侯爵令嬢だ。上位陣の成績は拮抗していたからあとは家格で選んだのかな。


 そのあとは、ヴィアチェスラフ王と二十五人の嫁がバルコニーに出て、民衆に顔を見せた。嫁自慢もたいがいにしろ!ヴィアチェスラフは比較的まともな人格者だったけど、結婚観だけはおかしいよ!私の言えた義理じゃないけど、二十五人も嫁を侍らせておかしいと思わないのか!


 でも、なんだか二十五人の王妃たちは顔色が悪い。ああ、私のお嫁さんと同じで、つわりがいちばんひどいときなんじゃない?見せ物にしないで大事にしてやりなよ…。ヴィアチェスラフ、比較的人格者だと思ってたのに見損なったよ…。子を産む母親のつらさは、きっと女性になってみないと分からないんだろう。私も二〇〇〇歳になって、父親から母親になれば分かるかな。




「ハンターギルドから、スタンピードが発生したため、出動要請が来ております」

「行くぞ、ユリアーナ、エッツィオ」


「「はい、お父様!」」


 デニスが執務室に駆け込んできた。執務室には私とセルーゲイとエッツィオくんだけ。エッツィオくんにも勉強がてら、仕事を手伝わせている。エッツィオくんはなかなか優秀だ。

 代わりに、お嫁さんたちとタチアーナはつわりがいちばん酷い時期なので、ベッドでごろごろしている。今回はお嫁さんたちの戦力はないのだ。



 デニスが御者をする馬車で現地に到着。人数は少ないが、基本的には私がいれば問題ないので、ハンターを雇っていないのは相変わらずだ。


 相手は三メートルの熊の大軍だ。熊は食べなくていいかな。


「壁を張りますので、お父様はかまいたちの嵐を、エッツィオくんは木を操るで」

「うむ」「はい!」


 二人にはいくつものオルゴールとメロディカセットを渡してある。


 出口に行くに従いつぼんでいる漏斗のような形の壁を張った。いつもの作戦だ。細い道を通ってくる魔物を、大技で一網打尽にするのだ。


 こちらへ到達する経路をすべて壁で塞いでしまうと壁を壊し始めるが、穴を開けておくと、それが狭くて一体ずつしか通れないにもかかわらず、律儀にその穴を通ってやってくるのだ。単純なAIで助かる。


 この作戦だと木魔法使いは必須じゃない。仮に通れないように壁を立てた場合、木を操るで作った木のお化けが壁の外側にいると、壁を壊そうとする魔物を阻止するのに使える。もちろん、今回の作戦でも、私たちの元に魔物が到達するまでに魔物の数を減らすのに貢献してくれる。


 ちなみに、大群に対してセルーゲイにかまいたちの嵐ばかりやらせていては魔力が足りないので、私もしっかり粒子レーザー砲とかで数を減らしたよ。


 

「ふう、終わりましたね。エッツィオくん、よくできましたね」

「うむ。到達前に数を減らしてくれて助かった」


「ありがとうございます!お姉様方の指導のたまものです!」


 エッツィオくん…、純粋で良い子に育ったなぁ。




★ユリアナ十六歳(エッツィオ十歳)




 さてさて、私たちが学園を卒業して二ヶ月。春がやってきた。そんなエッツィオくんは十歳になり、学園に入学するのだ。


「父上、母上、行って参ります」


「ああ、同級生とうまくやるのだぞ」

「可愛い子を捕まえてくるのよぉ」


「お姉様方、行って参ります」


「エッツィオは優秀だから心配ないわね」(アナスタシア)

「旧カリキュラムの魔法は八割終わってるしね」(マレリナ)

「教養も剣術も王族レベルですわ」(スヴェトラーナ)

「私より頭いいもん」(マリア)

「可愛い子いたら紹介してね」(ブリギッテ)

「珍しい魔道具を持っている子だいたら教えてください」(セラフィーマ)


 学園に何しに行くんだって?勉強や魔法なんて私たちが面倒見てたから余裕なんだよ。本来、学園はかっこいいところ見せて、可愛い女の子をゲットする場なんだよね。でも、私たちの代の女の子は王子と私が全部お持ち帰っちゃったからね。おこぼれ目当てで男子の数も多かったのに、誰一人お相手をケットできず…。


 王子のいない学年は、せいぜい五人か六人だ。この国の貴族家の数は二十三しかないのだ。ほとんどの貴族家は王子と同じ代に合わせて子をもうけるので、他の学年にはちらほらとしか子供がいないのだ。あ、貴族家は十九に減ったんだった。


 エッツィオくんは王都邸から通う。というか、王都邸の廊下にはスイッチ一つでマシャレッリ領の屋敷の廊下につながるワープゲートを設置してあるので、王都邸経由でマシャレッリ領に帰ってくる。便利な世の中になったものだ。



「それではエッツィオくん、行きましょうか」

「はい。ユリアーナ姉様」


 十センチヒールを履いた私とエッツィオくんの背丈は同じくらいだ。うーん。私って成人したんだけどね。

 私とエッツィオくんはワープゲートで王都邸に赴き、そこから馬車で学園へ。


 私は学園を卒業したのに、何しに行くのかって、それは娯楽音楽と芸術音楽の教師だよ。学園の生徒として在籍していたときにも教師をやっていたんだ。卒業しても継続だよ。

 今までは自分の学年しか見ていなかったけど、これからは全学年見るんだ。人数が少ないから合同レッスンだけどね。


 それに、今年の後期から娯楽音楽と芸術音楽を分けるのだ。娯楽音楽は楽しければよし。芸術音楽は演奏技術や表現方法を学ぶのだ。


 学園の教師というのは、家を継がなかった元貴族がほとんどだ。私のように貴族当主が教師をするのは珍しい。でも、音楽を広めるのは私の使命だから、領地の仕事の時間を割いてでも教師をやるのだ。


 とはいえ、初日は学長のありがたくない話と魔力検査だけだ。ちなみに、ルシエラの知識によって全属性対応の魔力検査具を作れるようになったので、二つ寄付しておいた。私が壊した分の埋め合わせだ。まあ、四十人もいないから、十年後の嫁ドラフトまでは一つあればいいんだけど。


 学園に到着すると、エッツィオくんと分かれて、私は教師陣と顔合わせ。今年から正式な教師になるけど、まあ何年も付き合ってるし今さらだ。


 私は仮にも貴族当主なので、魔力検査なんて雑用をしたりはしない。エッツィオくんの同級生にどんな子がいるのか知りたい気持ちもあるけど、今はお嫁さんたちが妊娠中のため、仕事が忙しいのですぐに帰った。



「ただいま戻りました」


「お帰りなさぁい、エッツィオ」

「魔力検査はどうだった?」


 魔力検査具は私が作れるのだ。とうぜん屋敷で測っている。セルーゲイが気にしているのは周りの子との差だろう。


「検査具が誰よりも強い光を放ち、木の魔力が王族級だと言われました」


「うむ。結構だ」

「よく頑張ったわね~!」


 第二子というのは、第一子に比べると、魔力の期待値が九割に落ちる。それでも、私たちが養女になったときからエッツィオくんは厳しい魔力訓練に耐え、大きな魔力を手に入れたのだ。

 優秀な木魔法使いのエッツィオくん。エッツィオくんが女の子だったら私がもらってあげるのに…。

 おそらく他領に女当主になる子なんていないだろうから、エッツィオくんが婿入りすることはないだろう。マシャレッリ領に立派な屋敷を建ててあげるから、良いお嫁さんをお持ち帰って、マシャレッリ領で末永く働いてね!




 数日後、私の初めての授業が始まった。まずは娯楽音楽からだ。私は壇上に立ち、教室を見回す。教壇が少し高くて私は埋もれ気味だ。まあ小学生先生なのでお約束だ。


「おはようございます。娯楽音楽の教師を務めるユリアーナ・マシャレッリです」


 六学年合同の授業で、一つの学年に五人か六人。合計で三十五人の生徒がいる。ただし、私たちの学年の下の代は、王子の嫁ドラフト補欠みたいな位置づけだったので、七人の生徒がいて、そのうち五人が女子だ。

 とはいえ、私たちの学年より他の学年の生徒合計人数が少ないんだな…。王子の嫁ドラフトってなんなんだよ…。私たちは一学年で一つの寮の一棟を占有してたけど、他の学年は全学年で一棟らしいよ。


 まあ、他の学年のことはぼちぼち覚えるとして、エッツィオくんの学年は全部で六人。

 カルーロ・スポレティーニ子爵令息。淡い赤髪。エンマの弟くんか。いじめっ子じゃないといいな。

 ヴァレーリア・フェッティ子爵令嬢。淡い黄色髪。オフィーリアの妹だ。夜這いしないよね?

 ロレンツォ・ジェルミーニ男爵令息。淡いオレンジ髪。ジェルミーニ男爵はまた養子を取ったのか。今回は王位簒奪じゃなくて継承者育成だよね?

 アンジェロ・コロボフ子爵令息。淡い青髪。私の育った村のあったコロボフだ。コロボフ家って、私の学年にいなかったなぁ。今気が付いた。

 フランチェスカ・マラカルネ侯爵令嬢。濃い水色髪。私の学年になかった家名だ。


 男子が多いな…。倍率高いな。大丈夫かな。エッツィオくん。まあ、せっかく全学年合同なんだから、他の学年の子に手を出してもいいしね。


 この教室には学年別に六列の席が並んでいる。壇上から見ていちばん左の列にエッツィオくんたち一年生六人が並んでいる。その次に二年生、三年生と続いて、最後が六年生だ。

 色見本のように属性順に並んでいた私たちの学年とは違うね。色はめちゃくちゃだ。濃さは、一応濃いのが前にいるけど。つまり、上級貴族が前にいるのは変わらないということだ。


 六年生は、嫁ドラフトに選ばれた三人が抜けて残り七人だ。三人は結婚するから中退したらしい…。王族の結婚観は私には分からない。



 私が壇上で生徒の顔ぶれを眺めていると、ひそひそ話が聞こえた。


「(平民上がりの養子が紛れ込んだようだ)」(カルーロ)

「(なあにぃ?あれも一年生かしら)」(ヴァレーリア)

「(髪に色が付いてないぞ)」(ロレンツォ)

「(可愛い…)」(アンジェロ)

「(魔力なしが学園になんの用かしら)」(フランチェスカ)


 一年生がひそひそ話をしているけど、私の地獄耳には全部聞こえてるよ。悪意センサーにバリバリ反応してるんだけど…。


「(やめてください。あれはマシャレッリ侯爵です。ボクの姉上です)」(エッツィオ)


 はぁ…。私って一年生の時から身長が伸びてないんだった…。ヒールで背伸びしてるけど、せいぜい十二歳相当…。でも十歳には見えないほど胸とお尻は大きいんだけどね…。ああ、エルフであることを晒せばいいのかな…。それはまたエルフに差別意識を持ってるヤツがいたらイヤだしなぁ…。

 ここはいっちょかましてビビらせてやるか…。


「(おまえの姉は魔力ナシか)」(カルーロ)

「(姉上は全ぞ……、命属性のすごい魔法使いなのです!)」(エッツィオ)


 エッツィオくん…、全属性って言おうとした…。っていうか、エッツィオくんに言われなければ、派手な雷魔法かましてるところだった…。


 どうしよう…。私、外見でなめられまくり…。ロリ先生って萌えキャラとしてはよくあるじゃん!だけど、この世界に萌えはないのかな…。普通の女の子の感覚からすれば長身で大人なスヴェトラーナが憧れなんだろうな。


 息子のアンジェロが私にたてついてきたということでコロボフ子爵領への支援を打ち切ってもいいんだよ!お母さんのいないコロボフ子爵領に利率ゼロの移動販売車をやる必要はない。今まで安かったのに急に値上げしたり支援を打ち切ったりしたら反感を買うから、やめられなくて困ってるんだけど、これを口実にやめてもいいんだけど。

 待って…。アンジェロは私のこと「可愛い…」って言って頬を赤らめてるじゃん…。アンジェロだけたてついてないじゃん。まあ、コロボフにはレナード神父様がいるから、うまいものを届けるのは続けてあげてるけど…。


 それにしてもなんで六年前と同じスポレティーニ子爵家風情のクソガキは私にたてついてくるんだ…。


 私がもんもんとしていると、カルーロのクソガキが筆を投げつけてきた。私の顔に当たるコースだ。女の顔に傷を付けるとはけしからんやつだけど、とりあえず、私は何食わぬ顔で、人差し指と中指に筆を挟んでキャッチした。


「おっと、手がすべ…あれ…」


 当たると思っていた筆を私がキャッチしたものだから、面食らってしまったようだ。


「これはあなたの落とし物ですか?ダメですよ。筆を握る力もないのですか?」

「うるさい!平民上がりがいい気になってるんじゃない」


 姉と同じことを言いやがる。プライドだけの伝統貴族か?


「たしかに私は平民上がりですが、今では侯爵ですよ」

「学園は身分に関係なく学べる場所だ!」

「ダブルスタンダードですか?それなら平民上がりの私とあなたは同じですね?」

「このガキがぁ!」


 カルーロは席を立ち、拳を振り上げて私に襲いかかってきた。矛盾を指摘されて逆ギレするなんて、どっちがガキだよ…。


 戦闘力、権力、財力、私は何もかもコイツの上だ。力でねじ伏せるのは簡単だ。だけど、私はここにいる生徒たちに楽しい音楽をやってほしくてここに立っているのに、恐怖で支配なんてしたくない…。洗脳や記憶操作もしたくない…。エルフの村ではめんどくさくてやっちゃったけど…。でも、見た目や育ちを否定してくるやつって話が通じないんだよね…。


 私はカルーロの拳をひょいっとよけた。カルーロは外れると思っていなかったのかバランスを崩して、そのまま壁に激突。


「いってえええ、何すんだ!」


 おでこに大きなたんこぶができていた。何すんだって…、自爆じゃん…。六年前、私をどつこうとしてバランスを崩した姉のエンマとそっくりだな…。


「何もしてませんし…。はぁ…」


 私は背中のハープを取り、治療魔法を奏でた。


「痛くない…」

「私はこれでも命魔法使いなんですよ」

「魔力なしの平民じゃ…」

「私の髪は()()()()灰色ですから、命魔法使いです」



「せんせーい、バカはほっといて授業をしてくれませんか?」


 と言ったのはヴァレーリア。つるんでるというワケじゃないのか。そっか…、生徒も一枚岩ではないのか。

 他の学年はどうだろう。悪意センサーは誰が悪意を発しているかまでは分からないんだよね。しかたがないので、私は先ほど治療魔法を唱えたあとそのまま抱えているハープを奏でて、教室の皆の心を読んだ。


 二年生から五年生はまったく反感がないわけじゃないけど比較的おとなしい。ここで教育を受けているからね。

 でも問題なのは一年生と六年生だ。一年生はまあ、これからしつけていくしかないのかな…。


 六年生のうち五人の女子は、嫁ドラフトに落ちてしまった子たちだ。すごくふてくされている。それに、私の学年の三十人のうち十九人もの女子が嫁ドラフトに選ばれたのを知っていて、私がその十九人に入れなかった出来損ないだと思っている。自分のことを棚に上げて何を考えているのか。それに、私は辞退したのだし。


 エッツィオくんの心も伝わってきた。


『ユリアーナ姉様が困ってる…。ボクがなんとかしなきゃ…』


 良い子だねえ…。私はそのままハープを奏でて、エッツィオくんに考えを送った。


『二人でお花の歌を演奏しましょう』

『ユリアーナ姉様?分かりました』


 エッツィオくんは、合意の上で考えを送る魔法だと思ってくれている。ごめん、かってに心を読んじゃった。


『一、二、三、はい』


 ぽんぽん……♪

 ぽんぽん……♪


 私は壁のそばでもたもたしているカルーロを無視して、ハープを弾き始めた。


「ちょっとあなた、なにかってに弾き始めてるのよ」(ヴァレーリア)

「これって巷で流行っている娯楽音楽ね」(フランチェスカ)


 だからその娯楽音楽の授業なんだってば。

 だけど、みんな最後までお花の歌に聴き入ってくれた。


「これはお花の歌というのですが、聞いたことがありますか?」


「姉上が弾いていたのを聞いたことがあるな」(カルーロ)

「お姉様が弾いてるもの!」(ヴァレーリア)

「知らないな」(ロレンツォ)

「弾いてる姿も可愛い…」(アンジェロ)

「初めて聞いたわ」(フランチェスカ)


「(ざわざわ)」(他の学年)


 まだ心を読む魔法を継続しているけど、二年生から五年生には聞いたことのある人が多い。とくに三年生から五年生には、私の学年の兄弟姉妹が多いようだ。逆に六年生にはほとんどいない。


 私の学年では養女が多かったけど、王子の学年に合わせて子をもうけた家も多かった。その第二子が二年から四年下の学年に多いのは納得だろう。


 ちなみに第二子以降の魔力と属性数は、両親の平均に対して低くなる。第二子は九〇パーセントなのでほとんどの貴族家では第二子をもうけるが、第三子は五〇パーセントだ。魔力はともかく、属性数の期待値が五〇パーセントということは半分の確率で魔法使いではない子が生まれてしまうのである。そうなると、他の貴族家への嫁入りや婿入りはできなくなってしまうため、第三子をもうけない貴族家は多い。

 マシャレッリ家は第三子が生まれそうだけどね。



 それはさておき、私の同級生の妹、弟は音楽を聴いたことのある者が多いようだ。聴いたことのある者がまったくいなくて、何それ?状態になったらどうしようかと思っていた。


「それでは楽譜を配ります」


 私はお花の歌の楽譜を配った。


「これはこの曲の楽譜です。二年生以降はすでに魔法の授業でやっていますね。一年生もそのうち魔法の授業でも習います。楽譜を読めるようになっておくと、魔法を覚えるのが楽になりますよ。

 線が十三本引いてあります。まるの位置とハープの弦が対応しています。これを十三線譜といいます。その下にも五本の線が引いてあって、同じようにまるが描いてあります。これを五線譜と言います。この二つは同じことを表していて……」


 この世界の魔法音楽のために私が定義した十三線譜と、地球の五線譜の楽譜が描いてあり、


「それから、その下には歌詞が書かれています。本当なら『花が咲いた、綺麗だわ♪』というふうに、メロディを言葉で……」


「今、声で音楽を奏でたぞ…」

「聞いたことがあるわ。ユリアーナ様は声で音楽を奏でる、『歌う』ってことができるのよ」


 カルーロとヴァレーリアが驚いている。この世界では歌っただけで驚かれちゃうんだよな…。

 それにしても、「歌う」という言葉は私が作った造語なのだけど、広まっているみたいだね。


「ユリアーナ様の声って素敵ね…」


 フランチェスカがうっとりとしている。称賛してくれるのは嬉しいけど、あいかわらず私は可愛いアニメ声で歌っているのに、返ってくる言葉は素敵とか美しいなんだよね。


 心を読む魔法をかけっぱなしなのだけど、私の歌を好意的に感じてくれている子が多い。私の声は魅了魔法ではないよ…。みんなを魅了とか洗脳で懐柔するつもりはないんだよ…。


「歌詞については、こういう情景を表す曲だと思っていてくれれば、今はそれ以上気にする必要ありません。では楽譜を見て、最初の音は……」


 カルーロは自分の席に戻って、ハープの弦の最初の音を探し始めた。むふふ。真面目にやる気になったか。


 不本意だけど、一年生から五年生は私の声に魅了されてしまったようだ…。男子も女子も一部の子が私に惚れちゃった?私の学年で授業中にみんなの心を読んだことはなかったんだけど、もしかしてひと目惚れならぬ、ひと耳惚れしてたのかな…。


 でも六年生がダメだね…。ハープを弾こうとしない。王子の嫁ドラフトに落ちて中退できなかったのがこたえているみたいだ。私が王子の嫁ドラフト脱落者だと思われており、なめられていることも大きい。私が辞退したことを話しても言い訳にしか聞こえないだろうし、マザーエルフが二〇〇〇歳まで子供ができない事情を話すこともできない。

 人生の負け組になってしまったところ、少しでも気晴らしになればいいんだけどね。そんな気持ちにすらなれないか。


 まあ、教室のほとんどが敵対心むき出しだったのが、八割がた好意的になってくれたみたいだから、初日の成果としてはよしとしよう…。


 はぁ…。忘れてたよ…。私のクラスも最初は険悪な雰囲気だったもんな…。でもあれは、女子全員が王子の嫁の座を狙って周りは全員ライバルだったからギスギスしてたのかと思ってたけど、ここにいる子たちはべつにライバルでも何でもないだろうに、なんでこんなにツンケンしてるんだ。そういえば魔法使いってもともと連携したりしなかったというし、貴族というのは本来出し抜きあいする生き物なんだね…。世知辛いね…。平民相手のが楽だなぁ…。




 授業が終わってエッツィオくんと馬車で帰ろうと思ったら、


「ユリアーナ様、ご無沙汰しております」

「あ、ごきげんよう、えっと…」


 えっと、黄緑色で背の高いこの子はたしか、五年生の…エドアルド・フョードロヴナ公爵令息…ってスヴェトラーナの弟くんじゃん!ご無沙汰?会ったことあったっけ…。あ…、フョードロヴナの王都邸にお邪魔したときに会ったのかな…。あのときはスヴェトラーナと初めてお風呂に入ることに気が動転していて、記憶が曖昧で…。声変わりしてるだろうし、顔も覚えてない…。


「えっと…、エドアルドさんでしたね」

「覚えていてくださいましたか」


 覚えていませんでした。名簿の名前を思い出しただけです。


「今日は素晴らしいお時間をありがとうございました」

「いえ、学生の統率に時間を要してしまい、無駄な時間を取らせて申し訳ないです」

「やる気のない者は放っておけばよいのです。この学園では学ぶも学ばぬも自由です。学ばぬ者は後で困るだけです」

「そうなのですがね…、私はできれば皆さんに音楽を楽しんでいただきたくて…」

「ユリアーナ様は変わっておられる。他の家の者など蹴落とせばよいのです」

「うふふ、それでは教師は務まりませんよ」

「それでは学ぼうとしている者たちの時間がもったいないです」

「今はやる気のない者でも、できるだけ多くの者をやる気にさせたいので、もうしばらくお付き合いください」

「しかたがありませんね。それでは失礼します」

「ええ、ごきげんよう」


 父親のウラディミールに似ているね…。利用するものは利用する、役に立たないものは切り捨てる、という感じがひしひしと伝わってくるよ…。



 それからエッツィオくんと馬車で王都邸に戻り、王都邸の廊下からワープゲートでマシャレッリ領の屋敷に帰った。


 今お嫁さんはつわりのまっただ中なので余計なストレスをかけたくない。私とエッツィオくんは今日の出来事を胸にしまい込んで、次の授業ではもっと仲良くなれるといいなと希望をいだいた。




 二回目の授業が始まる前に、私は同期の王妃十九人への面会を申し入れた。王妃ーズは身ごもっているので普通は謁見や面会に応じない。でも私からの申し入れということで、受け入れてもらえた。


「ごきげんよう、王妃様方…」

「「「「「ごきげんよう…、ユリアーナ」」」」」


 学生時代は貴族令嬢、貴族令息は家格にかかわらず様付けだった。だけど、みんなは王妃になり、私は貴族当主だ。みんなは私を様付けで呼んだりしない。


 王妃ーズは、私のお嫁さんと同じで、つわりのまっただ中。一応お茶会という体だけど、王妃ーズはカップのお茶が進まない。


「身重のところ申し訳ございません」


「ホントよ。もう少し待てなかったのかしら」


 元スポレティーニ子爵令嬢のエンマ王妃。

 これはツンデレだ。顔に「もう少し早く会いに来られなかったのかしら」と描いてある。王子の嫁になったのに、私への恋心が抜けてないのか…。

 そういえば、初代キーボードを借りパクされたままだ…。


「せっかく来たんだから、ついでに演奏していきなさいよ」


 元ベルヌッチ伯爵令嬢のパオノーラ王妃。

 これもツンデレだ。せっかくとかついでとかじゃなくて、私の歌を聴きたくてしょうがないみたい…。

 って、パオノーラにもドラムを借りパクされたままだね。


 今日は演奏するために来たわけではないので、私のキーボードは異次元収納の中なのだ。お嫁さんに渡した結婚指輪の機能の一つである異次元収納をバッグにした魔道具を売り出す予定なので、それが認知されれば、私はいつでも異次元収納を使えるようになる。だけど、まだその限りではないので、せっかくだから、


「それではお二人のキーボードとドラムを使わせてください」


 貸してとは言わない。私のだから。だけど、この二人は自分のものだと認識しているだろうから、返してとか言うと不満が出そうなので、そうは言わない。


「いいわよ」「ええ」


 というわけで、二人がメイドにキーボードとドラムを取ってこさせ、私は演奏することに。


 ぽんぽん、……♪(キーボードのハープ)

 ドゥドゥドゥ、……♪(ベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ……♪」


「ふん、まあまあね」

「楽器だけ聞くよりは良いわね」


 エンマとパオノーラはツンデレが板に付いてきたなぁ。顔はうっとりとデレてるのに、言ってることがツンだね。


「いつ聞いても素敵…」(エリミーナ)

「卒業してもユリアーナさ…んの歌を聴けるなんて」(アルメリア)

「綺麗な声ね…」(ベアトリス)

「学園生活が懐かしい…」(キアーラ)

「またみんなで演奏したいわ」(エレオノーラ)

「どうしてユリアーナさ…んが王妃じゃないのかしら…」(オフィーリア)

「またユリアーナ様と一緒にすごしたい…」(ヘレン)

「またユリアーナ様に抱かれたい…」(テレサ)

「ユリアーナ様…」(エレノーア)

「「「「「(ざわざわ)」」」」」(その他同期)


 ちょっと、不穏なセリフもあったよ。ここにはメイドもいるんだから、めったなことを言わないでほしい。


「そうそう、今日は王妃様方に献上するものがございます」


 妊婦の味方、フルーツバスケット。メイドに皮をむいてもらって、メイドが一口毒味。そんな仰々しいシステム、あったんだね…。魔物討伐訓練でヴィアチェスラフがどうしてたかなんて見てなかったよ。


 でも私のお嫁さんたちと同じで、みんなすんなり喉に通ったみたいでよかった。


「それでですね、本日お邪魔したのは……」


 果物で王妃ーズの口を塞ぎ、やっと本題に入れた。おまえらの妹、弟をなんとかしろと。


「ふん、カルーロはスポレティーニを継ぐのに、流行に疎いようじゃダメね。呼びつけて叱っておくわ」


 エンマの弟、カルーロはつっかかってきたけど、最後のほうは比較的まともにハープを弾いていた。エンマからいってもらえることで、より丸くなってくれればいいな。


 他の王妃ーズの多くに在学中の妹、弟がいるので、説得してもらえるようにお願いした。



 ちなみに、王妃を派出した家にはいろいろと便宜が図られる。国家運営に関する発言権を与えられたり、領地運営資金を工面してもらえたり。だけど、二十五人もいるのだから、一つの家の発言権や資金工面はだいぶ割合が少ないみたいだ。やっぱり二十五人も娶るなんてどうかしてるのでは。


 だいたい、二十五人ってこの国の貴族家の数の二十三よりも多いじゃん。そのうち、私たち七家は入ってないから、えっと、どれだけ重複してるんだ…。王妃を二人送り込んだ家は発言権と資金のウェイトが高いのかな…。まあいいや…。知らない…。




 二回目以降の娯楽音楽の授業では、王妃ーズに説得してくれるように頼んだこともあって、一年生から五年生はすぐに真面目に取り組んでくれるようになった。むしろ、音楽を楽しんでくれている。王妃ーズの弟妹でない子たちもつられて良い雰囲気になってきた。

 フョードロヴナ家のエドアルドくんは取りなす手伝いをしてくれはしないけど、邪魔をすることもしない。あくまで中立のようだ。


 だけど、六年生は自暴自棄になっていて、やる気になってくれない。私の代の一つ下に当たる六年生には、王妃ーズの弟妹がまったくいないため、説得する人もいないのだ。

 魅了とか洗脳でどうにかしようとは思わないけど、解決に導けるように心を読む魔法は続けている。


「あなたたち、これは授業なのですよ。日頃の態度も成績に影響するのですよ」


 六年生の女子五人と男子二人に発破をかけた。


「チビがうるさいのよ!」

「なんで平民上がりが教師なのよ!」

「もう選考は終わったし、成績を上げる意味がないじゃない!」

「こんな授業で良い成績とってもしょうがないのよ!」

「魔法にもならない音楽が何の役に立つわけ?」


 たしかにみんな標準体型で一六〇センチくらいあるのにたいして、私は一四〇センチのチビだけど…。

 音楽をやる理由…。人間性を豊かにするとか?説明できないな…。最初は楽しいから、でいいと思うけど、楽しんでもらえてないのなら意味が分からないだろうね…。


 男子はだんまりだ。男子としては女子たちに嫁ドラフト落ちに悲しみから立ち直って、早く自分に振り向いてほしいだけなんだ。


 この学園に留年制度はない。卒業後に悪い成績がついて回るだけだ。だけど、娯楽音楽の成績が悪いからといって、貴族家の名に傷が付くという日は来るのだろうか。




 さて、エッツィオくんは毎日学園に通うけど、私は週一だ。私は基本的に仕事をしている。


 今期もオーディションの二次試験の日がやってきた。今回はジョジョゼの母親とクレマノンの母親が合格。あともう二人、平民男性が合格になった。これで十人だ。レストランと二つの喫茶店に割り振るとしよう。


 演奏家はまだ利益を生まない仕事だ。まあ、地球でも企業お抱えの楽団とか利益があるのか知らないな。いや、私は貴族だから公共の楽団になるのか。パトロンになっているとも取れる。貴族が芸術家に資金援助するのは地球でもあっただろう。

 これはほとんど私の趣味なのだ。私がアニソン歌手になるための投資なのだ。


 三ヶ月後に第三回オーディションの一次試験をすることを公表した。合格の条件は音程とリズムを間違えないことと、歌詞のイメージにかけ離れた演奏をしないことだけなのだけど、いまいち分かっていない人が多いようなので、募集要項に念押しして書いておいた。



 音楽家の育成はこれに留まらない。各地の教会を回って子供たちに魔法を教えると称して娯楽音楽もやらせている。マシャレッリ、フョードロヴナ、ロビアンコは順調だ。アルカンジェリとジェルミーニは少しずつ木琴を買い与えている。他の周辺領地では教会の予算だけでやっているので、木琴の購入があまり進んでいない。


 マシャレッリとフョードロヴナ、ロビアンコでは教会で音楽と魔法以外の読み書きも教えている。魔法使いなら将来貴族の養子に取り立てられる可能性があるから、教養を身につけておいて損はない。私とマレリナも教会でいろいろ勉強したしね。

 そのうち地理や歴史、礼儀作法なんかも取り入れよう。




 夏がやってきて衣替えをした。私の身長は伸びないけど、胸は大きくなるのでそろそろカップのサイズをやり直した方がいいかもしれない。


 演奏家オーディションの一次試験を行った。今回も数百人が集まったけど、だんだんみんな上達しており、リズムと音を間違う人が少なくなって、三十人も残ってしまった。夏休み明けの二次試験の基準を上げなきゃいけないかも。



 六年生の取り込みがろくにできないまま前期が終わりつつある。娯楽音楽の授業は試験だけでなく日頃の授業態度も成績に加味する。授業態度といっても、真面目に取り組んで楽しんでくれれば満点なのだけど、六年生はまったくやる気がない。

 一年生から五年生にはだいたい満点を付けたけど、六年生にはほぼ零点を付けざるを得なかった。


 学園が休みに入ったからといって、私はサボれるわけじゃない。その分、他の仕事をするだけだ。学園の授業がある期間だろうと領地の屋敷に帰れるし、社会人に夏休みなどないのだ。この世界には盆休みや正月休みすらない。

 私がアニソン歌手になるための道のりとはいえ、音楽家育成から始めるのは大変だなぁ…。


 お嫁さんたちは妊娠六ヶ月。そろそろおなかが出てきた。とくにアナスタシアとマリアちゃんは小柄なのでおなかが目立つ。逆にスヴェトラーナとブリギッテは爆乳に隠れてしまいおなかの出っ張りはあまり分からない。


 少しずつ食欲も回復してきた。順調なのだけど、マリアちゃんくらいならともかく、アナスタシアの体格で子供を産むのは大変だろう。何か手を打っておかないと。


 そこで、エコー検査ならぬ透視検査をやってみた。エコー画像やMRIみたいな白黒ではなく、灯りの魔法も併用すれば体内を切り開いたときのように見ることができる。被爆もないし安心。

 さらに、思い浮かべたものを紙に印刷する魔法を組み合わせて出力することもできれば、思い浮かべたものを投影する雷魔法でプロジェクタのように出力することもできる。カラーMRI映像を見せて、お嫁さんたちに順調に育ってますねー的なお医者さんごっこをしたのだけど…、


「真っ赤よ!怪我をしてるんじゃない?やっぱり小さな私が赤ちゃんなんてムリなのよ…」

「いえ、赤子というくらいなので、最初は赤いのよ」

「そうなの?大丈夫なのね?」

「ええ」


 アナスタシアが取り乱したのでなだめた。


「これが赤ちゃんなのですわね…」(スヴェトラーナ)

「これが人間のように成長していくなんて信じられません」(セラフィーマ)

「うえぇ…」(マリア)

「エルフも人間も最初はこんな魔物みたいなのか…」(ブリギッテ)

「…」(マレリナ)

「人間の身体の中を覗くとこんな風になってるんじゃの」(ルシエラ)


 体内のリアルな映像なんて見せるものじゃないか…。みんな汚いものを見るような目だ。しばらくお肉を食べられないかも…。どうせつわりで果物しか食べてないけど。何が何だか分からない白黒のエコー画像の品質でよかったかな…。


 とりあえず、一人一人赤ちゃんの映像を見ていった。最後はルシエラの番だ。


「今動いたのではないか…」

「そりゃこんなのでも赤ちゃんだから動くでしょ」

「そうではない。わらわの産む子には魂が宿らぬはずじゃ…」

「あっ」


 マザーエルフが産む子はマザーエルフが魂を移し替えるための依り代だ。どこにも障害がなくても植物人間のような状態で生まれてくるという。


「まあ、きっと脊髄反射だよ…」

「なんじゃそりゃ」

「ふんふん…♪」

「ぎゃー」


 心魔法で知識を送った。


 それにしても、ルシエラは私に子をくれとうるさかったのは、依り代が欲しかったのか…。子供が欲しかったんじゃないんだね…。どうせ遺伝子同じなんだから、自分でできただろうに…。

 でも第二子だから魔法の属性が減っちゃうんじゃない?



 その後、農村に住むナタシアお母さんの様子も見にいった。カラーMRI映像をプロジェクタで映すのはやめておいた。




 夏も真っ盛りのある日。


「蹴りましたわ!」


 スヴェトラーナの胸よりもはるかに引っ込んでいるおなかの中の子が蹴ったらしい。


「わらわの子も蹴った…」

「それは脊髄反射じゃないかも…。あ、心を読んでみればいいかな」

「そんな手があったか」


「ふんふんふん……♪」「ららら……♪」


 私とルシエラの声がハモった。ルシエラのおなかの中の子の心を読んでみた。体内で脚を動かしたりおなかの壁に当たったりする感覚が伝わってくる…。


「これはもしや魂があるのかな?」

「そうかもしれぬ」

「私が授けた子だから?」

「わからぬ。こんなのは初めてじゃ。そうか…、おまえはわらわではなく、わらわの子なのじゃな…」


 ルシエラは依り代がなくなって残念なのではなく、おなかの中の我が子を慈しんでいるように見える。普通の子ができてよかったね。


 ところで、ルシエラは当然のように私のお嫁さんに混ざっているのだけど、いつ帰るのかな。




 学園の後期が始まった。今期から娯楽音楽とは別に芸術音楽の授業を始める。午前に芸術音楽、午後に娯楽音楽をやるのだ。


 芸術っていってもまずは音程とリズムを間違えない技術が基本で、それから歌詞に合わせて抑揚を付けるようにしていく。とはいえ、魔法使いは基本的に音とリズムを間違えないように弾くので、注意すべきは延ばす音と休符の違いくらいだ。魔法音楽は決まったときに決まった音が鳴り始めればよいので、音の長さが適当でいいのだ。でも、芸術音楽ではちゃんと長さを守ってもらうよ。


 一年生から五年生はすなおに従ってくれるようになった。でも六年生がとにかくやる気ないね…。いつまでもうじうじしてないで、周りの男子に目を向ければいいのに。



 そして、演奏家オーディションの二次試験だ。三十人も見るのは大変だったけど、マシャレッリスタッフの男女二人と平民男女二人を採用して、演奏家は合計十四人になった。




 お嫁さんたちの出産は秋に入った頃になる予定なのだけど、アナスタシアがそろそろマズい。七歳の体格のアナスタシアのおなかに、わりと普通の大きさの胎児が入ってるっぽいので、おなかがぱんぱんだ。治療魔法をかけても圧迫は治らないので苦しそう。パワードスーツで体力を付けたからここまで来られたけど、本来アナスタシアは子供を産める身体ではなかった。祝福や治療魔法で子供を産めるようにしただけだ。


「アナスタシア、もう赤ちゃんを出しちゃいましょ」


 アナスタシアをお姉様って呼ばないのは違和感がある。


「えっ、そんなことできるの?」

「ええ」

「お願いするわ…」

「任せて」


 この世界に帝王切開なんてものはない。腹にナイフを入れるなんて死亡確実だ。だけど私には雷魔法によるレーザーメスがある…。切ったそばから治療魔法をかけることもできる。


 私は木を操るで木をベビーバス状に整形して、その周りに蜘蛛の糸の生地をまとわせてふかふかにした。


「ふんふん……、ふんふん……、ふんふん……♪」


 ベッドに仰向けになったアナスタシアを、五人のお嫁さんとルシエラ、タチアーナが見守る中、私は数々の魔法を口ずさんだ。

 母体と赤子に祝福、安産祈願、健康祈願。自分の時の流れの加速。ベビーバスに木魔法のウィルス・菌除去。

 透視と灯り魔法で胎児を確認。レーザーメスでへその緒を切断。治療で母体と赤子のへその緒、母体の胎盤を治療。胎盤とベビーバスを繋ぐワープゲートを設置。赤子を念動でワープゲートに通す。まばゆく輝く、少しくすんだ黄金の髪の赤ちゃんたワープゲートから顔を出した。

 赤子の気道と母体の中の羊水を霧状にして乾いた風で消滅させる。赤子に命魔法のウィルスと菌を除去。母体と赤子の治療。赤子の気道に酸素を送り込む。


「おぎゃあ、おぎゃあ!」


 時の流れの加速を解いてないのでとてもゆっくりに聞こえるけど、産声を確認。怪我や病気はなさそうだけど、九ヶ月で取り出してしまったので少し小さい。アナスタシアのおなかがゆっくりしぼんでいく。七歳相当のアナスタシアによくこれだけの赤子が入っていたものだ。


「えっ、もう生まれたの?」


 アナスタシアは引っ込んで軽くなった自分のおなかを見下ろして、目を丸くしている。


「まあぁ~」(スヴェトラーナ)

「えっ、いつの間に?」(ブリギッテ)

「そんなのあり?」(マレリナ)

「どういうこと?」(マリア)

「これがユリちゃんの産婆のやり方!」(セラフィーマ」

「私の孫よぉ!」(タチアーナ)

「そんな魔法の使い方、わらわは思いつかん…」(ルシエラ)


 三分かけて慎重に作業したけど、実際には十八秒しかすぎてない。もう時の流れの加速を解いてもいいかな。もし緊急事態が発生しても、赤子とアナスタシアの時の流れを回生して止めるか戻してやればいい。何度でもやり直せるし、死なせてしまう心配など全くないのだ。万が一未熟児すぎるなら、おなかの中に戻して成長をやりなおせばよい。


 魔法をフル活用したファンタジー世界の出産だ。文字通りおなかにメスを入れたよ。


「アナスタシアのおなかにワープゲートを作って、そこから赤ちゃんを取り出したのよ」

「私のおなかにワープゲート…」


 アナスタシアは引っ込んだおなかをさすりながら難しい顔をしている。おなかにワープゲートを入れたのは荒技すぎたかな?


 アナスタシアは起き上がり、おぎゃあと声のする方を向いた。ベビーベッドで鳴いているくすんだ金髪の赤子を見て、


「私の赤ちゃんなのね!」


 パァッと明るくなった。


 ちなみに、胎盤にいるときにワープゲートで魔力検査具を使って属性調査済み。火、雷、木、土、時、命、空間、聖の八属性持ちだ。私が十二属性でアナスタシアが二属性だから期待値は七なのだけど、それよりも一つ多い。魔力は私の半分くらいだ。確実にハイエルフだろうな。耳は少しだけ長い。十歳までに私と同じくらいになるのだろう。


 髪の艶はヴィアチェスラフをはるかにしのぐ。赤と黄色系の多い属性ラインナップだけど、青系も少なからず入っているので若干くすんだ黄金色の髪だ。

 おなかの中をカラー映像で調べたとき、赤子の髪の毛の色も分かったんだよね。そうなると、当然属性が気になるわけだ。これだけたくさん混ざっていると、髪の色から属性を当てるのは難しい。


「ええ、アナスタシアと私の子よ」


 私はベビーベッドの赤子を抱き上げてアナスタシアに渡した。前世で首の据わってないいとこの子を抱いたことがあるから、やり方はわかってるよ。


「あなたはアンジェリーナよ!」


 アナスタシアは自分の産んだ子を抱いて命名した。すると、アンジェリーナは安心したのか、泣き止んだ。


「私にも抱かせてぇ」

「はい、お母様」


 タチアーナはアナスタシアから優しくアンジェリーナを受け取った。


「可愛いわぁ~!アナスタシアに似てるわね~」


 タチアーナはハイエルフ級の爆乳にしてもらったので、胸が邪魔でアンジェリーナを抱きにくそうだ。アンジェリーナが胸に食い込んでいる。私みたいに窒息させちゃダメだよ。



 ドンドン。強めのノックの音。


「おい、もう生まれたのか?入ってよいか?」


 ドアの外からセルーゲイの声。


「お父様、入っていいわよ」


 慌ただしく入ってきたセルーゲイ。


「おおぉ!私の孫!」

「そうよ、アンジェリーナよ」


「抱かせておくれ」

「え~。私も今代わったばかりなのよぉ」


「おぎゃあ、おぎゃあ!」

「ほらぁ、あなたが騒ぐから泣いちゃったじゃなぁい」


「うう…、抱かせておくれ…」

「ほらあなたぁ、泣かないのぉ」


 孫の前でだだをこねるおじいちゃん。おじいちゃんっていったってまだ三十二歳なんだけど。三十二っていったってそれよりも若く見えるよねえ。

 セルーゲイが抱いているとアンジェリーナは眠ってしまった。


「さあ、お父様、次はユリアーナに抱かせてあげて」

「えっ、私?」

「そうだな。もう一人の母親だものな」


 そっか。そうだよね。なんだか実感沸かないなぁ。父親ってこんなものかな。

 私はセルーゲイからアンジェリーナを受けとった。あらためて見ると、アナスタシアによく似てる。私に似てるかはよく分からないな。でも可愛いなぁ…。これが子供かぁ…。


 私が抱いていたら目をパチっと開けて、口がタコのように何かに吸い付こうとしている。


「ねえアナスタシア、おなかがすいたみたいよ」

「あらそうなの?」

「はい」

「ええ」


 私はアナスタシアにアンジェリーナを渡した。


「さぁ、あなたは出ていってぇ」

「うぅ…、また抱かせておくれよ…」


 セルーゲイは渋々部屋を出ていった。


「このドレスとスーツじゃ、全部脱がないと母乳をあげられないわね…」

「そうね…」


 アナスタシアはいつもパワードスーツを着ているし、ドレスも胸元が開いてない。取り急ぎ、私のお古の夏のドレスのトップスを渡した。まあ、アナスタシアの胸は私と同じ大きさになっているので、ちょっと窮屈そうだけど、ペタッとくっつくタイプだから新しいのを仕立てるまでのつなぎになるだろう。


「このドレス、便利だけどとても恥ずかしいわ…。ほとんど裸じゃない…」

「アナスタシア、可愛いわよ」

「もう…」


 アナスタシアはぺったんこだったので、胸を見せるなんて考えたこともなかったみたい。

 ドレスは手でぺろんと剥がせば簡単に授乳モードにできる。アナスタシアには乳腺の育つ魔法をかけてあるので、ちゃんと母乳が出るようだ。アナスタシアはアンジェリーナに母乳をあげられて幸せそうだ。アンジェリーナは一ヶ月早産だったので、どんどん飲ませてあげないとね。


 アナスタシアに薬効、というか栄養価が上がる魔法をかけたら、母乳の栄養価が上がるのかな…。そういう遊びは女盗賊を捕まえたときにとっておこう…。




 それから一ヶ月くらいして、


「うぅ…」

「スヴェトラーナ、陣痛が来たのね」


 痛い思いをしないに越したことはないので、アナスタシアと同じく魔法をフル活用したファンタジーな出産をした。


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「終わりましたのね!あなたはアレクサンドラよ!」


 起き上がってベビーバスに出てきた、くすんだ青紫髪の赤子を抱き上げるスヴェトラーナ。

 この子もおなかの中で魔力検査済み。火、水、風、心、時、命、空間、聖の八属性だ。また期待値より一つ多いよ。王家みたいに属性ガチャをやりたいわけじゃないけど、能力が増えるのは嬉しい。


 スヴェトラーナがしばらく抱いていると、アレクサンドラは泣き止んだ。


「ユリアーナ様も抱いて」

「ええ」


 この子は将来、スヴェトラーナと同じ優しい悪役令嬢になれるかもしれない感じの美人だ。やっぱり私と似ているかはよく分からない。

 私が抱いていると、アレクサンドラはまた泣き出した。


「おなかが空いているのかしら」


 私はスヴェトラーナにアレクサンドラを渡した。


「うふふ、わたくしのこの胸が役に立つ時が来ましたわね」


 スヴェトラーナは常に自分の胸を抱いているようなものなので、その奥に赤ん坊を抱くのは手を伸ばしたままにしなければならなくてやりづらそうだ。やっぱり大きい方が良く出るのかな…。アナスタシアも大きくなったから大丈夫だと思うけど。




 続いて、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「あなたはラティアです!」


 セラフィーマの子が生まれた。髪色はくすんだ赤。属性は火、雷、木、土、風、命、聖の七属性。

 セラフィーマは生粋の貴族のくせに、覚えられないからって短い名前付けやがった。レナード神父様が聞いたら平民臭いと言われそうだ。



 それから、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「あなたの名前はソフィアだよ!」


 マレリナの子が生まれた。髪色はくすんだ緑。属性は木、土、時、命、邪、空間、聖の七属性。



 それから、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「あなたはフィオナだよ!」


 マリアちゃんの子が生まれた。髪色はくすんだ赤紫。属性は火、水、風、心、時、命、聖の七属性。



 それから、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「キミの名はマルグリッテだ!」


 ブリギッテの子が生まれた。髪色はくすんだ橙色。属性は火、雷、木、土、風、時、命、聖の八属性。




 それから、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「ど、どどど、どうしたらよいのじゃ…」

「抱いてあげなよ。はい」

「あわわわ」

「もしかして何万人もの女の子を妊ませておいて、赤ちゃんを抱いたこともないの?」

「そ、そそそ、そんなことは…」

「もう、しかたないなぁ。こうやって首を支えて、包むように」

「こ、こうか…」

「そうそう」


 ルシエラは本当に初めて赤子を抱いたみたい…。マザーエルフで今まで父親しかやったことがなかったのかもしれないけど、父親だって赤子を抱くよね?

 でも、赤子を抱いた途端、ルシエラは子を慈しむ母親の顔になった。


「この子の名前は?」

「依り代にしようと思ってたから考えてないのじゃ…」

「もう…」


 とか言っておきながら、父親役の私が考えてもよかったんだよね。

 それにしても、自家交配する場合は魂のない子が生まれるけど、同じ遺伝子でも別の個体である私と交配する場合はちゃんと魂のある子が生まれるんだね。


「レティシアでいいかな」

「し、しかたがないの。それでよい。おぬしはレティシアじゃ!」


 レティシアの髪は私よりも明るい銀髪。属性は火、雷、木、土、水、風、心、時、命、空間、聖。十一属性だ。私とルシエラは十二属性なので、レティシアの属性数は十二の九〇パーセントで期待値一〇・八だったから、十一属性になってくれてよかった。

 邪だけない。他に持っている子がいるから、超レア属性というワケでもないのだろうけど。



 それからそれから、お母さんに渡しておいた通話の魔道具で陣痛が始まったと連絡を受けて、私はすぐさまワープゲートでお母さんの元へ飛んだ。


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「可愛い女の子ね!この子の名前はアリアにするわ」


 そりゃエルフは女しかいないのでね。私にはあまり似てないかも。お母さんに似ている。

 アリアの髪は少し明るめの銀。属性は火、雷、木、土、水、風、命、聖の七属性。

 耳が長く育つことを阻害して回生する発魔器機能を組み込んだ腹巻きを巻いてもらっていたので、アリアの耳は普通の人間サイズだ。髪の毛も灰色と言い切れないこともないけど、今や魔力持ちなんて教会にごろごろいるので、十歳になって成長が遅くなるまでは目立つこともないだろう。


 私はアリアに耳の成長を阻害するイヤリングの魔道具を付けた。耳が悪くなるわけじゃないよ。伸びないだけだよ。



 それから最後に、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「うふふ、男の子だわぁ!」(タチアーナ)

「この子の名はディミトルだ」(セルーゲイ)

「ボクに弟ができたのですね!」(エッツィオ)

「エッツィオもこんなだったかしら」(アナスタシア)


 タチアーナとセルーゲイの子はディミトル。私の子ではない。義理の弟だ。

 髪は淡い黄色。属性は雷だ。属性数が一であるタチアーナとセルーゲイの第三子の属性数は、期待値で〇・五。半分の確率で魔法使いではなくなっていたところだけど、どうやら賭けに勝ったようだ。


 子供が魔法使いでなくなってしまった場合、親から愛されないことも多いらしい。まあ、第三子は半分の確率で魔法使いではないので、負けても最初から諦めも付くというものだけど、確率が九割の第二子が魔法使いでなくなってしまった場合、期待の半面落胆が大きいため、虐待を受けたり捨てられたりするらしい。

 でも、マシャレッリ夫妻は仮にディミトルが魔法使いじゃなかったとしても、子供を捨てるような人間じゃないことを、私は知っている。



 合計で八人の子が生まれた。これをベビーラッシュというのか…。


 アナスタシアの子はアンジェリーナ。くすんだ金。火、雷、木、土、時、命、空間、聖。

 スヴェトラーナの子はアレクサンドラ。くすんだ青紫。火、水、風、心、時、命、空間、聖。

 セラフィーマの子はラティア。くすんだ赤。火、木、土、時、命、邪、聖。

 マレリナの子はソフィア。くすんだ緑。木、土、時、命、邪、空間、聖。

 マリアちゃんの子はフィオナ。くすんだ赤紫。火、土、水、風、心、命、聖。

 ブリギッテの子はマルグリッテ。くすんだ橙色。火、雷、木、土、風、時、命、聖。


 ここまでがマシャレッリ侯爵令嬢だ。みんな髪の光沢はすごいけど、けっこうくすんだ色だ。魔力検査したところ得意な属性にも差があるので、濃く出る色があるようだ。


 それから、マシャレッリ侯爵令嬢ではない子たちは


 ルシエラの子はレティシア。明るい銀。火、雷、木、土、水、風、心、時、命、空間、聖。

 ナタシアお母さんの子はアリア。明るい銀。火、雷、木、土、水、風、命、聖。

 タチアーナとセルーゲイの子はディミトル。淡い黄色。雷のみ。



 アンジェリーナは一ヶ月早く生まれたので若干未熟児だったけど、ちゃんと母乳を飲んでいたので、後に生まれた子と同じくらいになった。アナスタシアは遺伝子レベルで幼女なわけではないので、ちゃんと栄養を付ければタチアーナのように標準的に育つだろう。


 むしろ、マリアちゃんが小柄で童顔なのは母親譲りなので、フィオナも同じようになるかもね。今のところ差がないけど。


 ルシエラは私の妾ということになるのだろうか。レティシアに貴族籍はない。普通の平民だ。いや、エルフ村長の後継者にしてもいいけど。


 私がナタシアお母さんに子を産ませたことを公開するつもりはないので、アリアは普通の平民だ。


 タチアーナとセルーゲイは、私が侯爵位を継いだ時点で貴族ではなくなったので、ディミトルも貴族ではない。

 ちなみにエッツィオくんも貴族ではない。後継者にならないことが確定した子供は学園に入学させない家もあるんだって。学費がもったいないからとくに低位貴族では。でも、うちは見ず知らずの平民に積極的に教育を受けさせているくらいだから、身内にそうしない理由はないよねえ。


 本家が子供に恵まれなかった場合、魔力を持っている兄弟姉妹やその子供が本家の養子に返り咲くこともあるらしい。教会で魔力持ちの平民を拾ってくるより確実性が高い。だからなのか、学園ではいまだに平民出身の私がさげすまれるのに、マシャレッリの家名を名乗れないエッツィオくんは忌避感をいだかれないようだ。


 ちなみに、王家の血を引く女の子五人の子がどうなったかは知らない。安産祈願や健康祈願をかけているから、死産とかにはならないと思う。どういう使われ方をするんだろうねえ…。




 お嫁さんたちは、子供が生まれてからすぐに体調が回復して、仕事を手伝ってくれるようになった。

 スヴェトラーナ、アナスタシア、マレリナは主に領地や農園、お店の運営を手伝ってくれる。

 セラフィーマは人を動かしたり運営したりはできないけど、新しい魔道具を発明してくれる。

 マリアちゃんとブリギッテ、ルシエラは教会で子供たちに楽器を教えている。


 仕事の時は赤子の世話をメイドに任せている。授乳を他のお嫁さんに任せるときもある。第二夫人とか第三夫人というのは、自分の子を後継者に据えようとしてたいてい仲が悪いらしいけど、うちのお嫁さんたちはとても仲が良い。他のお嫁さんの子でも、我が子のように可愛がっている。



 子供が生まれて程なくして、冬がやってきて衣替えをした。日本では寒くても太ももを出すのが女学生の嗜みだけど、この世界では寒くても胸元だけは出すのが貴族令嬢の嗜みだ。胸とお尻だけは成長しているので、冬のドレスを新調した。


 とくに用があるわけでもないけど、社交界にも顔を出す。耳を出して成長の遅いエルフアピール。だって私、いつまでも十歳だし。


 演奏家オーディションの第一試験も恒例行事となった。


 学園で娯楽音楽と芸術音楽の試験も行った。娯楽音楽はただ楽しんでくれれば合格なのだけど、六年生だけには点数をあげられなかった。芸術音楽は正確に弾く技術点はみんな高かったけど、歌詞に合わせて抑揚を付けたりする芸術点はやっぱり六年生にはあげられなかった。


 六年生は自暴自棄だったので、他の教科の点数も悪かったようだ。十六年おきに同じことが起こっているんじゃないかな。こういうことを紙に記録しないし、先生もそのうち入れ替わるから、何も反省が活かされず改善されない。私は紙に残しておくし、十六年後も現役だろうから、次に同じことが起こらないようにしようと思う。


 私には無限に等しい寿命があるのだ。私の目指す世界のために、いくらでも時間をかければいい。今回の六年生のように失敗したら、次の世代に託すこともできる。



 魔力に余裕ができたので、ルシエラの村とマシャレッリ領をつなぐワープゲートを設置したのだけど、


「ユリアーナ様…、ルシエラ様はどちらに…」


 マシャレッリ領にリュドミラがやってきた。


「えっと、その前に服を着てほしいかも…」

「そうだった。人間は服を着るんだったな…」


 ほとんど裸同然の葉っぱ水着爆乳を領地に放つわけにはいかない。


「スヴェトラーナ、リュドミラにドレスを貸してもらえるかしら」

「もちろんですわ」


 スヴェトラーナの爆乳はまだ完成には至ってないので、ハイエルフの胸に一歩届かずというところだ。なので、リュドミラの胸にはスヴェトラーナのドレスがちょっと窮屈そうだけど、夏ドレスのトップスは胸とへそにペタッと貼るだけなので、ちょっとぐいっと伸ばしながら貼り付ければ余裕で入るのだ。

 ちなみに、葉っぱブラは剥がしたけど、葉っぱパンツはそのままにしておいた。


「これが服か…。煩わしいな…」


 おまえもツンデレかと突っ込みたくなった。ドレスを着せてあげたらルシエラと同じようにくるりと回ってスカートをひるがえし、嬉しそうに顔がにやけている。


 それはさておき、ルシエラは教会で子供たちに音楽を教えているので、私はリュドミラと教会に赴いた。子供たちと楽しくどんちゃんやっているルシエラが目に入った。


「ルシエラ様…」

「なんじゃリュドミラか。邪魔するでない」

「村の統治は…」

「村長の座はおぬしにくれてやる」

「しかし、皆はルシエラ様の帰りを待っているので…」

「わらわは引きこもっていただけで、何もしておらんかったじゃろう」

「それでも、そこにいてくださるだけで皆が心安らぐので…」

「ええい、わらわはもう帰らん!」

「ルシエラ様ぁ~」

「離さんか!帰れ!」


 リュドミラは膝を付き、小さなルシエラの腰にしがみついている。ルシエラはそれをぐいぐい剥がそうとしている。


「リュドミラ、服を作っておくから、いつでも来るといいよ」

「ではお言葉に甘えるとしよう…。他の者も来たがるだろうから、服は多めで頼めるだろうか…」

「えっ、まあいいけど」


 こうして、リュドミラを始め、爆乳のハイエルフや巨乳のエルフがマシャレッリ領に頻出するようになり、教会でエルフが子供たちと音楽を楽しむ姿を見られるようになった。




★ユリアナ十九歳(エッツィオ十三歳)




 二年と少しがすぎ、春が来た。私たちは十九歳だ。


 私も胸とお尻が人間の速度で成長するのは十八歳くらいで終わりのようだ。ここからはすべての成長がゆっくりになる。というか目に見える変化が全くなくなってしまった。だけど、十歳の顔つきで、人間の成人の胸とお尻が付いているロリ巨乳少女になった。


 マリアちゃんとアナスタシアも胸を改造してしまったので、それぞれ九歳と七歳のの身長と顔つきで成人の胸が付いているロリ巨乳美少女だ。だけど、ロリ巨乳美少女というのはこの世界では一般ウケしない。ロリ巨乳美少女を好きなのは私だけだ。ちなみに、巨乳といっても体格に対して過剰な大きさなのであって、年齢に対しては標準的な大きさである。だけど、日本人の標準よりはだいぶ大きい。


 スヴェトラーナの爆乳も十八歳で完成したようだ。母親のエリザベータと同じサイズだ。スヴェトラーナ自体はエルフと何も関係がないけど、この胸のサイズはハイエルフの標準サイズでもある。


 あ、ブリギッテは三十九歳だ。エルフの三十九歳は人間の十六歳弱だから、他のお嫁さんがブリギッテを抜いてしまったのかもしれないけど、あんまり身長差はないね。ブリギッテは五十歳くらいまで成長するので、ブリギッテの爆乳はスヴェトラーナが十六歳のときの大きさから少しずつ大きくなっている。ブリギッテは胸が大きくなりすぎて弓を縦に構えることができなくなってしまったので、横に構える練習をするハメになった。



 娘たちは三歳になり、マシャレッリの教会で平民の子たちと勉強することになった。三歳といっても、数えで三歳なので、実際にはまだ二年と数ヶ月だ。


「「「「「ただいまでしゅ」」」」」


 日が暮れる頃、アンジェリーナ、アレクサンドラ、ラティア、ソフィア、フィオナ、マルグリッテ、レティシア、ディミトルがメイドに連れられて帰ってきた。純粋なアニメ声が屋敷に鳴り響く。私の娘たち…、とても可愛い…。抱きしめて、はむっとしたい。


 まだ二年とちょっとでは、みんな言葉を覚え始めたばかりだ。とくに、ラティアはセラフィーマの血のせいなのか無口だ。


 ナタシアお母さんの産んだアリアはここには帰ってこない。アリアが私の子であることはお母さん以外誰も知らない。

 でも、マシャレッリ侯爵令嬢ではないレティシアは何食わぬ顔で屋敷に帰ってくる。元貴族の息子ディミトルと、妾の子レティシアでは、世間の目が違う。まあ、マシャレッリでうるさく言う人はいない。


 マシャレッリの教会は魔力持ちの子に限らず、すべての平民の子に分け隔てなく娯楽音楽と読み書き、簡単な計算、剣術を教える義務教育の場となった。もちろん、魔力持ちの子には魔法も教えている。領民は魔力を持つ食物を食べることが当たり前となり、魔力を持たない子供の方が少なくなってしまったのだ。そのため、差別意識を生まないために魔力を持たない子にも勉強させることにした。

 魔力を持たない子供に勉強を教えているのはマシャレッリだけで、フョードロヴナでもそこまでやっていない。もちろん、私がすべての人に音楽を知ってもらいたいからやっていることだ。


 ナタシアお母さんの産んだ子、アリアの魔力は、お嫁さんの産んだ子の魔力とほとんど変わらない。私の魔力はお嫁さんたちとは何桁も違うので、私とお嫁さんの魔力の平均というのは、ほぼ私の魔力の半分なのだ。だから、相手がお母さんだろうとお嫁さんだろうと、生まれる子の魔力は乱数による上下のほうが大きい。

 アリアの魔力が強いからといって、私はお母さんからアリアを取り上げたくない。もちろん、他の貴族にも渡さない。アリアの髪がちょっと明るい銀色なのは、きっと平民に紛れられるように祝福の願いがかなったんじゃないかな。お母さんは私を貴族家に取り上げられてしまったので、悲しい思いをしたんだと思う。そこで、二度も悲しい思いをしないように天が髪を灰色にしてくれたんだろう。いや、魔力のない子が欲しいのなら平民と結婚すればいいのだけど、相手が私というのは譲れなかったようだし…。お母さんまで私のことを恋する乙女のような目で見てくるんだもの…。


 そいういうわけなので、領地で三歳になったら行う魔力検査では、アリアの魔力をごまかした。少し明るい灰色で通るように、命属性の石がほんのり光る程度に。おかげでアリアは教会で他の子供と楽しく木琴を叩いている。


 ちなみに、アリアには私が親だとは名乗っていない。お母さんと一緒に楽しく暮らしてくれればいいんだ。


 ルシエラはレティシアが生まれた後もエルフの村に帰ることなく、屋敷で一緒に暮らしており教会で先生をやっている。先生というよりは、子供と遊んでいるようにしか見えないけど。



 もちろん、私の子供たちも教会での音楽や読み書きを楽しんでいる。私とお嫁さんで、交代で音楽の授業をやっている。ちなみに、マリア先生とルシエラ先生は常勤だ。他に任せられる仕事がないので…。


 私とルシエラの授業のときには、木琴だけでなくて、歌もやらせている。幼稚園の子って音が合ってるか気にせず気合いだけで歌ったりするけど、ここにはそういう子しかいない。残念ながら、音がちゃんと合っている子はレティシアだけだ。この世界でちゃんと音を取れるのはマザーエルフだけなのだろうか。でも、私の他の子供たちも比較的近い音で歌おうとしている。やはりハイエルフは私の血が濃いから、音感が高いのかもしれない。まだ三歳だし、このまま歌唱レッスンを続けていきたい。


 ところで、私は学校で算数や理科などの、地球の知識も教えている。本来この世界の算数は小学校三年生レベルなのだ。商人でも貴族でも大きな桁の四則演算ができる程度。そこで私が覚えている限り、中学校レベルくらいまでの数学を教えることにした。それから、物理と化学も。生物は魔物がいるのでよく分からない…。

 魔法があると科学が発達しないというのはよく聞く話だ。ルシエラは何十万年も人間を見てきているが、雷から電気の発明に至ったことはないようだ。


 また、マレリナ先生が剣を教えたり、ブリギッテ先生が弓を教えたりもしている。ブリギッテは爆乳になってしまって弓を横に構えなければならないので、下手くそになってしまったのが…可愛い…。じゃなかった。お手本はできないけど、構え方を指導するくらいはできるよ。


 それから、セラフィーマ先生の魔道具授業もあるのだけど、セラフィーマは教え方がヘタなので、ほとんど私がフォローしている…。



 マシャレッリの教会は保育園と小学校、中学校を合わせたくらいの位置づけだ。すべての授業が無料で義務教育。三歳から子供を預かって勉強させて十歳で卒業させる。十歳になったら就職するか、貴族にもらわれていく。マシャレッリ領は領民の暮らしに余裕があるので、十歳未満の子供を働かせなければ食っていけないということがない。労働力を奪われて文句が出るということはない。


 ちなみに、今年十歳になった初めての卒業生は、マシャレッリの農園やお店に就職している。魔法使いは高給取りだ。あと六年は魔法使いしか卒業しない。問題はそのあとで、今のところ教会内では魔法使いとそうでない者に差別はないけど、卒業してからの給料に差が出るんじゃ不満が出そうだね。給食で果物や肉を食わせまくって、魔力を発現させられないかな。大人だって発現してるんだから。


 今のところ、魔法使いだからといって貴族にもらい手はない。貴族の養女ラッシュが発生するのはヴィアチェスラフ王の子、すなわち、私の子と同い年じゃないか。私の子はあげないよ。ハイエルフだからしばらく子を産めないしいらないか。私と同じ理由で辞退できるだろう。


 王都の学園で学べることのうち魔物討伐訓練などの実戦以外はほとんどマシャレッリの教会で学べる。私だって多くのことをレナード神父様にたたき込まれたし、これくらいやっておいても損はないだろう。



 一方で、王都の学園で音楽の布教活動も続けている。こっちでもお嫁さんたちと交代で講師をやっている。セラフィーマ先生とブリギッテ先生とマリア先生は娯楽音楽、スヴェトラーナ先生とアナスタシア先生とマレリーナ先生は芸術音楽を担当。私は両方を担当。ルシエラ先生はいないよ。ルシエラは私の妾なので。妾を堂々と人前に出したりはしない。というか、私をちょっと大きくしただけのルシエラを、学園で大々的にお披露目するわけにはいかない。


 私の一つ下の代には真面目にやってもらえなかったけど、それ以降の代はうまく浸透して誰もが楽しく真面目にやってくれるようになった。私とアナスタシア、マリアちゃんはチビで新一年生になめられがちだけど、そういうやからはスヴェトラーナの貫禄で一喝入れてもらえばすぐに従順になる。


 学園では歌唱の授業はやっていない。マシャレッリの教会で実績を積んでからにしたい。それに、私の子たち以外はなかなか音痴から抜け出せないので、十歳から歌唱能力は身につかないのではないかと思っている。マシャレッリでも子供に歌を教え始めたばかりなので、その子たちが音を取れるようになるといいな。




 エッツィオくんも十三歳。声変わりがそろそろ始まりそうだ。可愛かったエッツィオくんはもういない。


 でも王子っぷりに磨きがかかってきた。エッツィオくんはすでに家名を名乗れない元貴族だというのに、まだ家を継ぐ可能性が残っている他の家の次男、三男よりも人気がある。同級生のヴァレーリアとフランチェスカは、どうやらエッツィオくんに恋心を抱いているようだ…。

 というか、もう敵対している子はいないのに、私はいつまで心を読んでいるのだ…。


 エッツィオくんに人気があるのは、やさしくて王子っぽいからだけではない。最近マシャレッリ家の価値が知られてきたのだ。ここ数年で広まったうまいものや便利な魔道具の出どころはすべてマシャレッリ家だということが、情報に疎い貴族にも分かってきた。いまやマシャレッリ家は唯一の公爵家であるフョードロヴナと並ぶ高位貴族家。フョードロヴナがいろいろやっているのは知られていたが、新しいものはフョードロヴナよりも先にマシャレッリから出現しており、フョードロヴナがお手本にしているのがマシャレッリだということが分かったのだ。


 そんなマシャレッリ家の子孫であるエッツィオくんには、もはや貴族当主になる目はないものの、その装いは公爵家に匹敵するほど豪華であり、一目で裕福なのが分かる。人格者であり裕福なエッツィオくんに嫁げば、将来裕福な暮らしができるのではないかと、女子は気がついたのだ。


 はたしてエッツィオくんは、そんな女子たちの野望をくぐり抜け、純粋に愛してくれる子を射止めることができるのだろうか。




 演奏家という専業で音楽を演奏する職業を作ってから五年。演奏家は三〇人になった。今ではレストランと二つの喫茶店で、ちょっとしたオーケストラの演奏を聴くことができる。


 彼らに楽曲を提供しているのはずっと私だけだったのだけど、彼らに作詞作曲をしてもらうことにした。というか、私に歌を捧げろ。でも、なかなか良いメロディは出てこない。

 お嫁さんたちが叙爵のお祝いソングを作ってくれたのには感動したものだ。だけど、数年私がみっちり教えたお嫁さんたちが六人がかりで一年かかったのだ。


 ちょっとやそっとじゃ作曲はできそうにないな…。私がアニソン歌手になる日はいつ来るのだろうか…。まあ、人間が遺伝子レベルで音感を獲得するその日まで、温かく見守っていこう…。




 二年のあいだには、新たな魔道具をたくさん開発した。まず、発魔器で発魔した魔力を送り届ける電線ならぬ魔線を領地の地下に張り巡らせた。各家庭には十二種類のコンセントがあって、コンセントの魔力で動く魔道具を使うことができる。コンセントの魔力は潤沢なので、強力な掃除機とか洗濯乾燥機とかを使えるようになった。バッテリーで動くハンディ掃除機とは違うのだよ。


 とはいえバッテリー、というか魔石で動く魔道具も健在だ。いちばん大きいものは自動車だ。エルフ村巡りをしたときに軽ワゴンを作ったけど、今回は軽ワゴンの他に馬車と同じサイズのワンボックスカーを市販し始めた。私の軽ワゴンはドラゴン素材で作ったけど、市販の自動車はもっと安い魔物の骨やうろこなどを使っている。だけど、クリスタルの窓や、蜘蛛の糸によるゴムタイヤやエアサスペンション、クッションシートなどはおよそ共通だ。

 私のつたない知識で作ったモーターではエネルギー消費効率が悪いので、空間魔法の念動で動くものにした。ブレーキで運動エネルギーを回生することもできる。車室内のものを念動で動かすので、乗員や荷物が慣性で振り回されないのが特徴。


 自動車を運転するためには、自動車教習所で免許を取ってもらう。まず、私が教師を教育して、教習所に教師を配置した。


 私の覚えている限りの道路交通法を施行した。この法が有効なのはお嫁さんの実家の領地とマシャレッリに隣接した領地と、その間の街道だけだ。その他の領地ではまだ道路整備と法の合意が進んでいないため、自動車で走ってはいけないことになっている。王都は人が多くて道も狭いので、なかなか整備が進まない。でも、同じくらい賑わっているフョードロヴナでは、領民を移住させて区画整理を強行したらしい。


 法定速度は、町中では時速二十キロ、街道では時速一〇〇キロだ。街道は綺麗に整備してあるので、一〇〇キロくらいは余裕で出せるのだ。


 ちなみに、自動車は走行可能な領地へのワープゲートを通ることができるので、街道の行き来はあまりない。でも、馬の維持費よりは燃料代の方が安いので、裕福な商人は自動車も導入している。


 自動車の燃料は空間の魔力で、通行可能な領地に充電ステーションを設置してある。自動車自体と充電ステーションの製造はロビアンコにも任せている。


 まあ、道路整備や自動車開発をがんばってはみたもの、遠出をするのにはワープゲートあるのでそんなに需要はない。とはいえ、ワープゲートは農村や他領との行き来にしか使えないので、町中の荷物の運搬では重宝している。




 他にも、風魔法を使った携帯電話を開発した。以前、マリアちゃんと心魔法による電話を作ったときは、宛先を魔方陣で示さなければならないのが難点だった。それは風魔法の電話でも変わっていない。だけど、心魔法の対象は生物でなければならないのに対して、風魔法の対象は場所やものでよい。


 固有の番号を割り振ったカード、つまりSIMカードで電話機を識別する。相手を示すにはそのSIMカードを示す魔方陣を描いたアドレスカードがなければならない。携帯電話にアドレスカードを挿すと、受話器を通した声が相手の携帯電話で鳴るという仕組みになっている。

 ちなみに、相手からの声を受けとるには、相手が自分のアドレスカードを挿さなければならない。


 いちいち魔方陣を描いたアドレスカードを手作業で作るのはとても面倒なので、自分のアドレスカードを発行する機能を携帯電話に付けた。無地の紙とインクをセットして携帯電話のボタンを押すと、水魔法で自分のアドレスを示す魔方陣を印刷してくれる。印刷したアドレスカードを相手に渡せば、相手から電話をかけてもらえるようになる。もちろん、アドレスカードを一方的に渡すのではなく、相手のアドレスカードももらわないと返信できない。

 ちなみに、自分の署名を書いたカードを携帯電話内に入れておくと、アドレスカードの裏に署名も印刷してくれる。


 地球の電子機器のようにアドレス帳をメモリに持っておいたりはできない。どちらかがQRコードを見せればいいというわけではなく、互いに名刺交換のようなことをしなければならない。SIMカードもアドレスカードも二センチ程度の小さな紙でよいのだけど、物理的にカードを持ち歩かないと電話をかけられないのはちょっと面倒だね。魔方陣というもので対象を決めなければならない都合上、カセット式やカード式になってしまうのはしかたがないのだ。


 ちなみに、SIMカードのアドレスは十二の音階で示すものだ。三十桁の十二進数で表すようになっており、そのうち十桁は誤り検出符号になっていて、誰かが無作為な番号を作っても誤り検出符号が合っていなければ正しい相手を示せないようになっている。そして、番号の発行機はマシャレッリにしかない。



 魔法は発動する場所が遠ければ遠いほど魔力消費が大きくなるので、この携帯電話は相手が遠いほど魔力消費が大きくなる。内蔵の風の魔石で話せるのは、一キロの距離で十分程度だ。話している時間と音量に依存するけど。十キロも一〇〇キロも離れた相手と話そうと思ったら、コンセントで充電しながら使う必要がある。


 電話料金というものはないけど、離れた相手に使うにはそれなりに魔力を食うので、魔力の代金はそれなりにかさむ。その代金は、ワープゲートをくぐるのとあまり変わらなかったりする。

 相手が遠すぎるとあっという間にバッテリーがなくなってしまうので、接続を試みて一キロ以上離れたところだと分かった場合は、一キロ、十キロ、一〇〇キロを表すインジケータが点灯して、それでも通話したい場合はインジケータに触れると通話を開始できる。



 お嫁さんたちには携帯電話と個人のアドレスカードを渡してある。また、お嫁さんの実家にも携帯電話を渡してあるけど、渡したアドレスカードはそれぞれのお嫁さん個人のものと、マシャレッリ家の固定電話のものだ。私のプライベート電話にかけられても困る。あとはリュドミラにも渡してあるし、お母さんにも渡してある。お母さんには心魔法の魔道具を渡してあったけど、携帯電話に交換した。


 携帯電話とSIMカード発行装置を王家に献上してある。情報を届けるには人が実際に赴かなければならない時代に、なかなか画期的な発明だと思ったのだけど、ワープゲートの魔法は古くから知られているし、商品化していることも教えてあるので、あまり驚かれなかった…。

 ちなみに、私のアドレスカードを王家にあげてはいないよ。会社の上司に電話番号を教えたら、休日に電話かかってきそうじゃん…。


 SIMカード発行装置は王家だけでなくて、フョードロヴナとロビアンコにも渡してある。発行する番号がかぶらないように、上一桁がドで始まる番号の発行権限をマシャレッリ、ド♯を王家、レをフョードロヴナ、レ♯をロビアンコというように分けてある。IPアドレスみたいなものである。十二の二十乗は七十一ビットなので、まず枯渇しないだろう。



 他にもいろいろと地球の機械を魔道具で再現したいのだけど、電子機器のような複雑なものを再現するのは厳しい。電子機器自体を作るのも私の知識では難しい。魔方陣は手続き型プログラミング言語に似ているけど、複雑なものを作ろうと思ったらコピペが多発して、膨大な量の魔方陣が必要になってしまう。




 それから、異次元収納バッグを開発した。空間の魔石を交換するか、コンセントから空間の魔力を充電することで維持できる。容量は可変で、大きいほど消費魔力が大きい。自動車にものを詰め込むよりは維持費がかかる一方、初期費用は安いので、自動車を買う資金がない駆け出し行商人やハンターに重宝されている。


 殺菌、脱酸素付きの冷蔵庫機能を備えたバージョンもある。もちろん、命、木、風、水の魔力が追加で必要。

 時間停止機能付きは一般には出してない。時間停止のアイテムボックスは転生者の嗜みだからというわけではなくて、いろいろと産業が崩壊しそうだからだ。




★ユリアナ二十一歳(エッツィオ十五歳)




 そして、さらに時が過ぎ、エッツィオくんは十六歳を間近に学園を卒業した。

 私たちはいつもより大きな馬車で王都邸に帰ってきたエッツィオくんを出迎えた。


「エッツィオよ、卒業おめでとう」(セルーゲイ)

「エッツィオくん、いちばんの成績で卒業だよ」(ユリアナ)

「エッツィオは私の誇りだわ」(アナスタシア)

「エッツィオくんは本当に優秀だったわね」(マレリナ)


「お父様、お姉様方、ありがとうございます」


「エッツィオぉ、よかったわね~。こんなにお嫁さんが見つかって」

「は、はい…」


 タチアーナの言うとおり、エッツィオくんの後ろには六人の女の子が…。


「これからお世話になります」


 淡い黄色髪のヴァレーリア・フェッティ子爵令嬢。エッツィオくんの同級生だ。私の同期のオフィーリアの妹でもある。


「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」


 濃い水色髪のフランチェスカ・マラカルネ侯爵令嬢。この子も同級生だ。

 結局二人しかいないエッツィオくんの同級生の女子はエッツィオくんにお持ち帰られてしまった。他の男子、ご愁傷様。


 この二人だけじゃない。


「エッツィオと一緒になれる時が訪れ、わたくしは幸せです」


 赤髪のミシェーラ・ベンシェトリ伯爵令嬢。私の同期のアルメリアの妹だ。エッツィオくんの二歳上だ。卒業した後結婚しないで待っててくれたんだって。


「エッツィオはやっと卒業よ。まったく一年も待たせるなんて」


 緑髪のカトリーナ・ベルヌッチ伯爵令嬢。元いじめっ子のパオノーラの妹だ。エッツィオくんの一歳上だ。

 ツンデレは血筋なのかな。頬が赤いよ。


「私も早く卒業してエッツィオ様と一緒になりたいわ」


 淡い白髪のジュリエッタ・シェルトン子爵令嬢。私の同期のエレノーアの妹だ。エッツィオくんの一歳下なのでまだ卒業していなくて結婚できない。婚約しにきたのだ。


「私がこんな立派な家のエッツィオ様と婚約してもいいのかしら…」


 淡い青髪のマルセーナ、元ルブラン子爵令嬢。ルブランといえば、私の同期のアルベールだ。父親と兄が私の殺人計画に加担していたために処刑されて、アルベールが家を継いだ。しかも、子爵家から男爵家に降爵になった。


 アルベールがすでに爵位を継いでいるため、マルセーナはすでにルブラン貴族令嬢ではない。そんなマルセーナを学園に行かせるなんて、アルベールは学費の工面に苦労しただろうな。アルベール…、憎めないやつだ…。


 マルセーナはエッツィオくんの二つ下なので卒業は二年後だ。


 エッツィオくん…、女たらしなんだから…。六人も女の子を連れてくるなんて…。って私も同じか…。

 いや、まあ私も授業を受け持ってたから知ってたよ。エッツィオくんのやつ、人を見る目があるね。みんな良い子だよ。っていうか、良い子になるように調教したというか。



「それじゃあみんな、エッツィオの屋敷でごゆっくり~」


「「「「「「はい!」」」」」」


 マシャレッリの屋敷の近くにエッツィオくんの屋敷を建てた。木を操ると岩の整形で作ったハイブリッド工法。絨毯と壁紙に蜘蛛の糸の生地を使ってあって高級感が漂う。


 エッツィオくんの嫁たちは嫁入り道具を持って、王都邸の廊下からワープゲートをくぐった。エッツィオくんの屋敷に直通のワープゲートだ。


 今日からエッツィオくんと六人の嫁は新居で一緒に暮らす。一週間後にはヴァレーリア、フランチェスカ、ミシェーラ、カトリーナとの結婚式だ。まだ卒業してないジュリエッタとマルセーナはお預けだ。だけど、冬休みなので学生の二人も一緒に来たのだ。だからといって、未婚の男女が一緒の部屋で寝泊まりするのは許されない。二人だけ別の部屋なんだって…。生殺しなのでは…。どうなっても知らない…。


 私とお嫁さんたちも、ほとんど未婚の男女といってよかったはずだ。でも私が外見詐欺だから世間的には女どうしで寝てるだけなので何も問題ないと思われていた。私の自制心だけで事故を防いでいたといっていい。私にとって生殺しの数年間だった。



 というわけで、結婚式の日がやってきて、エッツィオくんは純白のドレスを着たヴァレーリア、フランチェスカ、ミシェーラ、カトリーナと結婚。ジュリエッタとマルセーナはハンカチを噛みちぎりながら、柱の陰で五人を見つめていた…。


 そして結婚初夜。別室から聞こえるジュリエッタとマルセーナのすすり泣く声…。いくら魔力に余裕ができたからって、ワープゲートを開けっぱなしにしておくんじゃなかった。エッツィオくんの屋敷から王都邸を経由して私の領主屋敷にまで聞こえてくるんだけど…。ああ、私が地獄耳だからか…。

 エッツィオくん、後ろから刺されないよね?


 でもそこは王子なエッツィオくん、結婚と初夜をお預けの二人には、翌日の昼間に熱い抱擁をしたりして、フォローを忘れない。また、妊婦たちはせっかくマシャレッリに来たというのにつわりで美味しいご飯を食べられない一方で、お預けを食らっている二人はエッツィオくんと一緒に食事やスイーツを楽しんでいる。ノーカロリースイーツは女の子の別腹には無尽蔵に入るので、夜一緒にいられないうっぷんをやけ食いで晴らしていうようにも見える。

 これでなんとかなるのだろうか。来年はエッツィオくんも音楽教師として学園に行くし、日中は妊婦たちよりも一緒にいる時間を取れるかもね。



 こうして、ヴァレーリア、フランチェスカ、ミシェーラ、カトリーナの四人は秋にそれぞれ、赤髪のヴィクトリア(♀)、濃い桜色髪のジナイーダ(♀)、黄色髪のマフマドベク(♂)、水色髪のオレイシャ(♀)を出産。

 その冬にジュリエッタと結婚、翌年の秋に青髪のアルトゥール(♂)を出産。

 さらにその冬にマルセーナと結婚し、翌年の秋にオレンジ髪のカーシャ(♀)を出産。


 しかし、よく我慢できたねえ。私なんて道具使ってやっとだったのに。


 ちなみに、エッツィオくんの娘たちの属性数はみんな一だ。学園で習った話だと、一割くらいは属性数ゼロが生まれるとのことだった。六人もいれば一人くらいハズレが出そうなものだけど、賭けに勝ったのだろうか。

★ユリアーナと婚約者

 とくに記載のないかぎり十五歳から二十四歳へ。女子の身長はマレリナと同じくらい。


■ユリアナ(ユリアーナ・マシャレッリ侯爵令嬢)

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■マレリナ(マレリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢)

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一六一から一六五センチへ。(十四歳以降は一年間で一センチ成長)

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■アナスタシア・マシャレッリ侯爵令嬢

 青紫髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二五センチへ。ぺったんこ。

 口調はお嬢様言葉。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三五センチへ。ぺったんこからほんのり膨らみが。

 口調はほぼ平民言葉。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。

 身長一六六から一七〇センチへ。(マレリナ+五センチ)

 口調はですわますわ調。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。

 口調はですます調。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十五~三十六歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。

 身長一六五センチ。(三十五歳で身長の成長は止まる)

 エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。

 口調は平民言葉。



★ユリアナの子(ユリアナより十六歳下)


■アンジェリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢

 アナスタシアの産んだ子。くすんだ輝く黄金の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■アレクサンドラ・マシャレッリ侯爵令嬢

 スヴェトラーナの産んだ子。くすんだ輝く青紫髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■ラティア・マシャレッリ侯爵令嬢

 セラフィーマの産んだ子。くすんだ赤の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■ソフィア・マシャレッリ侯爵令嬢

 マレリナの産んだ子。くすんだ緑の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■フィオナ・マシャレッリ侯爵令嬢

 マリアの産んだ子。くすんだ赤紫の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■マルグリッテ・マシャレッリ侯爵令嬢

 ブリギッテの産んだ子。くすんだ橙色の髪。少し耳が長い。ハイエルフ。


■レティシア

 ルシエラの産んだ子。明る銀髪。少し耳が長い。マザーエルフ?


■アリア

 ナタシアの産んだ子。明るい銀髪。耳が長く成長するのを阻害する魔道具を使ってるので耳は長くないが本当はハイエルフ。



★同期生


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王

 黄色髪。


■エンマ、元スポレティーニ子爵令嬢

 薄い水色髪。実子。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■パオノーラ、元ベルヌッチ伯爵令嬢

 水色髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■エミリーナ、元シェブリエ侯爵令嬢

 濃いめの赤髪。卒業してヴィアチェスラフの正室となった。


■アルメリア、元ベンシェトリ伯爵令嬢

 オレンジ髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■ベアトリス、元アルヴィナ男爵令嬢。

 薄い青髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■イアサント

 エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。退学。


■ジョジョゼ

 エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。退学。


■ドリエンヌ

 パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。退学。


■クレマノン

 パオノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。退学。


■キアーラ、元ベルガマスコ伯爵令嬢

 濃い赤髪。元侯爵家。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■エレオノーラ、元パレルモ子爵令嬢

 オレンジ髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■オフィーリア、元フェッティ子爵令嬢

 青髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■ヘレン、元バトカス子爵令嬢

 淡い赤髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■シェリル、元ホッパー男爵令嬢

 淡いオレンジ髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■テレサ、元トライオン伯爵令嬢

 青髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■エレノーア、元シェルトン子爵令嬢

 淡い水色髪。卒業してヴィアチェスラフの側室となった。


■アルベール・ルブラン男爵

 薄めの黄色髪。



★マシャレッリ元侯爵家


■エッツィオ(ユリアナ-六歳)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■ディミトル

 タチアーナとセルーゲイの子。淡い黄色。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★エッツィオの同級生

 すべてエッツィオと同年齢。


■カルーロ・スポレティーニ子爵令息

 エンマの弟。淡い赤髪。


■ロレンツォ・ジェルミーニ男爵令息

 淡いオレンジ髪


■アンジェロ・コロボフ子爵令息

 淡い青髪。


■ヴァレーリア・フェッティ子爵令嬢

 オフィーリアの妹。淡い黄色髪。エッツィオの嫁。


■フランチェスカ・マラカルネ侯爵令嬢

 濃い水色髪。エッツィオの嫁。



★同期以外のエッツィオの嫁


■ミシェーラ・ベンシェトリ伯爵令嬢

 赤髪。アルメリアの妹だ。エッツィオの二歳上。


■カトリーナ・ベルヌッチ伯爵令嬢

 緑髪。パオノーラの妹だ。エッツィオの一歳上。


■ジュリエッタ・シェルトン子爵令嬢

 淡い白髪。エレノーアの妹。エッツィオの一歳下。


■マルセーナ

 淡い青髪。アルベール男爵の妹。エッツィオの二歳下。



★エッツィオの子


■ヴィクトリア

 淡い赤髪。♀。ヴァレーリアの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。


■ジナイーダ

 濃い桜色髪。♀。フランチェスカの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。


■マフマドベク

 黄色髪。♂。ミシェーラの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。


■オレイシャ

 淡い水色髪。♀。カトリーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十六下。


■アルトゥール

 淡い青髪。♂。ジュリエッタの産んだ子。年齢はエッツィオの十七下。


■カーシャ

 淡いオレンジ髪。♀。マルセーナの産んだ子。年齢はエッツィオの十八下。



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。引退。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★ユリアナと婚約者の家族


■ナタシア

 ユリアナの育ての親。


■ルシエラ

 ユリアナの産みの親。

 マザーエルフと呼ばれている。二〇〇〇歳くらい。

 ユリアナと同じキラッキラの銀髪。身長一五〇センチ。人間の十二歳くらいの顔つき。十歳のころのスヴェトラーナ級の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■オレリア

 マレリナの母。


■イゴール

 マレリナの父。


■ビアンカ

 マリアの母。


■ステファン

 マリアの父


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十四歳)

 黄緑髪。


■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵

 セラフィーマの父。オレンジ髪。


■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人

 セラフィーマの母。レモンイエロー髪。


■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵

 淡い黄色髪。ブリギッテの養父。


■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人

 淡い水色髪。ブリギッテの養母。


■ジュリクス・ジェルミーニ男爵

 ピンク髪。マリアの養父。独身。



★その他


■ハイドラ

 成人ハイエルフ。エリザベータ級の爆乳。五〇〇歳くらい。

 やや明るく緑がかった銀髪。

 紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■サンドラ

 成人エルフ。十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■リュドミラ

 ルシエラの側近のハイエルフ。やや水色がかった明るい銀髪。八〇〇歳くらい。

 紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■ラーニナ、アネスタ、エリザンナ

 他のエルフ村の村長。ハイエルフ。


■ニーナ

 成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。

 十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。


■アブドゥルラシド、元ローゼンダール王

 空色の髪。


■ヴァレンティーナ、元ローゼンダール第一王妃

 明るい青の髪。


■レナード(ユリアナ+三十四歳くらい)

 コロボフ子爵領の村の神父。


■アルフレート(六十歳くらい)

 マシャレッリ領都の神父。


■ハンス

 マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。

 兼教会の木琴教師。


■クレマノンの母

 元男爵夫人。淡い赤髪。


■ジョジョゼの母

 元男爵夫人。淡い水色髪。



◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□⑪□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

   ⑩③

    S

    ~

    □□?⑬

    ~

    ⑫

    ~

    ⑭


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領

 ⑩巨大ミツバチの巣(国外)

 ⑪ルブラン子爵→男爵領

 ⑫エルフの村1、⑬ブリギッテの出身地?、⑭ルシエラ王の村


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。



◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□⑨■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□⑥□□②■

 ■□⑤□③□■□□⑧

 ■■■□■■■□□⑧

 □□□□□⑦□□□⑧

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁


◆座席表

  ス⑤⑨⑫□□

  ヴ□□□⑥②

  □□□□□①

前 □⑦⑩ブ⑬③

  ア⑭□⑪⑧④

  □□□パ⑮エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1=イアサント(退学)、②エンマの下僕2=ジョジョゼ(退学)

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1=ドリエンヌ(退学)、④=パオノーラの下僕2=クレマノン(退学)

 ⑤=エミリーナ、⑥=アルベール、⑦=アルメリア、⑧=ベアトリス

 ⑨=キアーラ、⑩=エレオノーラ、⑪=オフィーリア

 ⑫=ヘレン、⑬=シェリル、⑭=テレサ、⑮=エレノーア



◆周辺国

   N

 ③□④□⑤

 □□□□□

W⑥□①□⑦E

 □□□□□

 ②②②②②

   S


 ①=ローゼンダール、②=エルフの森、③=ウッドヴィル、④=リオノウンズ、⑤=アバークロンビー、⑥=ヘンストリッジ、⑦=ヴェンカトラマン


 1マス=1000キロくらい



◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

変ト長調、変ホ短調:×邪、不幸、呪い→○世の中のことわりの管理、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金

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