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12 アニソン歌手への道

★転生八年目、夏秋冬、学園五年生の夏休み、後期、冬休み

★転生九年目、春夏秋、学園六年生の前期、夏休み、後期

★ユリアナ十四歳




 というわけで、学園の前期を終えて、ワープゲートでマシャレッリの屋敷に戻ってきた。

 だけど今回は、スヴェトラーナ、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアちゃんには、各自の実家に帰ってもらうこととなった。みんなには領地の教会で、音楽を広める準備をするという使命を与えたのだ。

 それに、養子のブリギッテとマリアちゃんはともかく、スヴェトラーナとセラフィーマはたまには実家に帰った方がいいよ。とくに、セラフィーマなんて親の名前がフラッシュしかけてるし。


 みんなにはワープゲートで領地に帰ってもらった。あらかじめワープゲートのため魔力を魔石に貯めておいたのだ。まあ、一人でやるのは大変だから、私たちもマシャレッリ領での用事が終わったら、お嫁さんの領地に布教活動に行くつもりだ。


「「「ただいま戻りました」」」


 久しぶりにマシャレッリに三人とオルガだけで帰ってきた。


「あらお帰りなさぁい」

「よく戻ったな」

「お帰りなさいませ、お姉様方」


「エッツィオくん、教会の子の指導ははかどっていますか」

「もちろんです!」


 領地に音楽を布教する活動はとりあえずエッツィオくんに任せておこう。



 まずは、マレリナとワープゲートで農村に赴いて、


「お母さん!」

「お帰りなさい。まあ、涼しそうな服ね…」

「あ、うん…」


 背中のがばっと開いたドレス姿をお母さんに見せるのは初めてだった。お母さんの感想は「涼しそう」なのだけど、お母さんはなんだか顔を赤らめている。私もちょっと恥ずかしい…。


「わ、私のことは大丈夫だから、お仕事がんばりなさい」

「わ、わかったよ」


 なんだか、追い立てられた感じだった。私と会いたくなくなっちゃったかな…。うーん…。




 私にはやることがある。まずは、太陽光発魔器の畑を作る。光を吸収する面積が大きいほど雷の魔力が発生するのは、太陽電池と同じだ。それに、太陽による加熱を阻害することで火の魔力も発生する。夜は冷えるのを阻害することで水の魔力も発生する。魔法は対象までの距離が長いと効率が落ちるので、加熱と冷却に関しても表面積を増やすのは有効だ。


 基本はこの構成だ。コンパクトなのに、たくさんの魔力を作れる。街灯とかは昼に発電して夜に放電する地球のやり方で問題ないだろう。


 それから、時の流れを阻害して時の魔力を回生する発魔器。これは、質量の大きい重りを高いところに設置して、落下するエネルギーを空間の魔力に回生する発魔器とセットで使う。時の魔力を使って重りの時間を巻き戻すことで、重りを高い位置に戻す。すると、また落下のエネルギーを回生できるようになるのだ。時魔法の消費魔力は質量依存ではなく体積依存なので、重りは比重が高いほど良い。まあ、入手性からすれば鉄以外にないのだけど。完全にエネルギー保存の法則を無視してる。


 時の発魔器は簡単だが、空間の発魔器には大がかりな装置が必要だ。まあ、雷の発魔器の魔力を電気にしてモーターを回すことでも空間の魔力は得られるし、逆もできる。


 ちなみに、私の立っているこの世界は惑星だと思うけど、惑星の自転を阻害することはできなかった。もしできるとしても、やり続けて惑星の自転が止まっても困るので、まあできなくてよかった。


 雷の魔力で電気を作れば、電熱線に電気を流して火の魔力を回生することもできるし、コンプレッサーで冷却器を作れば水の魔力と火の魔力を同時に得られる。冷気を水の魔力に回生しないで、湿気の結露を阻害することでも水の魔力を得られる。結露した水をさらに冷却して凍らせることを阻害すると土の魔力を得られる。


 それから、土や糞に潜む微生物の成長を阻害する命の発魔器と、植物プランクトンの成長を阻害する木の発魔器だ。どれだけの量ができるのか分からない。半永久的に放置できるのかもわからない。とりあえず、作ってみて体積あたりの効率を調べてみよう。


 マシャレッリ領の郊外に、太陽光パネルのような魔道具がたくさん並んだ。隙間には植物プランクトンが光合成する培養槽も配置してある。さらに、地下には大きな鉄が上下運動する施設と微生物の培養槽も作った。各地からたっぷり魔石を取り寄せてあって、火、雷、木、土、水、風、時、命、空間の魔力をためておける仕組みを作った。

 とりあえずいちばん欲しいのは空間の魔力だ。長距離のワープゲートを心置きなく使えるようにしたい。



 それから、私は異次元収納の中で劣化しそうなものに時間停止をかけた。領域にかけると、その領域には進入できなくなってしまうので、物体単位だ。時間停止のアイテムボックスとはちょっと違う。


 この時間停止は時の魔力を生み出してしまうので、それをためるための時の魔石も異次元収納の中に入れてある。それでも時の魔力は溢れてしまうので、空間の発魔器も異次元収納の中に入れておき、時の流れを戻して空間の魔力を生み出す。そして、この魔力を異次元収納の維持に使用する。時の流れを止めたアイテムが増えるたびに生み出される時の魔力は多くなってしまうので、そのたびに生み出される空間の魔力が釣り合うように異次元収納の領域を拡張する。


 この辺りの処理を自動化すれば、異次元収納バッグを商品化できそうだ。交易革命が起こってしまいそうなので、容量を制限するべきだろうな…。


 これで、私の魔力を必要としない大容量の異次元収納ができあがった。しかも、必要な部分については時間停止機能付きだ。これでやっと、私も時間停止のアイテムボックスの能力を手に入れた。かなり一人前のチート転性者に近づいたのではないだろうか。


 ちなみに異次元収納の中はなぜか重力がある。だから重力を利用した発魔が可能なのだ。




 発魔器は作ったばかりなので、まだ発魔器でためられた魔力はたいしたことない。私は日頃から自分の魔力を魔石にためておいた。今回はとんでもない量の空間の魔石でワープゲートを出して、ルシエラの村に赴いた。帰りの分の魔力を貯めた魔石も異次元収納に入れてある。メンバーはマレリナとアナスタシアとオルガだけ。


「おや、ユリアナじゃないか」

「おはよう、リュドミラ」


 具体的に村の入り口がどこか分からないけど、最初の大木の家付近にゲートを開いたら、リュドミラに出迎えられた。


 エリザベータ級の爆乳を携えるリュドミラ。その先端には葉っぱがちょこっとくっついている。いや、ブラの面積としては普通なんだけど、どう考えてもその爆乳にあったサイズではない。


「ルシエラはいる?」

「ああ、いるとも。基本的に部屋を出ない」


 二万年間引き籠もりニートやってるんだったね。


「じゃあルシエラの部屋に行こうと思うんだけど、その前にリュドミラは村の人を集めてくれる?」

「構わないが、何をするんだ?」

「それは見てのお楽しみ」


 私はルシエラの部屋に赴いた。ルシエラが私と同じ耳を持っているなら、私の足音で誰が来たか分かるだろう。


「子種をよこす気になったか?」


 部屋に入るなりこれだ。のじゃロリ巨乳少女な私。髪の毛が背丈の二倍ある私。紐なし葉っぱブラの私。


「今日はエッチより楽しいことを教えてあげる」

「そんなものはないのじゃ」

「いいからおいで」

「イヤじゃあぁ」


 私はルシエラの手を掴んで引っ張り上げた。ルシエラの手って柔らかいな…。ずっとふにふにしていたくなる…。

 ルシエラなら私の手を振りほどく力を持っているだろうに、それをしないってことは受け入れてるってことだ。ツンデレの扱いが分かってきたよ!エンマとパオノーラで練習しておいてよかった!



 私がルシエラをずるずると引きずって広場に行くと、マレリナたちが楽器の準備をしていた。アナスタシアは異次元収納にかなりのものを保持できるようになったのだ。

 ルシエラの髪はとても長いので、まるでホウキ。あまり洗ってないから艶は私よりないね。

 集まったエルフは八〇人くらいかな。


「みんな、集まってくれてありがとう。今日は魔法以外の音楽を披露するね。

一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー、……♪(アナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっ、……♪(マレリナの木琴)

 ぴんぴんぴん、……♪(ユリアナのキーボード高音)

 がーがーがー、……♪(ユリアナのエレキハープ)

 ドゥドゥドゥー、……♪(ユリアナのベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナの大太鼓、シンバル、スネアドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」


「きゃーっ!」「さすがルシエラ様の娘だね!」「美しい声だね!」「ユリアナ様も声で音楽を奏でられるんだ!」「(ざわざわ)」


 よかった。楽しんでもらえて。


「……」


 ルシエラはなんか…、難しい顔をしている。ルシエラは私の記憶をどこまで読んだのだろう。私が娯楽音楽をやっていることを知らないのかな。


 ルシエラはきっと…、


「さあ、ルシエラもおいで」

「ちょっ、イヤじゃぁ~」


 やっぱりそうだ。イヤと言いながらまったく抵抗がない。参加したくてしかたがないって顔だったんだ。とはいえ、ルシエラが私の記憶をどこまで読んでいるのか分からないので、


「ふんふん……♪」

「あっ…」


 ルシエラに歌詞とメロディの記憶を送った。


「一、二、三、はい!」


 ひょーろーろー、……♪(アナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっ、……♪(マレリナの木琴)

 ぴんぴんぴん、……♪(ユリアナのキーボード高音)

 がーがーがー、……♪(ユリアナのエレキハープ)

 ドゥドゥドゥー、……♪(ユリアナのベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナの大太鼓、シンバル、スネアドラム)


「「春が早く来ないかな……♪」」


 ルシエラは自然に歌い出した。私とルシエラはほとんど音がシンクロしてしまって、デュエットしてるように聞こえない。声帯が人間の二歳分違うだけで、私たちはクローンだからね。まあ、私は六歳の幼女役のアニメ声を心がけているから、十二歳相当のルシエラの声とはちょっと違うけど。でもしかたがないので、私は即興でハモりパートを作って、ルシエラの主旋律に調和した。


 曲が終わったら…、


「う、うう…」


 私は涙を流していた。ルシエラのほうを見たら、ルシエラが突然、


「うわあああん…」


 号泣して、私に抱きついてきた。


「うわあああん…」


 私も大声で泣いてしまった。嬉しくって…。ああ…、この世界で初めてデュエットできた…。この世界で初めての歌える仲間…。

 ルシエラも歌える仲間ができて嬉しかったのかな?いや、ルシエラは歌う趣味を持ってないかな?じゃあ今度こそ親子感動の再会?ずっと孤独だった?なんだかよく分からないけど、ルシエラと通じ合えた気がする!


 それにしても、ルシエラって柔らかい…。抱き心地が良い…。全身ふにふにだ。スヴェトラーナの胸だって、こんなにふにふにしてない。ずっと抱いていたい。

 ああああ、ブレスレットの魔力がガンガン減ってく。このくらいにしておかなきゃ。

 でも私が離れようと思ってもルシエラが離してくれない。そして、ルシエラから…口づけ…。


「ダメよーっ!」「ダメダメっ!」


 アナスタシアとマレリナが乱入してきて、私とルシエラを引き剥がそうとしている。私は危うく口づけを受け入れてしまうところだった。あああ、ブレスレットの魔力が切れてる…。でも、お嫁さんたちが止めてくれたおかげでドキドキは止まっている。


「邪魔をするでない」


「くっ…」「きゃぁ…」


 ルシエラが軽く手をはらい、二人を突き飛ばした。


「ちょっとルシエラ!私のお嫁さんなんだから手荒なことしないで!」

「えっ……、わらわはそんなつもりでは…。ご、ごめんなさい…」


 ルシエラは縮こまってしまった。


「だって…、わらわは…。うわああん…」


 ルシエラは走って家に帰ってしまった。本当に何十万年も生きてる神のような存在なのかな。本当にエルフの王なのかな。これじゃ見た目以上に子供じゃん。


「はぁ…」


 せっかくルシエラと仲良くなれたと思ったのに、ルシエラが襲いかかってきたから台無しに…。私がブレスレットで抑えてないと性欲に負けてしまうように、ルシエラも私とエッチしたくてしょうがないのか…。私はブレスレットの魔力を込めなおした。それと、異次元収納から予備のブレスレット四つを取りだしてルシエラの部屋に向かった。



「もう来るでない!」


 私はルシエラのツンを無視して、寝床に伏せたルシエラの手を取った。


「触れるな!触れられたら…」


 ルシエラは顔を赤らめてそっぽを向いた。ツンデレって可愛いな…。そういう属性に趣味はないと思っていたのだけど…。


 ルシエラの腕に心拍数制御のブレスレットをはめた。すると、ルシエラはいじけていたのが少し落ち着いたようだ。

 もう片方の腕と脚にもブレスレットをはめた。脚はブレスレットとはいわないか。アンクレットだっけか。


「何じゃこれは」

「落ち着いたみたいだね」

「おぬしに抱かれたくてしかたのない気持ちが少し収まった」

「率直だなぁ…」


 ルシエラはまだ顔を赤らめているけど、私を直視できるようになったみたいだ。というか、今まで照れで私を直視できなかったようだ。


「あと一年半なんだけど我慢できる?」

「うむ…」


 幼い子供を諭しているようだ。でも内容はエッチの我慢だ…。


「さっき一緒に声で音楽を奏でたのは楽しかった?」

「そ、そんなことはないのじゃ…」


 これはツンデレのYesだと思って、かってに話を進める。


「あのさ、ルシエラにお願いがあるんだけど」

「子を授けてくれぬおぬしの願いなど聞かぬ」

「みんなと一緒に音楽を奏でて楽しんでほしいんだ」

「だからそんなこ……」

「私の記憶をどこまで読んだの?楽譜の読み方は?」

「なんじゃそれは」

「ふんふん…♪」

「ぎゃー」


 私は楽譜の読み方とメロディと歌詞を、ルシエラの記憶に植え付けた。ルシエラは記憶を送り込まれて頭が痛いのか、頭を抱えている。メロディは一回聞けば覚えるだろうけど、歌詞はそうもいかない。


「手取り足取り教えてくれないとわからんのじゃ」

「あれ、経験も送ったと思ったんだけど。じゃあ、広場に戻って、みんなで練習しようよ」

「しかたがないのう」


 セリフとは裏腹、嬉しそうだ。本当は心魔法で経験も受け取ってるのに、私といたいだけなんじゃないのかな。



 ルシエラの長い髪を引きずって広場に戻ると、マレリナたちがエルフに楽譜の読み方を教えており、童謡を練習していた。エルフは主に弾き慣れたハープでやっていたけど、木琴や笛を借りてるエルフもいた。


「なあ、おぬしの不思議な楽器を貸してほしいのじゃ」

「はいどうぞ」

「シ♭というのはどこじゃ」

「ここだよ」


 ドレミで音程を表す知識は贈ったけど、キーボードの知識は送ってはいなかった。


「指をこういうふうに丸めて」

「うむ…」


 ルシエラの手を丸めるように、私の手を覆い被せた。すると、ルシエラは顔を赤らめた。私の地獄耳はルシエラの心拍数が八〇の鼓動を聞き取った。

 手が触れただけでこれなの?この子、めちゃくちゃウブなんだけど。何万人もの女の子とのエッチの記憶はなんだったのやら。ねつ造?


 ただ、私もルシエラと触れあっているのは心地良い。ルシエラはどこを触ってもふにふにだ。まるで赤ん坊のようだ。

 これはもふもふに近いかもしれない。この世界には獣人のようなものはいないのだけど、ルシエラをいつまでもふにふにしてられそうだ。


 その後、私とルシエラは密着してキーボードの練習をしていた。その姿をお嫁さんたちが微笑ましそうに見ていた。私が産みの親と仲直りできたのを喜んでくれているのかな。ルシエラは私に子供をよこせと言っているし、私もルシエラのことを可愛いと思っているので、いつもだったらでれーっとしているとお嫁さんに怒られているところだ。でも、私とルシエラは親子だと思われているので、浮気だとは思われていないってことなのかな…。



 夕食を振る舞われて、私はまたルシエラの寝床にお邪魔した。

 ルシエラは私に抱きついてきた。私より十センチ背が高いのに、上目遣いで求めてくる…。先端に葉っぱを貼り付けただけの二つの球体の間の谷間に私は転落してしまいそう。

 って、ダメだってば!


「まだ子供はあげられないってば…」

「そ、そんなこと言ってないのじゃ!」


 この子、ずっと心拍数が八〇なんだけど大丈夫かな。ブレスレットに魔力を注いでおいた。私のブレスレットの魔力もだいぶ減っているから補充しなきゃ。




 そんな感じで一週間過ごした。


「みんな一週間でうまくなったね!」


 この村にはリュドミラ以外にハイエルフが三人いる。三人ともエリザベータ級の爆乳だ。成人のハイエルフはエリザベータ級の爆乳が標準なんだ。


 普通のエルフは八〇人くらいだろうか。やっぱり、普通のエルフよりハイエルフの方が上達が早かった。ルシエラの血が濃いから、音楽能力がそれなりにあるのだろう。それに、相対音感くらいは持っているようだった。だからといって、私とルシエラが歌ってみせても、それをまねられるのはハイエルフですらいなかった。初めて歌を歌おうとしたんだ。これから長く練習していけば、きっと歌えるようになるはず…。


「しばらくしたらまた来るね。そのときまでに新曲の楽譜を描いておくよ」

「ありがとう。ユリアーナ様、奥様方」


 リュドミラが「奥様方」だって…。


「それじゃまたねー。ふんふん……♪ふんふん……♪」


 私は異次元収納を開いて、空間の魔石の魔力を使ってワープゲートを開いた。


 お嫁さんとメイドたちを先にゲートに通して、私がゲートを通ろうとしたら、スカートを引っ張られた。


「ルシエラ?」


 赤らめた顔でそっぽを向きながら、私のドレスのスカートを引っ張っているルシエラ。


「早く帰れ」


 言ってることとやってることが逆。これがツンデレ。お持ち帰りしたいのはやまやまなのだけど…、


「ルシエラはここでみんなに音楽を教えてあげて。そして歌声を聞かせてあげてよ」

「もう来るでない!」


 ルシエラはスカートを掴んだまま離さない。相変わらずセリフと行動が逆だ。


「これからは一ヶ月に一回くらいは会いに来たらいいかな」

「そんなに頻繁に来られても困るのじゃ」


 と言いつつも折り合いが付いたのか、若干不満を残しながらもスカートを離してブツブツ言っている。


「それじゃよろしくね」

「ふんっ」


 私はワープゲートをくぐり、寂しそうにしているルシエラに手を振りながらゲートを閉じた。

 ゲートを開いてる時間だけ魔力を消費するのだ。今のところ、往復で二週間分私の魔力を魔石に貯めないといけない。お嫁さんを領地に迎えに行く魔力も残しておかないといけないのだ。開いている時間を節約すれば、次に来られるのも早まるというものだ。




 ルシエラの村から帰った翌日からは、発魔器の整備や発魔量の調査などをした。この発魔量なら、王都とマシャレッリ領のワープゲートを一日につき十回くらい使えそうだ。私の一日の魔力の十倍くらいある。これはすごい。

 もちろん、ワープゲートはそれだけではなく、お嫁さんの領地とを結ぶものもほしい。


 魔力を貯めておくための魔石があっという間に満杯になってしまう。これでもミノタウロスをお肉にするときに採集したり、各地のハンターギルドから買い占めに近い状態で取り寄せてたりしているというのに。


 もちろん、この魔力をワープゲートだけに使おうとは思っていない。蜘蛛の糸の生地を溶かすための火の魔力や街道整備のための土の魔力など、使いたいところはいくらでもある。


 それから、雷や空間の魔力から変換することはできないけど、木の魔力を発魔できるとそれだけ作物を育てられるのが、なにより嬉しい。



 前回の休みで注文しておいたハープボウが五つできあがっていた。ハープ製作技師を呼んで納品させた。ハープ製作技師には楽器かオルゴールをいつも何かしら頼んでいるので専属状態だ。ほんとうは、技師のいない周辺の低位貴族からの注文も受けていたらしいのだけど、そんなものを受けている余裕はない。ハープというのは貴族の数だけあればよいのだ。周辺の低位貴族も含めて、一年に一回の注文があればいいところだったのだ。それ以外は副業もやっていたそうだ。だけど、私が常に注文を出しているもんだから大忙し。何人も弟子を取って仕事を回しているそうな。弟子を育てた方がいいか、以前相談を受けたんだよ。継続的に仕事を受けられるフォーキャストがないと技師を増やせないからね。もちろん私は、国中の人に楽器を届けるまで楽器を作り続けると答えたよ。


「ハープボウができたんだね。ちょっと興味あるんだ」

「裏で撃ってみようか」

「うん」


 マレリナとアナスタシアとともに、屋敷の裏の何もない場所へ。


 私は十二本あるハープボウの弦のうち、いちばん長い弦に矢をつがえて放った。薫は弓なんてテーマパークでしか撃ったことない。でも、ルシエラから授けられた戦闘経験には弓矢の使い方も入っているのだ。

 とはいえ、ここには的になるようなものはないので、何かを狙ったわけではなく、適当に飛ばしてみた。


 でも、私はこれを学園の授業に組み込んでみんなに練習させようと思う。戦闘訓練が剣術と魔法の射撃だけじゃね。弓の先生をブリギッテにやってもらうか、外部から招こう。


 弦がラから上のソ♯までしかないから、オクターブをまたぐ曲は反対側に手をやらなきゃいけなくて、ちょっと弾きにくい。でも武器とハープを同時に構えていられるのは強力だ。


 マレリナも興味津々で、矢を撃っていた。的も何もないので、狙いがうまくいったのかは分からないが、私のを見て打ち方だけはまねられた。


 マレリナはポンポンとハープを奏で、自分に筋力強化をかけた。ハープボウはラから高いシまでしかないので変ホ長調はとても弾きにくそうだ。指があっちに行ったりこっちに行ったりして間に合わなくて、最初はリズムがNG判定をくらっていたようだ。

 そして、矢をつがえてぎいいと大きめに弦を引いて、矢を放った。さっきの三倍は飛んだ。


「なかなかやるね」

「見よう見まねだけどね」

「狙いはね、こうするんだよ。あの花を狙ってみようか」

「うん」


 マレリナは矢をつがえて、目線を矢と同じ高さにして、矢を放った。


「やった!」

「うまいんじゃん!」

「ふふっ」


「ねえ、私もやるわ!」

「じゃあ、こうやって持って」


 アナスタシアが挑戦。マレリナが教えている。アナスタシアはリハビリスーツなしでも人並みに動けるようになったけど、まだ着続けている。スーツを使えばマリアちゃんやセラフィーマよりも力が強い。


「できたわ!」

「上手よ!」

「私、マレリーナみたいに強くなるわ!」

「お手伝いするわね」

「いつもありがとう」


 アナスタシアの矢はとりあえず、まっすぐ飛んでいった。アナスタシアの介助はもう必要ないのに、マレリナはいつまでもアナスタシアのサポートを続けてくれている。




 私たちは教会に赴いた。メンバーは、私とマレリナ、アナスタシア、そして、エッツィオくんと、セルーゲイとタチアーナ。領主一家勢揃い。


「じゃあ、エッツィオくん、よろしく」

「はい。お姉様。

みんな、いいかな?一、二、三、はい!」


 かっかっかっ……♪(木琴)

 ひょーろーろー……♪(リコーダー)

 ぽんぽんぽん……♪(エッツィオのハープ)


「すばらしいです!」


 花の歌を歌詞なしで、教会に集まった子みんなで主旋律を演奏してるだけだけど、みんなよくできている。


「ほう。幼児がよくやるな」

「可愛いわね~」


 演奏が終わると、アルフレート神父とハンスが子供たちの前にたらいなどの道具を準備している。初期魔法の練習セットだ。


「では順番に」


 ぽんぽん……♪


 エッツィオくんのかけ声に、ほんのり赤い髪の子が火の魔法を奏でた。たらいの中の枯れ葉に火が付いた。


 ぽんぽん……♪


 ほんのり黄色い髪の子が明かりの魔法を奏でた。箱の中に淡い明かりが灯った。


 それから、木魔法で木の枝がちょこっと動いたり、土を盛り上げたり、効果としては本当に些細なものだけど、大勢の子が魔法を使ってみせた。ここに集まっている子は三歳から六歳の子が八〇人。将来が楽しみだ。


「ほう…。これだけの魔法使いを育てているのか…」

「みんなすごいわ~!」


「ご褒美です」

「「「「「わあああーい」」」」」


 エッツィオくんとアルフレート、ハンスが、子供たちにお菓子を配った。

 タチアーナは子供たちのところへ行き、「もう一度やってみて」と言ったり、子供の頭をなでたりしている。

 セルーゲイは難しい顔をしている。



 屋敷に戻って、私はセルーゲイの執務室に呼び出された。


「ユリアーナよ、あれはそのうち戦力になるのか?」

「訓練次第では」

「ふむ」

「まあ、一人一人の魔力は貴族の第三子や第四子にも及ばないでしょうが、総量は余裕で超えるでしょう」


 両親の魔力の平均に対して、第三子は五割、第四子は二割の魔力を持って生まれる。魔力の発現した平民の子らは、その一〇〇分の一というようなレベルだったが、初期の十倍くらいにはきたえたんだよ。


「魔法使いの軍隊など聞いたことがない。国になんと言わ……」

「国には報告してありますよ。私は反乱分子だと思われていた時期もあるようなので」

「殺されかけたのだったな」

「はい。私の暗殺を目論んだ貴族はほぼ一掃されたようですが」


 邪魔法…管理魔法によって、私の声を奪う者はこの世に存在できなくなったはず…?


「あまり急がなくてもよいのではないか」

「これは私が持って生まれた使命のようなので、私は自然とそうしてしまうようのです」


 私は歌を広めてアニソン歌手になりたいんだ。魔法使いを増やすのは、音楽を広める口実でしかない。というのは伏せておこう。

 私が歌を広めようとするのは前世の記憶に寄るものだ。私が歌を広める過程で魔法を広めることができる。薫の魂が選ばれたのは、ユリアナの波長に合っているからだという。聞こえる音程だけでなく、歌を広めようとすることもマザーエルフの使命、むしろ運命にそぐうものなのではないだろうか。


「そうか。おまえは国に魔法をもたらすとともに、国に富をもたらしている。私はおまえを支援しよう」

「ありがとうございます。お父様。それではお父様もお母様も、私たちと一緒に娯楽・芸術音楽をたしなみませんか?」

「そうだな。あれほど心動かされるものはなかなかない」


 こうして、セルーゲイとタチアーナも娯楽・芸術音楽をたしなむようになり、エッツィオくんと一緒に教会で音楽を広めてもうらうこととなった。今回実家に帰ったお嫁さんたちも、同じように娯楽・芸術音楽の良さを家族や家臣に伝えていることだろう。




 次はハイドラの村に音楽を布教しにいくためにワープゲートを開いた。長距離ワープゲートのために空間の魔力を魔石にためておいたのだけど、お嫁さんを迎えに行く魔力も残しておかなければならない。全部で往復五〇〇〇キロくらいの距離になるんじゃないだろうか。私の魔力でためた分だけだと、けっこうぎりぎりだけど、発魔器を作ったからだいぶ余裕ができた。


 マレリナとアナスタシア、それから今回はエッツィオくんも連れてきた。あと、メイドのオルガ。

 教会の方は親に任せてみたのだ。


「やあ、ユリアーナだっけ。また来たんだね」

「こんにちは」


 村のエルフが私を見かけるなり寄ってきた。ニコニコと友好的に…振る舞うように記憶改ざんしてあるからね…。だいたい、ルシエラがエルフの王であるのはマザーエルフだからであって、王というのは他の者が成り代われるものではない。ルシエラは王として村やエルフ全体を支配しているわけではないのだ。ルシエラを見れば、かってにエルフが崇拝するのだ。王座を奪おうとしている者たちはルシエラに会ったことがないので、王のなんたるかを理解していないだけだ。


「今日は皆さんにお願いがあって参りました」

「今回は村長は酔っ払ってないから、村長に会うといいよ」

「はい」


 前回、一〇〇パーセントエタノールを四リットルをハイドラの胃や腸に生成したので、ハイドラはひどい酔っ払いになってしまった。おかげで、洗脳したあと一度も会ってないんだ。


 私たちは村長の家に通された。


「お初にお目にかかります。ユリアーナと申します」

「銀髪のエルフか…。たしか捨てられて人間に育てられたハイエルフだったな。他にも何かあったような…。まあいいか」


 だいぶ深い記憶まで探ってつじつまが合うように改ざんしたつもりだったけど、銀髪エルフに対する記憶が根深く残っているのだろうか。


「私はハイドラだ。この村の村長をやっている。まあ座れ」

「はい」


 エリザベータ級の爆乳を携えるハイドラ。むしろ、この大きさが成人ハイエルフの標準だ。他のエルフは十歳のころのスヴェトラーナ級だ。いつもエリザベータ級だとか十歳のころのスヴェトラーナ級とか思ってるけど、スヴェトラーナはすでにエリザベータ級に近づいているし、だんだんそのいい方が煩わしくなってきた。これからはハイエルフ級、エルフ級ということにしよう。


 それはさておき…。それはさておきとかいって、いっつも女の子の胸のことばっか考えてるみたいじゃないか。いや、こんな、先っちょにちょっと葉っぱがくっついてるだけの爆乳見せつけられて無視できるわけないじゃないか。これを見て何も感じない男はおかしいよ。いや私は男じゃなくてエルフだけど。ほら、そこらのエルフもハイドラの胸が揺れるたびにちらちらと見てるじゃんか。私みたいに心拍数を抑えないと気絶してしまうということはないみたいだけど。私もそのうち見慣れて、気絶しない程度にはなるのかな…。


「話を聞こうか」


 ハイドラを待たせてしまっただろうか。心拍数を抑えていても、こうやって思考リソースを割いて女の子の胸のことについて真剣に考えていることがある…。


「私たち、催しを用意していまして、三十分ほど村の皆さんを集めていただけないでしょうか」

「ふむ。いいだろう」


 というわけで、広場に住人を集めて演奏会を開いた。みんな喜んでくれた。そしてみんなに楽譜の読み方を教えて、みんなで演奏する練習をした。この村にはルシエラがいないので、上達の早いハイドラに指導役を任せることになった。



 ところでいまさら気がついたけど、エルフの言語ってローゼンダール王国の平民言葉と同じなんだな。なまりとかもそれほど感じない。だけど、ハイエルフは貴族のお偉いさんの口調だ。しかも男の口調。

 ハイドラは五〇〇歳くらい、リュドミラは八〇〇歳くらいだけど、五〇〇年前っていったら戦国時代?八〇〇年前っていったら鎌倉時代?昔はそういう口調が標準だったのかもしれない。

 ルシエラはのじゃキャラだけど、何万年も前は男も女もみんなのじゃのじゃ言っていたのだろうか…。




 エルフの村は他にも何カ所かあるのだけど、銀髪エルフが行くとまた敵対されるのかな…。めんどいから後回し…。

 それにもうそろそろお嫁さんの領地に行かないとな。


 というわけで、まずはマリアちゃんのジェルミーニ男爵領へ。ジェルミーニの屋敷の門の前にワープゲートを開いた。門の前に立っていた、くたびれた革鎧の兵士が驚いている。


 貴族は貴族家へ徒歩で訪れたりはしないのが常識だが、これからワープゲートが普及すれば、馬車の数は減るだろう。というこじつけで、ジェルミーニの屋敷に徒歩で訪れた。


「ユリアーナ・マシャレッリです。マリア・ジェルミーニ様にお目通り願います」

「はっ。しばしお待ちを」


 門番が一人じゃ、こうやって誰かを呼びに行ったときに門ががら空きだけど?喫茶店とレストランのフランチャイズ店舗を展開したから、それなりに潤ってるはずなんだけど。

 ジェルミーニの屋敷は木造のおんぼろだ。まあ、私が新築する前のマシャレッリの屋敷も酷かったから、人のことをいえない。


「ご案内します」


 兵士が戻ってきて応接間に通された。


「ユリアーナぁ!」

「わっ」


 マリアちゃんが私の胸に飛び込んできた。マリアちゃんの背は私より五センチくらい低いだけだけど、マリアちゃんは少しかがんで顔が私の胸に来る高さで飛び込んできた。マリアちゃんの顔が私の胸に押しつけられて、危うくドレスのカップから胸が飛び出るところだった。肌にペタッとくっつく葉っぱを使っていなかったら、私の胸の大事なところはあらわになっていただろう。


「私、ぜんぜんできなくて…」

「男爵様は?」

「仕事が忙しくて…、私の音楽を聴いてくれたのは一回きり」

「じゃあ、神父様に頼るしかないね。教会に行こっか」

「うん」


 貧乏男爵に遊びの音楽をやっている余裕はないかな。マリアちゃんもプレゼンできるような子ではないし、一人に任せるべきではなかったか…。メイドにも頼んだんだけどね…。



 私たちは徒歩でジェルミーニの教会に赴いた。男爵領は狭いので。というか、男爵家に馬車はなく、基本レンタルらしい。


 私は神父に魔力持ちの子供の調査を言いつけた。というか、これは教会の基本的な仕事だ。それから、楽譜の読み方の説明書と童謡の楽譜を渡しつつ、お嫁さんたちと演奏を披露した。


 各領地の教会には、一日あたり銀貨九枚の補助金が国から出されている。というか、私がコロボフ子爵領のレナード神父に金運の祝福をしたら、補助金が出るようになってしまったのだ。

 聖魔法は悪事に使えないので、この補助金を悪いことに使ったり、着服して私欲を満たすことはできない。このお金は魔力持ちに子供を発掘して教育するためにしか使えない。ジェルミーニの神父は律儀に補助金をプールしていた。というか、着服するような者が神父にならないようになっているのかもしれない。

 八年間で大金貨二十六枚分だ。これだけあれば領地運営も楽になるはずだけど、このお金は死蔵されているようだ。悪いことに使えないだけだから、領民を豊かにするような使い方なら許されそうなものだけど。


 というわけで、このお金を使って調査員を雇ったり、楽器を買ったりしてもらうことにした。もちろん、楽器は安い木琴とリコーダーだ。ちなみにジェルミーニ領にハープ製作技師はいないし、木琴とリコーダーを作れるにはマシャレッリと王都の木材加工屋だけなので、基本は輸入だ。




 ジェルミーニ男爵領での用を終えて、マリアちゃんをマシャレッリ領に連れて帰った。翌日はアルカンジェリ子爵領に赴いた。


「会いたかったよぅ」

「わっ」


 ブリギッテが私に抱きついてきた。ブリギッテの背は私より二十五センチくらい高いので、私の顔はブリギッテの胸の谷間に挟まれ…るはずだったのに、私の顔はスカッとブリギッテの胸板に到達した。

 ブリギッテの胸はお風呂で毎日見ているし、ローテーションで三日おきに抱かれて寝ているから偽乳じゃないことは分かっている。これは、昨日私がマリアちゃんに抱きつかれて恐れたことが起こったに違いない。ブリギッテはドレスを粘着葉っぱのものに新調していなかったから、胸がカップから飛び出してしまったのだ。きっと大事なところがあらわになってしまっただろう。

 でも、ブリギッテは気にした様子もなく、私を抱き続けている。エルフはいちおう大事なところを葉っぱで隠して生きているけど、じつは私が思っているほど大事じゃないのだろうか…。


「もう、いつまでそうしてるのさ」

「一ヶ月以上会えなかったんだよ。少しくらいいいじゃん」

「しかたがないな…」


 マリアちゃんが私をブリギッテから引き剥がそうとした。だけど、自分も昨日同じことをしたのを思い出して、しぶしぶ手を離した。


「もういいでしょ!」

「はぁ。しかたがないなぁ」


 マリアちゃんは一分もたたずにしびれを切らして、私を引き剥がした。


「ユリアーナもユリアーナだよ!」

「えっ、私?」

「いつも無抵抗じゃん!」

「それは、まぁ…」


 たとえ窒息しようと、胸の谷間に顔をうずめたら顔をうずめたら抗えないよね?



 それはさておき、って、私はいっつも胸のことばっかり考えてるな…。だって、日本にいたら胸なんてあまり見ないでしょう。その代わり脚を見られるけど。この国では胸を出すのが当たり前でも、太ももを出してる人はまずいないからね。まあ、エルフの村に行けば何でもありだけど…。


 今度こそそれはさておき、アルカンジェリ夫妻は金にならないことにあまり協力的でなく、やるなら勝手にやれと。

 ブリギッテも教会の補助金をどうやって使うのかとか、王都の楽器屋に木琴とリコーダーを発注するとか、どうやっていいのか分からなくて、右往左往していたらしい。結局、マリアちゃんのところと同じようにいちから始めることになった。




 その晩はブリギッテをマシャレッリに連れて帰り、翌日はロビアンコ侯爵領に赴いた。


「ユ……」

「えっ…」


 セラフィーマは私の名前が出てこなかったのかな…。一ヶ月ちょっと会わなかっただけなんだけど…。

 それをごまかすかのように、私に抱きついてきた。セラフィーマも私より身長が二〇センチ高いので、私は顔を胸に埋めることになった。とはいえ、ブリギッテのような巨乳ではないので、窒息はしない。だけど…、いや毎回胸のことばっかり考えるのはいかがなものか…。


「ねえ、セラフィーマ。私のなま……」

「ユ………」

「……え……、忘れちゃったの?」

「ユ………リアちゃん!」

「えっ…」

「そう!ユリアちゃん!」


 二文字から三文字にパワーアップした…。いや、もう四年以上付き合ってるんだから、最後まで覚えてほしい…。でも…、


「名前、少し多く覚えてくれたんだね…」

「もう一文字あったような気がしますが、今は三文字勘弁してください…」

「あと五年で最後まで覚えてくれればいいよ…」

「今ユリアちゃんの名前を思い出したら、親の名前を完全に忘れてしまいました」

「えっと…、覚えていた方がいいと思うけど、今、親の名前を伝えると今度は私の名前が飛んでしまいそうだから、これ以上言わないでおくね」

「そうしてもらえると助かります」


「で、音楽の布教活動は…」

「魔力の発現した子供を調べるために一軒ずつ回って、ようやく領都の一割くらいです」

「えっと…」


 セラフィーマは人付き合いが苦手だから、人を動かすという考えがないんだな…。まあ、私も前世ではそういうのはできなかったよ。人のことを知らないから、誰に頼めばいいか分からないし、誰に頼めばいいのかを教えてくれる人も分からないんだ。私の場合は今はきっとエルフの王の血が指導者としての能力を与えてるのかな。


 この調子だと、サルヴァトーレ侯爵とエカテリーナ夫人も個人でやっちゃって進まなそうだな。そうだ。ロビアンコ家を動かしているのは…、


「あの…、父君の執事に会わせてもらえる?」

「いいですよ」


 私は他家の家臣の名前など知らないけど、セラフィーマのことだから自分の家臣の名前も知らないよね?むしろ役職で呼んだ方が早いよね?



「ユリアーナ・マシャレッリ様、私めに何用でございますか」

「かくかくしかじかでして」

「この案件には教会の予算を使えるのですね」

「はい」

「かしこまりました。人員を手配しましょう。これは将来性のある案件ですから、侯爵家からも予算を割きましょう」

「ありがとうございます」


 ロビアンコ侯爵領はこの執事がいなかったとっくに潰れている。かってに予算を割くとか言ってるし、すべての実権をこの者が握っているといってよい。当主と夫人、子供は魔力や魔道具の知恵を提供するコマにすぎない。


 この執事に頼めば何でもやってくれる。だけど、この執事は基本的に当主のサルヴァトーレに付いていて、サルヴァトーレのやるべきことを率先してやってはくれるが、セラフィーマのことまでは気が付かなかったらしい。




 というわけでその夜はセラフィーマを連れて帰り、翌日はフョードロヴナ公爵家へ。


「ユリアーナさまぁん…」

「ふが…」


 当然、私の顔はスヴェトラーナの巨乳、いやそろそろ爆乳の域に達しつつある二つに球体の谷間に吸い込まれた。とても柔らかくて顔にフィットするため、空気を通す穴が全くない。

 スヴェトラーナは三ヶ月おきにドレスを新調しているので、ドレスのカップ裏地は張り付く葉っぱになっているようだ。だから、二つの球体がいかに動こうとも大事なところがあらわになる心配がない。……。



 知らない天蓋だ。


「ユリアーナ様、ごめんなさい…。久しぶりにやってしまいましたわ…」

「えっと…」


 ブレスレットの魔力は切れていない。私はドキドキしすぎて気絶したのではないようだ。私はスヴェトラーナの爆乳の大事なところどうなっているかを冷静に分析して予想していた。窒息することも分かっていた。窒息することよりもスヴェトラーナの爆乳が大事だった。私、冷静だったのかな…。


 もう日が暮れそうじゃないか…。何しに来たんだか…。


「スヴェトラーナ様…ごめんなさい。音楽を広めるお手伝いに来たのに…」

「心配には及びませんわ。すでに魔力持ちの子の調査が終わり、明日は子供を集めて演奏を披露するところだったのです」

「まあ、なんと!」


 さすが公爵家。公爵家とは、王家の血を引く者の末裔なのだ。まあ、公式にそう言えるのがフョードロヴナ公爵家だけであって、実際には魔力持ちの子孫が途絶えたときのピンチヒッターとして、王子になれなかった王の息子と娘が、無名の養子として迎え入れられているようだから、多くの貴族家に王族の血が少なからず混じってるんだろうけど。



 その日は私が気絶したし、教会の子を集めるのは翌日だということで、フョードロヴナ家に泊まることに。


「ごきげんよう、ユリアーナ様。来てくださって嬉しいわ」

「ごきげんよう、エリザベータ様」


 薄紅色髪のエリザベータも同じドレスを着ている…。でも最近スヴェトラーナもこの領域に届きつつあるし、ハイエルフを何人も見たからなのか、あまりドキドキしない。あとは、谷間に吸い込まれたときに冷静に窒息を受け入れないようにしないと…。


「ユリアーナ嬢、よくぞ参られた」

「突然の訪問に体調を崩してしまいもうしわけございません」

「お気になさらず」


 オレンジ髪のウラディミール公爵だ。社交界以来だ。


 夕食の席では当たり障りのないことしか聞かれなかった。だけど…、


「ふがっ…」

「さあ、最近何をやっているのか吐いておしまい」


 夕食後に廊下で突然エリザベータの爆乳に包まれた。私の頭より大きい二つの球体がむにゅっと私の顔や耳にフィットしている。スヴェトラーナが何か言っているが、二つに球体は高周波を通さないので、何を言っているのか分からない。

 私は冷静にふんふん♪と口元に上空への小さなワープゲートを作成して、空気の通り道を確保した。文字通り風穴を開けたのだ。鼻歌の息を吐けるだけの空間があってよかった。いや、空気の分、胸がむにっと潰れたのかもしれない。


 慣れたからブレスレットの魔力を消費しないけど、これは依然として至福の感触だ。私はこの感触を永遠に味わう方法を冷静に考え出したのだ。


 というのもつかの間、私はエリザベータの爆乳も谷間から引っこ抜かれた。まるでぽんっという音が鳴ったかのようだ。だけど、実際には空気穴が開いているのでぽんっと鳴らなかった。

 引き抜いてくれたのは、マレリナとブリギッテのようだ。力があるしね。

 私は谷間に開けた風穴を閉じた。


「ユリアナ、大丈夫?」

「うん。ありがとう」


 マレリナはいつだって私を心配してくれる。


「ユリアーナ、どうだった?」

「なかなか」

「いいな~」


 ブリギッテは同士だ。


「ちょっと、ユリアーナ様!わたくしというものありながら!」

「ふがっ」


 今度はスヴェトラーナの爆乳へダイブ。風穴を開けて永遠の至福の時間を…。


「じゃあ、今度は私に」

「ふがっ」

「ちょっとブリギッテ様!」


 今度はブリギッテの谷間にダイブ。


 そのあとも、セラフィーマとマレリナの胸にダイブしたり、マリアちゃんのむ…な板にダイブしたり、アナスタシアの胸板にさえダイブしたり。意識を失わずに軽くドキドキして至福の時間を味わえるようになったよ!



 翌日、私とお嫁さんたちは、フョードロヴナ夫妻を伴って教会へ。三歳から六歳の魔力持ちの子が八十人も集まっており、木琴とリコーダーも八つずつだけど用意されている。スヴェトラーナが優秀すぎる!私より優秀なんじゃない?

 「転生者 二十過ぎれば ただの人」という俳句があるように、私の前世の知識や経験なんて特定の分野でしか役に立たないし、ルシエラから受け継いだこの身体だって指導者や統率者の資質があるわけじゃない。この世界にだって、私より優れた者はたくさんいるのだ。


 ひょーろーろー、……♪(マレリナとアナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっ、……♪(マリアとブリギッテの木琴)

 ぽんぽんぽん、……♪(スヴェトラーナとセラフィーマのハープ)

 ぽんぽんぽん、……♪(ユリアナのキーボードベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナのドラム)


「春が早く来ないかな……♪」


「「「「わああああああ!」」」」」


 子供たちから一斉に歓声が上がった。そして、合わせて八個ずつしかない木琴とリコーダーに群がる八十人の子供たち。


「順番ですわよ。さあ、八人ずつ並んでくださいまし」


 子供たちはスヴェトラーナの言うことを聞かない。だけど、スタッフが子供たちはかき分けて、整列させた。主の意をくんでうまく動いてくれるスタッフも連れているし、スヴェトラーナは人を動かすのがうまいんだな。


 そして、一分交代ではあるが、子供たちは木琴をかっかっと叩き、リコーダーをひょーろーろーと吹いて、楽しんでいた。もちろんリコーダーについては、水魔法使いを用意して、ちゃんと洗っている。


「なるほど。子供たちはあなたの楽しい音楽を学びながら魔法音楽を学び、魔法使いとしての訓練を受けるというわけですわね。そしてマシャレッリに技術供与してもらって立ち上げた産業に、子供たちは将来従事すると」

「その通りです」


 エリザベータはこの活動の目的を悟った。

 本当は将来アニソンを作れるようになってほしいのです。


「この楽器はハープと比べて安価でしょうが、八十人分の予算は足りているのですか?スヴェトラーナ」

「はい、お父様。当面は教会に貯められた補助金で足ります」

「しかしそれでは、補助金を食い潰してしまうでしょう。これは公爵家で取り組むべき活動ですね。公爵家で予算を組みましょう」

「ありがとうございます。お父様」


 ウラディミールは子供たちに投資して、将来それを回収するビジョンを描けたのだろう。さすがだ。当たり前だけど私よりキレる者はたくさんいるのだ。でもうぬぼれて失敗するのも転生者の嗜みだ。許してほしい。


 こうしてフョードロヴナでの布教活動がいちばんに幕を開けた。


 私はスヴェトラーナを連れてマシャレッリに戻った。



 さて、お嫁さんたちをすべて回収したら、最後にコロボフ子爵領の私の育った村の教会を訪れた。


「ごきげんよう」

「どうにかしてくれ…」


 レナード神父は困った様子だ。なぜなら、子供十人に囲まれているからだ。


 この村の子供は十人。そのうち二人が魔力持ちだったらしい。でも神父様は魔力持ちに限らず、みんなに音楽を教えていたらしい。神父様はなんだかんだいって面倒見が良いのだ。


「このまま予算にムリのない範囲で子供たちの教育をお願いします」

「キミはこの老体にいつまで鞭を打ち続けるつもりだ」

「何言ってるんですか。まだまだこれからですよ」


 神父様は言っていることに反して楽しそうだ。ツンデレなのかもしれない。


 どうでもいいけど、レナード神父はたかが元男爵家の三男で、私が出会ったときから貴族ではない。私はもうすぐ貴族当主になるというのに、いつまで神父様を様付けで呼んでいるのだろう。まあ、私に魔法と音楽の世界を与えてくれた神父様さまさまなのだ。


 この村の教会は大丈夫だ。子供たちとしばらく演奏を楽しんだ。

 教会をあとにして、マシャレッリへ。そして、数日、お嫁さん全員との休みを楽しんだ。




 夏の長期休みに終わりを告げる。私とマレリナはそれぞれお母さんと家族に挨拶に行った。それから私たちはワープゲートで王都へ。今回は王に報告することはないよ。音楽の布教活動をしていただけだしね。


 授業が始まる前に、王都の農園やお店に赴いた。仕事の報告を聞いたり、方針の調整をしたりするために、毎回やっていることだ。


 管理職や店長から話を聞いていると、スタッフの間で娯楽音楽が流行っているとの噂を聞いた。その仕掛け人がお家お取り潰しとなったジョジョゼ、クレマノン、イアサント、ドリエンヌの四人なのだ。ジョジョゼとクレマノンはそれぞれ母親と暮らしている。イアサントとドリエンヌは天涯孤独になってしまったので、二人で暮らしている。


 私は農園の執務室に四人を呼び出した。


「「「「ごきげんよう、ユリアーナ様」」」」

「ごきげんよう。仕事や生活はうまくいっているかしら?」


「ええ。攻撃魔法のない木魔法使いが、ここまで重宝されているとは思いもしなかったわ。男爵家にいたときよりも贅沢できてるし」


 淡い緑髪のイアサントがハキハキと答えた。


「ガラス加工は大量に魔力を消費するけど、やりがいのある仕事だわ。」


 淡いオレンジ髪のドリエンヌも充実していそうだ。


「私も料理の水とか、食器洗いの水とかで引っ張りだこよ。お母様もかまどの温度調整でがんばっているわ。領地の魔物討伐なんかよりよほど楽で良いって言っているし」


 淡い青髪のクレマノンも充実していそうだ。水魔法使いはもともと雇っていなかったのだけど、役に立つのなら雇おうかな。

 クレマノンの母親は火魔法使いだ。温度調整だけなら魔力が少なくてもじゅうぶんできるのだ。


「最近はミノタウロスの搾乳やコカトリスの卵採取に、雷魔法のショックや真空魔法で気絶させなくても採取させてくれる魔物が増えたの。私とお母様、必要なくなってしまったらどうしよう」


 淡い黄色髪のジョジョゼはちょっと不安そうだ。ジョジョゼの母親は風魔法使いなので、一緒に魔物を気絶させる仕事をさせている。

 たまに、私が心魔法で洗脳したり記憶を改ざんしたりして、魔物の性格を穏やかに改造していた。もしかしたら、それが遺伝子に焼き付いたかな?


「皆さん仕事が充実しているようで何よりよ。ジョジョゼの仕事については、考えておくわね」

「お願いします」


 とりあえず、一部課題がありそうなので持ち帰ろう。でも今日はそのことを聞くために呼んだわけじゃないのだ。


「それで、皆さん、最近娯楽音楽のかつど………」


「そうなのよ!私たち、ユリアーナ様との楽しい時間を忘れられなくて!」

「休日に四人で一緒に娯楽音楽を奏でていたら、他のスタッフもやりたいって言ってハープを持ってきたの!」

「ハープを持ってないスタッフもやりたいって言ってきたから、木琴とリコーダーを売っているお店を紹介してあげたわ!ハープと違ってとても安いのね!」

「殿方もやりたいって言ってきたの!私、仲良くなっちゃったらどうしよう!」


 キミたち…。楽しそうで何よりだ…。


 木琴とリコーダーは大銀貨一枚だ。高給取りのマシャレッリスタッフなら余裕で買える。娯楽の少ない文明社会で、音楽というのはとても魅力的なのだろう。


「お願いがあるの!」

「何かしら、イアサント」

「私たちの演奏を見に来て!」

「演奏会を開くのね。もう学園の授業が始まるから、次の休日でいいかしら」

「それでお願いするわ!」


「私もお願いがあるの」

「なあに、ドリエンヌ」

「新しい曲はない?」

「では、今ある分をあげるわ。ふんふん……♪」


 異次元収納から、三曲目の童謡と、アニソン二曲の楽譜を取りだした。


「えっ…、それって空間魔法よね…」

「あっ…」


 やっちまった。


「それに、ハープも何もなしに…」

「えーっと…、私が空間魔法を使えることと、歌で魔法を使えることについて、他言無用でお願い…」


「「「「分かったわ」」」」


 鼻歌はともかく、異次元収納は平民の前ではよく使っていた。平民は髪色と魔法の属性の関係を知らないからだ。

 ドリエンヌたちに悪意センサー反応しない。部屋にいる使用人は平民なので、髪色と属性の関係を知らなかったと思うけど、今の話を聞いて悪用しようと考えるかもしれない。


「あなたたちもお願いね」


「「「はい」」」


 使用人にも悪意の反応はない。やはり、私の声を奪おうとする者はこの世に存在しなくなったのだろうか。


「あの、もう一つお願いが」

「何かしら、クレマノン」

「楽譜を市販してみない?」

「なるほど」

「最初は私たちで紙を買って書き写そうとしたんだけど、娯楽音楽クラブのメンバーは今や一〇〇人を超えてるの。多すぎて大変だからどうしようかと思って…」


 羊皮紙はもともとA4くらいの用紙一枚につき大銀貨一枚(一万円)もしたのだが、マシャレッリ家でミノタウロスや羊から量産することによって一枚につき銀貨一枚(千円)までコストダウンしている。まあ、紙代は相手から取ればいいだろう。

 書き写すのもネズミ講式に増やしていけるし、二の七乗で一二八人分作れるけど、まあここは裏技を教えてあげよう。


「クレマノンにいい魔法を教えるわ」

「ええっ?」

「ここに楽譜と白紙を置いて…。ふんふん……♪」


 私は水魔法のコピペを使った。白紙の上にインクを生成し、手本と同じものを描く魔法だ。


「楽譜が一瞬で…」「「「すごい…」」」


「これは水魔法の複写よ。複写魔法の楽譜はこれ。学園と王家に公開しているから、そのうち学園で教えるようになるとは思うけど」

「ねえ、私、これを仕事にしたい」

「そうね。でも演奏者が増えないとそこまで需要は増えないわ」

「じゃあ、私たちで娯楽音楽クラブの仲間をどんどん増やすわね!」

「えっ、うん」


 こんなにやる気になってくれるとは思ってなかったから驚いてしまったけど、とても嬉しい。




 演奏会の約束をして、五年生後期の授業が始まった。私が王家と学園にだいぶ前に公開した新しい魔法が授業に取り入れられた。学園で学ぶ本来の魔法をすべて三年生の前期で覚えた私のクラスは、魔法の授業が単なるハープ練習になっていたのだ。


 それはさておき、休日がやってきた。娯楽音楽クラブの演奏会だ。私とお嫁さんたちは王都の郊外にある農園に赴いた。


「何これ…」

「仮設の会場ですわね…」


 一〇〇人以上乗れる舞台と、長椅子を土でたくさん作ってあった。ドリエンヌの魔力では一週間でこの規模の土を盛るのは厳しい。メンバーの土魔法使いと協力しあったのだろう。


 会場には二〇〇人くらいの客が集まっていた。マシャレッリのスタッフとその家族だけじゃないんじゃない?


「ごきげんよう。よく来てくれたわね。特等席を用意したわ」

「ごきげんよう、クレマノン。それにイアサント、ジョジョゼ、ドリエンヌ」


「「「ごきげんよう」」」


 私たちは最前列の中央の席に案内された。


「今日は私たちの演奏を聞きに来てくれてありがとうございます。それでは始めます」


 クレマノンが司会をしている。どうでもいいけど、ちゃんと敬語使えるよね。キミたちは平民墜ちした元男爵令嬢で私は現役侯爵令嬢だし、キミたちは私が雇っているスタッフで私ってキミたちの上司だよね?なんて、元同級生の友達に言ったりしないけどね。


 ひょーろーろー……♪(リコーダー)

 かっかっかっ……♪(木琴)

 ぽんぽんぽん……♪(ハープ)


 お花の歌だ。歌手がいないけど。みんなで主旋律を演奏している。でも一〇〇人以上の演奏なんて初めて聞いた。そりゃ、やり始めたばかりで間違えてる人もいっぱいいたけど、これだけたくさんの音が重なり合ってるのはこの世界で初めてだ。


「「「「わぁ!」」」」」


 それから、もう一曲、春の歌を演奏された。こっちはまだ熟達している人が少なくて酷いもんだ。だけどいいのだ。これは娯楽音楽なのだから楽しければいいのだ。


「ユリアーナ様」

「えっ、私?」


 私はクレマノンに手を引かれて、舞台に上がらされた。


「歌ってください」

「えっ、ええ」


 面食らったけど、歌がないので物足りないと思っていたところだ。


 ひょーろーろー……♪(リコーダー)

 かっかっかっ……♪(木琴)

 ぽんぽんぽん……♪(ハープ)


「花が咲いた、綺麗だわ……♪」


「「「「「わあああぁ!」」」」」


 二回目だけど私が歌った方が歓声が大きかった。私は相変わらず可愛いアニメ声で歌っているというのに、みんなちょっとうっとりしている。可愛いものを見る目じゃなくて、綺麗で美しいものを見るような…、いや、これってもしや、かっこよくて頼もしい男を見るような目?特に女性陣がそんな感じ…。男性陣のうっとりは分からない…。


「やっぱりユリアーナ様の声に合わせて演奏するのは楽しいわ」

「学園に通っていた頃が懐かしいわね」


 イアサントとドリエンヌは、私との時間をそんなに大切にしてくれてたんだ…。


 観客は、自分も入れてほしいとか、木琴はどこで売ってる?いくらする?とか演奏者に聞いて回っている。



 こうして、娯楽音楽は王都に瞬く間に広まっていった。領地では教会で子供たちから広めていこうと思っていたのに、王都民の前でろくに練習してないような演奏を聴かせただけでこれだけ人気が出るなんて…。


 演奏者がいなければ楽譜なんて売れないはずだったのに、一曲銀貨一・五枚の楽譜は飛ぶように売れている。また、楽譜の読み方の説明書も銀貨一・五枚で売ることにした。クレマノンの魔力だけでは生産が追いつかない。


 ちなみに、紙代が銀貨一枚で、クレマノンの人件費と手数料が銀貨〇・五枚だ。儲けは度外視だ。普及させたいからね。筆による描き写しで、コピペ魔法よりも人件費を抑えられるとも思えない。競争相手も現れないだろう。


 今、楽譜が売れている分は、マシャレッリの魔法使いスタッフでハープを持っている人と、演奏会までに木琴かリコーダーを買っていた人の分だ。もちろん、木琴とリコーダーも急ピッチで増産している。楽器の生産が追いつかなくなったら、楽譜の需要も楽器の供給量に制限されるだろう。王都の人口を考えると、必要な楽譜はせいぜい一〇〇〇部だろう。一日で数十はコピペできるんだから、数十日で需要はストップするはずだ。楽譜の生産者はクレマノン一人でいいだろう。




 学園のクラスメイトの多くは休日にクレマノンの娯楽音楽クラブで活動することにしたらしい。私のバンドクラブは嫁限定だから入れてあげられなかったしね。

 クラスメイトから新しい曲を得られるし、学校で指導を受けている分、クラスメイトの方が技術もある。むしろ、娯楽音楽クラブとしては、クラスメイトを講師として招いたといっても過言ではない。


 私も休日は王都で楽器と楽譜の生産関連の仕事が増えた。マシャレッリのハープ製作技師と木材加工屋は、マシャレッリ家のほぼ専属となっていたけど、王都の木材加工屋を占有するわけにはいかない。本来彼らは家を建てたりするのが主な仕事なのだ。木材加工屋に指導を仰いで大急ぎで楽器職人を育てている。国民全員が木琴かリコーダーを持つ日も近い。日本人だって、小学校でリコーダーを買わされるしね。


 私とお嫁さんの実家では教会主体で魔力持ちの子供に音楽を教えるところからスタートしたのに、王都では魔法使いもそうでない者も関係なく、娯楽音楽の普及が始まってしまった。嬉しい誤算だ。


 とはいえ、王都はマシャレッリ領の次にスイーツや肉を広めた地であり、さらに、人口もいちばんの町であることから、お嫁さんの領地よりも魔力持ちの子がたくさんいる可能性が高い。フョードロヴナ公爵領はだいぶあとにスタートしたにもかかわらず、魔力持ちの子がマシャレッリよりもたくさんいたのだから。



 そんなわけで王城に登城してアポを取りに行った。


「陛下をお呼びしますので少々お待ちください」

「はい…」


 またアポなしで王を呼びつけることになった…。よく考えたら、アポというのは使用人に取りに行かせるものであって、貴族当主や令嬢が取りに行くものではない。私が直接アポを取りに来ているから非常識なことが起こってしまうのだろうか。


「今度はなんじゃ…」

「えっと…」


 アブドゥルラシド王にあからさまにイヤそうな顔をされた。今日はヴィアチェスラフ王子もいないし。私、国のためになることしかしてないよね?


 領地の教会と同じことを王都の教会でやっていいか尋ねた。


「ふむ…」


「魔力の強い女性が見つかれば、当然王家の妃候補となるでしょう。教会では音楽だけでなく、読み書きや計算など基本的な教育も行います。貴族の養子となったときに即戦力となるでしょう。正直なところ、私のように魔力を見込まれて貴族の養子となったクラスメイトは、基本的な教育が疎かにされていたことは否めません。ですので教会で魔力とともに教養を身につければよいのです」


「うーむ…」


「王家の血に私の血を混ぜることで強い魔力と多い属性数を手に入れることができますが、みんなハイエルフになってしまいます。でも、魔力を含む食べ物でも魔力の高い人間を増やすことができます」


「そうだな…。この国をハイエルフの治める国にしてよいかは、まだ話し合っておらんのだ。そなたの血に頼らずにこの国に魔力をもたらす手段も進めておいたほうがよかろう。そなたに王都の教会を任せる。それと、フョードロヴナと協力して、全国の教会で同じように進めよ」


「承知しました」


 というわけで王都で魔力持ち発掘と演奏家育成をする権利を得た。


 教会で調査したところ、三歳以上の魔力持ちの子供は一二〇人もいた。王都では娯楽音楽クラブから指導役や木琴を借りたりした。そのおかげで、王都の魔力持ち育成はとてもスムーズに進みそうだ。



「あと、農園の周辺に土地を取得したく」

「勝手にするがよい」

「あ、はい」


 言質は取った。農園を広げて、太陽電池畑を作るのだ。その地下には時の流れを回生する施設と、落下エネルギーを回生する施設、菌と植物プランクトンの培養施設を作る。



 それと、ハープボウを王様に見せようと思ったのだけど、よく考えたら、武器もハープも王城には持ち込めなかった。まあ、私は喉も身体も凶器のようなものなのだけど。


 それで、学園にハープボウを持ち込んで、弓術や弓と魔法を交えた戦闘訓練などを取り入れてはどうかと進言しておいた。




 さて、アニソン歌手に向かって着々と近づいている私だけど、最近王都を歩いていたり、子供の調査をしていたりして気が付いたことが…。王都民がふくよかになっている…。甘いものと脂っこいもののせいかな…。っていうかそれしかないよね…。


 私たちは朝ご飯にスイーツを食べて、晩ご飯にお肉を食べている。だけど、私が生クリームやお肉などのだいたいのカロリーを地球のものから予測して、みんなのカロリー摂取量を管理している。この世界は一日二食なので、二食で標準摂取カロリーに関わらない程度に一回の食事の量を決めているのだ。


 喫茶店とレストランのメニューの一食の量も、私が大まかなカロリーで決めている。だけど、一度に二食分以上食べる人のことなんてケアしていない。美味しく育つ魔法のおかげでとても美味しいので、満腹を忘れて食べてしまう人が多いのだろう。


 食糧不足だった数年前に比べれば、肥えている人なんて問題に見えないだろう。でもこのままだと生活習慣病になってしまう。


 そこで、私はルシエラから得た魔法の知識を使うことにした。木魔法の中に薬草に薬効を上げるというものがある。薬草っていっても、この世界に傷が治るポーションとかエリクサーのようなものはないので、私はスルーしていた。だけど、ルシエラの知識によると、薬効というのは薬草の効果だけじゃなかったのだ。すべての食べ物の栄養のことだったのだ。


 だけど、ルシエラは地球の栄養学を知っているわけではないので、細かい栄養素を表すメロディなんて定義されていない。そこで私はマザーエルフの能力を使って個別の栄養素に対応するメロディを定義することにした。やり方は簡単。私がこういう効果の栄養素と強く念じながらメロディを口ずさめばよい。


 まあ、私は栄養士ではないので、そんなに細かい栄養素なんて知らない。とりあえず、エネルギー、タンパク質、脂質、糖質とかだったっけ…、食品の裏に書いてある栄養って。エネルギーを取るとどうなるとか、足りないとどうなるとかを想像すれば、魔法の神様?は理解してくれた。魔法のメロディと決める前に、「薬効」を「上げる」とか口ずさみながら、エネルギーのイメージをして効果があるか試せばよいのだ。効果が分かれば強く念じてメロディを作ればよい。

 他にも、ナトリウムとかビタミンとか、つたない知識の栄養素を思い出して、いろいろメロディにした。


 そのおかげで、味がまったく変わらないのに、甘いとかこってりを実現できるのだ。日本でもやっぱりカロリーハーフマヨネーズよりもカロリーフルなマヨネーズのほうが美味しい。植物油を使ったラクトアイスよりも、本物の乳脂肪を使ったアイスクリームの方が美味しい。ゼロカロリー甘味料より砂糖の方が美味しい。だけど、本物の味そのままに、ゼロカロリーやゼロ糖分の食べ物を実現した。ノンアルコールのお酒もあるよ。たぶん受け入れられないけど。



 というわけで、喫茶店やレストランで一食分を平らげた人が二食目を所望した場合、ノーカロリー、ノー脂質、ノー糖質、ノーナトリウム料理を選べるようにする。回転寿司屋でご飯を半分にできるシステムのようなものである。


 そのための作物を育て始めたところだ。人々は食べ過ぎると太るということを認識し始めたばかりだけど、いくら食べても太らないというのはすぐに魅力的なものだと分かるはずだ。とくに、女の子は無尽蔵にスイーツを摂取できるので、喫茶店では人気になると思う。


 カロリーゼロのミノタウロスとかまったく原理が分からないが、実現できてしまった。脂質ゼロの人間とか怖くて試せない。タンパク質を二倍含む筋肉は力が二倍出るのだろうか。また女盗賊を捕まえられないかな。最近馬車に乗っていないから捕まえようもないけど。


 逆に、高栄養価の携帯食というのも、ハンターや旅商人に需要があるだろう。ちなみに、水分というのも栄養素として認められたので、水分を何倍も含む果物というのを作ることができた。明らかに体積を超えた水分を含有している。魔法には質量保存の法則が通用しない。




 アニソン歌手への道を切り開いたり、食べ物の改革をしたりしつつも、学園生活の日々はすぎてゆく。そろそろ魔物討伐訓練も単調で楽しくなくなってきた。でもあと一年ちょっとでお嫁さんたちとゴールイン…。


 でもその前に気になっていることが…。アナスタシアとマリアちゃんの初潮が来てない…。


 ルシエラの知識から子宮や胎盤というメロディも手に入れたので、子宮や胎盤の治療を行う魔方陣を描いた魔道タンポンというのを製品化している。そのおかげで、おなかが痛くなったり、足が重くなったりする症状を軽減できていると、スヴェトラーナを始め、お嫁さんたちから聞いている。

 だけど、アナスタシアとマリアちゃんはまだ魔道タンポンのお世話になっていない。この世界の初潮は平均十二歳らしいけど、私たちはもう十四歳の後半に差し掛かっている。


 そうやって心配していたら、マリアちゃんの初潮が訪れた。だけど、おめでとうという雰囲気ではない。アナスタシアが来ないからである。でも私は心配していない。私はアナスタシアの健康祈願をなんどもやっているので、きっと結婚初夜までに来ることだろう。それに、いざとなれば子宮と卵巣が早く成長する魔法をかけてあげればよい。あまり魔法でお嫁さんの人体を改造したくないのだけど、これくらいはしかたがない。もしかしたらまた、私が魔法を使うマッチポンプまでが祝福の効果かもしれないし。




 だんだん寒くなり、私たちはドレスを衣替えした。肩から背中にかけてガバッと開いた下着のようなドレスは夏服というわけじゃなかったのだけど、このドレスははやりだしており、夏のドレスとして受け入れられてしまったようだ。といっても、スヴェトラーナとブリギッテは冬も夏のドレスで頑張るようだ。


 冬のドレスに着替えたからといって露出がぜんぜんないわけではない。胸元は限界までオープンするのがこの国のファッションである。だいたい十歳頃から大人向けの色気のあるドレスに切り替えていく。みんなもうすぐ十五歳だ。日本人と違って発育が良いし、クラスのどこに目を向けても胸の膨らみがあるので目のやり場に困る。


 その代わり、スカートはだんだん長くしていくのが風習なので、だんだん脚の露出は減っていく。日本人だって大人になったら脚を露出しなくなってしまうけど、高校生だったらミニスカートが基本だろ!でもこの世界では十歳にもなれば太ももを出している子などいないのだ…。


 クラスで胸元を見せていないのはアナスタシアだけ。アナスタシアは身体を冷やすと調子を崩しやすいので…。けっしてぺったんこだからとか、七歳にしかみえないからとかいうわけではない。アナスタシアはこれがいいのだ。永遠に可愛い幼女なのだから。いや、七歳は幼女卒業してるか。


 でもマリアちゃんだって胸元の開いたドレスを着てるんだよね。マリアちゃんはほんのり膨らみがあるかどうか分からないくらいだし、身長も九歳くらいだから、子供が背伸びしてるようにしか見えないけど、そんなマリアちゃんが可愛いのだ。


 スヴェトラーナの胸は刻々とエリザベータ級に迫っている。エルフの村で肌にペタッと張り付く葉っぱを手に入れてからというものの、胸を肩や背中の紐で止めるのをやめてしまった。左右が完全に独立した状態ではなく、中央を紐で縛っている。地球にあった紐なしブラと同じようなものだ。中央を縛らないと横に広がりすぎていろんなものにぶつかって大変らしい。


 ブリギッテの巨乳もだんだん大きくなっている。エルフは五十歳ごろまで成長するらしい。今でもじゅうぶん巨乳だけど、五十歳になるころにはエルフ村で見た成人エルフと同じくらいの巨乳になるのだろう。


 マレリナとセラフィーマはこの世界の標準体型だ。胸はすでに日本人の平均より大きいと思う。背丈も日本人の平均より高い。顔つきも大人に近づいている。


 色とりどりのお嫁さんたち。ロリ系が二人、標準体型が二人、お色気担当が二人。あと一年。我慢しなければ…。



 そんな中で私は胸とお尻以外成長していない。十歳の身長にマレリナ同じ大きさの胸が付いているので、相対的にはかなり大きく見える。お尻も十歳にしては大きすぎると思うけど、それは日本人の感覚だからであって、地球の海外ではこれくらい普通かもしれない。


 社交界が始まるのだ。だけど今回はお嫁さんと一緒にドレスじゃなくて、なかなか日の目を見ることのなかった衣装を着た。といっても、最初に作った衣装はアナスタシアとマリアちゃん以外とっくに着られなくなっているので新調した。その際に、スヴェトラーナとブリギッテは調子に乗って衣装を魔改造してしまった…。胸元は結局限界までオープン。スカートも限界まで短く。この世界の女性は加齢に伴ってスカートを長くしていくものだけど、こんな短いスカートは子供でもはかない。いや、私が物心ついたときから八歳くらいまでずっきていたボロのワンピース…、あれはミニすぎてやばかったな…。まあ、とにかく原始人じゃないかぎりこんな短いスカートはかないのだ。


 そして舞台に上がり、


 ひょーろーろー、……♪(アナスタシアのリコーダー)

 きんきんきん、……♪(マレリナの鉄琴)

 かっかっかっ、……♪(ブリギッテの木琴)

 ぽんぽんぽん、……♪(スヴェトラーナのバイオリン)

 ぱーぱーぱー、……♪(セラフィーマのラッパ)

 ぽんぽんぽん、……♪(マリアのハープ)

 ドゥドゥドゥ、……♪(ユリアナのベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナのドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」


 まずは童謡を披露した。


 ぱーぱーぱーぱー♪(マレリナのラッパ)

 ぴーぴーひょーひょー♪(アナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっかっ♪(マリアの木琴)

 きんきんきんきん♪(セラフィーマの鉄琴)

 きーこーきーこー♪(スヴェトラーナのバイオリン)

 ぽんぽんぽんぽん♪(ブリギッテのハープ)

 ちろちろちろちろ♪(キーボードの高音域ハープ)

 ぎーががぎーがが♪(キーボードのエレキハープ)

 ドゥドゥドゥドゥ♪(キーボードのベース)

 どんどんしゃっどんどんしゃっ♪(ドラム)


「振り向いてほしい。それなのに、あなたの心は移ろい……♪」


 それから、アニソンにアナスタシアの詩を付けた曲。


「ほほー。これが娘の言っていた娯楽音楽ですか」

「ハープにこんな使い方があるとは」

「声で音楽を奏でることができるなんて」

「これは魔法ではないのかしら」

「あれがユリアーナ・マシャレッリ侯爵令嬢ね。小さな子ね」

「あの者はいったいいくつの音を鳴らしているのだ」

「私も混ぜていただきたいわ」

「ハープの弦と弦を擦り合わせるあの楽器の音は美しいな」

「ユリアーナ嬢の声は美しいな」

「ユリアーナ嬢は美しいな」

「あの衣装も良いですな…」

「スヴェトラーナ嬢の脚は良いですな…」

「(ざわざわ……)」


「皆様、私たちの娯楽音楽をお聴きくださってありがとうございました。木琴とリコーダーは木材加工屋で、鉄琴とラッパは金属加工屋で、バイオリンはハープ製作技師のお店でお求めいただけます。それから、音楽の内容を記した楽譜はそれらのどのお店にも置いてあります」


 これで、多くの上級貴族に娯楽音楽が広まった。ちなみに、娯楽音楽と芸術音楽をまだあまり区別していないけど、娯楽音楽は楽しくできればそれでよくて、芸術音楽は技術や美しさを磨くものにしたい。だけど、私自身があまり芸術性を求めていないし、まだまだ小学生レベルのみんなに芸術性を求めてもしかたがないのだ。


「やっとこの衣装で舞台に立てましたわ」(スヴェトラーナ)

「これ、可愛いよねー!」(ブリギッテ)

「ずっと着たかったのになかなか演奏会の機会がなかったものね」(アナスタシア)

「可愛いのに着ないなんてもったいなかったよね」(マリア)

「脚がスースーします…」(セラフィーマ)

「私、村ではいてたスカート、これより短かったよね…。今考えるとすごく恥ずかしいね…」(マレリナ)


 みんないろいろ言ってるけど、基本的に衣装を着るのが嬉しそうだ。


 私たちは毎週、社交界のパーティに顔を出して、音楽の楽しさを伝えた。




 休みの日を社交界に当てているので忙しい。平日は娯楽・芸術音楽の試験を行った。みんな高得点だ。


 親が楽譜を買ってハープで童謡を練習し始めたという子も多い。親に童謡を教えてあげているという。


 ところで、楽譜には音符の下に歌詞も書いてあるんだよ。だけど、歌おうとしてくれる人はいないね…。声で音楽を奏でられるということを初めて知った人ばかりだ。声が音程を持っているということすら気がついてないんじゃないかな。まあ、音楽という文化が根付いたら、そのあと歌という文化を創ろう…。私にはそれだけの時間がある…。人類の遺伝子が音感を獲得するのを待つだけの時間があるのだ…。相対音感だけでいいんだけどね…。



 魔物討伐訓練の試験もやったよ。ちょっと遠くまで行って、オークより強い魔物を倒したりした。


 座学の試験もとくに問題なし。私だけじゃなくて、クラスメイトみんな大丈夫そうだ。クラスの女子はもう王子の側室になるのに何も問題がないだろう。あとは誰が正室になるかだけだ。誰がなっても恨みっこなしという感じで、とても雰囲気がいい。




 こうして、五年生の後期が終わり、冬の長期休みに入った。王都の農園を拡張して発魔器を作ったので、ワープゲート用の魔石にはかなり余裕がある。魔力を作れるようになっても、ためるための魔石の需要は落ちないだろう。私がどんどん買い占めているから。魔石は、最初は決まった属性の魔力が込められているけど、使い切って違う属性の魔力を込めなおせば、違う属性に変えられるのだ。空間の魔石はあまり売ってないので、魔石を変換する作業も必要になる。


 領地に帰っても、せっせと発魔器を作っている。何をするにもまずエネルギーだ。二五〇キロの距離のワープゲートを開きっぱなしにするような発魔器は、ちょっと現実的な期間には作り終えないので、やはり街道整備も進めた方がいい。いや、私にとって数万年は現実的な期間なのかもしれないけどやりたくない。


 というわけで、街道整備をするために土の魔石に魔力をためまくった。土木工事の速度は、土魔法使いの魔力頼みだったけど、これからは魔石の魔力が続くかぎり作業できる。

 こうしてマシャレッリとお嫁さんの領地や王都を結ぶ街道整備が始まった。頑張れ、土魔法使いのスタッフ!私が養子になる前は魔法使いというのは戦闘職だったのに、今では多くの魔法使いが産業を支える作業員になっている。貴族家を継がなかった魔法使いは平民と同じ仕事をするしかなかったのだから、どう使ってもいいよね。



 それから、ノーカロリー食品とか高カロリー食品の開発も進んでいる。王都民だけじゃなくて、マシャレッリ領民もふくよかになっていた。肥満大国になってしまうところだった。


 あと、美容液についてもスヴェトラーナ主導で進めており、そろそろものになりそうだ。まずは貴族や豪商の奥様向けに高級路線で売るそうだ。ある程度広めたら、下級貴族や平民でも買える価格帯で効果の低いものを売り出すらしい。流行は上から下へ。私のやり方とは違うようだ。ここはスヴェトラーナのお手並み拝見だ。


 スヴェトラーナは試作品の美容液を試していたようで、お肌がぷるぷるだ。美の化身であるスヴェトラーナが広告塔になれば、広まるのは間違いないだろう。


 意外なのは、お嫁さんたちの中では、スヴェトラーナの次に美容液に興味を示しているのがマリアちゃんであることだ。いや、意外とかいったら失礼だな…。マリアちゃんみたいな小柄で可愛い系の子だって、綺麗になりたいんだよね。九歳くらいにしか見えなくても、もうすぐ十五歳なんだ。


 マリアちゃんの次に興味を示しているのがアナスタシアだ。アナスタシアに出会ったばかりのころは、ごつごつで肌もぼろぼろだったけど、今では普通の女に子並みに改善している。でもやっぱりそれじゃ物足りないんだね。マリアちゃん以上に子供に見えるアナスタシアだけど、やっぱり大人になりかけの十五歳なんだなぁ。


 じつは私がいちばん子供なのではなかろうか。と思ったけど、セラフィーマは美容液にまったく興味を示していない。マッドサイエンティスト系だから納得だけど。


 ブリギッテは使ってみたけど、必要ないと判断したようだ。エルフは何もしなくても肌が荒れたりしないらしい。森の中でほとんど裸でいるのに、肌に困っている様子はなかったからね。水着の日焼けもないし人間がうらやむような体質をしているのだろう。そうだ。私が美容液に興味湧かないのは、それが原因だよ。私が子供だからじゃないよ。




 開発のかたわらには、音楽の普及活動をしている。教会では子供に無料で木琴か笛を与えているけど、王都で楽器を商品化したのでマシャレッリ領でも売り出したら、飛ぶように売れた。マシャレッリ領民は生活に余裕があるから、娯楽に飢えてたんだね。


 ワープゲートのための魔力に余裕ができたので、お嫁さんの領地の教会の支援も楽にできるようになった。それに、お嫁さんの領地だけでなく、マシャレッリ領に隣接の領地にも教会で活動する許可を得た。まあ、基本は教会の予算だけであり、当主は資金援助してくれないけど。お嫁さんの実家でも、資金を出してくれたのはフョードロヴナとロビアンコだけだったし。これは家の財政状況や、先見の目があるかどうかだから、支援してくれなくてもしかたがない。


 それから、エルフの村での布教活動も活発化させた。ハイドラの村以外のエルフ村に赴いて、楽器と楽譜をばらまいてきた。中にはハイドラの村のように王位を狙っていて、私を見るなり悪意を示してきたので、同じように私への悪意や王位に対する考えを消し去り、私に友好的になるように洗脳してあげた。



 そして、最後にルシエラの村に赴いた。


「リュドミラ、ルシエラは?」

「部屋にこもっておられる」


 というわけで、ルシエラの部屋へ。


「嘘つき!」

「えっ…」

「まったく来ぬではないか!」

「だってそんなに頻繁に来られたら迷惑って…」

「そ、それは…、そういう意味ではないのじゃ…」

「あっ…」


 ツンデレ語を理解できてきたと思っていたけど、肝心なところで言葉どおりに取ってしまっていた…。


「ごめんね、察してあげられなくて」

「分かったか!この無能が!」

「うーん…」


 自分が正反対のことを言ってるのがいちばんの原因だって分かっているのだろうか。そうだ、国で使っているウソ発見器を作ろう。思っていることと言っていることが一致してない場合に光る魔道具だ。っていうか、ルシエラ専用じゃなくて、悪意検知と合わせて防犯になるし。


 というわけで、ルシエラにべったりくっつかれて、村のみんなと童謡を演奏した。



「もう帰れ!」

「わかったよ」

「あっ…」


 反応するウソ発見ブレスレット。私が帰る素振りを見せると寂しそうなルシエラ。


「今度こそ一ヶ月に一回くるよ」

「そんなにたくさん来なくていいのじゃ」

「それじゃあね」

「もう来るな!」


 ルシエラは私の前でだけツンデレになるようだ。それだけじゃなくて、甘えん坊というか、子供に戻ってしまうというか…。




★ユリアナ十五歳




 というわけで、エルフ村洗脳ツアーや周辺領地での音楽布教活動を終えて、冬の長期休みが終わり、ワープゲートで王都に戻った。


 私たちは十五歳。ブリギッテは三十五歳か。エルフの三十五歳っていったら、人間の十五歳相当じゃないか。ブリギッテの身長にマレリナとセラフィーマが追いついた!スヴェトラーナは長身美人なので、五センチくらい上だし、私はみんなが生きている間には伸びないし、マリアちゃんもアナスタシアもエルフみたいな伸び方しかしないから、私たちはでこぼこだなぁ。


 六年生前期の授業が始まった。いよいよ最後の学年だ。この学年になって目新しい授業があるわけないと思ったら、弓術をやるようになった。学園でハープボウを用意してくれたのだ!


 ハープボウはラからソ#までの十二本の弦が付いている弓だ。魔法を使いつつ戦闘できるということで全員参加だ。剣術も魔法戦闘もやっていない木魔法使いの女子とマリアちゃん、セラフィーマも参加だ。


 弓の先生が弓の構え方を教えてくれる。だけど…、


「うぅ…。胸につっかえて…」

「スヴェトラーナ様、ハイエルフたちはこのように構えてましたよ」

「まあ!」


 ハイエルフの爆乳に届きつつあるスヴェトラーナの胸は、普通に弓を構えると、弦が胸につっかえてしまう。弦がドレスのカップと胸の隙間に入って、ペタッとくっついているカップをペロンと剥いでしまいそう…。


 ハイエルフのハイドラも同じで、胸の上に弓を横向きにして構えていた。あのときはハイドラも四倍加速していたし、お嫁さんたちも馬車の中にいたから、戦闘は見ていなかったのだ。


 でもブリギッテサイズの巨乳なら、普通に弓を構えられるようだ。それだけじゃない。ブリギッテの弓矢は先生も顔負けの腕前だ。ブリギッテの射た矢は的のど真ん中に命中した。


「さすがだね!」

「三十年以上やってるからね」


 エルフは長い寿命の間、老いることなく身体や技術を鍛えられるのだ。


 かくいう私は、三十六年間地球で自堕落に生きてきたおっさんと、たかが十五歳の小娘。と思ったら大間違いで、私にはルシエラの戦闘経験がコピーされているのだ。


 ルシエラは四〇〇〇歳になるころにはハイエルフと同等の爆乳になるので、そのときは胸の上に横向きに構えて撃っていたようだが、普通のエルフサイズの巨乳のときは縦向きに構えていたようだ。ちなみに、一万歳になると、ハイエルフをはるかに超える爆乳になり、胸の上に横向きで弓を構えることもできなくなるらしい。動くのもおっくうだとか。

 

 というわけで、私は弓を普通に縦に構え射た。


「すごいじゃないか…」

「ルシエラに教えてもらったんだ」

「さすが、マザーエルフだね…」


 ウソじゃないよ。口頭で教えてもらったとか練習を見てもらったとかではないけど。


「ふんぎいいぃー!」

「マリアちゃん、とりあえず、短い弦のほうでやってみなよ」

「うん……、飛んだ!」


 マリアちゃんは小柄だし、あまりにも力がなかった。とりあえず、短い弦で射たら飛距離は出ないけどまっすぐに飛んだ。


「当たったわ!」

「お姉様、おめでとう!」

「新しいスーツで鍛えていたおかげだわ!」


「えっ」


 アナスタシアが的に当てていた。いつの間にそんなに怪力に…。六年前よちよち歩きだったアナスタシアはどこへ?新しいスーツってなに?リハビリスーツじゃなくて、パワードスーツ?


「マレリーナも上手ね!」

「ユリアナにもらってから毎日練習していたもの」


 マジで…。二人とも勤勉すぎて頭が上がらない。


 ちなみにセラフィーマは他の運動不足のご令嬢と同じ感じだ。




 魔物討伐訓練では、より強力な魔物を相手にするため、長期の遠征に出かけることになった。マシャレッリ領で出会った巨大な魔物やスタンピードを考えれば、たしかに必要なことなのだろう。


 ハープボウの実戦投入はなしだ。剣術だって三年以上授業を受けたから実戦投入できたのだ。ハープボウで魔物討伐訓練に臨むのは今年入学した子たちかららしい。だから、木魔法使いの女子とマリアちゃんの参加はナシ。でもセラフィーマはヒーラーとして参加する。ちなみに、私とマレリナも基本的には剣士ではなくヒーラーとしての参加だ。


 ちなみに、セルーゲイとタチアーナは、伯爵家だったから強い魔物を相手にできる。逆にいうと、強い魔物の出る地域だから伯爵領だったのである。例外的に、最上位である公爵家の場所は、魔物強さとは関係なく、本人や王家の都合だけで決められているようだ。


 つまり、子爵領や男爵領付近には、それほど強い魔物は出没しないし、スタンピードも起こらない。万が一の場合は、周辺の上位の貴族にヘルプを頼んだりする。逆に、上位貴族でも手に負えない魔物が現れたら、周辺の下位の貴族がヘルプを求められることもある。


 学園で行われる魔物討伐訓練は、男爵領付近で現れる程度の魔物を相手にする。大技を連発できる上位貴族にとっては楽かもしれない。



 今回もパーティ分けが行われた。そしてそのメンバーは…、


「やあ、ユリアーナ。初めて一緒になるね。よろしく」

「こちらこそヴィアチェスラフ王子殿下とご一緒できるとは光栄です」

「ははは、相変わらずユリアーナは堅いね。キミとボクの仲じゃないか」

「おほほ…」


 おまえやおまえの息子と結婚する目はなくなったんだから、将来の王と貴族当主の関係しかないと思うんだけどね。


 でもまあ、王子は私を自分の女みたいに思うことはなくなったみたいだ。変に触れてくることもない。耳を触られたときは虫酸が走ったけど、距離を置いていればイヤなやつじゃない。


 それに、私と王子がこうやって話していてイヤな顔をする女子もいなくなった。みんな王子に嫁になるというのに、いまだに私のことを好きなのだろうか…。


 その他のメンバーは、淡い赤髪のヘレン・バトカス子爵令嬢、淡いオレンジ髪のシェリル・ホッパー男爵令嬢、青髪のテレサ・トライオン伯爵令嬢、淡い水色髪のエレノーア・シェルトン子爵令嬢。


 初めていじめっ子じゃない風魔法使いと組んだよ。いや、パオノーラもエンマもいじめっ子じゃなくてツンデレに転身したけど。


 剣士専任の男子はいない。王子がいるからね。


 それから、壁役のハンターが十人だ。ついでに、今回は王子と一緒なので、王子の護衛も十人いるけど、基本的に王子が危険な目に遭わない限り手を出さないことになっている。


 案の定、初回の遠征は楽勝に終わった。男爵領向けの難易度に王子や伯爵令嬢が参加してるんだもの。

 もちろん、女子たちは私に夜這いに来た。だけど、テントの入り口を溶接して防いだ。ちなみに王子は夜這いに来なかった。男が夜這いに来るのはどう見ても問題だからね。でも女の子が夜這いに来るのは何も問題がないように見えるのが不思議。私がブレスレットをしてなかったら、とっくにクラスの女子みんな妊娠してるかもしれない…。



 しかし、二回目の遠征はどうかというと…、


「なぜケルベロスがこんなところにいるんだ!」


 ごめんね、トラブル体質は転生者のパッシブスキルなんだ…。


 ケルベロスは三つの首を持つ犬の魔物。全長三メートル。


 私はハープを奏で、全員に筋力強化と防護強化をかけた。


「ありがとう、ユリアーナ!」


 王子は剣を構えた。


「なりません、殿下。緊急事態です。足止め役をハンターに任せ、殿下は魔法使い役に徹するべきです」

「ここでユリアーナを守れないなら、生きていてもしかたがない」

「でんかー!」


 王子の護衛が王子を止めたけど、王子は突っ込んでいってしまった。おいおい国のトップが脳筋で大丈夫?

 それに、私なんて守ってもしかたがないだろう。私に何百回ねじ伏せられたと思ってるんだ。


「殿下!お下がりください」


 ハンターたちも王子を止めようとしたが間に合わず。


 向かってくる王子にケルベロスは右頭を突き出し噛みつこうとしてきた。しかし、


「ぬるい!こんな攻撃はユリアーナの足下にも及ばない!」


 王子は剣でケルベロスの牙を受け流した。同時に、ケルベロスに電撃が走った。ケルベロスは中頭で追撃しようとしていたみたいだが、電撃によりキャンセルされた。

 あの剣は魔道具の授業で作った聖剣だ。刀身にスタンガンの魔法がかかっている。


 王子、強いな…。私の攻撃をいつも受けてたから、目と身体が慣れてきたんだろう。あ、あの剣には厄除けもかかっているから、回避能力も上がっているんだった。


「ふんっ!」


 差し出された右首に王子が刃を入れた。刃はするっと首を通り、首が転げ落ちた。土魔法で物質硬化してあるので、刀身を薄く鋭くしても折れないようになっている。そのおかげで、なんでも豆腐のように斬れるのだ。


「「がうううううっ!」」


 雄叫びを上げる残りの二つの首。二つの首は同時に王子を攻撃してきた。しかし、右首を切り落とされたときの電撃により、動きが鈍いようだ。


「はっ!はっ!」


 二つの首は斬ってくださいと言わんばかりに差し出された。王子は剣を八の字振り。そして、転がる二つの首。


「どうだい?ユリアーナ!」

「殿下、土壁を!四メートルの土壁を張ってください!」

「えっ?わ、わかった!」


「シェリル様も四メートルの壁を張って!」

「は、はい」


 王子とシェリルはハープを奏で、土壁を張った。王子はだいぶ前に出ている。シェリルの壁は王子を除く全員を囲った。

 そして、どどどどという音が近づいてきた。ケルベロスの大軍がやってきたのだ。


「なんだこれは!」


 王子が叫んでいる。しかし、ものすごい足音にかき消されているので、その声を聞き取れるのは私だけだ。しかし、私の地獄耳は子音を聞き取れるわけではなく、母音の音程が分かるだけである。


 シェリルは男爵家なので、あまり魔力が強くない。私はごう音の中、こっそりふんふん♪と口ずさんでシェリルの土壁を強化した。


「皆さん、穴から射撃して、数を減らしてください。去年までの訓練と同じです」


「「「「了解!」」」」


 ヘレン、シェリル、テレサ、エレノーアが元気よく返事をした。

 壁の穴から攻撃魔法を放つのは何度もやっている。私と初めて組む子たちでも、マレリナやアナスタシアが戦術を教えていたのだ。ただ、敵がちょっと大きくて多いだけだ。ちょっとだけね…。


 私はジャンプして四メートルの壁の上に立った。そして、囲まれたケルベロスに体当たりされて早くも崩れかけている王子の壁の周りにふんふん♪と壁を作りなおした。


 そして、ジャンプして王子の壁のてっぺんまで移動。そのまま壁の中に降りた。


「ユリアーナ!」

「殿下、いつもどおりです。穴から雷の嵐を」

「ああ、わかった!」


 この訓練では私はヒーラーか、せいぜい剣士としてしかやることがない。みんなにバフをかけて、治療に備えていればいいのだけど、みんなにやらせて自分だけ何もしないのは手持ち無沙汰だね…。


 あっ、王子には全部バレてるんだった。


「ふんふん……♪ふんふん……♪」

「それはもしや…、グングニル!」


 土壁の外に、直径三十センチ、長さ一メートルの鉄心を生成し、それを磁力で発射した。


 鉄心は次々にケルベロスを巻き込み、死体の道を作り上げた。


「よーし、ボクも!……グングニル!」


 王子はぽんぽん……♪ぽんぽん……♪とハープを奏で、直径十五センチ、長さ五十センチの鉄心を生成。それを磁力で発射した。私が撃った方向とは別の方向に。


 私のより細いので巻き込む範囲が小さいし、磁力も弱かったので途中で止まってしまった。もちろん、雷の嵐よりは多くのケルベロスを撃退した。


「くっ」

「すみません、おふざけがすぎました」


 鉄心生成は非常に魔力を食うのだ。貴族や王族は攻撃魔法が好きな中二病の集まりだろうと思ったから、レールガンのようなかっこいい攻撃魔法を作って、そして今回実演してあげたのだけど、王子の魔力では厳しかったようだ。いや、王子の魔力は国のトップクラスなので、私の作ったネタ魔法がいけないのだ。


 私はふんふんと口ずさみ、粒子レーザー砲でケルベロスの群れを横なぎにした。ケルベロスは四肢を失い、だるま状態に。これで壁が壊れる心配はなくなった。


 全滅させてもよかったんだけど、訓練だからね。それに二つの首を脚にして這いつくばるようにすれば、まだ移動できるみたいだ。


 私は異次元収納から、二つの袋を取り出した。素材は蜘蛛の糸。日本の地域ゴミ袋大サイズにいっぱい魔石が入っている。発魔器で作った魔力を貯めたものだ。


「殿下、雷の魔石と土の魔石をお渡しします」

「こんなたくさんの魔石…」

「これで好きなだけグングニルを撃てますよ」

「やる!」


 おもちゃを得た子供のようだ。王子はポンポン♪とハープを奏で、


「グングニル!グングニル!グングニル!……」


 楽しそうで何よりだ。


 こうして、大半を王子が倒し、残りを後方の女子魔法使いたちが倒して、ケルベロスのスタンピードを鎮圧。壁を解くと、後方の女子たちはへたり込んでしまった。魔力がいっぱいいっぱいだったのだ。

 でも、四肢をなくしてもがいている数体のケルベロスが残っていたので、ハンターたちが剣でとどめを刺していた。ハンターたちは壁が壊れたときの第二の壁なので、暇だったのだ。


「ユリアーナ、ありがとう」

「どういたしまして」


 王子は魔石袋を返してくれた。私は魔石袋を異次元収納にしまった。


「みんな、無事か!」


「「「「はいっ」」」」


「王子、ムチャはいけないとあれほど…」

「すまない。でもユリアーナに助けてもらえたから大丈夫だ」

「そういう問題ではございません。ぶつぶつぶつ……」


 王子は護衛に怒られていた。


「ユリアーナ、本当にありがとう。キミに壁を作るように指示されていなかったら、ボクは犬の餌になるところだった」

「間一髪でしたね」

「それに、その…、一緒にいてくれて心強かった」

「あれは殿下の実力ですよ」


 私が全属性を持っていることは秘密のままらしい。王子は私みたいに、退学した子の前でうっかり漏らしたりしないようだ。


「私たち、スタンピードに耐えたのね!」

「私の壁のおかげね!」

「ボス級の群れを制圧したわ!」

「やったわ!」


 女子も魔力が尽きかけでへとへとなのを忘れて盛り上がっている。



 帰りの馬車では、みんな疲れ果てて寝てしまった。と思ったら、


「ユリアーナ、昼間は本当にありがとう」

「もうお礼の言葉はいただきましたよ」

「キミがいなかったら王子が死んでいたんだ。本当なら叙爵するほどの功績だ」

「私は万が一王子に怪我があったときのために治療魔法をスタンバイしていただけですし」

「そ、そうだな…。命魔法使いだしな…」


 他のクラスメイトは寝ているけど、御者に聞こえるかもしれないからね。


 それにしても…、王子の私を見る目が、お嫁さんたちの私を見る目に似ている…。なんでそんな、頼もしい男性に恋い焦がれるような乙女の目をするんだ…。私が乙女でおまえが男だろう…。おまえにはどうやっても子種をやれないよ!私に叩かれすぎておかしくなったか!

 これもマザーエルフの力なのかな…。マザーじゃなくてファザーだし…。



 魔物討伐訓練から数日後、私は王城に呼び出された。謁見の間ではなく応接間に。


「ごきげんよう、アブドゥルラシド王陛下、ヴィアチェスラフ王子殿下」


「座るがよい」

「やあ、ユリアーナ」


 応接間では、アブドゥルラシド王とヴィアチェスラフ王子が席に着いていた。


「まず、息子を救ってくれたことに礼を言う」

「頭をお上げください」


 王は席を立ち、私に頭を下げた。


「このバカ息子は調子に乗って一人で突っ込んで行ったそうではないか」

「殿下は入学当時とは比べものにならないほどお強くなりましたよ」

「学園でそなたに鍛えてもらったのだな。たしかに一体の魔物には圧倒できたのであろう。だがスタンピードとなれば話は別だ」

「私は殿下に土壁を張るように助言したまでです。あとは殿下の実力でございます」

「ウソを申すでない。おぬしの魔法と魔石があったからこそ助かったのだ」

「私の魔法はきっかけでしかありません。あとは魔石さえあれば殿下の実力でなんとかできたでしょう」

「しかし、そなたは信じられないほどの魔石を手渡したと…」


「スタンピードを安全に鎮圧するための手段は、土壁と射撃、そして壁と射撃を維持するための魔力です。この戦術を学園に提唱しております。土魔法使いが必須になりますが、魔力持ちの平民を鍛え上げれば、数を揃えることができるでしょう」


「なるほど…、そこに繋がるのだな」

「そして、私は魔力を生み出す魔道具を開発しました」

「何だと?」

「殿下にお貸しした魔石は、その魔道具で生み出した魔力によるものなのです」

「そのような魔道具が存在するのか…」

「効率の良い方法の検討や問題が起こらないかの検証が終わったところなので、そろそろその魔道具の製法を王家に献上しようと思っていたところです」

「また世界がひっくり返るようなものを作ってくれたな…」

「そのようなお顔をなさらないでください。私は世界に魔法をもたらし、人々の生活を豊かにする使命を負っているのです」

「そうであったな…」


「ふんふん……♪これが魔力を生み出す魔道具、発魔器の設計図です」

「こんなに複雑なものなのか…」

「火、雷、土、水、風、空間、時の属性は比較的シンプルなのですが、木と命が複雑なのです。また、心、邪、聖の発魔器は私でも作れておりません」

「ふむ…」

「完成品を献上することもできます」

「いや、買い取らせてもらおう。それがあれば、魔石の購入費用が浮くのであろう」

「そうですね。ですが今まで使い捨てにしていた魔石を取っておいてください。発魔器で生成した魔力をためておくためです」

「なるほど。魔石の需要はあまり変わらんということだな」

「はい。私の牧場で魔物から食肉を採取するときに、魔石も一緒に採取できるのですが、それでも足りないくらいなのです」

「分かった。廃魔石を取っておこう」

「はい」


「ところで…、バカ息子を救ってくれた褒美だが、そなたは命魔法使いということになっておるので、救うために講じた手段を公開することを考えると、公式な褒美を与えることができぬ」

「褒美など無用です。私は当然のことをしたまでですから」

「ふむ…、それではなぁ…」


「ユリアーナ、なんでもいいんだ。地位や名誉は与えられないし、お金もキミはたくさん持っているだろうけど…」


「でしたら、ふんふん……♪」


 異次元収納からリコーダー、木琴、鉄琴、バイオリン、ラッパ、それから童謡の楽譜三種、アニソンベースの恋歌の楽譜三種を取りだした。各楽器の説明書も用意した。印刷魔法があるから、布教用にいつも持ち歩いてるんだ。


「これは授業で使ってる木琴とリコーダーと、ユリアーナたちが披露してくれる演奏に使っている楽器だね。それから三つの楽譜はボクももらっている。こっちの長い曲は知らないな」


「陛下もこれらの音楽を楽しんでください」

「楽しむ?我らが楽しむことがそなたへの褒美なのか?」

「はい。楽譜の読み方は殿下がご存じです」


「父上、この音楽はこのように演奏するのです」


 かっかっかっ……♪


 王子は木琴を叩いて、お花の歌を演奏した。


「これが巷で流行っておる娯楽音楽か。聞いてるだけでも愉快だな」

「演奏するともっと楽しいのですよ。ほら、父上も。楽譜のこの音が、木琴のこの場所に対応しています」

「どれどれ……」


 王子が王に小学生レベルの木琴を教えている。微笑ましい光景だ。


「楽しんでいただけたら、王城内の他の者にも娯楽音楽を広めてもらえませんか」

「あまり褒美になってないような気もするが」

「娯楽音楽の練習は、魔法音楽の練習にも通じております。つまり、娯楽音楽を広めることは私の使命なのです」

「わかった。娯楽音楽を王城内で広めよう」

「ありがとうございます。楽器が足りなくなったら、マシャレッリ家お抱えの木材加工屋と金属加工屋を呼びつけください」

「うむ。そうしよう」


 王城内に娯楽音楽を広めてもらえることになった。なんだかいろいろと都合の良い御託を並べたけど、すべては私がアニソン歌手になるための布石だ。




 その後の魔物討伐訓練では、ボス級の魔物にもスタンピードにも遭遇しなかった。だいたい、私のパーティだけボス級のスタンピードに遭遇するなんておかしいよね。でもトラブルに巻き込まれるのは転生者の嗜みだし…。私の仕込みじゃないよ。危険な目に遭わせてそれを助けて褒美をもらおうなんてマッチポンプはやってないってば。といっても、マザーエルフの使命とか運命とか、不思議な力でそうなるように導かれてないともいえないな…。



 娯楽・芸術音楽の授業では童謡の四曲目をやっている。娯楽・芸術といっておきながら、基本的に楽しむ目的でしかやっていない。だけど、技術や美しさを磨く芸術音楽もちゃんと考えないとな。


 王都の街中でも、道ばたで木琴やリコーダーを演奏している人が見られるようになった。なんだか音楽都市って感じでカッコいい。演奏してるのは童謡なんだけどね。

 売りに出している楽譜は童謡が四つでアニソンベースの恋歌が三つなんだけど、アニソンは長くて難しいからまだまだまともに演奏できる人は見当たらない。


 だけど、いくら娯楽音楽を広めても、いっこうに歌える人は現れない。弾き語りの吟遊詩人みたいなものが現れるのは何年後だろうか。私が地球の音楽の楽譜を描いて、アナスタシアに作詞してもらうのは簡単なんだけど、いつかこの世界の人が作詞作曲した歌を歌いたいなぁ。



 王家に発魔器を売ったのと同時に、フョードロヴナに発魔器とワープゲートの魔道具を売りつけた。


 フョードロヴナには、国の北側に生産物を広める役割を担ってもらっているので、移動手段は重要だ。それに、北側の街道整備も任せようと思っているので、土の魔力をためてもらわなければならない。


 また、発魔器とワープゲートの設計図をロビアンコに売った。魔道具といえばロビアンコだ。最近はマシャレッリが台頭しているのだけど、マシャレッリで作っているものの設計図はほとんどロビアンコにも回している。今後、フョードロヴナが発魔器とワープゲートを欲したら、ロビアンコに発注してもらおうと思っている。お嫁さんの実家どうしも仲良くしてもらえるといいな。



 夏も真っ盛りで暑くなってきた。私は夏のドレスに衣替えした。おへそと胸にしか布がないので最初は恥ずかしかったけど、クラスの子にも同じようなデザインのドレスを着ている子は多い。スヴェトラーナが冬でも率先して着ているので、流行として受け入れられている。さすが公爵家。


 お家お取り潰しになって私の農園やお店で働いている四人組から謁見の要求があった。そうか、彼女らは平民になったのだから、私に会うのは謁見になるのか。なので、マシャレッリの王都邸に呼びつけた。


「「「「ごきげんよう、ユリアーナ様」」」」

「ごきげんよう、イアサント、ドリエンヌ、ジョジョゼ、クレマノン」


 淡い緑髪のイアサントと淡いオレンジ髪のドリエンヌは、親兄弟が皆処刑されてしまい天涯孤独となったので、一緒に暮らしている。

 淡い黄色髪のジョジョゼと淡い青髪のクレマノンは、それぞれの母親と暮らしている。


「提案があるの」

「どうぞ」


 イアサントが口を開いた。


「レストランや喫茶店で演奏して、音楽を聴きながら食事をしてもらうのはどうかしら」

「それはとても良いわね」

「じゃあ、そのための演奏者を選ばないとね!」


 いや、まあ、それは考えていたんだよ。だけど、まだ童謡が四曲だし、アニソンの三曲を演奏できる人はいないし、バックミュージックとしては物足りないと思ったんだけど。


「条件を出すわね」

「えっ…」


「演奏者にはオーディションを受けていただくわ。今までは娯楽音楽としてただ楽しくやってきたけど、人に聞かせることを仕事にするのなら、きちんと技術を磨いてもらいたいの。演奏の技術を身につけ、美しい芸術音楽を演奏をできる者でないと、人に演奏を聴かせる仕事に賃金を払うことはできないわ」


「なるほど…」


「楽譜の下に歌詞が書いてあるわね」

「ええ。ユリアーナ様がいつも歌っていた言葉ね」

「本当はその歌詞を歌える人がいるといいのだけど、歌い手がいなくても、聞いた者がその歌詞の情景を思い浮かべられるように演奏してもらいたいの」

「それはどういう…」

「例えば、花が咲いた、綺麗だわというのは…」


 私はそばに置いてあるハープを取り、演奏を始めた。


 ヴォンヴォン……!


 弦を強めに弾いて見せた。


「これと…」


 ぽんぽん……♪


 弦をやさしく弾いた。


「これ。どっちが歌詞のイメージに近いかしら」


「後の方が良いわ」(イアサント)

「前のは乱暴だし、お花とは違うわよね」(ドリエンヌ)

「後の方が綺麗って感じがするわ」(ジョジョゼ)

「私、いつも強く弾くことばかり考えてた…」(クレマノン)


「後者のように歌詞のイメージあった弾き方を、芸術性のある弾き方というの。演奏者にはまずその芸術性のある弾き方を身につけてもらいたいのと、あとは技術ね。音を間違えるのは論外だし、テンポも正確に合っていること」


 魔法はテンポが狂いすぎていると発動しないし、音を間違えてもアウトだから、魔法使いはけっこうちゃんと演奏してくれるのだ。問題は魔力のない人たちだ。娯楽音楽は楽しければ多少の間違いは気にしないしね。


「分かったわ」

「今私の言った募集要項を紙に書いて複写するから、オーディションを受けたい者に渡したり、職員寮の廊下に張ったりしてもらえるかしら」

「任せて!」

「オーディションの日時は冬の社交界の前あたりでいいかしら」

「えぇ」

「あまり数が多くても見切れないので、リズムや音を間違える人はあらかじめ落としておいてくれるかしら」

「リズムは分かるけど、音が間違っているかどうやったら分かるの?」

「そうだったわ…。リズムでだけでいいわよ」

「分かったわ」


 相対音感でもあれば音を間違えたって分かると思うけど、この世界の人間にそれを要求することはできなかった。


「では募集要項をまとめたら職員寮に届けさせるわね」

「お願いね」


 芸術音楽を学園にどうやって導入しようか考えていたけど、まさかこっちの方面から攻めることになるとは思わなかった。というか、平民へ爆発的に広まったのもイアサントたちのおかげだったな。


 とはいえ、薫はピアノを情景を浮かべながら弾いたり、抑揚を付けて弾いたりもしなかった。歌詞の意味もろくに考えて歌わなかった。今でも歌詞の意味をあまり深く考えてシーンを思い浮かべて歌ってないし。アナスタシアの作詞した恋歌は、深く考えるとちょっと恥ずかしいので…。むしろ、歌詞の意味を深く考えないから、おっさんが可愛いアニメの歌を歌えるのだ。

 人にいろいろと注文を付けておいて、自分はあまりできてないのだ。私もアニソン歌手になるなら、できないとダメかな。アニソン歌手ってそんな技術いらないよね?



 帰って募集要項を紙にまとめた。


・リズムを間違えない

・音を間違えない(弾く位置を間違えない)

・歌詞の情景や感情を思い浮かべて弾く

 ・楽しいシーンを表すには、どんなふうに弾いたらいいか?

 ・悲しいシーンを表すには、どんなふうに弾いたらいいか?


 ちなみに、この世界にはもともとハープしかなかったので、「奏でる」「演奏する」「弾く」「(木琴を)叩く」「(笛やラッパを)吹く」は全部同じ単語だ。また、万能な動詞「play」でもないので、「遊ぶ」とか「する」という意味を含んでいるわけではない。木琴やラッパを弾くというのはちょっと変だけど、この世界の言葉に直すと全部「演奏する」だ。


 募集要項を複写魔法でコピペして二〇〇部刷った。それをイアサント宛にスタッフに届けてもらった。


 後日、イアサントから報告があった。オーディションにエントリーしたのは五〇〇人を超えたらしい。音楽を職業にしたい人がそんなにいたんだ…。私も専業歌手になりたい…。でも私が貴族として布教活動をしなかったら、演奏家なんて職業は誕生しなかった。まだ当主になってもいないのに、もう引退したいなぁ。


 それで、リズムを間違えて脱落した人は四〇〇人。もうちょっとがんばってほしいけど、多すぎても困るのでとりあえずこれでいい。


 というわけで、私は一〇〇人にオーディションすることになった。まず、音を間違えた人は七〇人。魔法使いも多かったのだけど、魔法音楽と違って長いので、短期間で覚えられなかったらしい。そもそも魔法使いだって一フレーズを三ヶ月かけて覚える世界だってことを忘れてたよ。


「あなた方はまず、間違えずに弾けるようになってくださいね」


 残り三〇人のうち、花が咲いて綺麗だといっているのに、ガンガン叩いたり、しょんぼり吹いたりして、感情や情景を表せていない者を二〇人落とした。


「あなたたちは歌詞の感情や情景を思い浮かべて演奏してください。半年後にもオーディションをしましょう。その時までに精進してください」


 そして、残り十人。


「あなたたちは第一試験に合格です。第二試験ではあなたたちに課題を出します」


「「「「「はい」」」」」


 イアサント、ドリエンヌ、ジョジョゼ、クレマノンは残った。まあ、学園の授業では、お花の歌と春の歌しかやってないので、楽しく弾く分にはよくできていたのだ。それから、ジョジョゼとクレマノンの母親も残った。娘から教えてもらったのだろう。後の四人のうち三人はマシャレッリの魔法使いスタッフの男性二人と女性一人だ。残りの一人はマシャレッリスタッフですらない王都の平民の男性だ。一般から募っておいてマシャレッリスタッフや元貴族ばかり集めたらなんだか出来レースみたいだからって平民を残したわけじゃないよ。実力で残したんだ。


 私は残った十人に楽譜を配った。アニソンにアナスタシアの恋歌の歌詞を付けた曲だ。お嫁さんたちは弾けるけど、学園の授業には出していない曲だ。


「「「「「長い…」」」」」


 みんなこぞって長い楽譜に途方に暮れている。


「三ヶ月です。三ヶ月で覚えて弾けるようになってください」


「「「「「こんな長いのを三ヶ月で…」」」」」


 夏の長期休暇が終わって王都に戻ってきたときに試験するんだ。


「楽器はリコーダー、バイオリン、ラッパ、ハープのいずれかでお願いします。持っていない方には貸し出しします」


 お店のBGMに木琴とかないと思うんだ…。まあ、曲次第では木琴でも鉄琴でもカッコいいと思うけど、そんなカッコいい曲の楽譜を作ってないしね。木琴でカッコいい曲っていったら、てけてけてけって、すごく速く叩いて、テクニックを見せつけるような曲がいいだろうし…。


「三ヶ月後に、私に披露してくださいね」


「「「「「はい!」」」」」


 というわけでがんばってね。




 そして、試験を終えて、六年生の前期の授業が終了した。


 私たちは、マシャレッリ領に帰る前に、ワープゲートでお嫁さんたちの領地に赴き、教会での子供たちの音楽教育の進捗を確認したり、演奏を披露したりした。


 それからマシャレッリ領に戻って、教会の視察をしつつ演奏の披露。新しく三歳の子が二十人ほど入っていて、頑張っている姿が微笑ましい。


 教会といいつつも、小学校のようなつもりで建てた建物だ。この国の宗教なんてあってないようなものなので、何を教えてもいいよね。音楽と魔法を始め、読み書きや計算も教えている。それから兵役として剣術の訓練もやっている。さすがに教会の予算だけじゃ足りないので、領地の予算で教師を雇っている。そのうち、地理や歴史とか、魔物知識の教師も雇って、王都の学園でやっていることをやらせよう。学園はのんびりすぎて退屈なのだ。私がカリキュラムを組み直そう。


 フョードロヴナではまだ教会の取り組みが始まって半年だというのに、マシャレッリでやっていることを参考にして新しく教会を作り、学校まがいのことを始めている。

 フョードロヴナは当主が活動に積極的なので、子供たちの上達も早かった。


 ロビアンコの有能執事にもマシャレッリでやっていることを紙面にまとめて渡してある。ロビアンコでは学校建築の予算が足りないようなので、マシャレッリからスタッフを貸し出したりしている。


 アルカンジェリとジェルミーニでは貴族家主導でやっていないので、現地の神父様一人でがんばっており進捗は今ひとつ。平民の教育が領地の将来のためになるといったところで、領民にタダで勉強を教えるなんて、先賢の目がある人じゃないと慈善事業にしか見えないだろうから、しかたがないね。


 お嫁さんの実家の領地だけでなく、マシャレッリ周辺の領地でも、教会で魔力持ちの子供発掘の活動をするように働きかけている。だけど、教会の予算だけだし、アルカンジェリやジェルミーニほど自由に活動できるわけじゃないので、規模は小さい。



 それから、エルフの村を巡って指導したり。エルフの村は四十人から一〇〇人くらいだし、毎年子供が生まれたりしない。というか、子供がほとんど見当たらない。エルフは人間より音楽能力が高いようなので、大人でも覚えるのが早く、新曲の楽譜を渡したり、演奏を披露するくらいしかやることはないな。


「じゃあまたね、ルシエラ」

「もう来るなと何度言っ……」

「あと半年だから我慢してね」

「早く子をよこせ!」

「はいはい」


 相変わらず私のスカートを掴んで離さないのに、セリフは逆だ。だけど、子をよこせだけは正直なようだ。




 音楽の布教活動以外は、発魔器によって土の魔力がたくさん貯まってきたので、街道整備を開始した。街道整備では今まで土を土魔法で整形して火魔法で焼いて固めていたけど、陶器とかガラスのような材質なので馬車の車輪で何度も踏みつけていると割れてしまうのだ。そのため、やり方を岩の整形に変えたのだ。

 土の整形は魔法が切れると形がくずれるけど、岩の整形なら恒久的に形状を維持できる。だけど、岩の整形には土の整形とは比べものにならないほどの魔力を消費するので、今まで街道整備には使えなかったのだ。


 街道には一定間隔に街灯も設置する。太陽光発魔器が付いているので、昼間は雷の魔力を貯めて、暗くなると自動で点灯する。盗まれないように、長い間触れているとスタンガンが発動したりする。これで街道が多少安全になるだろう。


 複写魔法のために水魔法使いを雇うようにした。発魔器の魔方陣をコピペしてもらうのだ。もちろん発魔器そのものも魔道具工場で生産するようにした。発魔器で魔力を確保できれば、工場で働く魔法使いの魔力に生産量が依存していたのが、いくらでも生産できるようになる。


 とにかくエネルギーの確保が優先だ。魔力を貯めておくための魔石も欲しいので、牧場のミノタウロスやらをお肉の需要よりも多めに狩ってもらっている。お肉は牧場に戻しておくと、綺麗に共食いしてくれるんだよ。だから無駄ではないよ。ちなみに、私が牧場に視察に行くときは、必ず温厚な性格に記憶を改ざんしているので、生きたまま共食いすることはなくなった。それどころか、温厚な性格が遺伝子に染みついたのか、生まれてくる魔物も温厚になっている。そのうち気絶させる係がいらなくなってしまうかも。いや、いくら温厚だからって、傷つけたら怒るだろうからムリか。



 発魔器もだいぶできてきたので、領内の農村と領都を結ぶワープゲートは常時開放できる目処が立った。農村から領都までは歩いて二時間はかかるので、年寄りが買い物に出るには厳しい。でもこれからは数分で来られる。

 ちなみに、領都に入るには門で入領審査が必要だが、農村はフリーだ。領都は城壁で囲まれているが、農村は簡易的な柵で囲まれているだけだ。農村から領都に審査なしでワープできてしまうと困る。かといって、農村の範囲は常に拡張したりしていて、城壁を作るのが難しい。やはり、ワープゲートで審査するしかないか。


 マシャレッリ領から王都へのワープゲートと、マシャレッリ領からお嫁さんの実家の領地へのワープゲートも、一般開放することにした。ただし、こっちは開きっぱなしじゃなくて、人や馬車通すたびに開閉する。一日に付き、人なら五十人、馬車なら十台くらいを通すのが限度だ。


 農村を結ぶワープゲート違って、料金を取る。普通に旅をする場合の宿代や護衛費用などより少し高い程度の料金設定した。宿のランクや護衛人数によっては、ワープのほうがお得だし、もちろん数日の距離が一瞬になるメリットだってある。食料を運ぶ商人なら冷蔵庫の魔石を考えると、ワープの方が絶対お得だ。これじゃ、一日十台じゃ足りないな。もっと発魔器を増やさなければ。




 こうして夏の長期休暇は終わりをつげ、私たちは王都へ。自分たち用のワープゲートは別に確保してあるよ。


 王都に着くと、農園やお店の状況確認。フョードロヴナでは、早くもワープゲートをロビアンコから買い付けて運用を開始したらしい。やはり、領地と家の規模が違うな。


 それから、王家と学園に新曲、じゃなかった、新しい魔法を公開した。新しい、っていうか、言葉にできることはほとんど魔法にできるので、便利な魔法のうち危険じゃないと判断したものを思いついたときにメモっていたものを教えただけだ。


 今回公開したのは、主にキャンセル魔法だ。キャンセル魔法の原理は発魔器と同じで、現象を回生することだ。火の玉が飛んできたときに、タイミングよくキャンセル魔法を発動できれば火が燃えることをキャンセルできる。そして、自分の魔力として吸収できる。ただし、自分の魔力が満タンのときに吸収しようとすると、気持ち悪くなったり鼻血を吹いたりするので、そのときは周囲に霧散させなければならない。


 魔法使いというのは基本的に攻撃力ばかりであり、防御力が皆無だ。だから、魔法使いというのは対戦しない。キャンセル魔法があれば、同じ属性の魔法使いの戦いなら、対戦っぽいことができるかも?まあ、当たったら痛いどころじゃ済まないからやっぱり対戦はできないかもね。



 授業が始まって二回目の休日に、演奏者オーディションの二次試験を行った。アニソンのTVサイズバージョンで、一分三十秒の長さだ。今まで短い童謡ばかりやってきた者たちにはとても長い曲だ。お嫁さんたちだって何ヶ月もかけて覚えた曲だ。一フレーズの魔法のメロディを三ヶ月かけて覚えていたころが懐かしい。もちろん、暗譜していなかったら即失格。音やリズムの間違いも減点。

 さらに、アナスタシアの作詞した歌詞が楽譜に書いてあり、歌詞の情景や感情にそぐわない演奏のしかたをしたら減点だ。


「それではどうぞ」

「はい」


 ハープを構えるイアサント。木琴は楽だけど、レストランや喫茶店のBGMに木琴はナシだ。リコーダー、ラッパ、バイオリン、ハープのどれかで披露するよう言いつけてあった。


 ぽんぽん…♪イアサントがハープを奏でる。音とリズムの間違いはない。情景と感情の表現も悪くない。まあ、基本的には言葉を強いか弱いに変換するだけなので、よほど歌詞を曲解しないかぎり難しくない。


「結果は全員終わってから言い渡します。次、どうぞ」

「はい」


 イアサントの後は、ドリエンヌ、ジョジョゼ、クレマノン、ジョジョゼの母親、クレマノンの母親、それから、マシャレッリの魔法使いスタッフの男性二人、女性一人。最後にマシャレッリスタッフではない王都の平民の男性。


 魔法使いはみんなハープだ。指が慣れている楽器を選ぶのは当然だね。それから、平民男性だけリコーダーだ。


 全員の演奏が終わり、全員を部屋に集めた。


「合格発表します。イアサント、ドリエンヌ、ジョジョゼ、クレマノン、アンドレイ、エドワード。以上の六人です」


 私が名を呼んだ途端に歓喜の表情に変わるイアサントたち。淡い赤髪のアンドレイはマシャレッリの魔法使いスタッフの男性で、エドワードは王都の平民の男性だ。


「「「「キャーっ!」」」」「よし!」「やったぁ!」


 喜んでいる女子四人と、男性二人。

 落ち込んでいながらも娘の合格を喜んでいる母親二人。


「あなたはこことここの音を間違えています。それから、ここの歌詞は『燃えるような恋』ですから、淡々としすぎていました。

 それからあなたはここのリズムが……」


「ユリアーナ様って音を聞いただけで間違ってるって分かるのよね」

「音と魔法に愛された方だものね」


 私がジョジョゼの母親とクレマノンの母親に、不合格の理由を説明していると、ジョジョゼとクレマノンが私のことを言っていた。この世界の人は音が間違ってるって分からないのだから、正しい音で弾く必要なんてないのかな…。いや、間違ってたら気持ち悪いくらいは感じるよね?


 イアサントたちは私と長くやってきたからここまで来られたのだろう。母親たちは経験不足だったね。

 経験不足なのはマシャレッリスタッフのアンドレイもエドワードも同じだったけど、やっぱり人によって音楽能力の差があるみたい!もしかしたら音感がある人も見つかるかも!


 マシャレッリのスタッフばかり合格したけど、無関係の人が一人合格してくれてよかった。


 合格者の勤務先はレストランと喫茶店。あ、喫茶店は私の個人名義だった。まあいいや。六人雇ったけど、どう割り振ろうかな。四人はバンド?男性二人には接点がないけど、組ませた方がいいかな。


 日本のレストランといえば昼食と夕食がかき入れ時だけど、この国に昼食の概念はない。だから、朝食の時間は欠かせない。夕食というのは夕暮れ時の四時から五時頃だ。まあ、ご飯時でなくても、それなりに人はいるんだよね。


 喫茶店のほうは一日中満席だ。っていうか、規模が小さすぎるな…。私の小遣い稼ぎのお店なんだもの。もう一店舗作るか。私の名義じゃなくてマシャレッリ家で。もう一店舗できたら、イアサントとドリエンヌ、ジョジョゼとクレマノンは別れてもらおう。


 というわけで、基本的に一日中演奏してもらうことにした。途中に一時間の休みくらいはあるよ。


「あなたたち四人はこれらの曲を、それからあなたたち二人はこれらの曲を練習してください」


「「「「新曲ね!」」」」「「売られていない楽譜ですか!」」


 今ある童謡とアニソンはちょっとレストランや喫茶店には合わない…。そこで、クラシックとかジャズとかいいたいところだけど、私はそんなものをほとんど知らない。比較的カッコいいアニソンを選んで、アナスタシアに歌の趣旨を伝えて作詞してもらった。

 ちなみに、あいかわらず娯楽・芸術音楽は変ロ長調かト短調だけだ。


「これらの曲は、レストランと喫茶店でしか聴けません。プレミア感があって良いでしょう」


 まあ、レストランと喫茶店は音楽で客寄せなんかしなくても繁盛してるんだけど。


「それってすごいわ!」

「誰よりも先に新曲を弾けるなんて!」

「私たちのための曲…」

「私たちが最初に弾いていいのかしら…」


「それから、それぞれの曲は指定の楽器があります。基本的に、すべての楽器を演奏できるようになってくださいね」


 それぞれが同じパートを同じ楽器で演奏してもつまらない。リコーダー、ラッパ、バイオリン、ハープで主旋律と副旋律に分けてある。ただ、この曲がものになるころには、喫茶店の二号店をオープンさせるつもりなので、二人でできるように仕上げてある。


「まあ、これらがものになるまでデビューできないのではつまらないので、しばらくは今回の試験に使った曲と、今まで弾いてきた曲を演奏してもらいます。農村に防音室を作りましたので仕事の後に練習してください。そして、三ヶ月で一曲目を仕上げてください。私も一ヶ月に一回は見に来ます」


 一応、楽譜の読み方とかマニュアルにしてあるから、みんな自主練でがんばっているのだけど、プロになるからにはちゃんと私が見てあげないとだ…。音楽の教師になれる人って私以外にいるのかな…。


 というわけで、レストランと喫茶店には演奏家が付き、音楽を聴きながら優雅に食事を楽しめるようになった。まだ童謡とかアニソンばかりだけどね。喫茶店は常に満員なので演奏家は売り上げに貢献してるとはいいがたい。レストランでも朝食と夕食のかき入れ時は変わらないけど、それ以外のときに音楽を聴きながらお茶を飲みに来る人が増えた。だからといって、演奏家の給料を上回る分の利益は出ない。競合店がいないから、これ以上客寄せなんていらないのだ…。私じゃなかったらこんな採算の取れない仕事なんて許可しないだろう…。




 魔物討伐訓練とか、周辺国の地理の授業とかを適当にすごしつつ、一ヶ月に一度、農村の防音室に赴き、イアサントたちの指導を行っている。


 そして、季節が秋に移り変わるころ、喫茶店の二号店がオープンし、イアサントたちの新曲をお披露目する日がやってきた。お披露目っていったって、演奏会を開いて聞かせるんじゃなくて、BGMだからね。とくに宣伝などしていないのだ。だけど、


「あらこの曲…」

「うむ。初めて聴くな」

「(ざわざわ)」


 喫茶店二号店の客は、イアサントとドリエンヌが始めて演奏する曲に聴き入っている。まるでディナーショー。コーヒーが冷めても、アイスクリームが溶けても気にしない。客の回転率が落ちて、売り上げ落ちるんじゃない?

★ユリアーナと婚約者

 とくに記載のないかぎり十四歳から十五歳へ。女子の身長はマレリナと同じくらい。


■ユリアナ(ユリアーナ・マシャレッリ侯爵令嬢)

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■マレリナ(マレリーナ・マシャレッリ侯爵令嬢)

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一六〇から一六一センチへ。(十四歳以降は一年間で一センチ成長)

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■アナスタシア・マシャレッリ侯爵令嬢

 青紫髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二四から一二五センチへ。ぺったんこ。

 口調はお嬢様言葉。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三四から一三五センチへ。ぺったんこからほんのり膨らみが。

 口調はほぼ平民言葉。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。

 身長一六五から一六六センチへ。(マレリナ+五センチ)

 口調はですわますわ調。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。

 口調はですます調。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十四~三十五歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。

 身長一六四から一六五センチへ。(三十五歳で身長の成長は止まる)

 エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。

 口調は平民言葉。



★クラスメイト


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子

 黄色髪。


■エンマ・スポレティーニ子爵令嬢

 薄い水色髪。実子。


■パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢

 水色髪。


■エミリーナ・シェブリエ侯爵令嬢

 濃いめの赤髪。


■アルベール・ルブラン子爵令息

 薄めの黄色髪。


■アルメリア・ベンシェトリ伯爵令嬢

 オレンジ髪。


■ベアトリス・アルヴィナ男爵令嬢。

 薄い青髪。


■イアサント

 エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。退学。


■ジョジョゼ

 エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。退学。


■ドリエンヌ

 パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。退学。


■クレマノン

 パーノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。退学。


■キアーラ・ベルガマスコ伯爵令嬢

 濃い赤髪。元侯爵家。


■エレオノーラ・パレルモ子爵令嬢

 オレンジ髪。


■オフィーリア・フェッティ子爵令嬢

 青髪。


■ヘレン・バトカス子爵令嬢

 淡い赤髪。


■シェリル・ホッパー男爵令嬢

 淡いオレンジ髪。


■テレサ・トライオン伯爵令嬢

 青髪。


■エレノーア・シェルトン子爵令嬢

 淡い水色髪。



★マシャレッリ伯爵家


■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(八~九歳へ)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★ユリアナと婚約者の家族


■ナタシア

 ユリアナの育ての親。


■ルシエラ

 ユリアナの産みの親。

 マザーエルフと呼ばれている。二〇〇〇歳くらい。

 ユリアナと同じキラッキラの銀髪。身長一五〇センチ。人間の十二歳くらいの顔つき。十歳のころのスヴェトラーナ級の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■オレリア

 マレリナの母。


■イゴール

 マレリナの父。


■ビアンカ

 マリアの母。


■ステファン

 マリアの父


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十三歳)

 黄緑髪。


■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵

 セラフィーマの父。オレンジ髪。


■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人

 セラフィーマの母。レモンイエロー髪。


■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵

 淡い黄色髪。ブリギッテの養父。


■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人

 淡い水色髪。ブリギッテの養母。


■ジュリクス・ジェルミーニ男爵

 ピンク髪。マリアの養父。独身。



★その他


■ハイドラ

 成人ハイエルフ。エリザベータ級の爆乳。五〇〇歳くらい。

 やや明るく緑がかった銀髪。

 紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■サンドラ

 成人エルフ。十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■リュドミラ

 ルシエラの側近。やや水色がかった明るい銀髪。八〇〇歳くらい。

 紐なし葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■ラーニナ、アネスタ、エリザンナ

 他のエルフ村の村長。ハイエルフ。


■ニーナ

 成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。

 十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。


■アブドゥルラシド・ローゼンダール王(二十九歳)

 空色の髪。


■ヴァレンティーナ・ローゼンダール第一王妃(二十九歳)

 明るい青の髪。


■レナード(四十九歳くらい)

 コロボフ子爵領の村の神父。


■アルフレート(六十歳くらい)

 マシャレッリ領都の神父。


■ハンス

 マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。

 兼教会の木琴教師。


■クレマノンの母

 元男爵夫人。淡い赤髪。


■ジョジョゼの母

 元男爵夫人。淡い水色髪。



◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□⑪□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

   ⑩③

    S

    ~

    □□?⑬

    ~

    ⑫

    ~

    ⑭


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領

 ⑩巨大ミツバチの巣(国外)

 ⑪ルブラン子爵→男爵領

 ⑫エルフの村1、⑬ブリギッテの出身地?、⑭ルシエラ王の村


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。



◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□⑨■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□⑥□□②■

 ■□⑤□③□■□□⑧

 ■■■□■■■□□⑧

 □□□□□⑦□□□⑧

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁


◆座席表

  ス⑤⑨⑫□□

  ヴ□□□⑥②

  □□□□□①

前 □⑦⑩ブ⑬③

  ア⑭□⑪⑧④

  □□□パ⑮エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1=イアサント(退学)、②エンマの下僕2=ジョジョゼ(退学)

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1=ドリエンヌ(退学)、④=パオノーラの下僕2=クレマノン(退学)

 ⑤=エミリーナ、⑥=アルベール、⑦=アルメリア、⑧=ベアトリス

 ⑨=キアーラ、⑩=エレオノーラ、⑪=オフィーリア

 ⑫=ヘレン、⑬=シェリル、⑭=テレサ、⑮=エレノーア



◆周辺国

   N

 ③□④□⑤

 □□□□□

W⑥□①□⑦E

 □□□□□

 ②②②②②

   S


 ①=ローゼンダール、②=エルフの森、③=ウッドヴィル、④=リオノウンズ、⑤=アバークロンビー、⑥=ヘンストリッジ、⑦=ヴェンカトラマン


 1マス=1000キロくらい



◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

変ト長調、変ホ短調?:×邪、不幸、呪い→○世の中のことわりの管理、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金

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