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11 出生の秘密

★転生七年目、冬、学園四年生の冬休み

★転生八年目、春夏、学園五年生の前期

★ユリアナ十三歳




「こんにちは、私、ユリアーナと申します」


 私は耳を見せてエルフであることをアピール。あいかわらず陰部を晒しているようで恥ずかしい。だけど、エルフは大人になったらみんな見せるんだよね…。まあ、地球でも南国では胸丸出しの部族とかいるし。


「ようこそ。私はサンドラ。知らない子だね」


 最初に矢を放ったエルフが、さっきあんな出会い方をしたのも忘れて、降りてきて出迎えてくれた。実は、こうしてくれるように記憶を仕込んでおいたのだ。


「私、捨てられて人間の町で暮らしていましたが、自分の出生を知りたくなってここを訪れました」

「そうなの。大変だったね。他の人は知ってるかなぁ。あいにく村長は珍しく酔っ払って潰れていてね。ちょっと私がみんなに声をかけてくるよ」


 サンドラは他のエルフに事情を説明してくれるようだ。


「よかったね、ユリアーナ」

「うん」


 ブリギッテが馬車から出てきた。


「ここがエルフの村かぁ!」

「木に穴を開けて住んでいるなんて幻想的ですわ」

「魔道具を作ってたりするんですかね!」

「ユリアナが生まれたところではないのかな?」

「ユリアーナのお母さんいるのかしら」


 それから他のお嫁さんとメイドも。


「村長の客間に案内するよ」

「よろしくお願いします」


 これも仕込みだ。村長不在で勝手に部屋を使ったりしない人だったっぽいので。



 そんなわけで、村長の家にみんなで転がり込んだ。料理なども振る舞ってくれた。魔物の肉や果物を使った料理だよ。ハイドラほどの腕があれば、どんな強力な魔物でも食えそうだ。


 それに、実力者はハイドラだけじゃない。ニーナ級とまではいかないけど、かなりの手練れが四人いるのだ。それもみんな洗脳しておいたけど。


 八人のエルフが集まった。とりあえずサンドラが主体で話を進めてくれる。


「銀髪のエルフ、いや、ハイエルフだよね。それにまだ若いよね。もしかして、捨てられたエルフって王の子なんじゃ…」


 洗脳前も、私の外見を見て王の子だと断定していた。そしていきなり矢を放ってきたのだけど、今は王座には無関心になるように操作してあるので、この程度の反応だ。


「わ、私、エルフの王の子なんですか?」


 今知ったかのように返してみる。私、恐ろしい子。


「ユリアーナ様はやっぱり高貴なお方だったのですわ」


 スヴェトラーナはまるで自分の自慢をするかのように、大きすぎる胸を張って、ぽよんぽよんと胸を弾ませている。


 ちなみにここにいるエルフの胸の大きさは、十歳のころのスヴェトラーナくらいだ。エルフの標準体型なのだろう。たしかに、ブリギッテが今のペースであと十五年成長したら、これくらいになりそうだ。

 そんな大きな胸を葉っぱ水着だけで隠している。葉っぱに紐を付けて後ろで結んでいるけど、すぐにずれてしまいそうだ。最初は私を殺そうとしてきた人たちだけど、今は安全だしここは楽園に違いない。


 それにしても、エルフって南国でこんな素っ裸に近い格好をしているのに肌は白いな。っていうか私も同じか。マレリナと比べると白いんだよ。マレリナも白人系だから黄色人種よりは白いけど。この世界には紫外線とかメラニンとかないのだろうか。

 それに、今は真冬なんだけど、ローゼンダール王国よりかなり南だからこんな格好でいられるんだな。南国の女の子は開放的でいいな。


「ハイエルフを通り越してエルフの王女様かぁ。図らずともアルカンジェリ子爵様の希望どおり、王族に嫁ぐことになっちゃったよ。あはは」


 ハイエルフって村長になるくらいだから、やっぱり偉いのか。


「十三年前にね…、いやもうすぐ十四年になるかな。王であるルシエラ様が子を産んだのだけど、すぐにさらわれてしまったらしいんだ。そして、殺されたって聞いてたんだけど、ユリアーナくらいの年齢のハイエルフって、その王の子しか生まれてないんだよね」


 サンドラはいろいろ話してくれた。まあ、話の方はお嫁さんたち向けであり、私はその間、サンドラや他の七人の記憶を読み取って情報収集した。サンドラには、王の子の件に関して詳しい者を集めてもらうように仕向けてあったのだ。それから、上の部屋で酔い潰れているハイドラからも記憶を読み取っている。


 まず、ルシエラ王の住む村の位置は、この村から南西に一五〇〇キロほどらしい。エルフの王は何百年かに一度、交代するらしい。代々、王の子が王を引き継いできたが、その王の子がさらわれて殺されたという噂が流れたために、我こそが次代の王というハイエルフが四人、名乗りを上げたという。


「そのハイエルフは、ラーニナ様、アネスタ様、エリザンナ様、そしてこの村のハイドラ様だよ。あれ、ちょっと待って。ハイドラ様は王座を目指してないんだった。あれ?もう一人、誰だっけ?ごめん、忘れちゃったよ」

「あはは…」


 付け焼き刃の記憶操作だったから矛盾が出てしまった。王座を目指しているハイエルフの人数だとか、もうちょっと記憶を深く探って書き換えないとダメだぁ…。へたすると、記憶が戻ってしまうかもしれない。

 情報収集しつつ、おかしいところを修正したり、私に対して友好的になるように仕向けた。


 主に話してくれているサンドラはあまり多くの情報を持っていないけど、上の階で寝ているハイドラからは多くの情報を引き出せた。

 ハイエルフは、王座を狙っている四人以外にも二十人ほどいるらしい。ただし、ハイエルフどうしで子を産んだり、何百年も放浪の旅に出たまま帰ってこない者もいるので、細かいところは分からない。


 ルシエラ王は、王だからといってエルフ全体の統治にはあまり興味がなく、むしろ、自身の住む村もあまり統治しているとはいえない。それなのに、その村に住んでいるハイエルフは皆、ルシエラ王を敬っているらしい。


 私が全属性持ちなのだから、当然親も全属性持ちだろう。心魔法を使えれば、洗脳し放題だ。私がこの村でやったようにね…。


 そのルシエラ王の姿だけど、ハイドラの記憶には遠目で見たことがあるだけで、はっきりとは分からなかった。自分を生んだ親がどんな人なのか気になる。父親の役割をした人もいるんだろうな。



 セルーゲイの集めてくれた情報どおり、ハイエルフは人間の二十倍の寿命を持つ。十歳までは人間や普通のエルフと同じように育つ。十歳からは身長と顔つきに成長速度が人間の二十分の一になる一方、胸やお尻の成長は人間とあまり変わらず、十歳から一七〇歳くらいまでの一六〇年間かけて、スタイルがエリザベータ級になるらしい。その後は一〇〇〇年くらい外見が変わらない。年齢を正しく数えている者はおらず、だいたい一〇〇〇歳がターニングポイントとのことだ。そこからは、人間と同じ速度で外見が老いていき、数十年で死に至るか、老いる前に自殺してしまうという。


 ハイエルフは全員マルチキャストであり、最低でも四属性、最大で十属性を持っている。魔力もかなり高い。四属性だとわりとカラフルな髪色をしているが、属性が多くなるほど無彩色に近くなる一方で、艶を増すという。それほど頻繁に髪を洗わないので艶は普通のエルフにはあまり認識されていないが、洗えばつやつやになるというのはハイエルフの間では常識らしい。



 この村は人口が四一人と少ない方だ。エルフの村は他に六つあり、それぞれ五〇人から一〇〇人程度が暮らしている。つまり、エルフの総人口はせいぜい四〇〇人ということだ。


 この村はエルフの地域の最果てではない。私たちはコロボフ子爵領の村から真南に進路を進めたが、途中、東側にエルフの村があるという。その村は、しばしば人間に若いエルフを売ってお金を得ているという。おそらくそれがブリギッテの故郷だ。



 そして、ハイドラからは私の知らない魔法をいくつか得た。まず、時魔法は未来視と過去視。今いる場所で過去に起こったことと未来に起こることを見られるらしい。ハイドラの魔力では最大二十四時間先か二百四十時間前までを見られるようだ。私ならもっと離れた時間を見られるだろう。


 消費魔力は現在との時間差と見ている時間に依存。過去よりも未来の方が十倍高コスト。他の場所の視界を得たかったら、自分が動くしかない。


 視界は普通の視界と別に得られる。同時に映っても混乱しない。未来視で好ましくない出来事を見た場合はたいていそれを回避しようと動くので、見たままのとおりにはならないことが多い。それに、あくまで現在の場所から見た未来の景色であって、未来の自分がいる場所から見た視界が得られるわけじゃない。


 もう一つは、タイムリープだ。これも過去と未来に行けるけど、過去視と未来視よりもかなり消費が大きい。ハイドラの魔力では数十分過去か未来に行くのが関の山ようだ。私ならもっと行けるだろう。

 過去をやり直せるってヤバくない?未来視でも似たようなことをできるけど、タイムリープでは何度もやり直せるところがポイント。


 それから、空間魔法の遠視。これは望遠鏡のようなものだ。障害物に遮られていると、その先は見えない。ズーム倍率に応じて魔力を消費する。未来視と同じように、普通の視界とは別に得られる。同時に映っても混乱しない。


 一方で、透視という魔法もあった。これは障害物を隔てた場所の視界を得るものだ。自分のいる位置から、障害物を透過してその先を見ることができる。障害物の厚みに応じて魔力を消費する。

 遠視と組み合わせると、障害物に関係なくどこまでも遠くを見られるが、消費魔力がバカにならない。また、遠視であまりに遠くを見ようと思っても、大気中の花粉や水蒸気などの粒子によってかすんでしまい、ハッキリ見えない。というか、マジでただの望遠鏡だ。そこで、透視を組み合わせると、大気中の粒子を無視して、今度こそどこまでも遠くを見られる。だけど、やっぱり消費魔力がバカにならない。



 その日は泊めてもらうことになった。ハイドラは起きてこなかった。一〇〇パーセントエタノール四リットルはさすがにきつかったか。


 私はエルフの村を見学させてもらうと見せかけて、洗脳のかけ直しと記憶操作をして回った。また、狩りから帰ってきた者が不審がる前に洗脳しておいた。帰ってこなかった者が一人だけいるが、この村のエルフはもうみんな私の味方なので、一人で騒いだところでどうにもできないだろう。


 翌日、私たちは一五〇〇キロ南にある、ルシエラ王の住む村に向けて出発した。結局、ハイドラには会わなかった。せっかく私への好感度はマックスにしたのに。




 エルフの村では話しにくかったことを、道中の車内で話した。


「ユリアーナ様、もし本当に王の娘だとしたら、ユリアーナ様は王の住まう村でエルフの王位を継ぐのですか?」

「私はマシャレッリ領でみんなと暮らすわ。王なんて関係ない」

「よかったですわ」


「王族に嫁げってアルカンジェリ子爵様の命令が果たせそうで何よりだよ」

「だから王にならないってば」

「ははは」


 やっぱり王族ってステータスなのかね。



「エルフって魔法に長けているくらいだから魔道具がたくさんあるのかと思ってました」

「そうね、残念だったわね」


 エルフの家は原始人もいいところだった。トイレや灯りの魔道具すらなかったのだ。

 でも、川で全裸になって水浴びしてるエルフもいた…。普段着が水着なのに、脱ぐ必要あるのかな…。なんというか、全裸より水着姿のが好きだなぁ。



「ねえブリギッテ。エルフの服装ってあれが標準なの?」

「うん」

「ブリギッテも村にいたときあれだったの?」

「うん。気に入った?今度降りたら作ってあげるよ」


「またユリアーナはでれーっしてるわね」

「そうですわ。わたくしでは足りませんの?」


「いや、そういうわけでは…。ちょ、ちょっとぉ、事故る~」


 スヴェトラーナが私に胸を押しつけてきた。早くこの胸を心置きなく揉めるようになりたい…。これじゃ拷問…。ああ、私、罰を受けてるからこれでいいのか…。




 途中、野宿で一泊して、エルフの村らしきものが見えてきた。


 前の村では酷い目に遭った。ルシエラ王も協力的とは限らない。私は反乱勢力にさらわれたらしいけど、それが本当かも分からない。もしかしたらルシエラ王に殺されそうになったのを、誰か他の人に逃がしてもらったのかもしれない。


 まあ、本気で殺そうと思ったのなら、赤子の私なんて一瞬でプチれるか。ルシエラは、きっとハイドラ以上の長生きで、私以上の魔法を駆使しして戦うだろう。私には何一つかなうものなどないはずだ。


 車の前に馬ゴーレムと御者の模型を生成して、馬車っぽく見えるモードに変形した。


 村の外観は、前の村とあまり変わらないが、所々に古びた機械のようなものがある。魔道具かな。

 しばらく進んでいると大木の家のゾーンに入った。大勢のエルフが……花道?花道を作って笑顔でこちらを見ている。なんで?こんなところまで馬車で来た人間を歓迎してくれるの?それとも、私を知っている?悪意の指輪は反応なし。


 一番近いエルフの心を読んでみた。ちょっと遠いから途切れ途切れだけど。

 あれがきっとルシエラ様の言われていた、ルシエラ様の娘に違いない。本当に無事に帰ってきたんだ!

 私が今日来るって知ってたの?もしかして、マジで歓迎モードなの?


 私は馬車を止めて外に出た。大勢のエルフが近寄ってきた。やっぱり悪意の指輪は反応しない。


「ようこそ!」


「あ、あの…私…」


「ルシエラ様の娘が本当に帰ってきた!」

「ルシエラ様にそっくり!」


「えっ、あの…ちょっと…」


「ちょっと小さいルシエラ様、可愛いぃ!」

「ちょっと、赤くなってるよ!」


「うわあぁ」


 私はたくさんの葉っぱ水着エルフにもみくちゃにされた。十歳スヴェトラーナ級の胸に押しつぶされて圧死しそうだ。やっぱり私を殺そうとしてるんじゃ…。


「わたくしのユリアーナ様を返してくださいまし!」

「ユリアーナは私のなんだから!」

「ユリちゃんは渡しません!」


 葉っぱ水着エルフの波にスヴェトラーナが胸で割り込んだ。その後ろにマリアちゃんとセラフィーマが追従して、私を引きずり出そうとしている。


「わぁ!この子、人間?」

「人間なのにハイエルフみたいな胸しちゃって素敵!」


「えっ、ちょ、ちょっとお待ちになって」


 今度はスヴェトラーナが葉っぱ水着エルフの波に飲まれてしまった。


「ねえ、こっちの小さい子も可愛いよ」

「ホント」


「うわああ、助けてー」


 今度はマリアちゃんが葉っぱ水着エルフの胸に押しつぶされそうだ。


「ユリちゃん救出です!」


 私を囲っていたエルフが分散した隙にセラフィーマは私の手を掴んで、引きずり出した。


「どうだった?」

「楽園はあったんだ…」


 ブリギッテに聞かれて本音で答えてしまった…。


「またデレデレしちゃって」

「まあ、ユリアナだししかたがないよ」


 アナスタシアとマレリナは呆れ気味だ。


「それくらいにしておけ」

「「「「「はーい」」」」」


 現れたのはエリザベータ級爆乳の、おそらくハイエルフ。エルフとハイエルフは胸の大きさで区別するものなんだと分かってきたよ。そして、葉っぱ水着だけど、やっぱり先端にちょこんと葉っぱがくっついてるだけで、紐で結んですらいない。まあ、この大きさは紐でどうにかなるようなものじゃないから、これが正しい形なのかもしれない。

 葉っぱパンツと葉っぱパレオは普通のエルフと共通のようだ。

 ほんのり水色がかった明るい銀髪だ。きっと赤がないんだ。


「ようこそ。私はリュドミラだ」

「私はユリアーナです」

「どうやら本当にルシエラ様の娘のようだな」

「私は自分の出生を知りたくてここに来たんです」

「ルシエラ様に会うといい。こっちだ」


「あの、わたくしたちもよろしいですの?」

「いいぞ」


 私たちはリュドミラに付いていった。


 ルシエラのすみかは、そこらのエルフと変わらない大木にあった。

 リュドミラが藁のカーテンを開けて、私たちに入れと促す。


 中に入るとそこには…私…。いや、私よりちょっと年上な私…。身長は十センチくらい上かな。顔つきもほんの少しだけど大人びてる。だけど、まだまだ子供って感じ…。たぶん、人間でいえば十二歳くらい。

 だけど、その身長に似合わぬ、大きな胸とお尻。十歳のころのスヴェトラーナくらいかな。そして、その胸の先端にちょこんとくっついてる紐なし葉っぱブラ…。葉っぱパンツと葉っぱパレオは他のエルフと同じ。

 そして、私と同じ、少しウェーブがかった、キラキラとした無彩色の銀髪。何年髪を切っていないのだろうか。背丈の二倍くらいあるのだけど…。


 あれがルシエラ…。可愛い…。私だけじゃなくて、お嫁さんたちも魅入っている。悔しいけどあの可愛さじゃ惚れてしまうのもムリはない。あれ、でもあれは私の将来の姿?っていうか、私の母親なんだよね?私が惚れていいのかな。


 部屋の奥で藁のベッドに横たわっているルシエラは、難しい顔をして私を見つめている。


「らららら……♪」


 ルシエラの綺麗な歌声…。ああ…、嬰ト短調の…記憶操作じゃん!




 知らない天井だ。自然のままの木の天井だ。


「っつ…」


 頭が痛い…。


「ユリアナ、大丈夫?」

「えっと…」


 私が起きると、マレリナ、スヴェトラーナ、アナスタシア、セラフィーマ、ブリギッテ、マリアちゃんに囲まれていた。私の愛しいお嫁さんたち。


「ルシエラ様はユリアーナ様に記憶を植え付けたとおっしゃってましたわ」

「そうみたい…」


 ルシエラの膨大な記憶を頭の中に送り込まれて、混乱を通り越して頭が痛い。親子の感動の再会はどうした!話もしないで記憶に必要なことを植え付けるだけで済ませやがった…。ろくでもない母親だ…。


「みんなはルシエラと話したの?」


「そうよ。ユリアーナと同じ声をしてるのに、口調は全然違うのよ」

「魔道具の知識はユリちゃんのほうが断然上でした」

「ちょっとお姉さんになったユリアーナって感じだったけど、私はユリアーナの方が好き!」

「私は両方と結婚したいなぁ」


 みんなそれぞれの感想を述べた。


「どのような記憶を受けとりましたの?」

「えっとね…」


 まず、私はルシエラに植え付けられた記憶のうち、みんなに話すことと話さないことを整理した。


「私は自分が何者なのか聞きました…」


 私はルシエラの娘。ルシエラはマザーエルフと呼ばれるエルフの王だ。ただ、やっていることはほとんどファザーだ。


 ルシエラの役目は、この世界に魔法をもたらすことだ。強力な魔法使いであるルシエラは、人間に魔力を持つ子を産ませることで、世界に魔法をもたらす。マザーエルフであるルシエラが人間に子を産ませると、ハイエルフが産まれる。ハイエルフが人間に子を産ませるとエルフが産まれる。エルフが人間に子を産ませると、魔力を持つ人間が生まれる。こうして、人間の魔法使いが生まれる。


 マザーエルフの寿命は、人間の一〇〇〇倍。十歳までは人間と同じように成長する。十歳以降は、身長と顔つきの成長速度が一〇〇〇分の一になる。

 そして、今まで自分はハイエルフだと思っていたのだけど、私はどうやらマザーエルフらしい…。だから、私は十歳からちっとも背が伸びないのだ…。マザーエルフは基本的に他人に子を授けるファザーばっかやっているが、自分に子を授けることもできるらしい。そう、マザーエルフは自分と結婚できるのだ…。ルシエラが自分と交配してできた子供が私というわけだ。私はルシエラのクローンなのだ。


 ところが、マザーエルフが自分と交配して産んだ子は、基本的に魂が宿らない。魂の宿っていない身体は植物人間のような状態であり、何もしなければそのまま死ぬという。じゃあ、その魂の宿らない身体は何のためのものなのかというと、心魔法を使って自分の魂と記憶を移して生まれ変わるためのよりしろなのだという。マザーエルフは寿命が人間の一〇〇〇倍あるにもかかわらず、転生を繰り返して使命を全うするために生き続けなければならない。


 じゃあ私は何なのか。私の身体は本来ルシエラの魂が宿るためのもの。なぜルシエラは存在しているのか。私はなぜ生きているのか。

 それは、ルシエラが空間魔法と時魔法、邪魔法、そして心魔法の合成魔法を使って、異世界から魂を呼び寄せて、この身体に宿らせたからだ。私の魂は、地球から呼び寄せた薫の魂なのだ。


 生まれたばかりのころには薫の記憶がなく、私はただの赤ん坊だった。本来、この身体はルシエラの魂を宿らせるためのものであるが、薫の魂を宿らせて、ルシエラの記憶と知識だけをコピーする予定だった。そして、私に使命を押しつけて自分を使命から解放しようと思ったのだ。

 だが、記憶をコピーする前に私は連れ去られた。ルシエラの力があれば、取り戻すことは簡単だった。だが、ルシエラは取り戻さなかった。なぜなら、時魔法で未来視したところ、私が成長してこの地に戻ってくるのが分かったからだ。

 私は連れ去られたあとすぐに、この村の者によって助けられた。ところが、追っ手が迫ってきており、村に戻ることはかなわなかった。そのあとは、場所が遠くなったので未来視でも分からなかったらしい。私を助けた者がどういうわけかコロボフ子爵領の村に私を届けたようだ。

 


 ルシエラは薫の魂だけ呼び寄せたつもりだった。ところが私は六歳の時に薫の記憶が蘇った。そう、私が六歳のときに薫が地球から転生してきたのではない。私は生まれたあとすぐに、薫は転生してきていたのだ。薫の記憶が蘇ったときに、妙に落ち着いていたのはそのためだ。六歳までのユリアナというのは、一時的に記憶がからっぽになった薫が操縦していた身体にすぎない。私は六歳の時に薫であったことを思いだしただけなのだ。


 薫というのは無作為に選ばれた魂ではない。絶対音感を持っている者の中でルシエラと特性が最も近い者が選ばれたという。特性というのは、聞こえる音の高さだ。私は最初、ちょうど一・〇六のN乗倍ずれている可能性は考えたが、まさか完全に一致しているとは思わなかった。薫はポンコツなので、ユリアナの脳みその方がかなり高速だ。だけど、ナトリウムイオンの吸収量の違いによって、ユリアナの聞こえる音と、三十六歳の薫の聞こえる音が完全に一致していたのだ。だから、薫はユリアナの魂として選ばれたのだ。


 だが、薫の記憶が蘇ったのは、ルシエラも予想しえなかった。先ほどルシエラに記憶を植え付けられたとき、ルシエラは私の記憶を一部読み取った。まさか異世界の記憶を持っているとは思わなかったようだ。


 私は地球で得た知識によって、この世界の魔法の法則の九割を解き明かしていたようだ。それどころか、ルシエラの知らない音に関する物理法則の知識と、人間として生きてきた三十六年の間に聞こえる音が上がる経験によって、歳を取ると魔法が使えなくなる人間が発生するメカニズムを解き明かしたりした。



 ルシエラは自分の知識をすべて私にコピーしたわけだが、魔法の法則に関することの多くは知っていることだった。新たに得た知識は、複数属性の合成魔法に関することと、魔力の生み出し方、それと語彙だけだ。まあ、その語彙が膨大なのだが。もはや言葉で表せるものは、すべてメロディで表すことができるだろう。


 ちなみに、この村には魔道具の残骸のようなものはあるのだけど、まともに動きそうなものはない。ルシエラから与えられた知識には魔道具作りに役立ちそうな単語がいっぱいあるけど、ルシエラは何万年も前に魔道具を広めたきりで、そのあとは徐々に廃れていってしまったそうだ。というか、魔道具を生み出したのは、ルシエラの子孫であるハイエルフであって、ルシエラは魔方陣の仕組みと語彙を教えただけだったそうだ。ルシエラに複雑な魔道具を作る能力はないのだ。魔道具の腕は私の方がよほど上だ。魔方陣はプログラミング言語に似ているので、私はかなり複雑なシステム作れる。


 それから、戦闘経験も植え付けられた。記憶だけじゃなくて経験や慣れみたいなものも植え付けられるんだ…。「記憶」じゃなくて「感覚」や「経験」を「植え付ける」というメロディにすれば、それができると分かる。もはや魔法でできないことはないのではなかろうか。



 そして、ルシエラの知識をすべて与えられた私は、この世界に魔法をもたらす使命を与えられた。だけど、ルシエラはここ二万年ほどのあいだ、その使命を全うしていないらしい。つまり、二万年間ほど誰とも交わっていないのだ。そもそも、使命だと本能に植え付けられているが、それを果たしていないからといって誰かに怒られるわけでもないようだ。というか、誰かに怒られるんじゃないかと思いながら二万年間サボっていたらしい。そして、万が一天罰を受けて死んでしまっても構わないと思っていた。

 だけど、やっぱりやらなきゃいけないんじゃないかという本能に苛まれた。でもサボりたい。そこで私を作ったというわけだ。


 私は使命を押しつけられた形になった。私はお嫁さんを六人ももらうことになっているけど、それじゃ全然足りないようだ。私はルシエラから知識だけじゃなくて、何万人もの女の子とエッチした記憶や経験ももらってしまった…。そんな記憶いらねえええ。私は今のお嫁さんを大切にするんだ。ルシエラが過去にエッチしたあの子は良かったなぁとか思い出したくもないし、エッチのテクニックとか知りたくもない。私は心魔法でルシエラがエッチした記憶を自分から消し去った。数え切れないほどの女の子とのエッチは他人事だ。


 それに、人類に魔法をもたらす方法は子を産ませることだけじゃないと思うのだ。魔物の肉や果物を食べた人間には魔法が発現する。魔力を含む食べ物を食べることを人類に習慣づけていけば、魔力持ちは増えるんじゃないかな。そうすれば、私が手を出さなくても魔法使いは増えるだろう。もしかしたら、魔力を含む食べ物を私が広めているのは、使命感から来るものなのだろうか。

 私が果物に出会ったのはアナスタシアを助けるために祝福がもたらしたものだと思ってたけど、私の運命がもたらしたものだったのかもしれない。



 ちなみに、ルシエラの寿命は五万年とか六万年らしい。一度だけ、老いが始まるところまで生きたことがあるらしい。だけど、基本的には一万年くらいでクローンを産んで魂を移してしまうらしい。


 なぜルシエラは生まれ変わらなければならないか。それは、老いると聞こえる音がだんだん高くなって、魔法を使うときに少し高めの音を出さなければならないからだ。そう、マザーエルフは人間の一〇〇〇倍の寿命を持つので、三万年たつと聞こえる音が半音上がるのだ。ルシエラもそのことを認識しているから、半音高く歌えば魔法を使えないわけではない。だけど、常に脳内で半音高い音に変換してから歌わなければならないのは気持ち悪いのだ。それは三十六歳の薫が感じていたことに他ならない。脳の老いで聞こえる音が高くなる前に新しい身体になるのは理にかなっている。


 マザーエルフの二〇〇〇歳っていったら人間の十二歳相当なんだよな。薫は十二歳のときに聞こえる音が上がっていることには気がつかなかった。


 ちなみに、一万歳ほどになると身長と顔つきはほぼ大人になり、エリザベータをはるかに超える爆乳になるらしい。胸が大きすぎて、動くのがおっくうになるとか。とはいえ、人間と同じペースで一万年間胸が大きくなり続けるわけでもないようだ。



 さて、ルシエラに植え付けられた記憶と、それに対する考察を交えてお嫁さんたちに話した。話していたら頭の整理ができたのか、頭が痛いのが治まってきた。


 前世の記憶を持っているということも話した。だから料理や魔道具のことを次々に思いつくのかと、マレリナとセラフィーマに納得された。

 とはいえ、私が前世に男だったことは話していない。もしかしたらお嫁さんたちは気にしないかもしれない。なぜなら、エルフというのはどちらかというと女の皮を被った男だからだ。私が男の心を持っているのは、種族公認なのだ。

 そういう、私の男の側面を求めてお嫁さんたちは私のそばにいるのだから、いまさら前世は男でしたって言っても、とくに驚きはないのかもしれない。だけど、前世が男であることがばれないようにビクビクして生きるのはTS転生者の嗜みなので、私はそれをまっとうしなければならない。




 夕食を振る舞われた。魔物の肉や果物を使った料理だ。何の肉だろう。うちで育ててる肉ではない。脂肪分が少ないササミのような感じだけど、コクはコカトリスよりある。

 果物はマンゴーだ。これもうちにはない。両方とももらって帰ろう。

 それから野菜もマシャレッリ領で育てているもののように美味しい。美味しくなる魔法を使っているに違いない。

 パンは柔らかくないけど、野菜と同じように美味しい。

 味付けは塩だけなのだけど、素材が美味しいから全体的に美味しい。まあ、マシャレッリ領では今でこそ胡椒とか香辛料がたくさんあるけど、マヨネーズを作る前は塩味だけだった。それと同じだ。


 だけどルシエラは顔を出さなかった。なんで私と話してくれないんだ。仮にも産みの親でしょ。


 私はお嫁さんたちを部屋に置いて、一人でルシエラの部屋に押しかけた。


「ルシエラ?」

「ユリアナ…」


 ちょっと私より背の高い、ロリ巨乳な私…。可愛い…。

 ルシエラの葉っぱブラは紐なしだった。華奢な身体にその大きな胸を紐で支えるのは不可能かもしれない。

 耳は私より少し長い。でも髪の毛からほんの少し顔を出している程度だ。

 声も可愛いアニメ声…。自分と同じ声だけど、自分で発するよりずっと可愛い。


 私はルシエラに名乗ってないし、リュドミラたちにはユリアーナと名乗ったのに、ルシエラはユリアナと言った。どこまで記憶を読んだんだか。


「ねえ、お話したい」

「二年後にまた来るがよい」

「えっ…」

「おぬしは学園とやらを卒業するまで、子種を授けてくれぬのじゃろう」


 のじゃ系ロリ来た…。

 私の記憶を読んだんだね。別にいいけどね。


「私がルシエラに子を授けるの?ルシエラは私の産みの親じゃないの?」

「自分で自分に子を授けられるのじゃ。子から子を授かれるのも道理じゃ」

「なるほど…」


 近親婚で問題は起こらないということか。


「えっと…、二年後に子を授けに来るって約束するから、今はお話してよ」

「イヤじゃ。自分以外にこんな気持ちを抱いたのは初めてじゃ…」

「えーっと…」


 ルシエラは顔を赤らめている。私を尻目で見て、私と目が合うと、目をそらしてしまう。なにこの子…、可愛い…。ツンデレか?


「どうやらおぬしはわらわより魔力が高いようじゃ」

「あれ?そうなの?」


「おぬしはわらわと同じくらいの魔力しか持たぬはずじゃ。じゃが、おぬしは小さいころから魔力切れを繰り返して、膨大な魔力を得たようじゃ。今までわらわ以上に強いものなど見たことなかったから、わらわはわらわにしか惚れたことがないのじゃ。じゃが、おぬしはわらわより強いのでわらわはおぬしに惚れてしまったようなのじゃ…」


「マ・ジ・で…」


 小さいころ祝福テロをしていたのにそれほど効果があったとは…。私のチート魔力は自分で鍛えて作り上げたのか。

 それと、自分に惚れたってなんなんだ…。自分大好きっ子か?


「わらわをこんな気持ちにさせておいて子種をよこさぬのなら帰れ」

「えええ…。そんなこと言わないでよ」

「ふんっ」

「私がルシエラに産ませた子はマザーエルフになるの?」

「さあな。かつてマザーエルフが二人いたことはないから、マザーエルフどうしで交わったことなどないのじゃ。もしできたとしても、第二子の属性数が落ちるのは必至であろう。全属性持たぬ者をマザーエルフと呼べるのかは知らぬわい」

「なるほど」


 第二子の属性数は、両親の属性数の平均の九割が期待値だ。十属性か十一属性になってしまうことだろう。


「早く帰れ」

「イヤだ」

「ちょっ…」


 私は嫌がるルシエラを抱きしめた。何も抵抗しないから嫌がっていないのかもしれない。ツンデレなのかな。使命のために転生を繰り返して、何万年、いや、何十万年も生きてきたルシエラ。なんだか可哀想になってしまった。


「そんなことされたら、わらわは我慢できんのじゃ…」

「もう、そんなことばっか言わないの」

「はう…」


 エッチしかやることがないのだろうか。こうやって抱きあって触れてるだけでも私は気持ちいいけど。

 ルシエラもまんざらでもないみたい。ツンデレの言うことを真に受けてはならないということか。

 私は母親に会いに来たのに、何十万年も生きてる神のような存在なのに、巨乳なのに、まるで子供みたいだな。のじゃロリ巨乳ツンデレ少女…お持ち帰りしたい…。


 私たちは抱き合って、そのまま一晩寝てしまった。




 翌朝、ルシエラはいなかった。


「おはようございます、ユリアーナ様」

「おはよう、リュドミラ」


 リュドミラはルシエラのお世話係のようだ。


「ルシエラは?」

「ユリアーナ様が去るまで戻らないそうです」

「そう…」


 ちょっと残念。まあ、約束どおり二年後に子を授けに来るよ。親に子を授けるってわけわかんないけど。



 朝食は、お嫁さんたちとリュドミラと囲んだ。


「昨日はお母様とゆっくり眠れましたの?」

「え、ええ」


 母親と寝たというよりは、可愛い女の子と寝た気持ちになっていた…。私がすぐ浮気してしまいそうになるのは、マザーエルフの使命に違いない。とはいえ、それを言ったらお嫁さんたちが悲しむだろうから黙っておこう。


「よかったね、ユリアナ」

「うん」


 マレリナは心からそう思ってくれているようだ。私のいちばんのお母さんはマレリナかもしれない。


「私もお母さんに会いたくなっちゃった」

「じゃあ帰ったらジェルミーニ領に連れていってあげるよ」

「ありがとう!」


 マリアちゃんは私に付いてくるようになって何年帰ってないんだっけか。そうだ、マシャレッリ領に家族を呼んだらいいんじゃない?それをいうなら、私のお母さんとマレリナの家族ももう呼んじゃおうかなぁ。家を継ぐまで待とうと思ってたんだけど。


「私は母の名前をそろそろ忘れそうです」

「いやいや、覚えててあげて。サルヴァトーレ侯爵とエカテリーナ夫人でしょ」

「サルヴァ…。エカテ…」


 うわっ、親の名前が三文字にまで減ってる。脳みそのメモリが揮発性高すぎる。


「セラフィーマも一度実家に帰った方がいいよ…」

「うーん。過去の人ですし」

「早いってば」


 まだ死んでないでしょ。


「金のために私を売った村には私は帰らないよ」

「そっか…」


 ブリギッテの村は、最初に寄った村よりも北東にあるみたいだ。まあムリに行く必要はない。


「マレリナはどうする?」

「うーん」

「ねえ、私たちの親と、マリアちゃんの親をマシャレッリ領に連れてくるのはどうかな」

「お父さんはつのウサギ狩りでお母さんは畑だったから、どこにいてもできるだろうけどねえ」

「帰りに寄っていこっか」

「うん」


 私たちは環境に恵まれた。貴族に売られて、もう二度とお母さんに会えないと思っていたんだけどね。セルーゲイからは信頼されてるし、当主になればそういうことはなおさら自由にできる。


 貴族の権力に伴う義務なんて面倒だけど、私はそれ以上に大きな使命を持ってるみたいだから、貴族の権力を利用するのも手だね。実際に、教会で魔力持ちを育成してるし。


 それに、魔法をもたらすって、魔力持ちにハープの使い方を教えて終わりじゃないと思うんだ。ルシエラは私と同じように声で魔法を使えるんだ。みんなが歌えるようになるところまでが使命の範囲じゃない?よーし、俄然燃えてきた!



「ねえリュドミラ、ルシエラのことをどう思っているか教えてよ」

「ルシエラ様は王だ。ルシエラ様の役目は、我らや人間に子を授けることだと聞いたが、私が生まれて八〇〇年、子を授けているのを見たことはない。私たちは子を授かりたくてしかたがないというのに」

「へー…」


 本当にサボりなんだ…。


「じゃあ、リュドミラはハイエルフとハイエルフの間に生まれた子なの?」

「そうだ。だが産みの親は四〇〇年前に、種付けの親は七〇〇年前に他界した」


 父親側を種付けの親っていうんだ…。両方とも母親だからそんな言い方で区別するんだ…。


 ルシエラは二万年ほど子を授けていない。つまり、リュドミラは何十代も後の子孫だ。


 そうか、ルシエラは子よりも長生きなのか。ルシエラは何人の子や孫を見送ってきたのだろう。ルシエラに植え付けられた記憶には、ルシエラが使命を全うしなくなった理由が含まれてなかった。もしかしたらルシエラは、自分の子に先に死なれるのがイヤになったとか?それって、私がお嫁さんたちに子を産ませても同じことが起こるのか…。それはたしかに寂しいね…。何十代も後の子孫なら、他人に思えるのかな。でも何百年も側でお世話してもらっていれば、家族同然に思えないものだろうか。

 何万人もの子とのエッチの記憶じゃなくて、そういう寂しい気持ちを教えてくれればいいのに…。


 ああ、私って、ルシエラより長生きする初めての子なのか。あっ、私がルシエラに授けた子がマザーエルフなら、同じくらい長生きするんじゃない?ああ、ルシエラが私を呼び出したのは、使命を押しつけるためじゃなくて、同族が欲しかったからなんだ!ルシエラは私のことを恋する乙女のような目で見てたと思ったけど、あれは家族に対する目だったのかな。

 今まではマザーエルフというのはルシエラ一人しかいなかったけど、私というマザーエルフが増えたから、これからはマザーエルフっていう種族で繁殖できるんじゃない?まあ、五万年も生きる知的生物がたくさん増えても困るかもしれないけど。


 でもまあ、とにかくあと二年待ってほしい。私は第一子をお嫁さん以外に授けるわけにかないのだ。正室を誰にするかでも迷っているというのに。

 ルシエラは、せっかく私という家族が帰ってきたのに、私が子供をくれないからすねてどっか行ってしまったのか。ホントに何十万年も生きてるのかな。まあいいや。


 ちなみに、ルシエラがマザーエルフだということは、この村のごく一部の者にしか知られていないらしい。そもそも、ルシエラは何千年もあまり外に出ていないし、他の村の者はルシエラがまだ成人してない若造の外見をしていることも知らないみたいだ。それなのに、王座に挑もうとしてるなんて笑っちゃうね。



「ねえ、ニーナというエルフを知ってる?」

「ああ。この村の出身だ」

「すごく強かったんだけど」

「かれこれ一〇〇年会ってないが、今二五〇歳くらいか?まあ、私の知っているニーナは一五〇歳にしては強かったな」

「他にも強いエルフはいる?」

「一〇〇年間鍛錬を続けていたのなら、エルフの中ではニーナの右に出る者はいないだろう。だが、あくまでエルフの中でだ」

「それはつまり、ハイエルフは長生きだから強いってこと?」

「まあな。ハイエルフも鍛錬ばかりしているわけではないがな。少なくとも、私や他の村の村長になるような者はニーナよりも強い」

「なるほど」


 私はルシエラから戦闘経験をもらってしまったのだけど、たぶんもっと鍛えなければ身体が付いていかないだろう。筋力強化を使わなくても、とてつもない速度で動いていた記憶があるのだ。




 朝食の後、私はルシエラのことが気になってルシエラの部屋を見に行ったけど、やっぱりいなかった。諦めてみんなの部屋に戻ると…、


「ユリアーナ!ど、どうかな」


 マリアちゃんの膨らんでるのか膨らんでないのか微妙な胸の葉っぱ水着姿…。良いね!


「ユリアーナ様!見てくださいまし!」


 スヴェトラーナは紐なし葉っぱブラだ。二つの球体は解き放たれた。


「ここでは普通の装いなんだけどねー。みんな気に入ってくれて何よりだよ」


 ブリギッテのは紐ありだけど、これまたすぐにずれそうな危うさがそそる。


「ユリちゃん、意外に機能的ですよ」


 大人になりかけのセラフィーマの水着姿もなかなか。


「私なんかがこんな格好しても…」


 完全にぺったんこなアナスタシアの水着姿も可愛い!


「ユリアナ…見ないで…」


 アスリートなマレリナの水着姿も、みんな素晴らしい。


 みんなが葉っぱ水着を着ていた。もう、私はあと二年待たなきゃいけないのに、誘惑しないで…。


「はい、ユリアーナ様の分」

「私も着るの…」

「もちろんですわ」

「紐なしは十歳スヴェトラーナ様のようなお胸様専用だと思っていたのだけど…」

「これは身分の高い者の装いですわ」

「そうだったんだ…」


 スヴェトラーナはまあ、公爵令嬢だからね。

 スヴェトラーナの胸は二本の紐で制御できるわけないけど、私はまだ普通の十三歳、そろそろ十四歳か。身長は低いけど、胸の大きさは年相応なんだよ…。だからといって、紐なしは必要ないんじゃないかな。


「はぅ…」


 私はスヴェトラーナにひんむかれて、胸にペタッと葉っぱを貼り付けられた…。これは、裏側が人肌にくっつく植物らしい。でも、剥ごうと思えば手で簡単に剥げてしまうのだけど…。

 そして、パンツも小さくてローライズ…。ゴムではなくて紐で留めるので、緩くてすぐに落ちてしまいそう…。せめてハイレグだったらくびれに引っかかるのに…。


「ユリアーナ様、この葉っぱの木をいただいて帰って、領地で育てましょうよ!」

「意外に丈夫ですね。たしかに服の材料として適しています」


「ええぇ…」


 スヴェトラーナとセラフィーマがノリノリだ。売れるのだろうか…。紐を蜘蛛の糸のゴムに変えたら、もう少し安定するかな。


 他にも、食事に出た肉と果物をもらうことにした。ササミっぽいのは大きなトカゲだった。あとはマンゴーだ。魔物の肉や果物を食べて魔力を発現させて、小さい頃から魔力切れを繰り返していれば、魔法使いを増やせるのだ。エッチして子を産ませることだけが魔法を広めることではないさ。


 あと、ハープボウもサンプルとして一つもらった。




 翌日、私たちは帰ることにした。


「それが人間の馬車というものか。そんな魔物、初めて見たな」

「いや、これは魔道具だよ」

「ほう」


 軽自動車の馬と御者ゴーレム付きモードだ。ちなみに、馬車は英語でもキャリッジというくらいで、この世界の言葉でも馬という意味を含んでいない。でもまあ、この世界の馬車を引くのは、地球の馬と同じ形をした魔物であり、それを馬と呼んでいるけど。


「また来いよ」

「うん!」


 私たちは十二人乗りの軽自動車に乗り込んで、見送ってくれるリュドミラと他のエルフたちに手を振った。


 そして、遠くの木の陰に隠れて、しょんぼりした顔でこちらを見ているルシエラ…。

 私はルシエラに笑顔を送った。すると、ルシエラは顔を赤らめつつ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。なにあれ…。マジで可愛い生き物なんだけど…。


 道中、果汁が美容液になりそうなココナッツのような果物や、香りが良いが食べられない果物や花を手に入れた。どうやら化粧品業界に進出せよとの神のおぼしめしだ。魔法と化粧は関係ない気がするけど、塗ると魔力が上がったりするのだろうか。




 ルシエラの村を出て三日後の夕方、私たちはコロボフ子爵領にある故郷の村にたどり着いた。


「ここがユリアーナ様とマレリーナ様の育った村…」


 日も落ちてきて暗いが、スヴェトラーナは目をこらして村の何もなさにあきれている。


「お父様が二人を引き取ったから、二人は家族と引き離されることになったのよね…」

「いいえそれは違うわ。セルーゲイお父様が私たちを引き取らなくても、他の貴族に目を付けられていたわ。だから、私たちに良くしてくださるセルーゲイお父様に引き取っていただけたのは、私にとって最善だったのよ」

「そう…」


 責任を感じてしまっているアナスタシアをマレリナが抱きしめて言った。実際のところ、私がマレリナにかけた祝福で、魔法を覚えたい私と一緒にいたいというマレリナの願いを叶えた結果が、マシャレッリ家行きだったのだけどね。


 私とマレリナは、それぞれの家の扉を叩いた。まあ、目と鼻の先なので、マレリナが扉を叩く音が私にも聞こえたのだけど。


「はーい」


 お母さんの声だ。やっぱり、ナタシアお母さんが私のお母さんだ。タチアーナは貴族夫人としてはかなりラフな方だけど、せいぜいお姉様ってところだ。ルシエラは彼女にしたい…。


 お母さんは扉を開け、ハイヒールを履いていても十二歳相当の背丈の私を見下ろした。


「あら、ユリアナじゃない!」

「お母さん!」

「あらあらどうしたの?」


 私はお母さんに抱きついてしまった。やっぱりこうしたいお母さんはお母さんだけだ。


「お母さんあのね、私の領地に来てほしいの」

「ええぇ?そんなことしていいの?」

「うん」

「ねえ、後ろの子たちは?」


 私の後ろには、スヴェトラーナ、セラフィーマ、マリアちゃん、ブリギッテ、そして四人のメイドいる。

 ちなみにアナスタシアとオルガはマレリナに付いている。


「私のお嫁さんたちだよ」

「お嫁さん…」

「前にも言ったでしょ。エルフは女の子と結婚するんだって」

「そうだったわね」


「ごきげんよう、わたくし、スヴェトラーナ・フョードロヴナと申します」

「ご、ご丁寧にどうも…」


 スヴェトラーナの背丈はお母さんと同じくらいだ。だけど、スヴェトラーナの胸に圧倒されている。


「セラフィーマ・ロビアンコです」

「ナタシアよ。よろしくね」


「マリアだよっ」

「可愛い子ねっ」


「私はブリギッテ」

「ブリギッテさんもエルフなのね」

「うん」


「あとね、あっちにマレリナともう一人いるんだ。後で紹介するね」

「マレリナとも結婚するのね」

「うん」

「ユリアナはたくさんお嫁さんをもらって幸せなのね」

「そうだよ」

「でも…、この家にみなさんを入れるわけには」

「そうだねえ…」


 原始人の村の薄汚い家にお嬢様の塊のようなスヴェトラーナを入れるわけにはいかない。あと、アナスタシアも埃っぽくて病気になってしまうかもしれない。

 だけど、セラフィーマは研究のためなら汚くて臭いところでも平気でいられるし、ブリギッテとマレリナはどちらも原始人出身だから気にしなくていいだろう。

 意外にもマリアちゃんは汚いところを嫌うんだよね。まあこの村は平民の中でもどん底だろうからね。


 問題は汚いかどうかよりも大きさだ。この家に六人のお嫁さんと五人のメイドが入れるわけない。それでも、スヴェトラーナとセラフィーマは興味があるみたいで、構わずに家に入ってしまった。すると、続けてマリアちゃんとブリギッテも入ってしまった。


「あわわ…」


 ドレスを着たお嬢様たちがこんなに薄汚い家に入ってしまって、お母さんはどうしていいか分からない。


「ユリアーナ、暗いしほこりっぽいよ…」


 ほら、マリアちゃんがいちばんに根を上げた。


「これがユリアーナ様の育った家…」


 エルフの家とあんま変わんないでしょ。エルフの家との違いは、木を木魔法で変形させたか、斬って組み立てたかの違いしかない。文明レベルはそれほど変わらない。でも清潔感は風通しの良いエルフの家のほうが上かも。


「ユリちゃんが平民だったなんて信じられません」


 そうかな。私、貴族になりきれてないと思うんだけど。



 マレリナがアナスタシアを連れてやってきた。


「ユリアーナのお母様、ごきげんよう。私はアナスタシア・マシャレッリです」

「私はナタシアよ。こんなに可愛い子もユリアーナのお嫁さんなの?」

「ええ、そうよ。みんなユリアーナのことが好きでしかたないの」

「そ、そうなのね…」


「ねえみんな、ここは狭いから、今日は郊外に野営地を作るので、そちらへ…」


 もう、お母さんは多すぎるお嬢様におろおろしている。私はみんなを誘導した。


「そ、そうですわよね。大勢で押しかけてしまって申し訳ございませんでしたわ…」

「早く出よ!」


 スヴェトラーナは興味本位で入ったものの、あまりの汚さに逃げ出したくなっていたんじゃないかな。

 マリアちゃんは正直だよね。


「ごめんねお母さん。みんなを野営地に送ったら、また来るね」

「ええ…」


 私はみんなを郊外に連れていき、土魔法で野営地を設営した。




 今晩は、私とマレリナはそれぞれの家に泊まることにした。


「お母さん、ごめんね。気を使わせちゃったよね」

「え、ええ…」


 私はともかく、ドレスのお嬢様が平民の家にどかどかと押しかけるものじゃない。


 お母さんは美味しい野菜とお肉のスープを出してくれた。去年と同じメニューだ。神父様からもらってる私の買い取り代金で、マシャレッリ領から売りに来るちょっとだけ高い野菜や肉を毎日買えるのだ。


「あのね、さっきも言ったけど、私の領地に来てほしいの」

「そんなことしていいの?」

「私ね、二年後にマシャレッリ領の領主になるんだ」

「ええぇ?お手伝いさんじゃないの?」

「うん。言ったじゃん、偉い公爵家の子とも結婚するって」

「あれ…、そうよね…、さっきの子たちはみんなお嬢様だったわよね。それにユリアナが着ているのもドレスってやつよね」

「そうだよ」


 前回着てきたドレスは、いまだに部屋に畳んであった。だけど、ボロボロで血だらけだからドレスとは分からなかったようだ。


「ユリアナってその、お貴族様ってやつなの?」

「そうだよ」

「ええーっ!?」

「アナスタシアって小さい子がいたでしょ。私はそこの家の養女になったの。養母と養父はアナスタシアと同じように接してくれるんだ」

「ユリアナがお貴族様…。お貴族様って何のお仕事をするの?」

「領地の経営だよ」

「領地…、経営…」


 お母さんの辞書にない言葉だったかな…。お母さんがフリーズ気味だ。この村はコロボフ子爵領の領都からちょっと離れてるし、ほとんど放置されてる。ひどい重税というわけではないが、領主というのは年貢を取り立てるだけで何もしてくれないもののようだ。


「お母さんは何の仕事をしたい?マシャレッリ家でメイド…、お手伝いさんする?」

「わ、私がお貴族様のお手伝いさんなんてムリよ」

「じゃあ畑?」

「うん。それでいいわ」

「領都じゃなくて農村の方になっちゃうけど、すぐに会えるからまあいっか」

「じゃあ、一週間後に迎えに来るね。それまでに荷物をまとめて、周りに挨拶済ませておいてね」

「わかったわ」


 私は昔やっていたように、家の裏に土魔法でお風呂を作って、お母さんと二人でお風呂に入った。お母さんはまた、分厚い垢をまとっていた。でも洗ってあげたからピカピカだ。


 そして、私はネグリジェに着替えて、お母さんとほこりっぽいベッドに入って、お母さんに抱きついて寝た。やっぱり私のお母さんはお母さんだけだ。




 翌日、私はマレリナと教会に赴いた。祝福の曲、変ロ長調が外に漏れ聞こえていた。


「「ごきげんよう」」

「なんだ、今度はマレリナも一緒か」


 レナード神父は私とマレリナを見て一瞬目を見開いたが、すぐに「またか」みたいな呆れた顔になった。

 私たちは神父の座っている座席の近くに腰掛けた。


「私たち、家族を領地に連れていくことにしました」

「当主の許可を得たのか?」

「私、二年後にマシャレッリ家当主になるんです。今でもそれくらい好きにできます」


 ちなみに、領民が他領に移住するのは自由だ。それに他領の当主が領民を引き抜くのも自由なのだ。


「ほう。うまく取り入ったものだな」

「取り入っただなんて…。まあ、マシャレッリ侯爵は私のことを全面的に信頼してくれてますね」

「マシャレッリ領の発展のことは知っている。すべてキミが養女になってからのことだな」

「はい。全部私の仕業です」

「やはり、キミは豊穣と魔法をもたらす女神か何かなのだろう」

「やはりって…。じゃあお話ししますよ…。私、自分の出生を知りたくて、エルフの村に行ってきたんです。そしたら……」


 私は自分がマザーエルフの子であり、マザーエルフの座を受け継いだことを話した。マザーエルフが自己交配するとか、魂を呼び寄せられて前世の記憶があるとか複雑なことは話してないけど。


「それで、前回渡した資料に目を通しましたか?」

「ああ…」

「今回手に入れた情報をまだ資料にしてないのですが、興味ありますか?まあ、ほとんど単語辞典になってしまいますが」

「私の魔力では使いこなせぬ」

「魔法はイメージに頼らないで、メロディで詳しく状況を説明すれば、それだけ魔力消費を抑えられるんですよ」


 聖魔法は願い事のような側面があり効果もすぐに現れないのでわかりにくいが、具体的にメロディで状況を説明して魔力消費を現実的な範囲に抑えれば何でもできる。病気が治るような出来事とか、水の恵みとか、人々のための善行であれば何でもいいのだ。


「それでもいらぬ。これも持って帰れ。戦争になるぞ」

「そうですか」


 前回渡した資料を突っ返された。


「じゃあこの話はおしまいにします。家族の話に戻しますね。連れていくので、家族への補助金はもういらないです」

「補助金?ああ、キミたちを買い取った代金だな。分割払いでまだ支払い切れていないのだがな」

「またまたぁ。もう五年じゃないですか。毎日銀貨一枚払っていたら大金貨十八枚分ですよ」

「足りないと思うが?キミはマシャレッリ領にいくらもたらしたのだ?大金貨千枚分か?一万枚分か?」

「えっと…、今年は二十万行きますね」

「ははは。私には想像できないな。それにマレリナだってそれほどまでに髪の色が白い優秀な命魔法使いだ。命魔法使いを雇うのは高いのだぞ。それに用心棒もしているし、実子の世話もしているのだろう」

「そうです。マレリナはいつも周りのことを気遣っていて、聖女と呼ばれているんですよ」


「私なんてユリアナの足もとにも…」


「だから、これは正当なる代金なのだ。そもそもだな、キミが祝福でもたらした補助金がおかしいのだ。使い道がなくて大半は金庫の肥やしだ」

「それなんですけど、楽器を買ったり子供たちに楽器を教える資金にしてもらえませんか?」

「魔力を持たぬ者に楽器を教えてどうなる」

「では聞いてください」


 私はふんふん♪と異次元収納から木琴を二つ取りだして机に置いた。

 そして、マレリナと顔を見合わせて、互いにうなずいた。


「一、二、三、はい」


 かっかっかっ、……♪

 かっかっかっ、……♪


「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」


「ほう…。これは心魔法か?詩の風景が浮かぶようだな」

「これは魔法ではありません」

「記憶を植え付ける魔法ではないのか」

「これは魔力を持たない者にもできる、娯楽音楽です」

「魔力を持たないものでもこれができるのか?」

「はい。マシャレッリ領の教会では、五歳以下の小さな子供に娯楽音楽を学ばせています」

「これを五歳の子供ができるのか…」

「私は娯楽音楽を広めたいのです。そのために補助金を使ってほしいです」

「なるほど。だが何か利益があるのか?」

「娯楽音楽は、人々の心を豊かにします」

「そんな曖昧な利益では誰もやらないだろう」

「そう思いまして、もうひとつ…。ふんふん……♪」


 異次元収納から魔力検査の魔道具を取りだした。


「これは魔力検査の魔道具か?魔石が十個しかないようだが」

「これは私がまだ時魔法と邪魔法を知らないときに作ったものなのですが、とりあえずこれで足りるでしょう」

「これは大古の昔に製法が失われたものだったはずだが、キミに言っても無駄だな」

「ここ二、三年に生まれた子供の魔力を検査してみてください。ごくわずかですが、魔力持ちの子が見つかるかもしれません」

「ふむ。いいだろう」

「実は、魔法で育てた野菜や魔物の肉を食べていると、魔力が発現することが分かったのです」

「キミは世界のことわりを破壊しすぎだ」

「長い年月のあいだに人間が忘れてしまっただけなのです」

「ふむ」

「それで、魔力持ちなら楽器を覚えさせる口実になるでしょう。魔力持ちでなくても、一緒に楽器をやりたい子はたくさんいるでしょう。木琴は安く作れるので、コロボフ子爵領の木材加工屋に作らせてください。この二つはサンプルとして置いていきます。それから、楽譜はやっぱり返します。これを使って、魔力持ちの子供たちに魔法を覚えさせてください」

「なるほど…。マザーエルフというのは魔法を広める使命を負っているのだな」

「そうみたいです」


 私は娯楽音楽を広めて、アニソンを作ってくれる人を育てたいだけです。結果的に、魔法と音楽を広めることになっただけです。いや、それすらも神のおぼしめし?


「魔法使いを発掘して育てるのですから、教会の活動にも合っているでしょう」

「その通りだ」

「木琴を買ってもお金が余ると思うので、うまくできた子にお肉でもご褒美としてあげてください」

「それでさらに魔力が増えるのだな」

「微々たるものですけど」

「わかった」

「それでは、私とマレリナの家族は来週旅立ちますので、援助はそこまでということで」

「援助ではない。代金だ」

「はいはい。それではよろしくお願いします」「「ごきげんよう」」

「うむ」


 私とマレリナはカーテシーで挨拶して、教会をあとにした。補助金を打ち切る相談をしにきただけだったけど、音楽を広めてもらうことになってしまった。そうだ。そろそろお嫁さんの領地や周辺の領地でも魔力の発現している子が出てくるだろうし、他領にもこの活動を広めていこう。


 私とマレリナはお嫁さんたちと合流して、マシャレッリ領への帰路に就いた。




「「「「「「「ただいま戻りました」」」」」」」


「ひどいじゃなぁい。私を置いていくなんてぇ」

「すみません、私は婚約者のみんなと出かけていたんです」

「じゃあ私もユリアーナと婚約するわぁ」

「はぁ?」


 タチアーナはそろそろ三十近いと思うけど、三十六歳の薫にとっては女の子の範疇だからね。私ってストライクゾーン広いなぁ。それに、タチアーナは口調も十七歳っぽいし。


「おい!」


 なんてセルーゲイは私を睨むんだよ。しっかり嫁の手綱握っとけよ…。

 まあ、ムリもないか…。この私はエルフの王なのだ…。誰もを魅了してしまう魔力を備えているのだ…。


「お帰りなさい、お姉様方」


「「「「「「「ただいま」」」」」」」


 エッツィオくんももうすぐ八歳だ。男の子っぽくなってきた。そろそろマリアちゃんより背が高くなりそうだ。マリアちゃんは十四歳になるのだけど九歳くらいにしか見えない。男の子の方が大きくなるのは早いから、夏には入れ替わっていそうだ。


 エッツィオくんには最初私が勉強を教えていたけど、私は忙しくてあまり相手出来なくなったので、アナスタシアやマレリナにまかせていた。最近ではスヴェトラーナも面倒を見てくれているようだ。

 エッツィオくんはすでに楽譜を読んで、いくつかの木魔法を覚えている。魔力の訓練もしていて、かなり魔力は高くなっている。髪の色が濃くなっているのを見れば分かる。

 私としては領内に屋敷を用意してあげるので、どこにも嫁がずに領地の農業を潤す木魔法使いとして活躍してほしいところだ。


「お姉様方は教会に行かれるのですか?」

「ええ、そうよ」

「じゃあボクも連れていってください!ユリアーナお姉様が置いていった楽譜を、ボクも練習していたのです」

「まあ!それでは明日一緒に行きましょ」

「はい!」


 可愛い坊やだ。私が人間の女の子だったらときめいているところだろう。だけど、あいにく私は前世に男の記憶を持っている、女好きのエルフなのだ。



 というわけで、翌日、エッツィオくんを伴って教会に赴いた。


 ひょーろーろー、……♪(マレリナとアナスタシアのリコーダー)

 きんきんきん、……♪(マリアの鉄琴)

 かっかっかっ、……♪(ブリギッテとエッツィオの木琴)

 ぽんぽんぽん、……♪(スヴェトラーナとセラフィーマのハープ)

 ドゥドゥドゥー、……♪(ユリアナのベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナの大太鼓、シンバル、スネアドラム)


「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」


「「「「わああああああ!」」」」」


 ひょーろーろー、……♪(マレリナとアナスタシアのリコーダー)

 かっかっかっ、……♪(マリアとブリギッテとエッツィオの木琴)

 ぽんぽんぽん、……♪(スヴェトラーナとセラフィーマのハープ)

 ぽんぽんぽん、……♪(ユリアナのキーボードベース)

 ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナのドラム)


「春が早く来ないかな……♪」


「「「「わああああああ!」」」」」


 教会に集まった五十人の子供たちの歓声。


 エッツィオくんには木琴をやってもらっている。子供たちの先生になってもらうのだ。

 教会に通っている子供たちの中にも木魔法使いがいるが、エッツィオくんの魔力は桁が違う。育てる系の木魔法は効果が分かりにくいが、木を操るでお手本を見せてあげれば、木魔法使いの子たちもモチベーション上がるはずだ。


 そのあと、私とお嫁さんたちで子供たちの木琴の練習を見てあげた。新しい童謡の楽譜も渡した。毎日やってるからか学園のクラスメイトよりも上達が早い。



 教会での活動を終えて、屋敷に帰宅した。


「エッツィオくん、私たちが学園に行っている間も、教会の子たちの指導をお願いしてもいいですか?」

「もちろんです!」


 エッツィオくん、良い子だなぁ。将来王子のような好青年になれそうだ。教会でモテモテになるだろうな。教会で仲良くなった子と結婚させてもいい。


 エッツィオくんは今度八歳だ。学園に通うまでの二年間、音楽普及大臣として頑張ってもらいたい。




 翌日はセルーゲイの執務室で、セルーゲイとタチアーナにエルフの郷で得た情報を伝えた。


「おまえはハイエルフどころかエルフの王の娘だったのだな」

「はい」

「だがマザーエルフは五万年も生きる種族なので、おまえがエルフの王位を継いだわけではないのだな」

「はい」

「だが魔法を人間にもたらすという使命を受け継いだのだろう。そのために嫁を増やすのか?」

「いいえ。魔法を広める方法は、子孫を残すことだけではありません。教会で魔力の発現した子に魔法を教えたり、魔力を含む食べ物を民に広めることも、魔法をもたらすことだと思っています」

「ふむ。それならよいが…」


「ねぇ~、私もお嫁さんにしてよぉ」

「だからそれはダメだと言っているだろう…」

「あなたには分からないかもしれないけど、ユリアーナは最近、とても素敵に見えるのよ。なぜだか分からなかったけど、マザーエルフって種族の力なのかもしれないわね~」

「頼む…。私を見捨てないでくれ…」

「もうっ、あなたったらぁ…。よしよし」


 私の前でちちくり合わないでほしい。私がどれだけ我慢していると思っているのだ。


 私は全然実感ないのだけど、私は女性にとって魅力的な、たくましい男とか、頼りになる男とかに見えているようなのだ。みんなが私を見る眼差しは、エルフ村のエルフがルシエラにいだいているような眼差しに似ている。




 さて、ルシエラに授けられた知識を整理しよう。


 まず、単語表すメロディだけど、一〇〇万くらいある。日本語や英語もそれくらいあるんじゃなかったっけか。だけど、この世界で使われている言葉よりも断然多い。メロディの方が歴史が長いってことだ。


 というか、メロディを定義したのはルシエラなのだ。魔法の呪文を作っているのはルシエラなのだ。その能力が私に受け継がれているかどうかは、まだ試していない。


 言葉で表せることは、もはや何でもできると言っていい。だけど、あまり大それたことは魔力消費が多すぎて、私でもできないだろう。それでも、イメージに頼っていたときよりも、望む状況を具体的なメロディで表すことで、魔力消費をかなり抑えられる。


 そういえば、今まで胸の球体としてしか表せなかった乳房という単語があったのだ。乳房を大きくしたり美しくしたりするのに、たいした魔力はいらないけど、イメージに頼らなくてよくなったということは、魔道具にもできるということだ。豊胸ブラとか作れるのだ。世界を滅亡させるアイテムになるに違いない。


 それから、子宮とか胎盤とかいう単語もあった。空間魔法の透視で見た内蔵一つ一つに名前を付けたようだ。これで、生理痛改善下着を作れるようになる。


 今まで単語が分からなくてできなかった魔道具をいろいろ作れそうだ。何から作ろうかな。



 単語が分かっても、属性をちゃんと合わせなければならない。やっぱり温めるとかは火魔法だし、空間や移動に関することは空間魔法だ。


 複数の属性に関連のある事柄を実現する合成魔法というのがある。例えば、お湯を出そうと思ったら、私は水魔法で水を出してから火魔法で加熱しているけど、合成魔法を使えば最初からお湯を出せる。やり方は簡単。複数の調のメロディを同時に弾くだけだ。簡単といったけど、違う調のメロディを同時に弾くのは気持ち悪いし混乱する。魔法の音楽は、とことん音楽性に欠けている。


 幸いなことに、火魔法のハ長調と水魔法にト長調は、使う音がほとんど同じなので、ちょっとした異色の音楽に聞こえないこともない。だけど、暖かい風とかハ長調とイ長調なので、気持ち悪いったらありゃしない。



 ちなみに、邪魔法というのは本来、ルシエラが世界のことわりを操作するためのものであり、ルシエラは管理魔法を呼んでいた。ところが、邪属性を持って生まれる者はごくわずかに存在する。その中のごくわずかの者が邪魔法のメロディを手に入れたり、独自に解析したりして、邪魔法を実現してしまうのだ。ごくわずかの偶然も、数十万年の間には、何件も発生してしまうのだ。ただし、魔力消費が大きくてろくなことができないので、よほどのことがないかぎり放置しているらしい。とくにここ二万年間はルシエラはニートなので、邪属性持ちの数を把握していない。


 私が声をやられたとき、私は邪魔法…、管理魔法を使ってしまったのだろうか。しかも、新しいメロディを定義してしまったのではないだろうか。新しいメロディ作るには、メロディを奏でながら叶えたいことを強くイメージすればよいだけなのだ。あのとき私は声を治して欲しいという願いと、私の声を奪う者に死をという願い強く念じた。必死だったので、本当に強い願いだったと思う。あのときの変ト長調、いや、変ホ短調のメロディをはっきりと覚えている。あのメロディは「声を回復して、声を奪うものが死ぬ」という出来事が起こる魔法になってしまったのだろうか。声を奪う者がいないと試せないし、人が死ぬ魔法をそうそう試すわけにもいかない。


 だけど、「蘇らせる」という単語も分かっているのだ。命魔法でも聖魔法でも、管理魔法でも使えるっぽい。植物を対象にするときは、命魔法の代わりに木魔法を使う。

 逆に「死ぬ」という単語も分かっている。生き物を「加熱」すると同じように、命魔法で生き物を「死な」せる場合は相手の抵抗を受けるけど、そんな魔法を広めてはならない。


 ひとまず、単語を自由に組み合わせて好きな効果の魔法を作れるという事実を広めるつもりはない。今回得た単語を組み合わせて、危険の小さい魔法の曲として集めて、国に公開しよう。




 それから、ルシエラから受け継いだ知識の中には魔力を生み出す方法というのがある。魔法で起こせる現象を回生して魔力に戻すのだ。例えば、温める現象を火の魔力に回生することができる。熱そのものではなくて温める現象でなければならない。魔力に回生されると、温める現象はなかったことになる。


 やり方は簡単。普通の魔法の演奏のあとに「現象を回生して魔力にする」というメロディを加えればよい。魔方陣でも同じことができるが、「魔力にする」のあとに「魔石に移す」というメロディが必要になるだけだ。


 現象は、魔法で起こしたものであっても、魔法以外で起こしたものであってもよい。魔法で起こした現象を回生するのは、たんに魔力を移し替えるだけだが、相手の魔法をキャンセルして魔力を吸収するということが可能になる。ただし、よほどタイミングよくやらないと、相手の魔法をすべて吸収するのは難しいし、自分が使える魔力以上の魔法をキャンセルすることもできない。


 一方で、魔法以外の手段で起こした現象を回生すると、魔力を生み出すことができる。薪を燃やして火を起して、それを回生すれば火の魔力を得られる。ただし、完全に火を消してしまうとそれ以上は回生できなくなるので、火が燃え続けるだけの火力を残さなければならない。火力発電のような魔道具を作ろうと思ったら、そのように調整する仕組みが必要だ。


 各属性で最も回生しやすい現象は、


 火、加熱

 雷、光、雷

 木、植物の成長

 土、水を氷に固めること

 水、冷却

 風、風力

 心、なし

 時、なし

 命、自然治癒力、生き物の成長

 邪、なし

 空間、運動エネルギー

 聖、なし


 である。回生できない属性もある。人から幸運を奪って魔力にするようなことは聖魔法にできない。でも、冷やさないようにすることは水魔法でできるのだ。それに、自然治癒力を奪うとか恐ろしいこともできる。


 魔力を生み出せると何が嬉しいかって、そりゃ電化製品を充実させられるってことでしょ。魔道具は魔石という電池で動いているのだ。定期的に魔法使いが魔力を充填するか、魔石を交換しないといけない。

 だから、街灯のようなものを作るのはためらいがあった。都会住まいの日本人には夜でも道が明るいのは当たり前かもしれないけど、この世界の道は夜に月明かりだけなのが基本だ。

 でも、太陽光充電して夜に光るという魔道具を作れば、メンテナンスフリーで街灯を作れそうだ。


 魔力を他の属性の魔力に変換することは直接はできないけど、雷属性を介せばいろいろ変換できそうだ。電気は加熱も冷却もできるし風も起こせる。そして、熱や風から発電もできる。運動エネルギーを回生できる空間の魔力との相互変換も楽だ。

 物体を固めて土の魔力を発生させるのは水を氷にすることで実現できる。

 属性の変換は、ルシエラから得た知識ではない。地球人の理系なら多くの者が思いつけることだ。


 植物や生き物の成長を阻害するっていうと怖いのだけど、木属性の対象は雑草や植物プランクトンでいいし、命属性対象は虫や菌など何でもよさそうだ。もちろん小さいものからは相応の魔力しか得られないけど、塵も積もれば山となる。


 太陽光には人間に見えない光がたくさん含まれている。それらも含めて回生するようにすれば、地球の大量電池とは比べものにならないほどのエネルギーを得られる。太陽光による加熱を直接火の魔力に変換することもできる。


 発電器ならぬ発魔器を作って、魔力のインフラを整備しよう。そして、コンセントで動くような魔道具も作っていこう。


 魔力を生み出す知識については、マシャレッリ領である程度先行して開発してから王家に開示しよう。もちろん、人間の自然治癒力や農作物の成長を回生できるというような危険なやり方を開示したりはしない。命属性と木魔法の回生対象は吟味して、微生物などでしか回生できない魔方陣として開示するつもりだ。


 魔力インフラを整備すると、魔石のエネルギーとしての価値が下がってしまう。だけど、燃料タンクとしての需要は増すだろう。携帯の魔道具もどんどん普及させるのだから。電池はリサイクルしないとね。




 お母さんを迎えに行く前に、マリアちゃんの家族にマシャレッリ領に移り住むか聞きに行くことになった。そのため、往復のための魔力を別の魔石に貯めておいた。二五〇キロの距離ワープゲートは、私の魔力ではまだまだ半往復がやっとなのだ。魔力を使わない日に貯めるか、寝る前の魔力トレーニングの一環として貯めておけば、長距離の往復ができる。


 というわけで、マリアちゃんとワープゲートでジェルミーニ領にやってきた。マリアちゃん一家は領都に住んでいる。表通りは人の往来もあるので、通りの裏にワープゲートを出して、表に回って扉を叩いた。


「あら、マリアじゃない」

「ただいま、お母さん」


 母親のビアンカは縫製職人をやっているらしい。灰色髪だ。身長はマリアちゃんと同じくらいで童顔。マリアちゃんの背の低さと子供っぽさは母親譲りらしい。

 ビアンカは、マリアちゃんが卒業したら帰ってこられると聞かされていたので、ここで感動の再会とはならない。いや、もう何年も帰ってないよね?もうちょっと感動したら?


「お姉ちゃん、お帰り!」

「エルミロ!元気だった?」

「うん!」


 ジェルミーニ男爵に捉えられていたエルミロ。今ではすっかり元気だ。


「さあ、入って。そちらの子…、お嬢様もどうかしら」

「お邪魔します」


 私ってそんなに貴族っぽくないと思うんだ。萎縮しなくてもいいのに。

 私たちはダイニングテーブルの席に案内された。


「あのね、こっちはユリアーナ。私、ユリアーナと結婚することにしたの」

「えっ」

「ユリアーナはねエルフなんだよ。ほら」


「はぅ…」


 急に髪をかき分けて耳を触られたから感じちゃった…。人間にとって耳は何でもないのかもしれないけど、エルフにとっては大事なところなんだよ…。


「エルフは耳が長いって聞いたことがあるわ」

「それでね、エルフは女の子どうしで結婚するんだよ」

「そ、そうなのね…」


 まあ、普通、そういう顔になるよね。


「それからユリアーナはね、学園を卒業したらマシャレッリ侯爵になるんだよ。だから、私侯爵夫人になるんだよ」

「じゃあ卒業してもここには帰ってこないの?」

「それでね、お母さんとエルミロとお父さんにね、マシャレッリ領に移り住んでほしいの」

「ええぇ…、また急なのね」

「仕事はユリアーナが用意してくれるから。裁縫職人もあるよね?」


「えっ、うん」


 蜘蛛の糸の生地は火魔法使いが加熱して溶接するものだから、平民は事務しかやってないんだよね。まあ、普通の平民向けの服屋もあるから、そっちを斡旋してあげよう。


「お父さんのハンターギルドの職員もお願いね」

「うん」


 父親のステファンはハンターギルドに務めていて、昼間はいないようだ。


「いつなら来られる?」

「そうねえ、引っ越しに手続きとか仕事の引き継ぎとかあるから一ヶ月後かしら」

「わかった。そのとき迎えに来るね」

「わかったわ」


 一ヶ月は休みがちょっとギリギリだけど、まあなんとかなるだろう。


 というわけで、マリアちゃんの家族もマシャレッリ領に連れてくることになった。




 お母さんを迎えに行く日がやってきた。


 太陽光から雷の魔力を作ってモーターを回して空間の魔力に変換する装置を作ってみたけど、一週間で貯められたのは、マシャレッリから故郷の村までの二五〇キロまでの人一人分の大きさのワープゲートを数秒開く程度分だけだった。長距離ワープを実用化するためには太陽電池畑が必要だなぁ。


 結局、自分の魔力をプールしておいた魔石を使って、ワープゲートを作ることになった。


 というわけでマレリナを連れてワープゲートをくぐった。出口はマレリナの家の裏。

 表に回ってマレリナが扉を叩く。


「あらマレリナ。迎えに来てくれたのね」

「よく来たな」


「うん」


「ユリアナも久しぶりね」

「うん、ご無沙汰してます」


 マレリナのお母さんオレリアと、お父さんイゴール。そういえば、薫の記憶が戻ってからはろくに会ってない。


 私の背とマレリナの背を比べているようだ。どうせ私は数百年このままですよ。


「お母さんたち、持っていく荷物をまとめた?」

「ええ」


 オレリアはテーブルの上の荷物を指さした


「それだけでいいの?ユリアナなら魔法で家まるごとでも持って行けるけど」

「え…?じゃあ…」


 なんだかんだいって家のものをほとんど異次元収納にぶっこんだ。私は筋力強化を使わなくても、成人男性三人分の力があるので、棚とかタンスもひょいと持ち上げてどんどんぶっ込んだ。マレリナもお父さんより力があるんじゃないかな。両親も口が開いたままだね。



 次は私の家だ。私は自分の家をノックした。


「あらユリアナ」

「おはようお母さん」


「マレリナも一緒ね。おはようございます。オレリアさん、イゴールさん」

「「おはようございます」」


「お母さん、荷物入れちゃうね。ふんふん…♪」

「うん。あ、それは持ってかないやつ…」


 荷物をまとめるとは何だったのか。私は家のものをひたすら異次元収納に入れた。お母さんはおろおろするばかり。


「馬車はどこかしら」

「馬車はないよ。ふんふん…♪」


 お母さんが家の外を見てきょろきょろしてる。

 私はマシャレッリ領都のマレリナ夫妻の家へのワープゲートを開いた。


「ここに入ってね」

「これも魔法なのね…」


 何か諦めた様子でお母さんはゲートをくぐった。続いてオレリアとイゴールも。


「ここはマレリナのお母さんとお父さんの家だよ」


「綺麗な家ね」

「なんだこれは。窓に何か透明なものが埋め込まれているぞ」


 二人とも、清潔感のある白い絨毯や壁紙や、窓ガラスとカーテンを見て驚いている。もちろん、特別仕様だ。王都の農園の職員寮に絨毯や壁紙はないのだ。


 私は異次元収納を開いて、マレリナと家具をどんどん出していった。


「じゃあマレリナ、ここは任せるね」

「うん」


「お母さんは隣ね」

「うん」


 お母さんの家に移動して、荷物を出し、家具を配置した。


 お母さんの家にも絨毯や壁紙を使ってある。広さはマレリナの親の家と同じだ。お母さんもいつか所帯を持つかもしれないし。


 お母さんは結婚する気ないのかな。もう二十後半だから、この世界では行き遅れなんだけど、


「それから裏の畑はお母さんのものだから」


 お母さんが窓から裏の畑を見ていたので、説明した。


「占有していいの?」

「うん。ここの年貢は二割だし、残りの作物全部食べられるわけじゃないから、売れば自分のお金になるよ。毎日木魔法使いが成長促進の魔法をかけに来てくれるから、六毛作できるよ」

「六…もうさく?」

「植えてから二ヶ月で収穫できるんだけど、同じものばかり植えてたら育たなくなっちゃうから、毎回植えるものを換えるんだよ」

「なんだかすごいわね…」

「分からないことがあったら、近所で畑やってる人に聞いてね」

「うん」

「何かあったら、この魔道具のボタンを押してね。私と連絡できるから」

「分かったわ」


 通話の魔道具を置いておいた。これは、大きめの心の魔石が中に入っていて、魔力がなくなったら補充しなければならない。心の魔力に回生する方法がないのが痛いなぁ。



「あとね、この服を着て」

「あら、悪いわよ」

「その服はここじゃ目立つから…」

「そう?」


 お母さんはつぎはぎだらけのボロワンピース。六年前から変わっていない。いや、パッチが増えたかな。蜘蛛の糸の生地で作ったシンプルなワンピース、冬用と夏用、三着ずつをあげた。

 お母さんはちょっと顔を赤らめながら裸になり、ワンピースを着た。前は気にせずお風呂に入ってたのに。


「これはなあに?」

「それはパンツだよ。こうやってはいてね」

「分かったわ」


 私はスカートをたくし上げて、パンツを見せた。いくら相手がお母さんだからといって、ちょっと恥ずかしかった。お母さんもなぜか顔を赤らめてるし…。

 そして、お母さんはワンピースを着たままパンツをはいた。


 もちろんマレリナ一家にも服を用意してある。



 私のお母さんもマレリナの両親も、神父様から支払われていた補助金のおかげで、マシャレッリの野菜と肉を食べてたから、もしかしたら魔力が発現しているかもしれない。だけど、大人になってから魔力切れを初体験するのは予想以上に苦痛みたいだから、ムリに魔力トレーニングさせられない。まあ、今までの慣れた仕事を続けられるなら、それでいいだろう。


 というわけで私のお母さんとマレリナの両親をマシャレッリ領の農村に招いた。イゴールはつのウサギ狩りもしていたみたいだけど、ここにはハンターもいるし、畑をやっていた方が儲かるだろう。

 本当はお母さんたちは仕事をせずに、ぬくぬくとすごしてもらいたいけど、それじゃ居心地が悪いだろう。


 お母さんたちの住む農村と領都を結ぶワープゲートの魔道具を設置した。太陽光を雷の魔力で回生して、電気を発生させてモーターを回した運動エネルギーを空間の魔力に回生するようになっている。農村までは大人の足で二時間はかかるが、たいした距離じゃないので、ワープゲートを毎日数十分は使える。そのうち一般開放しよう。領民は無料。他領民は一回で銀貨一枚、年間パス金貨一枚とか。


「それじゃまたね」

「うん」

「私が休みのあいだは、魔道具を使っていつでも領都の屋敷に来てね」

「わかったわ」


 お母さんの家を後にした。やっぱり家が近くなったのは安心する。



 それから、ルシエラの村でもらった大トカゲのつがいとマンゴーを農園のラインナップに加えた。きっと気温に関係なく育つだろう。


 もっといろんな地域に行って、お肉や果物、素材を集めたいなぁ。


 あと、ハープボウをもらってきたので、ハープ製作技師の店に赴いて、ハープボウを量産してもらうことにした。


 それから…、


「ユリアーナ様、これを使って新しい服を開発しましょう!」

「えっと…」


 スヴェトラーナは、ルシエラの村でもらってきた、丈夫な葉っぱと肌にペタッとくっつく葉っぱを持ってって、目を輝かせている。葉っぱだけでなく、木の苗ももらってきた。ひとまず苗は農園に植えるとして…。


 葉っぱそのものをブラのカップ、パンツ、パレオにするのは受け入れられるのだろうか。売り方次第かな。

 葉っぱをレース状に重ねて、ロングドレスにしてみようか。


 くっつく葉っぱを肌にくっつけるためだけに使おう。蜘蛛の糸の生地の裏側に粘着素材として使うのだ。そうすれば、紐で固定しないでよくなるので、柔軟なデザインができるぞ。デザインはまあ、スヴェトラーナと仕立屋にまかせればいいかな。いいのかな…。また下着みたいなエロいやつを作ってきそうだ…。



 それから、もう一つ帰り道で手に入れた、美容液になりそうなココナッツのような植物。


「スヴェトラーナ様、これを顔に塗ってみて」

「こ、これは!なんて潤い!わたくし、生理のときに肌が荒れがちなのですが、これがあれば怖いものなしですわ!」


 セラフィーマなんかに比べると肌が荒れてるようには見えないんだけど、女の子には物足りないんだね。エルフの私には人間の女の子の気持ちがよく分からないな…。私は肌が荒れたこともないし…。


 ひとまず、生産できるようにしたあと、販売戦略はスヴェトラーナに任せよう。フョードロヴナとの交渉も丸投げ。


 シャンプー、コンディショナー、潤い石けんとかも作れそうだ。でも、お風呂に入るのは私たちと公爵家くらいだから売れないか。いや、今後魔力の回生で魔力が潤沢になれば、平民のお風呂も夢ではない。




 魔道具を開発したり、教会で子供たちと演奏をしたりしてすごし、一ヶ月がすぎた。マリアちゃんの両親を迎えに行く日がやってきた。


 マリアちゃんちは農家ではないし原始人でもない。マリアちゃんご両親の家は領都内の一角に構えた。だけど、飛ぶ鳥を落とす勢いのマシャレッリ領の領都の土地は人気で、中央部の土地が空いてない。ちょっと離れたところになってしまった。


 父親のステファンをハンターギルド職員として採用してもらえるように、ギルドに手配しておいた。母親のビアンカは平民向けの服を作る仕立て屋に話を付けておいた。エルミロは今度八歳だったと思うけど、何の仕事をするんだろうね。相談されれば仕事を斡旋しよう。


 ちなみに、ステファンはジェルミーニ男爵領の家を売り払ってきたらしい。

 一方で、ナタシアお母さんの家は、売る相手もいないし、そもそもあの村は空き家だらけ。今回も空き家が増えただけだ。誰か移住してきたり村の子が成長したら、勝手に住み始めたりするようだ。ひどい原始時代だ。


 コロボフ子爵領は辺境子爵家なのだ。エルフは攻めてきたりしないし、強い魔物もいないので、とくに守りを固める必要はない。たんに辺境にある子爵家ってだけだ。男爵領よりも低文明だなんて。

 いや、去年近所にドラゴンを見つけたんだよな…。大きなミツバチの巣もあったし…。まあいいや…。コロボフ子爵領の村には、もう大事な人はいないし、何かあったら事後処理ということで…。いや、神父様がいるな…。そもそも、領地の防衛は領主の役目だし、国の防衛は王の役目だ。ああ、ドラゴンがいたことくらい王に報告すべきだったか。去年のことだしもういいや。




 冬の長期休みももう終わりだ。私たちは十四歳になる。

 ブリギッテは三十四歳かな。身長は人間の十四歳十ヶ月相当ってところだろう。


 私たちは同じ十四歳だというのに、背丈はバラバラだなぁ。


 学園に入ったばかりのころは、ブリギッテは一人十四歳ゼロヶ月相当の身長をしていたけど、エルフの身長の伸びは五分の一なので、あまり伸びたように感じない。スヴェトラーナは女性の平均よりも五センチほど身長が高いので、そろそろブリギッテを抜いたんじゃないかな。髪の毛が立体的すぎてよく分からないけど。


 マレリナとセラフィーマは標準身長だ。

 マリアちゃんとアナスタシアは人間なのだけど、身長の伸び方がブリギッテと同じくらい。


 私は…、マザーエルフは人間の一〇〇〇倍の寿命だそうだ…。十歳までは人間と同じように成長するけど、その後は一〇〇〇年につき一歳相当だ。私は一〇一〇歳でようやく人間の十一歳相当、二〇一〇歳で十二歳相当…、ああ、今のルシエラが二〇〇〇歳くらいだから十二歳相当か…。

 私の身長がみんなの寿命のスパンでは伸びないのは悩みだけど、人間なのに身長があまり伸びてないマリアちゃんとアナスタシアだっているんだ。わがままをいってはいけない。


 それに、実際のところ、私は「乳房」だろうと「身長」だろうと、「すぐに」「大きく」「成長する」魔法を使えるはずだ。本気になれば自分だろうとお嫁さんだろうと、好きにいじれる。だけど、あくまで自分たちの身体は自然に成長してほしいというか…。いや、一〇〇〇年で一歳分身長が伸びるっていう不自然さに身を任せる必要はあまりないかもしれない。そもそも、マザーエルフというのは私とルシエラしかいないのだから、自然もクソもない。

 また女盗賊を捕まえて、綺麗にして改心させたいな。




★ユリアナ十四歳




 私たちが王都に向かう日が来た。私はまず、ワープゲートでマレリナと農村に赴いた。私はお母さんの家へ。マレリナは自分の両親の家へ。


 とんとん。


「お母さん、私だよ」

「どうぞ~」


 ノックをして声をかけると、お母さんの声が聞こえた。


「私ね、これから四ヶ月間王都の学園に行くんだ」

「しばらく会えないってこと?」

「四ヶ月たったらまた帰ってくるからさ」

「わかったわ。気をつけてね」

「うん。お母さんも何かあったら、周りの人に助けてもらうんだよ」

「分かったわ」


 お母さんと別れ、マレリナと合流して、ワープゲートで屋敷に戻った。



 それから、


「エッツィオくん、教会をお願いね」

「任せてください、ユリアーナお姉様!」


 エッツィオくんには私たちがいないあいだ、教会の子たちに楽器や勉強を指導してもらおう。


「ユリアーナがいないと寂しいわぁ」

「お父様に慰めてもらってください…」

「そうだ。おまえはさっさと行け」

「はい…」


 なんだか目の敵にされてしまった。


 というわけで、ワープゲートを使って、王都の屋敷にみんなで戻った。いずれは王都とマシャレッリ領を結ぶワープゲートの魔力も、太陽光発魔でまかなえるようにしたい。



 移動したその日のうちに、王へのアポを取りに王城へ赴いた。


「ユリアーナ様、陛下がお待ちです」

「はぁ」


 アポを取りに来たのに、受付にそのまま通された…。


 謁見の間ではなく、応接室に通された。部屋にはアブドゥルラシド王とヴィアチェスラフ王子だけ。護衛兵は扉の外。


「ごきげ……」

「座るがよい」


 挨拶を遮るって失礼じゃない?それくらいで目くじらを立てたりしないけど。


「報告を聞こう」

「はい」


 いや、私はべつに、何か仕事を頼まれたわけじゃないけど。まあ、私が毎回何かやらかしてくるから、今回は何をやったんだという感じだ。悪いことは何もやってないというのに、なんだか責められている感じがする。


「この休みのあいだに、エルフの村に赴き、自分の出生を調べて参りました」

「ほう…」

「私は成長のしかたや魔法の属性数などから、自分がハイエルフではないかというのは、王子殿下にお伝えしたとおりなのですが、実は……」


 マザーエルフという種族であったとか、マザーエルフの特性や使命について話した。

 クローンだとか前世があるとかは話していない。


「なるほど…。ハイエルフのさらに上位の種族であったか…」

「申し訳ございませんが、私も捨てられて人間に育てられた身なので、幼少期はエルフであることすら知らなかったのです」

「そのことを責めたりはせぬ」

「恐れ入ります」


「マザーエルフの私の授けた子が必ずハイエルフになってしまうことに関しては、どうお考えですか?」

「ふむ…」


 問題は、王家の血を引く娘に子種を授けると、ハイエルフが生まれてしまうことだろう。まあ、かりに私がハイエルフだったとしても、生まれる娘はエルフだったろうから、たいした違いはない。それでも私の子を欲しいからこんな要求をしていたはずだ。


 マザーエルフの使命は、世界に魔法をもたらすこと。第一の手段は子孫を残すことだから、王族に子を授けるのは間違っていない。そもそも、今魔力を持っている者はほとんどルシエラの子孫だといっていい。私の血はルシエラと同じものだから、ここでまた濃い血を王族に混ぜるのも悪くないだろう。


 だけど、私はお嫁さんたちをできるだけ裏切りたくないから、王家に子を授けるのはお嫁さんたちには内緒だ。それ以上に子供を作ることで魔法を広めようと思ってはいない。私には他の手段もあるのだ。


「実はな、かれこれ何代も三属性持ちどうしを掛け合わせておるのだが、どうやっても四属性の子が生まれないのだ。だから人間では三属性が限度なのではないかと考えておる」

「たしかに過去に四属性の人間がいた例はないようです」

「だから、四属性以上を目指すのであれば、エルフを王族にするしかないと考えておる。しかし…」

「しかし?」

「エルフにはおなごしかおらぬだろう」

「ああ、そうでした。私の授けた子を次期王子の候補にするのであれば、女王を認めなければなりませんね」

「そうだ。だから本当はエルフの腹を借りて男児を産ませたいのだが…」

「そうですね…、私の腹から子を産めるようになるのは…ずっと後です…」

「うむ…」


 エルフが人間女性に子を授けても、エルフか人間の女の子しか生まれない。でも、エルフが男から子を授かった場合はエルフが生まれることはないらしい。男が生まれる確率も女が生まれる確率も同じらしい。これはハイエルフでは事例がないらしく、ハイエルフなら男から子を授かってもエルフが生まれるかもしれない。もちろんマザーエルフでも事例がない。ルシエラは自分の子しか産んだことがないのだ。


 かりに私がハイエルフだったとしたら、私は期待値で五十歳に初潮が来て、三代か四代後の王子の子を私の腹から産ませるという算段が王にはあったみたいだ。だけど、私はマザーエルフなので、どうやら初潮が来るのは期待値で二〇一〇歳だ。そんな後のことまで約束できないし、そもそも王家が存続しているかもわからない。

 っていうか、私は男と交わりたくない。初潮まだです、で何万年も通したい。


「まあ、二年後に王族の血を引く四人の女性に子を授ける約束は守ります」

「うむ。とりあえず、女王を認める方針でいかねばならぬだろうな」



「それから、これはエルフたちから入手した魔法です」

「これはまた…」


 ドサッと楽譜の本十一冊を重ねて置いた。一冊がA3サイズで厚みが五センチだ。羊皮紙は厚いのでページは多くない。一冊に付き五十曲しか載せられなかった。

 

 人間に直接害を与えない、邪属性を除く十一の属性の魔法を私が作って楽譜に記した。それぞれの本の表紙は属性のシンボルカラーになっている。心魔法は短調が多いので、本に載せられた内容はとくに薄い。


「見せてもらってもいいかい?」

「もちろんです。王家に献上します」


 王子は黄色の本を取って中をパラパラとめくった。


「レールガン…。これは強そうだな…」


 男の子は攻撃魔法がロマンみたいだね。

 次はオレンジ色の本を取った。


「鉄生成…。これはレールガンの解説に載っていた鉄芯じゃないか。つまり、土魔法で鉄心を生成して、雷魔法で渦を巻くように雷を形成すると、鉄芯を高速に発射できると…。そしてその二つを組み合わせた魔法をグングニルというのか…」


 王子は本の魔法に夢中だ。私が中二病っぽい名前を付けた魔法に興奮してる。


「魔導書はあとで読むがよい」

「申し訳ございません…」


 照れちゃって可愛い。って人間の女の子だったら思っているところだろう。もちろん前世が男で今世がエルフな私は、そのように思ったりしない。



「それとですね、交易の活性化のために、街道を整備したいのです」

「整備のための予算を出す余裕はさすがに国にはないぞ」

「マシャレッリ領から王都まではマシャレッリ家の予算でやります。王都の北側はフョードロヴナ家に任せようかと思います」

「上位貴族をこき使うのだな」

「利があると分かれば、フョードロヴナは乗ってくれます」

「ふむ。誰の領地でもない土地を弄ることについては、まずは計画を出してもらおうか」

「分かりました」


 さすがに、領地と領地の間の数百キロの道のりを整備するには、マシャレッリ家で雇っている土魔法使いだけでは魔力がまったく足りない。なので、魔力回生装置ができあがってからの作業にするつもりだ。


 というわけで、爆弾を投下して王城を後にした。いや、今回は爆弾ではないよね。私がハイエルフかマザーエルフかなんてたいした問題ではないし、新曲アルバムリリースも半年おきにやっていこうと思うし。




 五年生の授業が始まった。魔法については私が学園で学ぶものがあるはずもない。私には日本の学校で学んだ記憶があるから、ルシエラよりも魔法の応用の幅が広い。物理や化学の現象を魔法で再現すれば、属性の範疇を超えた事象を起こせる。このことについては、まだ私がまとめきれてないし、公開する範囲も決めていないので、ゆっくりやっていこうと思う。


 娯楽・芸術音楽の授業は順調だ。三曲目の童謡をみんなで楽しく練習している。



 魔物討伐訓練は、より本格的なものになった。ハンターを前衛にして自分たちを守らせ、その間に強力な魔法の演奏を終え、魔物の軍勢や強力な魔物に魔法をぶち込むというやり方だ。セルーゲイとタチアーナは、私たちが加わるまでは、このやり方をやっていたという。


 さらに今回は、魔物討伐において命魔法使い治療班の依頼をされる訓練として、命魔法使いであるセラフィーマも参加となっている。つまり参加しないのは、剣術の授業を受けていない木魔法使いの女子と心魔法使いのマリアちゃんだけである。


 去年は火・雷・土・水・風の魔法使いを含む六つのパーティを作ったが、雷魔法使いのジョジョゼと土魔法使いのドリエンヌ、水魔法使いのクレマノンが退学してしまったので、属性のかけているパーティもある。ちなみに木魔法使いのイアサントはもともと魔法戦闘も剣術も受けていなかった。

 また、私とマレリナは剣士としてではなく、命魔法使いとしての参戦である。


 その代わり、前衛には十人以上のハンターパーティを雇ってある。本番では敵の規模に応じてもっとハンターを雇ったりするが、今回は訓練なので本来なら魔法使いの出動を必要としないオークが主な相手である。王都から郊外に出て、オークのいる森に遠征するのだ。

 ちなみに、木魔法使いの剣士は前衛として参戦する。


 というわけで、さっそく二泊三日の合宿が始まった。学生は遠征地まで馬車で移動する。ちょっと距離があるので、到着は夕暮れだ。


 馬車の中でパーティメンバーを見回す。


 パーティメンバーは、

 剣士のアルベール・ルブラン男爵、

 火魔法使いのキアーラ・ベルガマスコ伯爵令嬢、

 土魔法使いのエレオノーラ・パレルモ子爵令嬢、

 水魔法使いのオフィーリア・フェッティ子爵令嬢、

 風魔法使いのエンマ・スポレティーニ子爵令嬢。


 雷魔法使いはなし。


 それから引率の先生。先生は戦わない。学生の戦いを評価するのが基本で、いざというときは護衛だ。


「ユリアーナちゃん、また一緒だね。よろしく」

「ええ、よろしくね」


 前回と同じメンバーはアルベールだけだ。アルベールは子爵令息だったけど、父親と兄が処刑されて爵位が回ってきた上に、罰として男爵に降爵になっている。


「ユリアーナ様とご一緒できて嬉しいですわ」


 降爵したのはルブランだけではない。ベルガマスコは侯爵家だったのに、罰により伯爵家に降爵なったのだ。私を殺そうとした罪により父親を亡くしただけでなく、私よりも身分が下がったなんて私を恨んでるに違いない…。と思ったけど、悪意センサーに反応はない。


「怪我したらすぐに治しなさいよ」

「怪我させませんから安心していいわよ」

「ふんっ」


 エンマは私のキーボードを借りパクしてまで私に指導を仰ぐツンデレ。


「ユリアーナ様に怪我を治していただけるなんて、私、どんな怪我をしようかしら」

「ムチャはしないでね…」


 エレオノーラって変態だったのか…。


「ユリアーナ様と二泊…。むふふ…」


 オフィーリアは夜這い狙いか…。



 馬車が到着して、十人のハンターと合流した。


「明日はよろしくお願いします」

「任せてください」


 ハンターパーティは、この仕事をよく引き受けているベテランのようだ。私たちの学年と上下一学年以外は、一パーティしか作れないので、この依頼は複数のパーティでローテーションで請け負っているらしい。魔物討伐において、どのようなハンターと組むかは分からないので、毎回同じハンターとの連携を高めるというような訓練は行わないそうな。


 ハンターは野営の護衛も兼ねている。夜は危険だ…。狼が現れるから…。


「皆さん、このテントを使ってください」

「おお、これはマシャレッリ家の防具屋で売っているテントですね。我々は持っていますので、お気持ちだけいただきます」


 今やマシャレッリの仕立屋の裏に併設されている防具屋はハンターの御用達だ。薄くても斬撃を通さないので、剣や牙のような攻撃でもダメージを打撃だけにできる。厚くすればレザーアーマー以上の強度と弾力となり、打撃も十分に防ぐ。


「いつもありがとう、ユリアーナちゃん」


 アルベールは男爵家になってしまったのと罰金のせいで貧乏なのだ。テントも買えないのかもしれない。


「ふん。少しは気が利くじゃないっ」


 王子の側室にさせるために、私がどれだけ気を利かせたと思っているのだろうか。まあ、最近ツンデレの言語が分かってきたんだよ。だから、こういうのも可愛いもんだ。


「「「あ、ありがとうございます…」」」


 キアーラ、エレオノーラ、オフィーリアは、なんだかあんまり嬉しくなさそうだな。


 夕食の準備は慣れたもんだ。今回はハンターがあらかじめ狩っておいたつのウサギをみんなでさばいていただいた。


 そして恐ろしい夜がやってきた…。


「おやすみなさい」

「「「おやすみなさい」」」「ふんっ」


 みんななんか目が血走ってるよ。怖いよ。


 私は自分のテントに入り、入り口のカーテンを加熱して溶接した。しばらくして…、


「ちょっとぉ、入り口がないわっ」


 キアーラの声だ…。私のテントをガサゴソと手探りで触り、入り口の切れ目を探している。

 悪意センサーに反応はないけど、もうやらないよ…。私はお嫁さんたちだけを愛する。おまけは王族への子種提供だけ…。


 ちなみに、私のように学生のうちに婚約してしまう者は、学園側の配慮で同じパーティにしないようにしているらしい。一緒にしたらどうなるか分からないからね。まあ、私は毎日一緒に寝て、魔法でムラムラを抑えているけど…。


 その後、エレオノーラ、オフィーリアの順に同じような声を聞き…、


「ちょっと、開けなさいよ!卑怯よ!」


 最後はエンマが締めくくっておしまい。何が卑怯なんだか…。


 私は学習した。あのときも下心がなければ、事件が起こったりしなかったかもしれない。

 そういえば、邪魔法で私の都合の良い展開にしてしまったんだろうけど、実際のところ邪魔法というのはルシエラが世の中のことわりを制御するための管理魔法という位置づけなのだ。あれは神の鉄槌みたいなもんだ。私の命よりも大事な声を奪おうとしたのだから…。


 締め切ったのはいいけど、やっぱり一時間ごとに声が聞こえて、安眠をかけたのに寝不足だった…。


 ちなみに、テントは完全な気密性があるので、酸素生成の魔道具と、二酸化炭素消滅の魔道具をセットで置いてある。




 そして翌日、徒歩でオークがよくいる地点まで赴く。


「来た!下がってください!」


 私も知ってたよ。オーク五頭だ。


 今回のハンターは一人でオーク一体を相手にできるようなつわもの揃い。ハンターはオークを大ボスに見立てて足止めをする。ハンターが壁になっているあいだに、学生はハンターにできるだけ攻撃を加えないように魔法で倒すのだ。


 ぽんぽん……♪ぽんぽん……♪


 私はハープを弾いて、ハンターとアルベールと自分に筋力強化をかけた。それから、全員に防護強化をかけた。今日はバッファー兼ヒーラーだからね。


 ぽんぽん……♪ぽんぽん……♪


 一応、自分に時の流れの加速二倍をかけた。鼓膜と声帯を除いて。それから、未来視二秒後も。念には念をね。


「身体が軽い?」

「もしかして命魔法使い様?」


 周りの声がゆっくり聞こえる。だけど、音が高くなったりはしない。


「そうですよ。やり過ぎないように注意してくださいね」


 私は半分の速度で話すのを意識した。


 遠くの対象に強化魔法をかけるのは効率が落ちる。それに、加減が難しくて、掴んだものを壊してしまったりする。だからあまりやらないらしい。


 オーク五頭にハンターが一人ずつ対峙した。その中にはアルベールも。

 残りの六人は増援を警戒して待機。


 キアーラがハープを奏で、炎の矢を放った。ハンターを巻き込まないように、爆散しない魔法を選んだのだ。炎の矢はオークAの目にあたり脳を直撃。オークAは絶命した。


 エレオノーラはハープを奏で、土つぶてを放った。堅く鋭くなった無数の土の矢は、ハンターをよけてオークBの腹に刺さったが、オークはどうということはない。


 オフィーリアはハープを奏でて氷の矢を放った。これもオークCの腹に刺さったが決め手とはならない。


 エンマはオークDの顔めがけてかまいたちを放った。致命傷にはならなかったが、オークDの両目を傷つけ視界を奪った。

 ちなみに、オークDと対峙しているのはアルベールだ。


 ハンターとアルベールたちは筋力強化のおかげで、軽々とオークの攻撃をかわしている。本来なら腕の一本や二本切り落とせそうなものだが、今回は後ろの魔法使いに打たせる練習なので、武器を威嚇程度に振り回しているだけだ。


 ちなみにオークEは無傷だ。


 私には二秒後の視界が通常の視界とは別に見えている。何も危険なことは起こらない。

 というか、未来視なんかしなくても、オークの動きを見ていれば次に何をするのか分かる。ルシエラに与えられた戦闘経験だ。牧場のオークを電撃で気絶させてから絶命させている私では知り得ない情報だ。まあ、筋力強化に加速に未来視に、戦闘経験まで加わったら、過剰防衛もいいところだ。


 やはり、ハンターを巻き込まないようにしながらの戦いは厳しい。本当に実践でこんな風にやっているのだろうか。大技を出さないと、ヘッドショットでもしない限りオークの分厚い肉に刃物は通らない。

 とはいえ、これはこれで必要な練習だろう。じれったいけど、このままやってもらうしかない。



 キアーラはヘッドショットがうまい。連続でヘッドショットを決めて、オークEを絶命させた。


 キアーラの一発目のヘッドショットを見ていたエレオノーラは無数の土つぶてをオークBに頭に発射。一発は目に当たったものの、拡散させて撃つタイプの魔法のため、致命傷にはならず。


 オフィーリアは氷の矢をひたすらオークCの腹に氷の矢を打ち込んでいる。この子は魔物の授業の成績がいまいちだったかなぁ。最近補習とかやってないので、苦手なところはそのままなのでは。


 エンマはオークDの脚めがけてかまいたちを放った。目が見えないで闇雲に腕を振り回していたオークでDは、脚に傷を入れられ転倒した。風魔法はいまいち攻撃力に欠けるが、敵の動きを止めるうまいやり方だ。


 このパーティには雷魔法使いがいないので、火力が足りないなぁ。


 それにしても暇だ。暇なのでふんふん♪と三十秒後の未来視も追加した。未来視はなにも、一つの未来しか見られないわけではない。視界がもう一つ追加されるが、重なって見えるわけでないので混乱したりしない。だけど、情報処理能力は必要になる。

 そして三十秒後の未来だけど、ABCEの四頭が目に焦げ目を付けて倒れていて、Dの一頭が目と足と手をズタズタにされ無力化されていた。味方は無傷だ。

 私や他の未来視使いが故意に行動を変えない限り、この未来は変わったりしない。最後までぼけーっと戦いを見ていよう…。


 そして、ようやく見たとおりの未来が訪れた。


「こいつはもうオレがとどめを刺すぜ」


 エンマがだるま状態にしたけどまだ絶命していないオークDの首に、アルベールが剣を突き刺して絶命させた。


「おつかれ」


 アルベールはムードメーカーだな。アルベールもこの戦闘がじれったいって分かっている。去年のつのウサギ討伐では、土魔法使いが漏斗状につぼんだ形状の壁を出して、敵が一体ずつしか通れないようにしてみんなで集中砲火するやり方をした。今回もそれでやった方が効率が良いだろう。


 でも、土魔法使いは必ずいるとは限らないのだ。魔法使いの属性が、各貴族の夫婦や兄弟頼みってのがよくない。必ず必要な人員を配置して効率的な狩りのしかたを体系化すべきだ。


 マシャレッリ領には、産業に携わっている元貴族の魔法使いがたくさんいる。それに、教会で魔力を磨いている子供たちもどんどん増えていく。彼らに体系化した魔物討伐のしかたを教えようか。でも、あまり軍隊っぽいことをやっていると、また反乱勢力だと思われそうだ。いつも事後報告だけど、これに関してはやることをまとめて国に提出してから始めよう。


 というわけで、私たちはじれったいやり方を続けるのであった。




 しかし、そうは問屋が卸さないのである。トラブルに巻き込まれるのも転生者の嗜み。


「でかいのが来ます」


 ハンターパーティのリーダーが敵の気配を察知した。

 もちろん私にはもっと前から聞こえている。オークでないもっと大きな足音が。


「なんでこんなところにオーガが…」


 オーガが十頭現れた。オーガは三メートルの筋肉質な大男で、皮膚は赤く、二つの小さな三角錐の角がある。まさに赤鬼という感じだ。オークよりも知性が高く、そのため陰部をさらすことに恥じらいがあるのか、腰に布を巻いている。さらに、太い木の棒を持っている。


 引率の先生はおろおろしているだけで、何もしてくれなそうだ。いざというときの護衛とはなんだったのか。


「オレたちでは二人で一頭止めるのがやっとです」


 ハンターパーティのリーダーが悲壮感漂わせて言った。


「エレオノーラ様、土壁を徐々に狭くつぼめるように作って」

「それなら、去年マレリーナ様とご一緒したときにやったわ。任せて!」


 マレリナも同じ作戦をやっていたんだね。さすが、私とマシャレッリ領でいつも魔物退討伐しているだけはある。


 エレオノーラがぽんぽん♪と土壁を作った。今回は使わない予定の作戦だったが、非常時なのでしかたがない。


 オーガAが壁のつぼんだ部分を通って顔を出した。それを、ハンター二人とアルベールで対応する。


 一方でオーガBからJの九頭はオーガAが邪魔で、前に出てこられない。なぜか壁を壊そうとはしないのだ。オーガAの隙間から私たちが見えるので、どうしてもそこを通りたいのだ。

 全面を壁で塞いでしまうと、壁を壊そうとする。エレオノーラの魔力はそれほど高くないので、壁を壊そうとされたらそう長く持たないだろう。目標までの経路があればそこを辿ろうとし、経路がなくて破壊可能なものがあれば破壊する魔物ばかりだ。単純なAIで助かる。


「オフィーリア様、先頭のオーガの脚を凍り付かせて足止めを」

「ええ、わかったわ!」


 オフィーリアはぽんぽん♪とオーガAの脚を凍り付かせて、動きを止めた。これはそれほど長くもたないだろう。


「キアーラ様、炎の竜巻を」

「分かってるわ!私だってアナスタシア様とご一緒したときに、この作戦を教えてもらったのよ!」


 キアーラはすでに炎の竜巻を演奏し始めていた。アナスタシアもやってたんだなぁ。


 オーガAは脚を取られており、木の棒をうまく振り回せない。対応しているハンター二人とアルベールは、後ろに飛ぶだけで木の棒を難なくよけている。


 そして、キアーラの炎の竜巻の演奏が終わった。壁の向こうでごおおおと轟音が鳴り、「があああ」とオーガの断末魔が聞こえる。キアーラは元侯爵令嬢だけあって、魔力が高い。後ろのオーガを一掃できるだろう。


 炎の竜巻はオーガAには直撃していないが、オーガAはじりじりと背中を焼かれてもがいている。それと同時にオーガAを足止めしていた氷も溶けつつある。


 しかし、それをぼーっと見ているハンター二人とアルベールではない。オーガAが動けない間に三人で滅多斬りにして、息の根を止めた。


 オーガAの氷が溶けて倒れた後ろには焦げ付いた大男のヒト型が九体あった。


「「「「「やったー」」」」」「「「やったわ!」」」


「それは六年生で習う魔法と聞きましたが、今年の五年生はもうその大技を使えるのですね」

「ええ。ユリアーナ様がくださった楽譜のおかげですわ」


「うふふ、皆さんの努力のたまものですよ」


 私たちは従来六年間で覚えるべきだった魔法をすべて、三年生に前期で終わらせている。本来なら五年生では使えない大技で、本来倒せない敵を倒したのだ。みんな達成感を得られただろう。



 そんなこんなで日が暮れた。途中で狩ったオークの肉を丸焼きにして夕食にした。ちなみにオーガは食べられない。


 今夜も私はテントのカーテンを溶接して、女の子三人の断末魔を三回聞くことになった。


 三日目は帰還するだけだ。


「「「「「お世話になりました」」」」」

「今年の学生はすごかったです。良いもの見せてもらいました」


 ハンターパーティに別れを告げて、私たちと引率の先生は馬車に乗って帰路についた。


 アルベールは早くも筋肉痛が始まって、もだえていた。ハンターたちも同じことになっているだろう。



 後日、魔物討伐訓練の反省会の時間に、私は戦術や陣形についてまとめた。それを、学園に渡して、訓練に取り入れてもらうよう提言した。土魔法使いは必須になってしまうが、砲台役は火、雷、水、風の誰でもできる。ろくな連携をせず、派手な攻撃魔法を放つ属性にばかり目が行きがちだが、土魔法使いこそが縁の下の力持ちなのだ。ここに木魔法使いも加えると、壁の外で敵を引きつけてくれたりして壁の持続時間を延ばすことができる。これも提言書に入れておいた。木魔法使い向けの魔法戦闘の授業内容も盛り込んでおいた。


 その後の魔物討伐訓練でも、私たちのクラスはなぜかオークよりも強い魔物と出会い、それを戦術と連携で難なく倒していった。

 六年生でやるべき訓練を五年生でやってしまっているのだけど、私たちは六年生まで学園に通う必要あるのかな。早く卒業して結婚したい。




 授業は魔物討伐訓練だけではない。娯楽・芸術音楽も順調だ。みんな、音楽的センスが身についてきたのか、音楽を覚えるのが早くなってきた。そこで…、


「皆さん、私のように歌ってみてもらえませんか」


 この世界に歌うという言葉はないので、声を演奏するというような私が作った造語を定着させている。


「花が咲いた…」「花が…」


 うーん…。前後の音との上下関係は分かっているようなのだけど、相対的にどれくらい上がったり下がったりするのかというのを再現できないようだ。ドミソなのにドレファと歌ったりする。これでは相対音感があるとはいえない。


 お嫁さんたちとのバンドクラブでも、たまに歌の練習をしてもらっているのだけど、お嫁さんたちもいっこうに相対音感が身につかない。ブリギッテが比較的マシな方だ。だけど、基本的にみんな壊滅的だ。


 やっぱり、この世界の人間は遺伝子レベルで音感がないのかもしれない。でも、ルシエラは「ららら」と私に嬰ト短調を歌ってきたな…。もしかしたら、歌える遺伝子を持っているのはエルフだけ?ルシエラの遺伝子が濃いハイエルフなら歌えるかな。今度ルシエラの村に行ったときに確認しよう。

 私がこの世界でアニソン歌手になろうと思ったら、私の遺伝子の濃い者を増やさなければならないのだろうか。魔物の肉を人間に食べさせるだけではダメなのかな…。



 魔法や魔物の座学の授業は暇だ。どちらもルシエラから知識を押しつけられたからだ。学園や国に公開する資料を内職する時間になっている。


 魔道具に関しては、ルシエラから得た単語で何でもできる。ルシエラは複雑な制御構造を持つ魔道具を作ったことがないようで、魔道具製作スキルについては、前世でプログラミング経験のある私のほうが断然上だ。だけど、魔方陣は手続き型言語でしかないので、複雑なプログラムを書こうと思ったら冗長になりがちだ。

 とりあえず、魔道具の実習では適当なものを早めに作り終えて、領地で生産する魔道具を設計する時間に充てている。



 一般の座学については、五年生になってやっと世界地理と世界史の授業が始まった。この国の地図ですらお絵かきのようなレベルなので、周辺国についてはさらにいい加減だ。円でこの辺とか記してあるのと、王都の大雑把な位置しか記されてない。まあそれもしかたがないだろう。自国の領地だって、詳しく測量したわけでもないし、だいたいの位置しかわからないのだから。


 ローゼンダール王国自体は縦の直径が一〇〇〇キロくらいで、横の直径が八〇〇キロくらいの卵のような形をしている。

 ローゼンダール王国の南側は広くエルフの森と描かれているだけで、具体的に東西南北どこからどこまでか記されていない。他は、地図の縮尺を信じるなら、西、北西、北、北東、東に一〇〇〇キロくらいのところに、それぞれローゼンダールと同じくらいの国があると記されている。西はヘンストリッジ、北西はウッドヴィル、北はリオノウンズ、北東はアバークロンビー、東はヴェンカトラマンという王国だ。その外側のことは載っていない。


 三〇〇年前に北のリオノウンズと戦争したことがあるらしいが、今は中立をたもっている。他の国とも、少なくとも記録のある範囲では敵対したことはない。かといって友好かというとそれほどでもない。一〇〇〇キロという距離は交易をするには遠すぎる。一応、道らしきもので各国が結ばれているが、誰もメンテしないのですぐに植物が生い茂ってしまうそうだ。だから、馬車で行き来したりできないのだ。


 この世界は数百キロ北上してもそんなに寒くならないが、リオノウンズは標高も高い位置にあるらしく、大寒波に襲われると飢饉に陥りやすい。そこで、食料を求めて他国に進出したが、兵糧が足りない上に、魔物の出る長距離の道なき道を徒歩で進まなければならないため、他国に辿り着く頃にはろくな戦力が残らなかった。おかげで、ローゼンダールは攻めてきたリオノウンズを簡単に叩きのめすことができた。ローゼンダールにはたいした損失もなかったし、リオノウンズの食糧難という事情を鑑みて、ローゼンダールはリオノウンズに賠償を求めなかった。


 そのような歴史もあって、他国との戦争はもちろん、交易も一筋縄ではいかないため、他国とはほとんど干渉せずに中立を保っている。



 授業の歴史とは関係ないが、ルシエラから受け継いだ記憶には、各地を回って人間の女性と交配してハイエルフを産ませ、各地に魔法をもたらしたという過去があった。だけど、具体的になんという名前の国とかは覚えていない。たぶん何十万年も前だ。そのときのエッチの詳細な記憶は自分で消去したよ…。


 ある程度ハイエルフを増やした後は、南の森に引きこもってハイエルフを増やし、ハイエルフに人間の地を回らせて子孫を増やしていった。そのうちハイエルフも引きこもるようになり、エルフの森から出ていくのは小数のエルフだけとなった。やがて、人間の地域では魔法使いが徐々に減っていき、ごく一部の特権階級のみが魔法を使うようになった。それが今のこの世界の姿だ。


 ローゼンダールの王家には私の子を授ける約束をしているから、その子らに血を広めてもらえばいいかな。他の国にも子を授けなければならないのだろうか…。まあいいや。焦ってもしかたがない。私はうんざりするほどの寿命があるのだ。マレリナにも焦りすぎと言われたくらいだ。




 魔法や魔道具の授業でルシエラの知識を整理していた。この世界に魔法使いを増やすとともに、潤沢な魔力で動く便利な魔道具を普及させたい。ところが、心、時、邪、聖の属性には回生できる事象がない。そこで、それらの属性の魔力に回生できる事象がないか、自分で探してみることにした。授業中にはおかしなことをできないので、実際にやるのは休みの日にね。


 回生は、魔法で起こせる事象を阻害することで発生する。最終的には魔法以外の手段で事象を起こさないと、魔力の収支はゼロになってしまうが、回生できるかどうかを確認するだけなら、ひとまず事象は魔法で起こしたものでよい。


 心魔法の精神治療の回生…。興奮抑制のブレスレットでいいや。スヴェトラーナの胸が揺れているところを想像すると…、だんだん興奮してきたけど、心拍数を八〇に制限するように精神治療が発動した。


 その精神が治療される事象を回生するようにメロディを奏でると…、別に用意した魔石に心の魔力が流れた!


 そして、私の心拍数は八〇を超え、かなり興奮気味に!スヴェトラーナの胸を想像しただけでイケちゃうなんて、もう私、このブレスレットなしじゃ生きていけないんじゃない?

 ってそれはさておき…。いやあ、精神治療されないと煩悩が溢れて何をしでかすか分からないな…。精神治療の阻害をやめると、心拍数が八〇に戻り、私は冷静さを取り戻した。


 精神治療の阻害を回生できるのは分かったけど、精神治療を魔法以外の手段で起こさなければ意味がない。ラベンダーでリラックスとか?自動化は難しそう…。



 次に、時魔法だけど、時の流れを回生するってどうなの…?と思って試したら、物体や空間の時間の流れを阻害することで、時の魔力を魔石に貯めることができた。これって、時の流れの減速の魔法を魔力を消費して使うのはバカなのでは?減速を限りなく強くして時間停止をやろうと思ったけど、魔力消費が大きすぎて断念したのに、時の流れを阻害して時間停止させるのはノーコストどころか、魔力を得られるのだけど。


 これで時間停止のアイテムボックスができるじゃん!とりあえず、時間停止を物体にかけるならいいけど、空間にかけるのは危険だ。加速したハイドラに加速していないアルコールを摂取させたら、血の流れが悪くなってハイドラはぐったりしてしまった。もし、時間停止した空間に指を突っ込んだら…。と思ったけど、時間停止した空間にものを入れようとしたら、見えない壁のようなものに阻まれて進まなかった。時間が止まっているので、中のものを動かせないのだ。つまり、ものを入れられないということだ。減速した物体を動かすには、速度の二乗倍の力がいる。時間の流れがゼロ倍のものを動かすには、無限倍の力がいるということだ。


 時間停止の冷蔵庫を商品化できるかな。というか冷やす必要すらない。蓋を開けたときは時間停止を切らなければならない。


 本来なら回生した時の魔力を魔石に貯めたいけど、魔石が満杯だと魔力を貯められない。時間停止の効果を得たいときには、回生した魔力を霧散させればいいかな。


 空間の時間を止めておけば、時の魔力をいくらでも得られる。ルシエラから得た魔法に、「時の流れ」を「戻す」というのがあった。まあ「戻す」というメロディが分かれば、私の知識だけで辿り着いたと思うけど。

 その「時の流れを戻す」を使って、落下物の時の流れを戻すと、位置エネルギーを元に戻すことができるので、落下物の運動エネルギーを空間か雷の魔力に回生できる。雷の魔力に変換できれば、あとは他の属性に変換するのは簡単だ。これで、太陽光に頼らずに無限のエネルギーを生み出せるぞ。


 時の流れの回生のように、普段は魔力を消費して行うことをタダでできることが他にもあるかもしれない。ルシエラは魔法の知識を持って生まれたようだけど、魔法の応用についてはあまり考えたことがないみたいだ。



 それから、聖魔法の回生については…、善行を行ったのに、それが無駄になるような…。誰かのためにご飯を作ってあげたとして、それを聖の魔力で回生したら、渡す直前で転んで台無しにしてしまうとか…。悪いことには使えない聖魔法だけど、よくなることを抑制するなら許容範囲だろうか。


 だいたい、私はみんなを祝福しておきながら、大方自分でやってしまうマッチポンプなのだ。もしかしたら祝福の願いを叶えるには魔力が足りないから、自分で魔力を稼ぎなさいっていうことなのかな。


 まあそれはさておき、もうすぐ良いことが起こるってわくわくしてるときに、どんでん返しで台無しになるようなのは、相手ががっかりするだろうし、そもそも自動化できそうもないから聖の魔力の回生は諦めよう。



 それから、邪魔法は、たまたま使えるようになった者が邪悪な考えで魔法を使ったから邪魔法と呼ばれるようになっただけで、本来ならルシエラが世の中のことわりを制御するための管理魔法である。私は去年、私の声を奪うような者は存在してはならないということわりを作ってしまったのかもしれない。その逆の現象…。これは聖魔法以上に逆の現象を思いつかない…。


 ルシエラ以外で邪魔法を使えるようになった者は、ルシエラほど魔力が高くなかったため、それほど大それた事実改変を行うことはできないし、持続もしなかった。簡単な事実改変としては、存在しているのに存在をうつろにして気がつかれないようにするとか、攻撃が当たりやすくなるとか外れやすくなるとか、科学的な理由を説明できないけど、なんか世の中のことわりから外れたようなことが起こるようにするって程度のことができるようだ。でもやっぱり、その逆の現象というのは思いつかない。



 それから、命魔法と木魔法の魔力回生について。菌のような微生物の成長を阻害して命の魔力を回生できることが分かった。それから水の中の植物プランクトンの成長を阻害して木の魔力を回生できることが分かった。自動化できるかは分からないけど、魔物の糞に含まれる菌を集めて命の魔力の発魔器を作ろう。それから、植物プランクトンの培養器に雷魔法で日光を当てて光合成させて木の魔力の発魔器を作ろう。

 休日にやりたいことがたくさんできて大変だ。



 結局、心の魔力のうまい回生方法は思いつかなかった。長距離通話のために心の魔力がたくさん欲しいのだけど。これなら本物のアナログ電話かトランシーバーを作った方が早いかも知れない…。


 とりあえず、土の魔力の発魔の目処が立ったので、王城に街道整備の計画を提出した。マシャレッリ家は、マシャレッリと王都、それとお嫁さんの領地の間の街道を整備する計画だ。王都より北側でフョードロヴナが取引している領地については、フョードロヴナに任せようと思うのだけど、そのためには土の発魔器の作り方をフョードロヴナに教えなければならない。教えることにためらいはないのだけど、まだ実績がないので、マシャレッリで実績を積んでからの公開にしたい。だから、マシャレッリ家で先に発魔器を作って街道整備に必要な魔力をまかなえるか確認してからフョードロヴナに話を持ちかけるつもりだ。




 授業中に内職しながら適当にすごしていたら、もう夏だ。背中の開いた下着のようなドレスに衣替えした。別に夏用というわけではなく、ブリギッテとスヴェトラーナは寒いのを我慢して冬でも着ている。ブリギッテはあまり成長しないからドレスを作り直してないけど、スヴェトラーナは三ヶ月おきに作り直している。


 私の身長は伸びないのでドレスを作り直す必要はない。


「ユリアーナ様…。素敵ですわ…」

「えっ…」


 私が夏のドレスに着替えたら、スヴェトラーナが私にうっとりしている。何かと思ったら、胸がカップからはみ出そうだ…。私は身長が伸びないだけで、胸とお尻は人並みに成長するのだ。十歳の身体に十四歳のマレリナと同じ大きさの胸が付いているので、相対的には私の方が大きく見える。まあ、ルシエラのようなロリ巨乳少女にはほど遠いけど。


 みんな私に男のような頼もしさを求めてるんだと思うんだけど、なぜか女性のとしての魅力も求めてるんだよね…。人間の女の子は人間の女の子の胸やお尻に惹かれたりしないと思うけど、エルフの胸には惹かれるみたいだ。人間の女性がエルフに子を授けることもできるようなので、その場合は人間の女性側が男のような目線でエルフを見ることができるのだろう。両性具有とは不思議な生き物だなあ。


 私のドレスがきつくなってきたということは、マレリナは私以上にきつくなったということだ。仕立屋に特急で仕立ててもらうことにした。ちなみに、セラフィーマもマレリナと同じくらいの体格だけど、セラフィーマのはゆったりとしたドレスなので、まだまだ余裕がある。セラフィーマは着た切り雀なのだ。一応、侯爵令嬢のドレスに見えるようになっているが、着るのが簡単でジャージのような感覚で着られるドレスになっている。


 マリアちゃんとアナスタシアは…、一年で一センチくらいは伸びているのだろうか。二人ともドレスがきつくなって作り直す必要は当分なさそうだ。

 私の背が伸びないのはまあしかたがないけど、二人が成長しないのはコンプレックスだろう。「背」が「高く」「すぐに」「成長」する魔法をかければ、悩みを解消してあげられるのは分かっている。だけど、大事な人の身体を魔法で作り替えるのはなんだか気が引けるのだ。タチアーナの胸は一度だけ綺麗に整えてあげちゃったけど。


 あと、成長で困っているといえば、スヴェトラーナも胸が大きすぎて困っているようなのだ。これも「乳房」が「小さく」「成長」する魔法をかければいいのだけどね…。やはり大事な人だからってのもあるし、それに大きかったものがしぼんだらなんだかがっかりしそうじゃない?いや、がっかりするのは私かって?そういうわけじゃ…。そういうわけかも…。

 マリアちゃんとアナスタシアだって、成長しちゃったら小さくて可愛いのが台無しとか、私、思ってないよ!


 ちなみに、もう一つお嫁さんたちの改造をためらっていることがある。戦闘や魔法の知識を与えることだ。ルシエラが私に与えられたくらいだから、私だってお嫁さんたちに与えられるのだ。魔法に関しては、魔法の単語とメロディの知識や、それを組み合わせてできる強力な応用魔法とか。戦闘の知識に関してはルシエラが何十万年も培ってきたセンスをマレリナやブリギッテに与えられる。

 でも、まあ、魔法でチート能力を与えちゃうのは、よく考えてからにしないとね。



 そして、ドレスを作り直すならちょっとやってみたいことがあるのだ。この世界の女性は年齢が上がるにつれてスカートの丈を長くする。分からないでもないのだけど、私もアナスタシアもマリアちゃんもちっとも大きくならないのに、スカートだけ大人用ってなんだかつまらない。

 そこで、スカートを長くするにしてもレースで長くすることにしたのだ。この世界にもレースはあるのだけど、普通の生地では破れやすいので普段着にする人はまずおらず、基本はパーティドレスにだけ使用される。しかし、蜘蛛の糸の生地は大変丈夫なので、スケスケに薄くしても、細かい模様を作ってもほつれる心配がない。なので、今までの丈のスカートに花柄のレースのスカートを被せる形で年齢対応の丈にしてみた。


 何より、夏なのに長いスカートというのが暑苦しくてイヤだったのだ。これならとても涼しげだ。


「ユリアーナ様…。素敵ですわ…。そうですわ!」


 レースから覗く私の膝にうっとりとしているスヴェトラーナ。そして、何かひらめいたと言わんばかりの顔をして、駆けていってしまった。


 数日後…、


「スヴェトラーナ様…」


 スヴェトラーナはレースのロングスカートをミニスカートと組み合わせていた。スヴェトラーナみたいな大人がミニスカートだなんて…、そのレースから覗く太ももは歩くたびにぷるんぷるん震えて目が離せない…。スヴェトラーナは上から下まで全身凶器だ。


 ファッションリーダーであるスヴェトラーナが着ているミニスカートとレースのロングスカートの組み合わせは、ご夫人やご令嬢の間に瞬く間に広まるのであった。男子も胸だけじゃなくて太ももも堪能できるようになって目の保養が進むことだろう。




 成長というのは身長や胸の大きさだけではない。魔力を鍛えている子は髪の色も濃くなっているのだ。成長が著しいのはマレリナとアナスタシアだ。


 マレリナは六歳の時には少し明るい灰色だったけど、今ではセラフィーマに並ぶ白い髪だ。セラフィーマだって毎日寝る前に頑張っているけど、魔力の向上はどれだけ魔力を絞り出したかが決め手だ。マレリナは努力の人なので、毎日気持ち悪くなる寸前まで魔力を絞り出しているのだろう。それに、若い頃から魔力切れで気絶を繰り返していると、魔力切れで気持ち悪くなりにくいみたいだ。小さい頃から気持ち悪くなるまで魔力を絞り出す人はあまりいない。


 アナスタシアも、空間の魔力を優先的に鍛えて、髪がかなり青紫になってきた。おかげで、念動や短距離瞬間移動も、使い物になるようになってきた。念動で飛行もできる。常用できる異次元収納の体積も大きくなり、今では私のように異次元収納にいろいろなものを入れて持ち運んでいる。もちろん簡単に出し入れできるように、専用のオルゴールを作ってある。

 それに、念動や異次元収納を使わなくても、マレリナのリハビリスーツのおかげで筋肉も付いてきた。入浴時と睡眠時はスーツ着ていないが、もうスーツなしでも動作にたどたどしさが見られない。むしろスーツを着ているときはマリアちゃんやセラフィーマよりもきびきびしている。リハビリスーツの筋力強化はたいしたことないが、今ではちょっとしたパワードスーツの役割を果たしている。




 夏が来たということは試験だ。今期も娯楽・芸術音楽の試験では地球の童謡をアレンジした曲をみんなにやってもらう。みんな去年と違って私に失恋したような雰囲気もなく、順調にこなした。だけど、やっている曲は小学生低学年レベルなので、中学校二年生のみんなには欲をいえばもうちょっと高度な曲をやってほしいな。そろそろアニソンのTVバージョンを投入するか。バンドクラブで最初にやったやつだ。


 私としては、童謡だろうとなんだろうと声を出していれば九割は満足だ。だけど、歌い手が私しかいないのでは、歌を作る文化は生まれない。誰もが歌えるようになってほしい。でも遺伝子レベルで変化してくれないとな…。

 ああ、私って、人間が遺伝子レベルで変化するのを待てるほどの寿命があるのか…。いやいや、そんなに待ちたくないし。そうなると、ハイエルフに歌のセンスがあるか調べないとな。夏休みはまたエルフの郷に行こう。ルシエラはもちろん歌えるだろうけど、リュドミラはどうかな。せっかくハイドラも洗脳したのだから、ハイドラにも歌ってもらおう。



 試験が終わったころには私とマレリナのドレスができあがった。急がせた意味があまりなかった。


 なんだか胸のカップの面積が小さい気がする。狭くて爆発しそうな感じはないけど、布面積は変わってないのでは。これじゃあっという間にはみ出てしまいそう…。と思ったら、裏側にペタッとくっつく葉っぱを使ってあった。これなら、はみ出るギリギリでもずれる心配がない。なるほど。それでギリギリを攻められたというわけか…。なんだか胸の露出面積がだんだん多くなって恥ずかしい…。でも、教室に胸を露出していない子はまったくいないのだ。日本だと胸を露出している人なんてあまり見ないけど、海外だとわりといるしね。この世界でも普通なのだ。うん…。

★ユリアーナと婚約者

 とくに記載のないかぎり十三歳から十四歳へ。女子の身長はマレリナと同じくらい。


■ユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。

 身長一四〇センチのまま。

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■マレリーナ・マシャレッリ伯爵令嬢

 明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一六〇センチ。(一年間で五センチ成長)

 口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。


■アナスタシア・マシャレッリ伯爵令嬢

 若干青紫気味の青髪。ストレート。腰の長さ。

 身長一二四センチ。ぺったんこ。

 口調はお嬢様言葉。


■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢

 濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。

 身長一三四センチ。ぺったんこ。

 口調はほぼ平民言葉。


■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢

 濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。

 身長一六五センチ。(マレリナ+五センチ)

 口調はですわますわ調。


■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢

 真っ白髪。

 口調はですます調。


■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十四歳)

 濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。

 身長一六四センチ。(一年間で一センチ成長)

 エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。

 口調は平民言葉。



★クラスメイト


■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子

 黄色髪。


■エンマ・スポレティーニ子爵令嬢

 薄い水色髪。実子。


■パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢

 水色髪。


■エミリーナ・シェブリエ侯爵令嬢

 濃いめの赤髪。


■アルベール・ルブラン子爵令息

 薄めの黄色髪。


■アルメリア・ベンシェトリ伯爵令嬢

 オレンジ髪。


■ベアトリス・アルヴィナ男爵令嬢。

 薄い青髪。


■イアサント

 エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。退学。


■ジョジョゼ

 エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。退学。


■ドリエンヌ

 パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。退学。


■クレマノン

 パーノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。退学。


■キアーラ・ベルガマスコ伯爵令嬢

 濃い赤髪。元侯爵家。


■エレオノーラ・パレルモ子爵令嬢

 オレンジ髪。


■オフィーリア・フェッティ子爵令嬢

 青髪。



★マシャレッリ伯爵家


■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(七歳)

 濃いめの緑髪。


■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵

 引取先の貴族当主。

 濃いめの水色髪。


■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人

 濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。


■オルガ

 マシャレッリ家の老メイド。


■アンナ

 マシャレッリ家の若メイド。


■ニコライ

 マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。


■デニス

 マシャレッリ家の執事、兼御者



★学園の教員、職員


■ワレリア

 女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。


■アリーナ

 明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。


■ダリア

 紫髪。空間魔法の女教師。


■アレクセイ

 ピンク髪のおっさん教師。



★ユリアナと婚約者の家族


■ナタシア

 ユリアナの育ての親。


■オレリア

 マレリナの母。


■イゴール

 マレリナの父。


■ビアンカ

 マリアの母。一三五センチ。


■ステファン

 マリアの父


■エルミロ

 マリアの弟。


■ウラディミール・フョードロヴナ公爵

 オレンジ髪。


■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人

 薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。


■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十二歳)

 黄緑髪。


■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵

 セラフィーマの父。オレンジ髪。


■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人

 セラフィーマの母。レモンイエロー髪。


■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵

 淡い黄色髪。ブリギッテの養父。


■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人

 淡い水色髪。ブリギッテの養母。


■ジュリクス・ジェルミーニ男爵

 ピンク髪。マリアの養父。独身。



★その他


■ハイドラ

 成人ハイエルフ。エリザベータ級の爆乳。

 やや明るく緑がかった銀髪。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■サンドラ

 成人エルフ。十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■ルシエラ

 マザーエルフと呼ばれている。二〇〇〇歳くらい。

 ユリアナと同じキラッキラの銀髪。身長一五〇センチ。人間の十二歳くらいの顔つき。十歳のころのスヴェトラーナ級の巨乳。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■リュドミラ

 ルシエラの側近。やや水色がかった明るい銀髪。八〇〇歳くらい。

 葉っぱブラ、葉っぱパンツ、葉っぱパレオ。


■ラーニナ、アネスタ、エリザンナ

 他のエルフ村の村長。ハイエルフ。


■ニーナ

 成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。

 十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。


■アブドゥルラシド・ローゼンダール王(二十九歳)

 空色の髪。


■ヴァレンティーナ・ローゼンダール第一王妃(二十九歳)

 明るい青の髪。


■レナード(四十八歳くらい)

 コロボフ子爵領の村の神父。


■アルフレート(六十歳くらい)

 マシャレッリ領都の神父。


■ハンス

 マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。

 兼教会の木琴教師。


■クレマノンの母

 元男爵夫人。淡い赤髪。


■ジョジョゼの母

 元男爵夫人。淡い水色髪。



◆花が咲いた、綺麗だわ♪

 日本で聴いた童謡(架空)。二十四小節。


◆ローゼンダール王国

 貴族家の数は二十三。


    N

  ⑨□□□⑧

 □□□④□⑪□

W□⑥□①□⑤□E

 □□□□⑦□□ 

  □□②□□

   □□□

   ⑩③

    S

    ~

    □□?⑬

    ~

    ⑫

    ~

    ⑭


 ①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領

 ⑩巨大ミツバチの巣(国外)

 ⑪ルブラン子爵→男爵領

 ⑫エルフの村1、⑬ブリギッテの出身地?、⑭ルシエラ王の村


 一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。


◆ローゼンダール王都

    N

 ■■■□■■■

 ■□□□□⑨■

 ■□□□□□■

W□□④①□□□E

 ■□⑥□□②■

 ■□⑤□③□■□□⑧

 ■■■□■■■□□⑧

 □□□□□⑦□□□⑧

    S


 ①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁


◆座席表

  ス⑤⑨□□□

  ヴ□□□⑥②

  □□□□□①

前 □⑦⑩ブ□③

  ア□□⑪⑧④

  □□□パ□エ

  セマユリ


 ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1=イアサント(退学)、②エンマの下僕2=ジョジョゼ(退学)

 パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1=ドリエンヌ(退学)、④=パオノーラの下僕2=クレマノン(退学)

 ⑤=エミリーナ、⑥=アルベール、⑦=アルメリア、⑧=ベアトリス

 ⑨=キアーラ、⑩=エレオノーラ、⑪=オフィーリア


◆周辺国

   N

 ③□④□⑤

 □□□□□

W⑥□①□⑦E

 □□□□□

 ②②②②②

   S


 ①=ローゼンダール、②=エルフの森、③=ウッドヴィル、④=リオノウンズ、⑤=アバークロンビー、⑥=ヘンストリッジ、⑦=ヴェンカトラマン


 1マス=1000キロくらい



◆音楽の調と魔法の属性の関係

ハ長調、イ短調:火、熱い、赤

ニ長調、ロ短調:雷、光、黄

ホ長調、嬰ハ長調:木、緑

ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色

ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青

イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色

ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク

変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色

変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白

変ト長調?、変ホ短調?:邪、不幸、呪い、黒

変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫

変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金

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