10 邪魔法とエルフの郷
★転生七年目、夏秋冬、学園四年生の夏休み、後期、冬休み
★ユリアナ十三歳
夏も真っ盛りで、とても暑い。この国は季節で気温の上下があまりないのだけど、それでも暑いものは暑い。この、肩も背中もガバッと開いている下着のようなドレスなのだけど、夏は涼しくて心地よい。
このタイプを仕立てた私、スヴェトラーナ、ブリギッテ、マレリナは最近いつもこればかり着ている。
私の羞恥心はどこに行ったのだろうか。ブラジャーを付けられなくて不安な気持ちはどこに行ったのだろうか。夏が女の子を開放的にさせるとはこのことか。恥ずかしさよりも暑さが勝り、布の面積が削られていくのだ。
ちなみに、スヴェトラーナは三ヶ月で胸が入らなくなってしまうので、そのたびに上のビスチェ部分だけを作り直している。このまま行くと成長期が終わる頃にはエリザベータ級の爆乳になるのだろう。
作り直す前は、カップの上に表面張力だけで留まっているシャボン玉が今にも飛んでいってしまいそうで、私は何度も手で抑えようかと思ったことか。だけど、私の心拍数は八〇に抑えられているので、そういう欲に任せた行動は取らないようになっているのだ。
長期休みの間にやっておくべきことはまだある。私とお嫁さん六人は教会へ赴いた。
「ごきげんよう、アルフレート、ハンス」
「ようこそ、ユリアーナ様、セラフィーマ様」
「よくぞおいでくださいました、ユリアーナ様、セラフィーマ様」
神父のアルフレートと、木琴教師のハンスが出迎えてくれた。セラフィーマのことは以前来たので知っているけど、他のお嫁さんとは初対面だ。
「こちら、スヴェトラーナ・フョードロヴナ様、ブリギッテ・アルカンジェリ様、マリア・ジェルミーニ様です。それから、こちらはアナスタシア・マシャレッリ、マレリーナマシャレッリです。以後、お見知りおきを」
「「はい」」
ちなみに、貴族とは、貴族当主の子孫と配偶者と定められている。当主が子供に座を継承すると、兄弟姉妹は当主の子孫ではなくなるので、貴族ではなくなり平民となるのだ。
だから、魔力を持っていても家を継がなかったこの二人は貴族ではないので、家名を名乗ることは許されない。一方で、私は養女ではあるが貴族なので家名を名乗る。この二人は貴族である私に敬意を払わないといけないのだ。
元平民の私に反発をいだく元貴族も多い。そういうのはできるだけ雇わないようにしている。だけどこの国では、王家に嫁がせるためや魔力を確保するために養子を取ることは頻繁に行われているため、全部の貴族が元平民の養子に忌避感を抱いているわけではない。まあ、エンマとかいるにはいるけど。
そして、教会に通っている魔力持ち四〇人のうち、四歳児と三歳児の二〇人。最初は最年長の五人だけだったけど、あとから次の代の十五人も通うようになったのだ。
今まで木琴が二個しかなかったけど、今回二〇個の木琴を仕入れた。木工技師もがんばってくれたものだ。
「さあキミたち、ユリアーナ様に成果を見せてご覧」
「「「「「はーい」」」」」
ほんのり赤髪の子の前には枯れ葉の入ったたらい。ほんのり黄色髪の子の前には木箱。ほんのり緑髪の子の前には植木鉢と小さな花。ほんのりオレンジ髪の子の前には土の入ったたらい。ほんのり青髪の子の前にはコップ。ほんのり水色髪の子の前には紙。
赤髪の子が木琴を叩くと、たらいに入った枯れ葉が着火した。
黄色髪の子が木琴を叩くと、箱の中に白い光が。
緑髪の子が木琴を叩くと…、花が…よく分からない。「木を操る」はこの子たちの魔力では使えないだろうから、成長促進とか、綺麗な花が咲くとか…。他にすぐに効果のある魔法はないのだ。
オレンジ髪の子が木琴を叩くと、土が丸く形作られた。
青髪の子が木琴を叩くと、コップに一口の水が湧いた。
水色髪の子が木琴を叩くと、紙がほんの少しふわっと動いた。
「みなさん、よく頑張りましたね!」
「「「「「わあああー!」」」」」
私は二十人の子供たちにそれぞれ、褒美としてバタークッキーを与えた。まだ町のパン屋にレシピを渡しただけで、売り出してないお菓子だ。
「「「「「おーいちいいいー!」」」」」
この子たちは初期の魔力が少なく、コップ一杯の水を出すだけでも魔力切れで気絶してしまうほど。でも魔力は使えば使うほど多くなる。だけど、普通は魔力切れに近くなると気分が悪くなるので、あまりやらない。だけど、小さいうちからやっておけば慣れるようなのだ。私なんて小さいころから祝福を口ずさんでは気絶していたので、魔力が切れる寸前でも気がつかないほどだった。
この子たちはマシャレッリ家の使用人見習いということになっており、わずかながら給金が親に渡されている。将来領地で働いてほしいな!とくに木魔法使い!今なら土魔法使いも熱い!
来年三歳になる、魔力持ちの子は二十人。どんどん増える、魔法使い!魔法で育てている作物もバリエーションが増えているから、これから魔法使いが加速度的に増えるはず!
本当は、私はこの子たちに魔法音楽ではなくて娯楽音楽を弾いてほしいのだ。今日はその仕込みに来たんだ。
「一、二、三、はい!」
ひょーろーろー、……♪(マレリナとアナスタシアのリコーダー)
きんきんきん、……♪(マリアの鉄琴)
かっかっかっ、……♪(ブリギッテの木琴)
ぽんぽんぽん、……♪(スヴェトラーナとセラフィーマのハープ)
ドゥドゥドゥー、……♪(ユリアナのベース)
ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(ユリアナの大太鼓、シンバル、スネアドラム)
「花が咲いた、綺麗だわ、……♪」
「「「「「わあああああああ!」」」」」
子供たちは大感激。
「みんなも弾いてみる?」
「「「「「うん!」」」」」
私は子供たちにお花の歌の楽譜を配った。この子たちは文字を覚えるよりも先に、楽譜を読めるようになっている。素晴らしい!
子供たちはさっそくかこかこと木琴を叩いている。五線譜の下には歌詞も書いてあるよ。お嫁さんたちが弾いて聞かせて指導して回っている。
文字も覚えられるといいね。っていうか、アルフレートとハンスに教えてもらってね。
そして、娯楽音楽なら魔力持ちでなくても、誰だって弾けるのだ。誰もが使える、人を楽しくする魔法。そういうわけなので、木琴も増えてきたことだし、魔力のない子たちにも教会に通ってもらって、音楽を覚えてもらう手はずを整えた。
そろそろ教会では手狭だ。ちょっと町の外れになってしまうけど、開いている土地に「木を操る」と「岩整形」でずももももと新しく大きな教会を作った。ほぼ、学校といえるものだ。家具やドアなどは職人に任せて、完成したらアルフレートとハンスには新しい教会に移ってもらおう。
新しい教会では初歩の魔法音楽と娯楽音楽、それから文字を教えよう。誰か歌を歌える子が現れないだろうか。
その日以降、私たちは自分たちの曲の練習よりも教会に頻繁に通って、平民の子たちへの指導やふれあいに務めることにした。
四年生の夏休みは自重をかなぐり捨てて、マシャレッリ領にたくさんの食文化と産業を生み出した。それから、娯楽音楽の平民への教育の第一歩を踏み出した。
こうして夏の長期休みが終わり、私たちは転移ゲートで王都邸に戻った。
私は王城へ赴き、アブドゥルラシド・ローゼンダール王にアポを取りにいった。今までは呼び出しだったけど、今回は自ら。だけど、王は忙しいだろうから、謁見なんてとうぶんあとになるだろうと思っていたら王子が出てきて、
「やあ、父上に会いたいんだって?」
「ごきげんよう、ヴィアチェスラフ王子殿下。はい、謁見の申し込みに」
「ではひとまず応接間で待っていてよ」
「へっ」
友達がお父さんに話があるからちょっと呼んでくるだなんて、日本のお父さんでもあり得ない。まして私たちは友達どころかそれほど親しい間柄でもないのに。
私が応接間で十分ほど待っていたら、職員が呼びに来て、謁見の間に連れていかれた。
「おもてを上げよ」
「ははっ」
壇上には王と王子がいる。王妃ーズはいない。あとは護衛の兵士が数人だけだ。
「今日は何の話だ」
「本日は、この資料を交えてお話したいと思います。……」
ここ四年間でマシャレッリ領で魔力の発現した子が非常にたくさん生まれた。私が果物を使ったパンを作るようになってからのことであり、親の摂取した食べ物と関連があった。魔力発現や魔力の強さに最も貢献したのは果物。次に魔物の肉、卵、牛乳、次に果物。それらを摂取していない親からでも、わずかではあるが魔力持ちが生まれたことから、木魔法で育てた普通の野菜も貢献している可能性がある。
突発的に生まれる魔力持ちと比べると魔力はたいしたことないが、少しでも魔力があれば鍛えて伸ばすことができる。幼いころから鍛えていればそれなりに使えるようになる。
魔力持ちの子は、魔力が切れてもあまり不快に思うことがなく、初期の魔力が低くても魔力を鍛えることができている。一方で、親も魔力を発現させたようだが、魔力切れを不快に思い、またダウンタイムが長くなってしまうことから、魔力を鍛えるには至っていない。
王都でも喫茶店やレストランで果物や肉を摂取している者が増えてきている。また、マシャレッリ家が王都に開いた農園では、野菜も魔力を使って育てており、王都民は摂取している。王都の食料は各領地からの年貢でまかなわれる分が多くを占めているので、マシャレッリ家の農園から卸される分はそれほど多くない。しかし、マシャレッリ領と同様に魔力の発現している者が発生している可能性はある。また、マシャレッリ領や王都から他領に卸している農産物を摂取した者も同様である。
「これはまた…、とんでもない報告であるな…」
「魔法使い不足のご時世に朗報ですね」
王は難しい顔をしている。王子は両手を挙げて称賛している感じだ。
「その…、果物を栽培しておるというのも初耳だな…」
「あ、そうだったかもしれません…。後日、そちらも報告書にまとめて提出します」
「ああ…」
しまった。果物の栽培方法はフョードロヴナにしか教えてなかった。マシャレッリ領から出荷している果物とかお肉と言ってしまった。いやいや、これはマシャレッリ領ですでに五年間もやっていることだし、それくらい耳に入ってるでしょう。そりゃ、王都の農園では自分のレストランに卸してるだけで、外販してなかったけどさ。
「三年前からある甘いパンの店と、去年できたレストランが大繁盛しているのは知っていたけど、あれもユリアーナが立ち上げたんだね。さすがだよ」
「そ、それほどでも…」
それほどでも…あります…。
「マシャレッリ家の農園は王都の食糧事情の改善にもかなり貢献しておるが、それが魔力を発現させる可能性のあるものだとは…」
「従来から出回っているつのウサギの肉や、ハンターがたまに持ち帰る果物も、同様の可能性があります」
つのウサギは馬車での移動中にも出会ったりするし、初心者ハンターのお小遣い稼ぎ用の魔物だったりもする。
だから、つのウサギの肉は、それなりにお金のある平民なら食べられるようなものだった。少なくとも、学園の寮の食堂では必ずあった。だけど、私が養女となる前のマシャレッリ家は貧乏だったから、つのウサギの肉をあまり買えなかったらしい…。
だけど、魔力を含む食べ物と、突然変異で現れる魔力持ちの関係はよく分からない。マレリナは私が半ば強制的に突然変異だったことにしてしまったけど、今回魔力の発現した子たちよりはかなり魔力が多い。それにマリアちゃんなんて上級貴族並みの魔力を持っている。
世界の魔力の総量を維持するには、魔力持ちの夫婦は三人以上の子を産むべきだ。魔力を鍛えることをサボっている魔力持ちが子を二人しか産まないと、世界の魔力の総量は期待値で世代を重ねるごとに減ってしまう。
ちなみに、食べ物で発現する魔力は本当に微々たるもので、クラスにいる魔力の少ない下級貴族でも一〇〇倍はある。小さじ一杯と、鍋くらいの差があるのだ。だけど、鍛え方次第で下級貴族に匹敵する魔力になるだろう。
「この件は私の預かりとする」
「はい」
私は謁見を終えた。
四年生の後期が始まった。
「やあ、ユリアーナ」
「ごきげんよう、ヴィアチェスラフ王子殿下」
「(キミの報告を広めないつもりだったのだけど、あのとき部屋にいた兵士からもれてしまったようだ…。すまない…)」
「(いいえ、私は有用な情報を公開するつもりでお伝えしたのですよ、お気になさらず)」
王子が耳打ちしてきた。全身に虫酸が走った。
私の耳にそんなに近づかないでほしい。こういってはなんだけど、エルフの耳って…まるで恥部のように敏感で…。愛撫行動に用いるものなのだ…。
王子は以前もかってに触ってきた。そのときも虫酸が走った。女の子に触られるのはとても気持ちいいのに、男に触られても気持ち悪いだけだ。
「(それがね、良からぬ噂になってしまったのだよ…。ユリアーナ・マシャレッリは、私の婚約者を奪ったり、領地で魔法使いの兵士を育成したりと、謀反を起こそうとしているのではなかとね…)」
「(そのようなつもりはございません!国の発展に役立てようと思って公開したのでございます)」
「(ボクは分かっているさ。だけど、そうは思ってくれない者もいるということさ)」
「(信じてくださりありがとうございます…)」
「(ボクとキミの仲じゃないか)」
私は返事をするのに耳打ちしたりしないで小声で話している。王子からの耳打ちもやめてもらった。だけど、小声なので王子との距離が非常に近い。想像してみてほしい。男と男が顔と顔を十センチほどに近づけているさまを。
私が男とくっつくのを気持ち悪いと感じるのは、前世が男だった記憶があるからだと思うときもあるが、これはエルフの本能なのではないか。エルフは女の子を好きになり女の子に好きになってもらうことができるけど、外見は明らかに女の子であり男をも惹きつけてしまう難儀な種族だ…。いったいなぜ男との生殖能力が備わっているのか…。
「(こちらでも沈静化を図っているけど、キミも気をつけてくれ)」
「(ありがとうございます)」
気持ち悪い密談を終えた。いつもどおり上っ面だけで言葉を返していたけど、何を話したのかよく覚えていない。
私に言い寄ってくる男ってだけで王子のことを邪険にしてるけど、王子は悪いやつでもバカでもないんだよな。ただおかしな結婚観を植え付けられてるだけで。いや、人間の女の子に対する態度としては、この文明の王子としては間違ってないんだろうけど、あいにく私は人間じゃないんだよ。
そして、授業が始まった。
今期から、剣術の受講生と魔法戦闘の受講生で魔物討伐訓練を行うことになっている。領地に現れる強力な魔物の退治は貴族の義務である。
私とお嫁さんたちの中でどちらかの授業を受けているのは、私、マレリナ、アナスタシア、スヴェトラーナ、ブリギッテだ。マリアちゃんとセラフィーマはお留守番だ。二人は参加したかったようだけど、今まで剣術も魔法戦闘も学んでいない者を参加させることはできないとのこと。マリアちゃんは魔道具の基礎をやらずに製作の授業の途中から参加しているのにね。
魔物討伐に必要なことは戦いだけではない。魔物の授業でそう教わった。今期は、最初の数日間、そういった座学の復習をしつつ、魔物討伐訓練の準備を整えていった。
そして、今日は初の魔物討伐訓練。
「皆さん、必要な道具を準備してきていますね」
まずは森の中に泊まりがけなんてことはせず、王都近くの森でつのウサギを倒して終わりの予定だ。つまり、ランクEハンターのまねごとだ。
道具はそれほど多くない。武具と水袋、包帯用の布くらいだ。この世界では一日二食なので昼食も持ってきていない。本来、クラスに命魔法使いがいることはまれなので、治療の道具は必需品なのだ。
私のクラスは全部で四十人。そのうち、火・雷・木・土・水・風の基本六属性持ちがそれぞれ六人、他の属性持ちが四人だ。まあ、スヴェトラーナとアナスタシア、ヴィアチェスラフ王子はマルチキャストだが、スヴェトラーナを火属性、アナスタシアを水属性、王子を雷属性にカウントした場合だ。
その四十人のうち、剣術の受講生と魔法戦闘の受講生を合わせて三十四人が、魔物討伐訓練に参加している。参加していないのは木魔法使いの六人のうち女子四人と、セラフィーマとマリアちゃんだけ。木魔法使いは攻撃魔法がないとされているので魔法戦闘の授業を受けないが、木魔法使いの男子二人は剣術の授業を受けているので参加している。
まとまって行動するには三十四人は多すぎるので、六パーティに別れた。火・雷・土・水・風の属性持ちは各パーティに一人ずつ。そして、余り者である私とマレリナ、木魔法使いの剣士二人は四パーティにばらけた。私とマレリナも剣術の授業を受けているから剣士の扱いだ。命魔法使いなんていないのが基本だ。残りの二パーティに剣士がいないかというとそうでもなくて、剣術の授業を受けている男子が一パーティに固まらないように、均等に割り振ってある。剣術の授業を受けているのは男子十人と私、マレリナ、スヴェトラーナ、ブリギッテ。少なくとも二人の剣士が各パーティに割り振られている。
それ以外でも、魔力の強さや成績を考慮して、均等な戦力にしてあるようだ。
「わたくし、ユリアーナ様と別のパーティで残念ですわ」
「しかたがないよ。戦力を均等に割り振った結果だからね」
しょぼんとしているスヴェトラーナをブリギッテが諭す。私とお嫁さんたちは戦力としてはエリートなのだ。ばらけるのは必然だ。
私たちはパーティに別れて、八人乗りの馬車に乗り込んだ。馬車で戦場に赴くのはマシャレッリ領でもやっていたけど、基本なんだね。
パーティには護衛の剣士が一人ずつ同行する。つのウサギや小型の魔物しか出ない森だが、学園はお貴族様の子の命を預かる場所なので、万が一があってはならないのだ。だけど、よほど酷い怪我にならなければ護衛は手を出さないことになっている。基本的には生徒でなんとかしなければならないのだ。
パーティに別れるといっても、それぞれの距離はそれほどない。回っていたらばったり出くわすこともあるのだ。
みんな汚れてもよい服を着ている。女の子もズボンだ。でも下着はドロワーズじゃなくて、マシャレッリのお店のパンツをはいてくれているかな。夏だからゴワゴワのむれむれは気持ち悪いのだ。私はもうドロワーズには戻れない。
私とお嫁さんは蜘蛛の糸の生地で作ったキュロットだ。マシャレッリの防具屋から丈夫な体操服を学園に卸してもいいかも。もちろんキュロットだよ。ビキニアーマーでもレオタードでもブルマでもないよ。
背中にはハープ。剣士は腰に剣。他にも、必要なものを入れていた袋と水袋を下げている。
私も同じだ。今日はちょっと明るい灰色髪設定だから、異次元収納を使うわけにはいかない。
アナスタシアはリハビリスーツを着ているが、身体に対して荷物が大きくて、歩きにくそうだ。
アナスタシアは剣を扱えないけど、私とマレリナ、スヴェトラーナとブリギッテが腰に差しているのはクリスタルソードだ。
★★★★★★
★スヴェトラーナ十三歳
スヴェトラーナは馬車の中でふてくされていた。
ユリアーナ様と一緒じゃない魔物討伐なんて楽しくありませんわ。マシャレッリ領で魔物討伐の実践をさせていただいているので、訓練なんて今さらですのに。
今回は気の知れたメンバーではありませんので、オルゴールを使えません。オルゴールさえあればハープなど必要ないと思ったこともありますが、オルゴールをおおやけにしない以上はハープによる魔法の練習も欠かすことはできないとマレリーナ様に諭されました。おかげでこういう機会に慌てることはありません。
魔物の森に着いたようです。他の班は見えるほど近くありませんが、そう遠くない場所にいるはずです。
わたくしのパーティは五人です。わたくしは火魔法使いにカウントされているので、残りの魔法使いは雷・土・水・風。そのうち、剣術の授業を受けているのはわたくしと土魔法使いの男子、水魔法使いの男子です。
わたくし、年々剣術の成績が落ちてまして、おそらく剣士として数えられていません。去年辺りから胸が邪魔で剣を両手で振れなくなってしまいました…。でも、今回はユリアーナ様に作っていただいたクリスタルソードがあるのです。片手で振っても、岩でも何でもすぱすぱ斬れますわ。
まあ、基本的には前衛を男子に任せましょう。わたくしはハープを構えておきましょう。
「来たぞ!」
つのウサギが五羽。
わたくしはとっさにハープを演奏して、一羽に火の玉を放ちました。つのウサギは火に包まれ動きを止めました。
一方、前衛を務めていた剣士二人は、剣でつのウサギとやり合っています。つのウサギがすばしっこく、なかなか剣を当てられないようです。
残りの二羽は、雷魔法使いの女子と風魔法使いの女子に向かっていきます。二人の女子はハープを演奏し始めましたが、長い魔法を演奏しており、演奏が終わりません。いったい何を演奏しているのでしょう。つのウサギなど、最初に習った初歩的な攻撃魔法でじゅうぶんなのに。
「きゃあっ!」「痛い!」
二羽のつのウサギのつのは二人の腕にかすりました。二人の腕に赤い線が走ります。二人は痛みで演奏をやめてしまいました。
わたくしは、ハープを背中に回して、剣を抜きました。そして、一羽のつのウサギを切りつけました。剣はつのウサギの身体をスルッと通り、つのウサギは血を吹き出し、二つに別れました。
やはり、胸が邪魔で自由に振り回せないのですが、後ろから不意打ちをかけるくらいはできます。
女子に襲いかかったもう一方のつのウサギは、わたくしを脅威とみなし、わたくしに襲いかかってきました。わたくしは避けようとしましたが、胸が重くて身体が思うように動かず、腹につのが直撃…。しかし、指で押されたような感覚はあるものの、つのは服を貫通しませんでした。さすが、ユリアーナ様の作った衣装!
わたくしはふたたび剣を振り下ろしましたが、わたくしのふところに入り込んだつのウサギを攻撃するには胸が邪魔です。しかたがなく、私は一歩後ろに身を退きました。
この胸はユリアーナ様を攻略するのに役だっても、戦いでは邪魔なだけですわ…。
わたくしが一歩退いて攻撃する間もなく、つのウサギがふたたびわたくしに襲いかかってきました。またもやわたくしは避けられず腹に喰らってしまいましたが、衝撃があるだけでそれほど痛くはありません。
でも、このままでは反撃できませんわ…。
そこに、男子が剣を振りかざして、つのウサギを斬りつけました。つのウサギは動きを止めました。
どうやら自分の相手を倒して、加勢に来てくれたようです。
もう一人の男子も自分の相手を倒して、こちらに向かおうとしていたところだったようです。
「ありがとうございます」
「お怪我はありませんか、スヴェトラーナ様」
「わたくしは大丈夫です。あちらの二人を」
男子二人は怪我をした女子二人に駆け寄っていきました。自分の袋から包帯を取り出し、女子の腕に巻いてあげました。
「「ありがとうございます…」」
あら、いい雰囲気ではありませんか。でも、女子はみんな王子の婚約者なのです。そして、あろうことかユリアーナ様に婚約を申し込んできた女子もたくさんいました。このクラスの男子は女子の三分の一しかいないというのに、誰一人お相手の女子がいないのです。
大技を出そうとして魔法が間に合わなかった女子二人も、なかなか攻撃の当たらない男子二人も、このパーティは前途多難ですわね。他のパーティはどうなのでしょうね。
そのあとも、同じような感じの戦闘が続き、みなさん生傷が耐えないようでした。
倒したつのウサギは血抜きをして、背負い袋に入れます。ここで、ユリアーナ様の開発した冷蔵袋の出番です。蜘蛛の糸の生地で作った袋で、中の血がこぼれたりしません。それに、見えない菌という虫や空気に含まれる酸素を取り除くことによって、中のものがほとんど腐らなくなるそうです。
例年ですと、このつのウサギは学園の寮の食材として使われるそうなのですが、今ではユリアーナ様の農園から美味しいミノタウロスやコカトリスなどを卸されているため、つのウサギはメニューにないそうです。そのため、ハンターギルドに買い取ってもらうそうです。王都ではユリアーナ様の農園のお肉が出回っていますが、まだまだ貧困層には手の届かない高級品です。そのため、つのウサギにも一定の需要はあるそうです。
★★★★★★
★ユリアナ十三歳
初めての魔物討伐訓練は終わった。みんなちょっとした傷をもらっていた。私とマレリナのパーティは都度治療魔法をかけていたけど、他のパーティは擦り傷や切り傷だらけで帰ってきたので、私と聖女マレリーナで治療して回った。
その後、魔物討伐の授業では反省会などを交えつつ、週一で討伐訓練に出かけるという進め方になった。もちろん、魔物討伐以外の授業は普通にあったが、いつもどおりにすごした。
そして、また魔物討伐訓練の日がやってきた。
★★★★★★
★アナスタシア十三歳
アナスタシアは前回の魔物討伐訓練に参加する前、大きな不安を抱えていた。しかし、今日の訓練では面持ちが違う。
側にユリアーナとマレリーナもいないなんて初めてだったわ。九歳のときに二人が養女になって、二人は片時も私の側を離れなかった。とくにマレリーナはいつでも私の介助をしてくれていた。私は二人なしでは生きられないと思っていたの。
でも、マレリーナが私のために筋力強化のスーツを作ってくれてからは世界が変わった。私も人並みに歩けるようになったのよ。
だからといって、二人のいない討伐訓練は最初、不安でしかたがなかったわ。でも前回の訓練で自信が付いたわ。私だって一人でやれるんだから!
私のパーティは、私の他に火・雷・土・風の魔法使いと、木魔法使いが一人。木魔法使いの男子は魔法使いではなく剣士扱い。他にも二人、火魔法使いの男子と風魔法使いの男子が剣も使える。
男子三人が前衛で、魔法使いの女子三人を守る陣形。でも、つのウサギは四羽以上でまとまっていることが多くて、前衛の三人で抑えられずに後ろに抜けてくることが多い。そうなると、後衛の三人はパニックよ。私も含めてね。みんな同じなんだと分かったら、なんだか少し不安が紛れたの。
「来たよ。六羽だ!」
前衛の男子がつのウサギを見つけたみたい。
「打ち合わせどおり行きましょ」
「ええ」
土魔法使いの女子はうなずいた。そして、魔法を奏でて、土壁を作り出した。土壁には六人分の小さな穴が開いていて、そこから射撃できるようになっている。
私たちは反省会で戦術を練った。マシャレッリ領の魔物討伐で、ユリアーナたちとやった方法を提案してみたのよ。
木魔法使いの男子は魔法を奏でて、いちばん近い木に「木を操る」を使った。ユリアーナみたいに何本もの木を同時に操ることはできないみたい。それに動きも鈍くて、つのウサギに枝を伸ばしても当たらない。でも、つのウサギを引きつけてくれている。
木魔法使いは魔法使いとしてではなく剣士としての参加。でも、ユリアーナは木魔法をこうやって戦闘に使いこなしていたわ。
その隙に、みんなで壁の穴から火の玉、雷撃、土つぶて、氷の矢、かまいたちを発射。五羽のつのウサギを倒した。
そして、最後に火魔法使いの男子がもう一発火の玉を撃っておしまい。
「「「やった!」」」「「「やったわ!」」」
みんなでハイタッチ。だけど、私は他の子より三十センチ背が低いので、届かなかったの…。そうしたら、みんなもう一度手を低くしてロータッチしてくれたわ。みんな優しいじゃない。
木魔法使いの子は自分の魔法が戦闘に活きるとは思ってもみなかったみたいで、自分がいちばん驚いていたわ。土魔法使いと木魔法使いが連携すれば鉄壁の守りね。
そして、みんなは私の戦術を褒めてくれた。ユリアーナの戦術なんだけどね。ユリアーナは複数の属性の魔法を組み合わせて連携させるのが得意なのよ。私だって、水と空間のマルチキャストなんだから、何か考えなきゃ。
こうして、私のパーティはだ徐々に連携慣れしていって、仲良くなっていったのよ。
★★★★★★
★ユリアナ十三歳
週に一度の魔物討伐訓練の授業を何回かこなした。そのたびに反省会の授業で作戦会議を練り、また、皆は魔物の相手に慣れてきたこともあって、魔物討伐は安定してきた。
私のパーティは、私の他は火・雷・土・水・風の魔法使い。雷魔法使いだけが男子で剣士。
赤髪のエミリーナ・シェブリエ侯爵令嬢。黄色髪のアルベール・ルブラン子爵令息。オレンジ髪のアルメリア・ベンシェトリ伯爵令嬢。青髪のベアトリス・アルヴィナ男爵令嬢。
そしていじめっ子の水色髪、パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢。いや、もう一年以上、私を悪く言ってきたりしていない。むしろツンデレだ。娯楽・芸術音楽の授業では「ここ教えなさいよ!」とか言ってツンツンしているが、私が側でドラムを弾いてあげると、ドラムの音を聞くんじゃなくて私を見ているんだよ…。パオノーラは私に婚約を申し込んできたりしなかったのに、私のことを好きなのかな…。っていうか、この子、ドラムをやりたいんじゃなくて、私に指導してもらいたいだけなんじゃないかな…。
今回のパーティにはいないけど、エンマも同じような感じだ。このクラスに私に恋心をいだいていない女子はいるのかな…。私って罪作りな女…。
それはさておき、最初の頃こそ生傷が絶えなかったが、私のパーティもだいぶさまになってきたもんだ。
だけど、今日は初めての夜営訓練なのだ。夜営で困るのがアナスタシアのリハビリスーツ。毎日マレリナか私の充電で成り立っている。今回は魔石の付いたベルトを用意して、スーツの補助燃料として動作するようにマレリナが改造した。これで一晩はなんとかなる。
「来たぞ、つのウサギ、八羽だ」
私とマレリナの戦いを何度も見ているのに、自分が先頭に立ちたい男子、アルベール。日本でも世界でも古くから「男は女を守る者」という図式がある。この世界のような低文明に男女平等などという言葉はない。彼は「男らしい」を実践しているだけなのだ。
アルメリアが土壁を設置。こちらに近づくにつれてだんだん狭くなる漏斗を横に向けたように左右から壁を設置。細い通路が続くが、最後は行く手を阻む壁がない。ただ、一列に整列させる目的の壁だ。
「撃て!」
そして、一列になったつのウサギをみんなでメッタ撃ち。つのウサギは左右によけるスペースがないので、簡単にくらってくれる。だけど、ときどき上下にうまくかわして抜けてくるやつがいる。それをアルベールか私が剣で止めるという戦術だ。
「お疲れさま」
仕切りたがりのアルベール。一人だけ男子で、五人女子だからかっこいいところ見せたいだろう。だけど、このクラスの女子はみんな王子の婚約者で、しかも私に恋心をいだいているのだ。キミがここでがんばってもしょうがないよ。
そんな感じで、何羽来ようが安定して倒せるようになり、たくさんのつのウサギを倒していった。そして、日が傾いていった。
「そろそろ野営の準備をしませんか」
「おう、今言おうと思っていたところだ」
何かとリーダー風を吹かせるアルベール。
今まで目の届くところで他のパーティが戦っている様子は見られなかったけど、辺りを見回すと遠くでたき火の明かりがともされていることがわずかに分かる。もちろん、私の地獄耳は目よりもはるか遠くの情報を得ることができるので、他のパーティとの距離はだいたい把握していた。
「まずはたき木を集めよう」
みんなで焚き木を集めた。
「水魔法で水を霧状にする際に水の取得場所を木の水分に指定すると、木が乾燥してよく燃えるのよ」
「ユリアーナちゃんは戦闘にせよ生活にせよ、他の属性の使い方をよく知ってるよな」
「うちで雇っている水魔法使いがやっていたのよ」
もう王家には全属性使いってばれちゃったんだから、オープンにしたいなぁ。でもさらに大ごとになるだろうな…。
「ベアトリスちゃん、頼めるか?」
「ええ、分かったわ」
ベアトリスはハープを取り、作業に入った。
「こういうとき雷魔法使いはあまり役に立たなくてごめんな」
「そんなことないわ。もう暗くなってきたから作業しづらいでしょ。光魔法で照らしたらどうかしら」
「なるほど。ユリアーナちゃんは自分の持ってない属性の魔法の使い方を本当によく知ってるよなぁ」
「うちで雇っている雷魔法使いがやっていたのよ」
このやりとり、何回やればいいんだろうか。
アルベールもハープで魔法を奏でた。明るくなって作業しやすくなった。
「それから、土整形で簡易的な砦を作ったらどうかしら」
「魔物の侵入を阻むくらいの壁なら作れると思うわ」
土整形で作ったものはしばらくすると堅さを失ってしまうけど、重力に逆らった構造をしていなければただの盛り土として形状を維持する。
土魔法使いのアルメリアをこき使っている。直接戦力になる火魔法使いと雷魔法使いがもてはやされがちだけど、マシャレッリ領では土魔法使いと木魔法使いが高給取りなのだ。
そうだ!私と結婚できないまでも私の家臣とかでいいなら、マシャレッリ家で雇ってあげるよ!って、ここにいる子はみんな王子の婚約者だった。私が雇ったりしたら噂が本当になってしまう…。
テントといっても、骨組みにする木は現地調達。それに布を結びつけるだけだ。布もせいぜい雨よけ。かさばる大きな布を持ってこられないのだ。
私は蜘蛛の糸の生地を気密性の高いモードにして、三角錐状の袋にしてきた。超薄くしてあるので、折りたためばかさばらないのだ。
でも、一人だけ快適なテントでは心苦しいので…、
「みんなもこれを使ってみる?」
みんなの分を持ってきたのだ。背負い袋から取り出すと見せかけて、袋の中に異次元収納の扉を開いているのは内緒だ。
「これは薄いのにとても丈夫だな」
「すごく大きい布ね」
「袋になっているわ」
「これなら虫もほとんど入らないわね!」
「すごいわ!」
「よかったらそのままさしあげるわ。今後も使うでしょうし」
「「「「「ありがとう!ユリアーナちゃん(様)」」」」」
どうでもいいけど、アルベールは女の子全員をちゃん付けだ。子爵家風情のおまえより身分上の子の方が多いんだけど。まあ、それもこれも、補習や音楽の授業で仲良くなったからできることだけどね。
ちなみに、貴族どうしでは、身分が上だろうと下だろうと様を付けて呼び合うのが基本だ。スヴェトラーナだって私のことを様付けで呼ぶしね。まあ、このクラスは元平民が多いから礼儀作法が崩壊気味だけど。本当はそうじゃなかったのかもしれないけど、私が和気藹々とさせちゃったから礼儀が崩壊しちゃったのかも?
それから、エリミーナがたき木に着火。狩ってきたつのウサギをベアトリスが洗いつつさばく。調理実習なんかも学園でやったんだよ。
そして、木の枝で作った串に肉を挿して、たき火の周りの地面に挿して焼くのだ。
貴族の学園だけど、こんなに泥臭いことも教えてるなんてちょっと見直したよ。もう学ぶことはないなんていってごめん。
「焼けたみたいだな」
男子は焼き肉奉行もやりたいみたいだ。串を取っていきなりかぶりついた。
「生焼けじゃないかしら」
「そうみたい…」
周りが焦げ付いてきたけど、分厚いから中まで火が通ってない。
「あとは火魔法で加熱するって手があるわよ」
「これくらいの量ならできそう。やってみるわね」
「頼む」
エリミーナがハープを弾いて、みんなの肉を中から温めた。周りに焦げ目を付けたあとは電子レンジで調理するってやりかたもあるしね。
「おお、赤身が茶色くなった!」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
一番手はアルベール。
「おおー!こうやって食べると、寮で以前出てたウサギ肉よりうまいな」
「そうね、まあまあね」
塩もなんも振ってないけど、みんなで作ったってスパイスがかかってるからうまいのかな。
そして、ツンデレなパオノーラ。
そして就寝時間。
「それじゃ、ユリアーナちゃんのくれたテントで寝てくれ」
アルベールが寝ずの番だ。敵襲があれば、みんなに知らせる見張り番の役だ。
「地面に毛布だけ敷くよりマシね」
安定のツンデレ、パオノーラ。
「これは助かるわ」「服に土が付かないで済むわね」「本当によかったわ」
私は原始人の村出身なので、泥だらけになるくらいなんてことない。でも、汚れないに越したことはない。
「おやすみ」
「「「「「おやすみなさい」」」」」
三十分くらいすると…、ガサゴソという音で私は目覚めた…。寝ずの番、寝てないかな…。
テントの入り口は上開きのカーテンになっている。私は寝ているふりをした。そのカーテンがめくり上がり、月明かりが見えた。
私の毛布をめくり、毛布に入ってきた…。真っ暗で誰か分からない。だけど…、私の腕にむにゅっと柔らかい感触…。この直径はパオノーラの双球…。
私は音以外に関してはいわゆる鑑定能力を持たない、チート転生者としては不届き者だ。だけど、胸の大きさに関してはなぜか正確に言い当てることができるようだ。そして、その能力は視覚だけでなく触覚によっても発揮されるようだ。
それはさておき、これは夜這い?アルベールは寝てる?それとも見逃してる?護衛のハンターもグル?
私って明らかに女の子にしか見えないから、女の子どうしで一緒に寝てもOKってつもりでお嫁さんたちと一緒に寝てるし、パオノーラもそのつもりで毛布に入ってきたんだろう。だけど、エルフというのは女の皮を被っているだけの男といっても過言ではない。私は無意識にキス魔になり、危うくマレリナを妊娠させるところだった。今はブレスレットの閾値を低めにして、心拍数八〇以上にならないようにしてるから無意識にキスしてしまうことはないけど…。
まあ、つまるところ、私と一緒に寝るというのは、未婚の男女が一緒に寝るのと変わらないのだ。そこのところをみんな分かっていない。というかはっきりさせてしまうと、私とお嫁さんも引き離されてしまうから、はっきりさせられないでいる。
「(ねえ、起きてるんでしょ)」
「……」
「(私を抱きなさいよ)」
「……」
「(結婚してくれなくてもいいから、今日は抱いて…)」
「……」
パオノーラはこそこそ声で話してきた。
パオノーラは私に婚約を申し込んでいなかったけど、私に抱かれたかったんだ…。
私は横を向いて、パオノーラの背中に手を回して抱いた。
「(早くそうすればいいのよ)」
顔を赤らめてそっぽを向いちゃって…。
でも心拍数八〇の私はこれ以上は踏み込まないよ。これ以上踏み込んだら、お嫁さんたちを裏切ることに…。
「(ありがと…)」
デレた…。
その後、一時間ほどでパオノーラは出ていった。そして、またガサゴソと…。そして、またむにゅっとした感覚…。今度はエリミーナだ…。
「(ユリアーナ様…。抱いて…)」
うーん、しかたがないからパオノーラと同じように背中に手を回して抱いた。
「(ありがと…)」
そして、エリミーナは一時間ほどで出ていき、今度のむにゅっと感はアルメリア。
「(ユリアーナ様、お願いします…)」
何これ…、寝ずの番の交代に合わせて、女の子が私に抱かれに来てる…。
しかたがないからアルメリアも抱いたけどさ!本当に抱いただけだよ。エッチしたって意味じゃないよ!
これで最後にアルベールが来たら蹴っ飛ばして追い出してやる。それは犯罪だ!それを考えると、女の子が私のテントに来るのもアウトなのでは…。一見アウトに見えないから不思議…。
そして、アルメリアが一時間で出ていき、次はベアトリス。
「(ユリアーナ様…)」
ベアトリスは私の腕に胸を押しつけて、私の背中に手を回した。私もそれに応えて、ベアトリスの背中に手を回した。
あれ…、寝ずの番、私の番じゃないか…。ここでやめたら可哀想なんだけど…。どうしよ…。
「(ユリアーナ様が悪いのよ)」
「(えっ)」
気が付いたときには、私の喉から血が吹き出ていた。
私の血で真っ赤に染まるベアトリスの顔。ベアトリスの手にはナイフ。私の背中に手を回して、私の喉を引き裂いたのだ。
「私を嫁にしてくれないから」
「な……」
声にならない。喉をやられた。そうだ、治療魔法だ。私に鼓動が早くなって精神治療が発動したおかげで、私は冷静だ。
「ヴンヴンヴン……♪げほっ…げほっ…」
「なぁにぃ、それぇ」
ダメだ…。喉がおかしい…。頑張ってもダミ声しか出ない。こんな声、イヤだ!
音程も安定しない。喉の変なところが共振して、変ホ長調じゃない違う調になってしまっている。これじゃ治療魔法を歌えない…。
「ヴンヴン……♪」
治れ!私の喉!私はアニソン歌手になるために生まれてきたんだ!
「ヴンヴン……♪」
私の声を返せ!私のアニメ声を奪うやつはこの世からいなくなれ!私がこの世界に存在する理由を奪うやつはこの世界に存在してはならない。
「ヴンヴ……♪」
私の喉…、治って…。私のアニメ声…。
いつのまにかブレスレットの魔力が尽き、鼓動が早くなっていた。
ああ、声じゃなくてハープ…。でも、意識が遠のいて……。
★★★★★★
★マレリナ十三歳
マレリナはユリアナにもらったテントで一人眠りに就いていた。
しかし、ふと目が覚めた。
何だろう、胸騒ぎがする。
私はハープを背負い、テントを出て走った。なぜか分からない。この先に何があるのか。
辿り着いた先は…、ユリアナのパーティの野営地?
寝ずの番はいない。少し離れたところにいる護衛のハンターがこちらに気が付いて向かってきた。
「どうした?他のパーティへの干渉は禁止だ。これ以上踏み込むなら、減点にされるぞ」
私は無視して一つのテントに向かった。このパーティはユリアナが全員にテントを配ったのだろう。みんな同じテントだ。だけど、その一つのテントが私の目指すべき場所であることが分かった。
「こらっ!近づくな!」
ハンターは剣を抜き、私を牽制してきた。
私はポケットの中のオルゴールで筋力強化と防護強化を使った。
ハンターは私に剣を振りかざしてきた。明かな殺意。私は軽くよけて、ハンターの股間を蹴り上げた。
「はぅ…」
そして、ハンターの顔に回し蹴り、回し蹴り。
「いてぇ…」
顔を手で押さえたハンターの股間膝蹴り、膝蹴り、膝蹴り、膝蹴り。
「はぅ…、あぅ…、はん…、うぅ…」
私は飛び上がり、ハンターの顔に回し蹴り。
「ぎゃぅ」
ハンターは吹き飛んで、木に頭を打ち付けて気絶した。
気を取り直して、私は目的のテントのカーテンを開けた。開けた途端に広がる血のにおい。
「なあに?邪魔しないで!」
顔を血で染めた女がナイフを突き出してきた。私は軽くよけて、女の腹に拳を入れた。
「ぐぇっ」
そして、地面に伏せている…ユリアナ!喉からおびただしい量の血が吹き出ている。
私はポケットに手を入れて、オルゴールで治療の魔法を使った。これじゃダメだ。
私はハープで「喉の治療」を奏でた。何度も何度も。
「お願い!止まって!」
なんとか傷が塞がり、血は止まったようだ。だけど、これだけ血を流したら…。大丈夫、ユリアナが自分自身に祝福をかけられなくても、私にかかった祝福のおかげで、私が悲しい思いをするような自体にはならないはず…。
何回治療の魔法をかけただろうか。もう魔力がギリギリだ。魔力切れで私が気絶するのはマズい。
この女…、クラスメイトのベアトリスじゃないか…。ユリアナに気があるみたいだったのに、なんで…。
ユリアナの袋に入っていた血だらけのロープでベアトリスの手足を縛った。そして、ユリアナのテントから出した。
それから、外のハンターは確実にグルだ。気絶しているうちに手足を縛っておいた。
一応、ユリアナも外に出しておこうかな。
あとは、このパーティの他のメンバーだけど、ユリアナのパーティは赤髪のエリミーナ、黄色髪のアルベール、オレンジ髪のアルメリア、水色髪のパオノーラ、そしてこいつ、青髪のベアトリス。注意すべきは剣を使えるアルベールくらい。あとの女子は、動きは素人だし、攻撃魔法だってそうそう喰らうつもりはない。
それに私はユリアナのくれた運動着を着ている。この生地はなかなか刃を通さない。もちろん鉄で殴られれば痛いけど、手足を切られたり、腹を刺されることはない。それなのに、ユリアナは露出している首を切られるなんて…。音に敏感なユリアナが気が付かないとは思えない。クラスメイトとは仲が良くなっているし、信用していたところに寝首をかかれたんだろうな。それか色仕掛けか…。はぁ…。
一人ずつかたづけていこう。まずはアルベール。入り口付近に待機している気配はない。入口のカーテンをめくってみると、アルベールは普通に寝ていた。オルゴールで覚醒をかけてみた。寝たふりなら起きないだろう。だけど、
「ん…、なんでマレリーナちゃん?」
「起こして悪いわね」
「血だらけ…、キャンプが襲われたのか?」
「襲われたのは私じゃないよ」
「うちのパーティか!みんなは!?まさかユリアーナちゃんが?」
「まさかってなにさ!」
「あっ…、その…、今日は女子四人が一人ずつユリアーナちゃんに夜這いをかけるから、見逃してほしいって頼まれてたんだ…」
「その女たちがユリアーナの寝首を掻いたのよ」
「まさか…」
「来なさい」
「ああ…」
アルベールを伴ってテントの外へ。
「ベアトリス!血だらけじゃないか!」
ユリアナの返り血を浴びたベアトリスを見て慌てた様子のアルベール。
「そいつが実行犯みたいよ。それはユリアーナの血なのよ」
「なんで…。みんなユリアーナちゃんに婚約を申し込むきっかけが欲しいって言ってたのに…」
「叶わぬ恋なら殺してしまえってところかな」
「マジか…。こいつは…、護衛のハンターじゃないか」
私が手足を縛って転がしておいたハンターだ。
「そいつは私がユリアーナのテントに向かおうとしたのを阻んだのよ。まるで、テントの中で起こっていることを知られては困るといったようにね」
「こいつもグルなのか…。あ…、ユリアーナちゃん…、血だらけ…」
「私が治療魔法をかけたけど…」
「ん…、ん~…」
「ユリアナ!」
★★★★★★
★ユリアナ十三歳
「ん…、ん~…」
「ユリアナ!」
起き上がろうと思ったけど、身体に力が入らない。気持ち悪い。頭が痛い。
なんでだっけ…。ああ、首を切られたんだ…。あああ!私の声!
「ふんふんふんふんふんふんふんふ~ん♪」(シ♭ドレミ♭ファソラシ♭)
変ロ長調で一オクターブの鼻歌をちゃんと発生できた。
よかった。私の命よりも大切なアニメ声…、元通りだ…。
「ユリアナ、大丈夫?」
地面に寝そべっていた私を、マレリナがお姫様抱っこしてくれた。マレリナ…マジ王子…。
「あ、マレリナ。血だらけ…」
「ユリアナの血だよ…。すごい血だったんだよ」
「そっか、私の血…」
貧血か。声が元通りなった安堵感で忘れていたけど、気持ち悪くて頭が痛いんだった。
それに、なんだか魔力も枯渇気味だ。そんなに治療魔法を使いまくったのかな。っていうか、あのときはデスメタルみたいな声で、変な調だったろうから何も発動してないと思うんだけど…。
風邪をひいて喉を痛めたときとか、喉の変なところが共振して、変な調になったりするんだよね。
「ユリアーナちゃん、痛みはない?」
アルベールが心配そうに私を見ている。
「ええ、血が足りなくて気持ち悪いけど、痛いところはないの。マレリーナが完璧に治してくれたのよね?」
「そうよ。魔力ギリギリだったけど、治ってよかったわ」
「そうか…、よかったよ…。マレリーナちゃんが駆けつけてくれなかったら、オレ、気が付かずにずっと寝てたよ…」
「あ、ベアトリス…」
「あの子がナイフでユリアナの首を斬ったんでしょ!」
「そう…」
手足を縛られて転がっているベアトリスが目に入った。
あのときのセリフ…。「ユリアーナ様が悪いのよ。私を嫁にしてくれないから」。結婚してくれないなら死んでくれって?そんなヤンデレになるほど私はみんなを魅了してるの?
「他の子は?」
「テントで寝てるみたい」
他の子も夜這いに来た。隙あらば私を殺すつもりだったのだろうか。もう誰も信じられない。
「ふんふん…♪」
「ユリアーナちゃんはこんなときでも歌うのか。ははは」
嬰ト短調の鼻歌を歌った私が何をしているかも知らずに、微笑んでいるアルベール。
私は記憶を読む魔法で、まず、目の前のアルベールの記憶を読んだ。
パーティメンバーの女子五人が交代で私に夜這いをかけるから寝ずの番でも見逃してほしいと頼んできた。アルベールはうらやましいと思いながらも了承した。そして、私と女子のあれやこれやを妄想…。
まあ…、私も前世は男だったのだから気持ちは分かるよ…。妄想だけならタダだ。こいつはシロだ。
「ふんふん……♪」
続いて、転がっているベアトリスの心を読んだ。
ユリアーナ様と結婚したい。でもユリアーナ様には六人の婚約者がいる。諦めるしかない。ユリアーナ様は王子殿下の婚約者を惑わし王家に混乱をもたらす者。魔法使いの兵士を育て、反逆を企てる者。私のものにならないのなら殺してしまえ。夜這いをかければエルフは拒まないだろう。エルフとはそういう種族だ。そして、私のために歌ってくれない喉笛を裂いてしまおう。
あれ?記憶が繋がってない。これってもしや…、記憶の改ざん?
他の子も調べてみよう。
「ふんふん……♪」
場所と人物を想像できれば、テントの中で見えなくても対象にできる。パオノーラは…。
平民上がりで魔力もろくにないはずのユリアーナ。でも実際は優秀な命魔法使い。ユリアーナは、私やクラスのみんなが王子殿下の婚約者になるのを手伝ってくれた。ユリアーナは、娯楽・芸術音楽という楽しい時間をくれた。ユリアーナの綺麗な声が好き。でもそれに気が付いたときは遅かった。私はどうしてツンツンしてしまうんだろう。仲良く接していれば、今頃私もあの六人の中にいたかもしれないのに。
でも運が良いことに私は魔物討伐訓練でユリアーナと同じパーティになった。これは仲良くなるチャンス。夜這いをかければエルフは拒まないだろう。エルフとはそういう種族だ。
犯行に関わっているかどうかを知りたいだけなのに、ポエムのような記憶が…。そして、何やらベアトリスと同じ内容の一部記憶がある。
それからエリミーナとアルメリア調べると、同じく「夜這いをかければエルフは拒まないだろう。エルフとはそういう種族だ」という記憶があった。植え付けられた記憶だ。これと洗脳を組み合わせれば、私に確実に夜這いをかけさせられるだろう。
他の四人の子で私を夜這いされることに慣れさせておいて、油断したところでスパッというわけか…。喉を斬られる感触…。思い出すと恐ろしい…。甲子園男児が肩を潰されるのと同じ。たぶん。
とりあえず、ベアトリスの犯行動機や他の子の夜這いの知識を消しておこう…。いや、私を斬ったことも消してしまおう。甘いのかもしれないけど、洗脳されて私を殺そうとしたのなら、利用されただけだ。私としてはベアトリスに処刑されてほしくない。
ベアトリスは、寝ている私の首をナイフで斬った者を目撃したという記憶を植え付けた。その者は、ピンクの髪をしていたことも。これは、ベアトリスに記憶を植え付けて洗脳した心魔法使いを捜査線に挙げるためだ。主張が通るといいな…・
「ユリアナ、他の子に尋問する?」
「もういいよ。たぶん大丈夫」
「ホント?」
「うん」
「じゃあ護衛のハンターは?コイツは私がユリアナのテントに向かうのを阻んだんだ」
「なるほど…。ふんふん……♪」
記憶を読むと、学園から受けた依頼は「後遺症が残るような攻撃や致命傷となるような攻撃から学生を守ること」だ。
いっぽうで、なぜかもうひとつ依頼を受けている。「他のパーティの学生を近づけてはならない。押しかけてきても守ること」という依頼を受けている。内容はそれほどおかしくないが、なぜ二重に依頼を受けているのか。依頼人の名前と人相も引き出した。
このハンターはランクCだが、素行あまりよくない。しかし、普段の依頼はそれなりにまっとうに遂行している。今回の依頼は意味がよく分からないが、金払いはいいので、何か裏がありそうだと勘ぐりながらも受けたらしい。このハンターはそういう裏で何かありそうな曰く付きの依頼を受けることでは有名なようだ。
「アルベール様、私はユリアーナを介抱しているので、私のパーティに事情を説明してきてもらえませんか。あちらの方角から来ましたので」
「ああ、分かったよ」
マレリナがアルベールを説明に行かせた。
「ねえマレリナ。マレリナはなんで来てくれたの?」
「胸騒ぎがしたんだ」
「そっかぁ…。それによく場所が分かったね」
「それもなんとなくね。きっとユリアナの祝福だよ」
「そうなのかな…」
「ユリアナが死んだら私は不幸になっちゃう。だからユリアナは死なないんだよ」
「また私、自分のために祝福を使っちゃったね」
「良いことは自分に返ってくるんだよ」
「そうだといいな」
「うん」
「ねえ、ベアトリスを犯人として突き出さないで」
「はぁ?」
「操られてたみたいなの」
「そんなことできるんだ…」
「心魔法にそういうのがあってね、私と結婚できないなら私を殺してしまえって記憶に植え付けられてたみたい」
「っていうか、それが分かる心魔法もあるんだね?」
「うん。記憶を読む魔法がある」
「そんな魔法もあるんだ…」
「他の四人の子は殺すとかはないけど、やっぱり操られてたみたいなんだ。五人が立て続けに私のテントに忍び込んできてね」
「もう…何やってるのさ」
「な、ななな、何もやってないよ!隣で寝ただけ」
「一緒に寝たんだ…」
「だってみんな私のこと好きなのに結婚できなくて悲しそうにしてるから…」
「ユリアナは優しいからね。まあいいよ」
「ごめん…。うぅ…」
慌てたら貧血の症状が酷くなった。そして、魔力枯渇寸前で心魔法も使ったからもう限界だ…。
「調子悪いのに怒っちゃってごめん。もう眠りな」
「うん…」
マレリナは私を柔らかい土の上に下ろして、膝枕をしてくれた…。マレリナ、お母さんのように包み込んでくれる彼女…。ちょっとした浮気も許してくれる、包容力のあるマレリナ…。
「これじゃマレリナが寝られないよ」
「私はユリアナが心配だから見張ってる」
「ありがと…」
知ってる天蓋だ。王都邸のベッドだ。夜営地からマレリナが運んでくれたんだ…。
うう…、気持ち悪い…。頭が痛い…。血が足りないのに何も食べてないからなぁ。
窓から差し込むのは…、夕日?ちなみに窓はガラス窓に換えてあって、カーテンも付けてある。
部屋の外で六人の足音がする。ドアが開いて入ってきたのは私のお嫁さんたち。
「目覚めましたのね!」
「ユリちゃん!」
「ユリアーナぁ、もう起きないかと思ったよぉ!」
「心配したよ…」
「よかったわ…」
「ねぼすけだね」
みんながベッドに入り込んできて、私はもみくちゃに。スヴェトラーナはいつも胸を押しつけてくる。ああ、ブレスレットに充電してない。でも血が足りなくて…、
「うう…」
気持ち悪い…、頭痛い…。心臓がバクバクいおうとしても不完全燃焼でプスプスしてる感じ…。
「ああっ、ごめんなさい…」
「ユリアナ、食欲は?」
「気持ち悪いけど食べなきゃ…」
マレリナはいつのまにかハチミツ牛乳とやわらかパンを持ってきてくれていた。ベッドの上に小さな机を置いて、お皿を並べてくれた。マレリナお母さん…。
「はい、あーん」
「えっ、自分で食べられるわ」
アナスタシアが牛乳にパンを漬けてから私の口に運ぶ。
「ダメよ。病気の子はムリしないの」
「はい…」
たしかに手を動かすのもおっくうなほど力が入らない。私はアナスタシアの差し出したパンに口を運ぶ。
「うふふ、これやってみたかったのよ」
「ふうぇっ?」
私は口にパンを入れたまま変な声を上げてしまった。
「私、病気だったときユリアーナとマレリーナに毎日こうしてもらって嬉しかったのよ。どう?ユリアーナは嬉しい?」
「はい…」
マレリナお母さんもアナスタシアお母さんも、動けない私に優しくしてくれて嬉しい…。私は顔を赤らめて、そっぽを向いて言った。
「私もユリアーナにあげる!」
「ふごっ!?」
マリアちゃんに牛乳パンを口に突っ込まれた。汁がしたたったまま口に持ってこられたから、口の周りがべちょべちょに…。
「わたくしも負けませんわ!」
「どれだけユリちゃんに食べさせられるか勝負です!」
「よーし!」
なんの競争?スヴェトラーナもセラフィーマもブリギッテも私の口にどんどんパンを入れてくる。
「ふんふん……♪」
時の流れの加速!これなら急いで食べる必要はない。よく噛んでゆっくり食べられる。筋力強化で速く動くわけではないので身体に負担もない。
みんながどんどんパンを運ぶ一方、裏では困った顔をしたマレリナが見えた。本当に気遣いできるのは、やっぱりマレリナお母さんだ。
介護なのか遊んでるだけなのか分からないけど、みんなにもみくちゃにされながら、みんなの愛を感じて幸せに浸った。
私は一日半眠っていたらしい。襲われたのは五人目の夜這いだったから夜明け近かったかな…。
翌日、マレリナが私を横抱きで運び、アナスタシアと合流。アナスタシアの水魔法で血を流してもらった。そして、みんなに事情を説明したところ、魔物討伐訓練は中止。私はマレリナに抱かれたまま王都邸に返してもらった。
マレリナはそのまま一日私に付き添っていた。他の五人は学園へ。その翌日は屋敷の使用人に護衛や看護を任せてマレリナも学園に行ったらしい。そして、学園が終わって帰ってきたところ、私が目を覚ましていたということだ。
私が寝ている間、なぜか王子とアルベールを主体とした学生の調査団が結成され、事件の調査が進んでいるらしい。いちばんの容疑者は私の血を浴びていたベアトリスだ。ところが、私はベアトリスの記憶を消してしまったので、ベアトリスはやっていないと言い張っている。状況証拠からしてどう考えてもベアトリスが犯人なのだが、一応本人の主張が本当がどうか調べるため、ベアトリスはウソ発見器にかけられることになった。そして、見事、主張が本当であると認められたのだ。記憶を消しておいてよかった…。操られていたのに処刑されるところだったよ…。
ウソ発見器というのは、心を読む魔法を駆使した魔道具のようだ。複雑な魔方陣の組み合わせでできており、記憶の深いところと言おうとしていることに食い違いがあれば、ウソと判定するようになっている。それくらいだったら私でも作れそうだ。
というか、私って命を狙われるようなことしたっけ…。誰がこんなこと…。ああ、私って王子の婚約者を奪って謀反を起こそうとしてると思われてるんだっけ…。
防御系の魔道具でも作ろうかな。興奮しすぎを抑える魔道具なんて作ってる場合じゃなかった。周囲の人間のウソや悪意を検知して知らせる魔道具とか、防護強化をかける魔道具とか、もっと有用なものを作らなきゃ。
まあともかく、ベアトリスの疑いは晴れたようだ。でもなんで私のテントにいたかについてはウソ発見器によって本当のことを言うハメになった。他の四人の子もウソ発見器にかけられて、五人は私に夜這いをかけていたことがおおやけになってしまった。でも、男子が女子のテントに押しかけたのならともかく、女子と女子ならテントを共有しているパーティもあったりするので、とくに問題として挙がらなかったみたいだ。エルフは女性とも交われるというのに、いつもそこのところがうやむやになっている…。
そして、ベアトリスに私が植え付けた記憶から、ピンク髪の者が犯人の第一候補として挙がった。心魔法使いは実行犯でないが、捜査線に挙げることができた。
そして、そのような者を目撃していないと主張する護衛のハンターの居眠りや任務放棄が疑われることになった。
護衛のハンターは強力な魔物や暗殺者の脅威から学生を守ることしか依頼されていない。ハンターは、私のテントに入っていく者をずっと見ていたが、入っていく者は女子五人しか見ていないという。それに関してウソはなく、寝ていたり故意に任務放棄していたわけでもないことは証明された。そのため見張っていたのに敵の侵入を見逃したのだから、やはり護衛としての能力不足を疑われることになった。
また、突如マレリナがやってきてマレリナに蹴飛ばされてハンターは気を失ったので、マレリナにも疑いの目が向いた。マレリナは胸騒ぎがしたから駆けつけたら、私が首を斬られており、ベアトリスがやったところを見ていないと証言。うまく、ベアトリスが犯人にならないようにウソ発見器をかいくぐってくれたようだ。
ちなみに、マレリナにやられたことはハンターの評判を落とすネタにはならなそうだ。なぜならマレリナはランクAハンターであり、格上だからだ。私がパーティとして活動しまくってたからマレリナもAになっちゃったんだけど、実際はBくらいの実力しかないんだよね。
それはさておき、そうなると、やはり実行犯はピンク髪の者というのが確定になりそうだ。もちろんそれは私のでっち上げで、ピンク髪の者など現場にはいなかった。実行犯は雇われ暗殺者の可能性が高いので、主犯の捜索に焦点が向けられることになった。ひとまず心魔法使いが手配対象になったのならいい。
一週間ほど休むと私の体力も回復したので、私は学園に復帰した。魔物討伐訓練は、安全の確保ができるまで延期だ。
私も調査団に加わることになった。クラスのみんなのことを信用しているけど、また操られていないとも限らない。私は休んでいる間にいろいろとお守りの魔道具を作った。ブレスレットがまた増えた。魔石があまり入れられないし細かい魔方陣を描くのは大変だけど、指輪やイヤリングにもした。
というか、今のところ動機がわからない。私が王家にあだ成す存在だと思われているのか、それとも嫁にしてもらえない嫉妬なのか。後者もあるとすれば、狙われるのは私だけではない。お嫁さんたちにもお守りの魔道具を渡すことにした。マリアちゃんはみんなでおそろいアクセサリとかいってルンルン気分だった。
教室に入っても魔道具は反応しない。クラスのみんなに悪意はなさそうだ。
「やあ、ユリアーナ。もう大丈夫なのかい?」
「ごきげんよう、ヴィアチェスラフ王子殿下。調子は戻りました。ご心配おかけしました」
「それならよかった。キミが気に病む必要はない」
調査団は王子を主体としていて、強力な権限を持っている。でも実行犯が挙がらず調査は難航している。
「殿下、護衛のハンターから主犯に繋がりそうな情報を得ています」
「ほう」
「それはですね……」
護衛のハンターが受けていたもう一つの依頼、「他のパーティの学生を近づけてはならない。押しかけてきても守ること」と依頼人の名前を伝えた。
まず、護衛のハンターを召喚した。召喚魔法とかじゃないよ。たんに上位の者が下位の者を呼び出すことだよ。
ハンターは依頼を二重に受けていたことがバレたが、依頼内容にはおかしなことはなく、不正な依頼ではない。依頼人の裏を詮索したりバラしたりしないのはハンターのルールだ。
だけどなんでその依頼をするのかというのには疑問が湧く。
今度は依頼人の方を召喚した。すると、依頼人は別の依頼人から依頼を受けたという。依頼人の情報は話せないとゴネたが、王子の権限に屈服。私が心魔法を使う事態にならなくてよかった。
その後、何重にも依頼を通した伝言ゲームを辿っていくと、だんだんと金や権力のある者になっていった。商人は簡単に口を割ったが、貴族家の家臣の口が堅い。口を割らない者は投獄されることになったが、依頼人を辿るのは頓挫してしまった。
もちろん、私は心魔法で依頼人を割り出した。
「次の依頼人が分かりました」
「ほう、どうやって?」
「これです。私が冒険で発掘した魔道具です」
「そのようなものを持っていたんだね…。さすがユリアーナだ…」
もちろんウソだ。記憶を読むという魔道具を作っても、それを表示するようなすべがない。危険な考えを察知して光ったり振動したりとか防御魔法を発動するというようなものしか作れないのだ。ウソ発見器もそうだけど、Yes、Noの判定をするのは簡単でも、Whatに応える魔道具を作るのは難しい。
こうして、依頼人を辿っていくと、六つの貴族の名が挙がった。私の謎の魔道具はともかく、ウソ発見器により「○○に依頼されたか」という質問で発覚した事実は法的に証拠能力があるのだ。そして、「ユリアーナ暗殺を企てたか」という質問により、首謀者が明らかになった。
首謀者の貴族の関係者すべてがウソ発見器にかけられ、関わりのあった者は多数に登った。関係のない分家などには及ばなかったものの、関係した貴族は全員死刑。家臣と使用人は奴隷行き。
貴族家は一段降爵。男爵家はお家お取り潰しに。男爵家以外で貴族当主が死刑となった家は、後継者がいれば自動的に爵位が継がれる。
中には貴族当主と後継者が噛んでいた家があり、その場合は次男三男や娘で後継者を決めなければならない。
ちなみに、依頼を二重に受けていたハンターはランクCであったが、ランクDに降格となった。依頼遂行能力の欠如と、依頼の善し悪しを見抜く能力の欠如が理由だ。明らかに裏がありそうと分かっていながら故意に受けたというのがウソ発見器で分かったのだ。
それから貴族には罰金と領地分割もある。領地分割は爵位を得る者が現れるまで保留だけど。
「ユリアーナちゃん…。まさかオヤジと兄貴がユリアーナちゃんのことを殺そうとしていたなんて…。本当に申し訳ない」
「いいえ、アルベール様は潔白ですもの。謝ることはないわ」
ルブラン子爵家は当主と長男、それに家臣が暗殺に噛んでいた。そのため今回、男爵家に降爵になった。
「でも…」
「アルベール様はこれから貴族当主となるのですよ。今以上に精進してください。私も卒業したら貴族当主ですから、お互い頑張りましょう」
「そうだな…。オレ、頑張るよ!」
次男であるアルベールが当主になったようだ。
アルベールは悪いやつじゃない。結婚はしてあげないけど、男友達としては明るくて楽しいやつだ。アルベールは当主としての勉強をしてないだろうし、降爵したうえに家臣もいなくなってしまって、てんてこ舞いだろう。何かあれば支援してあげたいと思う。
家に影響があったのはルブラン子爵家だけではない。教室のいちばん後ろの席だった、パオノーラの元下僕二人と、エンマの元下僕二人が学校に顔を出さなくなった。四人は男爵家だったから、お家お取り潰しになってしまったのだ。もちろん、王子の婚約者の内定も取り消しだ。四人とも生粋の貴族だったのに、親がいなくなりこれから平民になるのだから大変だろう。路頭に迷った魔法使いは、マシャレッリ家で雇ってあげてもいいよ!
私がベアトリスの記憶を消してしまったから実行犯が捕まらないのはしかたがないんだけど、ベアトリスたちの記憶を改ざんして洗脳した心魔法使いは犯人として挙がらなかった。関係者の記憶を読んで関係者をたどっていったけど、心魔法使いに関する情報がなかったのだ。記憶をたどられるのを恐れて、自分のことを関係者の記憶から消し去っていたとしたら用意周到だなぁ。でも、ピンク髪の者は実行犯として捜査線上に残っている。記憶を植え付けておいてよかった。本格的な捜査は終了したが、手配書としては残る。全国の心魔法使いには申し訳ないけど。当然ピンク髪のアレクセイ先生にも疑いがかかったが、ウソ発見器にかけられて潔白を証明された。
もしその心魔法使いが主犯だったら、私はまた狙われるんだろうか…。
とはいえ、なんだか物事がトントン拍子に進んでいく…。まるで祝福のような都合の良い展開…。私が首を斬られたとき、喉がおかしくて治療魔法を使えなかったと思うのだけど、魔力だけはかなり使った。あのデスメタルのような声だって、私の耳は忘れない。あれは変ホ長調ではなかった。治療魔法を使ったつもりだったけど、音程が安定しなくてめちゃくちゃだ。強いていうなら変ト長調かな。
変ト長調ってなんだ…。邪魔法じゃないか…。治療魔法のつもりで歌った鼻歌は私の知っている単語にはならなかったけど、もしそれが何かしらの単語になったとしたら邪魔法が発動してしまった可能性がある。メロディが不安定で変ホ短調になっていたかもしれない。邪魔法は聖魔法と対極になるもの。邪悪な欲望を叶えたり呪いをかけたりする魔法らしい。
あのとき願ったのは「私のアニメ声を返せ」だ。邪悪じゃないよね…?「私の声を奪うやつはこの世から消えろ」みたいな呪いっぽいことも願ったような…。結果的に、私のアニメ声は元通りで、私の暗殺を企てた奴らはみんな死刑になってしまった。
マレリナの髪がじつは白っぽかったとか、マシャレッリ領にじつは美味しい果物がたくさん成っていたとか、事実改変してしまう祝福…、その対極にある邪魔法…。もしその邪魔法でたくさんの人を死刑にしてしまったとしたら…。
「うぇ……」
「どうしたの?ユリアナ!」
「ユリアーナ様!」
「ユリちゃん!」
「「「ユリアーナ!」」」
知ってる天蓋だ。マレリナがベッドに腰掛けている。
「起きた?」
「私…、とんでもない魔法を使ってしまったかも…」
「ユリアナの魔法はいつもとんでもないから大丈夫だよ」
「そうじゃないんだ。私、邪魔法で私の声を奪おうとするやつに消えろって願ってしまったのかもしれない…」
「あれは声じゃなくて命を奪おうとしたんだと思うけど…。邪魔法って聖魔法の逆ってやつか」
「うん…」
「ユリアナの大事な声を奪おうとするならしかたがないよ」
「でも…、でも…、大勢の人を殺しちゃった…」
「ユリアナがやったんじゃないよ。国の法が裁いたんだよ」
「でも、それすらも私の魔法で…」
「じゃあさ、残された家族のために祝福してあげなよ。平民になっちゃった男爵家の子とか、突然当主になっちゃった子とかにさ」
「えっ…、うん…そうする…。ふんふん……(シ♭レファレシ♭)♪」
エンマとパオノーラの下僕たちや、アルベール…、そして降爵しちゃって残された家族に祝福あれ…。
「ユリアナはいろんなやりかたでみんなを幸せにできるんだよ。祝福の魔法はもちろん、美味しい食べ物をみんなに提供したり、歌でみんなを笑顔にしたり」
「私…、そんなたいそうな人間じゃない…。私はマレリナたちと楽しく歌いたいだけ…」
「ユリアナがやりたいことをやってればみんなが幸せになれるんだからいいんだよ」
「そっか…。でもちょっと休ませて…。貧血もまだ完全に治ってないし、今は胃が痛い…」
「治療魔法はいろんなところにかけてるけど、治らないか…。マリアちゃんも安眠とか精神治療をかけてくれてるんだけどね」
「うーん…」
「ユリアーナ、大丈夫?」
「ユリちゃん、ムリしないでもいいんですよ」
「ユリアーナ、私たちにもっと甘えていいのよ」
「わたくしたち、貴族当主の嫁になるのですから、ユリアーナ様だけが抱え込む必要はありませんのよ」
「どうせなら全部投げ出してエルフの郷にでも行こうよ」
お嫁さんたちが学園から帰ってきたらしい。私はまた一日寝ていたのか。
お嫁さんたちを頼る…か…。全部投げ出すはできないけど…。でもエルフの郷観光はいいかも…。
「あの…、お見舞いに来てくださった方がいますの。お部屋に入れていいかしら」
「ええ」
えっ、お嫁さん以外のお見舞いって誰だろ?
「やあ、ユリアーナ」
「ユリアーナちゃん、大丈夫か?」
おお…男子だよ…。ヴィアチェスラフ王子とアルベールだ。金髪が二人だ。微妙に違う色だけど。
「あなたがいなくたってとキーボードの練習くらいできるんだから!」
「そうよ、私だってもうドラムを覚えてるんだから!」
今度はエンマとパオノーラだよ…。第一声がそれかよ。お見舞いに来ておいておまえは必要ないってどういうことなの?これもツンデレなの?
なんかあんまり嬉しくないメンバーだな…。いや、お嫁さんたち以上に来てくれて嬉しい子なんてそうそういないか。
ちなみに、みんなメイドか執事を連れているし、王子は護衛も連れている。
「ユリアーナ、治療魔法でも心魔法でも調子がよくならないと聞いてね」
「ええ、そうですね…」
「キミに祝福を与えたい。キミのおかげで早く覚えられた魔法だ」
「あ、ありがとうございます」
そういや、王子は雷、土、聖の三属性持ちだった。雷単体の色はレモンイエローっぽくて、アルベールの髪は灰色に近いレモンイエローだ。一方で、王子の髪は黄金っぽくて、配合がよく分からない。
王子はハープを構えてぽんぽんと祝福の曲、フルバージョンを引き始めた。変ロ長調だけど、全体的に四分の一半音下がっている。でも、王子の魔力はかなり強く、祝福の効果はかなり見込めるだろう。
聖魔法使いでペア組んで互いを祝福しあってれば災いなんて何も起こらず最強なんじゃない?まあ私は男とはペアすら組めないけど。
「ありがとうございます」
「ああ。きっと良くなるだろう」
祝福の効果はいつ現れるか分からない。今は何も感じないのだ。
「ユリアーナちゃん、今度はオレが守るからな。安心して学園に来いよ」
「ええ、ありがとう…」
アルベールは私が殺されそうになったことでPTSDになったと思っているのだろう。そういや首を斬られたんだから死ぬ可能性もあったんだよね…。私は死ぬより声を失う方が怖いけど…。それに、私の悩みは死にそうになったことではなくて、邪魔法で大量に人を殺してしまったことなのだ。
私が邪魔法で犯人を処刑に追いやったなんて誰も思わないのかもしれない。マレリナに打ち明けたけど、半信半疑のようだった。
そうだ、ブリギッテの言ったように、エルフの郷ツアーしたいな。邪魔法使いがいるかもしれない。
「みんなユリアーナが学園に来るのを待っているよ」
「そうだぞ。ユリアーナちゃんがいないと娯楽・芸術音楽ができないだろ」
なんだか男の友情みたいで良いな。
「私はもうあなたに勉強を教えてもらわなくても、殿下の正室になれるんだから!」
「あなたが来たって正室の座は譲らないわよ」
エンマとパオノーラは何しに来たんだ。
「明日は学園に行くわ」
嬉しくないメンバーだと思っていたけど、なんだか元気でた。
私はどう見ても女の子だけど、男となれ合うのは男どうしに感じてしまって、くっついたりするのは気持ち悪い。だけど、男だって男の友人を作れるのだ。そう考えれば、王子もアルベールも普通に良いやつに思えてきた。恋愛感情を持たれても困るけど、男友達と考えればいいのだ。今まで邪険に扱ってごめん。
エンマとパオノーラも明らかに私との時間を楽しんでくれている。ツンデレなんて可愛いもんだ。女の子に好かれるのは嬉しいけど、こっちはこっちで嫁を増やすわけにはいかないから、同性の友達になれるといいんだけどな…。
そうだよ…。男からも女からも恋愛感情を持たれちゃうけど、みんなとはただの友達になりたいな…。モテモテになって困っちゃうのも転生者の嗜みだな…。
こうして翌日、私は学園に復帰した。って一日休んだだけだよ。
今日は娯楽・芸術音楽の日。今までも魔物討伐訓練や反省会ばかりやってたわけじゃなくて、音楽の授業はあったのだけど、みんな私と結婚できないからってしょぼんとしていて身が入ってなかった。
最近はアナスタシアが人並みに動けるようになってきて、早めに登校する必要はあまりないのだけど、習慣になっているので早めに登校している。いつもどおり教室にいちばんに入って座っていたら、あとから来た子たちは私を見るなり明るい表情になった。
「ごきげんよう!」
「ごきげんよう」
嬉しそうに私に挨拶をしていく。今まであんま挨拶されなかったんだけどな。恋愛の対象だけど高嶺の花だから声をかけづらい感じだったのだけど、今日は普通の友達のように接してくれた。
授業が始まっても多くの子は明るい表情だ。貴族籍を剥奪された四人と仲良くしていた子はちょっと暗いかな。あと、もう一人降爵してしまった元侯爵家の子も暗い。
ちなみに降爵して当主になってしまったけどアルベールは明るい。
「ユリアーナちゃん、来てくれて嬉しいよ」
「ええ、おかげさまで」
前期も身が入ってなくて、あまり曲の練習が進んでなかったのだけど、これなら新しい曲を進められそうだ。
授業のあと、久しぶりにクラブ活動をした。お嫁さんたちは自主練くらいできるけど、私のことが心配でやっぱり身が入っていなかったのだ。
そして、クラブ活動を終えて、馬車で学園の門を出ようとしたときに、女子寮から出てくる、荷物を背負った四人の女子がいた。エンマの下僕二人とパオノーラの下僕二人だ…。
「馬車を止めて」
御者に馬車を止めてもらって、私は馬車を降りた。
「ごきげんよう…」
「ユリアーナ様…。父がご迷惑をかけたそうで…」
「もう貴族じゃないから、その挨拶は使わないのよ…」
「ユリアーナ様…」
「……」
エンマの元下僕1、淡い緑髪のイアサント。エンマの元下僕2、淡い黄色髪のジョジョゼ。パオノーラの元下僕1、淡いオレンジ髪のドリエンヌ。パーノーラの元下僕2、淡い青髪のクレマノン。
貴族籍を剥奪された元男爵令嬢の四人。養子ではない、生粋の貴族令嬢だった。男爵家はちょっと裕福な商人よりも貧乏だけど、これからはただの平民だ。曲がりなりにも貴族としての教育を受けてきただろうけど、これからそんなものは役に立たない。十把ひとからげとはいえ、王子の側室というバラ色生活から平民への転落。
罰金もあったから財産も没収されたのだろう。今はドレスではなく、平民の服を着ている。
「あなたたち、行く当てはあるの?」
「私の家族はみんなユリアーナ様暗殺に関与していたから、もう誰もいないのよ…」
「当てはないわ。王都で母と落ち合うことになっているの」
「私は母とハンターになるわ」
「……」
家族全員処刑されちゃった子もいたのか…。
没落貴族がハンターになることってあるのかな…。魔法使いだからそれなりにやっていけるのだろうか。
「ねえ、マシャレッリ家で働かない?」
「「「「えっ」」」」
この子たちの髪は黄色、緑、オレンジ、青。淡いけどマシャレッリ家では木魔法使いと土魔法使いを優遇します!もちろん他の属性も大歓迎!
私の邪魔法で家族を処刑してしまったのかもしれない。だから、残された子が幸せになれるようにサポートしよう。あっ、また祝福で願ったことを自分で実行してるや。
「雷魔法使いは畜産業、木魔法使いは農業、土魔法使いはガラス製品作り、水魔法使いは喫茶店かレストランで雇うわよ」
「今までお仕事なんてしたことのない私にできるのかしら…」
「もちろん、最初は研修があるので、技術を習得できるわよ」
「それなら私にもできるかも…」
ドリエンヌは土魔法使い。ガラス加工をやってもらおう!
「お母様も雇ってもらえるの?」
「ええ。他に兄弟姉妹がいるならご一緒にどうぞ」
「お母様と一緒なら…」
クレマノンは水魔法使い。水魔法使いって雇ってないんだよね。料理に使えるかな。
お母さんは何属性持ちだろう。
「農業って泥まみれじゃ…」
「作物に魔法を使うだけで汚れたりはしないわ」
「汚くないのなら…」
イアサントは木魔法使い!素晴らしい!
「畜産って何かしら…」
「牢に入った魔物を気絶させるだけのお仕事よ。危なくないわ」
「魔物…。危なくないなら…」
ジョジョゼは雷魔法使い。魔物から牛乳や卵を採取する際に、魔物を気絶させるお仕事だ。
「あなたたち、住むところは?」
「ありません…」「ないのよ…」「全部罰金として…」「…」
「それなら、農園の職員寮に住むといいわ」
「住み込みなら…」「お母様もいいのよね」「助かるわ」「よかった…」
邪魔法でひどいことをしたものだ…。もしかしてこうなるところまで邪魔法に織り込み済みだったりして…。邪魔法から祝福までのマッチポンプなのかもしれない…。
犯罪者、しかも自分を殺そうとした者の娘を雇うなんてどうかしてるって?ウソ発見器で潔白が証明されてるからいいんだよ。というか、こういう時代だと、連座とかいって一族全員処刑とかもあり得るけど、ウソ発見器のおかげでしっかり境界線を引くことができるようだ。
逆に、家族が処刑されるきっかけになった私のことを、四人は恨んでいないだろうか。こっそりふんふんと口ずさみ、四人の心を覗いた。
ユリアーナ様と会えなくなってしまうのは寂しい。何よりユリアーナ様との音楽の授業がなくなってしまうのがつらい。だけどユリアーナ様に雇われるなら会う機会もあるかも…。むしろ、ユリアーナ様が学園を卒業してからも会えるんじゃない?
えっ、家族が亡くなって悲しいとか、せっかく王子の婚約者に内定してたのにとか、そういう気持ちはないの?
というか、悪意感知の魔道具を作ったのだった。私に対して悪意、害意、悪感情などを抱いていれば、考えを伝える魔法で「悪意感知」と伝えられるようになっている。内容を伝えるようなものを作るのは難しいけど。
「それなら、マシャレッリ家の王都邸で雇用契約しましょう」
「私はお母様と合流してからでいいかしら」
「私もよ」
「ええ」
クレマノンとジョジョゼは母親と合流してから来るようだ。
「ではお二人は馬車に乗って」
ドリエンヌとイアサントを馬車に案内した。
「えっ、八人乗りじゃないの」
「あれ、あなたたちって七人とメイドが…えっと…あれ…」
この馬車は、外からは四人がけの長椅子が二つ向かい席になっている八人乗りの馬車に見える。
「いいから乗って」
「わ、分かったわよ」
「乗ればいいんでしょ」
二人を押し込んだ。
「何これ…どうなってるの…」
「一、二、三、四…、十六人乗り?」
「空間魔法を利用した魔道馬車です。空間の魔力の消費が大きくて製品化できませんが」
中は四人がけの長椅子が向かい席になっている空間が二つあるのだ。長椅子二つ分の空間を異次元収納で拡張してある。
前の空間には私とお嫁さんの七人が乗っており、後ろの空間にはオルガとその他メイド四人が乗っている。ドリエンヌとイアサントを後ろの空間に押し込んだ。
通学の往復くらいだったら、アナスタシアの魔力でもまかなえるけど、基本は私の魔力で充電しないと使い物にならない代物だ。
「「ほえー…」」
二人はちょっと前まで淑女だったことを忘れて、大口を開けている。
というわけで、二人を伴って王都邸に帰宅した。
ドリエンヌとイアサントの二人と雇用契約を結んだ。魔法使いの賃金はけっこういいのだ。
二人は天涯孤独になってしまって身寄りがない。財産もほとんど没収されており、どうやって生きていこうか路頭に迷うところだったそうだ。
その後、クレマノンとジョジョゼが母親を伴ってやってきた。クレマノンの母親は淡い赤髪。ジョジョゼの母親は淡い水色髪。
風魔法使いは真空で魔物を気絶させる仕事なので、雷魔法のジョジョゼと一緒の職場に着かせることができる。火魔法使いはかまどの温度調整役としてレストラン行きにした。
あとの四人とも雇用契約を結んだ。
「これって男爵家にいたときよりも稼ぎがいいわ…」
「うちもよ。これなら自由にできるお金もあるわ」
クレマノンの母親とジョジョゼの母親はぼそぼそと話をしている。男爵家ってそんなに貧乏なのか…。母も娘もお小遣いゼロ?
六人を馬車に乗せて、王都南の郊外にあるマシャレッリ家の農園へ。そして、六人を職員寮に案内した。
「なんだか立派な建物ね…」
ジョジョゼの母親がちょっと前まで淑女だったことを忘れてあんぐりと口を開けている。
職員寮は、木と岩のハイブリッド建築な四階建てのアパートなのだ。ちなみに絨毯や壁紙はないよ。
母親のいるクレマノンとジョジョゼは、それぞれ母親と二人で住んでもらう。残りのドリエンヌとイアサントは…、
「私たち…」
「ねえ、私たち、二人で住んでもいいかしら」
ドリエンヌはパオノーラの下僕で、イアサントはエンマの下僕だったから、二人は以前つるんでいたというわけじゃないのだけど、天涯孤独どうしで助け合っていけばなにかと都合がいいだろう。
「じゃあ二人部屋を用意するわね」
一人部屋は四階で二人部屋は三階だ。三階に連続した部屋を割り当てた。お隣さんとしても強力しあってほしい。
こうして、四人の元男爵令嬢をマシャレッリ家の事業のスタッフにした。王子の婚約者を奪ったように見えなくもない…。
夏休みにマシャレッリ領でカカオ豆、コーヒー豆、茶の木、バニラエッセンス、サトウキビを見つけたので、チョコ、ココア、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶、甘いホイップクリーム、カスタードクリーム、バターを作った。今回、王都でもそれを展開しようと思う。
それから、胡椒、唐辛子、クミン、コリアンダー、シナモン、 クローブ、ナツメグ、オールスパイス、ローレル、ガーリック、カルダモンを見つけたので、それらを使った料理も。
こうやってぽんぽんと新しい文化をもたらしているから恨まれるのだろうか。地球には当たり前にあったものを再現しているだけなのだけど。たしかに儲けさせてもらってるけど、バカみたいな値段設定にしてるわけじゃなくて、平民でもたまに贅沢するくらいなら手が届くようにしてある。
あ、それが魔力の発現につながるから問題なんだっけ?もう、最近いろいろ手を出しすぎて、何が大ごとで問題になっているのかよく分からない。
「というわけだから、やっぱり王都で新しい食材を取り扱うのはやめたわ。食べたかったらマシャレッリ領に来てね!ってことで」
「それがいいと思いますわ。ユリアーナ様は次々に新しい文化を生み出すので、国民がついて行けませんわ。でも、フョードロヴナ領では導入させてもらおうと思うの」
「えっ?」
「フョードロヴナなら公爵家ですし、流行が上から下へ流れる分には文句を言う者も少ないでしょうし、多少文句があったところでフョードロヴナならはねのけられます。いらぬ怨みはフョードロヴナが買いましょう」
「スヴェトラーナ様…」
「ユリアーナ様だけが抱え込む必要はありませんのよ」
「アルカンジェリにもかませてあげてよ」
「ジェルミーニにもね!」
「そうするわ」
というわけで、まずフョードロヴナには新しい作物の苗やレシピを渡して指導した。
それから、アルカンジェリとジェルミーニは作物を育てるだけの木魔法使いを用意できないので、その二つの領地には作物を卸してスイーツなどのお店を開いてもらうことにした。
アルカンジェリは子爵家だしジェルミーニは男爵家なので、あまり目立って攻撃されるとマシャレッリ侯爵家よりも困ることになるだろう。ほどほどにしておかないとね。
それに、ジェルミーニ男爵は私が洗脳したのでいいけど、アルカンジェリ子爵はマジで甘い汁吸いたいだけのやつなので、あんまり支援したくないんだよね…。ああ、むしろ、恨みを買って自滅…げふんげふん。
私は人を使うということに慣れていない。前世で平のサラリーマンだったんだからしかたがないだろう。
しかし、人を使うというのは、人を雇うとかだけじゃなくて、当て馬にするとか、そう動くように誘導するとかも含まれるんだ…。そういうのはスヴェトラーナの方が得意そう…。私にはムリ…。
スヴェトラーナは良い子だけど、母親のエリザベータは腹黒だから、スヴェトラーナも同じような能力を持っていないとも限らない。
日々はすぎて、魔物討伐訓練が再開された。
護衛のハンターは厳選されて、四人以上のパーティになった。それに、学園の教員も一パーティにつき二人付けられることになった。
ちなみに、王子にだけは王宮の護衛騎士が二人もともと付いていたらしい。でも、王子以外だって貴族の令嬢と令息だし、いくら王都近郊で弱い魔物しか出ないからって、護衛一人は少なすぎたのではないだろうか。そう思ったのだけど、貴族は民の先頭に立ち、魔物から民を守るという義務があるため、強くあらねばならない。昔からこのようなスタイルだったそうだ。でも、魔法使いは魔法を使えなければ戦闘力など持ってない。セルーゲイとタチアーナを見ていて分かったが、スタンピードや大型の魔物の対応では、貴族はハンターを壁にして大型の魔法を撃ちまくる砲台でしかないようだ。昔はそうではなかったのだろうか。
パオノーラやベアトリスが私に夜這いをかけたことについては、何も対策がされなかった。なぜなら、同性どうしが近くに固まって寝ることは普通だからだ。私は個人用の個室テントを人数分用意してしまったから、私の部屋に押しかけたみたいになってしまっているが、本来なら部屋の境界などないのだ。
そして、あいかわらずエルフというのが男の役割をするということにたいして深く考えられていない。私は今エルフの思春期であり、女の子の胸やお尻、そして耳や唇に対して大きな関心があるのだ。本来なら、触りたくてしかたがない、耳を食んだり、口づけしたくてしかたがない、狼のような状態だ。精神治療のブレスレットで心拍数を八〇以下に抑えて興奮しないようにしているだけなのだ。ブレスレットをしていなかったら、私のお嫁さんたちはとっくに子を産んでいるだろう。前回の討伐訓練の夜だって、夜這いしてきた女の子たちに手を出していただろう。
エルフってみんなこんなんなのかな…。ブリギッテは「気をつけてね」くらいにしか言ってなかったけど、これって魔道具でも使わなきゃ私は理性を失って何をしでかすかわかったものではないのだけど…。ああ、ハイエルフは違うのかな…。ハイエルフの思春期は性欲もハイなのかな…。
ああ、エルフの郷に行ってハイエルフに会ってみたいなぁ。
それはさておき、魔物討伐訓練は再開されたのだ。パーティは前回と同じだ。他のパーティの女の子からは、うちのパーティの女の子をうらやむ声が…。「ユリアーナ様と毎週一緒に寝られるなんてずるい」とか…。私と女の子の間には男女の倫理観は適用されないけど、本能は正直なようだ。
本能が正直なのは私も同じなのだけど、私は婚約者を六人も持つ身。ブレスレットがなければキス魔になってすぐにでも妊ませてしまいそう。そんな状態で毎週婚約者以外の女の子と寝るわけにはいかないので、夜はテントの入り口を魔法で溶接して、誰も入れないようにすることにした。ブレスレットで興奮を抑えているとはいえ、隣に寝られたら拒めない程度には欲が残っているので、近づかせないに越したことはないだろう。
「ユリアーナ様ぁ!」
テントの外でベアトリスの声がする。私の首を斬った記憶や夜這いを誘導するような記憶は消したので、これは本心から来る行動なのだろう。
その後、一時間ごとに女の子が入り口で私を呼んだ。私の地獄耳は寝ていても反応してしまい、いまいち寝付けなかった…。
女の子たちは懲りずに、毎週押しかけてくる。毎週寝不足だ。
ちなみに、秋も深まって寒くなってきたのだけど、私のテントは断熱。屋敷と同じわけではないけど、快適だ。
私のパーティのみんなにはテントをあげたのだけど、他のパーティではお嫁さんしか使っていない。それではちょっと可哀想なので、みんなにテントをあげた。クラスメイトに散財するのは久しぶりだ。
魔物討伐訓練とはなんなのか。私の女の子に対する煩悩という魔物を討伐する訓練なのか。そうではない。ちゃんとみんな魔物の対処がうまくなっているよ。もうつのウサギごときで傷を負う子はいない。
魔物討伐訓練の試験は、教師がパーティに付いて立ち回りなどを評価するらしい。本来なら教師が付くのは最後の訓練の日だけだったが、今回から監視のため毎週付いてくるようになったので、日頃から評価しているようだった。
教師曰く、今年の学生は素晴らしい。例年なら、王子の婚約者争いの学年は、ワンマンプレーや出し抜きばかりが目立つらしい。ところが、今年の学生は共に助け合っている。とくに各属性の長所を活かした連携は、実際に魔物討伐を行っている貴族も目を見張るものがある。
そもそも、属性の違う魔法使いはあまり連携したりしないのだ。他の属性の魔法のことをあまり知らないのが基本だ。夫婦ですら互いの魔法を知らない。タチアーナとセルーゲイはちょっと珍しいようだ。
だんだん寒くなって冬が近づいてきた。私とマレリナは背中の大きく開いた下着のようなドレスから、もう一方の普通のドレスに衣替えした。本当は、着た切り雀にならないように毎日変えるために作ったんだけど、なんだか夏用と冬用になってしまった。
しかし、女の子のおしゃれは夏も冬も関係ないのだ。衣替えをしたのは私とマレリナだけであって、スヴェトラーナとブリギッテは冬になったというのに肩と背中丸出し。スヴェトラーナなんて、三ヶ月ごとにドレスのトップスを作り直しているのに、もはや下着のようなビスチェタイプのしか作っていないようだ。
二人とも気丈に振る舞っているが、とても寒そうだ。でも、女の子は寒くても肩を出し、暑くても髪を伸ばす。どうやら私はまだ本物の女の子にはなれなそうだ。
寒くなってきたということは、そろそろ試験がやってくる。今回は、娯楽・芸術音楽の試験で新しい童謡をお披露目できる。前期はお花の歌を復習したのだけど、みんな下手くそになっていて、低い点数を付けた。だけど、今回はみんな満点だ。
先生たちにお披露目することが試験になっているけど、採点は普段の授業で済ませている。試験の日は、ちゃんとみんなできましたよと、本当にお披露目するだけなのだ。
「それでは皆さん、いいですか?一、二、三、はい!」
ひょーろーろー、……♪(リコーダー)
かっかっかっ、……♪(木琴)
ぽんぽんぽん、……♪(ハープ)
ぽんぽんぽん、……♪(エンマのキーボードハープ中音域)
ドンしゃっ、ドンたっ、……♪(パオノーラのドラム)
「春が早く来ないかな……♪」
春が来てほしいという童謡をこの世界の言葉に意訳したものだ。冬が始まったばかりだけど、春の訪れを待ち焦がれる歌だからいいのだ。
そんなに長くない地球の童謡を一年かけて仕上げるなんて、この世界の音楽センスはまだまだだ。だけど、こうやって着々と音楽を広めていこう。
そして、長い時間がかかってしまったけど、仕上がったのはクラスメイトの童謡だけではない。私のバンドクラブのアニソンも仕上がったのだ。
ぱーぱーぱーぱー♪(ラッパ、マレリナ)
ぴーぴーひょーひょー♪(リコーダー、アナスタシア)
かっかっかっかっ♪(木琴、マリア)
きんきんきんきん♪(鉄琴、セラフィーマ)
きーこーきーこー♪(バイオリン、スヴェトラーナ)
ぽんぽんぽんぽん♪(ハープ、ブリギッテ)
ちろちろちろちろ♪(キーボードの高音域ハープ)
ぎーががぎーがが♪(キーボードのエレキハープ)
ドゥドゥドゥドゥ♪(キーボードのベース)
どんどんしゃっどんどんしゃっ♪(ドラム)
「振り向いてほしい。それなのに、あなたの心は移ろい……♪」
メロディがアニソンなだけで、アナスタシアの作詞は恋愛の詩だ。まったく、アナスタシアはどうやってこんな歌詞を思いつくんだろう。
ちなみに、キーボードはエンマに、ドラムはパオノーラに借りパクされた。あの子ら平気で持って帰るし。いくらかかっているか想像したことないのだろうか。
だから、私はキーボードとドラムを合体させた楽器を二つ作った。弦に「時の流れを遅くする」魔法をかけて、とても短い弦なのに重低音が鳴るようにしたりして、以前よりコンパクトになっている。風魔法のグラフィックイコライザーで低音を持ち上げるよりも、時魔法でちゃんとした周波数を作った方が自然な音が鳴る。だんだんシンセサイザーのようになってきた。
ところがこのキーボードには罠がある。時魔法で変えた音程は、魔法のメロディを演奏する際は、変える前の音程としか見なされないのだ。ドという音のなる弦を一・〇六倍加速させることでド♯という音が鳴るようにしているのに、ドとしか見なされない。つまり、このキーボードはドしか鳴らせないことになり、魔法のメロディを演奏することができないのだ。
逆に言うと、私が一・〇六倍加速してハ長調を口ずさむと、他人には半音上がって変ニ長調に聞こえるのだが、私にはそのままハ長調に聞こえる。それは時魔法とは見なされず、火魔法と見なされるのだ。
時魔法で加速しているときは半音ずらして口ずさまなきゃいけないとかだと大変になるところだった。まあ、かりにずらした音程で口ずさまなきゃいけないとしても、普通は二倍、三倍とかで使うだろうから、ちょうど一オクターブ上の声になればずらす必要はないのだけど。
以前は右手にキーボード、左手にドラムだった。でも、キーボードは高音ハープ、中音エレキ、低音ベースと三つもパートがあるので忙しかった。逆にドラムはそこまで激しくないので左手は暇だった。でも、新しいのはキーボード三パートとドラムが一緒になっていて、どちらの手でも同じ音を鳴らせるようになったので、負荷分散できて、しかももっと音を重ねられる。
バンドクラブにはみんなを入れないといっているのに、みんなにバンドクラブの演奏を聞かせるなんてイヤミだろうか。でも悪意センサーに反応はない。みんなうっとりしている。私たちの演奏を楽しんでくれている。よかった。
演奏会、じゃなかった、音楽の試験は大盛況のうちに幕を閉じた。
そろそろ試験が始まるということは、社交シーズンが始まる。今年は婚約とかないので、私が次期マシャレッリ侯爵であると顔を売るだけでよい。まあ、無彩色のキラキラ銀髪なんて目立つから、すぐに覚えられるだろうけど。
セルーゲイにはワープゲートで来てもらい、二人でパーティに出て貴族に挨拶して回った。アルカンジェリ子爵とジェルミーニ男爵は、お金がないので参加していなかった。もともと男爵はほとんど出ないし、子爵もまばらだ。それに今年は四つの男爵家がお取り潰しになったしね…。
ロビアンコ侯爵もいなかった…。侯爵家はロビアンコ以外全員出てるのに…。本当に侯爵家なのだろうか…。
それから、エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人にはまた洗脳されないように、心拍数制御のブレスレットに補助バッテリーをたっぷり付けつつ、スヴェトラーナにも付いていてもらって商談をした。今回王都に展開した作物などについても、フョードロヴナ領に展開することになった。
そして、社交を適当に済ませた後は、娯楽・芸術音楽以外の試験だ。とくに何の問題もなく終えた。
こうして、冬の長期休みが始まった。
自分たちはワープゲートで一瞬で帰れるからあまり気にしていないのだけど、交易路の街道整備とかも進めないとだよねえ。誰の領地でもない街道は王様に言えば整備していいのかな。整備すれば輸送コストが下がるから、工事費用もそのうち回収できる。
「あら、おかえりなさぁい」
「よく戻ったな」
「「「「「「「ただいま戻りました」」」」」」」
私はお嫁さんたちのことを頭の中でお嫁さんと呼んでいるけど、実際にはまだ結婚していない。でも、お嫁さんたちは当然のようにマシャレッリの王都邸に住み、当然にようにマシャレッリ領に帰省する。
ブリギッテとマリアちゃんは養女だから、アルカンジェリやジェルミーニの屋敷に帰っても帰省気分ではないのだろう。でもブリギッテはともかく、マリアちゃんはジェルミーニ領に家族がいるだろうに。
「ユリアーナ様、今回のお休みには何をなさるの?」
「スヴェトラーナ様とマリアちゃん、お姉様は教会に行って、子供たちの指導をしてもらえる?」
「分かりましたわ」「「はーい」」
アナスタシアはマレリナと私がいなくてももう大丈夫。何かあってもスヴェトラーナたちがいるし。
「ブリギッテとセラフィーマ、マレリナは私と地下へ」
「「「はーい」」」
「私と」と言った瞬間スヴェトラーナの顔が曇ったが、「地下へ」と言うと微妙な顔になった。私とはいたいけど、地下は臭いからイヤのようだ。
地下に赴き、倉庫の肥やしになっていた竜のうろこを引っ張り出してきた。
「これで何を作るんですか?」
「うふふ、これが完成図よ」
「これは馬車ですか?」
「魔法で走る車よ」
「おおお!」
魔法と見せかけて、雷魔法で電気を発生させたあとは、ただの電気自動車だ。
モーターは必要最低限の知識で作った。効率の良いコイルを巻きかたとか知らない。だから、エネルギー効率はとても悪い。
一応回生機能も付けた。だけど、電力を魔力に変換する方法が分からないので、回生エネルギーを貯める電池も付けた。オフロードを進むので回生エネルギーなんてないと思うけど。もちろん、リチウムイオン電池なんて作り方も知らないし、爆発しないような制御のしかたも知らないので、回生エネルギーをためるのは鉛蓄電池だ。
それから、障害物避けのために転移機能を付けた。障害物を念動で避けきれなければ、短距離瞬間移動で車体を障害物の先に移動するか、障害物を移動させる。これで、森の中を爆走するつもりなのだ。
魔道馬車に入れたような念動による慣性制御も入れる。念動では基本的に加減速しないが、スリップしたときは微力ながら念動で加速もできるし、急ブレーキのときは念動で減速することもできる。
ドラゴンのうろこは非常に高温にすると柔らかくなって整形できるので、それで車体を作る。大きさは四人乗りの軽自動車程度。車高の高いワンボックスだ。空力を考慮して、丸みを帯びた形にはなっているけど、一応馬車のような外観に近づけてある。
中身は異次元収納で拡張して、四人掛けのシートを三列と荷台を配置する。空間の魔力が切れても、床が詰められて、ドアからシートがはみ出すようにして、外装を突き破らないようにする。
ドラゴンのうろこは非常に軽いのだけど、窓ガラスに使っているクリスタルはそれなりに重い。
なぜ軽自動車サイズにしたかというと、ワープゲートを通したいからだ。ワープゲートは出口までの距離とゲートの面積に比例する。人間サイズのゲートならマシャレッリ領から王都まで行けるが、馬車サイズだと隣町までしか行けないのだ。軽自動車サイズなら王都までの半分くらいは行ける算段だ。
蜘蛛の糸の生地でシート、エアサスペンションやタイヤを作る。
水魔法による冷房と火魔法による暖房も付いている。基本的に温暖なので、あまり暖房は必要ないが。
そんなわけで四人で一週間かけてワンボックスの軽自動車を作った。
「というわけで出発するわね」
「どこへ行くんだい?」
「エルフの郷よ」
「ははは、また唐突だね」
「ブリギッテが言ったんじゃない」
「全部投げ出す気になった?」
「そんなことはできないけど、私、もうちょっと自分のことを知りたくて…。ハイエルフのことね」
「なるほど。ハイエルフはエルフより長寿命とか魔法に長けてるとかしか知らないからなぁ」
「そう。もうちょっと情報がほしいの」
主に性欲が強すぎて我を失ってしまうものなのかとか…。薫の記憶が宿らないで、ユリアナとして生きてきたのなら、本能に逆らわないで受け入れてたかもしれない。だけど、人間として生きてきた経験があるからには、我を失うほどの本能というのは怖いのだ…。
「ハイエルフは私の村では村長一人だけだったよ」
「ハイエルフって偉いの?」
「長生きだし魔法にも優れてるから、自然と偉くなるんじゃないの?」
「絶対にハイエルフが偉いってわけでもないのね」
というわけで、私とお嫁さん六人と、メイド五人。計十二人で軽自動車に乗り込んだ。私はパーキングブレーキを解除して、アクセルを踏んだ。
服装はいつものドレス。冬なので私とマレリナは背中の出てないやつだけど、スヴェトラーナとブリギッテは女子力が高いので背中を露出。
エルフの郷というのは、ローゼンダール王国の最南端、コロボフ子爵領よりもさらに南方にあるという。というか、それしか情報がない。とりあえず、南に向かってひたすら進むだけだ。
「これはめちゃくちゃ速いですね!空間魔法ですか?」
「これは雷魔法の力よ」
「雷魔法がものを動かす力になるなんて、ユリちゃんの発想は本当に奇想天外です!」
「これは商品化できませんの?」
「一般的な素材で置き換えられればできるわよ」
「まあ!ユリアーナ様、セラフィーマ様、廉価版開発の検討をしてくださいまし!」
「はい!」「ぼちぼちやるわ」
自動車を普及させるなら、道路整備や道路交通法の整備をしなければならない。他領に渡る法整備とかしたくないなぁ。ああ、そういうのは案だけ投げてフョードロヴナにやらせればいいのか。
コロボフ子爵領付近までは街道を進む。マシャレッリ領からコロボフ子爵領の最南端までは五〇〇キロ。五時間で故郷の村を通り過ぎた。
でもそのあとは道がない。完全にオフロードだ。でも念動による慣性制御で大きく揺れたりひっくり返ったりすることもなく、木々の間をずっと時速一〇〇キロ以上で走り続けられる。
冬なので日が落ちるのが早い。雷魔法のヘッドライトをともした。
ちょうどよい岩場があったので、今日はそこで休むことにした。
「御者お疲れ様」
「あ、うん」
マレリナにねぎらいの言葉をもらった。車を御しているのだから御者で合ってるのかな。
外はそれほど寒くない。故郷の村よりも南なのだ。村では冬でもワンピース一枚だったくらいだし、女子力の高いスヴェトラーナとブリギッテも震えたりはしていない。
私は岩を整形して、家の形にした。一応、主人の部屋とメイド部屋に分けた。
そして、異次元収納からキッチンやベッドなどの家具を出した。
メイド五人に夕食を作ってもらう。食材は冷蔵庫にたくさん入っている。
それから風呂にお湯を貯めて、自分で洗ったりメイドに洗ってもらったり。いつもどおりの生活だ。
ベッドもいつもどおり七人で一つ。順番はローテーション。心拍数を八十に制限している私は、無意識に耳を食んだりキスしたりしない。
申し訳ないけどメイド部屋もベッドは一つだ。オルガ以外は三十歳前後だけど、一緒に寝てね。
翌日、しばらく進んだ。車のメーターを見ると一〇〇〇キロ走ったことになる。コロボフ子爵領を出てから五〇〇キロだ。オフロードすぎて蛇行しているので直線距離はわかんないけど。
すごく大きな木が多くなってきた。これなら木魔法で穴を開けてそのまま住めそう。
「あ、やっぱりそうだ。ねえユリアーナ、あれ、エルフの村だと思うよ」
「あ、ホントだ」
ブリギッテが側方に人の集まりを発見した。ブリギッテは木々の種類や雰囲気から、エルフの郷ゾーンに入ったことが分かったのだろう。
よく見ると、大きな木にわらのカーテンみたいなものが取り付けてあったり、魔物肉をつるした竿があったりする。
「このへんは見たことないから、私に住んでいたところではなさそうだなぁ」
ブリギッテはどこから来たんだろう。エルフの郷はローゼンダールの南側ということしか分かっていない。もうちょっと情報を仕入れてから来るべきだったか…。
ひとまず私は村のほうへハンドルを切った。
エルフの村に近づく前に減速して、土魔法で車の前部分に馬のゴーレムと御者型のゴーレムを生成する。馬車に見せかけるためだ。クリスタルゴーレムの核に使われていた魔方陣を参考にしているけど、べつに何かを判断して対応を変えたりするわけではなく、たんに馬が歩くようなしぐさをさせるだけだ。御者は本当に何もしない。
穴を開けた大木のゾーンに入った。地上から十メートルくらいのところに木魔法で穴を開けた大木に住んでいるようだ。わらのカーテンから人の出入りがある。
もちろんエルフだ。ブリギッテよりも耳が長い。ブリギッテよりも巨乳…。そうだ、スイーツ女子のニーナもこれくらいだった。成人エルフはみんな十歳のころのスヴェトラーナ級だ…。
そして…服装は…葉っぱブラ…、葉っぱパンツ…、葉っぱパレオ…。エルフってみんなこんな水着みたいな格好してるの…。故郷の村よりもだいぶ南なので冬でも寒くないからって、一年中水着…。
巨乳エルフが一、二、三…、見えるだけでも八人…。ここは楽園か…。南国で水着を着ているのに日焼けしているわけでもなく、肌はとても白い。
あっ、背丈がマレリナよりも低くて顔つきが少し幼げな子を発見。十二歳くらいに見える。だけど、体つきは完全に大人。巨乳とまではいかないけど、顔と背丈に似合わぬ胸とお尻をしている…。
でも、私は心拍数を八〇に制限しているので、よそ見運転をして事故ったりしないのだ。
「ユリアーナ様、でれーっとしてますよ」
「そ、そんなことはないはず」
そんな私をよそに、エルフたちは警戒して弓やハープを構えた。高くて遠いから微妙だが、指輪の魔道具に敵意の反応がある。
私は車を止めて、警戒をしながら車から出た。
「人間が何のようだ」
一人のエルフが高いところから私を見下ろし言った。
ああそっか、私の耳は髪で隠れてるし、銀髪っていうか灰色はエルフにはいないのか。
私は髪をかき分けて、少し長い耳をさらけ出した。毎回思うけど、陰部をさらけ出してるようで恥ずかしい…。じゃあ常にさらけ出してるブリギッテや他のエルフはどうなのかっていわれると、常に胸をさらけ出してるように思えてきた…。
「灰色…」
「いや…、銀じゃないか…」
「銀髪のエルフ…」
「死んだって聞いたけど…」
穏やかじゃないセリフが聞こえる…。敵意の反応が強くなった。と思った瞬間、四人のエルフが矢を放った。エルフってこんなに排他的なの…?いや、私を知ってる?
私はポケットの中のオルゴールのボタンを押した。ぴぴぴぴん♪と音がなり、私に筋力強化、防護強化、時の流れの加速がかけられる。
ちなみに、声帯と鼓膜だけ加速から除外してある。声帯を加速してしまうとキンキン声になってしまうし、鼓膜を加速してしまうと周りの声が低くなってキモいからだ。
それはさておき、私は十六倍速に加速した。筋力強化も時魔法も使わなくても、そこらの盗賊の三倍の速度で動けるし、筋力強化を使えば八倍の速度で動けていた。それを時魔法で十六倍に加速したのだから、盗賊が一つ行動するあいだに、私は一二八回行動できるだろう。
とはいえ、相手は盗賊ではない。エルフはなかなか手練れだ。魔法なしの状態で二倍も差がないだろう。
ニーナの魔力では時魔法をそれほど長く使えないようだったけど、私の魔力なら常時四倍速でも魔力の回復量の方が上回る。八倍速でも何時間でも維持できる。
というわけで、そんなのんきに考えているうちに矢が接近してきた。とてもゆっくりなのでまったく危なくないように見える。私がこの矢を止めるのはとても簡単に見える。だけと油断してはならない。これは実際には十六倍速で進んでいるのだ。それは二五六倍の運動エネルギーを持っているということだ。ゆっくり進んでいるのに二五六倍のエネルギーを持っているということは、かわりに質量が二五六倍ある扱いになっているということである。つまり止めるのには同じだけ力を入れなければならないのだ。
鈍器をゆっくり押しつけられても痛くない。だけど、矢のような鋭いものは、ゆっくりでも強い力で押しつけられれば怪我をする。その点だけ気をつければよい。
時魔法の性質をさんざん垂れてきたけど、私は飛んできた矢に力で対抗する必要はない。たんにゆっくり進む四本の矢をよけた。
私は馬車のドアを閉めてから、ふんふん♪と口ずさみ、矢を撃ったエルフの一人の元に短距離瞬間移動した。そして、ふんふん♪と口ずさみ、矢を撃ったエルフの記憶を覗いた。
このエルフたちは、長年、派閥争いをしているらしい。ハイエルフである村長をエルフの王に据えるために、十三年前、現在の王に生まれた銀髪の赤子に暗殺命令が下されたが、取り逃がしたらしい。見つけ次第殺せとのことだった。
このエルフは下っ端なのか、あまり情報を持っていない。
十三年前の赤子って私…。私ってエルフの王の子なのかな…。私は六歳の時、自分がお母さんの子じゃないって知っても、なんで捨てられたのか考えたことがなかった。薫がいけないんだ。アニメ声というチート能力を手に入れてうかれていたんだ。いや、私もお母さんさえいてくれれば、本当の親なんてどうでもいいと思っていたのだろう。
私はエルフの仲間に会いに来たつもりだったのに、とんだご挨拶だ。エルフも一枚岩じゃないってことか。
とりあえず、この子は矢筒から次の矢を取り出そうとしているので、矢をすべて異次元収納にもらった。あと、槍も持っていたのでそれも。
次は誰にしようかな。ハープの弦に指を添えてるキミ!私は短距離瞬間移動して、その子のハープのすべてのネジを緩めてちょうど半半音下げた。この子、ピンク髪だよ!ピンク髪巨乳だよ!じゃなかった。心拍数八〇でもこれくらいは興奮してしまうのだ。そうじゃなくって!心魔法はよろしくない。どんだけ届く心魔法なのか知らないけど。
次のターゲットは、ハープを弾こうとしている紫髪の子。空間魔法も何をしでかすかわからないよねえ。というわけで、すべての音を半半音下げてやった。
こうして、すべてのエルフのハープを半半音下げて、矢や槍などの武器を押収した。そして、記憶を読んで情報をまとめた。
たいていの村の村長はハイエルフだ。この村の村長は、前代未聞の十属性のマルチキャストであり、次期王に相応しいとみんなに持ち上げられている。
王の子を殺してしまえば、次の子は魔力や属性数に劣るのは確実なので、この村の村長が王になれる可能性も上がるという算段だ。
しかし、十三年前に王の子をさらおうとしたが失敗。王の子を連れて付き人に逃げられてしまった。人間の領地に入ったようで、深追いすることができなくなった。
十六倍の速さで考えていたら、ブレスレットが強大な悪意を感知した。私は辺りを見回すと、一つの弓に四本の矢をつがえている銀髪のエルフがいた。弓はハープボウだ。ニーナの持っていたやつとほぼ同じだ。
私の髪よりも明るくて、微妙に緑っぽい銀だ。いや、それよりも、胸!爆乳!エリザベータ級の爆乳!弓を普通に構えたら弓の弦につっかえてしまうためなのか、弓を胸の上で横に構えている…。とても素晴らしい…。
しかも、葉っぱブラには紐が付いておらず、葉っぱが胸の先っちょに貼り付けてあるだけだ。どうやってくっついてるの?でもこれなら胸がどんだけ揺れてもブラがずれる心配がないね!いや、弓の弦が当たったらぺろんって剥がれちゃうんじゃないの?
いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。その銀髪エルフの放った四本の矢は、あまり遅くなかった。でもまあ、簡単によけられる。銀髪エルフは矢を放つとともに、ハープボウを奏でている。これもあまり遅くない。だけど、弦の長さに対して、二オクターブ上のぴんぴんとした高音。私は鼓膜を加速していないので、音程は正常に聞こえる。つまり、銀髪エルフは四倍速で動いている。時魔法使いか!
しかも弾いているのは変イ長調…、空間魔法、短距離瞬間移動じゃないか!と思った瞬間、銀髪エルフは姿を消した。
後ろから音がする。と思って振り向いたときにはすでに、剣が私に当たる寸前。音は加速されてないので、十六倍に加速している私にとって音は秒速二十一メートルだ。音を聞いてから反応したのではちょっと遅い。
私は後ろに飛び去りつつ、ふんふん♪と銀髪エルフの記憶を読んだ。
銀髪エルフの名はハイドラ。この村の村長をやっているハイエルフ。五〇〇歳くらい。自分でもハッキリ覚えていない。ハイエルフの五〇〇歳っていうと、人間で三十五歳くらいかな。まあ、外見は成人してから変わらないのだろうけど。
心魔法と邪魔法以外の十属性持ち。ピンク色と黒が入ってないから、私より微妙に緑っぽくて明るいのか。十属性なんて初めて見た。
残念ながら、あまり考えている暇はない。ハイドラは四倍加速しているので、十六倍の私とは四倍の比しかない。しかも、ハイドラは筋力強化も使っている。私とバフの条件があまり変わらないのだ。
しかも、私は数年戦いを学んだだけのド素人で、ハイドラは五〇〇年のベテラン。二五〇歳のニーナにすらかなわなかったのだから、私の方が不利そうだ。私はふんふん♪と口ずさみ、時の流れの加速を三十二倍にかけ直した。これで私の方が八倍速くなった。でも魔力が長くもたない。一気に片を付けなければ。
私はふんふん♪と口ずさみ、異次元収納からクリスタルソードを出した。そのときにはもうハイドラは剣を振り下ろしている。ハイドラの考えを読んで、剣の軌道を予測した。私が受ければ軌道を変えて横からなごうとしている。そこで、振り下ろされたハイドラの剣を受ける軌道に剣を構えつつ一歩下がった。すると、読んだ通り、ハイドラの剣は軌道を変えて、横からなぐコースに変わった。しかし、私はすでにそこにはおらず、ハイドラは苦い顔をした。
私の方が八倍速く動けるのにハイドラの剣はとても速い。心を読んで対応を練っていなければ、私はやられていただろう。
スヴェトラーナよりも大きな胸を携えており、胸が八分の一の速度でたっっっっっっっっぷんたっっっっっっっっぷん揺れているというのに、なんという身のこなし…。心拍数を八〇に抑えていなければ、私は思考を奪われていた。力量にも差がありすぎるのに女の武器まで使ってくるなんて、ハイエルフ、恐るべし。
私はふんふん♪と嬰ト短調のメロディを口ずさみながら、剣を下から振り上げようとした。すると、ハイドラはすでによけようとしている。私は軌道を変えて、横からなごうとした。すると、今度は剣で受けようとしている。いいだろう。このクリスタルソードはとても丈夫なので、鉄を斬れるほど鋭くしてあるのだ。私はそのまま横に剣をないだ。すると、ハイドラの剣にクリスタルソードが食い込み、剣が豆腐のように二つに別れた。ハイドラは驚いた様子だ。このあと私の剣をいなしてバランスを崩させて、反撃に転ずるつもりだったようだ。
そしてそのころ、私は嬰ト短調のメロディを口ずさみ終わった。まずは戦意喪失だ。続いて、次の魔法を口ずさみ始めた。私のまさっている部分は魔力と心魔法くらいしかない。まともに戦っては、考えを読んでいても、いつ裏をかかれて対処できなくなるか分からない。
私はハイドラの剣を横なぎに斬ったあと折り返して、反対側から横なぎにした。すると、ハイドラはすぐによける体勢に入った。私はよける方向を読んで剣の軌道を変えた。さすがのハイドラもこれ以上よけることができず、私はハイドラの右手を切り落とした。
殺すつもりはないよ。四肢接続なんて学園で二番目に習う命魔法だ。エルフの命魔法使いなら誰だって治せるだろう。
しかし、戦意喪失はあまり効いていない。生き物に直接かけるタイプの魔法は、相手の魔力が強いほど効きにくい。私の魔力はチートレベルなのであまり気にしていなかったが、さすがに十属性持ちのハイエルフともなると、そう簡単に操られてはくれないようだ。
続いて、洗脳を口ずさみ終わった。しかし、ハイドラは右手とともに落としつつあった剣を左手に持ち替えて、反撃に転じる意思を示した。私はこのまま、まともに戦うつもりはなく、可能な限り無力化しつつ、私への敵意を収めてもらおうと思ったのだけど、意識のあるまま戦意喪失させるのは難しそうだ。
私は作戦を変更してスタンガンを口ずさみ始めた。
ハイドラは短い剣を私に投げつつ、背負ったハープボウを取り出してかまいたちを奏でようとしている。接近戦中に攻撃魔法を放つなんて脳筋だなぁ。特殊属性をいっぱい持ってるんだから、いろいろ戦い方があるだろうに。
案の定、ハイドラは剣を投げつけてきた。私は低い姿勢でそれをかわし、そのままハイドラの脚にしがみついた。そして、スタンガンを喰らわせたのだけど、心魔法でハイドラの痛みがあまり伝わってこない。それどころか、脚を振り上げて私を叩きつけるつもりのようだ。電撃にひるまないなんて化け物か。
私は慌てて手を離して、ハイドラから距離を取った。そして、ト長調のメロディを口ずさみ始める。
距離を取った私に対して、ハイドラはハープボウに矢を四本つがえて放ってきた。こいつ、本当に私の八分の一の速さなのだろうか。私が退いている間にそこまで行動できるなんて。
だけど、飛んでくる矢は八分の一の速度だ。そこまで脅威ではない。と安心させておいて、腰からナイフを抜き取って私に飛びかかってくる作戦のようだ。本当に、考えを読みつつ八倍速で動いてなければとっくに私はやられている。
私はもうすぐ水魔法を口ずさみ終わる。それに合わせて、私はハイドラに向かっていく。ハイドラもナイフを抜いて、私に向かってくる。
私はハイドラのナイフの軌道を読んでかいくぐりつつ、ハイドラの腹に接触。そこで水魔法を口ずさみ終わった。
でも生成されるのは水ではなくて一〇〇パーセントエタノールが四リットル。それを、ハイドラの胃袋や小腸と大腸の中に生成してやった。くびれたおなかは出っ張って美しくないけど、それよりももっと重そうな胸が二つも付いているから、あまり目立たない。
ハイドラは魔力が高く、抵抗される可能性があったので触れたのだ。人体そのものではなく、体内だから抵抗はいくぶん弱いと思うけど、相手の体内は相手のテリトリーだから、私の魔法は届きにくい。そこで、少しでも抵抗力を弱めるために、触れた方がよいと思ったのだ。
どさくさにまみれて胸を触ったりブラを剥がすという考えも浮かんだけど、心拍数八〇の私は思いとどまった。
「けほっ…」
三オクターブ高いきんきん声とともに、ハイドラは口からアルコールを吹きだした。胃に入れた分が多かったか。とてもくびれた細いウェストだから、胃袋が小さかったのかな。
それから、股からもアルコールが出てきたみたい。膀胱には生成してないので、大腸から漏れた分だ。
一〇〇パーセントのアルコールなんて喉が焼けたようになると思うけど、ハイドラはひるまない。お尻の穴にアルコールを付けたら痛いと思うのだけど、それも平気そうだ。ナイフを持って私に向かってくる。ハイエルフというのは人外なのだろうか。
だけど、おなかが重いようだ。アルコールには時魔法がかかっていないので、おなかの中のアルコールが速く動いてくれないのだ。さっき矢で説明したように、加速した状態で加速してないものを触ると、例えば四倍加速しているなら質量を十六倍感じるようになる。ちなみに質量が変わっても重さは変わらないので、重くて潰れてしまうということはないのだけど、重いものが載った台車を動かすときのように、おなかを運ぶのが大変になるということだ。
喉が焼けたとか吐きそうで気持ち悪いとか、あまり物理的なダメージを与えられていない。大腸や小腸に直接生成してやったけど、吸収してアルコールが回るのにも時間がかかりそう。あっ、加速していない物質が血中に入ったらどうなるのかな。どろどろの液体相当になって血の流れが悪くなりそうだ。よく考えないでとっさに酔っ払わせようと思ったのに、意外にもエグいことになってしまった。
でも、素速く動こうとしてもおなかが付いてこなくて動きがぎこちない。思うように動けなくて必死なようだ。ナイフを振り回すが、もはや私に届かない。
だんだん動きが鈍くなってきた。アルコールが回ったんじゃなくて、十六倍扱いの質量の分子が血に混ざって、血を流すのが大変なのだろう。
私はふんふんとロ長調のメロディを口ずさみ、ハイドラに『早く時魔法を解除しないと死ぬよ』と考えを送った。口で言っても、私の声はハイドラにとっては六オクターブ下だから可聴域を超えてると思ったので。
『心魔法か。やはり戦術を読まれていたか。だが、いつの間に…。ハープを弾いた様子はないのだが…』と流れてきた。私の鼻歌は低音すぎて聞き取れないだろうから、鼻歌で魔法のメロディが鳴っていても分からなかっただろう。そもそも、鼻歌で魔法を奏でることが非常識のようだし。
というか、死ぬと忠告したのに、それを信じて時魔法を解除する様子はなく、ふらふらになりながらナイフを振り回してくる。とうとう、ナイフを落として、倒れ込んでしまった。血が流れなくて酸欠なのだろう。お尻からアルコールが出てきた…。大腸は失敗したなぁ。
いくら美女でもこんな危険なやつはお断りだ。だからといって、お尻からお漏らしなんて乙女の尊厳を奪ったのはやり過ぎだった。
しかたないので、私はハイドラに触れながらふんふんと口ずさみ、ハイドラの内臓と血中のアルコールを除いて。これで酸欠はなくなると思うけど、そろそろアルコールが回ってきたみたいで、顔が真っ赤になってきた。さすがに一〇〇パーセントエタノール四リットルは飲み過ぎだろうけど、喉やお尻が痛くても我慢できる子のようなので、死にはしないだろう。
いやいや、斬った腕から血が出ている。私は腕を拾ってきて、腕の治療魔法でつなげた。
それから、心魔法で必要な情報を抜き出しつつ、洗脳をかけた。意識がない状態で触れて魔法をかければ、抵抗力はほとんどないようだ。それに、時魔法四倍速はかなりムリをしているようで、魔力も底を尽きかけているようだ。
でも、私は三十二倍速で動いてるとはいえ、まだ他のエルフとは戦闘中だ。ハイドラ曰く、この村の住人はハイドラが王になることを支持しており、誰一人私の味方をしてくれる者はいそうにない。ハイドラの洗脳がある程度終わったので、周りのエルフを洗脳していくことにした。
まずは弓とハープを構えた八人。それから、抜き出した記憶によると、この村の住人は全部で四〇人。そのうち狩りなどで留守にしている者を除いて、住んでいる場所も記憶から抜き出して、一軒一軒まわって必要最低限の洗脳を済ませた。
最後に、ハイドラを村長の家に帰して、藁の布団に寝かせた。ハイドラ秘蔵の酒とやらを引っ張り出しつつ、中身をとりあえず新しく作った異次元収納にそのままいただいた。そして、空になった酒の容器を布団のそばに転がした。これでハイドラは秘蔵の酒を一本開けて泥酔というアリバイ工作ができたかな。
それから、洗脳はあまり長くもたないので、記憶の改ざんもしておかなければならない。みんな、次期王座には無関心。十三年前に王の子がさらわれて殺されかけたのは知っているけど、他人事。とりあえず、短い時間で全員に植え付けられる記憶はこれくらいだ…。そうだ、村長は秘蔵の酒を開けて今日はおだぶつってことも植え付けておこう。
もう時の魔力が限界だ。戦闘には五分もかからなかったけど、後始末には三十分かかった…。
そして、私は何ごともなかったように馬車に戻った。
「ねえ、ユリアナ、大丈夫?」
「あ、うん。今から話を聞かせてくれるみたい」
「そっか、よかったね」
いやー、よかったよ…。友好的な人たちで…。もう聞きたいことはほとんどないけど…。
私は三十二倍速で動いていたので、マレリナたちには一分しか感じられていない。もちろん、私が死闘を繰り広げたり、記憶の改ざんに奔走していたことも知らない。そのうち話すとするかな…。
★ユリアーナと婚約者
とくに記載のないかぎり十三歳。女子の身長はマレリナと同じくらい。
■ユリアーナ・マシャレッリ伯爵令嬢
キラキラの銀髪。ウェーブ。腰の長さ。エルフの尖った耳を隠す髪型。
身長一四〇センチのまま。
口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■マレリーナ・マシャレッリ伯爵令嬢
明るめの灰色髪。ストレート。腰の長さ。
身長一五七センチ。(一年間で五センチ成長)
口調は、元平民向けには平民言葉、親しい貴族にはお嬢様言葉、目上の者にはですます調。
■アナスタシア・マシャレッリ伯爵令嬢
若干青紫気味の青髪。ストレート。腰の長さ。
身長一二三センチ。ぺったんこ。
口調はお嬢様言葉。
■マリア・ジェルミーニ男爵令嬢
濃いピンク髪。ウェーブ。肩の長さ。
身長一三三センチ。ぺったんこ。
口調はほぼ平民言葉。
■スヴェトラーナ・フョードロヴナ公爵令嬢
濃いマゼンダ髪。ツインドリルな縦ロール。腰の長さ。巨乳。
身長一六二センチ。(マレリナ+五センチ)
口調はですわますわ調。
■セラフィーマ・ロビアンコ侯爵令嬢
真っ白髪。
口調はですます調。
■ブリギッテ・アルカンジェリ子爵令嬢(三十二歳)
濃い橙色髪。エルフ。尖った耳の見える髪型。大きな胸。
身長一六三センチ。(一年間で一センチ成長)
エルフの身長の成長速度は十歳までは人間並み。十歳以降は五歳につき一歳ぶん成長。ただし、体つきは人間並みに成長。
口調は平民言葉。
★クラスメイト
■ヴィアチェスラフ・ローゼンダール王子
黄色髪。
■エンマ・スポレティーニ子爵令嬢
薄い水色髪。実子。
■パオノーラ・ベルヌッチ伯爵令嬢
水色髪。
■エミリーナ・シェブリエ侯爵令嬢
濃いめの赤髪。
■アルベール・ルブラン子爵令息
薄めの黄色髪。
■アルメリア・ベンシェトリ伯爵令嬢
オレンジ髪。
■ベアトリス・アルヴィナ男爵令嬢。
薄い青髪。
■イアサント
エンマの元下僕1。元男爵令嬢。淡い緑髪。
■ジョジョゼ
エンマの元下僕2。元男爵令嬢。淡い黄色髪。
■ドリエンヌ
パオノーラの元下僕1。元男爵令嬢。淡いオレンジ髪。
■クレマノン
パーノーラの元下僕2。元男爵令嬢。淡い青髪。
★マシャレッリ伯爵家
■エッツィオ・マシャレッリ伯爵令息(七歳)
濃いめの緑髪。
■セルーゲイ・マシャレッリ伯爵
引取先の貴族当主。
濃いめの水色髪。
■タチアーナ・マシャレッリ伯爵夫人
濃いめの赤髪。ストレート。腰の長さ。
■オルガ
マシャレッリ家の老メイド。
■アンナ
マシャレッリ家の若メイド。
■ニコライ
マシャレッリ家の執事、兼護衛兵。
■デニス
マシャレッリ家の執事、兼御者
★学園の教員、職員
■ワレリア
女子寮の寮監。木魔法の教師。おばあちゃん。濃くない緑髪。
■アリーナ
明るい灰色髪。命魔法の女教師。おばちゃん。
■ダリア
紫髪。空間魔法の女教師。
■アレクセイ
ピンク髪のおっさん教師。
★ユリアナと婚約者の家族
■ナタシア
ユリアナの育ての親。
■エルミロ
マリアの弟。
■ウラディミール・フョードロヴナ公爵
オレンジ髪。
■エリザベータ・フョードロヴナ公爵夫人
薄紅色の四連装ドリル髪。爆乳。
■エドアルド・フョードロヴナ公爵令息(十一歳)
黄緑髪。
■サルヴァトーレ・ロビアンコ侯爵
セラフィーマの父。オレンジ髪。
■エカテリーナ・ロビアンコ侯爵夫人
セラフィーマの母。レモンイエロー髪。
■ヴェネジーオ・アルカンジェリ子爵
淡い黄色髪。ブリギッテの養父。
■クレメンス・アルカンジェリ子爵夫人
淡い水色髪。ブリギッテの養母。
■ジュリクス・ジェルミーニ男爵
ピンク髪。マリアの養父。独身。
★その他
■ニーナ
成人のエルフ。濃いオレンジのウェーブボブヘア。
十歳の頃のスヴェトラーナ程度の巨乳。
■アブドゥルラシド・ローゼンダール王(二十九歳)
空色の髪。
■ヴァレンティーナ・ローゼンダール第一王妃(二十九歳)
明るい青の髪。
■アルフレート(六十歳くらい)
マシャレッリ領都の神父。
■ハンス
マシャレッリ家の土木作業員の土魔法使い。
兼教会の木琴教師。
■クレマノンの母
元男爵夫人。淡い赤髪。
■ジョジョゼの母
元男爵夫人。淡い水色髪。
◆花が咲いた、綺麗だわ♪
日本で聴いた童謡(架空)。二十四小節。
◆ローゼンダール王国
貴族家の数は二十三。
N
⑨□□□⑧
□□□④□⑪□
W□⑥□①□⑤□E
□□□□⑦□□
□□②□□
□□□
⑩③
S
①=王都、②=マシャレッリ伯爵領、③=コロボフ子爵領、④=フョードロヴナ公爵領、⑤=ジェルミーニ男爵領、⑥=アルカンジェリ子爵領、⑦=ロビアンコ侯爵領、⑧=スポレティーニ子爵領、⑨=ベルヌッチ伯爵領
⑩巨大ミツバチの巣(国外)
⑪ルブラン子爵→男爵領
一マス=一〇〇~一五〇キロメートル。□には貴族領があったりなかったり。
◆ローゼンダール王都
N
■■■□■■■
■□□□□⑨■
■□□□□□■
W□□④①□□□E
■□⑥□□②■
■□⑤□③□■□□⑧
■■■□■■■□□⑧
□□□□□⑦□□□⑧
S
①=王城、②=学園、③喫茶店、④=フョードロヴナ家王都邸、⑤マシャレッリ家王都邸、⑥=お肉レストラン・仕立屋、⑦=農園、⑧=川、⑨=ロビアンコ家王都邸、■=城壁
◆座席表
ス⑤□□□□
ヴ□□□⑥②
□□□□□①
前 □⑦□ブ□③
ア□□□⑧④
□□□パ□エ
セマユリ
ス=スヴェトラーナ、ヴ=ヴィアチェスラフ、ブ=ブリギッテ、ア=アナスタシア、エ=エンマ、セ=セラフィーマ、マ=マレリナ、ユ=ユリアナ、リ=マリア、①=エンマの下僕1=イアサント、②エンマの下僕2=ジョジョゼ
パ=パオノーラ、③=パオノーラの下僕1=ドリエンヌ、④=パオノーラの下僕2=クレマノン
⑤=エミリーナ、⑥=アルベール、⑦=アルメリア、⑧=ベアトリス
◆音楽の調と魔法の属性の関係
ハ長調、イ短調:火、熱い、赤
ニ長調、ロ短調:雷、光、黄
ホ長調、嬰ハ長調:木、緑
ヘ長調、ニ短調:土、固体、橙色
ト長調、ホ短調:水、冷たい、液体、青
イ長調、嬰ヘ短調:風、気体、水色
ロ長調、嬰ト短調:心、感情、ピンク
変ニ長調、嬰イ短調:時、茶色
変ホ長調、ハ短調:命、人体、動物、治療、白
変ト長調?、変ホ短調?:邪、不幸、呪い、黒
変イ長調、ヘ短調:空間、念動、紫
変ロ長調、ト短調:聖、祝福、幸せ、金
※9/13 誤字修正