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32.修正力VS変化力

 ラポムが左手でプレイするようになり、フォーメーションもクロス型から自然と変更になった。


 双方がハの字型である。

 連携がいきなり本番で変わるのはこれで二度目だが、レオニードがラポムに同調あわせた。


 なんとか形にする。出来てしまったのは、目の前に最高レベルのお手本がいたからだ。


 それだけでは終わらない。


 攻撃担当のレオニードが防御と繋ぎに徹する。


「君は私が守る」

「はい! 攻撃は任せてください!」


 少女は左に持ち替えたことで、自らも魔力の回転を生み出せるようになった。

 魔力値2000クラスを相手にするには弱くとも、左右長短を自在に打ち分ける。

 右手の時の素直で揃ったお手本のような球質はなりを潜め、荒くブレる。魔力球が気持ちの悪い揺れ方をする。


 異質である。


 双子の頭脳担当。ムーナンの表情にかすかな焦りが生まれた。


 一試合のうちで一度ならず二度までもフォーメーションが変わった。

 加えてラポムは左利きにシフト。

 球質が変化し、もはや別人だ。

 初見の状態に戻ったも同然である。


 ジェミナス兄弟の強さの秘密は「初見の相手でも2ゲームあれば解析できる」ところにある。


 偵察情報に頼らないのも、この力を養うため。


 ムーナンにとって今のラポムは完全なる未知だった。


 レオニードの守備の硬さにも驚かされる。


(――……攻撃特化の兄さんよりもオールラウンダーっぽいかも)


 ラポムのノーモーション超高速カウンターや、ムーナンが得意とする変化をつけたカットブロックなどの防御系フィニッシュ技こそないのだが、レオニードはフォア強打以外で技術に穴が無い。


 こうして双子は、一試合の中でまったく違う相手と戦うことになった。


(――……僕の修正力だけじゃ足りないかもしれない)


 と、鉄壁が不安になったところで、サーブに入ろうとしていたヘリオスが一旦構えを外す。


「心配すんなって。兄ちゃんに任せろや」

「……兄さん」


 以心伝心。弟の不安を汲み取ると金眼を細めて笑う。サイン交換は必要無し。


「にしてもこれじゃあ、二試合してるようなもんだぜ?」

「……あっちの二人は僕らに慣れてきてるね」

「実力も練度も経験値もこっちが上だっつーの。ビビんなムーナン」

「……ぜんぜん」

「フルゲームまでにラポちゃんを丸裸にしろよ?」

「……言い方」


 ヘリオスは「へぇへぇ」と軽口叩いてサーブの姿勢を作る。

 対峙するラポムとレオニードもレシーブの構えをとった。


 試合が続く。

 レオニードが守備に回ったことで、ヘリオスの倍返しは使えない。

 一進一退の攻防。

 双子の失点はすべてミスによるものだ。


 ラポムからの返球を受けたヘリオスが、オーバーミスとネットミスを頻発した。

 鉄壁のムーナンでさえも、少女の放つ打球に翻弄される。


 ミスしないことも鉄壁の鉄壁たるところだが、ムーナンは厳しいコースへの返球ができなくなった。


 台の隅やサイドラインを切るような打球がすべてアウトになる。


 まるで魔女の呪いか狐狸に化かされたように、ジェミナス兄弟は赤毛の少女の放つ速くもなければ強くもない癖球にペースを乱された。


 安全策をとって入れることを重視する双子だが、甘くなった打球はレオニードが一撃必殺のバックハンド強打で決めきる。


 獅子の目前を覆う霧は消え去り、迷いがなくなりプレイにメリハリがついた。


 ラポムの負担を減らすため、貴公子は守り続ける。

 ただし、相手が返せないという確信があればレオニードのバックハンドが火を噴くのだ。

 決めきってしまえばヘリオスの倍返しもなにもない。


 試合は進む。


 ムーナンが得体の知れないラポムの攻撃を把握するまで、2ゲームを支払うことになった。





 カウント3-3のフルゲーム。

 試合は最終7ゲーム目にもつれ込む。

 会場は大盛り上がりだ。

 レオニードの復活と活躍に、客席の親衛隊は何人か失神者を出している。


 客席のロゼリアは自分が置いていかれたような寂しさを胸に抱いた。

 苦しい戦いのはずなのに、ラポムが左手でプレイし始めてからのレオニードは――


(――なんて楽しそうなのかしら)


 子供に戻ったようにレオニードは躍動する。

 迷いがなかった。

 今や青年はラポムに忠誠を誓う獅子騎士だ。

 庇い、防ぎ、護り、敵を粉砕する。


 レオニードは翼を得た。

 自分から巣立っていくようでロゼリアの心にぽっかりと空間ができる。


「隣、いいかな?」

「は、はい? あなたもいらしてましたの?」


 失神退場した親衛隊の空席に灰色髪の青年が座る。

 フォンは灼眼を細めた。


「僕もラポムさんとレオニード先輩を応援したいからね。ここは一番の応援席。違うかい?」

「ええ、そうですけれど」


 レセプションのダンスの時も、ロゼリアが寂しさを覚えるとフォンが声を掛けてきた。

 お嬢様は単刀直入に訊く。


「あなたの目的はなにかしら?」

「目的?」

「レオ様が路地裏で襲撃に遭った際に、偶然居合わせたというのはできすぎな話に思えますの」

「運命だったのかもね」


 メインコートの清掃が行われ、双方のペアがベンチでコーチのアドバイスを受ける。

 まもなく最後の戦いが始まろうとしていた。


「ロン家はシュイク連邦で軍用魔石の取引を始めたそうですわね?」

「そうだよ。お金になりそうならなんでもするみたいだから」

「ライオネル家に近づく理由は技術目当てかしら」


 フォンは眉尻を下げて困り顔だ。


「そういう見られ方になるのは仕方のないことかもしれない」

「否定はしませんのね?」

「ロン家の方針としては事実だから」

「あなた個人は違うとでもいいたげですわね」

「僕の望みはもっとたくさんの物語に触れることかな。あの二人は今、魔法決闘という形で物語を紡いでいる。筋書きの無いドラマのクライマックスが近づいているんだ」


 ロゼリアは思った。


 急に何言い出してんだコイツ。と。


 お嬢様言葉も吹っ飛ぶ具合だ。


「あなたいったいなんなんですの!?」

「うーん、何って言われても」

「後方腕組み古参ファンみたいですわね」


 お嬢様に言われて灼眼が満月のように丸くなる。


「あっ……古参じゃないけど、それかもしれない。ロゼリアさんはまとめるのが上手だね」


 不意に会場で拍手喝采。釣られてロゼリアとフォンも手を叩く。


「劇の最後の幕が上がるね」

「特等席に座ったのだからちゃんと応援なさい」


 フロアに四人の男女が台を挟んで並んだ。

 7ゲーム目が始まる。

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