27.出撃! タヌぽん娘!
シングルスはゲームカウント4-3でヘリオス・ジェミナスが優勝を果たした。
表彰式は後日、ダブルスの結果と合わせて執り行われる。
試合後、ヘリオスはインタビューでダブルスも優勝し、三年連続二冠達成を宣言。
春の王都大会史上、初となる記録を打ち立てると大観衆に約束した。
ラポムが席でぎゅっと拳を握る。
「そうはいきませんから」
隣でレオニードも腕を組む。
「勝った気でいられるのも今のうちだな」
「「ふっふっふっふっふ……」」
二人は息ぴったりで悪役っぽく笑った。どっちが主人公側かという雰囲気だ。
ぶっつけ本番なレオニードとラポムのペア。
学院で何度か副部長&二年エースペアと戦ったので、サイン交換くらいはできるのだが、言ってしまえばその程度。高度な連携なにそれ美味しいの?
ほぼ、個の力にたよって戦うしかない。
が、勝算はゼロではなかった。
ラポムの視線が会場のヘリオスからレオニードに向く。
「ちゃんとヘリオスさんの動きを見ておきました。どんな打球でも止めます」
「では、私が攻撃だな。だが、チャンスボールとあらば君も攻撃してほしい」
「も、もちろんですとも!」
ダブルスの打球順序はローテーションする。ラポムがレシーブした場合、その返球は必ずレオニードが返さなければならなかった。
これは相手も同じである。
概ねラポムたちのペアの役割は決まっていた。
双子も矛と楯と言われるだけに、ヘリオスが攻撃でムーナンは繋ぎに徹して勝っている。
違いがあるとすれば――
ジェミナス兄弟は利き腕が右と左に別れているということだ。
左利きはダブルスにおいても有利だった。
利き腕の都合でレシーブからフォア側に回り込んで打つことができる。
加えて、同じ利き腕同士であれば回るようなローテーションをしなければならないところを、前後の移動。上から見てハの字で行うことができるのだ。
もちろん左右のペアなりの弱点もあるのだが、ずっと組んできたジェミナス兄弟はとっくの昔に克服済みである。
シード枠の双子は本日午後からのダブルス一回戦には登場しない。
館内放送で参加者とコーチはフロアに集まるよう呼びかけられた。
ラポムは立ち上がった。
「では、会場に行きましょうレオニードさん!」
「待ちたまえ。君はその……学院指定の運動服で出るというのか?」
「え? ダメなんですか?」
「公式戦だからな。闘技服が必要だ」
「そ、そ、そんなの持ってないですよッ!?」
レオニードが半分口を開いて硬直する。
「ルールブックは読み込んでおけと言ったではないかタヌぽん娘!」
「ひいいごめんなさい……って、誰がタヌぽんですか!」
「ともかく手を打たねば!」
「だ、誰かに借りるとか!?」
ユーニゾンの部員たちは首をぶんぶん左右に振った。
小柄すぎるラポムが着たら、だぼだぼどころの騒ぎではない。
「どどどどどうしたらいいんでしょう! 今すぐエデンで買ってきます!」
「君のサイズがあるかどうかも……」
「子供向けならギリギリ入るかもしれません! こんなことで諦めるわけにはいかないんですから!」
この時ばかりは、自分の胸のサイズが慎ましやかだったことを少女は神に感謝した。
が、貴公子は首を左右に振る。
「今からでは間に合わない。一回戦第一試合はすぐに始まるのだぞ!?」
「そ、そんなぁ」
絶望する二人の元に、ピンクブロンドの縦ロール髪を揺らして救世主が舞い戻る。
「おーっほっほっほ! 心配には及びませんわ。女子更衣室にラポムさんの闘技服と専用シューズにお着替えメイド隊を待機させていましてよ!」
ロゼリアである。
困った時のお嬢様。だが、ラポムは首をかしげた。
「と、ととと闘技服って、いつのまに?」
「レセプションでドレスを作るのに採寸しましたし、靴のサイズも把握済み。ドレスと一緒に闘技服も発注していましてよ」
「そうだったんですか!?」
「ええ、もちろん。わたくしにできることはこういったサポートまで。試合……お勝ちになってくださいまし」
「ありがとうございますロゼリアさん! 行ってきます!」
ラポムは客席を飛び出していった。
残されたレオニードがほっと安堵する。
「相変わらず、君はなんでも先回りしているんだな。おかげでまた、助けられてしまったよ」
「ラポムさんもレオ様も一つのことに集中すると、周囲が見えなくなってしまいますものね。うふふふ♪」
「そうだな。恥ずかしい限りだ」
「もちろん闘技服のお代は請求いたしますわ。ライオネア家に」
「まいったな。父の憤怒の顔が目に浮かぶ。これでますます優勝しなければならなくなった」
金髪の貴公子は楽しげだ。
ロゼリアは頷くと青年の背中を叩いた。
「この調子ならきっと上手くいきますわね。ほら! 出陣でしてよ!」
「ああ、行ってくるよロゼリア」
親衛隊たちも「レオニード様がんばってー!」と黄色い悲鳴を上げた。
部員たちも「主将ファイトおおおおお!」と声援を送る。
仲間たちの声に後押しされてレオニードは再び戦場へと舞い戻った。
◆
赤毛の少女はついに客席から試合会場のフロアに立つ。
初めて大競技場に来た時には、何も無いまっさらな空間だった。
数十の決闘台が並び、天井からは真っ白い魔力灯が降り注ぐ。
客席は超満員。
その人々の視線が少女に集まった。
「女の子が選手だって?」
「おいどこの学校だよ」
「舐めぷ?」
「ほとんど全国クラスレベルの王都大会を侮辱してんじゃねぇよ」
「そこに立てない人間がいるってのになんでだ」
「つーか緑の闘技服に赤い頭で背中にリンゴとタヌキのエンブレムって草ぁ」
「草生やすな。つーか、よく見ろ。胸んところ」
「ぺったんこだな」
「そうじゃねぇよパピメルだよ! 蝶のエンブレムつけてるなんて、あいつパピメルの契約決闘者か!?」
「大会の公式飲料の名前まで闘技服に縫い込まれてるなんてださくね?」
魔導器中継がラポムにフォーカスを合わせた。
会場の投影版に大写しになった姿に、ラポムはあたふたする。
同時に少女の姿はハルモニア王国全土に流されていた。
◆
遙か北方。ブルフォレスト家の所領にて――
町の教会に設置された小型投影板に人々は黒山の人だかりだ。
そこに親子の姿があった。
「お、お、お父様! 見て見て! お姉様です! ついにお姉様が世界進出です!」
「ああ……そうだな」
「この春、王都に旅立ってすぐにこんなにも大きな大会で脚光を浴びるなんて、お姉様は偉大ですね!」
「女の子だからみんな珍しいんだろう」
「お父様……あんまり嬉しくなさそうです。なにか気がかりなことでも?」
「ラポムが杖を右手に持ったままでな……」
「いつも通りですけど?」
「ダブルスなのだし、元のラポムに戻ってくれたら……いや、私が悪いんだ」
「変なお父様」
親子の会話の間に投影板内の景色が会場全体に切り替わる。
ついに運命のダブルストーナメントが開幕した。




