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23.開幕! 春大会

 王都中央区画の大競技場に決闘台がずらりと並んで埋め尽くす。

 一回戦から客席は超満員だ。

 会場外の大型魔導掲示板にも映し出され、試合の中継は全国各所に生中継されていた。


 地区大会といっても、王都のそれは全国に匹敵するレベルである。

 魔法決闘ファンのみならず、各地区の有力決闘者たちの注目が集まった。


 初日から白熱した試合が行われ、過酷なサバイバルトーナメントを駆け上った者だけがトーナメント表に名前を残す。


 スーパーシード枠で明日から参戦するレオニードは、客席からの応援だった。

 といっても歓声や拍手にかき消されて、チームメイトまで声は届かず観戦というような格好だ。

 選手に声をかけられるのは、決闘台に近いコーチ席についたオジカだけである。


 決闘中、オジカコーチは流れが悪くなる寸前を見極め、適切なタイムアウトを申請した。


 客席の貴公子がため息をつく。


「さすがオジカせんせ……コーチだ。一番欲しいタイミングで間をとってくれる」


 青年の隣の席で、赤毛の少女は不安げだ。


「そ、そうなんですか?」

「君は公式試合は初めてだったな。試合中、両選手は一度だけタイムアウトをとることができる。本人かコーチ判断かはその時々だが、水分補給や戦術の見直しなどコーチとコミュニケーションが可能だ」


 オジカは改良されたリンゴ酢ドリンク「らぽねーど」の無炭酸ボトルを選手に手渡す。

 今回の大会の公式飲料だ。パピメルの家紋がばっちりと入った透明なボトルが、全国に魔導器中継された。


 競技場内の大型投影板にも映し出される。


 自分の名前を冠された飲み物にラポムは恥ずかしそうに俯きながら、ルールブックをめくった。


「タイムアウトについて……っと、はい。ルールブックにも書いてあります。けど、ええと、なんかもう……色々とすごすぎて」

「ダブルスの試合なら心配はいらない。私かオジカコーチが適切なところでタイムを要請する」

「あ、ありがとうございます」

「試合場の空気には馴染めそうか?」


 青年の表情は柔らかい。レオニード自身、大会が始まると緊張しすぎてしまうのだが、隣の少女は青年以上にガッチガチだ。


 あまりにラポムが緊張しすぎて、相対的にレオニードは自然とリラックスできてしまった。


「人間ってこんなにたくさんいるんですね。もう少し減らすべきです」

「君はこの世界を滅ぼす魔王か何かなのか?」

「ひえっ! そ、そういう意味じゃ……」


 相変わらず斜め上を行くラポムに、貴公子は「わかっているさ。冗談だ」と微笑を浮かべた。そのまま続ける。


「決勝になれば全員の視線を集めることになる」

「き、緊張するようなこと言わないでくださいよぉ」


 今にも泣き出しそうな顔のラポムだが、レオニードは「台についた君は集中できるから心配はしていない」と言い切った。


 タイムアウトが終わり、戦術の見直しが功を奏して副部長が二回戦を突破する。

 伊達にこれまでレオニードと打ち合い、鍛えられてきただけのことはあった。


 二年生エースとともに副部長も三回戦に臨む……が。


 その三回戦で副部長は敗退した。


 相手はグラーヴェ学園の三番手。双子の影に隠れがちだが、全国レベルの決闘者相手にスコアは11-5。11-7。11-3。11-4。一ゲームも奪えなかった。


 二年生エースはジョレン高等学園の一番手を倒す金星を挙げて、二日目に駒を進めた。

 明日の相手はジェミナス兄弟の兄ヘリオスだった。

 

 広い会場に優勝候補の姿は見られない。自分たちの試合以外に興味はなく、対戦相手になるであろう一日目の勝者たちも、最初から眼中に無い。


 こうして日程の一日目は無事消化された。





 二日目。第一シードのヘリオス・ジェミナスの試合運びは圧倒的だった。

 ユーニゾンの二年生エースが手も足も出ない。

 ただでさえ王都地区王者のヘリオスの試合は注目度も高かった。


 11-0。11-0。11-0。11-1。


 最後の一点は「記念にとっとけよ」と言わんばかり。

 試合後のヘリオスは至極つまらなさそうに「暇つぶしにもなんねぇな」と、グラーヴェ学園のコーチに愚痴をこぼした。


 ラポムはこの試合をずっと注視していた。

 鉄壁の弟ムーナンとは戦った経験があるが、ヘリオスは対照的な超攻撃型だ。

 荒々しく牙を剥く獣のような野生の動きである。


(――けど、防御には穴がある……かも)


 もっと近くで観察できれば、その小さな隙間をこじ開けられるかも。

 どのみち、客席からは遠すぎる。

 一番近くで見られる機会を逸したのだ。

 かち込みをした日に戦っておけばと、少女は後悔した。


 こうしてユーニゾン魔法学院で残ったのはレオニードだけ。

 結局、貴公子は最大の武器であるフォアハンド強打を取り戻すことはできず、繋ぎの技術で穴埋めしながらの戦いとなった。


 客席でラポムはユーニゾンの部員やロゼリアとともに、レオニードに声援を送る。

 四回戦まで勝ち抜いてきた相手に堂々と試合を運び、レオニードは四回戦、続く五回戦と二試合連続ストレートで勝利した。


 六回戦は西方出身の超攻撃型決闘者だが、バックハンドの打ち合いに持ち込みフルゲームで打ち破った。


 大会は三日目に入る。


 残すは準々決勝。準決勝。そして決勝だ。


 シングルス準々決勝。レオニードの相手は攻守ともに隙の無いタイプだった。

 バックハンドだけでは打ち抜けない。

 が、フォア強打は出ない。


 それでもレオニードは冷静だ。

 これまでの自分なら、きっともっと早くに自滅していただろう。

 ラポムというパートナーに恵まれて、初めて貴公子は「出来ない自分」を受け入れることができた。


 戦いは自分が思うように運ばない。

 ここでフォアの一撃があればと、大会中幾度となく思うことがあった。


 負ければ今大会をもって引退。杖を折ることになる。


 必死に青年は食らいつく。

 泥臭く、今までに見せたことがないほどの意地汚い戦い方をしてでも、勝利に手を伸ばし続けた。


 レオニードが苦戦する様も、試合運びもすべてグラーヴェ学園の決闘術部員たちによって逐一情報が収集されている。


 兄のヘリオスは「んなもん見たらネタばらしみたいで楽しくねぇ」と意にも介さない。

 普段は弟ムーナンも「……別にいらない。勝てるから」と取り合わないのだが……。


 資料にざっと目を通してムーナンは呟いた。


「……フォアハンドの強打が無いね。落としそうな試合もあったし……温存してるんじゃないんだ」


 レオニードが接戦を制し、客席が歓声に沸く中でムーナンは小さく頷いた。


 兄の道を阻む者は全て排除する。

 今回もいつも通り。

 だが、ムーナンの心に引っかかるモノがあった。


 ラポム・ブルフォレスト。


 彼女がレオニードの練習パートナーとなったのだ。

 自分を……ムーナン・ジェミナスを破ったあの赤毛の女の子が、どんな特訓をしたのだろう。


 銀の瞳はレオニードの向こう側に立つ、ラポムの存在に向けられていた。


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