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22.ダンスダンスダンス

 静かな音楽が止まり、楽団の編成が増える。

 ラポムが訊いた。


「何が始まるんです?」

「ダンスの時間のようだ。君のデビュタントを祝して……一曲お相手願えますかお嬢さん?」

「わ、わたし踊りなんてできませんよ!」

「決闘台で見事なステップとフットワークをみせる君だ。すぐにこつを掴むさ。それまではどうか、私に身を委ねてほしい」


 青年は少女の手を取ってホールの中央へと躍り出る。

 ワルツが流れた。

 異性と手を取りあって踊る経験は、これが初めてだ。


(――うう、こんなことならメアリといっぱい社交ダンスごっこしてればよかったかも)


 後悔したのもつかの間、レオニードの完璧なエスコートでラポムのダンスは形になっていた。

 もともと運動能力はさほど高くないラポムだが、それらはすべて魔法決闘に特化した身体能力になってしまったが故である。


 決闘術においてリズム感は大切だ。

 ラポムはそれにも秀でており、レオニードとの呼吸はぴったりだった。


 ホール中央の華になった二人に、多くの人の視線が吸い寄せられる。


 が、そんなことなどつゆ知らず、ラポムは一生懸命だ。


「フットワークのテンポを92%に。リズムキープ。低音パートに集中フォーカス。転調警戒。レオニードさんの足の長さを考慮」

「君はダンスの時もブツブツと呟くんだな。もっと優雅にたおやかに。周囲の視線など気にせず堂々と楽しめば良い」

「重心移動をリズムと同調シンクロ……ひゃん!?」


 少女の体をレオニードが抱き上げてぐるりと回す。豪快なリフトに会場から拍手喝采だ。


「レオニードさん降ろしてください! 死んでしまいます!」

「この程度で人は死んだりしないだろう」


 言いながらそっと優しく少女を着地させる。ラポムはこれまでの状況整理データスキャンがすべて吹っ飛んでしまった。


「ふぅ……せっかく構築したのに」

「やっぱり君は変わっているな」


 基本的なステップに戻って青年は笑う。


「しょうがないじゃないですか。こんなの……初めてなんですから。というかレオニードさんこそ、ダンスの方が向いてるんじゃないですか? とっても活き活きしてますし」

「子供の頃からやらされて慣れているだけだ。それに決闘と違って勝敗も関係ない。ただ自分が楽しむだけでいいんだ。トレーニングとしてみても、体幹を鍛えられるし……なッ!」


 再びラポムを空中でぐるぐる回して青年は楽しげだ。

 

「ひいいいいん!」


 妙な悲鳴をあげてラポムは宙を舞った。





 本日の主役が脚光を浴びることは、レセプションの責任者プレゼンターとしても喜ばしいこと。


 笑顔のレオニードと目を回すラポムを見て、少女は蝶の扇を開き顔を隠す。

 ラポムの赤毛には白金のバレッタが静かに光を帯びていた。


 どうして踊っているのが自分じゃないのだろう。

 子供の頃はレオニードがダンスをしてくれていたのに。


 青年は母親を亡くしてから、ロゼリアと踊らなくなった。

 あんなに楽しげな顔をするなんて。


(――わたくしではいけませんのね)


 落ち込む少女の元に――


「一曲どうだい?」


 白い手がスッと差し出された。

 扇を閉じて前を向く。


 どこかで見覚えのある青年が正装して立っていた。

 灰色髪に灼眼の留学生。レオニードが街で襲撃に遭った際に、ラポムとともに命を救ったもう一人の恩人――フォン・ロンである。


「あら、あなたもいらしていたの?」

「ちゃんと招待は受けているよ。ロン家の名代としてね。けど、ビジネスの話は苦手でさ。それより、踊らないかい?」

「わたくしは……」

「主催者だからって楽しんじゃいけないってこともないと思うよ。むしろみんなに楽しみ方の見本を見せるべきじゃない?」

「物は言い様ですわね。この曲が終わるまででしてよ」


 ロゼリアはホールに連れ出された。

 フォンのエスコートでゆったりとしたステップを踏む。


 この青年と直接言葉を交わしたのはこれが初めてだ。

 レオニードを助けて貰った際には、直接出向いてお礼を言いにいったのだが、神出鬼没で見つからなかった。

 彼のクラスメート曰く、図書室にいなければ、どこにいるのか誰にもわからない。それがフォンという青年らしい。


 それでもなんとなく、人となりを知っている。

 ラポムやレオニードから間接的に聞かされていた。

 少し変わったところがあるが、悪い人ではない。というのが、両者の共通意見だ。


 二人が言うのだから……と、少女はダンスを受けたのだが……。


「あの二人はお似合いだね」


 フホールの中央、大輪を咲かせるレオニードとラポムを見てフォンは目を細める。


「……」


 ロゼリアには応えようが無かった。認めたくないと思う一方で、二人のダンスはだんだんとステップもリズムも合い始めている。


 赤い瞳がじっとお嬢様を見つめた。


「僕なら君を……放ってはおかないよ」

「急に何を言い出しまして?」

「君がレオニード先輩を想う気持ちもわかっているつもりさ」

「余計なお世話ですわ」


 曲の途中で少女は足を止めた。


「失礼。少し疲れてしまいました。別室で休ませていただきますわね」


 少女は独りそっと会場をあとにした。


 相手に逃げられたような格好で、ホールに残されたフォンは呟く。


「つれないね、君も」


 ロゼリアに袖にされても灰色髪の青年は、穏やかな表情を浮かべたままだった。



 夜は更けていき、盛大に開かれたレセプションも無事に閉幕。


 翌日からついに、ハルモニア王国の学生王都選手権(春)の戦いが始まる。


 すべてを賭けて戦う者。

 兄のためだけに杖を握る者。

 ただ楽しもうという者。


 そして――


 初めて勝ちたいと願う者。


 それぞれの想いを胸に、月は西の空へと沈み朝がやってくる。

 初日はシングルスの一~三回戦までが予定されていた。

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