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7.魔王、冒険者に勧誘される

 冒険者ギルドを探していたCランクパーティ"蒼炎の飛竜"と同行して、イセス達も冒険者ギルドに向かっていた。


 道中では、どちらからともなく互いに自己紹介を始めていた。イセス達は事前に決めておいた通り、異国のお嬢様と護衛の戦士という話で通している。

 "蒼炎の飛竜"の面々については、田舎の幼なじみ同士で立ち上げられ、幸いにも誰一人欠けること無く、中堅最高峰とも言えるCランクにたどり着いたパーティとの事だった。


「これが帝国冒険者ギルド・フォーゼン出張所だな!」


 "蒼炎の飛竜"のリーダー、戦士のロッドが一つの建物の前で芝居掛かった身振りを入れながら宣言した。


「思ったより小さいの」

「――否定はしない。所詮は辺境の地方都市の出張所。ただ、大きな都市のギルドは本当に大きい。あれは必見。未見であれば、ぜひ見て欲しい」


 イセスの正直な感想に、フォローを入れる魔術師の女の子、レナ。確かに、城とまでは言わないが、大邸宅並の建物を予想していたイセスにとって、目の前の建物は民家に毛が生えたような建物にしか見えなかった。


「ところで、あれは何じゃ?」


 イセスは建物の壁面を指差した。雨が掛からないように(ひさし)がつけられた壁面に、巨大なコルクボードが設置されているが、一面に羊皮紙が貼り付けられていたのだ。


「ああ、これは依頼書だ。何か困りごとを抱えた人がこうやって冒険者ギルドに依頼を出し、冒険者はそれを請けて仕事を果たし、代価を貰う。それが冒険者の基本的な活動だな!」

「普通はぁ、こうゆう依頼ボードって屋内にあるものなんですけどねぇ。中の狭さは予想以上かもぉ?」


 と、ぽやぽやした感じで喋るのは女性僧侶のシャーリーン。


「ま、百聞は一見に如かずってね。イセスちゃんも入るでしょ? うちらは中で挨拶しなきゃなんないから」


 木の扉を開けてイセス達においでおいでをする斥候、ギュンター。既にイセスをちゃん付けである。


「ここまで来て入らずに帰ったのでは意味が無いからの。シャノンよ、入るぞ」

「はい、お嬢様」


 イセスとシャノンに続き、"蒼炎の飛竜"の一行も冒険者ギルドの中に入っていったのだった。



              ◇   ◇   ◇



 中は想像以上に狭かった。只でさえ普通の商店並の広さしか無い室内が、カウンターで半分に区切られており、7~8人も入れば一杯になりそうな広さだった。

 カウンターの中には、職員らしき二人の姿が見える。一人は制服を着た若い女性、もう一人は平服を着た中年のおっさんだ。若い女性は忙しげに書類仕事をしているのに対し、おっさんの方は何やら本を読みながらだらしなく椅子に座っていた。

 来客に気付いた女性は、「いらっしゃいませ」と声を掛けながら、きびきびとした動きでカウンター前の席に移動する。おっさんの方は、ちらりと一行の方を見ただけで、そのまま本に視線を戻していた。


「悪いが、こちらの用事を先に済まさせて貰うぞ」


 しげしげと室内を見回すイセスに一声かけて、ロッドは職員の前に腰掛けた。


「お初にお目に掛かる! 我々はCランク冒険者パーティ"蒼炎の飛竜"だ。滞在中にこちらでお世話になるので、挨拶に伺った!」

「ご丁寧にありがとうございます。えーと、六人パーティでしょうか?」


 綺麗な金髪を揺らしながら、職員さんは首を傾げている。


「いや、我々はこの四人組だ。こちらのお二人は冒険者ではなく、帝国外からの旅行者だそうだ」

「あ、そうなんですか? 失礼しました。"蒼炎の飛竜"さんのように有力な冒険者の皆様は、いつでも歓迎しております。長く滞在して頂けると助かります。――現在の依頼は外に張り出しておりますので、どうぞご覧下さいね」

「ああ、そうさせて貰う。滞在中はよろしく頼む」


 と言いながら席を立つロッド。


「さて、我々の用事はこれで終わりだが……お嬢さんはどうされるのかな?」

「せっかくだからイセスちゃん、冒険者登録してみれば?」


 ギュンターの軽口に、目を丸くするイセス。そして狼狽(うろた)えるシャノン。


「冒険者、登録、じゃと?」

「ああああ、それダメな奴……」


 そんな二人に職員さんが声を掛けてくれた。


「あ、はい。国外からの旅行者なんですよね? 帝国内共通の身分証明にもなりますし、施設の利用割引もありますから、登録しておくとなにかと便利だと思いますよ」

「あー……っと、お、お嬢様、戦えない格好の人はダメだと思いますよ?」


 シャノンの声に、職員さんはイセスの容姿にさっと目を走らせる。頭の上から足の先まで鎧に覆われていて、背中には大剣(グレートソード)を背負っている戦士はともかくとして、連れの方はお嬢様然としつつ、着ているのは凡庸な民族衣装(ディアンドル)と、確かに戦いそうな雰囲気は見えない。


「あ、大丈夫ですよ。巡礼の方などで全く戦わない方でも、登録だけされる方はいらっしゃいますから」

「だ、そうだ」


 と言ったイセスは、シャノンの方へ振り向き、鎧の口の部分に手を掛けた。


「ところでシャノンよ、余が戦えぬと抜かすのはこの口か……?」


 口をつねるように力を込めるイセス。


「痛たたたたたたた!? 取れる、取れちゃいます! ごごごごごめんなさい、し、失礼しましたぁっ!」


 慌てて謝るシャノンに、満足したように手を離すイセス。頑丈そうな兜が少し曲がってしまっていたが、それに気付いた人は居ないようだった。

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