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6.魔王、冒険者と出会う

(リアルタイム読者様向け)以降は毎日1話ずつ昼過ぎに更新予定です。

「お帰りなさいまぁせぇ。服、できてまぁすよぉ」


 食事を終えて仕立て屋に戻ったイセスとシャノンを、おばさんは機嫌良く迎えてくれた。


「まずはご試着をお願いできまぁすかぁ?」


 と、早速、イセスを試着室に誘導するおばさん。イセスは受け取った服を片手に試着室に入り、ごそごそと着替えに入っていった。


「これでどうじゃ」


 カーテンを開けて出てきたイセス。彼女が着ていたのは、ディアンドルと呼ばれるこの地方の民族衣装だった。


 まず目に付くのは真朱(しんしゅ)色の胴衣(ボディス)と同色のミニスカートだ。その下には胸の部分が大きく開いた白いシャツを着ている。彼女のよく育った双丘は、その上半分が露わになって色白の肌が輝くように光を反射していた。そして下半分はシャツに覆われているが、十分な存在感を発揮しており、コルセットのように締め付けている胴衣でしっかりと支えられている。


 通常は(くるぶし)まであるロングスカートであるが、イセスの依頼によって膝上まで詰められていた。そのため、元々穿いていたシルクのガーターストッキングが露わになっており、庶民の衣服であるディアンドルと、庶民は纏わないであろう、ストッキングにハイヒールはミスマッチではあるのだが、不自然が故の淫靡さも醸し出していた。


「あ、いいでぇすねぇ。うちの服でも、着る人が着ると雰囲気違いまぁすねぇ」


 目を丸くしたおばさんは、様々な角度でイセスの服装を確認している。


「背中の方は……あらぁ、羽根、取っちゃったんですかぁ?」


 いつの間に隠したのか、翼を通すために広く開けられたシャツの背中部分は、イセスの白く輝く肌が見えるのみであった。


「うむ、見た人間が驚いてしまうからの」

「でも、サイズは問題無さそうでぇすね。このまま着て行かれまぁす?」

「うむ、そうじゃな。今日はこのままで行こうぞ」

「はぁい。それでは、こちらがお買い上げになった服と肌着で……あと、こちらのコートもどぉぞぉ」


 と、仕立て屋のおばさんは、イセスが購入した服を詰めた袋とは別に、胴衣と同色である真朱(しんしゅ)色のフード付き乗馬用コートを手渡してきた。


「これは何じゃ?」


 コートを手で広げて問うイセスに、おばさんは笑みを浮かべて返答する。


「おまけでぇす。同色のコートの方が映えますからねぇ」

「そうか。すまんの」


 と、包みを抱えて店を出るイセス達一行に、後ろからおばさんの元気な声が追いかけて来たのだった。


「また、ご贔屓(ひいき)にぃ! ありがとうございましたぁ」



              ◇   ◇   ◇



 仕立て屋を出たイセスとシャノンは、他の店を覗くべく、大通りを散策していた。だが、まだ数分も歩かぬうちに、彼らは後ろから声を掛けられる事となる。


「やあ、そこの冒険者諸君!」


 掛けられた声に振り向くと、そこには冒険者の1パーティと思われる四人の若い男女が立っていた。声を掛けてきたのはその中の一人、板金の胸当て(ブレストプレート)をつけた、やたら快活そうな男性の戦士だ。


「余の事か?」

「その通りだとも! 君たちに一つ聞きたい事があるのだが……この街の冒険者ギルドの場所は知らないだろうか!?」

「冒険者……ギルド、じゃと?」


 イセスの質問に対して、無駄に元気のよい返事が戻ってきた。首を傾げるイセスに代わって、シャノンが前に出て対応し始める。


「残念ながら存じ上げません。それに、私たちは冒険者ではありませんので」

「これは失礼した! 出で立ちから、てっきり冒険者の方かと思ってしまった」

「いえいえ、私も鎧姿ですからね。誤解されるのは仕方有りません。それでは……」


 と、頭を下げる冒険者達に挨拶をしつつ、さりげなく立ち去ろうとするシャノンだったが、イセスにひょいと押しとどめられてしまった。


「ふむ、(ぬし)等は冒険者なのか?」


 冒険者と言う言葉に食いついたイセスを見て、シャノンはしまったと言った風情で右手で顔を覆っている。


「いかにも! 我々は何を隠そうCランク冒険者パーティ、"蒼炎の飛竜"だ!」

「ほうほう、なにやら格好良い名前じゃの」

「おっ、これが分かるだなんて、お嬢ちゃんいいセンスしてるじゃない♪」


 イセスの反応を見て喜んでいるのは、二十代半ばくらいで、軽薄そうな感じの革鎧を着た男。他の三人は苦笑いしている所を見ると、彼が決めた名前なのかも知れない。


飛竜(ワイヴァーン)は炎を吐かぬし、蒼い個体もおらぬから、どの辺が蒼くてどの辺に炎が関係あるのか分からんが、の」

「はうっ!?」


 イセスのツッコミに、斥候風の男は図星を指されたように地面に崩れ落ちた。その横から、魔術師の帽子に長衣(ローブ)を着た女性がクールな声でフォローを掛けている。


「これは皆が子供の頃、モンスターの事とか全然知らない時分につけた名前。元々は彼の無知から来た。でもその時訂正できなかった私たちも同罪……」


 あるいは止めを刺しているのかも知れない。


「ははは、それなりに名前が売れてしまって今更変えられないんだ! 所で、随分人目を集めてしまっている。そろそろ移動した方が良さそうだぞ!」

「え……おおっ!?」


 戦士の声に周りを見渡したシャノンは、思わず驚きの声を上げる。大通りの真ん中でテンション高く話が飛び交っていたため、周囲に野次馬の人だかりができてしまっていたのだ。

 ただ、そのお陰で、冒険者ギルドを探していると言う事も分かったようで、


「おーい、冒険者ギルドはあっちだぞぉ!」


 なんて助けの声が、周囲から掛けられたのだった。


「おお、どなたか知らぬが、助言に感謝する! これで目的地は分かった。手間を取らせて悪かったな!」


 軽く会釈をして立ち去ろうとする戦士に、イセスは後ろから声を掛ける。


「いや、余もその冒険者ギルドなる物を見てみたくなった。済まぬが共に行かせて貰うぞ」

「そうか、旅は道連れと言うからな!」


 と、彼らが先導で歩き出した所で、イセスはシャノンの耳元に口を寄せた。


「ところで、シャノンよ」

「は、はひぃ?」


 他には聞こえないように低く、かつ、重い響きを持った声色にびくっとする。


「うぬは、余をこんな面白そうな所(冒険者ギルド)から遠ざけようとしてなかったか?」

「は、いや、その、お嬢様が立ち寄ってしまうと悪目立ちしてしまう可能性がございまして」

「あほう。余とて、今は目立たぬ事が肝心である事くらい承知しておるわ! ――まあ良い。お仕置きは城に帰ってからじゃ」

「は、はい……」


 兜の中の顔色は分からないものの、やや重くなったように見える足取りで、シャノンはイセスと共に、冒険者ギルドに向かったのであった。

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