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4.魔王、ディアンドルを購入す

 仕立て屋の店内には、老若男女、様々な年代の人々に向けた衣装が陳列されていた。もっとも街とは言っても帝国辺境の田舎街、貴族向けの絹や綿商品などもあるはずも無く、庶民向けの羊毛や亜麻による普段着が中心となった品揃えのようだった。


「いらっしゃいまぁせ」


 そして二人を出迎えたのは、恰幅の良い中年女性だった。

 入ってきたのが頭の先から足の先まで板金鎧に覆われた戦士に、フード付きのクロークを被って全く姿形が掴めない女性と言うこともあり、少し首を傾げて当惑した表情を見せている。


「旅の者ですが、着替えを紛失してしまいまして。こちらのお嬢様に肌着も含めて何着か見繕って頂けませんか?」


 その警戒を解くべく、なるべく明るい声を出すシャノン。


「あらあらまあまあ、それは大変でしたぁね!」


 客である事が分かったのか、安心した表情で明るい声を上げた中年女性は、イセスを試着室の前に誘導した。


「それじゃ、まずはサイズを測らせていただきまぁすね」


 と、おばさんはイセスの後ろに回り、彼女のフード付きクロークを脱がそうとしている。シャノンは、その姿を眺めながら、何かを忘れているような気がしていた。


「あらぁ……?」


 イセスのクロークを脱がした中年女性は、彼女の頭の角と、背中の翼を見て手が止まる。そこでシャノンは、イセスの角と翼に何も対処していなかった事を思い出した。


(ま、マズイ! 何とか誤魔化さないと……)

「あ~~~~~~~~~~っと!?」


 おばさんの注意を引くべく、大声を上げ、最終兵器、首ぽろりを敢行する。


 ガランガランと音を立てて転がる兜(中身入り)に、おばさんはびくっとして固まっている。慌てて兜を拾い上げて首の上に載せ直すシャノン。


「す、すみません、芸の仕掛けが暴発してしまいました。お気になさらずに」

「あらあらまあまあ、芸人さんだったんでぇすかぁ」


 シャノンの誤魔化しに納得したのか、おばさんはそのままクロークをハンガーに掛けて、巻き尺を取り出してきた。


「お嬢さんも仮装って言うんですかねぇ? お国での流行りでしょうかぁ? 服も可愛らしいでぇすねぇ」

「む……そ、そうか」


 イセスに話しかけつつ、漆黒ながら美しく光を反射しているドレスに手を当て、手際よく採寸していくおばさん。イセスはその勢いに飲まれたのか、そのまま為すがままに採寸されていた。


「ちょっと失礼しますねぇ」


 背中側に回り、漆黒の翼に手をかけるおばさん。


「あ、ち、ちょっ」

「まるで生きてるようでぇすね。よくできてますねぇ」

「んっ……はぁっ……」


 翼を手で軽く動かしながら巻き尺を通していくが、どうもイセスにはたまらなくくすぐったいのか、顔を赤くしてもじもじとするばかりだった。


「はぁい、大丈夫ですよぉ。ちょっと待ってて下さいねぇ」


 採寸を終え、巻き尺をエプロンのポケットにしまい込んだおばさんは、奥の倉庫らしき所に向かっていった。

 イセスは息を荒くして、よろよろと後ずさるばかり。半分涙目でシャノンを睨んでいる。


「シャノンよ……いつから余と汝は芸人になったのじゃ?」

「あわわわわわ……も、申し訳ありません。先に角と翼を隠すように進言しておくべきでした」

「だが、汝の機転で大事(おおごと)にならなかったのは事実じゃ。よって今回は、許す」


 イラだった様子をぐっと我慢したイセスは、ほっとした表情を見せているシャノンに、一応、念だけは押しておくのだった。


「じゃが、余が翼を触られた事は忘れよ。良いな!」



              ◇   ◇   ◇



「お待たせしまぁしたぁ」


 奥から何着か服を持ってきたおばさんは、長机の上にそれらを広げていった。


「ディアンドルって言うんですけどねぇ、この辺りの定番の服なんでぇすよぉ」


 白いブラウスと、様々な色に染められた胴衣(ボディス)、くるぶしまでの長いスカートにエプロンで構成されているようだ。


「お気に召す色はありまぁすかぁ?」

「ふむ、この色がよさそうじゃな」


 イセスは幾つかの色を見定めた結果、自らの髪の色である深紅にも映えそうな、艶やかな紅色である真朱(しんしゅ)色を選択する。


「そうですね、この色ならお嬢さんに似合いそうでぇすねぇ。あ、でも、これ、芸を披露する時にも着られるんですか?」

「ま……まあ、そうじゃな」


「じゃ、背中の羽根はつけたままでぇすよねぇ。ブラウスの穴開け加工、やりましょうか?」

「そうじゃな。よろしく頼む。あと、このスカートじゃが、余には少々長すぎるのでな、今のこれと同じくらいにできんか?」


 自らのドレスの裾を指差しながら頼むイセスに、おばさんは人差し指を顎に当てて少し考え込んだ後に了承した。


「膝上丈ですかぁ? 異国のファッションは斬新でぇすねぇ。うーん……ええまあ、できますよぅ?」


 おばさんの返事を聞いたシャノンは、懐に手を入れながら話を引き取った。


「それでは、同色で二着お願いします。あとは肌着も何着か。お幾らでしょう?」

「ディアンドル二着に肌着、お直しを入れて……銀貨12枚でぇすかねぇ」


 おばさんは値段を指折り数えてシャノンに回答し、シャノンはそれに応えて銀貨を手渡した。


「では、こちらで。――直しにはどのくらいの時間が掛かりますか?」

「うーん、昼くらいにはできまぁすよ。ちょっと早いですがぁ、時間つぶしがてらお昼にいらっしゃるのは如何(いかが)かしらぁ?」

「そうですね、そうさせて貰います。それでは、また後で」

「うむ、よろしく頼むぞ」


 おばさんの提案に乗ったイセスとシャノンは、昼食を摂るために仕立て屋を後にしたのだった。

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