28.魔王、作戦会議を行う
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特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。
「王女殿下、ご到着であります!」
案内の騎士の声にクラウスと騎士達はイセスの方に顔を向けた。そしてクラウスは笑みを浮かべながらイセスの方に近づき、左手を腹部に当て、右手を引く貴婦人に対する礼を行う。
「これは、お早いお付きで。フレデリクにはお会いになりましたか?」
「うむ。じゃが、彼奴はまだこちらに向かっておる途中じゃな。余は先行して飛んで来たのでな」
背中の翼に視線をやりながら応えるイセスに、クラウスは「それは便利ですな」と答えるしかない。
「さて、状況を教えて欲しいのじゃが」
クラウスに誘導され地図の前に立ったイセスは、ダンと両手を机の上に置いてクラウスに尋ねた。
「は、敵部隊の現在位置はこちらです。恐らく、この街に到着するのは昼前でしょう。総兵力は一万五千、騎士四千に魔術師と神官が合わせて百、兵士一万一千と言った所です。指揮官はニコラウス・フォン・フォルマン。迅速な戦略機動に長けた将軍ですな」
思ったより詳細な回答に、目を丸くするイセス。
「ほう、詳しいの」
「我々は上空からの偵察、と言うのは不可能ですが、その代わりに地の利、そして多数の"眼"がありますので」
「ふむ」
クラウスは涼しげな顔で、イセスに笑みを浮かべて返答した。その返答を聞いたイセスは、少し考え込む。戦を勝利に導くために最も重要な要素である情報、このクラウスと言う男は、その価値を理解し、得られた情報を正しく運用できているように見える。
「汝は、敵軍の行動をどう予想する?」
「現在得られている情報では、叛乱都市に対する鎮圧行動の枠組みで行動しているように見受けられます。昼頃にフォーゼン前に到着、威圧しながら降伏勧告を行い、その後は包囲による持久戦に移るでしょうな」
イセスの問いに、淀みなく答えるクラウス。イセスは戯れに更なる質問を重ねてみた。
「では、汝ならばこの局面、どう打開する?」
「我々は騎士が二十に兵士が二百。とても勝負になりません。あくまで王女殿下のチート頼りでございます」
できない事はできないと、あっさり肩をすくめるクラウスであった。イセスの方も期待していなかったようで、同様にあっさりと肯いている。
「まあ、そうじゃろうな」
「しかし、提案させていただくならば、殿下が大威力の魔法で攻撃されるのであれば、降伏勧告時が最適と考えます」
「ほう、理由は?」
「威圧のためにこの街から見える場所に全軍を整列させるはずです。行軍時は隊列が長く伸びてしまっておりますし、その後は包囲の為に分散してしまいますので」
納得する答えが得られたのか、イセスは満足そうに肯いた。
「うむ、汝の見立てで問題なさそうじゃな。なに、ただの人間の一万や二万など、物の数では無いわ、余が蹴散らせて見せようぞ」
「殿下のご活躍、期待しております」
と、頭を下げたクラウスであったが、ふと何か思いついた顔をする。
「蹴散らすと仰りましたが、一つお願いがございます」
「なんじゃ?」
クラウスは一瞬躊躇したが、意を決したように口を開いた。
「帝国軍を壊走させる事無く、確実にこの地で全滅させていただきたいのです」
イセスは一瞬あっけにとられたが、すぐに妖しい笑みを浮かべる。
「ほう、同胞をなるべく殺すな、とでも言うかと思ったが、皆殺しを希望するとはな。理由は?」
「は、帝国軍は現在、秩序立った行動を取っており、道中の村落に対する略奪等は行っておりません。叛乱鎮圧後に、速やかに治安を回復させなければなりませんからね」
クラウスは「ただ」と繋いで言葉を続けた。
「ただ、敗退して帝国領に向けて潰走しているような状態では、そのような自制は期待できません。そもそも、分散しゲリラ戦に移行してしまった場合、我々の戦力ではとても対応しきれません。なので、分散される前に、そのまま消え去っていただくしかない、という訳ですな」
顎の下に手をやり、しばし考えるイセス。
「ふーむ……理屈は分かった。ま、問題無いわ。確実に殲滅する事にしよう」
しかし、すぐに深紅の髪をなびかせながら小さく頭を振ると、黄金の瞳を輝かせて魔王らしい笑みを浮かべたのであった。
◇ ◇ ◇
その日の昼頃、異世界王女を標榜している魔王イセスと領主クラウスは、街を囲う城壁の上にあった。脇にはシャノン、フレデリクと数人の兵士の姿もある。
「汝の予測通りじゃな」
イセスの前には、クラウスの予想通りの位置に展開している帝国軍1万5千の姿があった。訓練され、整った装備の軍らしく、その軍勢は綺麗に整列し、騎士達の鎧は陽光に白く輝き、等間隔に並んだ旗が翻っている。
と、一人の騎士が、軍勢の中から単騎で進み出てきた。板金鎧であるが、明らかに他の者より手の込んだ鎧を身につけ、シルクのマントを翻している。
「敵将のフォルマンです」
イセスの側で小さな声で補足するクラウス。イセスはそれを聞いて小さく肯いた。イセスが黙したまま見詰める中でフォルマンは歩みを続け、街壁と敵軍本隊のほぼ中間、街から200mほどの地点で馬を止める。通常の攻撃魔法が届く距離ではないが、長弓の有効射程ぎりぎりの距離だ。
立ち止まったフォルマンは、顔が見えるようにゆっくりと面頬を上げた。その顔は三十前と思われるが、比較的童顔と言って良い顔つきであり、将軍のような勇猛な職についているようにはとても見えない。
そして彼は大きく息を吸い込むと、フォーゼンに向かって大きな声を上げたのだった。
「叛乱者共に告ぐ!」
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