25.魔王、冒険者ギルドのオーナーとなる
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特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。
二日後、帝国冒険者ギルド・フォーゼン出張所所長のトムは、書類を脇に抱えてフォーゼン城館内の廊下、扉の前に立っていた。
彼の前では、ここまで案内してきた城館の使用人が、部屋の中の主に取り次いでいる姿が見えている。
(まさか、いきなりご本尊の所に案内されるとは、な)
徹夜して新・冒険者ギルドの組織案を書き上げたものの、それをどのように王女様とやらに持ち込むか、トムには確たる当ては持ち合わせていなかった。
もともと、被る業務がありながらこちらは帝室直属の組織であるため、フォーゼン城館の人々からは非常に受けが悪い。なんとか執事あたりに取り次いでもらい、そこから口八丁手八丁で順繰りに面会の約束を取り付けなければならないと覚悟していたのだ。ところが……
「帝国冒険者ギルドのトム・ノイマンさんですね? お待ちしておりました」
と、門番から直通で案内される事になろうとは、全く予期していなかった。
「お、王女殿下はこちらです」
トムは使用人の導きに従って室内に入ったが、その彼は室内に入らず、そそくさと扉を閉じて去って行ってしまったのだった。
◇ ◇ ◇
(おいおい、普通は使用人の方から紹介するものじゃないかね?)
トムは使用人の無礼に内心あきれたが、田舎の出張所と言えども、流石に所長ともなれば貴人の接待をする場合もある。トムは片膝を床につけ、頭を下げて貴人に対する正式な礼を示した。
「帝国冒険者ギルド、フォーゼン出張所所長のトム・ノイマンでございます」
そして、自分から話すのは失礼に当たるため、王女の方から声を掛けてくれるのをしばし待つ。
「うむ。苦しゅうない、頭を上げよ」
耳に入った声は若い女性の声であったが、トムには聞き覚えのある声であった。
目を上げると、高級そうな机の向こうに、件の王女殿下であろう、一人の女性が腰掛けている姿が見えた。ただ、残念ながら純白のケープを身に纏っており、目深にかぶったフードからは鼻筋から口元までしか目にする事ができない。ただ、その整った鼻筋に虹色に輝く唇は、その本人の美しさを容易に想像させていた。
そして、彼女の背中に見える大きな黒翼が、彼女が人ならざる者である事を明確に示していたのだった。
「余がクリフォトの王女、ゼナニムである」
「は、お目通りいただき、恐悦至極に存じます」
(こいつぁ……この声と口元からすると、昨日の新人さんだよな? だが、この翼はどういう事だ? 冒険者としてやってきた時は、背中には何も無かった筈だが)
当たり障りの無い挨拶を行いながら、頭の中で新しく得た情報を高速に処理するトム。
「ゼナニム殿下におきましては、ご機嫌麗しゅうございます。この度は小官にお時間をいただき――」
「冗長な挨拶は無用じゃ。用件を早う申せ」
王女の催促に、トムは懐の書類に手を掛けた。
「は、殿下に新生冒険者ギルドのオーナーになっていただきたく、提案書を持参いたしました」
(ここは、同一人物であると気付いていると伝えるのが吉か凶か。それを隠したいのであれば、気がついた事が分かれば命取りになるかも知れん。だが逆に、気がついていない事を示せば、無能扱いされる可能性もある。危険だが、無能に思われるのはシャクだからな、まずは打診してみるか)
「まずは、フォーゼン帝国冒険者ギルドの現状についてですが……先日申し上げましたので、ご存じ、と言うことでよろしいでしょうか?」
「はて、余は汝とは今が初対面じゃぞ?」
きょとんとした声に、トムは一瞬、やってしまったかと内心緊張する。しかし、王女は直ぐにニヤリと口元を緩めて言葉を続けていた。
「じゃが、帝国冒険者ギルドの現状については熟知しておる。よって、再度の説明は無用じゃ」
(ふむ、あくまで知らない振りをしろ、と言うことか。では……)
「こちらが、提案書にございます」
懐から取り出した提案書を差し上げると、王女の目配せを受けた騎士――純白の上衣に真朱色の肩章を纏っているが、恐らく先日イセスに同行していたシャノンとか言う戦士――が、歩み寄って受け取り、王女に渡したのだった。
王女は提案書をぱらぱらとめくり、中身を確認する。
「ふむ、汝の希望は承知した」
提案書をパタンと閉じた王女は、あっさりした口調でトムに告げる。しかし、トムが安心した次の瞬間、王女は悪戯っぽい笑顔になり、言葉を続けていた。
「じゃが、余にはどのような利があると言うのじゃ?」
もちろん、利がなければ説得しようもない。トムは事前に考えておいていた案を説明し始める。
「まずは、戦力を提供できます。それも、騎士団では難しい、特殊な作戦をこなす事も可能です。適切な報酬を提示できれば、ですが」
肯く王女を見て、言葉を続ける。
「そして、殿下の民が助かります。騎士団が常駐するこの街はともかくとして、周辺には魔物、魔獣に悩まされる村は多く存在します。冒険者を派遣する組織を運営する事は、殿下の声望を高めるでしょう」
トムが用意していた回答はここまでだった。しかし、彼女がお忍び?で冒険者として登録していた事から、更にもう一つ、回答を追加する。
「何より、冒険者ギルドが存在していればこそ、この街に冒険者はやって来ます。もしそうでなければ……」
そしてトムは、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ギルドもないのに彷徨く冒険者は、さぞかし目立つでしょうなぁ」
「ふむ。汝の言いたいことはわかった。戦力に関しては、ま、当てにはしておらん。それに、余は民草の声望を気にするつもりは無いな」
王女は軽く肩をすくめながら、言葉を続ける。
「じゃが確かに、ギルドがなければ冒険者が滞在する理由もなくなるか。木を隠すには森の中、と言う訳じゃな」
王女はパシンと軽く、手を打ち合わせた。
「うむ、余が汝とその組織の面倒を見てやろう。汝の理想を追求するが良い」
「ありがとうございます。王女殿下の御為、誠心誠意勤めさせて頂きます」
その返答を聞いたトムは、王女に対して深々と頭を下げたのであった。
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