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21.魔王、神の光を放つ

 新刊3本同時投稿中です。下部にバナーを貼ってありますのでぜひご覧下さい。

 特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。

「お主等、少し下がっておいた方が良いぞ。シャノンもじゃ」


 イセスは、中庭の中央に歩みを進めながら、周囲に声を掛けた。シャノンに領主クラウス、そして彼の部下達は、イセスを中心に輪になるように広がっていく。


 そして中庭の中央で立ち止まったイセスは、周囲を見渡して人々が充分離れている事を確認し、右手をゆっくりと空に向けて振り上げた。


「まずは、遮蔽じゃな」


 指を鳴らすパシッと言う乾いた音がした直後、彼女の直上に直径5mほどの、赤黒く光る紋様環が出現する。そしてそこから生み出されるような形で、薄ら明るい水色に輝く半透明の球体が現れた。なお、役目を終えた紋様環は、球体と入れ替わりに消失してしまっている。


 巨大な魔法の球の出現に、部下達はどよめいている。クラウスは脇に立っている魔術師風の男に視線を向けたが、彼は驚きの表情のまま首を振り、さっぱり分からないと言う仕草を返すばかりであった。


「なんじゃ、これは単なるシールドじゃぞ? こんなもんで驚いていてどうする」


 更にイセスが指を鳴らすと、球体を輪切りにするような形で一瞬、更に大きな紋様環が出現したが、すぐに小さく縮んでいき、消失してしまった。ただ、紋様環が消え去ったその中央には、目をこらしてみなければ見えないほどの大きさの漆黒の物体が現れていた。それはただ小さいだけでは無く、その物体を通してみるとレンズのように反対側が歪んで見えている。

 大きな紋様環が出現した割には、黒い粒のようなものが出現しただけで終わってしまい、部下達の反応はやや当惑したものに変わっていた。


「こちらは逆に反応が薄いのう。光が曲がる程の物体じゃぞ? これが何を意味しているか汝等には分からんか」


 イセスは苦笑しながらぼやいたが、やはり反応が無いのを見て肩をすくめる。


「ま、良いわ。さて、ここからが本番じゃ」


 イセスが再び指を鳴らすと、半透明の球体の中に紋様環が三つ出現した。そこから拳ほどの大きさの(まばゆ)い光球が3つ出現し、漆黒の物体を囲んで回転し始める。

 いかにも危険そうな高エネルギー体の出現に、眩しさに目を覆いながら驚きの声を上げる部下たち。


「安心せい、これ自体はエネルギーの塊ではあるが、安定しておるから爆発はせん!」


 イセスはそう言いつつも、口の中で物騒な台詞を続けている。


(もっとも、同時に着弾させねば明後日の方向に吹き出すのじゃが、な)


 その間にも、光球は次第に回転速度を上げながら漆黒の物体に近づいていた。近づくにつれ、光球の形が崩れはじめ、真円から楕円に近い形に引き延ばされていた。

 頭上の球体を仰ぎ見ているイセスは精神を集中させ、口の中で小さく呟きながら、指を細かく動かしていた。と、いきなりクラウス達の方を向いて大きな声を上げる。


「さあ、そろそろじゃ。汝等、閃光と衝撃に備えよ! 目を(つむ)り、伏せた方が良いかも知れんぞ!」


 クラウス達は慌てて地面に這いつくばり、頭を抱える。そしてついに、回転する三つの光球が、中央の漆黒の物体に同時に到達した。


 その瞬間、漆黒の物体から強烈な衝撃波が発せられた。水平方向、同心円状に広がった衝撃波は、一瞬半透明の球体に捕らえられるも、ガラスが割れるような音と共に突破し、周辺に竜巻のような強烈な突風を瞬間的に巻き起こす。

 そしてもう一つ、垂直方向には、巨大な白く輝く光の束が発射されていた。まるで目の前が太陽になったかのような強烈な光を放ちながら、10m近い直径となった光の束は、空高く吹き上がっていく。


 クラウス達は何が何だか分からないまま、強烈な光に目を(くら)まされ、吹き荒れる嵐に翻弄されていた。

 光の束が噴射していたのは十数秒ほどであろうか。噴出が収まった頃合いを見てイセスが指を鳴らすと、残っていた黒い物体ごと消失したのだった。



              ◇   ◇   ◇



 吹き荒れた嵐の影響で色々荒れてしまったものの、中庭はまるで何も無かったかのように静まりかえっていた。頭を抱えて地面の上に伏せていたクラウス達は恐る恐る顔を上げ、無言のまま立ち上がる。文官達は怯えの顔を見せているが、騎士達は流石に露骨に怯えるわけにも行かず、厳しい顔を保っていた。


 立ち上がったクラウスは、上手くいったと微妙にドヤ顔を見せながらパンパンと手をはたいているイセスに声を掛ける。


「魔王殿、今のはいったい……」

「ん、知らんのか? これを人間界で使うのは二度目じゃぞ? これがソドムとゴモラを滅ぼした、余の"神の光"じゃ」

「なっ――!?」


 クラウスが知る伝説、それは遙か昔に存在した退廃の街に対し、神が硫黄と火によって神罰を下し、一瞬のうちに滅ぼしてしまったというものであった。


「あ、あれは神の裁きでは?」

「人を体よく操って戦わせる事しか知らん彼奴等(きゃつら)に、そんな力はないわ。あれは天界の奴らと取引した結果、余の力を貸したのじゃよ」


 今までの常識と異なる事実を聞いて呆然とするクラウス達の前で、イセスは魔王にふさわしい笑みを浮かべたのであった。


「さて、これで余は力を示したぞ。汝の決断を聞こう!」


 イセスに真正面から目を合わせられたクラウスは、一瞬目を見開いたが、すぐに力なく視線を外した。


「是非もなし、か……」


 小さく呟いたクラウスは、再びイセスに視線を合わせる。


「わかりました。私、クラウス・トラウトマンとこの街、フォーゼンは、魔王殿の傘下に加わりましょう」

「うむ、これからよしなに頼むぞ!」


 その返答を聞き、満足げに肯くイセスであった。


 なお、イセスが放った光は、領内のみならず、帝国を越え、この大陸の大部分から視認されたと言う。この大陸に住まう人類はこの日初めて、恐るべき力を持った何者かが出現した事を知ったのであった。

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