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20.魔王、新たな臣下候補を謁見す

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 特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。

「ほう!」


 領主クラウスの誘導により、中庭に到着したイセスは感嘆の声を上げた。いつの間に連絡していたのか、そこには鎧姿の騎士に平服の文官が合わせて三十名ほど、綺麗に整列していたのだ。


 クラウスの顔を見た彼らは、切れの良い敬礼を見せていた。クラウスはそれに対して片手を上げて返している。だが、その後に続いて現れたイセスの姿を見て、彼らの表情は一変する。ただ、目を見開いて驚きの表情を見せていたが、クラウスが動じていないからか、彼らの姿勢に変化は生じていなかった。


 イセスとシャノンを連れて部下達の正面にまで歩みを進めたクラウスは、そこで立ち止まった。なお、後ろに続いていた騎士達は、部下達の列の方に加わっている。



              ◇   ◇   ◇



「突然の集合命令ですまない! 諸君等に伝えるべき、ちょっとしたニュースが発生してしまったのだ」


 クラウスは、彼の部下達の前で大きな声を張り上げた。部下達は微動だにせず、彼の次の言葉に注目している。


「良いニュースと悪いニュース、そして、どちらでもないニュースがあるが……まず、良いニュースから伝えようと思う」


 クラウスは、ニヤリと笑みを浮かべて言葉を続けた。


「我等が愛すべき主君である、ロンスベルク辺境伯が急死されたとの報が入った」


 突然のニュースに、どよめきが走る。ただ、口笛を鳴らす音が聞こえるなど、かなりフランクな反応だ。


「この街の近くにある、シュヴァンシュタイン城。ロンスベルク辺境伯があの古城を占有して、何事かを行っていたのは周知のことと思う」


 彼らにとってはよく知られている事なのか、結構な人数が肯いている。


「あのはた迷惑なクソジジィ、寄りにも寄って魔王の召喚を行ってやがった。これが悪いニュースだ。自業自得で、出現した魔王に殺されたらしいがな」


 またどよめきが起こったところで、一人の騎士が挙手をする。くすんだ金髪のその騎士は、見たところ二十代半ばだが、頬に刀傷が残っているなど、歴戦の雰囲気を醸し出している。ただ、その声と表情は年相応の明るく快活なものであった。


「悪い、と言うより最悪なニュースな気がしますが。で、まさかとは思いますが、そちらのお嬢さんと何か関係が……?」

「おお、鋭いな。こちらがその魔王殿、と言う事だ」

「なっ……」


 しれっと暴露するクラウスに、絶句する騎士とその他の部下達。クラウスはそれに構わず説明を続けていた。


「安心しろ、少なくとも現時点において、我々と敵対していない。ともあれ、これが最後のニュースだ。その魔王殿がなぜここに居るのかと言うと……この街を魔王領に組み入れたいのだそうだ」


 クラウスは目の前の部下の顔を見渡した。皆驚きの表情で固まり、絶句してしまっている。


「当然その場合、この街は帝国に敵対する事になる。なぜこのような荒唐無稽な話を聞くのか、疑問に思う者も多いと思う。問題は、魔王殿は帝国軍100万に対してでも、勝算があると豪語しているのだ。つまり、それが真実であれば、我々が少々抵抗した所で街ごと消し飛ばされるだけ、と言う事になる」


 部下達の視線はイセスと、彼女の斜め後ろで立っているシャノンに集中した。イセスは腕を組みながらドヤ顔で仁王立ちしているが、シャノンは自然体のまま、ちんまりと立っている。


「無論、オレとて魔王殿の言葉を鵜呑みにしている訳では無い。ついてはこれより、勝算の根拠を披露して頂く手はずになっている。オレはその結果をもって、魔王軍の傘下に入るかどうか決めるつもりだ」


 クラウスはイセスに視線を向けると、イセスはドヤ顔のまま、小さく(うなづ)いた。


「ただ、これは帝国、いや、人類に対する裏切り行為だ。希望するならば、オレの麾下を抜け、この街を脱出してくれて構わない。諸君等の身の安全は、オレの命を懸けてでも確保しよう」


 そう告げたクラウスは、再び部下一人一人の目を見つめながら、結びの言葉を口にしたのだった。


「諸君等も、自分の目で見て判断して欲しい。――では、魔王殿、お願いする」



              ◇   ◇   ◇



 クラウスからの紹介を受けたイセスは、一歩前に踏み出した。

 その瞬間、クラウスの部下達の視線はイセスに集中したが、軽く目を細めて僅かに首を上げ、下目遣いに睥睨(へいげい)する。


 イセスの外見は、年の頃は二十歳前、輝く黄金の瞳を持ち、深紅の長髪からは山羊のような短い角が覗き、その背中には人ならざる者の証、漆黒の翼が広がっている。

 その均整が取れた肢体は、貴族の如き真朱色のドレスで飾られ、漆黒のコルセットによって絞り込まれている。ドレスながら膝丈と短めのスカートからは、ガーターストッキングに包まれてすらっと伸びた脚を惜しみなく披露していた。


「諸君。余が汝等の新たな(あるじ)となる、魔王ゼナニムじゃ」


 イセスは自分に視線を寄せているクラウスの部下達の顔を一人一人、ゆっくりと視線を動かして確認していった。魔王と紹介を受けたにも関わらず、自分に対して怯えた顔を見せる騎士が一人もいない事に気付き、微かに頬を緩める。そして一通り見終わったところで、軽く唇を舐めて湿らせてからゆっくりと口を開いたのだった。


「聞いての通り、余は汝等の旧主により、魔界からこの世界に招かれた。この世界は美しい。自然も、人工物も、そしてこの衣食などの人間の営み、総てが余にとっては愛すべき存在である。従って、余はこれら総てを征服したいと考えておる。諸君等には、余の陣営に加わり、余の覇道に協力して欲しい」


 イセスはここで、なるべく軽く聞こえるように口調を変えた。


「なに、汝等に求めるのはこれまでと変わらん。この街と周辺地域の治安維持と運営じゃな。その代わり、余と余の軍勢が汝等を外敵から護ってやる事になる。これが余が申し出た契約じゃ。ところが――」


 一瞬口を閉じ、視線をクラウスの方に向ける。視線が合ったクラウスは、少々ばつの悪い顔をしながら肩をすくめていた。


「――この者は余の力を疑っておってな。まずは、余の力の一端を披露してやろう。魔族の頂点たる魔王を伊達に名乗ってはおらぬ。刮目して見るがよい」


 イセスは口を閉じると、初めて目を細めて笑みを浮かべたのだった。

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