18.魔王、フォーゼン領主に面会す
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特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。
「クリフォトの王女、魔王にして大元帥たるイセス陛下、御進発ッ!」
よく晴れた雲一つ無い青空に、呼出役魔族の声が高らかに響き渡った。
本館の扉を開けて姿を現したイセスは、城門に至る石畳で舗装された道を、ヒールの音も高らかに歩み始めた。その服装は本来の正装、真朱色のドレスに漆黒の革のコルセットを身に纏い、黒く輝くガーターストッキングにハイヒールを身につけている。
道の左右には、バフォメットが召喚していた魔族達が総出で並び、直立不動の姿勢を保っていた。イセスは歩みながら、すぐ後ろに付き従っているバフォメットに耳打ちする。
「バフォメットよ、ちと仰々しくないか?」
「人間界で初の御親征でございます。これでも陛下をお見送りするには少なすぎるかと」
「ふむ……ま、人員に関しては、追々増やしていけば良かろう。無意味に召喚体を出して見栄を張る必要はないからの」
「は、承知いたしました」
イセスは修繕が終わり、扉が開け放たれている主城門を抜けた。そして、シャノンが召喚した馬車に乗り込みながら後ろを振り向き、右手を高く振り上げる。
「それでは行ってくる、余の不在中、城の方はよろしく頼むぞ!」
「「「はッ!!!」」」
こうして、バフォメット以下数百名の魔族達に見送られながら、イセスが乗り込んだ馬車は魔王城を出発したのだった。
◇ ◇ ◇
潜入のために街の手前で馬車を降りた先日とは異なり、今日は馬車のまま街の城門に乗り付けていた。当然、衛兵によって誰何されるのだが、旅行中の異国の王女が領主に面会を希望していると言う筋書きで、領主との面会を取り付ける事に成功していた。
なお、イセスはドレスの上からフード付きのケープを被り、顔は見えているが頭の角と背中の翼は見えないように装っていた。幸いにも、今のところ疑われること無く、異国の王女として扱われている。
シャノンの馬車の首無し馬も、イセスが作った少々歪んだぬいぐるみの頭部を身につけていたのだが、まるで本当の頭のように見える迫真の演技によって、衛兵に訝しまれる程度で済んでいたのだった。
城からやってきた騎士に案内され、街壁に囲まれた奥の方、小高い丘に築かれた城への入り口にたどり着く。馬車は城の外に残し、イセス達は城内の応接室らしき部屋に案内されていた。
ただ、その応接室らしき部屋に入ろうとした所で、シャノンは案内の騎士に声を掛けられたのだった。
「申し訳ないが、武器をお預かりさせていただいて構わないだろうか?」
「あー、まあ、仕方有りませんね」
板金鎧を身に纏い、背中には大剣を担いでいたシャノン。一瞬、イセスに目をやり、彼女が肯いたのを確認した後で、武装を解除し、騎士に手渡していた。
「領主はすぐに参ります。少々お待ちいただきたい」
シャノンの大剣と短剣を預かった騎士は、一礼すると部屋を出て行ってしまった。入れ替わりにメイドがカートを押してやってきて、イセスの前に香茶のカップを置いて再び出て行く。
再び誰も居なくなった応接室で、イセスは腕を組み、堂々とした態度で椅子に座っていた。シャノンはその背後で直立不動の姿勢のまま、領主の到着を待つ。ただ、騎士の台詞の通り、それほど待つことも無く、ドアがノックされる事となった。
◇ ◇ ◇
「どうぞ」
イセスの声に応じて現れたのは、三十代の半ばだろうか。やや風采が上がらないようには見えるが、顎髭と口髭を蓄えた赤毛の男性だった。仕立ての良さそうな平服を身に纏っている所を見ると、どうも彼がこの街の領主のようだ。その領主に引き続いて、案内役だった騎士も入室する。
「お待たせした。私がフォーゼン領主のクラウス・トラウトマンだ。この帝国を旅行中の王女殿下と伺いましたが……当方にどのような御用ですかな?」
「うむ。――まず用件に入る前に、余の立場をはっきりさせておこうか」
イセスはゆらりと立ち上がると、その身を覆っていたケープを片手で勢いよくはぎ取ってしまう。
「陛下!?」
いきなり正体を明かすイセスに驚愕の声を上げるシャノンの前で、イセスの背中にある漆黒の翼が勢いよく横に広げられた。ケープを脱いだ勢いで大きく広がった深紅の長髪が落ち着くと、その頭部には山羊のような二本の小さな角があるのが見て取れる。
「なッ……」
「魔族!?」
意外に反応良く後ろに跳びすさる領主。そして、その領主をかばうように騎士が前に出てきて、勢いよく抜刀した。イセスはその姿を見て、指を一本立て、左右に小さく振った。
「一つ、訂正させて貰おう」
「なに!?」
「ただの魔族ではない……我は、魔王なり!」
と、どや顔で宣言したイセスであったが、騎士はそれに構わず片手で呼び子を取りだし、一気に吹き鳴らした。それに応じて更に数人の騎士が乱入、イセスとシャノンに剣を向ける。
抜刀された数人の騎士に囲まれたイセスであったが、全く動ずることない。ただ、不機嫌そうにやや目を細めながら、口を尖らせている。
「おぬし等、もう少しこう、リアクションはないのか? 『王女様かと思ったら魔王だとっ!?』とか、『こんな可憐な女性が魔王だなんて!』とか……色々あるじゃろ? 無視とはひどくないかの?」
「陛下、それはいくら何でも無茶振りでは……」
イセスの護衛役であるシャノンではあったが、総ての武器を預けているため抜剣しようも無く、手持ち無沙汰に立つしかない。イセスの前に立とうにも、イセスがもう少し下がってくれなければ割り込む隙もなさそうであった。
ともあれ騎士達は、イセスの台詞に反応を示すこと無く、無言で剣を向けたままであった。ただ、攻撃の命令もないため、それ以上動く事も無く、膠着状態が続いていた。そしてそれは、領主のクラウスの声で破られる事になる。
「どうやら、問答無用で我々を攻撃しようと言う気はなさそうだな」
「最初から、面会希望と伝えておったじゃろうが」
「ふむ……分かった。話を聞こう」
「クラウス様!?」
思わず驚きの声を上げる騎士達。
「無論、魔族は人間の敵だ。だが、わざわざ話をしたいと言うのであれば、聞いてやるのが筋だろう? 大丈夫だ、問題無い。お前達は下がってよろしい」
案内の騎士には剣を納めさせ、他の騎士は全員退室させた領主クラウスは、イセスに座るよう手招きした後、彼自身も席に着いたのだった。
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