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16.魔王、"勇者"の存在を知る

 新刊3本同時投稿中です。下部にバナーを貼ってありますのでぜひご覧下さい。

 特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。

 明日以降、投稿時間を昼に戻すかも知れません。

「汝を一人で倒せるとは、彼の者はどのような技を使ったのじゃ?」


 バフォメットが昨今召喚された地において、一人の人間によって倒されたという話を聞いたイセスは、椅子の向きをバフォメットの方に向けて座り直していた。


「は、人間共が通常使う魔術とは、やや異なった使い方をしておりました。そのためか、純粋な破壊力としては侯爵級に匹敵していたかもしれませぬ」

「ほう、只の人間でか!? それはぜひ会ってみたいものじゃな! 年の頃はどのくらいだったのじゃ!?」


 ただの人間が、上位魔族並の威力を持った魔法を使ったと言う話に、勢い込んで身を乗り出すイセス。


「見た目は相当若うございました。人間の年齢は正直分かりかねますが、恐らく十代半ばかと」

「なに、十代とな? いいのぉ、実に良い。いくら強くても、じじぃでは意味が無いからのぉ」


 にんまりと笑みを浮かべるイセス。


(今は若くとも、人間じゃと十年……いや、五年も経てば余と見た目は揃えられるな。逆に育成を楽しむと言う手も……んふふふふふ)

「陛下?」


 ただ、それに(とど)まらず、ぶつぶつ言って含み笑いを漏らし始めたイセスをバフォメットは当惑した表情で見つめていた。


「ごほん、い、いや、何でも無い。して、その人間と出会った場所は、ここから近いのかの?」


 視線を感じたイセスは、慌てて咳払いをして誤魔化す。


「どうやら隣国のようですが、そうですな、人の脚で一ヶ月と言った所ですが、陛下であれば一日でたどり着けましょう」

「そうか、一日で行けるのか……ちなみに、外見的な特徴はどうであったか?」

「そういえば、奇妙な服装でしたな。ピンクの帽子とドレスに白のエプロンと、かなり派手な衣装でございました」


 そこまで聞いたイセスは、ぴしっと固まってしまう。そして数瞬の後、絞り出すような声を上げる。


「ちょっと待て。ドレス、じゃと?」

「は、陛下のご装束には遠く及ばぬ、質素な物でございましたが」

「男では、なかったのか?」

「は、少女でしたな」

「………………」


 イセスは、口を半開きにしたまま、しばらく固まっていた。


「女では意味が無いのじゃ……」


 そして溜め息交じりに一言呟くと、肘をテーブルの上について頭を抱えてしまったのだった。


「へ、陛下……?」


 イセスの豹変に困惑して腰を浮かすバフォメットに対し、なーんとなく理由を察したシャノンは慌てて話題を変える。


「ば、バフォメット様、それほどまでに強かったと言うことは、彼の者は"勇者"ではなかったのでしょうか?」


 振られたバフォメットも、不穏な様子のイセスを目の当たりにして話題変更に乗ってみる。


「む、シャ、シャノンよ。そうじゃな……いや、儂は過去に"勇者"と相対した経験があるが、今回のあれは"勇者"ではなかったな」

「ではまた、今後、"勇者"がやって来る可能性がある、と言うことですよね?」

「うむ、今はまだその時ではないが、我々が支配地を広げていけば、いずれまみえる機会が来よう」

「では、我々も"勇者"対策を考えておく必要がありそうですね」



              ◇   ◇   ◇



 と、シャノンは、イセスがジト目で自分の方を見つめている事に気がついた。


「イセス様、な、なんでしょう?」

「うぬ等、余の知らぬ話で盛り上がっておるの。なんじゃ、その"勇者"というのは?」


 バフォメットは、イセスからの質問を引き取って回答する。


「は。まさしく、それは天界の奴ばらの仕業でございます。人間共の世界が何者かに征服されようとした際、彼の者どもはその撃退のため人間に手を貸し、"勇者"に変じせしめるのです。自ら手を汚さず、人間共を使嗾(しそう)する奴等らしい所業ですな」


 "勇者"の話に興味を持ったのか、少し機嫌が直ってきたらしいイセスは、身体を起こして身を乗り出してきていた。


「ほう。……で、強いのか? その"勇者"とやらは」

「天界の力が添えられておりますので、率直に申し上げて、なかなかの物、と言わざるを得ません」

「ふむ、そのような強者(つわもの)が、人間界を征服しようとするだけで、向こうからやってきてくれる、と」

「その通りでございます! 魔界制覇に飽き足らず、人間界に於いてでもあくまで強き者との戦いをお望みとは、このバフォメット、感服の至りでございます」


 にやりと口元をほころばせるイセスに、仰々しく手を広げて感動する仕草を見せるバフォメット。


「あー、まあ、強き者と戦いたいというか、なんと言うか、余の相手を探しているというか……」


 バフォメットからは微妙に視線をそらせつつ、イセスは何やら歯切れの悪い返事を返す。ただ、途中で何か思いついたかのように、唐突にバフォメットに質問を投げかけたのだった。


「そ、そうじゃ、その"勇者"達の性別はどうなのじゃ? どちらが多い?」

「そうでございますね……臣が目にしましたのは若き男性ばかりでございます」

「そうかそうか、若い男ばかりか! それが列をなして余の下にやって来ると言うわけじゃな!」


 それを聞いたイセスは、浮かれて手をぐにぐにさせながら笑みをこぼす。その様子を見ていたシャノンは、ついつい、軽口を飛ばしてしまった。


「イセス様を倒しにやってくる"勇者"が、イセス様になびくでしょうかね?」

「む!? むむむむむ、そうか……難しいかのう?」


 勇者を呼び寄せて婿候補にする作戦の、致命的な欠陥を言い当てられ、唇をむにむにさせて口ごもるイセス。ただ、思いも寄らぬ所から鋭い声が上げられた。


「「下卑(げび)た想像で陛下に対して口を挟むとは何事か!」」


 シャノンが声の方向を見ると、リリィとルリィが自分を険しい目で睨んでいる事に気付く。


「あ……これは失礼」

「「陛下は孤高の超越者、恋人を求めるような柔弱な方ではない! 首無し!」」


 との指摘に、無言で肩をすくめるシャノン。


「――待て」


 その様子を見たイセスは、柳眉を逆立てて、低い声で一言だけ発していた。


 そしてその瞬間、メインホールの空気は一瞬のうちに張り詰め、まるで急に気温が下がったかのようにすら感じられたのだった。

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