15.魔王、魔王城で夕食を摂る
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特に「最強賢者は~」は本作と関連が強い作品となります。
※2022/11/19 当初、ハーレム賢者15話が誤って掲載されていました。申し訳ありません
「召喚は簡便で使い勝手も良いのじゃがな、憑依した媒体の制限もあるし、あくまで本体の一部分のコピーに過ぎぬから、発揮できる力は限られておる」
そういうとイセスは、軽くジャンプしてくるりと回転した。
「それに引き替え、転送はこの通り、余自身が自らの肉体と共にこちらに来ている、と言うわけじゃ」
「なるほど。そういえば確かに、突然イセス様が行方不明になられたので、城内は騒然としておりました」
「そうじゃな。確かに、魔界では余やバフォメットが消えた事になっておるから、まずは連絡してやらねばならんの」
と、イセスはそこまで話した所で、おもむろに立ち止まった。
「まあ、これからバフォメットも交えて話せば良かろう」
ちょうど目的地の本館に到着したようだ。イセスはその玄関扉を開けようと手を伸ばしたところで、その扉が内側から開けられようとしている事に気付く。
「陛下、お帰りなさいませ」
「うむ、出迎え、ご苦労!」
イセス達を出迎えたのは、黒山羊の頭に黒い翼を持つ魔神、バフォメットであった。彼はイセスの目の前に立つと、巨大な体躯を優雅に屈め、深々と一礼したのだった。
◇ ◇ ◇
イセスとシャノンは、バフォメットの先導に従って大広間にたどり着いていた。謁見や会議、会食などに使われるのであろう大広間は、今はコの字状の大きなテーブルが置かれている。
勿論、イセスは最も奥の上座に腰を降ろしていた。バフォメットはそれに次ぐ場所の、イセスの向かって左前に腰を下ろす。
シャノンは護衛と給仕のため、イセスの斜め後ろに立とうとしていたが、振り向いたイセスに制止されていた。
「そこでは食えんじゃろ。今、この城で物を食えるのは、余とお主等3人しかおらん訳じゃからな。今日はそこに座ると良い」
「は、しかし、それでは給仕は……?」
「案ずるな」
バフォメットとは反対側の席につくよう促されたシャノンは、困惑した声を上げたが、イセスはそれに構わず、右手を軽く挙げて指をぱしっと鳴らした。
次の瞬間、イセスの目の前の空中に赤く輝く魔法陣が現れる。
そして、魔法陣の明るさが増したかと思うと、そこから二体の女性の人型が現れていた。人型とは言っても、最初は雪像のように白く輝いていて、まるで人形のようであったのだが、みるみるうちに色づいていき、普通の人間(正確には魔族であるが)と変わらない姿に変わっていく。
その姿はイセスに少し似ており、それぞれ白銀色と黄金色の髪から、やや小さめの角が覗いていた。その背中には、黒色の翼が折りたたまれている。その服装は黒地のミニスカートのワンピースに、白色のエプロンによるメイド服であった。
空中に出現し、床の上に降り立った二人は豊満な胸を強調するように腕を組み、挑発するように下目遣いで召喚者の方に目をやったのだが、
「「人間界より我等を召喚するとは、一体、何者だ――って、陛下!?」」
イセスを視認した二人は、慌ててイセスに向かって片膝をつき、ひざまづく。
「「た、大変失礼をいたしましたっ!」」
「うむ、リリィ、ルリィ、お主等に頼みがあってな」
メイド達に向かって口を開いたイセスだったが、一瞬、くぅとお腹を鳴らして口を閉ざす。数瞬の躊躇の後、改めて口を開いていた。
「む、まずは、給仕を頼もう。余は腹が減ったのじゃ」
再びイセスが指をぱしっと鳴らすと、今度はフォーゼンで購入した料理が空中から現れ、机の上に並べられていった。購入してから小一時間は経っているはずではあるが、まるで出来たてのように湯気を立てている。
「「陛下が空腹、で、ございますか?」」
「ああ、ともあれ食ってからじゃ。余だけではなく、バフォメットとシャノンにも頼むぞ」
立ち上がりながら、そこで初めてイセス以外の存在に気がついたかのような素振りを見せるリリィとルリィ。しかし、シャノンに対しては、あからさまに厭そうな顔を見せていた。
「「バフォメット様と……この、首なしに、ですか?」」
イセスはその反応には構わず、しれっとした表情で言葉を続ける。
「うむ。今、この城で飯が食える数少ない面子じゃからな」
「「は、仰せのままに」」
イセスの命に二人は顔を見合わせたが、次の瞬間にはイセスに対して深々と頭を下げたのだった。
◇ ◇ ◇
リリィとルリィの給仕により、その日の夕食は滞りなく進んでいた。まずは食べる事に専念していたイセスだったが、ついに腹をさすりながらフォークを持つ手が止まってしまう。
「ううむ、旨いからと言って、ちと調子に乗って食い過ぎたかもしれん。デザートにたどり着く前に腹が一杯になってしもうた」
その横では、バフォメットが巨体ながら人間サイズのカトラリーを器用に使いながら、上品に、しかし、かなりの勢いで食事を平らげていた。イセスと違い、体格が大きいだけにまだまだ余裕がありそうだ。
「陛下の仰るとおり、この料理はなかなかのものでございますな。無力な人間共ではありますが、彼らが作りし料理に対しては、臣も一目を置いております」
「そういえばバフォメットよ、汝は最近人間界に召喚されたのじゃったな」
イセスの言葉に、バフォメットのナイフの動きが一瞬止まる。
「は、しかも人間の肉体に憑依したものですから、食事を楽しむ事もできた筈でございますが……その間もなく倒されてしまいまして」
珍しく首を振りながら苦笑するバフォメットを、イセスは興味深そうに見つめていた。
「ほう? 召喚体とは言え、汝を倒せる者がこの世界におったのか。何人がかりだったのじゃ?」
「それが、一人の魔術師にございます」
「――ふむ、詳しく聞こうかの」
イセスはバフォメットの方に椅子の向きを変え、座り直したのだった。
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