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12.魔王、Sランクの実態を知る

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 へたり込んだ"蒼炎の飛竜"の魔術師レナの前で、イセスは腕を組んで仁王立ちとなり、どや顔を見せていた。


「――で、レナとやらよ。これで余の力が分かっただろうか?」

「わ、私には、あなたが言っている事が全く理解できない」


 イセスに見つめられたレナは、座り込んだまま力なく首を左右に振った。


「で、でも、一つだけ、分かった事はある」

「ほう?」


 と、片方の眉を上げるイセス。


「あなたは、Cランクの私を遙かに超えた……いや、私と比べる事すらおこがましい、そのような出鱈目な力を持っている、と言う事」

「――と、言うことは、合格と言う事で良いのじゃな?」

「も、もちろん。否定する理由は一つも無い」

「そうか! うむ、他人に認められると言うのも、たまにはいいものじゃな!」


 と、イセスは、片手をレナの方に差し出して立ち上がらせながら、満面の笑みを浮かべたのだった。



              ◇   ◇   ◇



 試験を終えた一行は、再び冒険者ギルドに戻ってきていた。

 カウンターの内側に一人入ったギルド職員のイザベルは、試験官を勤めた"蒼炎の飛竜"のロッドとレナと何やら話し込みながら書類の準備を進めていた。


「はい、こちらで問題ありません。試験のご協力、本っ当に、ありがとうございました!」


 最後に書類をフォルダーに綴じ込むと、イザベルはロッドとレナに試験官としての日当を手渡していた。銀貨を受け取った彼らがカウンターから離れた所で、今度はイセスとシャノンに声を掛ける。


「イセスさん、シャノンさん、お待たせしました!」


 ロッドとレナと入れ替わるようにカウンターの前に移動するイセスとシャノン。


「うむ。それで、余と此奴(こやつ)のランクとやらは、幾つになるのじゃ?」

「はい、スキップ制度の適用により、Cランクでの登録となります」


 不満げに目を細めて僅かに口を尖らすイセス。


「なんじゃ、思ったより地味じゃの」

「すみません、出張所(ここ)では、Cランクまでしか認定できないんです」

「ここでは、か。つまり、他ではより上のランクの認定が出せると言うことなのかの?」

「あ、はい。地方本部であれば、試験を受ければSランク認定を出すことができます。最寄りだと、ここから4日くらい先の大都市、ミンガにありますね」

「ふーむ、ここから4日か……」


 腕を組んで考え込むイセス。イザベルはその様子を無言で眺めていたが――


「イザベルくん、不可能な事を伝えても意味が無いんじゃないかな?」


 背後から聞こえてきた声に、イザベルが振り向くと、所長のトムが相変わらずだらしなく座りながら本を読んでいた。視線は本に落としたままだが、耳に入った声は間違いなくトムの声だ。


「あの、規則では、地方本部でSランク認定試験を受けられましたよね?」

「規則では、な。だが、実際にはそうはならない。――そうだろう?」


 ようやくトムは顔を上げたが、その視線は、"蒼炎の飛竜"のリーダー、ロッドに向けられていた。問われたロッドは、無言で肩をすくめるばかり。彼らの様子を見ていたイセスは首を傾げていた。


「一体、どういう事なのじゃ?」

「うん。Sランク冒険者と言うのは、正直言うと、普通の冒険者はなる事ができないんだ。どんなに強くても、な」

「では、どんな冒険者ならなれると言うのじゃ?」


 イセスの疑問に、ロッドは苦笑交じりに説明してくれた。


 ――ロッドの説明によると、Sランク冒険者は半ば名誉職となっているとの事だった。貴族やその配下、あるいは貴族に取り入った豪商などが功績有り、として任命されているのだそうだ。

 Sランクが名誉職という事であれば、実質の最強はAランクになるのではあるが、それも、認定試験を請け負ってくれるお人好しを見つける事は困難との事だった。

 認定試験はそのランクの人間が行う必要があり、しかも、強さに見合わないランクに無理矢理上げてしまう事を防ぐため、試験官は受験者の活動に責任を持たなければならない。


「強ければライバルになるし、弱ければ自分がペナルティを受ける。そして、同格の冒険者からは、頭数を増やしたことを恨まれる。正直、試験官は割に合わないんだ」

「じゃが、お主はやってくれたぞ?」

「まあ、ライバルを気にするほど、Cランクに希少価値は無いからな!」

「いえ、Cランクと言えば、中堅でも上位になります。当ギルドにはCランクの常駐冒険者はおりませんでしたので、本当に助かりました」


 笑い飛ばすロッドに、イザベルは首を振って否定している。


「ふむ、既得権益やら前例やらを重視して硬直した官僚組織、と言う奴じゃな。――ま、事情は分かった。Sランクとやらがそのような状態では、余も興味が失せるというものじゃ」


 イセスはその様子を腕組みしながら眺めていたが、事情を概ね理解し、肩をすくめるばかりだった。



              ◇   ◇   ◇



「それでは、認識票の作成に移らせて頂きますね。ええと、今からの発注だと、完成は明朝になりますが――」

「ああ、イザベルくん」


 イザベルが話を進めようとしたところに、またまた後ろから割り込みを入れる所長のトム。


「今度は何ですか、所長?」

「投げるぞ」

「え?」


 イザベルが振り向いたところに、再び本に目をやっていた所長は、視線を本に置いたままに何かを放り投げた。それは見事な放物線を描いて、イザベルの手の中に収まったのだった。そして彼女は、その二つの金属片を目にして、驚きの声を上げる。


「これは……イセスさん達の認識票じゃないですか! 試験結果が出る前に発注されてたんですか?」

「ああ、この人達が落ちるわけ、無いからね。――規格外に強かった、だろ?」

「あ、はい。確かに、仰る通りでしたが……もしかして、イセスさん達をご存じだったんですか?」

「まさか、初対面さ。オレの勝手な見立てだよ」


 二人のやりとりを見ていたイセスは、シャノンの兜に唇を寄せて耳打ちする。


(シャノンよ。余は完全に人間に見えておろうな?)

(はい、角も翼も出ておりませんし、魔気も隠蔽できています。特に違和感はないはずですが)

(まあ、目利き、という奴なのじゃろうな。ふむ、冒険者ギルドのトムか。覚えておく事にしよう)


 イセスは口の中で呟くと、脳内の有能リストに彼の名を書き加えておいたのであった。

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