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9.魔王、シャノンの剣術試験に茶々を入れる

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 イセス達は冒険者としての登録を進めていたが、高ランクから開始できるスキップ試験の許可を得ようとしていた。


「所長、仕事ですよ!」


 イザベルが声を掛けてから、たっぷり十数秒経った後、おっさん(所長)は頭を掻きながらゆっくりと立ち上がった。


「ああ~? 面倒臭いなぁ」


 そして、背中を丸めながら、のたのたとイセス達の方にやってくる。


「数少ない仕事なんですから、お願いします! 新規登録されたこちらのお二人に対する、スキップ試験認否のための面談です」

「へぇ~え?」


 所長は肩越しにイザベルの手元にある書類を見たあと、腰を屈めて少し目を細め、イセスとシャノンの目を(シャノンは目がありそうな部分を)、じっと見つめ始めた。


 十数秒ほど無言で見詰めた後、腰を伸ばしてあっさりした声で了承する。


「うん、いいよ、スキップ試験」

「は?」


 当惑した声を上げるイザベルを尻目に、所長は後ろ手で腰を叩きながら、再びのたのたと自席に戻り始めた。


「オレが良いって言ってんの。"蒼炎の飛竜"さんが見てくれるんでしょ? なら間違いないでしょ」


 自席に着くと、先程まで読んでいた本を開いて読み始めた。イザベルに視線を向けることもなく、彼女を追い出すように右手をプラプラと振って合図をしている。


「オレはお留守番してるからね。試験、行ってらっしゃい」



              ◇   ◇   ◇



「すみません、うちの所長が失礼しました」


 イセス達と"蒼炎の飛竜"の面々は、イザベルの誘導に従って、街の外への道を歩んでいた。


「中央でバリバリやっていたらしいんですけど、改革を断行しようとして干されちゃったらしいんですよね……それで、あの有様なんです」

「いや、あの目つきは気に入ったぞ。生意気にも、余の力を測ろうとしておったわ」

「まあ確かに、一目見て、ダメだよ~と却下される事もありますね。そのような方は確かに、大成されていない印象を受けます」

「なるほど、腐れども切れ者此処に在り、といったところかの」


 腕を組んで一人、納得したように頷くイセスだった。


 一行は門番にこれから模擬戦を含んだ試験を行うことを告げ、そのまま城門を出ていく。街道から少し外れた河川敷まで進んだところで、ようやくイザベルは足を止めた。


「この辺りでよろしいでしょうか」

「ああ、広さも充分だし、ここなら誰かに迷惑になる事はなさそうだな!」

「それでは、まずはシャノンさんの評価試験を開始します。シャノンさん、"蒼炎の飛竜"ロッドさん、よろしくお願いします」


 イザベルの誘導に従い、シャノンとロッドは、ある程度の間隔を取って向かい合った。シャノンは両手持ちの大剣に板金鎧、ロッドは幅広剣に三角盾、板金の胸当てに煮固めた革鎧を身につけている。なお、防具は自前の物を使っているが、武器はそれぞれ冒険者ギルドが貸し出した、刃を潰した練習用武器だ。


 イザベルは二人の中間から少し離れた場所に立ち、それ以外の面々は、更に少し後方で待機している。


「準備はよろしいですか? あくまで腕前を見るための試験ですので、極力相手を傷つける事はないようにお願いします」

「勿論だとも!」

「はいはい、承知してます」


 普段通り、ロッドは快活に、シャノンは飄々と返事を返している。それを見て肯いたイザベルは、右手を高く挙げ、そして、振り下ろしたのだった。


「それでは、始め!」



              ◇   ◇   ◇



 ギルド職員、イザベルの試験開始を告げる声に、試験官である"蒼炎の飛竜"の戦士、ロッドは、右手の幅広剣と左手の三角盾を構えて臨戦態勢に移っていた。


 しかし、次の瞬間――空気が、変わった。


「なッ!?」


 目の前に飄々として立っていた、鎧姿のシャノンという戦士。その姿が、一気に一回りも二回りも大きくなったように見えた。そのような存在に相対した自分の全身が、粟立つような感覚に襲われている。

 異変を感じたのか、近くの林から飛び立っていく大量の鳥たち、それすらも影絵のように無音で、遠くに感じていた。

 シャノンの頭は板金兜に完全に覆われていて、その表情は全く見えないが、まるで、暗闇の奥で目が赤く光っているようにすら見える。

 初心者時代、強敵が目の前に立った時の事を思い出す。膝が震え、身体が言うことを利かない。ロッドは次第に息苦しくなり、自然に荒く息をつき始めた。

 シャノンは大剣を中段に構えたまま、こちらの様子に構わず、緩やかに前進してきている。


「くっ……」


 そしてついに、ロッドの目の前にまでたどり着いてしまった。シャノンは無言のまま、大剣を大上段に振り上げ、ぴたりと静止する。

 あとは己の頭上に振り下ろされるのを待つしか無い。ロッドは自由が利かない手をなんとか動かし、剣と盾を頭上に掲げて大剣を防ごうとしていた。そして、大剣がついに――


 がつんっ!


 と、シャノンの兜のあたりで何か堅い物が当たる音がして、その頭が大きく揺れ動いた。


「あほう! 威圧を使ったのでは意味が無いじゃろうが!」


 どうやら、後方に控えていたイセスという魔術師?が、シャノンに向けて石を投げつけたようだった。シャノンは慌ててイセスの方を向いて言い訳を始めている。


「も、申し訳ありません、ついうっかり、いつもの癖で!」

「これは試験なんじゃろう。剣の腕前だけで勝負せぬか!」


 いつの間にか、シャノンから感じていた圧迫感は雲散霧消していた。見回すと"蒼炎の飛竜"の他の面々もそれまで圧迫を受けていたのか、肩で息をついている。審判を務めていたイザベルも、ようやく動けるようになったのか、慌ててイセスに注意していた。


「い、イセスさん、介入はダメですよ!」

「うむ、すまんな。あとは此奴等(こやつら)に任せよう。これで仕切り直しじゃ!」


 イセスがパンパンと手を叩くと、シャノンは再び開始位置に下がっていき、ロッドに向かって剣を構え直した。


「それじゃ、改めて、お願いしますね!」

「あ、ああ、掛かってこい!」

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