いつぞやの話:兄から弟への手紙1
※異世界トリップとなります。苦手な方はご注意下さい。
「…え。ルインさんて弟さん居たんですか。」
夜を迎えて焚き起こした火を囲みつつ、思わず樹笹が驚きを声に滲ませてしまったのは無理も無い。とはいえ、その驚きは
「あ?絶対兄弟が居るタイプだって言われるんだけどな、俺。見えんかったか?」
「いえ、」
そう、絶対に兄弟が居るタイプに見える。だから樹笹の驚きはそんなことよりも、手頃な岩の前で胡坐をかいて、せっせと手紙を書いているその姿にこそあったのだけれど。(便りが無いのは良い便り!を、地で行く人にしか見えなかったものだから…。つい。)
「確かに兄弟が居る様に見えます。それも弟なら…冷静で多くは語らずな聞き上手。几帳面時折やや神経質で、もしかしたら偏食家な少なくとも大食いではない、こう、上兄弟を反面教師にした的な性格の気がします。激しく。」
「よし、ちょーっと正座しようか樹笹ちゃん。君が俺をどんな風に見ているかがよく分かりました。」
しかも弟に関する見解が概ね正解だよこんちくしょい!…と、叫びつつもペンを走らせるルイン。意外と、書き始めると分量は多い様だ。(「元気でやってるぜ!」とかで済ましそうな気もするのに。)存外家族思いなのかもしれない。いや、彼が情に厚いことは、こうして拾った樹笹を連れて歩いていることからみても明らかなのだけれど。
そして改めて思うこともある。それは昼間エメラルドグリーンだった空の色が、夜は暗い青になるのだなとか、月や星がやたらと白くて明るくて、なれるまでは眠るのが大変そうだなとか。(実際、毎日雨戸を閉めて寝る家が多い。とはルインの談。)
そう、ルイン。そのルインに関して改めて思うこと。彼は頻繁に『正解』『不正解』といった言葉を使う。先程もそうであったし、火を起こす際に樹笹が細かい枝木、太目の枝木、少量の葉っぱをそれぞれ区分けして集めてきた時も(着きやすいかな、と思っての。何となくな判断だったのだけれど、)それはもう嬉しそうに「よく出来ました。」なんて言って樹笹の頭を撫でたのだった。(逆に、マッチが上手く点けられなかった時には「んー残念、」とか言って指導が入ったし。)
何を書いているのやら、表情をころころ変えながら、時に黒髪をガシガシかいて呻りながら、まだ手紙が書き終わらないらしいルインの姿を見やる。(家族思い。弟思い。)(で、面倒見の、良い人。)
樹笹はルインの弟とやらに会ったことなど当然無いけれど、(彼と同じ様にこの口癖を持っているだろうか、)そんなことをぼんやりと思った。
『 親愛なる我が弟へ!』
お前の敬愛して、敬愛して、敬愛してやまない兄は今、人生2度目の幸運を拾って旅をしている!こういえばもうお前は分かってそうだが、2度目の『流れ星』との遭遇だ。あまりに興奮しすぎて、渡りの精霊にこーして手紙を頼むくらいには熱が有り余っている!
あ、だから家に帰んのが若干遅れてるのは勘弁して。大目に見てください。ほんとすいません。
で、だ。で、だ!この2度目の幸運は1度目の非じゃないぞ?なんと、女の子だ。ここじゃあ『流れ星』はそう珍しいことじゃあないが、女性の『流れ星』はやれ幸運をもたらす〜だの、繁栄の鍵になる〜だの言われてるだろ。
そりゃ、それが他世界の技術とかを運んでくれる『流れ星』+子供まで生せるとかって夢のなーいミもフタもない理由からきてるのは俺だって知ってるさ。
でもやっぱ、なんてーかさ。俺は新しい空気とか文化とか大歓迎な奴だから『流れ星』は昔っから好きで…て、いや、そんなんお前は知ってるか。まぁとにかく、おにーさんは今唐突に旅に潤いを見出した次第です。
あ、ちょっと待てお前、今「何を悠長に女の子との二人旅で鼻の下伸ばしてるか」的な溜息とかつかなかったか?ついただろ?
馬っ鹿、俺だっていろいろ考えてんだよ。旅慣れてない風な子だし、説明することだって多いし、何より落ち着いて現状を実感させる時間は必要だろ?まぁ、どうせ時間が必要なら、ちゃんとした屋根のある場所に落ち着けてやりたいとは思うから…出来るだけ早く帰るよ。つーわけで、我が家に華が到着するのはもうちょっと先だ。お前はお預けだな!彼女の名前も、教えてやんない。自己紹介は会った時にお互いにしろや。わはは。
嘘。嘘嘘半分は冗談だって。時間はちょっと気にしてる。ホント、急ぐわ。同時期に騎士団入りが決まったってのに、兄が弟に遅れをとってるんじゃ示しがつかないしな。
ちゃんとメシ食ってるか?とかはお前に限って要らない言葉だと思うけどな。俺が帰るまで歓迎会はお預けだろ?代わりにメシとか頻繁に誘われてんじゃないか?お前は周りを見るから無下に断ることはしないと思うが、だからこそ心配だよ。俺が居る時はなんだかんだで俺がガンガンに騒いで、お前が諌める役で。ほら、どっか1歩引いた位置がいつもだったろ?じゃあお前が主賓、みたいな形になった時はお前どーすんだろ?と俺は思うわけだ。
騒がしい場所に居るのは嫌いじゃないだろうが、騒ぐのは割と苦手だろ?今まで居た『自警団』とは比べもんにならない『騎士団』で生活することになるんだ。ちょっと、直さないとな。
ま、ストレスは溜め込まない程度に。おにーさんの帰りを待ってなさい。
んじゃな。
サラッと読める様、一話一話が非常に短くなっております。