第三話:かぐや姫は空に帰ってめでたしめでたしだったのかを答えなさい。
※異世界トリップとなります。苦手な方はご注意下さい。
「樹笹、な。」
初めは「キササ、」と、なんともいえない発音で口にしたルインという名の男は、自分が吐き出した言葉に顔を顰めてしばらくの間「きささ、」「キささ、」「きさサ、」と繰り返した。納得がいかずにぐしゃぐしゃと頭を掻いて乱すものだから、括られていた緑の黒髪があちこちデコボコとあられもない姿になっている。飾らない、と言う言葉が樹笹の頭の中を猛スピードで横切ったけれど今それを納得して飲み込んでしまったら盛大に嫌味な気がしたので気付かなかったフリをした。
フリをしつつ、改めてこの『ルイン』という青年を観察してみる。鼻にほんの少しだけ散らばったそばかすが一見彼を素朴そうに見せてはいるけれど、割りに顔立ちは整っていた。悪い印象は受けない。周囲の人間を探せば一人はいそうな気持ちの良い好青年だけれど、どこにでもいる、という表現は少々違う気がすると樹笹は思う。しっかりとした身体つき。腰に下げた剣が長剣であることから考えても鍛えているのだろう。グローブをしていたから、その掌にマメがあるのか、はたまたそんなものを超越した熟練者なのかは分からなかった。
「樹笹。おし、こうだな。」
名前を連呼されている間も微妙な心境であったけれど、それよりもしっかりとした発音で、そばかすの無邪気な笑顔を向けられて一瞬、樹笹の体が大きく跳ねる。一応高校二年生であった樹笹から見て、まあ実習生くらいだろうと思える程には大人に見えたのに、笑うと随分子供っぽい。(不覚にもときめいた。)今ので警戒が一気に吹き飛んでしまった。
「で、だ。樹笹、何か質問はあるか?」
吹き飛んでしまったものだから。樹笹の口からは初めにルインが想像していた通りの言葉が飛び出した。
「ここは、何処?」樹笹の言葉にルインがにんまりと笑う。まるで良く出来ました、とでも言う様に。思わず待ってました、とでも言い出しそうに。喋りたくてうずうずしてる子供か、と樹笹は思ったけれど黙っておいた。
「ちょっと待ってくれ、な?先に『流れ星』を説明するわ。」
『流れ星』。先程ルインがぽろりと口にした言葉だ。その時の文法からすると樹笹の事を言っている風だったけれど、それが単に降って湧いてきたからという揶揄なのかどうか。彼女には判断が付かない。
「一言で言うと、この世界にはたまーに人が降って来る。」
身長差のおかげでルインを見上げる形になりながら、あんまりな言い方に樹笹はパチパチパチとじっくり瞬きを繰り返した。
曰く、色は決まっていないが金平糖の様なモノが落ちて来ること。(ちなみに今回はルインの頭で一回バウンドしたこと。)
曰く、金平糖は地面に落ちると煙を上げて人の形になること。(今回のソレが私だったこと。)
曰く、現れた人間は決まってここを「自分の世界ではない」と語ること。(この『流れ星』は歴史的・一般的に知られていて、だからおそらく異世界間の混ざった文化を『ここ』は持っていること。)
ちなみに「で、ここは何処?」と樹笹が繰り返したら「城下町までには、まだちっとばかし距離がある野っ原。」一蹴された。とりあえず『城下』というのだからお城、ひいては王国があるのだと記憶に書き込んでおく。
「説明されてく内にどんどん嫌な予感がしてきたけども、『流れ星』が空に帰ったっていう前例は?」
「まあ、人生笑って気長にいこうぜ。」
出逢って間もないけれど、心底ルインという人間を殴りたくなった。
サラッと読める様、一話一話が非常に短くなっております。