2、ネロの交渉術
ルルディとリバディが動き出したのはそれから少ししてからだった。
彼女達は私が言ったウンディーネとサラマンダーの正体について、第一声を「嘘」という事で片付けようとしていた。
「そんな話、誰が信じるんですかー?」
「……ネロ、嘘つき」
「こんなくだらない嘘を貴女達に言ってどうするのよ」
「確かにそうですけど……。信じられませんよー?」
「信じるも信じないも、事実よ。どうしても信じられないというのなら……水に力を与え給え。ディ・キュルムス!」
「ちょっ!?」
言って信じて貰えないのなら、その目で確かめてもらう他に方法がないじゃない。
私が使ったのは下位の祝詞。
普通なら小さな水の玉が一個飛び出て終わりなのだけれど、私が作り出したのは人の頭ほどもある大きな水の塊。それを射出せずに空中で留めている状態。
「え? いま、ネロは『ディ』って言ったんですよね?」
「確かに『弾丸』て唱えた」
「なんで空中に止まってるんですか?」
「力の使い方は個人の能力次第。例え下位の祝詞でも、使うものが使えば中位や上位の威力が出せる」
二人は呆気にとられた顔で、まじまじと宙に浮かぶ水塊を眺めている。
「どう? これでも信じられないかしら?」
「いや……あの、これ……どうやったんですか?」
「だから、普通に祝詞を唱えただけよ。貴女達も見てたでしょう?」
「信じられない」
「あーもー面倒ね! こうなったら奥の手よ! 一瞬しか見せない……むしろ見せられないから瞬きしては駄目よ」
「瞬きって何をするんですかー?」
「行くわよ」
大きく息を吸い込んで、体に空気中に漂う水分を取り込む。
きっと、普通の場所では上手くいかないでしょう。でも、エレメステイルならばこれも出来るはず……。
「見てなさい」
「だから、何──」
体を霧が纏わり付く。
周りが一切見えない。それはルルディとリバディも同じでしょう。
そして、問題はここからよ。
纏わり付いた霧を、一つも逃さないように吸い込む。すると、体が徐々に大きくなる。
……これの難点は、服までは大きくならないことよね。
で、霧を全部吸い込んだ後には……。
「ウンディーネ、様?」
「……なんで?」
「驚いたでしょう? これが、私の本当の姿よ。……ああ、もう時間切ね」
この姿に戻れるのはほんの数秒だけ。
何故、精霊種族の年齢と肉体の成長は比例しないのか。私が成長した姿が、文献にあるウンディーネの姿そのものだからなのか……。
疑問の答えはきっとシギルにしか分からないでしょうけれど、そんな非生産的な事を考えている間にも私の体は元の小ささに戻ってしまった。
「どう? これで私が本物のウンディーネであると証明できたかしら?」
「……水を応用した幻覚? いえ、だとしても……」
「リバちゃん、リバちゃん。これは信じるしかないんじゃないですか?」
「……分かってる。本当は最初から、分かってる。でも、認めたくない」
「私を認めなくても良いわ。むしろ、私の正体とかはどうでも良いのよ。貴女達がシギルとクライスを探してくれさえすれば」
「神様二人をですか……。骨が折れますねー」
「神様の名前を呼び捨てにしてる時点で、ネロはおかしい」
「ルル達、普通の精霊種族は恐れ多くて名前なんて呼べませんよー?」
「普通、ね。じゃあ、話もまとまった事だし、さっさと行くわよ」
「え? いや、纏まってないと思うんですけどー?」
「時間が勿体ないわ。さあ、リバディ。私達を包んでくれないかしら? 飛ばすから」
「……仕方ない」
「え? ちょ、リバちゃん?」
「認めたくないけれど、ウンディーネ様が望んでる。ただ、これだけは覚えて置いて。私はシルフ様がネロに敵対するなら、容赦なくネロを叩き潰す」
「それはないわ。今の所はね」
「あのー、ちょっと? ルルを置いて話を進めないでもらえますかー?」
「ルルディ煩いわよ」
「は……っい!? 痛っ! ちょ、舌噛んだって言うか、私を地面から離さないでー!!」
「行くわよ」
「待ってってばー!!!」
ルルディを置いて私とリバディで話を進めた。
こういう時はリバディの冷静さというか冷酷さ? が助かるわね。
リバディの起こした風で宙に浮かび上がった私達は、私の水の力でそのままエレメステイルを後にした。
交渉術(力技)です。
ちなみに皆様はもう忘れているかもしれませんが、ルゥが船から海に投げ出された時に見たウンディーネの姿はネロですが、アレはルゥが朦朧とした中で見た幻覚です。ネロが海の中で力を使った事も少なからず影響していますが、今回のとは別物です。
そしてルルディとリバディの名前が時々ごっちゃになるので、もっと別の名前を付ければ良かったと後悔していたりしてなかったりw
21.5.7 誤字修正




