3、ルゥを探して 3
どれくらい眠っていたのかしら。暗い湖の底だと時間の感覚が分からないわね。
でも、取り込んだ晶霊石の力は私の中に溶け込んで安定しているみたい。
──……あの子を、探しに行かないと……。
呼吸をするように大きく息を吸い込んだ。
「っ!? ゴボゴボっ……ガ、ボッ…………!!」
息が……苦しっ…………!
急いで湖の底から上昇し、水面から顔を出して息を吸い込んだ。
「ゲホッ……ゲホっ、ゲホ……っ!」
「…………ネロ。何をしているのだ? てっきり既にフォロビノンへ渡っているものだとばかり思っていたが、まさか湖の中で過ごしていたのか?」
「けほっ……! っはぁ……。ちょっと、調子に乗りすぎたみたい」
「お前という奴は……。呆れて言葉も出んわ」
「返す言葉もないわよ。でも、貴女の呆れ具合からしてもまだ1日くらいしか経ってないのかしら?」
「そうだな。二日は経っているぞ」
二日は潜れるのね。良い情報が手に入ったわ。
湖から上がって洋服の水気を絞り、新鮮な空気を思いっきり吸い込んだ。
精霊種族の故郷である精霊郷の空気は私達にとって一番の薬であり、嫌な事や疲れた事なんかで落ち込んだ気分も落ち着かせてくれる。
お陰で息苦しかった事も、ルゥを探しに行かなければという焦りも少しだけ落ち着いた。
「して、二日も湖に潜ったのだ。収穫はあったのだろうな?」
「ええ。結構取り戻せたと思うけど……まだまだね」
「当たり前だ。お前は精霊種族なのだぞ?」
「分かってるわよ。私はただの精霊種族。『始まりの精霊種族』であるあの子達とは雲泥の差でしょうね。でも、それも一昨日までよ。今なら、あの子達にも負ける気がしないわ」
「……儂らの力は戦いのための力ではないぞ」
「重々承知してるわよ。だからこそ、祝詞なんていう面倒な言霊を介さないと身体に負担が掛かるんじゃない」
そう。私達は神に作られた存在。
争いを嫌う神が争いを少しでも減らそうとした結果、私達の身体に枷が付けられた。
争いを好まない筈なのに、何故、私達に他者を簡単に殺せるような力が備わっているのか……。本当の力の使い方なんて、一体何人の精霊種族が知っているのか……。
──……早く、ルゥに会いたいわ。
「この世界に儂が生を受けてから随分経つが、儂らの存在理由なぞ本当に初期でしか活躍の場はなかったな。あの頃のウンディーネ様と言ったら……」
「昔話はもう良いわよ。帰ってくるたびにその話して、いい加減飽きなさいよ」
「良いではないか。儂の唯一の楽しみなんだぞ?」
「ディオネに居る子全員が聞き飽きてるわよ……って、無駄話ししてる場合でもないのよ」
「……そうか」
明らかに寂しそうな、気落ちした表情を見せる長老に私は苦笑いするしかなかった。
精霊種族の寿命は個体によってまちまち。
私ももう26年生きているけど、まだまだ見た目は子供のままだし。長老に至ってはもう何十年、何百年生きているのか分からない。
私の前世の記憶も曖昧だし、それもこれも全部クライスに会うことができれば解決するはず……。
「貴女を一人にさせてしまってごめんなさい」
「お前が謝ることではない。儂は、管理者の一人としてここに留まるのが仕事だ。お前は、お前の好きなように生きるが良い。それがネロとして生まれた理由であろう」
「ありがとう」
「ネロよ。お前がウンディーネの生まれ変わりでなくとも、儂はお前を愛しているし、この世界に住まう全ての水の精霊種族を愛している。それだけは覚えておけ」
長老からの嬉しい言葉に思わず泣きそうになった私は、別れの挨拶を適当に投げて湖へと潜った。
──本当にありがとう。名前も与えられなかった寂しい水の精霊種族の長。いつか、クライスとルゥと、また三人で旅が出来たなら必ず貴女の元を尋ねるわ。そして、クライスから素敵な名前を与えられて欲しい。
暖かくも悲しい、懐かしいような気持ちをそのままに、私は晶霊石によって取り戻した力を使って"原点回帰"を唱えた。
──水よ、私を始まりの場所へ導き給え。オルグ・キュルメリオ。
ネロ視点その3です。
少しずつ情報を開示していってますが、どうでしょう。
プリミールにルゥ達動物種族とネロ達精霊種族しかいない理由はまだまだ謎のままです。
なんとなく察してる方がいるのでしょうか?
トキモトもワクワクしてます。




