2、ルゥを探して 2
精霊郷ディオネの中心にある湖の底。
動物種族や普通の精霊種族では到底たどり着けない、太陽光すら届かない深い深い場所にある、淡く青く光り輝く水の晶霊石。
大きさが5メートルもあるそれは歪なひし形をしていて、あまりの強大な力を内包しているためにこの晶霊石を知っている者達は晶霊結晶と呼んでいる。
私もウンディーネの生まれ変わりなら、この結晶が綺麗なひし形だった頃……生前の記憶を少しでも継承してればよかったのだけれど、あの子と違って私までそんな都合のいい話なんてないわよね。
そんな水の晶霊結晶まで泳いで辿り着いた私は、長年この場で繰り返されたことと同じように、晶霊結晶を砕いた。
もちろん簡単に砕けるものじゃない。
結晶に手を当て、祈る。
原理はわからないけれど、私達の体に流れる何かが結晶に対して反応を起こし、その祈りの強さで砕ける欠片の大きさが決まる。
私の手の中にあるのは小石のような晶霊石が一つ。
やはり不純な動機だから、こんなものしか落としてくれないのね……。
それでも、私は……。
湖の水が、歪な形だった掌の晶霊石を丸く削り取っていく。
真円になったそれを、私は口に含んで……呑み下した。
晶霊石は四大精霊の命の分身。
私がウンディーネの生まれ変わりなら、その力は私の元へと還るはず。
「さあ、私に、力を返しなさい」
再び晶霊結晶に手を当てて欠片を削り取っては吞み下す行為を繰り返す。
徐々に大きく削られていく晶霊結晶は私の中に溜まっていき、血が沸騰しそうなほど熱く早く体を巡った。
一口で飲み込めない欠片は噛み砕き、破片が口内を傷つけても止めはしない。
骨は軋み、筋肉が悲鳴を上げ、臓腑は焼かれるように痛み、脳がかき混ぜられる感覚を味わいながらも、私は作業を止めることはない。
「っ……ぅ…………。なに、よ、こんな痛み。あの子に、誰って言われる方が、何万倍も痛いわよ!! 返しなさい! 私に力を……。あの子を守れる、取り返せる力を……!! みんなで笑って暮らせる、クライスが夢見た世界をっ……!!!」
今の私は傷を負っても数秒で自己治癒するでしょう。
精霊の中で水は癒しの力を持つ。それこそ先祖返り特有の、稀有な能力。
ウンディーネに戻れなくても、せめて『始まりの精霊種族』くらいには力を取り戻さないと……いつまでもあの子を守ることなんて出来やしないわ!
そうして、総量で拳くらいの大きさの晶霊石を体内に入れた私は、湖の中で眠った。
水の精霊種族は水に同化することができるけれど、湖の中で眠ることは出来ない。
魚や魚の動物種族のようにエラ呼吸ができるわけでもなく、海藻のように酸素を必要としない肉体なわけでもない。
所詮、私達精霊種族の肉体は、世界の理から外れることは出来ない。
──ああ、私は今、ウンディーネに近いところにいるのね……。
肉体の痛みも、あの子を守れるのだという証と考えれば煩わしくなくなった。
「待っていて……。ちゃんと、迎えに行くから…………」
ネロ視点その2です。




