1、マイムのわがまま
ルゥ達は雑多群スアンドから空路で五日を掛けて雑多群サリューンの近くまで来ていた。
シュカの能力を使って最初の三日間を空路で、途中休憩を挟みつつ進み、その後徒歩で五日間使ってようやくここまでたどり着いた。
純粋に徒歩を使って来たとしたら一体何日掛かったことだろうか……。
ちなみに最初から最後まで空路を使わなかったのは、フォロビノン大陸を進むにつれていつ『神の手足』が現れるとも限らないため、補助役であるシュカの力を温存したかったというのと、フォロビノン大陸とセンティルライド大陸は精霊種族の数がほかの二大陸よりも多いことが関係している。
『ゴリアテ』は精霊種族の力の核とも言える晶霊石を、精霊種族を生み出した四大精霊の分身とも言える晶霊石を各地から盗み、第三種族という不条理な存在に石の力を行使されていることを嫌っている一部の精霊種族からも狙われている。
つまり今の『ゴリアテ』は敵地のど真ん中にいると言ってもいい場所なのである。
だからこそ旅に慣れていないミーシャや幼いマイムには酷なことになるのだが、二人は特に疲れた様子を見せることもなく、逆に和気藹々とここまでの道のりを歩いていた。
彼らが行動に移る前に、これから向かう場所である雑多群サリューンについて少し説明をしよう。
色々な動物種族が細々と農業を営む小さな集落は、ほかの雑多群と大差ない様相だが、一つだけ特異な物がある。
小さな、学校である。
それはトワイノース大陸のルゥの故郷である多種動物種族村ニメアにあったような、屋外で子供達が集まって世界の歴史や生活の知恵などを教えている小さなものである。
そもそも、この世界に学校というものは一部の多種族都市や多種族国家にしか存在しない。それは動物種族も精霊種族も人間と違って"欲"というものがほとんどない種族であるためである。
しかし、生活をしていく上で大切な知識を効率よく多人数に教えるという目的のもと、大きな建物に人数を集めて物事を教示するという施設が少ないだけでありサリューンのように青空の下、幼い子供少人数を集めて手の空いた大人達が生活の知恵や簡単な歴史を教える場所は意外と存在するのである。
「さて、こっからはルゥとミーシャだけで行ってもらう」
サリューンの影が見えてきた場所でカザミが言った。
ルゥはカザミ達も付いてくるものだと思っていたため聴き返すように疑問を投げかけた。
「僕とミーシャだけで行くの?」
「俺らはサリューンにも顔が割れてる。多分だけどな」
「ああ。雑多群と言えど完全に閉鎖している訳ではなく、他の村や町とも交流がある。危険な情報や足りない物資を仕入れるためにな」
「そういうことだ。『ゴリアテ』の情報がサリューンに渡ってる可能性が一割でもある限り、俺らは迂闊に動くわけには行かないんだ」
「サリューンに入った瞬間、うちらは袋だたきにされるやろね」
「ブン殴られる前にあたしが全員灰にしてやるけどな」
「こらこらカガリ、俺らは無駄な暴力は振るわない主義だから」
「わかってるっつの! 冗談に決まってんだろ」
カザミの説明で、デューズアルト大陸の雑多群ジュームであった出来事が頭をよぎったルゥは、悲しい表情と格好で素直に「そっか……」と納得した。
──あんな酷いこと、もう目の前で見たくない……。カザミ達が来ないのは不安だけど……って、あれ? なんで僕はカザミ達がいないと不安だって思うんだろう?
ルゥが自らの中に芽生えた根拠のわからない不安に首を傾げていると、ミーシャがルゥの不安を悟ったかのように彼の服の裾を軽く握った。
「大丈夫……?」
「うん? 大丈夫だよ?」
「チッ……。さっさと用済ませてこいよ、バカルゥ」
ここにくるまでの間中、ちょくちょくこういうルゥとミーシャの仲睦まじい(?)様子を見せつけられているカガリが苦い顔でシッシッという手振りを交えて送り出した。
カガリの不機嫌を含めてカザミ達も「またやってる」くらいの気持ちには慣例的になりつつある光景に、やはりこれもお約束の流れになっているマイムの嫉妬が発動した。
「ミーシャが行くならおれも行く!」
好いている相手と離れたくないという気持ちは年齢性別問わずあり、カザミ達もそれなりの理解があるのだが、今回ばかりは軽い気持ちで許容できない事柄である。
「マイム、ルゥとミーシャは共通の友人に会いに行くのだぞ? 積もってもらっては困るが積もる話もあるだろう。お前が付いて行っては温められる旧交も温められないだろう」
「そうそう。それにだ、雑多群サリューンは俺たち第三種族に対して優しさは一ミリもねーぞ。第三種族って知られたら何されるか分かったもんじゃない。それはお前もよく知ってんじゃねーのか?」
「やだ! やだやだやだ! おれはミーシャと一緒にいる!!!」
「聞き分けなあかんえ? 痛い思いをするんは嫌やろ?」
アーサー、カザミ、シュカがいくら言葉を重ねて宥めても、マイムは「付いて行く。一緒にいる」の一点張りで、ルゥとしても危険な場所につれて行きたくないという思いでミーシャと一緒に説得を試みるのだが効果は得られず、とうとうカガリの堪忍袋の緒が切れて怒号が響き渡ると共に拳が出る寸前で前に大人達が折れたのだった。
タイトルそのままですね。
捻ったタイトルや上手いタイトルが思いつかなかったんですが、これはこれで気に入ってます。
しかしこの話に出てくる大人は折れやすい気がします。心配です。
21.4.21 誤字脱字修正




