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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 雑多群スアンド
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7、存在価値

 ルゥはミーシャに、これからも一緒に居て欲しいという願いを込めて真っ直ぐ見つめた。


 ──僕も自分勝手だよね。ネロから離れたのは僕なのに、ネロの代わりのようにミーシャをこんな場所まで連れてきて、ずっと一緒に居て欲しいなんて……。でも、ごめん。僕が僕を保つために、ミーシャに側にいて欲しい。


 真摯な目で見つめ続けたルゥにより、ミーシャの頬は朱に染まり、恥ずかしそうに視線を逸らしてついには俯いてしまった。しかし、彼女は時折チラチラとルゥの方を伺いながら、やがて意を決したように、だが細々と話し始めた。


「わ、私は……ルゥに、付いて行くって決めた……から……。もし、ルゥが駄目って言っても、私はどこまでも付いて行く……よ?」


 先程マイムに話していたように彼女の意思は硬いようで、ルゥはもう一度、今度はきちんと口に出して礼を言った。


「ありがとう、ミーシャ。僕もミーシャが居てくれると嬉しいよ」


 満面の笑みでミーシャの手を握ってみせると、彼女の顔は茹でたタコのように顔を真っ赤にしてしまった。

 良い雰囲気を醸し出すルゥとミーシャの二人に、周囲は呆れたり面白がったり、一部つまらなそうにしていたりと様々だったが、ついさっきミーシャに告白をしたばかりのマイムとしてはとても面白くないのだろう。繋がれた手を自らの体を割り込ませて強制的に引き剥がし、ミーシャみ前から抱きついた。


「お前はダメ!」

「えっと……?」

「ウソっぽい! うさん……くさい? とにかくダメ!」

「あーらら。ルゥは随分とマイムに嫌われちまったようだな。ま、子供は子供同士、ある意味仲良い感じなんじゃねえの?」


 カザミの苦笑交じりの言葉に『ゴリアテ』の面々やスアンドの住人は笑い、ルゥが子供であることに同意を示した。

 記憶喪失云々を抜きにしても周囲と比べて自分が子供っぽいことは自覚して居たルゥだが、付き合いの浅い人からもその事実を肯定されると思ってなかったので、悲しい表情とともに耳と尻尾を情けなく垂れ下げた。


「おいおい、たかがそんくらいで落ち込んでんじゃねーよ。てめえはてめえだろうが。周りなんか気にせず堂々としときゃ良いんだよ。その方があたしもおもしれーしよ!」


 言い方はどこか小馬鹿にしているようだが、それでもカガリなりの遠回しな慰めに元気を取り戻したルゥは、今日何度目か分からないお礼を静かに言ったのだった。


「ありがとう」

「っべ、別にてめえのために言ったんじゃねーし! あたしがおもしれーからだし!」


 今度はカガリが頬を朱に染めてそっぽを向いてしまった。

 恥ずかしがる女の子は可愛いなあ……と、呑気でとんでもないことを考えていたルゥだったが、カザミから探るような視線を向けられ小首をかしげてなんでもないことのように真っ直ぐ見つめ返した。


「団長はん、そないに怖い顔してどないしたん?」

「いや、なんつうか、ルゥってこんなんだったっけと思ってよ」

「ルゥも成長したのだろう。自分の中に居る思い出の頃と比べてもキリがないと思うぞ」

「それはそうなんだけどよ……。なんか、すっきりしねえんだよなあ」


 その会話を密かに聞いていたルゥは鋭いなあと苦笑いし、これ以上余計なことを言われないうちにと努めて明るい調子で会話に混ざりに行った。


「なんの話をしてるの?」

「あ? お前がルゥっぽくないって話だよ」

「僕っぽい?」

「なんつーか、もっとこう……幼い? っつうか、あどけないっつうか……」

「確かにトワイノースで『神の手足』と戦ってから変つうか、気持ちわりー。あたしもルゥを全部知ってるわけじゃねえけどよ、やっぱオカシイと思うぜ」

「そうなん? うちはルゥはんをあんまり知らへんさかい、ようわからへんわ」


 シュカの判断はさておき、そんなに自分は変わったのかとミーシャを見てみたが、彼女は小さく首を横に振って否定してみせた。


「団長とカガリは変わったと言い、ルゥを良く知ると思われるミーシャと、逆に特別親しくもない俺とシュカは違和感がない。つまり──」

「どうでもいい!」


 いい感じに話をまとめようとしていたアーサーの言葉を遮ってマイムが叫んだ。


「そいつの話なんかどうでもいいよ! さっさとおやじをさがして、おれは『ゴリアテ』になってみんなを助けるえいゆうになるんだ!」

「……それもそうだね。僕のことは良いから、早くマイムのお父さんを探しに行こうよ」


 聞く人が聞いたら「失礼だ」と怒りそうな内容で会話を中断したマイムだったが、ルゥからすればこれ以上続けて欲しくなかった話題を変えてくれた人物。感謝こそすれ嫌な顔をするなどあり得るはずもなく、笑顔で父親を探しに行くことへの同意を示したのだが……やはりマイムには受け入れられず冷たくそっぽを向かれてしまったのだった。


 ──本当に嫌われちゃってるみたいだ。


『俺はお前が嫌いだ』


 ──あれ? 昔、誰かにも嫌われてたような気がする。優しくて、優しくて、優しすぎた、大切な人……。


『お前の存在価値は──』


「おいルゥ、何ぼさっとしてんだよ。さっさと行くぞ」

「んだよ、マイムに嫌われてんのがそんなに悲しいことか? ハッ、女々しいヤローだぜ全く」

「狼はんは繊細なんよ」

「団長も少しはルゥの繊細さを見習うと良い」

「あら、団長はんは今のままで十分やで」


 ──僕はあの時、なんて言われたんだっけ?


 賑やかにスアンドを後にする『ゴリアテ』の面々について行きながら、ルゥの頭の中には"存在価値"という単語が引っかかっていた。

 いつもなら「まあ良いか」と素直に飲み込めるはずの、些細な単語に幾許(いくばく)かの不安を感じつつ、ミーシャに呼ばれて笑顔を取り繕い先へと進んだのだった。

 存在価値とは……。

 自分の存在価値を決められるのはどういう気持ちなんでしょうか?

 ルゥも昔、自らの存在価値を決められたことがあるようです。

 ただ、楽しく暮らしていきたいだけなのに、他人から「お前はこうだから、こうしろ。それがお前の存在価値だ」などと決められたら生というものがよく分からなくなりそうです。

 まあ、ここに淡々と書いておりますが、この深く暗い話もいずれ本編で語られるので、それまでお待ちください。

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