2、自分自身
激しい痛みに膝を着いて蹲ってしまったルゥにいち早く気付いたのは、ミーシャだった。
「ルゥ? だ、大丈夫……?」
「ん? どうした?」
「顔色が悪いな」
「んだと?! テメエ、具合悪かったのかよ! だったら最初っから言いやがれ! あたしに心配……じゃなくて、面倒かけんじゃねえよ!」
「こらあかんね。少し休ませた方がええと思うよ」
ミーシャの声を聞いて周囲もルゥの異変に気付き、次々と声を掛けていった。
「悪い、じっちゃん。ちょっと家貸してくんねえ?」
「カザミの友人なら遠慮はいらん。いくらでも使え」
カザミとアーサーに体を支えられて歩くルゥの頭の中では、今までよりも鮮明な記憶のかけらが映像化されていた。
『サラマンダー。お主は一番未の子ゆえ、他の者よりも思考することができぬ。クライスや上の者の言葉をよく聴き、学ぶが良い』
──サラ、マンダー……? クライス……? そうだ、僕……は……。俺、は…………。
『ル、ルゥが火の力を……!』
──だって、怖かった。分からなくなった。目の前が真っ赤に染まって……。だから…………。
『ルゥ、ごめんな。守ってやれなくて……』
──お兄ちゃん……? お……僕は、捨てられたの? こんな力があるから?
思い出される記憶の時系列はバラバラで、明滅を繰り返す光のように脳内で数秒再生されては消える映像に、ルゥの身体は悲鳴を上げていた。
強烈な頭痛と目眩。
自分の中で、自分ではない誰かに話し掛けている人影。
いや、自分が覚えていないだけで話し掛けられているのは紛れもなく自分……。
そんな自我の崩壊の波に飲み込まれていったルゥだったが、優しく名前を呼ばれた気がして思考の渦から思考を浮上させた。
「ルゥ? 大丈夫……?」
「……ミーシャ」
「うん?」
「……ぼく、は…………」
「ルゥ? まだ、具合悪い……? 水、貰ってくる?」
──そうだ。僕は、ルゥ。狼の動物種族で、火の力を持っている第三種族。ネロがいなくても、僕は……僕だよ。
「大丈夫。ありがとう、ミーシャ」
小屋のような可愛らしい一階建ての家のベッドに横たえられているルゥは、未だ不安そうにこちらを窺っているミーシャを安心させるように微笑んだ。
それは自らの中で僅かに燻っている不安を覆い隠すような、大丈夫だと言い聞かせているような笑顔だと自分で分かるくらい不自然なものだったが、ミーシャは何も言わずに笑顔を返しただけだった。
──ありがとう、ミーシャ。本当に……ありがとう。今の僕を知らない、昔の僕しか知らないミーシャ。僕は、逆に昔の僕を知らないけれど、ミーシャが僕を「ルゥ」と呼んで笑ってくれるなら、僕は彼らの前では今の僕でいるよ。たとえそれが、ネロにとっては違う僕だったとしても……。
ルゥが自分を見つめ直す回でした。
自分の中に知らない自分がいる感覚……。今後も出てくる問題ですが、表現がとても難しいですね。
今のルゥは、ルゥという個体が不安定な状態です。ネロと一緒の時は、ネロが躊躇いなく「ルゥ」と呼んでいたので、ルゥはルゥでいられました。しかし、記憶が混濁してネロではない誰かに「ルゥ」と呼ばれる事に違和感と不安を覚えてるんですね。
親離れ(?)は大変ですw




