1、暖かい気持ち
多種動物種族村テルカーゾからほど近い雑多群スアンド。
ここには三世帯の草食動物種族が暮らしている。
三世帯しか暮らしていないのなら雑多群というよりは群れと言った方がいいのだろうが、三世帯が所有している土地面積を考えるならば群れでは事足りないのだ。なぜなら、彼らの所有する土地ではこの世界に於いて数少ない畜産農家であるからだ。
三世帯しかいなくとも、フォロビノン大陸に住む人々の半数の食事を賄うことのできる彼らの土地は、世界における貢献度の高さから"群れ"ではなく"雑多群スアンド"という地名が与えられたのだった。
地図には載らずとも、フォロビノンでは有名な地名である。
そこに、カザミを先頭にしてルゥ達がやって来た。
「じっちゃん! ばっちゃん!」
カザミが家畜の餌となる飼料を荷車に積んでいた馬の老夫婦に声を掛けると、彼らはカザミの存在に気付いて笑顔を向けてきた。
「お? おお! カザミじゃないか! 元気にしとったか?」
「あれまぁ。よく来たねぇ。シュカちゃんも居るじゃないの。ハヤテちゃんは見えないけれど、お留守番かい?」
「ああ、ハヤテは留守番だ。ここに居るのは戦力が高いやつばっかりだからな。あ、今のことはハヤテには黙っててくれよ? あいつ、うるせーから」
「はっはっは! わかっとるわい」
彼らは『ゴリアテ』とずいぶん親しい間柄のようだ。カザミと親しげに話していることはもちろんだが、シュカやアーサー、カガリとも言葉を交わし、この場に居ないハヤテやアロの事まで話題に出していた。
彼らの親しさは『ゴリアテ』の拠点の一つである多種動物種族村テルカーゾの近くに住んでいるというだけではなく、この世界で数少ない畜産家であることも関係している。
畜産……つまり飼っている家畜を狙う盗賊は少なくない。
そんな輩から『ゴリアテ』が人員を割いて守備に当たっている。
代わりとしてテルカーゾに無償で食料を提供することなど相互補助の関係として付き合っているが、「テルカーゾが『ゴリアテ』の拠点であると口外するな」と言ったわけでもないのに、彼らは『ゴリアテ』を裏切ることはなく至って良好な間柄を築いていた。
「にしても最近忙しそうじゃな。ワシらも寂しいんじゃがのう」
「戦力が整いつつあるからな」
そう言ったカザミはルゥとマイムに視線を向けた。
馬の老夫婦もこちらを向いたので小さく頭を下げて挨拶をしようとしたルゥだったが、違う動物であるはずのカザミと老夫婦が親子のように見え、なんとなくだが彼らがカザミの親なのではないかと思った。
──……なんだろう? 匂い、が似てるのかな? いろんな動物の匂いが混ざっててよくわからないけど、家族っていう感じがする。
「ほうほう。そこの小僧はカザミによう似とるわい」
「確かにカザミちゃんに似てるわねえ」
「ばっちゃん! いい加減子供扱いは止めろっての! ちゃん付けとか、恥ずかしいだろ!!」
恥ずかしさに大声を上げながらもどこか嬉しそうなカザミの姿に、ルゥはまたしても"家族"についての記憶の一端を垣間見た。
『◯◯、ご飯の時間よ』
『母さん、でも……』
『良いから来なさい!』
『……ごめんな。後で、食べるもの持って来てやるからな?』
美人だが気の強そうな女性に食事だと呼ばれた狼種族の青年は、申し訳なさそうな顔で優しく頭を撫でてきた。全体的に気弱そうだが、今のルゥに似ていた。
──……お兄、ちゃん?
「はいはい。それで、この小さな狼さんは誰なんだい?」
「あーうん。こいつはルゥっつうんだ。カガリよりも強い火の力を持ってる。俺はこいつこそがサラマンダーの生まれ変わりだと信じてる」
カザミの言い放った"サラマンダー"という言葉に、寂しくも暖かい気持ちを思い出していたルゥは強烈な頭痛を感じて蹲ってしまった。
新章突入です。前の章が長かっただけに、やたらと短く感じます。
物語も徐々に形を見せ始め、何が何だかわからなかったモノの輪郭が見えてくると思います。




