2、猿の第三種族
太陽が真上に登る頃、ルゥはテルカーゾの地へ戻ってきた。
隣には幼い動物種族の男の子を連れている。
茶色く長い、しなやかな尻尾。一見するとヒトの様でもあるが、どこか違う耳の形。
そう、猿の動物種族である。
男の子は西遊記に出てくる孫悟空の様な金環を頭に付け、終始不機嫌そうな顔でルゥに手を引かれていた。
ルゥが戻って来たことを文字通り嗅ぎつけたカザミが二人を出迎えたのだが、心配したという顔は一瞬で疲れた顔になったのだった。
「……やっと戻ってきたと思ったら、その子供はなんなんだよ」
「林の中で迷子になってたからとりあえず連れて来てみたんだけど……どうしよう?」
「ふふっ……。ルゥ、変わらない、ね。いつも優しい」
「あ、ミーシャも起きたんだ」
「うん……。みんな早起きで、凄い」
女の勘とでも言うのだろうか。
鼻が利くカガリよりも先にミーシャがルゥの元へとやって来た。
ちなみに会話からも分かる通り、ミーシャは朝が苦手である。いつも昼近くに目を覚まし、住民や『ゴリアテ』と交流を持つこともなく終始ルゥの後を付いて歩く日々を送っていた。
ほとんど無理やりに近い状態でルゥについて来たミーシャは、テルカーゾに着いてからずっと借りて来た猫の様に大人しくしていた。
当初は彼女とも打ち解けようと住民が気を利かせて話しかけてはいたのだが、人見知りの彼女はルゥの背に隠れるばかりで交流ができず、それを見かねたルゥが間を取り持とうとするもミーシャ自身のやる気がないのか、一向に会話が弾まない。むしろ逆に気まずさが残って双方ともに申し訳なくなるという事態になった。
そんなことを一日繰り返せば、住民は何もしようとはしなくなった。
ミーシャとしては一人の方が気楽だったのだが、今回の件でやはり知らない土地に一人は心細かったらしく、帰って来たルゥの側にそそくさと寄って離れようとはしなかった。
右に子猿、左に小熊のなんとも可笑しな状況である。
「カザミ、この子どうしよう?」
「どうしようって、お前が拾って来たんだろうが。お前が責任持てよ」
「どうやって?」
「どうやってって……。はぁ……。とにかく、俺一人の手に余るから、屋敷の広間行こうぜ。シュカやアーサーなら解決してくれんだろ」
「うん!」
他力本願なルゥとカザミは、子猿とミーシャを引き連れて『ゴリアテ』の拠点として使っている平家の広間へと向かった。
広間には朝となんら変わらない『ゴリアテ』の面々が居て、思い思いに寛いでいた。
「狼はん、お帰り。なんかやかましい思たら子猿はんが増えとるね。その子、頭にそないな面倒いもの付けてどないしたん?」
「頭? ああ、これ? お父さ……おやじに付けられた。なんか、力がぼうそう? しないように…………っなんでもない!」
子供の言葉を聞いた面々はピンときた。
もちろんルゥもその言葉が意味することに気付き、確認のために子猿に目線を合わせて優しく問い掛けた。
「君は第三種族なの?」
「しらないっ! おれは、ふつうの動物種族だ!」
「そんなに興奮するな。この広間に居るのは全員第三種族だ」
「……っおれは、ふつうの…………」
「あたし達は『ゴリアテ』っつう盗賊団やってんだ。構成員は第三種族ばっかり。まあ、合成種族の子供も何人か居るけどな」
「『ゴリアテ』は晶霊石を集める他に第三種族や合成種族の子供も保護してんだ」
ルゥの言葉に視線を彷徨わせる子供を落ち着かせようと、アーサー、カガリ、カザミが順番に言葉を紡いで子供の警戒心を強制的に吹き飛ばした。
「怖がることあらへん。ひどいことする人はここにはいーひんさかい」
「…………」
「君は、第三種族なんだよね?」
「……そうだよ。土の力が、ある」
シュカの駄目押しと、もう一度優しく尋ねたルゥの表情に観念したのか、子供はうつむいたまま自らが土の力を持つ第三種族であることを打ち明けた。
「猿……で、土の力?」
「どうした?」
「なあ、ルゥ。お前と一緒にいたあの美人の姉ちゃんが探してる甥っ子って、確か土の力を持ってたんだよな?」
「う、ん……」
「その甥っ子の名前ってなんだっけ?」
「うーん? なんだっけ?」
顎に手を当てて名前を思い出そうと思案するルゥだったが、ルゥよりも先にカザミが思い出して名前を叫んだ。
「っマイムだ! お前、マイムっつう名前だろ!」
「え、あ……うん。そうだけど……」
名前を言い当てられた事に驚いたのか、それともカザミの声の大きさに驚いたのかはわからないが、少し身を引きながらもマイムはしっかりと肯定したのだった。
ということで、エーテルさんの甥であるマイムが登場です。
基本小さい子供は動かしやすいのですが、マイムはマセガキなのでちょっと面倒だったりします。
そしてルゥの存在がほぼ空気になっている回ですね。主役なのに……。




