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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
フォロビノン大陸 多種動物種族村テルカーゾ
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1、軟化と本音

 トワイノース大陸からやや北西に位置するフォロビノン大陸。

 四大陸の中で最大の面積を誇るフォロビノンは、四大精霊の一人である土を司るノームを(まつ)っているだけあって農作物がよく実る。

 そのため、草食動物種族も肉食動物種族も皆健康的で、太陽が登り始める頃には表へ出て畑を耕している姿がどこでも見受けられる。


 そんなフォロビノン大陸の入り口とも言える多種動物種族村(リベレッジ)テルカーゾ。

 多種動物種族村(リベレッジ)というだけあって精霊種族は一人もいない。

 しかし、雑多群(リグレ)のように反精霊種族を謳っているわけではなく、普通に晶霊石(しょうれいせき)の恩恵をしっかりと受けている。

 それも、普通の多種動物種族村(リベレッジ)ではあり得ないほどの量と質が揃っている……。


「それはなんでかって言うとだな……っておい、ルゥ。俺の話聞いてんのか?」

「聞いてるよ?」

「晶霊石がこれだけ充実してるのは、ここが俺達『ゴリアテ』の拠点の一つだからだ! どうだ? 凄いだろう?!」


 テルカーゾで一番大きな家の広間で得意げに説明するカザミの背後から、寝起きなのか呆れているのか……微妙な声が聞こえてきた。


「そう言うのは自分で言うもんやないと思うけど」

「あ、シュカ! おはよう!」

「狼はん、おはよう」

「もう起きて平気なの?」

「心配してくれとるん? おおきに。やけど、もう平気やで」


 実は、テルカーゾに到着してすでに1週間経っている。

 ルゥはその間に『ゴリアテ』の面々と随分親しくなっていた。


 寝ている間に海を渡り、目覚めたら綺麗なベッドの上で寝ていたのである。

 寝起きではっきりしない思考回路に入ってきた第一声は、思い描いていた少女の高い声ではなかったがどこかしっくりとくる、今では友人と呼べる間柄になったカザミの声だった。


 目覚めてからすぐに聞こえてきた「目が覚めたか?」という彼の第一声に薄い反応しか返せなかったルゥだが、5分ほどしてからはっきりした口調で元気な挨拶を返したのだった。


 ──今考えてもよくわかんないけど、僕は海を渡った……んだよね? なんか眠ってたのかなんなのか、『ゴリアテ』の拠点あたりからほとんど覚えてないや。


 ふわふわした頭で説明されたのは、トワイノース大陸からフォロビノン大陸までの長距離を二往復もしたシュカの目が醒めるまで村に滞在するということだった。

 ひとまず『ゴリアテ』の面々とテルカーゾの住民と交流することにし、持ち前の素直さとお節介とでたちまち全員に顔と名前を覚えられたのだった。


 そして今日、シュカが目覚めた。


「すぐ行くの?」

「そうだな……。シズクも今の所安定してるし、子供達も十分休めただろうしな」

「うちは今目覚めたばっかりなのに、酷い人やなぁ」


 シュカは同意を求める様に目配せをし、ルゥはそれに応える様にうんうんと頷いたが、それが面白くないとでも言う様な苛ついた声が飛んできた。


「あたしはさっさと進んじまった方がいいと思う。こんなチンケな場所にいつまでも居たってしょうがねえだろ」


 口調と同様に苛々した態度で、カガリが乱暴にルゥの対面へと腰を下ろした。


「チンケって……、カガリお前なあ……」

「カガリはやっぱり口悪いね。女の子なんだからもっと──」

「うっせえ! あたしは納得してねえんだよ! ルゥのあの強さも、あの見た目の変化もな!! 今日こそはきちんと説明しやがれ!!」


 カガリが言ったルゥの変化は、これまでアーサーやカザミも何度問い詰めたことだったが、ルゥは風に吹かれる柳のごとく受け流し続け、しまいには「よく覚えてないんだよね」と言う始末だった。


 実際、ルゥは自分で何をしたのかよく覚えていなかった。


 ──トワイノースの拠点に連れてかれて、『神の手足』に襲われて……。それで、どうしたんだろう?


「俺も気にはなるけど、ルゥがやっとこっちに来てくれたんだ。それで一先ずは良しってことで!」

「しかし、半ば無理やり連れて来たのだろう? ルゥ、お前はずっと俺達と行動を共にするのか?」


 カガリの後から広間に入って来たアーサーが、カザミの隣に腰を下ろしながら聞いてきた。


「うーん……?」

「そうだよなあ。ネロのところに──」

「戻らない!」


 ルゥの拒絶の声が屋敷に響いた。

 普段から温和で怒鳴ったりすることのないルゥの、珍しい大声だった。


 ここ1週間でルゥの人となりをある程度知ったアーサーはもちろん、以前から何度か交流のあったカザミ達もルゥの珍しい姿に戸惑いを覚えて絶句していた。


「あ……ごめん……。急に、大声出して……」

「……いや、別に、それは良いんだけどよ……」

「珍しいな。一体どうしたんだ?」


 カザミとアーサーの慰めや気遣いに少し気持ちを落ち着けたルゥは、深呼吸をしてから胸の内を語り始めた。


「僕は……ネロが隠してることを知りたいからカザミに付いてきたんだ。今、ネロのところに帰ったら、僕はずっとネロに守られたまま、何も知らない、何も守れない、そんな弱い自分になっちゃう気がするんだ。だから……」


 シュカが目を覚まし、本格的にトワイノース大陸へと向けての準備を始めようと意気込んでいた彼らの意気軒昂な空気を重くしてしまったことに罪悪感を感じたルゥは、最後まで言葉を紡ぐことなく逃げる様に「散歩に行ってくるね」と言ってその場から出て行った。




 ルゥが広間を出て行った後、『ゴリアテ』の面々は静かに今後のことを相談していた。


「おいクソ団長。ルゥ、どっか行っちまったけどどうすんだよ」

「どうするったって……待つしかないだろ。それに、ルゥはあのちんちくりんのところには戻らないって言ってるんだし、焦る必要もないだろ」

「単細胞かよ」

「カガリ酷い……」

「そないに簡単な話ならええんやけどなあ」

「確かに俺も単純だとは思うが、団長が良いと言うなら良いだろう。ルゥもあの精霊種族の元から離れたのなら他に行くところはないはずだ。俺達は普通に、センティルライド大陸に向かう、最終決戦の準備を進めるとしよう」


 団長よりも団長らしいまとめ方をしたアーサーにカザミは気合を入れ直したが、カガリとシュカの表情は厳しいままであった。

 新章突入です。

 閑話をもう少し入れようかとも思いましたが、あれ以上広がりませんでしたorz

 ここから新章……きっとまた長くなります。

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