1、籠の鳥
この世界にしてはとても珍しい、現代的な平家。
外観と同じ白い煉瓦で設えられた室内には、綺麗に仕立てられた木製の机。同じ木材を使用した椅子は背凭れまで細工が凝っていて一目で高価なことが伺える。
ベッドも白木で作られており、近くに置かれたこの世界では珍しい観葉植物との色調が絶妙な調和を醸し出している。
そして、この部屋で一際目を引くのが……窓辺に置かれた鳥籠である。
観葉植物以上に珍しいのが、愛玩動物──ペットの存在である。
「調子はどうだ? 気分は悪くはないか? 腹は減ってはいないか?」
一人の女性が優雅に部屋へと入ってきた。
黒い髪。黒い目。特徴のない外見に、ヒトの耳。真っ白な衣装。
「そう警戒するでない。お主が逃げるからいけないのだ。我のそばに居れば悪いようにはしない。これは罰でもあるのだ。よくよく反省するのだぞ?」
愛おしそうに鳥籠に向かって話しかける女性は、鳥籠を妖艶な手つきで撫でた。
「この世界は不毛だ。好いた者と結ばれることはほとんどなく、仮に結ばれたとしても寿命が削られ長生きすることは叶わぬ。全ての望みが叶う、美しく調和のとれた世界など、夢のまた夢か……」
女性は鳥籠を撫でる手を止めることなく、憂いを帯びた瞳で窓に切り取られた空を眺めていた。
空は女性の言葉や表情と裏腹にとても晴れ渡っていて、この世界がとても平和だと言っているような様相をしている。陽光は暖かく、風は穏やかに大地の香りを運び、遠くから水のせせらぎが聞こえてくる。
「精霊種族と動物種族。助け合うことなく忌避する世界。やはり感情とはままならぬな」
女性がそう締めくくった時、鳥籠が彼女の言葉を否定するように揺れた。
「言いたいことがあるようだが、聞こえぬな……。愛らしく囀れば出してやらぬこともないが、今のそなたは籠の鳥。自らの力ではどうにもならぬ。悲しいことよな」
女性が口元に自重の笑みを象った時、控えめなノックが扉から聞こえてきた。
「何用か」
「お忙しいところ申し訳ありません。少々お知恵を貸していただきたいことがあります」
「入るが良い」
「はい。失礼いたします」
静かに扉を開けて入ってきたのは、老齢な猿の動物種族の男。
自分の娘よりも年若い女性に、最上位の敬意を持って接するその老爺は頭を下げたまま話し始めた。
「──ということなのですが、我らはどうすれば良いのでしょうか?」
「なるほど。まあ、簡単なことよな。何もしなくて良い」
「何も、しない……で、ございますか?」
「ああ。それは我らにはどうにもできぬ問題だ。神の思うままに、やらせるしかなかろう」
「承知いたしました。神の、御心のままに……」
深々と頭を下げた老爺は、そのまま部屋を退室していった。
「世界のバランスを整える、良い機会であろう」
女性は、老爺の出ていった扉を見つめながら狂気に歪んだ笑みを浮かべて、再び鳥籠を撫でた。
鳥籠に囚われた、乳白色の見たこともない美しい鳥は、ただ寂しそうな表情で空を眺めていた。
新章……というより、幕間です。
いつも章の最後に入れている『ネロの想い』が入らないので、急遽作った話ですw
なんせネロが行方不明ですから……。




