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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 それぞれの道
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14、裏技

 シュカの風に乗ってルゥ達が運ばれた先は、シルフの(ほこら)の近くの(ひら)けた場所だった。そこには既にカザミとアーサー、8人の合成種族(キメラ)の子供が集まって思い思いに(くつろ)いでいた。

 『神の手足』の襲撃を恐れてか松明(たいまつ)などの明かりは一切なかったが、月明かりの下で全員の顔が分かるくらいに空は晴れ渡っていた。


「団長、シュカを連れてきたっスよ」

「おー……って、なんか増えてんじゃねえか。どこで拾ってきたんだよ、その小熊は」

「拾ってきたんじゃねえっス。シュカと合流した雑多群(リグレ)にルゥの知り合いがいて──」

「あ、お前もしかしてミーシャか?」


 どうやらカザミはミーシャのことを知っていたようだが、ミーシャはカザミのことを知らないようで、あからさまに警戒色の強い眼差しを向けた。

 それに気付いたカザミは(おど)けた調子で「お前らが小さい頃に何回か遊んでやったのに」と言った。肩をがっくりと落とす仕草も付け加えると、アーサーからは白々しいとの声が上がったのだった。


「あれ? そうだっけ?」

「何言ってんだルゥ。お前、記憶喪失なんだろ? 覚えてなくて当然だって」

「え? ルゥ、記憶喪失……なの? だって、私のこと、覚えてたのに……?」

「そうだよ。記憶喪失とか、そんなわけないじゃん。カザミが適当なこと言ってるだけだって。まあ、確かに記憶力は良くないってね……ろにも言われてるし、僕もそう思うけどね。あははは……」


 ルゥが戯け返した言葉に、カザミは訳が分からないという顔をした。

 確かにルゥは『ゴリアテ』の拠点で記憶喪失の話を、それもきちんと順を追って話した。

 出会った当初、多種族都市(ネオリビシティ)カジュカではカザミのことも覚えていなかった。

 しかし、今はどうだろう。小さい頃の友人であるミーシャのことは覚えていた。


「団長はん、そろそろいかんと日が暮れんで」

「あ、ああ……そう、だな。フォロビノンに飛ぼう。ハヤテとアーサーは子供達を頼む。ルゥとミーシャはしっかりシュカに捕まっておけよ」


 狼狽(うろた)えながらも的確に指示を出し、フォロビノン大陸へ渡る準備を進めるカザミ。


 日が落ちても目の良いシュカ。豆電球ほどの灯りがあれば飛べるハヤテ。嗅覚が鋭く風を操る事に長けたカザミに超音波を使えるアーサー。彼らがいれば海を渡るのになんら支障はない。しかし、この大陸にはまだシズクやサラ、プルート、数名の合成種族(キメラ)の子供達、そしてカガリが残っている。

 拠点が『神の手足』に潰された上、追っても掛かっている。

 カガリが時間を稼いではいるが、そう悠長にしている暇もない。


「それで、カザミは一人で飛ぶの?」

「俺はカガリを探してくる。お前らは先に海を渡ってフォロビノン大陸の拠点で待ってろ」

「なっ……団長一人は危険っス! 俺も──」

「カガリがどこにいるのか分かんのか? カガリのことだ、ヘマはしてないだろうが未だ追っ手と戦ってるとは思えない。どっかに隠れてるとしてら、探し当てられるのは俺だけだろ?」

「と言うことは、団長はシズクと一緒に飛ぶつもりなのか?」


 アーサーが冷たく厳しい口調で問い詰めた。

 以前話したように、カザミとシズクは違いが近くにいるだけで体調不良を起こす。

 そのことを心配して言っているのだろうが、カザミはアーサーの目をしっかりと見つめ返し、そして不敵に笑って見せた。


「俺を誰だと思ってんだ? ちゃあんと、カガリを無事に見つけられたらシズクと合流させて、俺は適当な場所から飛ぶっつうの。んな心配すんなって」

「そんなん言うても団長はん、この距離を一人で飛ぶつもりなん?」

「なんとかなるって。俺はシルフの生まれ変わりだからな」

「シルフの生まれ変わり……? あはははっ! カザミって面白いね! シルフの生まれ変わりって……あはははは!」

「おいルゥ! お前何笑ってんだよ! 俺ほどうまく風を操る奴なんてこのプリミールに存在しないだろうがっ!」

「だって……シルフだよ?! んふふふっ、ふはっ……あははは! あー苦しいっ……」


 何がそこまで面白いのか、ルゥはお腹を抱えて爆笑していた。

 そんな賑やかな会話に、先ほどまで自由に過ごしていた合成種族(キメラ)の子供達もルゥの笑に釣られるようにカザミを茶化し、ひとしきり笑ったのだった。


 殺伐とした暮らしの中の、穏やかなひと時。

 カザミはこの穏やかなひと時を日常にするために『ゴリアテ』を作った。

 親に捨てられ、世界のどこにも居場所がなく、迫害を受け、時には犯罪にも手を染め、いつしか血に濡れる。

 不条理を受け続けなければならない第三種族(サード)合成種族(キメラ)

 そんな悲しい現実を断ち切るため、この世界を創造した神を見つけだし、世界の理を変える。

 それには神を見つける必要があるのだが、数年前まで合成種族(キメラ)を【神の鉄槌】と称して虐殺して回っていたはずの神が、ここ最近はめっきり姿を見せず、目撃情報もさっぱりなくなってしまった。代わりのようにセンティルライド大陸が異様な発展を見せている。

 センティルライド大陸に行けば、何かしらの手掛かりが掴めるはず……。

 そう信じてやまない、そう信じるしかないカザミは笑いを引っ込めて真剣な表情になった。


「誰一人欠けることなく、センティルライドに行くぞ!」


 『ゴリアテ』の面々が力強く頷き返す中、ルゥとミーシャは場違いな気がして互いに微妙な表情になってしまった。


「じゃあ、俺はカガリを迎えに行ってくる。アーサー、シュカ。あとは頼んだぞ」

「言われなくても分かっている」

「団長はんも、気ぃ付けるんやで」


 『ゴリアテ』のトワイノース拠点があった方角に視線を走らせたカザミが、顔を上に向けて風の匂いを嗅ぎ取り、そして姿勢を低くして走り出そうとした瞬間──。


「ねえ、どれくらいで戻ってくるの?」


 ──という、ルゥの気の抜けた声に出鼻をくじかれて体勢を崩した。


「ッルゥ! お前なあ……! 人がこれからって時に間の抜けたこと言ってんじゃねえよ!!」

「そうっス! 空気読めっス!!」

「だって、なんか……えーっと、まどろっこしい? って言うんだっけ?」


 どこまでも自由気ままなルゥに力を抜かれて肩を下げた『ゴリアテ』だった。


「別に、ルゥは先に渡るんだからどうでも良いことじゃねえか」

「でも、結局全員集まらないと行動できないんでしょ? シズクって人は別にして」

「そりゃあ……そうだけどよ……」


 フォロビノン大陸に渡ったあとはシズクと合成種族(キメラ)の子供達はフォロビノンの拠点に向かわせるが、カザミやアーサー、カガリ、シュカ、そしてルゥは『ゴリアテ』内では高戦力であるため、神や神に関する情報を探しつつ晶霊石(しょうれいせき)を盗み、力を蓄える。()わば、いつ何時『神の手足』に出会ってもおかしくない危険な道のり。まとまって動いたほうが勝率も生存確立も上がり、シズクや合成種族(キメラ)の子供達から注意を逸らすことも出来る。以上のことから全員の集合を待ってから動くことにしているのである。

 ちなみにハヤテはシズクの警護に回される。彼は主に情報収集能力に長けているので、こと戦闘に関しては不得手としているためだ。

 そのことを事前に確認していたルゥからの「まどろっこしい」の一言である。


「カガリはさ、火の晶霊石持ってたよね?」

「ああ……。肌身離さず持ってるだろうけど……それがどうした?」


 カザミの疑問を無視して、ルゥはゆっくりと目を閉じて自然な体勢をとった。


「おい、一体何を──」

「見つけた。……えっと、どうやったかな? ああ、そうそう。確か……ひょいってやって、どーん!」


 ルゥの「どーん」に合わせて、遠くの方からルゥに向かって優しい橙色の光が届いた。暗闇の中でも視認しにくいほど細いが、確かに温かみのある一筋の光がそこにあった。


「これは……?」

「これをたどって行けばカガリに会えるよ。さっさと迎えに行ってくれば?」

「ルゥ、これはなんだって聞いてんだけど?」

「……はぁ、裏技だよ」

「裏技? いつの間にそんな力使えるようになったんだよ」

「今さっき。ねえ、それより早くしないと朝になっちゃうよ?」


 ルゥにしては些か乱暴な言い方にカザミは勿論、アーサーも多少なりの疑問を覚えたようだが確かにシュカどころか全員が暇とは言えない状態にカザミは口から出掛かった言葉を飲み込んで、代わりにため息を吐き出した。


「はぁ……。分かったよ。急いでカガリを拾ってくるから、ちょっとだけ待っててくれ」


 カザミは、半信半疑で橙色の光を辿って駆け出した。

 ふぅ……。今回も少し長いですかね? と言うか、この章がすごい長い……。

 まだまだ続きます。

 そして『ゴリアテ』と行動を共にするルゥ。

 サラマンダーに覚醒してから、ルゥの言動が少し乱暴になっています。

 あとがきでネタバレをするかどうしようか悩んでます。まあ、書きませんけど……w

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