9、手掛かり
「ネロー! どこ行ったんだー!」
「ルゥくーん? ネロちゃーん? ……本当に二人とも、どこ行ったです?」
「さてね……」
木々が疎らに生える真っ暗な場所に、松明を辺りに翳しながら恐る恐る進んでいるエーテルとモエギの呼び声が響き渡っている。
ネロがモエギに自らの正体が精霊種族であると告白して別れを切り出し、どこかに行ってしまってから2時間が経っていた。
二人はすぐにネロの後を追ってこの場所まで来たのだが、熱気が凄まじく簡単には足を踏み入れられず、色々先に進む方法を考えて試しはしたものの結果は惨敗。結局、時間を置いてもう一度この場所に来たのである。
「うぅ……。暑さはまだマシになったですが、この臭いはどんどん酷くなってるです……」
「こりゃ、あんまり悠長にしてられないね。暑さだって、まだまだ油断ならないよ。……もう、夜だってのに……」
トワイノース大陸の夜が寒いことは何日か過ごす上で重々知っていたはずなのだが、こうも暑いと感覚が狂ってしまいそうだとエーテルは小さく嘆息した。
「っあ! エーテルさん! 何かあるです!!」
ずんずん進んでいたモエギが、明かりを反射する何かを見つけてエーテルを呼んだ。
恐る恐る近付いたソレの正体を知ったモエギとエーテルは小さく悲鳴を上げた。
「ひぇっ!? し、死んでる……です?」
「うっ……。でも、なんだ、こいつ……。変な格好」
「金属の、鎧です……。『神の手足』って呼ばれてる人です」
以外にもモエギは彼らの正体を知っていた。
「モエギのお兄ちゃんが『神の手足』ですから……」
理由をそう話したモエギの表情は、松明に照らされてどこか不気味に映った。
エーテルは最悪の想像をして声をつまらせながらも勇気を出して確認してみる。
「じゃ、じゃあ……この鎧のは…………」
「それはないです。モエギのお兄ちゃんは、ベッドから動けない体にされたですよ」
困ったように笑っていたモエギだが、エーテルは彼女が松明を持っている手が微かに震えていること気が付いた。
エーテルは『神の手足』の活動がどういうものか知らないが、きっと彼らの戦う相手は精霊種族や第三種族なのだろうと、モエギの話を聞いていたエーテルは察した。
だとしたら、モエギの心の内は悲しみと怒り、恐怖に支配されていてもおかしくないはずである。それなのに笑みを浮かべるのは、今もこうして探しているルゥとネロ、そして自分の事を思っての事だろう。そして、彼らは違うと、思いたいのだろう。
モエギは強いな、とエーテルは彼女に羨望の眼差しを向けた。
それと同時に、自分は甥であるマイムに対する思いはどうだろうと改めて考えていた。
生まれて間もなく第三種族としての力を発現させてしまったマイム。
自分の息子を抱きしめられなくなってしまった姉、クレア。
二年後、文字通りに家を土に埋めてしまい、両親は生き埋めに……。
エーテルとクレア夫妻、マイムに向けられた視線と投げられる罵詈雑言、直接的な暴力。
そして、エリクとマイムは家を出て行った──。
「エーテルさん?」
「──ッ!? ……ぁ、ああ、いや、なんでもない。大丈夫……大丈夫だよ……」
エーテルの思いつめた表情を見たモエギが「変な話をしてしまってごめんなさいです」と謝ってきた。首を横に振って否定したエーエルは、先を急ごうとモエギを促して、心の中に芽生えた恐怖を振り切るように急足で前へ進んだ。
奥に進むほどに『神の手足』の死体が増えていく状態に、モエギよりもエーテルの方が堪えていた。
それは、第三種族や精霊種族に恐れをなしたためではなく、世界が彼らをどう思っているのかを地面に倒れている『神の手足』の数でまざまざと見せつけられ、己の中の認識のズレを修正されたためだった。
──『神の手足』が狙っているのが翻弄に精霊種族や第三種族なら、その力を恐れるのも無理はない……のかも知れない。だとしたら『ゴリアテ』はその世界を変えるために動いている……? なら、マイムは遅かれ早かれ『ゴリアテ』にたどり着くはず……。
「エーテルさん! あれを見るです!」
「……ん? 何かあったのか?」
神妙な顔つきから一瞬で何事もなかったかのように反応を返すと、モエギが丸太と瓦礫の山を指差していた。
おそらく家が建っていただろうその場所は、板がひしゃげ、縮み、布が散乱し、食器類が割れて散らかっていて、二人はひとまず誰か生き埋めになっていないかの生存確認をすることにした。
「おーい! 誰かいないのかー!」
「いたら返事をするです!」
「…………反応がないのは誰もいないのか、もう死んでるのかどっちかだね」
「ルゥ君とネロちゃんの手掛かりもないです……っあ! この水袋は! エーテルさん! これ!」
先程から考えに意識を持っていかれ注意力が散漫なエーテルと違い、様々なものに気が付くモエギが今度は見覚えのある水袋を発見して声を上げた。
長時間熱に晒されて歪んでしまったが、旅の途中で何度も目にしたそれは間違いなくネロが持っていたものだとエーテルは判断した。
恐る恐る拾い上げて他にも何か落ちていないか辺りを見回すが、水袋以外にネロの痕跡はなく、もちろんルゥの痕跡も見つけられずにがっくりと肩を落とした二人だった。
「どこに行ったですか……?」
「……ネロのことだから何かを見つけて慌てて後を追った……とは思うけど、最悪『ゴリアテ』に連れ去られた可能性もなくはないね」
「っそんな……!」
「とにかくアタシ達も『ゴリアテ』を追うよ。ネロもきっと、ルゥを追ってるだろうし、あいつらを見つけられれば全部解決するさ」
「そう……ですね。っはいです! そうと決まれば早速…………どこに行くです?」
沈んでいた空気から一転、意気揚々と一歩足を踏み出したモエギだったが、結局目的地がどこだか分からずオロオロとエーテルを振り返り、エーテルはそれを見てどこか吹っ切れたように笑った。
この時二人は互いに「一人じゃなくてよかった」と安堵するのであった。
ふー……。
エーテルさんとモエギの二人旅。
二大主人公不在の話ですね。
相変わらずエーテルさんの口調は難しいです。きっと当初と変わっているでしょう(ダメじゃん)。
姉御っぽい喋り方にしたかったはずなんですけどねー、なんでこんなあやふやになっちゃったかなー……。




