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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 それぞれの道
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4、精霊の力

 サラマンダーの投げた火球は遠くで爆発音を響かせ、怒号と悲鳴が聞こえてくるが、風に乗って運ばれてきた匂いは期待していたような肉が焼けた匂いではなかった。


「挨拶程度だけど、どうやら向こうは第三種族(サード)ないし精霊種族への対抗手段を持ってるようだな」

「あ、ああ。『神の手足』は精霊種族の嫌う金属で武装してる。俺ら第三種族(サード)にも精霊種族の血が混ざってるらしいから、嫌悪感が半端なくって戦いづらいんだよなあ」

「チッ……。ほんとクソだな、神って奴は。あたし達が一体何したっつうんだよ!」

「金属、か……」


 聞いただけで背筋がぞわぞわと粟立つ感覚に襲われたサラマンダーは、ピンと立った耳を少し倒して尾を大人しく下げた。

 ルゥの中に流れる第三種族(サード)の血だけではなく、サラマンダーとしての精霊種族の濃い血が余計に嫌悪感と恐れを抱き、身を震わせたのだった。


 ──怖い。嫌い。金属……。人を、簡単に殺せる道具……。


 カチリと新たな記憶の鍵が微かに開いた音がした。

 頭の中に映像として映し出されたのは、真っ赤に燃え盛る森──。


「来るぞッ!」


 思考の波に身を委ねようとしていたサラマンダーは、カザミの焦った声で現実へと引き戻された。

 実際には目視できるほど敵が近くに来たわけではないが、明確な殺意はこちらまでしっかりと届いていた。その瞬間、先ほどのお返しとばかりに木々の合間を縫って三本の小刀がそれぞれに向かって飛んできた。

 カザミの事前の警告と動物的勘で危なげなく避けた三人は、苦虫を潰したような表情で地面に刺さった小刀を睨み付けていた。


「クソッ! 相変わらずウザってぇな、金属ってヤツは!! 背中が気色悪ぃっ!!」

「カガリ離れろ! そんな薄気味悪いもん、俺が吹き飛ばしてやるよ!」


 カザミはそう言って銀色の尻尾を大きく振ると、大きめの竜巻を三つ作って地面に刺さっていた小刀を上空へと巻き上げた。

 柔らかい土に刺さっていたため抜き易いが、金属であるためそこそこの重量がある。それに、小刀は風の抵抗が少ない作りをしているため、カザミはやり辛そうに舌打ちをして小刀が飛んで来た方向へ吹き飛ばし返した。

 うまい具合に木々の間を抜けて行った小刀だったが、金属同士がぶつかる「キィイン」という甲高い音を響かせただけで『神の手足』を傷付けることはできなかったようだ。

 そうこうしているうちに敵の姿を目視で捉えたカザミが、もう一度舌打ちをして尻尾を細かく振り、カマイタチを複数発生させて放った。


「カガリ、金属は熱に弱いはずだ! 奴らの装備を熱してやれ!」

「言われなくてもわかってるっつの!!」


 カザミの指示を聞いたカガリは両腕を前で交差させ、革紐製の腕輪に付いていた火属性の晶霊石(しょうれいせき)を発動して直径1メートルほどの大きな火球を一つ作り上げた。

 金属を溶かすほどの熱量はないが、目玉焼きが一瞬でできるくらいには熱々である。


「食らいやがれ!!!」


 カガリが掛け声と共に火球を殴りつけると散弾銃のように無数の小さな火球となり、数メートルまで近づいていた『神の手足』に襲い掛かった。


 カザミのカマイタチで足止めをし、カガリの火球で敵の装備に傷を与える。

 敵本体への攻撃は「入ったら僥倖」くらいにか考えていない。

 それほど、『神の手足』は厄介なのである。

 案の定、金属の盾で火球を防いだ『神の手足』は熱くなって持てなくなった盾を呆気なく捨て、腰に差した剣を抜いて特攻して来た。


 敵は全部で七人。

 盾持ちの前衛が二人、盾と槍を持った中衛が三人。弓矢を構えている後衛が二人。

 軽装の前衛二人は、盾がなくなったことで身軽になったのだろう。防御を捨てて攻勢へと転じた。気迫の掛け声と共に一番近くにいたカザミとサラマンダーに狙いを定めて剣を奮った。


「うぉっ……とと。危ない危ない。ま、当たらないけどな」


 風の力で上空へと回避したカザミは(わざ)とらしく体をよろめかせたが、次の瞬間には相手を小馬鹿にしたように大げさに肩を竦めて鼻で笑ったのだった。


 対すサラマンダーは横薙ぎに振るわれた剣を右手で受け止めるような構えをとった。


「馬鹿め! 金属の恐ろしさを味わえ!!」


 鎧兜によってくぐもった声が、自らの勝利を確信して音量を上げた。

 きっと兜の下で笑っているだろう敵の姿を想像したサラマンダーは、純真無垢な笑みを浮かべて右手に高温の炎を纏わせた。そして、振るわれた剣の刀身をいとも簡単に融解させてしまった。


「君も、精霊()の力を侮らない方がいい」


 ニパッと効果音がつきそうなほどの笑顔を浮かべたサラマンダーは、剣を溶かされて呆然としている『神の手足』の一人に近付き、兜へと手を伸ばした。

 『神の手足』は恐怖に足が竦んでいるようで、後退しようとして足を(もつ)れさせ尻餅をついてしまった。それでもなお、ズリズリと尻を地面に擦り付けながら逃げることを諦めなかったが、身を守るための鎧が体の自由を制限して思うように進めず、サラマンダーとの距離は縮まっていく一方だった。

 やがてサラマンダーの手が頭に伸び、恐怖で動けなくなっていた『神の手足』の顔を拝もうと兜を外して遠くの方へと投げ捨てた。

 兜の下には鼠種族の男だったが、彼は恐怖のあまり白目を向き、口から泡を吹いて倒れてしまった。


 ──そんなに怖がられると傷つくんだけどな……。まあ、当たり前か。俺の力は普通からしたら恐怖の対象だもんな。


「でも、それを作ったのは君達が神と崇める存在なんだけど……って、聞いてないなら意味ないか」


 自嘲気味に笑ったサラマンダーは男を通り過ぎようとしたが、仲間がやられて大人しくしているほど『神の手足』は可愛げのある性格や思想を持ち合わせていない。後衛が弓矢を放ち、中衛の槍がサラマンダーを味方から引き離さんと鋭い突きを繰り出してきた。

 土手っ腹に風穴を開けんばかりの勢いで繰り出された突きも、中衛の隙間を縫うように射られた矢も、サラマンダーは手をかざして金属を溶かし、木材を消し炭へと一瞬で変えてしまった。


「ッ!? おい! 第三種族(サード)がここまでの能力を持ってるなんて聞いてないぞ!」


 戦力の差をまじまじと見せつけられた『神の手足』の何人かは、サラマンダーの力を目の前にして進軍を躊躇い始めた。

 その好機をカザミ達が逃すわけもなく、


「ルゥもやるなあ……。んじゃ、俺もこっから本気出すか!」


 と気合を入れて銀色の尻尾を大きく振ったのだった。

 以前にも書いたのですが、戦闘シーンは書くのが苦手です。

 想像してる分には楽しいのですが、文字に起こすのは必死です。

 そしてサラマンダーの上にルビとしてルゥの名前を入れようと思ったのですが、文字数が違いすぎてバランスが悪いのでやめました。


 サラマンダーは自分のことをサラマンダーと名乗ってますが、カザミ達は『?』状態ですね。状況についていけおらず、ルゥっぽい何かだと思ってます。なので、カザミもカガリもサラマンダーを呼ぶときはルゥと呼んでいるのです。

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