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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 それぞれの道
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3、サラマンダー

 目の焦点が合っていないルゥを心配して、度々声を掛けるカザミとカガリ。

 瞳の虹彩が赤く染まっていることといい。フィーリアのことを忘れていることといい。先ほどからどうも様子がおかしい。

 二人は顔を見合わせてしきりに首を捻っていた。


「……鍵が外れた、か」


 ルゥがぼそりと呟いた。

 カザミとカガリはなんと言ったのか正確に聞き取ることはできなかったが、いつものルゥよりも幾分低い声だった。


 やがて、ルゥの焦点の合っていない赤い目は明滅し、赤茶だった毛色が根元から炎を彷彿とさせるような紅蓮(ぐれん)へと染まっていった。


「おいおいおいおい……。目が赤くなって? 光ってんのも大分異常だけど、髪まで染まんのかよ。第三種族(サード)って、こうなるもんなのか?」

「あたしが知るかっ! おいルゥ! どういうことか説明しやがれ!!」


 髪が紅蓮に染まりきると、耳や尻尾も同様に色付いた。

 瞳の明滅は収まったが、先ほどよりも鮮明な(くれない)に変わり、どこか子供っぽかった(かんばせ)は青年らしいものへと変わっていた。


 先ほどまで自身を襲っていた記憶の奔流(ほんりゅう)や、それに伴う頭痛もなく全てが新鮮で明瞭になったような清々しさに包まれているルゥは、耳と鼻をピクリと動かすと荒々しい動作で立ち上がり、多種族町(ネオリブタウン)ムルドのある南東の方角へと視線を向けた。


「ル、ルゥ……だよな?」


 まるで自分の知っている狼の青年とは違う様相になってしまったことに戸惑いながら本人確認をして来たカザミに対し、ルゥは少し低くなった声音で端的に言葉を紡いだ。


「敵が、来るぞ」

「敵? それは──ッ?!」


 この場にいる者はいずれもイヌ科の動物種族。遠くから近付いて来る複数人の匂いを嗅ぎ取って警戒するように姿勢を低くした。


 トワイノース大陸の北西側。休火山の周囲には村も町も群れもなく、少し離れたこの場所にお情け程度の木々が生えている一帯は『ゴリアテ』の縄張りとして近隣には知れ渡っている。

 つまり、トワイノース大陸の者や大陸の知識のある者は近付くことはない。

 となると……別の大陸からこの場所へ迷い込んだ者か、もしくは今回のような血生臭い匂いを纏った『神の手足』と呼ばれる、第三種族(サード)合成種族(キメラ)を殺処分している者達である。


 瞬時にそのことを理解したカザミが小屋の中に居るアーサーを呼び出した。


「アーサー!」

「団長、そんなに大声を出してどうした?」

「のんきに歩いてる場合じゃねえよ! シズクを地下に避難させろ! 『神の手足』がここを嗅ぎつけて来やがった!」

「何ッ!? すぐに戻る!」

「クソッ! こっちはルゥがわけわかんなくなってそれどころじゃねえんだよ! 空気読みやがれカス共がッ!!」

「はいはいちょっと落ち着けー。で、カガリ。他の団員はどうした?」

「……チッ。ハヤテとサラは食料調達。アロとプルートはシズクと一緒」

「まじか……。人数は向こうが圧倒的だな」


 拠点にいる団員の数と戦力を計算して悲観的なことを言っているが、表情は楽しそうな笑みを浮かべているカザミを見て、ルゥは反対に悲しい顔をした。


「戦争、戦い……。どの時代、どの場所でも変わらないな」

「はぁ? 何言ってんだよ。んなもん当たり前だろうが。この世界は弱肉強食だ。殺らなきゃ殺られるのが自然の摂理ってやつだろ。それにルゥだって、あいつらを"敵"って言っただろ」


 言葉と感情の矛盾をカガリに指摘され、ルゥの目は悲しいままだったが口元は確かに緩い弧を描いたのだった。


 本人は無自覚で言っただろう"敵"という言葉。それは、本来なら争いを好まないはずの自分が、破壊を目的として作られたという事実の裏付けであった。


 ──そうなんだよなあ……。


 自嘲した笑みのままカザミとカガリに向き直ったルゥは、両手を広げて鮮やかな紅の尻尾を大きくゆっくりと一振りした。途端、広げた両手の平に拳大の火球が現れた。


「うん。ちゃんと出来たな。久し振りだったから心配だったけど、身体は覚えてるものだな。本当は尻尾なんて振る必要ないんだけど、カザミがこうやってるの思い出して真似してみたんだ」


 喋れば喋るほど、動けば動くほど、こちらを見つめる二人の表情が困惑に染まっていく様を見ていたルゥは、普段の彼には全くもって似つかわしくないが今のルゥには何故かしっくりくる虚無的な笑みを浮かべてみせた。


 その笑みを見たカザミは思い当たる節があるのか、何かを思い出すように視線を斜め上の虚空へと向けていた。


 神と呼ばれた女性と対峙した時、ルゥは一度この姿になっており、カザミとも会話をしている。カガリは幼かった──幼いと言ってもルゥと同じ年齢である──ために覚えていないらしいが、カザミはそのことに思い至ったんだとあたりをつけたルゥは、「ようやく思い出したのか」と言わんばかりに、手にしていた火球をお手玉し始めた。


「戦いたくないのは本心だけど、大切なものを奪われるのはもっと嫌だから、仕方ないよな……」


 再び悲しげな表情になるルゥに、カザミが意を決したように聞いて来た。


「お前、ルゥ……なのか?」


 と。

 ルゥは、カザミの問いに肩を竦めてから、こう答えた。


「俺は、サラマンダーだ」


 言い終わると同時に、彼は弄んでいた火球を(まば)らに生えている木々の間に向かって放った。

 やっとルゥの正体が判明しました。まあ、皆様薄々勘付いてはいたのでしょうが……w

 と言うか、サブタイでネタバレしてますよね? まるで『城◯内 死す』。いや、あれは次回予告か……。


 そして、このあたりから下書きと本編の間に結構な加筆修正が入っています。

 作者であるトキモトも今後の展開を予想できません(ヲイ


23.4.10 誤字脱字、加筆修正

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