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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 多種族町ムルド
52/171

11、去る者と追う者

 ネロ、エーテル、モエギの三人はスクィの家で出会ったルゥの幼い頃の友人であるルドルフからもたらされた情報を頼って、多種族町ネオリブタウンムルドを北西に向かって歩いていた。

 日が落ちたムルドは昼よりも過ごしやすく、夜店が立ち並んで人通りも少しばかり多くなる。蝋燭や提灯の灯りで照らされたその光景は祭りのようであり、急いでいるネロにとっては人混みを縫うようにして歩くのは面倒なことこの上なかった。

 喧騒と人波が落ち着く場所まで来てやっと一息ついたネロ達だったが、急に北西の空が明るくなり、次いで空を裂くような轟音が響き渡った。

 周囲にいた者は何事かと空を見上げ、天高く空を刺すような火柱を目にしては悲鳴や怒号を上げた。


「っなんだ!?」

「何事です!?」


 エーテルとモエギも空を確認し、ざわざわと先ほどよりも煩くなったムルドの町中の会話から状況を把握しようと耳をすませた。


「あれは……火山が噴火したんじゃないのか?」

「方角が違うだろ!」

「そうよ、火山はもう少し西寄りよ!」

「あの火山は死火山じゃなかったのかよ!! くそっ! こんなところで商売なんてできやしねえ!」

「シルフの祠に……巫女にお願いしましょう!」

「おい! 誰か! 火の精霊種族はいないのか?!」


 僅かな知識と憶測、予想、身の安全確保、利害。いろいろな情報が錯綜する中、ネロはただじっと火柱の上がった方角を見て、音にならないくらいの小さな声で呟いた。


「あれは……フー…………?」

「ネロ?」


 エーテルの耳に届くことはなかったようで、なんて言ったのか聞き返すような言い方だったが、ネロはそれに答えることはぜずに何事かと集まって来た野次馬を押し退けるように火柱の上がっている方角へと駆け出した。


「ちょっ……ネロ!? どうしたのさ!!」

「エーテルさん! ネロちゃん! 置いて行かないでです!!」


 エーテルとモエギも慌てて後を追うが、川を流れる水の如く滑らかに人混みの間を縫って進んで行くネロに、徐々に離されていった。やがてムルドを出て人の目がなくなったところで、ようやくネロは足を止めたのだった。

 前方に広がるのは所々草の生えた広大な大地。奥地には木々も見えるがとても見晴らしが良い。しかし、先ほどまで上がっていた火柱は消え失せており、おおよその方角はわかるが正確な場所を知ることは叶わなくなっていた。


「ネ……ネロ……っは……はぁー……。一体、どうしたって、いうのさ……」

「……っは、はやい、ですぅ……」


 少ししてから息を切らせたエーテルとモエギが追いついて、途切れ途切れながらもネロに事情の説明を求めたのだが、ネロは火柱の上がっていたと思われる方角を探るような目で見続けるだけであった。


「ネロ、もしかして……ルゥを見つけたのか? それとも…………」


 痺れを切らしたエーテルがモエギの様子を伺いつつ推測を口にしたが、これ以上は言えないというところで言葉を濁した。

 すると、言葉を引き継ぐようにネロが振り返って、おもむろにフードを外した。


「っネロ?!」

「え……?」


 フードの下から現れる青い髪と青い眼。

 幼いながらも大人びた印象の、均整のとれた顔立ちを初めて目にしたモエギはしばしネロの美しさに魅入ってしまった。


「モエギ」

「えっ……あ、はいです!」


 名を呼ばれたモエギは弾かれたように顔を上げて返事をするが、その後にネロから紡がれる言葉の数々に、徐々に視線を地面へと落としていった。


「あなた、精霊種族と第三種族(サード)が憎いのよね? なら、ここで別れましょう。本当は、最初から行動を共にする気なんて無かったんだけど……あの子の所為でこんなところまで付いてきちゃって困ったわ。まあ、記憶がないのだから、リスに対してなんの感情も抱かないのはしょうがないことなんだけれど……。でも、それもお終いよ。見ての通り、私は水の精霊種族。ルゥは……火の力を持つ第三種族(サード)。そして、エーテルの探している甥も第三種族(サード)。これ以上私達に関わると貴女の嫌いな種族がいっぱい出てくるわよ」

「ネロ、何もそこまで──」

「エーテルも、甘い考えを持ったままならここでお別れね。さようなら」


 短い間でも共に旅をして来た仲間。辛い目に遭わせるかもしれないと思いながらも簡単には切って捨てられないエーテル。なんだかんだ言いつつも受け入れ始めてしまっていたモエギ。

 ネロは、そんな自分の甘さを避難するように二人の事を振り切るように再び走り出した。


 エーテルは走り去って行くネロに向かって手を僅かに伸ばすが、ゆっくりと下げていった。

 元々、エーテルは(マイム)を探すためにルゥとネロの旅に同行した。向こうから誘われた形だったが、その時は変にすれ違ってしまい後々後をおって自ら一緒に行かせて欲しいと頼んだ。

 自分の甥が、第三種族(サード)だから、旅の動向を許可された……。と、そこまで考えて首を捻った。


 誘って来たのはルゥとネロ。

 その時はマイムが第三種族(サード)とは知らなかったはずである。にも関わらず、一緒に行かないかと誘われたのはなぜか? 料理ができるから? それならモエギだって似たような条件だったはずである。

 モエギは自分の口からはっきりと精霊種族と第三種族(サード)に対する嫌悪を言ったわけではない。しかし、ここまでの道中で言葉や行動の端々に静かに出ていたのだろう。

 それでも、ここまで一緒にやって来たのは事実。

 それにモエギの薬草についての知識は、旅の仲間としては十分なはず……。


 そこまで考えた時、独り言のような小さなつぶやきがエーテルの耳に届いた。


「モエギは……モエギは、精霊種族も第三種族(サード)も、嫌いです」


 俯いて、震えるほど強く拳を握るモエギの内に渦巻く様々な感情は平坦な声音からは伺い知ることはできない。

 慰めも励ましも、精霊種族や第三種族(サード)を庇うことも違う気がして、エーテルは掛けるべき言葉を見つけることができずにネロの去った方向とモエギとの間で視線を彷徨わせた。


「それでも……」

「ん?」


 どうするべきか考えあぐねていたエーテルは、モエギの絞り出すような言葉を聞いて視線を彼女に固定させた。


「それでも……っ! やっぱりルゥ君を好きな気持ちも、ネロちゃんが大切な気持ちも、本当で、本物です!!」


 パッと効果音の付きそうなほど勢いよく顔を上げたモエギは、自分の進むべき道を知っている、迷いのない目をしていた。


「……よし! ネロの後を追うよ!!」

「はいです!!」


 二人は吹っ切れた表情で、ネロの去って行った方向へと駆け出した。

 昨日が25日だったんですね……。

 日付の感覚が麻痺して、今日が投稿日だと思ってました。すみません。


 前回のあとがきで、ムルドの話はまだまだ続きます。と言いましたが、今回で終了です。ネロの独白を除けば……。

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