6、エーテルとモエギ
「エーテルさん、ルゥ君行っちゃったですよ……?」
「どうすんのさ……。なんでカザミってやつがここに……? と言うか、ルゥはまるで待ってたみたいなこと言ってたし……。あークソっ! ネロは何やってんのさ! 全く……早く、帰って来いよ……」
「追いかけるです?」
「いや……。ネロが居ないうちは下手に動かないほうが良いだろう。カザミは……多分ルゥに危害は加えないと思う。とりあえず、宿探しは一旦中止して町の奥に行ってネロを待とう」
混乱した頭でも最良の行動を模索して答えを弾き出したエーテルにモエギは素直に従った。
ルゥとカザミの関係も知らない。ルゥ達とそこまで親交がある訳でもない。親しいと言っても『半ば強引に付いて来た』ということをモエギは自覚しているのだ。
それでも恋する乙女は貪欲に、好きな人の情報を求める。
町中を進んでいる途中、モエギはエーテルにカザミとの関係を聞いてきた。
毛色は違えど同じ狼の動物種族。友人か血縁者ならば親しくしておいて損はないと考えているようだった。
「アタシも、ネロほどカザミのこと知ってるわけじゃないのさ……。その……カジュカで一回会っただけだし……」
エーテルはどう説明したものか悩みながら、歯切れの悪い回答をした。
カザミの事を話せば、ルゥが第三種族であることも匂わせてしまわないかと危惧した結果だった。
しかし、モエギはその答えに納得しなかった。
「それだけじゃルゥ君のあの様子は納得できないです! ネロちゃんの居ない間に、ってルゥ君言ってたですよ? あれはどう言う意味です?」
どこまで情報を与えるべきか……。
エーテルは悩んだ末に、後で気付くだろう事だけを教えることにした。
「そうそう。カザミは確か第三種族だって言ってた。風を操ってたみたいだし……」
「サード? 第三種族って、動物種族でありながら精霊種族の力を使える、あの第三種族です?」
「ああ。らしいね」
「なんで……っなんでそんな……! なんで異端者がルゥ君と親しげです?! エーテルさんは、知っててルゥ君を行かせたですか?!」
第三種族の名を聞いた途端、モエギの表情は恐怖に染まった。その恐怖を紛らわせるかのように声を荒げ、エーテルに食ってかかるように、それでいてどこか縋り付くように掴みかかった。
エーテルはそんなモエギを見て驚きを露わにしたが、すぐさま彼女を落ち着かせようと掴みかかっていた手を優しく包み込みながら説得をした。
「取り敢えず落ち着こう? ほら、異端者──」
「精霊種族も、第三種族も、動物種族からしたら異端者です! 確かに、エーテルさん達は晶霊石と言う便利な道具を使って生活してるです。それで生活は楽になってるのも事実です。でも、あいつらは普通ならありえない力を当然のように、神様の名を騙って使うですよ!? それでっ……それでお婆ちゃんが、どんな目に遭ったか……っ!」
それは慟哭のように、聞いている者の心を切なく締め付け、聞かずと聞いていた周囲を静まり返らせた。
町の中心に近い場所で、下手すれば争いの火種になりかねない単語を連発するモエギに、エーテルは痛む心を押し隠して周囲に愛想笑いを振りまきながら彼女の口を塞いだ。
「ちょっっっと落ち着こう、な? こんな人めのある場所で、その……異端者とか連呼したら色々とまずいしさ……?」
「もがもがっ……!」
「わかってる。わかってるって。でも、それでもルゥはカザミに聞きたいことがあったんだろう? モエギだって、もしもこの世界でカザミだけが黄金のリンゴの在り処を知ってるって言ったらどうする?」
「フガッフガ! プハッ! ……っそれは、『背に腹はかえられぬ』です……」
エーテルの拘束を振りほどいたモエギは、もの凄く忌々しげな表情で呟いた。
恐れや憤りは収まってはいないようだが、先ほどよりは幾分落ち着きを取り戻しつつある彼女に、エーテルは優しく頭を撫でて「そう言うことさ」と褒めた。
「そう……ですよね。ルゥ君にも、何か事情が、あるですよね?」
「きっとそうさ。さあ、アタシ達は大人しくネロの帰りを待とう」
「はいです。……あと、さっきは興奮してしまってごめんなさいです……」
「良いって」
こちらの言い分に納得して、かつ自分の非を詫びたモエギに対して、エーテルはルゥの事情をある程度知りつつも隠している事実に心苦しくなった。
それは、ネロが精霊種族であるということも含まれる。
明らかに精霊種族や第三種族を嫌悪しているモエギに色々な事を隠している今、今日の出来事が今後の旅に確実に影響する事を危惧して、気付かれないように大きなため息を吐いたエーテルだった。
エーテルさん主体の第三者視点です。
主役の二人がいないなか、エーテルが頑張ります。
そしてモエギの過去をチラ見せ。




