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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 多種族町ムルド
45/171

4、招かれざる待ち人

「薬を売る」


 モエギのこの言葉はデューズラルト大陸から今現在ルゥ達がいるトワイノース大陸に渡る船の上でも言っていたことで、それ以上にエーテルに酔い止めを処方していたり、解熱剤を煎じていたりと、モエギは薬草学の造詣(ぞうけい)が深いようである。

 モエギは(おもむろ)に一つのサボテンを手に取り、斜め掛けの鞄から目の荒い石を取り出してすりおろし始めた。


「これはウチワサボテンと言って、咳止めや解熱作用があるですよ。他にも色々効能はあるですが、食べるだけで体に優しい植物です」

「「へえ……」」

「他にも……これはカモミールという花を乾燥させたものです。有名な香草で、お茶にして飲むと鎮静効果があって安眠できるです!」


 そうして鞄から色々なものを取り出しては一つ一つ説明するモエギに、ルゥとエーテルだけでなく、大道芸を見終えてその場を離れ始めていた観客が再び集まり、二人と一緒になってモエギの薬草講座を聞いていた。


「お嬢さん、腰の痛みに効く薬草はないのかい?」

「それならヨモギの茎です! これくらいの量をこれくらいの水で煮詰めて、食間に飲むと良いですよ!」

「じゃあ、それを貰おうかね。いくらだい?」


 腰を曲げた亀の老婆がそう尋ねると、モエギは迷うことなく「白石2枚です」と答えた。


「意外と高いんだね……」

「それでもアタシの居たケイナンよりは全然安い方さ。薬草っていうのは知識がないと作れないのに、モエギみたいな薬師は数が少ないからね」


 ルゥとエーテルがコソコソと話している間にも老婆は会計をすませ、今度は牛の男性が打ち身に効く薬がないかとモエギに尋ねていた。

 そうしてモエギの鞄が空になるまで説明販売は続いたのだった。


「お嬢さん、またムルドに来とくれよ」

「はいです! 今度はもっといっぱい持ってくるです!!」


 全ての薬を売り終えたモエギは、白石9枚と灰石5枚を獲得していた。

 「どうだ」と言わんばかりの顔でルゥとエーテルの方を見ていたモエギに、ルゥは素直に賞賛を送った。


「モエギ凄い! 格好いい!」

「ああ、格好良かったよ」

「えっへん! です! モエギは出来る子ですよ」

「じゃあ、その出来る子なモエギに宿探しも頑張って貰おうかね」

「はうっ?! それは酷いです! 皆で探すですよ!」

「あはははっ! そうだね。僕とエーテルとモエギと……。全員が一人部屋っていうのは無理でも大部屋じゃない宿はきっとあるはずだし、頑張って探そうね」


「それなら俺らの拠点に来るか? 個室を用意させるぞ?」

「用意させるって、俺の仕事か……」


 聞き覚えのある声が近くから聞こえて来た。

 エーテルがその方向に振り向く前に、ルゥが口を開いた。


「なんとなく、そろそろ会える気がしてたよ。カザミ……だっけ? 聞きたいことがあるんだ。ネロが居ない、今のうちに」


 ルゥがゆっくりと振り向いた先に、ちょうど上空から着地したカザミとアーサーの姿を捉えた。


「ルゥ、それは……どういうことなのさ」

「二人とも、知ってる人です?」


 困惑するエーテルと何が何だかさっぱりわからないモエギをよそに、笑顔のカザミと頭を抱えるアーサーに対峙するルゥは、いつもよりも大人びた表情をして居た。

 しかし、次の瞬間にはいつものあどけない表情になり、「行ってくるね!」と手を振ったのだった。


「は? ちょっとルゥ! 一人で行くのか?! ネロはどうするのさ!」

「男同士の話だからね、女の子はきちゃダメ……なんてね」

「そういうこと。色っぽい姉ちゃんも可愛い子も、また今度な。アーサー、お前は先に行ってカガリにルゥが来るって説明しとけ」

「……団長、後で一発殴らせろ」

「そりゃ遠慮しとくわ」

「まあ、どうせカガリに殴られるだろう。それで差し引きゼロにしておいてやる」


 翼をバサリと鳴らして一足先に飛び立ったアーサーを見送ったカザミも、尻尾を一つ大きく揺らして風に乗って宙へと浮いた。

 その様子をただ見ていたモエギとエーテルが視線をあっちこっちに彷徨わせている様をルゥは申し訳なさそうに眺めていた。


「え? え? ちょっと、エーテルさん! モエギにもわかるように説明するですよ!」

「アタシにも、何が何だか……」


 やっと動き出した二人だが、未だ状況を把握するには至っていないようだった。

 ルゥは、そんな二人に笑顔を向けた。


「大丈夫。僕はちゃんと、みんなのところに戻って来るから」

「ルゥ、本当に行くのか?」

「モエギにもわかるように説明を──」


 モエギの言葉を遮るように、カザミの巻き起こした風がルゥの体を宙へと浮かせた。


「ネロに、よろしくね」

「ちょっ……ルゥ──」

「飛ぶぞ!」


 カザミは掛け声と共に上昇気流を巻き起こし、ルゥの体を高く浮かせた。


 眼下で呆気に囚われているエーテルとモエギ。その周囲で第三種族(サード)だと騒いでいるムルドの住人。

 ルゥとしては初めて体験するはずの空中浮遊だが、そこまで観察する余裕のある自分に戸惑いつつもしっかりと風に乗っているという事実。


 ──僕はカザミをよく知ってる。多分、カザミも僕をよく知ってる。ネロが教えてくれないこと、聞かないほうが良いこと。カザミは知ってるかもしれない。


 やがてエーテルとモエギの姿が見えなくなるまで上昇したルゥとカザミは、風に乗り西の方角へと運ばれて行った。

 『ゴリアテ』と再会です。

 個人的にカザミ達『ゴリアテ』の面々は書いていて楽しいです。特にカザミは動かしやすいですね。もう、勝手に動いてくれます。こんなに作者に優しいキャラクターは中々居ません。本当にありがたい……。まあ、気を抜くとカタカナになってしまう困った子でもあるんですがw


19,8,24 誤字脱字修正。

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