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箱庭の記憶 〜君の記憶は世界の始まり〜  作者: トキモト ウシオ
トワイノース大陸 多種族町ムルド
42/171

1、別行動開始

 多種族町(ネオリブタウン)ムルドの町並みは砂嵐に強い煉瓦造りの家と街路樹が多く立ち並ぶ、先ほどまで砂地を歩いていたと忘れそうなほどガラリと印象が変わる。町の住人達は多種族町(ネオリブタウン)カジュカほど活気に溢れているわけではないが、皆が皆活き活きと暮らしていた。

 暑さと砂嵐から体を守る為に住人は足首まであるフード付きの外套を身に纏い、ラクダに荷物を乗せて売り歩いたり道の端に天幕を張って商売をするなど、砂地特有の商売方法をとっており、ルゥ達は目を輝かせながらあちこち観察しては様々な感嘆の声を上げたのだった。


「凄い! 地面が砂じゃないよ! 石が敷かれてる!」

「石畳です! 凄いです! あっ! ルゥ君あっちを見るです! 天幕の中で家畜を売ってるです!」

「本当か!? うあー、中に入って見たいな」

「待ってエーテル! あのラクダ、土の晶霊石(しょうれいせき)をたくさん背負ってる! 黄色い石って土の晶霊石だよね?」

「ああ。でも、なんで土だけなのさ?」

「あれじゃないです? 大サボテンのところで象の人が言ってた火の精霊が減って土の精霊が増えてるって言うことと関係あるんじゃないです? モエギとしては、どうでも良いですけど」


 モエギにしては珍しい暗い最後の一言が、盛り上がっているルゥとエーテルの耳に届くことはなかったが、一人一歩引いたところで全体を見ていたネロの耳には届いた。

 その言葉に、ネロは何を思ったのだろう……。

 会話を続ける三人に向かって静かな声で語りかけた。


「疲れているのを忘れているかのような盛り上がりね」

「疲れてるですけど、なんか楽しくなったです!」

「そうさね。アタシも珍しいものがいっぱいで、疲れとか忘れてた」


 ルゥ以外の二人が見るからに楽しげに返答をした。

 もちろん、ルゥもネロに対して応えようとはしていたのだが、『神の手足』からの一件でどうにも遠慮とは違う、踏み込み難い心の距離が開いてしまっていたのだった。


「確か、この町の奥は許可がないと入れないから変にあっちこっち見て回らなければ精霊種族だろうと第三種族(サード)だろうと目を付けられることはないと思うわ」


そんなルゥの気持ちを知ってか知らずか、ネロは淡々と話を進めていた。


「なんでそんなに他人事なんだ?」

「もしかして、ネロちゃんはどこかに行くです?」

「私は用事があるの。夜には戻るから、宿屋の確保と旅費の調達をお願い」


 ネロが別行動をすると知って、ルゥは喧嘩していても情けなく尻尾を垂れ下げて縋るような目を向けて彼女の外套の裾を軽く握った。


 幼子のような仕草で引き止められたネロは危うく絆されそうになっていたが、ルゥの凶悪とも言える可愛さを振り切るように乱暴に手を振り払ったのだった。


「……なるべく早く戻ってくるわ。エーテル、ルゥのこと頼んだわよ」

「え? ああ、もちろんさ」

「モエギには頼まないです?」

「ネロ…………」

「……行ってくるわね」


 自分を自分たらしめる相手。

 記憶のないルゥには、自分という存在を形成してくれるネロは別格の存在である。


 ──僕は知らなくちゃいけない。僕が、誰なのかっていうことを……。なんで、ネロは僕に良くしてくれるのか…………。


「ほら、ルゥ。なんか美味しいものでも食べてさ、安くて良い宿探して、ネロの帰りを待とう、な?」

「ネロちゃんがいなくなっても、モエギが居るです!」

「そうだね……うん! 美味しいもの食べて、ネロの帰りを待とう!」

「やっぱりルゥは笑顔で元気がなくっちゃな」

「はいです! さあ、ルゥ君! 美味しいものを食べに行くです!」


 町の奥へと消えて行ったネロの、すでに見えない背中を名残惜しそうにもう一度だけ見遣って、今、自分の名前を呼んでくれる存在に笑顔を向けた。

 新章突入!

 そしてまさかの二連続投稿。

 どっちも短いな……と思ったので、続けて投稿させていただきました。


 トワイノースは色々巻き起こします。


19,8,24 誤字脱字、加筆修正。

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