1、見えない想い
ようやくたどり着いた多種動物種族村サイオス。
ネロの事前情報通りどこか閉鎖的で、文明の"文"の字ほどの発展しかしていなかった。
それも精霊種族や第三種族などを徹底的に嫌うサイオスの住民なら致し方ない事であろう。
この世界にも自然災害はある。
元来、精霊種族とは自然災害を抑制、管理するために存在する。
自然災害全てを無くしたりすることはない。
何故ならば、災害という困難なくして種族の成長は見込めないからである。
神は種族を甘やかすことはしない。
自ら成長し、生き抜く力を身につけなければやがて種族は滅び、この世界が終わってしまうからである。
しかし、サイオス(に限ったことでは無いが)の住人は、精霊種族が故意に自然災害を発生させて生物を悪戯に死に至らしめていると思っている。
抗うすべを知らず、ただ受動するしかない恐るべき力の前に、彼らは恐怖し、怒り、憎しみを持ったのである……。
「やっと着いたわね」
「疲れた……ですぅ……」
砂地の中にポツポツと大きめの天幕が建てられ、その天幕の近くには日よけのためのサボテンや食用の高黍、ナツメヤシ。その他にもバオバブなどの乾燥に強い植物が多く植えられており、晶霊石の加護を嫌っている分、自然そのままの知恵で暮らしていた。
ひとまずエーテルを休ませる為に一番近くに張ってある天幕に近付いたルゥだったが、ネロに外套の裾を引っ張られて足を止めた。
「どうしたの?」
「……モエギに行ってもらいましょう。彼らは精霊種族、第三種族、晶霊石を嫌っているわ。ルゥと一緒で、変に嗅覚が鋭い住人に見つかってみなさい。困るのはエーテルよ。失敗は許されないの」
ネロの言葉は『第三種族であるルゥは行くな』と言っており、ルゥもその意味に気付いて素直に頷いたのだが、モエギだけは一体なんのことを言っているのかわからず首を傾げながら聞いてきた。
「なんでルゥ君じゃダメです?」
「ルゥは……お守りとして晶霊石を持っているからよ。私が水の晶霊石を持っているのと同じようにね……」
ネロは説明しながら水袋を取り出して、飾りとしてつけられているように見える晶霊石を見せた。
なんとも微妙な言い訳だったがモエギはそれで納得したのか、ならばといった感じで近くの天幕へ向かったのだった。
「ごめんくださいです」
モエギが天幕の入り口である布を揺らしながら中に声を掛けると、少し間を置いて鳥の動物種族(種族名:ミナミハシボソキツツキ)の男が警戒しながら顔を出した。
「……なんか用か?」
「旅の仲間が体調を崩してしまったです。ゆっくり休ませてあげたいのですが、寝床を貸してもらえますです?」
「……うちは、見ての通り狭い。他の家もそうだろう。ただ、あそこの天幕は空家だ。自由に使うと良い。あの家の近くに植えてある植物もあの家のものだ。自由にしろ」
「ありがとうです!」
「だから、もう声を掛けてくるな」
素っ気なく言って天幕の中に引っ込んでしまった男性に、モエギは耳を垂れ下げてすごすごと二人の元へ戻った。
「この村の人はなんだか……冷たいです」
「多種動物種族村というより、規模のある雑多群ね……。まあ良いわ。こういう村では変に関わらない方がお互いのためよ。さっさとエーテルを休ませてあげましょう」
「うん……」
精霊種族や第三種族という種族嫌悪ではなく、外部の者全てを疎ましく思っているように見えた。
重い空気のままエーテルを空家(天幕)まで運び、以外にも広く快適な室内の、以外にもしっかりしたベッドに寝かせた。
どうやら天幕内部は耐寒性も優れているらしく、外は陽が落ち砂漠の厳しい寒い夜がやって来ているはずだが、エーテルに追加の布を渡すことも、ルゥ達が外套に包まることもなく普通に腰を落ち着けることが出来ていた。
「私達の使っている天幕とは大違いね」
「はいです。どういうことです?」
「砂の匂いもしないね。布が違うの?」
「良くわかったわね。そう、私達が使っている天幕よりもずっと上質な布を使っているのよ。こんな閉鎖的な場所で、どうやってこんな良い物が手に入れられるのか不思議だけど……
」
いつもよりも刺々しい言い方のネロに、ルゥはネロが苛立っていることを感じ取った。
──どうしたんだろう? やっぱり、精霊種族が嫌われていることが嫌なのかな……? なんか、悲しいな……。
「じゃあモエギ、エーテルのことは頼んだわよ」
「え?」
「それは、どういうことです?」
「どういうことも何も、私はこの村には滞在しないわ。もちろん、ルゥもよ」
急に勝手なことを言われ、ルゥは聞き返すことも抗議の声をあげることも忘れ、ただただその場でフードに隠されたネロの顔を見つめ続けた。
「なんで、ルゥ君もです?」
「貴女には関係のないことよ。さあ、ルゥ。行くわよ」
モエギの疑問が切り捨てられ、急かすように手を引かれたことでやっと状況に追いついたルゥは、手を引かれて立ち上がったがその場を動く事はなく、ネロに従わないことを行動で示した。
今までは、自分を知り、自分を導き、自分を教えてくれるネロに全幅の信頼を置いていたが、ネロ以外にもエーテルやモエギという親しい人物、心を砕く相手が他に出来たことによってルゥは初めて己の意識でネロの行動を否定した。
「……ルゥ。行くわよ」
「なんで? なんで僕はエーテルの側に、モエギと一緒にいちゃだめなの?」
そうネロに問うたルゥだったが、本当は自分が第三種族だからという答えを知っていた。
知っていて、それでもエーテルを心配してそう抗議するような問いをした。
それに対してネロは理由を話すことなく、再び「行くわよ」と言ってルゥの手を引いたのだった。
言葉少ないネロの考えている事が自分の身を案じていること、そしてエーテル達の身も案じていることを理解したルゥは、観念したようにため息交じりに同意して足に込めていた力を抜いた。
「待つです」
天幕を出て行こうとしていた二人をモエギが立ち塞がって止めた。
「何よ」
「納得いかないです」
「納得いくもいかないも、ルゥが同意したんだから貴女には関係ないでしょう」
「関係あるとか無いとか、そうじゃ無いです! 横暴です! なんでネロちゃんもルゥ君もここに、エーテルさんの側にいてあげないです!? モエギにもわかるように説明するです!」
泣き縋るようなモエギに、それでもネロは一切ブレる事なく「関係ない」と切り捨て、ルゥの手を引いて天幕を後にした。
──ネロ、焦ってる? 急いでる……違う。不安がってる……? 分からない。ネロの考えてることが分からない。僕のこと、エーテルのこと、モエギのこと。大事に思ってくれてるのは分かる。精霊種族だから、第三種族だから、モエギに話せないことがあって、色々な理由を言えないのも分かる。でも、それでもいつものネロなら、言い方は怖くてもきちんと説明してあげるのに、分からない……。
いやー、下書きなしで一から書き上げるのってやっぱり大変ですね。
特に、この回から結構ギスギスし始めますので、トキモトも書いていてつらたんです。
仲間が増えることで生じるすれ違いや衝突。それを乗り越えたときの成長。
いつ乗り越えていつ成長するのでしょう……w




