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6、嵐の後

 モエギを守りつつ海賊の攻撃を(かわ)し、場合によっては受け流し、いなす。

 ルゥはそんなことを続けながら、徐々に冷静になっていく自分の思考に恐怖を覚えていた。


 ──なんで? なんで僕は、こんなに大勢に囲まれて……怖いはずなのに身体は戦うことを覚えてるんだろう? 僕は知ってるんだ。動物種族の本能じゃない。もっと別の、何か、昔の僕が……?


 入り乱れる感情と思考を度外視して体は奮われる拳を余裕で躱し、お返しとばかりに鳩尾(みぞおち)へ己の拳を叩き込む。更にはモエギに迫る手を叩き落として上段蹴りを頭に叩き込み、もう一人も甲板へ沈めた。

 (はた)から見れば普通に戦えているルゥを不思議に思う者はエーテルのみ。

 ネロは、ルゥが戦えることを知っていたが、彼が本当は平和主義であることも知っているために複雑な表情をしていた。


「ルゥ! 助けに来たぞ!!」

「エーテル!?」


 ルゥが次に対峙していた海賊に対して見事な飛び蹴りをかましながら颯爽と登場したエーテルに、ルゥは驚きと少しの安堵を覚えた。

 やはり不安な時は誰か頼れる相手が側にいると心強いものであり、エーテルの存在がそう言う立ち位置になっているという事実の証明でもあった。

 そして背中を合わせて海賊達と見合った二人は、一瞬の隙をついてモエギを危険地帯から遠ざけた。


「これで一安心だね。ところで、ネロはどうしたの?」

「視線を集めたくないって言って離れたところから──」


 酷い言い様だが、お荷物がいなくなったことで視野の広がったルゥがもう一人の少女の行方を訊ねると、エーテルがちらりとネロのいる方に視線を向けて説明を始めたところで、その方向から物凄い勢いで水の塊が飛んで来て目の前の敵を海まで吹き飛ばした。


「……こんな感じで支援攻撃してるよ。天気は雨だし、周りも水ばっかりだから助かるわ……なんてネロは言ってたけど、人目があるからそんなに手助けできないとも言ってたぞ」


 エーテルが言ってるそばから、またしても水の塊が海賊の一人を先ほどと同じように海まで吹き飛ばしたのだった。


「……あははは。ネロ、怖い」

「アタシも思った。けど……」

「本人には内緒、だね!」

「ああ!」


 それからの二人+一人は、初めて共闘するとは思えないほど息のあった連携を見せ、海賊一味を次々と甲板や海に沈めていった。

 そして…………。


「さあ、アンタが最後だよ、海賊団の船長さん」

「チッ……」

「えっと、ツナミさん? もう悪いことしないって約束できる?」

「ルゥ、甘いよ。こういう輩はきっちりと身体に覚えさせないと同じことを繰り返すのさ」

「そうなの?」

「ああ。特にコイツは殺しをなんとも思ってないからね」


 無表情にツナミを糾弾(きゅうだん)するエーテルを見て、ルゥは身体の芯が一瞬冷たくなった気がした。


御託(ごたく)が長いわよ」

「ッぎゃあぁあぁあ!」


 ルゥとエーテルが話している隙に逃げ出そうとしていたツナミを、こちらに合流しに来たネロが思いっきり金的蹴りを食らわせてその場に転がした。

 その光景を見て思わず股間を押さえてしまったルゥは、蹴りで追い打ちをかけ続けるネロと痛みに悶えながら転がされ続けるツナミを見て、彼に少しだけ同情したが、フードの下から鋭い目で睨まれ、サッと視線を逸らしたのだった。


「全く、ルゥが勝手に飛び出すから面倒なことになったじゃない。乗員乗客に顔を覚えられて良いことなんか何もないわよ。それとエーテル。この世は弱肉強食でしょう? こいつがやったことは許されることじゃないけど、殺しに関して貴女達がどうこう言うのは無駄な哲学よ。特に、まだ敵の意識がある内にやることじゃないわ」

「「ごめんなさい」」


 無機質な小声で説教をしたネロの表情は(うかが)えない。

 怒られながらも、なんの感情も見えないネロを心配するルゥは、先ほどまで感じていた己の中に芽生えた不安や恐怖といった感情をすっかり忘れていた。


「さて、問題はこいつをどうするかよね」

「そこらへんに倒れてる海賊もどうするか……。魚種族であるこいつらをこのまま海に投げても逃げられるだけだろうし、とりあえず縛っておくか?」

「そうね」


 エーテルと普通に会話をしてる様子から、そこまで怒っているわけでもないらしい。と、一先ずは胸を撫で下ろしたルゥは元気良く手を上げながら「僕も手伝う!」と彼女達の会話に参加した。


「きつく縛るのよ」

「だったらここをこうして……」

「ッ痛い痛い痛い!!! 骨! 折れてるっつの!!!」

「凄い痛がってるけど、良いの?」

「良いのよ。それより、エーテル良くこんな複雑な縛り方できるわね」

「これも旅芸人から教わったのさ」


 周囲から向けられる視線を気にしないよう、あえて楽しくツナミを帆柱にああでもない、こうもないと括り付けては解くという『エーテルの麻縄の結び方講座』を一通り試し終わった頃には、暗雲立ち込めていた空から晴れ間がのぞき、荒れ狂う波も穏やかなものになっており、このままトワイノース大陸まで何事もなく行ければ良いと話していた時、興奮した声が掛けられた。


「あ、あの……!」


 聞き知った声に、ルゥは笑顔で応えた。


「モエギ、どうしたの?」

「さっきは助けてくれてありがとうです! ルゥ君は、モエギの……ロビンフッド様です!」

「…………ん? 今、なんて言ったの?」

「ロビンフッド様、とか聞こえたわね」

「モエギ、それ、本気で言ってるのか?」


 ルゥ達三人は仲良く首を傾げ、なんとも言えない表情をした。

 そんな彼らを無視して興奮状態のモエギは恋する乙女の眼差し全開でルゥを見つめ、胸の前で手を組みながら熱い想いを語り始めた。


「モエギは地元では結構有名な弓使いなのですよ! そのモエギを射止めたルゥ君はまさにロビンフッド様です!! モエギを颯爽と助けたあの勇姿! モエギ、ルゥ君に一生付いて行くです!!!」

「や、あの……モエギ?」

「ちょっと!!」


 モエギの勢いに押されて仰け反っていたルゥの目の前に、モエギを押し返すようにネロが割って入った。


「貴女、黄金の林檎とやらを探すんでしょう? 私達について来たって見つからないわよ?」


 身長の低いネロの高圧的な物言いと態度に、モエギの表情が固まった。

 思えば、出会った当初から二人は本能的になのか違いを良く思っておらず、呼び方一つで揉めに揉めていたな、とルゥは過去を振り返って笑った。


「ルゥ君達もセンティルライド大陸に行くですよね? なら、何の問題もないですよ」

「トワイノースからセンティルライドまでずっと付いてくる気なの?! 私達の事は気にしないでさっさとセンティルライドに行きなさいよ」

「結局は行くのですから、少しくらい一緒に居たって良いじゃないです? 身長も心も小さい女の子は嫌われるですよ!」

「貴女に嫌われたって痛くも痒くもないわよ!」

「お? 可愛い狼を取り合って喧嘩か? ならアタシも混ざろうかな」

「何でエーテルまで出て来るのよ。ややこしいから引っ込んでなさい」

「そうです! モエギとネロちゃんの問題です!」

「またちゃん付けで呼んだわね?!」

「悪いですか?!」


 売り言葉に買い言葉。

 白熱して行く二人の言い争いに対し、ルゥは幼い表情を作って「仲良しは良いかな? でしょ?」と二人の喧嘩を止めに入った。


「ルゥ、それを言うなら『仲良き事は美しきかな』よ。はぁ……。もう良いわ」

「これはルゥの一人勝ちだね」

「ルゥ君には誰も敵わないのです!」

「う……?」


 ルゥによって熱を削がれた二人は不毛な言い争いに終止符を打った。

 先ほどまでのピリピリした空気が一瞬で霧散したことにルゥ自身が呆気にとられて首を傾げ、エーテルに視線で説明を求めたが、エーテルもルゥの天然(?)に困った顔で笑うのみに留まった。


 それからは言い争いや険悪な空気は出なくなったものの、ルゥを囲んで変な空気のまま航海二日目を終え、三日目も特にこれと言った騒ぎもなく、四日目の朝にはトワイノース大陸にたどり着いたのだった。

 海の上での戦いが終わり、いよいよ次で新たな章、大陸に入ります。

 戦闘シーンを文字に起こすのは苦手です。

 臨場感とか、動きのキレとか、細かく書きすぎるとややこしくなるのでふわっと感じ取っていただければいいなあと思います。


 そして、今更ながらにこの話ではなるべくカタカナを使わないようにしています。なので、フードであったり頭巾であったりとまちまちな表現がありますが、いずれ統一させたいと思いますので暖かく見守ってください。


22.3.23 誤字脱字、加筆修正

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