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5、船上の戦い

 貨物室から甲板に連れてこられた乗客は、海賊団『暁の水平線』の団長ツナミに縛られた乗組員の近くの船縁(ふなべり)に並ばされていた。

 もちろん、ルゥやネロ、エーテル、モエギも例に漏れず並ばされていたが、他の客よりは恐怖を感じてはいなかった。要因としてはネロの平素と変わらぬ声の調子での励ましと、他でもないルゥのこんな時でも安心させられる笑顔のお陰だった。


「下手なことをしなければ殺されはしないはずよ」

「大丈夫。大丈夫だよ。みんなは、僕が守るから」


 小声で交わされる励ましに、年長者であるエーテルは『自分もしっかりしなければ』と恐怖を気合いでねじ伏せ、旅の経験がそこそこあるモエギは『ネロには負けたくないと』変な方向に負けず嫌いを発揮して見栄を張った。


「そうだな。ルゥにばっかりいい格好はさせられないね。大丈夫、ルゥもネロもモエギも、アタシが守るから」

「モエギだって大丈夫なのです!」

「そこ! 煩ぇぞ! おい、テメエら。死にたくなかったら積荷と荷物を全部差し出せ」


 ツナミがそう言うと、数人の乗客は持っていた荷物を近くで見張っている他の海賊に差し出し始めた。

  手荷物を渡す乗客たちの行動が落ち着いてくると、ツナミは不機嫌そうに近くにいたこの船の船長の首元に刃物を充てがい、さらなる脅しを掛けた。


「……よしよし。ただ、あれか? 渡してこないやつは死にたいってことだな? なあ、船長さんよお?」

「つ、積荷は全部渡す! だから、乗客の荷物は勘弁して──っぐぅ!」

「テメエに拒否権はねえし、発言権もねえんだよ!」


 勇敢なる船長は乗客の安全を最優先に考えて海賊と交渉しようとするが、ツナミは自分で聞いたにも関わらず理不尽にも船長の言葉を途中で蹴りを入れて遮った。

 そして未だ手荷物を抱えている乗客の一人に目を付け残虐な笑みを浮かべたツナミは、ゆっくりとした歩調で威圧するようにその乗客の元へ向かった。


「ひぃっ……!!!」

「逃げんじゃねえよ。荷物を渡してくれればなんもしねえからよお? ……オラ、ぼさっとしてんじゃねえよ! テメエらは積荷を持ってこい!」

「わっかりやした!!」


 威圧に怯え尻餅をついた乗客(鹿の動物種族の男)の近くに立って事の成り行きを見ていた海賊の一人に、イライラしながら命令したツナミは、先ほどまでつり上がっていた眉を下げて表情に笑みを貼り付けた。


「悪いようにはしねえからよお、その荷物、俺にくれよ。な?」

「ゆ、許してください……。こ、このなかっ……中には、ぜ、全財産が……!」

「そうかそうかあ、全財産かあ。それは大事なモンだよなあ?」

「ッはい!」


 涙と鼻水(まみ)れの鹿の男は、ツナミの待とう雰囲気が柔らかくなったことに安堵したのだろう、表情に一縷の希望が見えた。しかし、船が波によって大きく揺れると、ツナミは態とらしくよろめいて鹿の男ごと倒れこみ、その首元スレスレに刃物を甲板に突き立てた。


「ぁ……」

「おっと、危なねえなあ……。いやいや、悪いなあ」


 悲鳴も上げられないほどの恐怖に固まってしまった鹿の男に、ツナミは凶悪な笑みを浮かべて謝罪がてら引き起こした。


「どうにもこの船は安定感がねえからよお」


 ツナミはそう言って笑顔を貼り付けたまま、鹿の男の首を掴んだ。


「ガッ……!」

「どうだ? 渡す気になったか? それとも、死ぬか?」


 ジタバタともがく鹿の男の首を掴んだまま船の外に吊るしたツナミは、未だ荷物を抱えている他の乗客に向かって大声で叫んだ。


「どうやらテメエらは事態の深刻さを全くわかっちゃいねえ。なら、一人くらい見せしめに殺さないとダメだよなあ? なあ! ほら、早くしねえといつ手が離れるかわかんねえぞ? この船は揺れるからなあ」


 ツナミの本気を見た乗客達は荷物を手放し、三人の海賊がそれらを集めて自分たちの乗ってきた船へと運び込んだ。

 ちなみに鹿の男はずっと首を掴まれた状態で苦しげに呻いていたが、鞄だけは未だ抱えたままである。


「ルゥ、エーテル。絶対に荷物を渡してはダメよ」

「でも……」

「海に落とされたら私が助けるわ」

「……僕、泳げないんだよ?」

「私が助けるまで気合いでなんとかしなさい」

「マジかよ……」


 ルゥ達が小声で話をしていると、彼らの近くにいた海賊が声を上げた。


「ツナミさん! ここにも荷物を渡さないガキが居やすぜ!」

「そうか、そんなに死にたい奴がいるのか」


 ルゥ達は緊張と恐怖で身体を硬直させた。

 しかし、海賊の男がツナミの眼前へと引きずり出したのは、恐怖で泣きじゃくりながらもしっかりとリュックを抱えたまま必死の抵抗と拒絶をしている豚の動物種族の男の子だった。


「やだ! これは、おばっ、おばあちゃんにあげるんだ!!」

「そうか、じゃあ……おばあちゃんに会う前に死ね」

「っいやだぁ!!!」

「チッ。俺はなあ、ガキが大嫌いなんだよ。面倒で煩えから、なあ?」


 鹿の男に同意を求めるように視線を向けたツナミは、男が酸欠でぐったりしているのを見て「悪い悪い」と言って首から手を離し、鞄を掴んだ。


「っぁ……?」

「コイツは頂くぜ。じゃあな」

「はぇ? ……う、ぉおおおおお!?!?!?」


 鹿の男の絶叫が風鳴りに混じって(こだま)したあと、男が海に落下した音がかすかに聞こえてきて豚の男の子は一瞬で顔色を青白く染めた。

 他の乗員乗客も顔を背けたり自らのかたを抱いたりと、男の悲惨な『死』を目の当たりにして一生の恐怖に囚われてしまったようだった。


「酷いものね……」

「アタシ達にはどうすることもできなかったのか……?」

「ここで動けば目立つわ。私達が助かるためには、その他を切り捨てなければいけないのよ」

「でも……」

「ルゥ。エーテルも。ここは聞き分けなさい」


 すぐにでも男の子を助けに行きたかったルゥとエーテルだが、こういうときでも冷静なネロに引き止められ、二人とも悔しそうに拳を握っていた。


「だから、これから何があっても見て見ぬ振りをするのよ……って、ルゥ? 何しようとしてるの……?」

「やっぱり、僕は見ないフリなんてできない。あの子を助けに──」

「待ちなさい。あんた、今の話ちゃんと聞いてた?」


 目立たぬようにひっそりと会話していたのに、ルゥが瞳に怒りを乗せて一歩前に出た。

 そんな今にも飛び出して行きそうなルゥの外套の裾を掴んで引き止めたネロだったが、そうこうしているうちに海賊の一人に気付かれてしまった。


「おい! そこのお前ら何してる……って、お前らも荷物を持ってるな? ツナミさん! ここにも死にたいらしい奴が居やすぜ!」

「ったく、どいつもコイツも……。命は大事にしろよ、なあ? ガキ」


 ツナミが男の子から無理やりリュックを取り上げ、その場で中身をひっくり返して中身の確認をし始めた。

 バラバラと音を立てて甲板に散らばった中身は、男の子の宝物であろう綺麗な石や、祖母と思われる女性の似顔絵、おやつの干し柿、灰石(かいせき)1枚、布製のお守り、そして蛇の抜け殻が出てきた。


「ガラクタばっかじゃねえかよ。まあいいか、これでお前の価値もなくなったわけだ」

「やめ──」

「待つです!」


 ルゥが飛び出すよりも早く、強風の中でも透き通る声が船上に響き、男の子の首に迫りつつあったツナミの腕を矢が(かす)めた。

 痛みで反射的に手を引っ込めたツナミの隙を見て、男の子はリュックの中身をかき集め、恐怖と安心と船の揺れに足を(もつ)れさせながら両親の元へと戻って行った。

 男の子が逃げたことには一切触れず、自分の腕にうっすらとにじむ血に視線を固定して口角をひくひくと引きつらせ、額に青筋を浮かべたツナミは静かだが威圧感溢れる声で問い掛けた。


「……今、矢を射ったやつは誰だ?」


 視線だけで人を殺せそうなほど凶悪な顔をしているツナミは、近くにいる乗員乗客を睨みつけたが、彼の問いに答えるどころか誰一人として視線を合わせようとしない彼らに、ツナミは一層声を荒げて怒鳴り散らした。


「答えろっつってんだよ!!! ぶっ殺されてえのか!? あ゛ぁ゛!?」

「もうやめるです!」

「どこだ! どこに居やがる?!」

「ここです! とうっ!!」


 正義の味方よろしく、帆柱の上から掛け声と共に飛び降りたモエギはツナミの目の前へと少しよろめきながら着地した。


「モエギ!」

「あの子……存在感がないと思ったら……、無視よ、無視! 他人のフリをするのよ」


一日前に知り合ったばかりの少女が、勇敢なのか無謀なのか海賊に一人で立ち向かっている姿に、ルゥも「僕だって!」と勇んで行こうとしていたが、ネロがしっかりと外套の裾を掴んでいてそれは叶わなかった。


「……テメエか? 俺に傷を付けやがったのは」

「悪い輩は、この私が成敗する! です!!」


 ツナミを含めて殺気立った海賊達を置いてけぼりにしたまま、モエギはとある役になりきっていた。


「あの台詞、『ロビンフッドと森の仲間たち』か……?」

「それって確か……童話だったかしら?」

「有名な絵本で、アタシも小さい頃……うん」


 なぜか遠い目をしているネロとエーテルの二人を不思議に思うルゥだったが、モエギと海賊達から視線を外すことはしなかった。だからこそ、モエギの背後から近寄る海賊にいち早く気付き、ネロの手を振りほどいて全速力でモエギと海賊との間に入り、間一髪で助ける事ができたのだった。


「モエギ、ごめん!」

「え?」

「海に落ちろ! 女ぁ!!」

「きゃあっ!」


 モエギに襲い掛かろうとする海賊に、ルゥは全速力のまま体当たりをした。

 海賊は足場の不安定な船上、それも陸地の苦手な魚種族の彼らは元々平衡感覚が他よりも劣るために容易く甲板を転がった。

 ルゥは周囲を警戒しながら、襲ってくるであろう衝撃と痛みに怯えて(うずくま)っているモエギに向かって手を差し伸べながら優しく声を掛けた。


「大丈夫?」


 ルゥの声で顔を上げたモエギだったが、ルゥは差し出した手を引っ込めて近付いて来ていた海賊の一人に向かって拳を振るった。

 他にも二人の海賊がこちらの様子を伺いながらジリジリと接近していたが、吹き飛ばされた仲間の状態を見て攻めあぐねているようで、適度な距離を保ったまま動くに動けない状態であった。


海賊の接近で思わず手を引っ込めてしまったルゥは、申し訳なく思いながらもう一度手を差し出したが、モエギは手を取る事はなくただただルゥを見つめていた。


「ッチ! あんな犬ころ一人に何ビビってんだ!! テメエら()っちまえ!!」


 ツナミの合図で一斉に襲いかかってくる海賊達に、ルゥは未だ座り込んで惚けている状態のモエギの手を引いて立ち上がらせ、彼女を守るように肩を抱いて戦闘の構えを取った。


「あの馬鹿……」

「どうする? って言っても、アタシ達も参加するしかないだろうけどさ」


 ルゥの面倒事を引き込む体質に頭を抱えるネロに、エーテルは加勢する気満々のワクワクした表情で戦闘態勢を取っていた。

 モエギを守りながら海賊の攻撃をギリギリのところで避け続けているルゥに、ネロは自分が助太刀をしないという選択が皆無なのを知っていたが、戦闘に参加する前にエーテルに確認しておきたい事があった。


「エーテル、貴女戦い方を知っているの?」

「動物種族にそれを聞くのか? この世界は弱肉強食。特に、猿は雑食だからさ、結構強いと思うけど? それに、アタシは軽業師もやってた事あるからね。ルゥに遅れは取らないさ」

「随分と大きくでたわね──って、なんかこんな会話を前にもしたような気がするわ」

「アタシは初めてだと思うけど?」

「そうよね……」


気の所為だと思いながらも、喉の奥に小骨が刺さったようなスッキリとしない苛立ちを抱えたネロは、エーテルの「それより」という声で思考を切り替え、ルゥを助けるために動き出したのだった。

 ルゥ君が立派に戦っている回でした。

 エーテルさんも強いですね。まあ、出会った当初も華麗な足技を見せて(魅せて)くれましたが、彼女は軽業師でもありますから、バランス感覚は良いですし柔軟性もあります。

 しかし最強ではありません。エーテルさんは器用貧乏ですので、最強にはなりません。


 そして、サブタイトルに悩んだ回でもあります。

 最初は適当に『船上の戦場』とか下らない仮題をつけていましたが、流石にダメだろうと少し捻りましたw しかし、これもどうだろう? と自分で思っていますので、もしかしたらサブタイが変わる可能性もあることをここで言っておきます。

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