4、盗賊団『ゴリアテ』
デューズアルト大陸にある拠点の一つ、山の奥深くにある自然洞窟へと戻って来たカザミとアーサーは、先ほど手に入れたばかりの水の晶霊石について話しながら洞窟の奥へと進んでいた。
洞窟自体は自然に出来たものだが、アーサーの力によって内部は整備されていてとても過ごしやすく作り変えられている。
そんな洞窟の奥、一面の壁に他とは明らかに整えられ方が違う部分がある。
アーサーがその部分に手を当てがうと壁の中心が自動扉の様に二つに割れ、その中から大小様々な色とりどりの晶霊石が顔を覗かせた。
カザミはその中央に水の晶霊石を鎮座させた。
「うん。こいつが一番でかいな。見ろよ、この堂々とした風貌!」
満足げに晶霊石を撫でながらそう言ったカザミに、アーサーは無表情で宝物庫の壁を徐々に閉じて行く。
「石に風貌も何もあるか。良いからさっさと手を引っこめろ。一緒に埋めるぞ?」
「待った待った! お前が言うと冗談に聞こえねーよ……」
「フン……」
ちゃんとカザミが手を引いたのを見届けてから壁を閉じたアーサーに、カザミは「せめてもっと表情豊かに冗談を言ってくれよ」と呟いた。
洞窟内部を造ったのはアーサーを含めた土の力を使える三人の第三種族だが、宝物庫の開閉が出来るのはアーサーのみである。いや、正確には他の二人も開閉できるのだが、力が弱く宝物庫を開けるだけで一日掛かってしまう。
カザミとしてはもう一人くらい力の強い土使いが欲しいと考えているが、精霊種族よりも数が少ないのが第三種族である。そう簡単に見つかるわけがないよな、とそう考えたところで先ほどルゥと対峙したとき一緒にいた猿種族の美人の言葉を思い出していた。
「そういや、あの美人の姉ちゃんが土の力が使える……甥、だっけ? 探してるって言ってたよな?」
「それがどうした?」
「いや、見つけたら引き入れようかと思って。こっち側に引き入れれば、ルゥとの交渉材料にもなるかもしれないだろ?」
悪どい顔をしてアーサーに同意を求めたカザミ。
本当なら土の力が使える第三種族は欲しいが、ルゥを手に入れる為ならそれすらも利用しようと考えるほど、ルゥの力は魅力的と言うことである。
「団長の野望のため、だな」
「ああ。そう言うことだから、一回フォロビノンに帰って作戦会議だ。シズクのことも心配だしな」
「今度はちゃんと自分の力で飛んでくれよ」
「えー……」
「文句言うな。それとも、動けなくなるくらい血を吸われたいのか?」
蝙蝠の動物種族であるアーサーは悪魔のような翼をバサリと鳴らして鋭く尖った牙を見せつけ、それを見たカザミは表情を引きつらせて両手を上げ、降参のポーズをとった。
「俺が悪かったよ」
「チッ……。動けない団長を丁重に運んでカガリを笑わせてやろうと思ってたのに」
「お前、性格悪いぞ」
「横抱きの団長……クククッ……」
「想像するな! ったく……」
くだらない話をしながら洞窟を出たカザミは、砂地にいる他の仲間を思い浮かべた。
気が強くて喧嘩っ早いが、どこか乙女チックな火の使い手であるカガリ。
彼女はカザミと言うよりルゥに近い見た目をしているが、種としてはオオカミではなくコヨーテになる。しかし、この世界ではそこまで細かな分類は必要としない。哺乳類、鳥類、魚類、両生類、昆虫類の大まかなものからイヌ、ネコ、サル、クジャク、サメ、カエル、チョウなどのパッと見た特徴さえあればそれでことが済む。
そして、カザミの恋人であるシズク。
彼女はとても美しい青い色の蛙である。
動物種族と精霊種族の繁殖は不可能とされているが、異なる動物種族間での繁殖はある程度可能である。
しかし、それは哺乳類なら哺乳類、両生類なら両生類、という分類学に於いて網の階層内での話である。
カザミの狼とシズクの蛙とでは繁殖は不可能であり恋愛対象としても惹かれることはないはずなのだが、最近はその有り得ない事象が良く見受けられる。
互いに惹かれあい、契りを交わし、行為に及び、子を成す。
普通の繁殖に比べ成功確率は極端に低く『母子ともに健康』が叶わないと知っていても、愛しい者とは身体を重ねたくなるもの。
その僅かな成功例が第三種族、そして合成種族と呼ばれる者たちである。
合成種族とは鹿の角を生やした兎、鳥の翼を持つ馬などの、普通なら有り得ない特徴を持って生まれた動物種族のことである。
彼らはこの世に生を受けたとしても必ず若くして命を落とす。
記録では育ったとしても10歳が限界で、原因としては病気や事故など、まるで神が『これ以上生きていることは許さない』とでも言うようにパッタリと死んでしまう。
一時期は神が下界に降り立ち彼らを粛清したこともある。
そして、カザミが晶霊石を集めている理由がそこに繋がる。
彼が率いる盗賊団『ゴリアテ』は、第三種族と合成種族の子供を保護している。
各地にはカザミ達を支援する動物種族が存在し、彼らは皆異種族間の婚姻や繁殖を望んでいるのである。
この世界を作った神は、気まぐれで第三種族や合成種族を作り、殺す。
神が異種間の恋愛を認めないなら、力づくで認めさせるまで。
この世界を作った神への反逆。
これがカザミの……盗賊団『ゴリアテ』が活動している目的である。
晶霊石を集めるのも戦力補給のため。
第三種族を集めるのは、彼らの中に四大精霊の生まれ変わりが居るとカザミが信じているからである。
風の精霊種族よりカザミの方が力が強いのは事実なのだが、存在の確認されなくなった四大精霊がなぜ第三種族に転身したのかと問われるとカザミ自身言葉に困るが、その自信が彼を動かす原動力であり、『ゴリアテ』がカザミと言う人物を慕って付いて行く理由にもなっている。
絶対に覆されてはならない、折れてはならない柱なのである。
「団長、早くしないと置いてくぞ」
「先行けばいいだろ。どうせ追いつく」
「……その通りなだけに、余計腹たつ」
翼を大きく羽ばたいて空へと舞い上がったアーサーに続き、カザミも銀色の尻尾を大きく揺らして体を浮かせた。
彼の体を支えている風の力。本来なら精霊種族でも風を操るだけの力しか持たないが、第三種族であるカザミはいとも簡単にこの力を操る。
風を操作して雲の上まで到達したカザミは、大きく息を吸い込んだ。
──待ってろよ、この世界を作ったカミサマ。俺が近いうちに、お前より自由な世界を作ってやる。
ゆっくり息を吐き出しながら目的地がある北西の方角を見据え、勢いよく飛び去ったのだった。
主人公達はお休みの回でした。
合成種族という言葉が出て来ましたね。
彼らもまたちょくちょく話の中に登場してくると思います。
ルゥの記憶になんらかの影響が…………。まあ、それは本編の中で説明しましょう。
では、次回をお楽しみに!